トーレンスのアナログプレーヤーTD126MkIIIc/MCの広告(輸入元:パイオニア・エンタープライズ)
(ステレオ 1979年2月号掲載)
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トーレンス TD126MkIIIc/MC
ヤマハ YP-D71
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
YP−D7を大幅にグレイドアップした新製品である。クォーツロックPLLサーボ方式、高トルク・コアレスモーター、4点ピボット完全ジンバル支持高感度アーム、重量ラミネート構造ソリッドボード黒檀仕上げのプレーヤーベース、非接触光電流検出方式オートアップ機構、NEGLEX2重円筒シールドケーブルなどの特徴をもつ。性能を重点的に追求したセミオート機である。
フィデリティ・リサーチ FR-66S
菅野沖彦
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より
フィデリティ・リサーチ社は、カートリッジ、トーンアームの専業メーカーで、このところFR7やFR66Sといった意欲的な製品を次々に発表している会社である。
このFR66Sは、同社のトップエンドのトーンアームで価格が12万円という、かなり高価な製品ではあるが、その価格にふさわしい風格と性能は立派に備えていると思う。ダイナミックバランス型の針圧印加方式によるトーンアームだが、これは先に発表されたFR64Sのロングバージョンといえる製品である。このダイナミックバランス型は、いままでその良さは知られていながら、なかなか安定した性能を発揮してくれる製品が少なかったのが現実であった。それは何に起因していたのかといえば、ひとえにスプリングによる針圧印加の不安定さにあったわけである。つまり、カートリッジを装着した状態でアームの水平バランスをとったのち、針圧分だけスプリングのフォースによって針圧を印加するダイナミックバランス型では、そのスプリングの性能がトーンアーム全体の性能を左右することになるのである。レコードには必ずソリがあり、カートリッジもハイコンプライアンス化されている現在の使用条件からすれば、そのレコードのリリに対してバーチカル方向に相当のラチチュードをもって動いてしまうことになる。本来ならばトーンアームは、レコードのソリに対しても針圧は一定に印加されつづけてくれなければ困るわけで、重くなったり軽くなったりしたのでは肝心のカートリッジのスタイラスの運動を阻害してしまうことになるのである。また、針圧の印加する場合も、1g、1・5g 2gとリニアに針圧がかけられないと困ることになる。さらに、スプリングの経時変化も極力少なくしなければならない。これらの諸々の条件が満たされなければ、安定した性能をもつダイナミックバランス型のトーンアームにはなり得ないのである。
このような不安定要素をとり除いたダイナミックバランス型トーンアームとして発表されたのがFR64Sであり、このFR66Sなのである。その重要なパートであるスプリングには、ベリリウムカッパーという、時計のムーブメントに使われるようなきわめて精巧なスプリングを内蔵し、リニアリティのいい高性能なダイナミックバランス型トーンアームを実現させたのである。
また、FR66Sは全長382・5mm、実効長307mmというロングタイプのトーンアームであり、ショートタイプに比べていくつかのメリットをもっている。つまり、実効長が長くなればそれだけ、水平回転軸を中心とした針先の描く円弧が直線に近くなり、トラッキングエラーが少なくなって、位相ズレや歪などの点で有利になるのである。そして、オフセット角も小さくでき、パイプの曲げ角も少なくてすむので、パイプの曲げやねじれなどに対する強度を向上させられるのだ。
もう一つの特徴は、トーンアームにとって最も大事な部分に強度をもたせるために、主要部分にステンレス材を採用していることである。ステンレスはご承知のように大変硬い金属で、それだけに加工もむずかしいわけだが、それをあえて採用したところに、FRのトーンアームに対する姿勢が伺えるのである。ステンレス材の採用により、トーンアームの耐振動強度を高め、無共振化の方向を一歩進めたことは、トーンアームにとって一つのメリットであり、しかもここまで工作精度の高い仕上げの製品を実現させたことは、同社のもつメカニズムに対する、機械加工に対する執念の一つの結晶だともいえよう。
同社は創立以来、カートリッジ、トーンアームの分野において、こつこつと緻密に高級なメカニズムをつくりあげてきた。その異常ともいえる情熱と執念で、ビス一本に至るまで非常にメカニカルな精度を要求し、機械加工を徹底的に追求してきた専門メーカーである。そういう点からいって、そのメーカーのトップモデルであるFR66Sが〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれたことは、やはり同社の製品づくりの姿勢が高く評価されたものとみてよいだろう。
