Category Archives: アナログプレーヤー関係 - Page 75

オーディオテクニカ AT-VM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 総体に、やや重くダークな音で、音の切れ込みの良さとか音離れの点に多少の不満が残るが、柔らかくバランスの良い音質で、欠点の少ないカートリッジである。スクラッチもよく抑えられて、高域にピーク性の危なげな音も感じられない。ただ、どのレコードの場合にも、楽器がやや遠のく印象で、ソフトタッチの音になる。激しさを求める向きには敬遠されそうだが、耳当りのよさをとるべきだろう。オーケストラや弦合奏では、、弦楽器のみずみずしさがもっと欲しい気がするし、声もややドライでタッチがコロコロして輪郭が明瞭だが、強打音ではやや音離れが悪くなる傾向がある。ソフトムードというところで好みが分かれそうだ。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:95

マイクロ M-2100/5

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 中低域にややふくらみを持たせた温色系の音に特長がある。特別に素晴らしいという音ではないにしても、バランス良く、柔らかく、上手にまとめられた製品と思われる。ジャズの低域が豊かで(もう少し締まりは欲しいが)臨場感があるし、独唱も合唱も、声と楽器のコントラストが表現されて距離感がよく出る。大編成のフォルティシモでも飽和した感じがなく音がよく伸びるが、音源がやや遠のいた印象になり、どういうわけか高域が幾分上がり気味に聴こえる。このカートリッジの弱点はピアノにあるようで、音が平面的で打鍵ONが少々安っぽくなるし、楽器のスケールがやや小型になる。スクラッチノイズが多少ジャリつく感じなのと、レコード外周の反りに弱くフラッター気味になりやすい。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:100

テストを終えて

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 39個というと多いみたいに思えても、いまわが家でいつでも鳴る形にシェルにマウントしてあるカートリッジが間もなく80個になろうとしているありさまだから、その大半は一度は耳にしている筈で、今回はじめて聴く製品は数種類しかないわけだけれど、ブラインドで銘柄を想像できたのは10個にも満たなかった。いくら音が違うといったところで、カートリッジの差というものは、たとえてみれば、同じメーカーのスピーカーでせいぜい1ランクちがいの音の差ていどが、カートリッジでいえばピンからキリまでぐらいの差にあたるといった程度で、そういうこまかな差を文字に書き表わすと、どうしても新聞を虫メガネでたどるように、写真の網点や活字のニジミがことさら誇張されるといった感をまぬがれ得ない。
 また一方、レコードあってのカートリッジの音ということを考えると、スピーカーが部屋や置き場所によってガラリと音質が変わるようにひとつのカートリッジの評価が、レコードによって、かわることは当然といえる。その点、今回テスト用として選ばれたレコードは、カートリッジのテスト用としては、どちらかというとカートリッジのかくれた欠点をえぐり出すというソースでなかったから、結果としては、ずいぶん点数が甘くなっていると思う。少なくとも、わたくし個人が対象にしている室内楽や器楽曲、声楽曲のとくに欧州系の凝ったレコードを再生したら、またいわゆる優秀録音ではないSPからのダビングものや年代の古い録音を再生したら、もっと辛い評価になったろうとも思う。加えて、カートリッジという商品は承知のように一個ごとの製品ムラがあるし、室温やその他の外的条件による適性針圧のちがい、負荷のちがい、またMC型ではトランスやヘッドアンプのキャラクターなど、さまざまの条件が複雑にからみあうので、カートリッジの本質を正しく掴もうとするなら、こういう短期間の比較にはもはや限界があるし、さらにつっこんで考えてみれば、ブラインドテストという方法に、根本的に無理があることに気がつく筈だ。
 実際の話、10号のスピーカー、今回のカートリッジと二回のブラインドテストを経験してみてわたくし自身は、目かくしテストそのものに、疑いを抱かざるをえなくなった(本誌のメンバーも同意見とのことだ)。目かくしテストは、一対比較のようなときには、先入観をとり除くによいかもしれないが、何十個というそれぞれに個性を持った商品を評価するには、決して最良の手段とはいい難い。むろん音を聴くことがオーディオパーツの目的である以上、音が悪くては話にならないが、逆に音さえ良ければそれでよいというわけのものでは決してありえなくてカートリッジに限っていってもいくら採点の点数が良かろうが、実際の製品を手にとってみれば、まかりまちがってもこんなツラがまえのカートリッジに、自分の大事なディスクを引掻いてもらいたくない、と思う製品が必ずあるもので、そういうところがオーディオ道楽の大切なところなのだ。少なくとも、ひとつの「もの」は、形や色や大きさや重さや、手ざわりや匂いや音すべてを内包して存在し、人間はそのすべてを一瞬に感知して「もの」の良否を判断しているので、その一面の特性だけを切離して評価すべきものでは決してありえない。あらゆる特性を総合的に感知できるのが人間の能力なので、それがなければ測定器と同じだろう。そういう総合能力を最高に発揮できるもののひとつがオーディオという道楽にほかならない。
 この原稿を渡した後で、コスト・パフォーマンスの点数を入れるために、価格を知らせてもらうわけで、とうぜん製品の推測もつくことになるが、どういう結果が出ようが、わたくしとしては右に書いた次第で、あくまでも今回与えられた条件の中で採点したにすぎず、この採点は商品としてのカートリッジの評価とは必ずしも結びつかないことをお断りしておきたい。

ビクター IM-10S

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 ブラインドテストNo.27(ピカリング V15/AM3)あたりと一脈通じる、中域から低域の厚い特徴のある音質だ。高域の特性があまり延びていない印象で、そのためか音が重い傾向だが、中低域の豊かさをとるべき音なのだろう。しかしスクラッチノイズの性質は、スペクトラムが低く楽音にまつわりつく感じで、多少耳ざわりである。ピアノのソロは中域の厚みと高域の丸さのために腰のつよい太い音質になるが、ジャズではこの強さが好ましい。ロスアンヘレスの声が明るく、伴奏との距離感の出るのもよい。弦合奏もよくハモる。しかしやはりヴェルディあたりになると、強奏で何となく安っぽいハイファイ調になり、音ばなれのよくないところが気になってしまうあたり、中級品と思われる音質である。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

スペックスSD-700 LaboratoryII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 わりあいに腰の強い、ホットな音質を持ったカートリッジで、多少品格に欠けるが一種のふてぶてしさを持った、中高域に張りのある音質は独特である。オーケストラではバランスよく、低域も充分出て、音の奥行きも立体感もなかなかよく出るが、フォルティシモではやや混濁気味で、強奏の際の伸びと分離に多少難点が残る。ピアノは、タッチが明瞭だが、ややこもり気味のところがある。弦合奏は特に難は無いというものの、中高域に幾らか圧迫感がある。ロスアンヘレスの声にもそういう印象が付きまとうし、ヴェルディも強奏部でやや荒くなる。しかし、ジャズやムードではダイナミックな近接感を伴って厚みのある楽しめる音を再生する。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

ADC ADC25

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 ピーク性の危なげな音が全然感じられないが、中域の盛り上がったカマボコ型の特性らしい。ピアノや打楽器の音がよく張り出して、やや派手だがピアノのタッチは軽く粒が立ち、適度の厚味を持ってしかも細かく、音が明るい。しかし、「ツァラトゥストラ」や「レクィエム」では、やや抑制を欠いて押しつけがましく、野放図に唱うといった印象がやや安手で品のない音になりやすいが、ジャズでは楽器が近接してある種の生なましさを再現する。フォルティシモでも音がつぶれずによく伸びる。ただ反ったレコードで何となくフラッター気味になるのは、針の支持の柔らかすぎのようで、トレースに不安定なところがありそうだ。スクラッチノイズは、ややスペクトラムが低く、楽音との分離がよくない。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