オーディオテクニカ AT-1501III
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
当初は民生用の発売を考えず、放送業務用として企画、開発きれたAT1500シリーズは、NHKをはじめ民放各社で採用されて以来民生用にも発売され、既に十数年の超ロングセラーを誇っている。今回3度めの改良を受け、より一段と一般的な使用にマッチしたMKIIIに改良された。主な改良点は㈰コレットチャック型ヘッドコネクター ㈪加圧リングに固定ネジの新設 ㈫着脱式SME型インサイドフォースキャンセラー ㈬アーム高さ固定にレバーと連動する黄銅製偏芯ローラーが真円でなくローラーとあわせて3面でシャフトを支えるローラーチャツキング型タイトロック方式のBTS型3点取付けのアームベース ㈭カウンターウェイトの大径化 ㈮リアアームと軸受部間に大型ゴムダンパーを介した質量分離型の採用 ㈯センターシャフトの直径を増し水平方向のベアリングを大型化し耐久性の向上を計った点 ㉀出力コードの抜け止めリング新設 ㈷アームパイプ内側にテフロン被覆の純銀線を平行配線しクロストーク、ストレイキャパシティを減少 ㉂アルミブロック削り出し防振材付の純銀リッツ線をリード線とするLT12ヘッドシェルを標準装備としたことである。
SAEC WE-506/30
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
トーンアームの軸受方式に独特なダブルナイフエッジを採用したサエタWE308は登場以来プレーヤーシステムの重要性を認識する高度なオーディオファンに注目され、その性能の高さが認められていた。以来、WE308NEW、308Lと細部の改良を受け、新素材の導入やメカニカルイコライザーの採用、精度の向上を基盤にWE308SXと完成度を高めているが、今回モデルナンバーを変えて商品化されたWE506/30は、同社初の有効長295mmのロングタイプアームだ。
開発にあたっては業務用としても充分の性能、信頼度、安定度を満足させるために軸受まわりをいかに完壁とするかに重点が置かれたとのことで、従来の製品では細かい部品の組合せであった部分を鋼の削り出しにより一体成形とした点に特長がある。アームパイプは、フランス航空技術が生んだ特殊軽合金を採用し、軸受部との結合は内外4重支持式とし、剛性は非常に高く、トーンアームをリジッドに構成させるポリシーを一段と強く実現している。軸受部分は硬鋼材ブロック削り出し凹型ホルダー、ルビー軸受採用のコンシールド・ダブルナイフエッジ方式で、垂直、水平初動感度は5mgである。低域共振制動のメカニカルイコライザー、インサイドフォースキャンセラーと関連動作をしレコード内周ほど針圧を増加させる自動針圧微増機構、カートリッジ自重直読式ラテラルバランサー、新素材アルミナ使用のヘッドシェルの他に、出力コードが使用カートリッジにより3種類用意され、別売となっているのも特長である。重量のある剛性の高いプレーヤーベースに取付けて使用すべきトーンアームだ。
スペックス SDX-1000
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
従来のSD909と比べ自重を半分以下の4・7gという超軽量とした意欲的な新製品で、音質面でも一段と完成度が高まり、情報量が多く余裕が充分にある豊かで力強い音となった点に注目したい
グレース SF-100
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
ステレオ初期にユニークなノイマン型の発電方式を抹用したF45発売以来、久し振りに登場したf10シリーズのなかのf10Lをシェル一体型とした製品がこのSF100である。ボロン複合カンチレバー、オルトフォン型としては20Ωのインピーダンスで0・75mVの出力電圧をもつ点など規格はf10Lと同様である。
ダイナベクター DV-30C
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
DV30シリーズは赤い透明な合成樹脂とシルバーに輝く軽金属のコントラストが特長となっているシェル一体型のMCカートリッジである。標準状態ではヘッドコネクターから針先位置の寸法は50mmに設定して出荷されているが六角レンチで調整は可能だ。30シリーズは、30A、30Bが高出力型で直接フォノ入力に接続できるのに対し、30Cは低出力型で、カンチレバー材は炭素繊維を芯材としたボロン、巻枠部分はアルミで補強され、針先は西独製特殊ラインコンタクト型、磁気回路のマグネットは英国製の強力なHERAを採用している。コイルは特殊巻線機によりポリアセタールの角型巻枠に井桁状に巻いてある。昇庄トランスはDV6A指定だ。