EMT TSD15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 いくらブラインド・テストでも、自分が毎日常用しているカートリッジぐらいは、見当がつこうというものだ。最初のスクラッチノイズを聴いただけで、これはEMTだと判ってしまったので、試聴記にも先入観が入ってしまうし、なにしろ目下惚れっぱなしの製品だけに欠点が書きにくい。まあ強いて難点をあげれば効果だし入手しにくいし、割合に寿命が短いし、しかも針交換が高価につくということで、決して万人にすすめるべき製品ではないし、いささか深情けの過ぎるような音質は、もっとリラックスして、カラリとドライに楽しみたいという人には毛嫌いされるにちがいない。つまり決して万能型のカートリッジでもなく無色でもない、かなりアクの強い音質だと思う。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆☆
総合評価:100
コストパフォーマンス:85

エンパイア 999VE

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 すばらしく安定な、どっしりと腰のすわった音質で、周波数全域に亘ってよくコントロールされた、ピーク成分のない滑らかな音質である。ツァラトゥストラの冒頭のオルガンの低音の独特の厚みは振動的と言いたいほどだ。高域は、やや丸いために、ちょっと聴くとソフトムードのようだが、分解能もよく中低域の厚みの上に充実した奥行きある音が乗って、フォルティシモでも腰がくだけずよく伸びる。ピアノもバランスが良く、多少甘く切れ込み不足の感があるが、耳あたりがいい。弦合奏では、高域のマルサゆえかツヤに欠けて無難といった印象。ジャズではこれがさらにソフトムードになって激しさに欠けるが、総体に歪みっぽさのない、滑らかな安定したトレースが素晴らしい。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:75

シュアー V15 TypeII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 ごく平均的な特性をもった優等生手とカートリッジのようで、おとなしいがおもしろみはあまりない。オーケストラでは、奥行きや距離感が割合よく出て、音の分離もいいが、冒頭のオルガンの重低音がやや不足する。ピアノはタッチが柔らかいが、切れ込みに欠けて奥行きが浅く感じられる。弦合奏でもやはりおとなしく柔らかく、ソフトムードで躍動感に欠け、ロスアンヘレスの声はバランスは美しいが、つややかさがないのであくまでも無難という印象。大合唱もバランスよく、これといった欠点はないがもう少し奥行きが出て欲しい。ジャズも躍動感が無くおとなしく、楽器の距離感がもっと出ても良さそう。ソツがなさすぎておもしろくないのだが、こういう欠点の無さが貴重なのかもしれない。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

エラック STS444E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 ハイ・エンド(高域端)のしゃくれ上がった特性らしく、それが一種の繊細感を伴っているが、中域の厚みに欠けるためか、線の細い音質である。総体に平板で奥行きに欠け、ピアノ・ソロやジャズのピアノがべったりと立体感を欠く。弦合奏では中高域に独特のツヤが出るが、細身で冷たい音質である。ヴェルディのレクィエムではハイ・エンドのピーク性の音が最も強調されて、ハイファイマニアの喜びそうな、一見繊細で分離のよい派手な音を聴かせるが、重量感のない軽い音である。ロスアンヘレスの声が、ややドライになってしまうのもこの特性のためらしい。ただ、全体としては音の品位はそう悪い方ではなく、軽快でクールな音質にこの製品の特徴がある。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

スタントン 681EE

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 中高域をやや盛り上げて、高域を抑えたような特徴のある音質。ジャズのコンボなどでは、独特の近接感が出て、厚味とコクのあるウォーム・トーンを聴かせるが、最高音域が柔らかく丸めてあるので、ブラッシュ・ワークの切れ込みや繊細感に不満が残る。オーケストラや弦合奏では、したがって抜けの良くない甘い音になり、幕一枚向こうで鳴る感じになる。スクラッチノイズは少ない、という方ではない。声やピアノでも近接感のある腰の強い音になるが、やや圧迫感がなくもない。しかし、音全体に、なめらかさと力強さがあって、相当に個性的なカートリッジだという印象を受ける。ハイのしゃくれ上がった音の嫌いな人には、好まれる要素を持っている。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