テクニクス EPC-305MC
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
EPC300MCと同じコアレス・ツインコイル方式を採用した純粋MC型の新製品である。カンチレバーには独特の手法により開発した純ボロンパイプを採用し0・1mm角微小ダイヤチップをレーザー加工の角穴にマウントし高域共振周波数40kHzの広帯域特性を得ている。カンチレバーは一点支持型で、ダンパーには温度変化のないTTDD、磁気回路は電磁純鉄とサマリュウムコバルト使用である。性能対価格で注目に値する現代型MCと思われる。
ヤマハ MC-1X
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
今春ころより話題となっていたヤマハ最初の自社開発の鉄芯を使わない純粋MC型カートリッジが完成し発売されることになった。ベリリュウム・テ−パードパイプカンチレバーと平行な面をもつ左右独立型の2個の薄膜積層ICコイルは振動支点上に十字型支持板で保持され、左右独立型希土類磁石使用の差動磁気回路内に位置決めしてある。磁気ギャップは0・6mm、磁束密度は11、000ガウス以上と強力で30Ωのインピーダンスで0・2mVの出力電圧を得ている。MC1Xはアルミダイキャストシェル一体成形のモデル、MC1Sは通常のモデルで共に規格は同一である。
MC1Xは、1・8gの指定針圧で激しい音溝の変化にも優れたトレーシングを示す。聴感上のfレンジはかなりワイドレンジ型で、古典型のMCにくらべると中域の薄い傾向はあるが、音の粒子は細かく、適度な反応の早さを聴かせる点はいかにも現代型MCらしいところだ。昇圧には現在ヘッドアンプしかないが、できれば専用トランスを開発してほしいと思う。
トリオ KP-7070
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
KP7700でクォーツロックPLL方式を初めて導入し、フォノモーターの性能の高さで注目を集めたトリオが、今回はトーンアームの改善に重点を置き、かつコストダウンを計った新製品である。マニュアル操作、カートリッジレスは従来と同様で、サーボ検出部にメカニカル積分方式180スロット3層ギヤを、ターンテーブル回転速度を直接電圧変換するS−V方式、さらに±両方向にサーボが動作するリバーシブルサーボ回路をもつDC型モーターと重量2・6kgの重量級ターンテーブルを組み合わせている。トーンアームは、直径90mmのダイキャストアームベースを直接ARBC材使用のプレーヤーベースに固定し充分な機械インピーダンスを確保、ウェッジチャック式アーム固定法、BSBM材サンドイッチパイプ支持など多くの特長があり、トータルバランスではKP7700を上廻る魅力がある製品と思われる。
デンオン DP-50F, DP-40F
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
ターンテーブル内側に磁気記録したパルスを磁気ヘッド検出するサーボ方式、クォーツ導入の位相制御方式に独自の開発を見せたデンオンから初めてフルオートモデルが2機種発売された。
DP50Fは、マニュアル機DP50Mをベースとし無接触型電子制御サーボトーンアームを開発し、任意のレコード盤面上にアームをセットするロケートツマミ、これを利用したオートリピート機構、アーム水平駆動モーターを制御するインサイドフォースキャンセラーツマミなど従来のフルオートになりユニークな機能を備えている。フォノモーターは、デンオン独自のクォーツロックPLL・AC型で信頼感のある充分に大型のサイズをもち快適に動作するブレーキ機構を備えているのは従来からの特長である。DP40Fは、同様な思想で開発されたシリーズ製品で電子制御サポートアーム、クォーツロックPLL・AC型モーターの採用は同じだが、機能の一部が簡略化された実用機で新方式の魅力が充分に楽しめるのが特長である。
パイオニア PL-380, PL-370, PL-350, PL-340, PL-M340
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