シュアー M75E TypeII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 いろいろなレコードに対して平均的に点数が良く、ある種の魅力も兼ね備えたなかなか好ましい製品だ。オーケストラで音源が、やや遠くなる感じはあるが、楽器の遠近感や奥行きを美しく再現し、適度のキメも細かく、バランス良く歪みも少ない。ピアノでは、中高域の張りが、やや不足してタッチが甘くなるが、柔らかく楽しめる音質。弦合奏はユニゾンがよく溶け合い、生き生きとよく動くつやっぽい音が再生される。ヴェルディは声部の厚みをやや欠くがディテールがよく再現され、強奏でも歪が少なく、スケールのあるダイナミックな音質である。ジャズ、ムードもおもしろく聴ける。ロスアンヘレスで、声と楽器のコントラストがもう少し望まれるが、総じて良いカートリッジだ。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:95
コストパフォーマンス:90

デッカ C4E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 軽く耳ざわりでないスクラッチノイズを伴って、ツヤっぽく独特の拡がりが出る。オーケストラのフォルティシモでも音がつぶれず十二分に良く伸びて、ダイナミックレンジの広さを感じさせる。歪みも少なく、音の分離も切れ込みも音離れもよい。特にピアノが非常によく鳴って、やや重量感を欠くがタッチが明瞭な、中音域の張りのある、明るい美しい音である。弦合奏は中低域の量感をやや欠くが高域のツヤが美しいユニゾンを聴かせる。ロスアンヘレスの声もツヤがあって、しかも温かい。ただし、ジャズではシンバルの音などに独特の音色があって、いずれにせよ中~高域に一種の癖を持ったカートリッジであることがわかるが、安っぽさのない格調の高い音が印象的である。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:90
コストパフォーマンス:85

ADC ADC10E/MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 中域が張り出して、やや図太いがしっかりした、明るい音質である。弦合奏に厚みがあり、ロスアンヘレスの声も温かく聴ける。ジャズは近接感がよく出て、温かく良く唱い、打楽器の音離れもよい。ただし、レコードによってはトレースに不安定なところがあって、ピアノの打鍵がザラつき気味になる。オーケストラではフォルティシモがややよごれて、何となくビリつき加減。ヴェルディでは低域の厚みがやや不足して、コーラスが細身になる。小編成では高域の丸い音質でシャープさの点で物足りなさがあるが、大編成ではハイ・エンドが上がるような、レコードによって性格の変わるようなところがある。針の支持が柔らかすぎるのか゛反ったレコードでは音が浮く傾向がある。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

ゴールドリング 800Super E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 中低域のやや不足した線の弱い音だが、ふんわりと音が拡がって独特の雰囲気を持った品の良い音質だ。総じて音の厚みに欠けるし、特にピアノでは左手の方が音が弱くなる感じで、腰砕けという印象が無くもないが、弦の合奏等、ユニゾンが美しくよく溶け合いツヤを持って再現される。独唱も品良く美しい。「ツァラトゥストラ」のフォルティシモでも音がつぶれずよく伸びる。しかし、大合唱(ヴェルディ)等では、声がやや濁る感じになり、コーラスの人数が減ったようになるのは、中域の厚みに欠けるためか。ジャズではややきれいごとに音源が遠くなって迫力に欠ける。スクラッチは殆んど気にならないが、針の支持が柔らかいらしく、反ったレコードの外周でボディーがぶつかり気味になる。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:70

エンパイア 888VE

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 高域にピーク性の音がほとんど感じられない丸い音質で、中域に独特の厚みと粘りがあって、幾分重くこもるが、力強い線の太い音をもっている。音のたちそのものは悪い方ではなく、特にピアノでは腰のすわった力強いタッチが聴かれ、したがってジャズも、音像がやや大柄になるが迫力がある。しかしツァラトゥストラやヴェルディでは、中高域で、やや圧迫感があり、フォルティシモでは少々飽和的になって、切れ込みや分離に不満が感じられる。スクラッチノイズの性質は、割合低いところにもスペクトラムを持つような重い音質で、楽音にまつわる傾向がある。おもしろ味とかニュアンスにはやや欠けるが、ロスアンヘレスの声などはふくらみを持って温かく聴けた。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:80

ビクター IM-2E/MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 レコードのスクラッチが軽く浮き上がり、楽音とノイズがよく分離して、おそらく振動系の軽いカートリッジであることを思わせる。総じて柔らかく軽いクールな音質であるが、試聴メモでは──中低域が不足気味で音の厚みに欠ける。音源が遠ざかる。腰が弱い。充実しない。──といった形容が八枚のレコードに共通していて、音のバランス上、とくに中音域(それもかなり広範囲の)全般に力の欠けた、線の弱い音質である。ハイ・エンド(高域端)にかけて上がり気味の特性が、このけいこうを さらに強調している。オーケストラのフォルティシモでは、音が充分に伸びきらない印象もある。ダンパーが非常に柔らかいらしく、外周で反りの大きなレコードでは、ボディーが盤面をこすり気味であった。

オーケストラ:☆☆☆
ピアノ:☆☆☆
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆☆
ジャズ:☆☆★
ムード:☆☆★
打楽器:☆☆★
総合評価55:
コストパフォーマンス:55

グレース F-8C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 美しく良く抜けた明るい音質。高域に軽い盛り上がりを感じるほかはフラットな印象で、すべてのレコードを安定にトレースする。ヴェルディのレクィエムでは中高域のややうるさいところが難点であること、ピアノが多少安手になること、ジャズではハイが上がっている感じなのに楽器の近接感がそれほど出ないことなどから、中低域の厚みがもう少し欲しく思われるが、総体に明るく、きめ細かで、適度のツヤを持った音質が好ましく、オケのフォルティシモでもよく伸びて歪みっぽさのないところも良い。スクラッチノイズの性質は軽くシャリつく感じで、僅かながら耳につきやすいが、楽音とはよく分離する。こまかな難点はあっても、それをカヴァーする良い所を持った製品のように思われる。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

デンオン DL-103

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 総体的に上の部に入るカートリッジであろう。物理特性も良さそうだし、聴感上もなかなか好ましい。オーケストラでは音が柔らかくキメ細かで、バランス良く、フォルティシモでの音の伸びも充分だし、歪みも少ない。立体感の再現も良く、楽器の距離感や奥行きの描写に優れている。ピアノもバランス良く、腰のすわった見事な音。弦合奏はやや強さに欠けるが圧迫感がなくハーモニーが美しい。ロスアンヘレスの声もまるくつやっぽいが、声と伴奏との距離感がやや不足。ヴェルディはオケと声部が安定してよく拡がって、やや細いが分離良く澄んだ音で、特に男声が美しい。ジャズも臨場感を伴なって音像が良く浮き上がる。スクラッチノイズは僅かに耳につくが、総じて優れた製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:90
コストパフォーマンス:95

フィデリティ・リサーチ FR-1MK2

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 スクラッチノイズがよくおさえられ、聴感上の歪みも少ないし、音のバランスも良い。適度の奥行きもあるし、やわらかく、温かいきれいな音で、特にピアノの高域など、いわゆる粒の立ったというのか、タッチの明瞭な独特の美しさも感じられる。強いてあげるべき欠点も無いし、おそらく計測上の特性も相当に良いという製品なのだろうか、どういうものか聴き終わった後の印象が稀薄で、個人的には食指の動きにくい音であった。たとえば、ここにもう少しシャープな切れ味を求めたい。生き生きとした躍動感が欲しい。特にピアノやジャズでは、低域の締まりがやや不足しているし、中音域がもっと充実していて欲しい。フォルティシモでやや音が伸びきらない点も気になった。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