パイオニアから59、800円〜39、800円の価格帯に300シリーズのプレーヤーシステムが6モデル発売された。これらを分類すると、PL380/370/360の3機種は、基本性能は同じで機能面でフルオート、セミオート、マニュアルの違いがあるグループであり、PL350/340は、共通なデザインをもつフルオート機で、モーター部分がクォーツロックPLL型とDCサーボ型の違いがある。またPL−M340は、PL340と同じ仕様で外形寸法が小型化された、いわゆるミニコンポーネント対応モデルである。
PL380は、フルオート動作用ロジックICと専用モーター駆動ICを使った電子フルオート方式のモデルである。モーターは1・3kg・cmとトルクをもつ全周積分型クォーツPLL・DCサーボホール型で、ターンテーブルは重量1・8kg、直径33cmのアルミダイキャスト製、トーンアームはピボットにスプリングを組み込んだスタビリティサポート型で、このクラスのフルオート機としてはアーム高さ調整可能な点が特長である。またプレーヤーベースは、コアキシャル支持方式と呼ばれる耐ハウリング性の強い構造である。
PL350は、オート動作専用モーター使用のフルオートモデルで、モーターはPL380と同等、ターンテーブルが重量1・5Kgである点のみ異なる。アームはS字型スタティックバランス方式で有効長がPL380系より6mm短かい。PL340は、モーターがブラシレスDCホール型のため速度徴調が可能であるほかはPL350と同じ特長をもつ。
ソニー PS-B80
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
トーンアームを全て電子的にコントロールする電子制御アームのバイオ・トレーサーを採用した未来指向型のフルオート機だ。水平・垂直方向動作に独立した速度センサーとリニアモーターをアームに内蔵し、ワンチップマイコンと組み合わせて自動水平バランス、針圧印加、インサイドフォース、任意の部分のリピート演奏可能なメモリー機構などの多機能が前面のフロントパネルで操作できる。またバイオ・トレーサーは、速度センサーでアームの速度を検出し、リニアモーターにフィードバックするため、トーンアームの低域共振を速度フィードバックで制動でき低域の安定度向上でも利点がある。回転系は3段ブロック・クリスタルロックサーボ、マグネディスク検出リニアBSLモーターである。なお一般型の水晶制御DDフルオートシリーズ製品としてPS−X40も発売されている。
パイオニア Exclusive P3
井上卓也
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
パイオニアからパックスに移管されたエクスクルーシヴ・ブランドに初めて本格派の重量級プレーヤーシステムP3が登場することになった。価格的制約や妥協を一切排除し技術開発力を結集して商品化するというエクスクルーシヴの思想は、このモデルにもはっきりと現われている。異方性磁石採用の10kg・cmのカッターレースに匹敵する強大なトルクをもつデュアルローター構造のリニアトルク・クォーツロックDDフォノモーターEM03は、全周積分型の回転数検出周波数を従来より3倍高くし正確かつ応答性の早いサーボ過渡特性を実現し、外乱に強く、0・003%WRMS以下の低回転ムラとし、回転系の軸受側圧と回転部分の重心を下げるため軸受構造を天地逆転させたSTABLE・HANGING・ROTER構造としている。
トーンアームEA03は、低等価質量とトラッカビリティ、低域大振幅時の混変調歪を解決する目的で軸受上部に着脱自在レベル可変型のオイル制動をかけ、フロントのパイプは軸受に近接した位置にもコネクターのある二重構造で、P3専用のカーボンファイバーストレートパイプと汎用シェル用S字型パイプの2種類を選択可能だ。
構造面ではモーターとアームは硫酸バリュウム積層10mm厚のアルミ板に一体懸架され総重量は12kgで、全体はインシュレーターでキャビネットから完全フロート状態にしてある。キャビネットインシュレーターは、62mm直径のスプリングとピストン構造のオイルダンプ、さらに特殊ゴムの3重構造で25kgの全重量を支え、固有振動周波数は5Hz以下である。
機能はマニュアル専用型だがプレーヤーシステムの基本を忠実に守り重量で振動を吸収させようとする開発思想は、音質面にダイレクトに現われ、情報量が格段に大きく緻密で引締まり、充分な低域の安定度をもつため、レコードにいかに多くの音が入っているかが実感として体験できるほどのパフォーマンスを示した。
テクニクス SP-10MK2
菅野沖彦
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より