ナガオカ NR-I

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 かなり美しい音質をもっているのだが、どこか柳腰美人のような腺病質的な音のカートリッジだ。音の左右の拡がりは充分よく出るが奥行きが不足して、従ってやや平面的な印象を免れない。オーケストラの強奏では中低域の充実感に欠け、腰が弱いシリつき気味の音で、ハイ・エンドの上がっているような音質である。ピアノではタッチの弱さや音像の輪郭の甘いところが先に立ちすぎて、ハープシコードのような音になってしまう。弦合奏はそういう癖が逆に美しさにもなるが、ユニゾンの厚みには欠ける。ロスアンヘレスの声は割合美しく、伴奏とのコントラストもよく出る。ジャズやムードでは意外に立体感がよく出て、ややハイ上がりながらおもしろく聴ける。かなり癖の強い製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆★
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

オルトフォン SL15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 スクラッチノイズが多少強調されるし、ノイズの性質からすると必ずしも優等生的なカートリッジではなさそうだが、この音質にははなかなか魅力的なところがある。オーケストラでは、やや中域の薄い細身の音質だが、歪みが少なくよく切れ込むしフォルティシモでもよく伸びたみずみずしい音が聴ける。ピアノは丸い粒がよく揃った感じで、一音一音がキュッと引き締ったシャープな音像である。弦合奏もやや厚みを欠くがユニゾンのハーモニーが美しく、楽器の数が増える感じである。独唱、合唱は、声がわずかにやせぎみだが、ツヤっぽく魅力的だ。やや小造りだが、シャープでいて温かく、音が生き生きと奥行きを持って立体的に聴こえる。細身だが彫りの深い現代風美人といったところか。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:95
コストパフォーマンス:100

グレース F-8M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 音が幾分平面的で混濁気味になりやすい。ピーク性の音は殆んど聴かれないが、中高域の引っ込みがちの音質で、従ってオーケストラでは奥行きと厚みをやや欠いて、楽器の距離感が充分に再現されず、フォルティシモでは音が充分に伸びきらない。ピアノは、中域全般に力のないソフトタッチで、音がくしゃんとつぶれ気味。弦合奏も中高域の引っ込んだ、こもった感じでつやが余りなく躍動感に乏しい。ロスアンヘレスの声は割合良いが、やや固く金属質に響く。ヴェルディの強奏部では歪みは少なく分離も良いが、音がやや薄く平板だ。ジャズはシンバルが安っぽくなり、ギターはふくらみがなく小型になる。音の素性は悪くないが、製品としてのコントロールに難があるのではないか。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

テクニクス EPC-210C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 全部のレコードを、きわめて安定にトレースして、全く危なげのない音を聴かせてくれた。おそらく、物理特性のいいカートリッジに違いない。中音域は充実して適度の厚みがあり、温かく柔らかく、刺激も少ない。しかし、音色そのものは明るい方ではなく、やや暗く、重いところがあり、オーケストラや合唱曲では音のバランスが実に見事ではあるが、音離れが良くないというか、スピーカーの中に音がくっついてこちらまで飛んでこないというような、ややもったりしたところがある。ピアノや弦合奏でも、高域の切れ込みにもどかしさを感じるし、打楽器の衝撃音やオケのフォルティシモで十二分に伸びきらないようだ。スクラッチノイズはきわめて少なく、ほとんど耳につかない。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

サテン M-11E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 トーン・コントロールでハイ・ブーストしたような、特異なバランスの音質である。このために、すべてのレコードが、他のカートリッジと比べてまるで音質が変わってしまい、ロスアンヘレスの声などは、ことさらにハスキーになる。しかしこういう華やかで鮮明な音は、他にないだけにうまく使いこなせば貴重なのかもしれない。たとえばオーケストラでは、非常に分離の良いような、ある種のきめ細かさが出るし、ムード音楽は部屋いっぱいに音が浮き上る印象になる。ピアノの打鍵も、鈍く重くまつわりつくものがなくてスカッと抜けて、軽くよく切れ込むタッチである。要するに非常に特徴があるのだが、ここまでバランスをくずしてしまうと、何となく薄っぺらで安手な印象が先に立ってしまう。

オーケストラ:☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆★
ジャズ:☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆
総合評価:60
コストパフォーマンス:65