一九六九年六月に世界に先駆けてダイレクトドライブ・ターンテーブルの開発を発表したテクニクスは、翌一九七〇年六月にSP10という型名で製品発売に踏みきった。このSP10の発売以来、同社のプレーヤーシステムをはじめ、各社のターンテーブル、プレーヤーシステムは徐々にローコストの製品に至るまでダイレクトドライブ化されてきたのである。その間、SP10は同社のトップモデルとしてばかりではなく、世界的にもその名を知られるほどの高い信婿性とクォリティをもつターンテーブルとして存在していたのである。このように、SP10は今日のターンテーブル、プレーヤーシステム界をほとんどダイレクトドライブ化の方向に導くための原動力となった製品であり、その功績は非常に大きいといわざるを得ない。ここでは、ダイレクトドライブ方式がよいのか、あるいはリムドライブ、ベルトドライブ方式がよいのかという論議はさておくとして、少なくともそれまでになかった駆動方式を採用し、そしてここまでダイレクトドライブ方式一色に塗り変わった背景には、やはりダイレクトドライブ方式ならではの大きなメリットが認められたからだと思う。
そのパイオニア的製品であるSP10に、最新のクォーツロック制御方式を採り入れ、各部に改良を加えてリファインしたモデルがこのSP10MK2である。ここで採用されたクォーツロックDD方式もまた、現在ではかなりのローコスト・プレーヤーに採用されるまでになっている。この速度制御方式は、必ずしもSP10MK2が最初とはいえないかもしれないが、いずれにしても今日隆盛を極めるクォーツロックDDプレーヤーの先駆となった製品の一つにはちがいない。ともかく、オリジナルモデル、改良モデルともに発売されるごとにこれほど大きな影響力をそのジャンルの製品に与えた製品はかつてなく、そうした創始者としての血統のよさが、他の優れたこのクラスのダイレクトドライブ・ターンテーブルを押えて〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれた大きな理由である。
もちろん、いくらそうした血統のよさは備わっていても、実際の製品にいろいろな問題点があったり、その名にふさわしい風格を備えていないのならば、〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選定されないわけである。その意味からいえば、私個人としては完璧な〝ステート・オブ・ジ・アート〟とはいいがたい部分があることも認めなければいけない。つまり、私はプレーヤーシステムやターンテーブルにはやはりレコードをかけるという心情にふさわしい雰囲気が必要であると思うからで、その意味でこのSP10MK2のデザインは、それを完全に満たしてくれるほど優雅ではなく、また暖かい雰囲気をもっているとはいえないのである。しかし、実際に製品としてみた場合、ここに投入されている素材や仕上げの精密さは、やはり第一級のものであると思う。このシンプルな形は、ある意味ではデザインレスともいえるほどだが、やはり内部機構と素材、仕上げというトータルな製品づくりの姿勢から必然的に生まれたものであろう。これはやはり、加工精度の高さと選ばれた材質のもっている質感の高さが、第一級の雰囲気を醸し出しているのである。
内容の面でも、現在レコードを再生するという点においては十分に信頼に足るグレードをもっている。クォーツロック・DCブラシレスモーターという、このSP10MK2の心臓部であるモーターの回転精度は、プロフェッショナルのカッティングマシン用モーターが問題視されるほどの性能の高さを誇っているのである。今日のターンテーブルは、常にこうしたサーボコントロールによる回転精度と、ターンテーブルそのものの重量によるイナーシャによる回転のスムーズさという、二つの柱として論じられる。イナーシャを大きくしようとすれば必然的にターンテーブル径が大きくなりすぎ、逆にサーボコントロールしやすくするにはできる限りイナーシャが少ない方がいい。この両者のバランスをどうとるかが大きな問題となるのだが、SP10MK2はバランスよくまとめられ、このように高性能を得ているのである。
「ブラインドテストを終えて」
瀬川冬樹
ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「ブラインドテストで探る〝音の良いプレーヤーシステム〟」より
アンプとスピーカーに関するかぎり、ここ二年ほどのあいだに、内外の大半の製品をテストする機会が与えられていたから、プリメインとセパレート、ブックシェルフとフロアータイプ、そしてプロ用のモニタースピーカー、と、それぞれの製品の分野での大まかな水準を掴めていたつもりだった。そして、アンプ及びスピーカーに限っていえば、ここ数年間での全体的な性能の向上は、まったく目を見張る思いだった。こうした体験を通じていえることは、少数の例外的存在を除いて、アンプもスピーカーも、大すじには価格と性能がほぼ比例していて、たとえば5万円のスヒーカーが20万円のスピーカーよりも音が良いなどということは、まあありえないと断言してもいいと思う。事実、そんなことがあれば、何かが間違っている。
*
プレーヤーのブラインドテストというのをさせられて、終ってから製品名と価格を種明かしされたいま、とても複雑な気持に襲われている。それは、いま書いたばかりの「何かが間違っている」状態が、プレーヤーに関してはいまところまかり通っているのではないだろう、という気持からだ。
そのことは別項の速記録をお読み頂くことで明らかになる筈だが、少なくとも私自身に限って言っても、相当に高価なプレーヤーもそれと知らずに聴くかぎり、ローコストのプレーヤーにくらべて音質の上での明確な差を、聴き分けることができなかった。もう少し正確な言い方を心がけるなら、聴感上での音質の良し悪しと価格の高低とのあいだに、アンプやスピーカーほどの相関関係を見出すことが困難だった。たしかに音質は一台一台みな違った。だが、この音はどうも頂けない、とメモしたプレーヤーが、意外に高価であったり、一応聴くに耐える音のした製品がそんなに高価でなかったりしたのを、あとになって知ってみると、どうも複雑な気分にならざるを得ない。いったい、プレーヤーの価格の根拠はどこにあるのだろうか……と。
こんなことを書けば、次のような反論が出るにちがいない。アンプやスピーカーをブラインドテストすれば、やっぱり同じことを言うのじゃないか、ローコストでも、高価な製品より音の良いのがあるじゃないか──。例外的にはそういう製品がないとは断言できない。けれど、アンプとスピーカーに関するかぎり、そういう作り方がいまや成り立ちにくくなっている。粗理由をくわしく書くのはこのスペースでは無理だが、スピーカーでたとえれば、借りに耐入力を犠牲にすれば、音域の広さや音色の美しさやバランスの良さを鳴らすことはできるだろう。だがいくらブラインドテストでも、パワーを入れればたちどころに馬脚をあらわす。
アンプの場合には、パワーという要因だけでは説明しきれない。パワーを抑えればコストダウンできるが、しかし限度はある。となると、ファンクションを簡略化するとか、セパレートをやめてインテグレイテッド(いわゆるプリメイン)化するなどの手段をとる。こういう見た目の形態は、ブラインドテストではわからない。だがそうであるにしても、音の良いアンプは結局高価だ。
正直に白状すれば、いくらブラインドテストでも、こんにち、本誌が我々をモルモットに起用する以上、この製品はたぶん入っているだろう、というような推理ぐらい働かせて試験に臨む。そして、いま鳴っているこの音は、これは各コンポーネントが相当にしっかりしていなくては鳴らないだろう音だから、もしかしたらこれがあの製品じゃないだろうか──といった推測もしている。しかし恥ずかしながら、少数の例外を除いてすいそうは見事に外れた。テープを前に憶面もなくしゃべり終えた(メーカー名や製品名を知らされないおかげで、何の気兼ねなしに悪口を言えたが)あとで、ひとつひとつの製品名を知らされて、なるほどと納得したりえ! あの音がこの製品? と青くなったりした。これがブラインドテストのおもしろいところだろう。もっとも、本当の意味でおもしろがっていたは、モルモットにされた我々よりも、それを操る編集部の諸君であったにちがいないが。
*
そんな状態で、プレーヤーというパーツは、アンプやスピーカーの最近の性能向上に比較すると、まだまだ見落しの多い部分であることを感じた。言うまでもなく、ターンテーブルやアームやカートリッジ、といった単体のコンポーネントパーツについては、それぞれに研究・開発の成果が実っていなくはないが、それを総合してまとめる際に、スピーカーやアンプと比較すると、まとめかたの勘どころあるいは決め手が、まだ見つかっていない、というのが本当のところなのではないかと思う。
テストの進めかたについては別項にくわしい解説があると思うが、私自身は、とくにカートリッジのちがいによるプレーヤーの音色の変化に興味を持って臨んだ。ことに、オルトフォンMC20は、インピーダンスが2Ω近辺ときわめて低い。一方、現存するフレーやーの大半、アームの先端からアンプに接続するピンコードの直流抵抗分が大きく、大多数が、往復で2Ω或いはそれ以上の直流抵抗を持っている。これでは、理屈だけ考えてみてもMC20のようなローインピーダンスのカートリッジに対して、よい結果の得られる筈がない。
現実に私の心配は当った。スタントン881Sでは一応の結果が得られても、MC20の場合となると、打って変って精彩のない、反応の鈍い、あるいは大切な音の一部をどこかに忘れたか落したかしてしまったかのような、おもしろみに欠けた音になってしまうものが少ないとはいえない。すでにカートリッジやアンプの受け口の部分では、MCカートリッジのブームが到来していながら、プレーヤーの専門メーカーが、意外なほどMCカートリッジのため設計を怠っている。MCカートリッジが、その本来の特性の良さでレコードに刻まれた溝の隅々から微細な音を拾ってきても、それをアンプの入口に運んでくる以前に、どこかにとり落して、魅力のひとかけらもない、つまらない音にしか聴かせない。
あらかじめ覚悟していたものの、そういうプレーヤーが現実にとても多いことに、改めてびっくりさせられた。
今回のブラインドテストには、リファレンスとしてEMTのプレーヤーが使われた。もともとMC20や881Sを組み合わせるための製品ではないのだから、それらが最良の結果で鳴ったとはいえない。ただ私自身は、自分の聴き馴れたプレーヤーとして、これを最良の基準としたのではなく単に、自分の耳の尺度を整える意味で、参考として頭に置いたにすぎない。
残念なことに、今回たまたまブラインドテストの対象に選ばれたプレーヤーの中には、アンプやスピーカーの時とは異なって、一台ぜひ(例えばサブ機としてでも)欲しいと思わせるほどの音を探し出すことができなかった。いずれの製品も、部分に的には良い音を聴かせながら、同じ一枚のレコードの音を、どこかで欠落させているといった印象を拭い去ることができなかった。
こんにち、DDモーターの再検討が論じられゴムシートや、引出コードや、ヘッドシェルや、その他部分的には細かな問題点が個別に指摘されている。そうした反面で、プレーヤーシステムとしての総合的なまとめの方法論に、もうひとつトータルな、俯瞰的な視野の広さが求められるのではないだろうか。いや、そんな小難しいことをくだくだしく言わずとも、ともかく、ヴィヴィッドでたっぷりと豊かな音を一枚のレコードから抽き出して、聴き手を心から満足させてくれるプレーヤーシステムの出現を、いまこそ強く望みたいと思った。
「ヒアリングテストのポイント」
黒田恭一
ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か」より
──まさか「ステレオサウンド」を読むほどの方には、そんな方がおいでになるとは思えないけれど、一般的には、プレーヤーで音が変るの? という人が多いよ。
──うん、たしかに、多いね。ターンテーブルが同じようにまわっているんだから、音がそんなに変るはずがないと考えているのかもしれないな。でも、そのように考えている人が多いのには、それなりに理由があると思うんだ。つまり、音が変るといったって、たとえばスピーカーやカートリッジをかえたときのような変化はないからね。
──そう、だから、表面的にはわかりにくいということもいえるんじゃない。たとえばだよ、町を歩いている人をみて、あの人は美人だとか、あの人の着ているスーツはいかにも上等そうだとか、あの人はずいぶん背が高いなとか、そういうことはわかるけれど、今すれちがった人が病気にかかっているのかどうかなんて、とてもわからないし、わかろうともしないものね。夏休みで海にでもいったのだろう、まっ黒にやけていて、みるからに健康そうだけれど、もしかすると胃がわるかったりするかもしれないし……
──なるほど、シロートにはプレーヤーシステムの音の差がわかりにくいということになるのかな。
──いや、そうじゃないよ、シロートもクロートもない、こっちがそのつもりでみれば、わかることだけれど、普段は、顔かたちとか、背の高さとか、着ているものとかに、どうしても目をうばわれてしまうだろう。
──それでは、試聴にあったっては、そのつもりになってことにのぞんだというわけか。さしずめ、美人コンテストの審査員の目ではなく、内科の医者の目でみたことになるね。
──まあ、無理にこじつければ、そういうことになるかな。
──それで、どうだった。何人に聴診器をあてたの。
──聴診器をあてたといういい方は、どうもひっかかるな。ただきいただけだよ。いつものように下手な字でメモをとりながらね。きいたは、二十二機種だった。すくなくともぼくにとっては、それぞれのプレーヤーシステムごとの音のちがいが、ごく本質的なところでのものだったから、ききやすかったな。いいプレーヤーシステムはカートリッジがかわっても、それなりにそれぞれのカートリッジのよさをひきだしていたし、問題があるなと思ったのは、カートリッジがかわって急によくなるなどということはなかったな。
──それで、その二十二機種をきいての、おおまかな感想を、まずきこうか。
──そうだな、思った以上に、健康な人がすくなかったというべきかな。
──しかし、よくいわれるように、オーディオは趣味の世界のものだろう。だとすれば、きみが問題ありとしたものに対して、他の人は高い評価を与えるかもしれないじゃないか。
──オーディオは趣味の世界のものだということは、よくいわれるし、たしかにそう思える部分もなくもないと思うけれど、そのことがいわれすぎることに、ぼくはひっかかるんだよ。逆にうかがうけれど、趣味の世界のものだといってしまえるようなところまで、今のオーディオはいっているのかな。
──いや、この議論は、なかなかおもしろそうだけれど、本題からはずれすぎるので、また別の機会にということにしようよ。
──うん、そうしよう。ただ、ぼくがプレーヤーシステムについていいたかったことと、そのこととは、無関係ではないんだ。スピーカーなり、カートリッジなり、あるいはアンプにしてもそうかもしれないけれど、その音について、趣味の世界のこととして、つまり好き嫌いで語れるところがなくもないと思うんだけれど、プレーヤーシステムの音については、その部分が極端に少ないように思うな。たしかに、それぞれのプレーヤーシステムにそれぞれの音があって、Aのプレーヤーシステムの音が好きだという人もいれば、Bのプレーヤーシステムの音の方がいいという人もいると思うけれど、でも、音のキャラクターについて考える以前に、まず音のクォリティについて考えざるをえないのが、プレーヤーシステムだと思う。ずっとそう思っていて、はからずも今回の試聴で、その考え方を確認したような気持だな。
──いいたいことはわからなくもないが、もう少し具体的にいてくれないかな。
──ひとことでいえば、基本性能がしっかりしていなければどうしようもないということになるかな。またさっきのたとえをつかわせてもらうとすれば、容姿の点で幾分いたらない点があった場合、それを愛矯でカヴァーするというようなこともあるのかもしゃないけれど、胃に潰瘍ができていたら、いくらニコニコしてもしかたがないものね。
──まあ、それはそうだけれど……
──つまり、表面的なとりつくろいが通じにくいということだよ。
──きいていれば、そこところがあらわになると……
──そう。
──それで、試聴にあたって使ったレコードは……。
──以前にも、たしかスピーカーの試聴のときにつかったレコードなんだけれど、ヨハン・シュトラウスのオペレッタ「こうもり」の全曲盤なんだ(グラモフォン MG8200〜1)。カルロス・クライバーの指揮した、一九七五年に録音されたレコードの、第二面の冒頭のところを三分ほどきいた。第二面の冒頭のところというと、ロザリンデ(ユリア・ヴァラディ)とアデーレ(ルチア・ポップ)の会話があって、そこにアイゼンシュタイン(ヘルマン・プライ)が加わり、そのまま三重唱に入れこむ──というところで、その三重唱の途中まできいたことになるんだけれど……
──レコードは、それだけ?
──そう。
──いつもは、何枚かきくんじゃなかったの?
──時間的に余裕があれば、さまざまなレコードをとっかえひっかえきいてもよかったのだけれど、その点でむずかしかったのと、それに、これまではなしてきたような理由から、何枚もきかなくてもいいと思ったからなんだ。
──なるほど。
──実は、はじめは、傾向のちがう音楽をおさめた三枚のレコードをきいていたんだけれど、三枚きくことはないと思ったんだよ。なんといっても、一台のプレーヤーシステムに三つのカートリッジをつけかえてきくわけだからね、作業としても大変だったわけさ。カートリッジことの変化があきらかになる方が、この場合には大切で、それがこれでレコードがふえてしまうと、煩雑になりすぎるという編集部側の考えもあったしね。
──それで、ポイントはどこにしぼってきいたわけ?
──ポイントをしぼったというわけでもないんだ。むしろポイントは、おのずとしぼられたというべきだろうな。つまり、試聴に先だって、ここがポイントだからということで、その点にことさら耳をそばだてたということではないんだよ。きいて、ききながらとったメモを読みかえしてみたら、一種の共通因数とでもいうべきものがみえてきたといった方が正直ないい方になるだろうな。思いこみを持って試聴にのぞむのが嫌だったからね。
──もう少しまわりくどくなく、ストレートにいってくれないかな。
──いや、あらかじめポイントをきめていたわけではなく、きいているうちにポイントがうかびあがってきたということさ。
──わかった。で、そのポイントを具体的にいってくれないかな。
──ひとつは、音像が過剰に大きくなっていないかどうかということで、もうひとつは、ひびきの力だな。結局、具合のよくないプレーヤーシステムというは、ひとことでいえば、ひびきに力がないんだ。そために音像が肥大するということもあるだろうし、こっちにおしだされてくるべき音がひっこんでしまうということもあったようだな。
──きみのいうひびきの力というのは、音の強さのこと?
──いや、むろんそれも含まれるけれど、それだけではないんだ。たとえば、今度使ったレコードに即していえば、三重唱に入る前のセリフのところで、アイゼンシュタインが凍えではなすところがあるよね。ああいうところの声は、ひびきに力がないと、あいまいになっしまう。だから、音の強さは当然示されるべきなんだけれど、それと同時に強い音とはいえない音が、しっかりささえられているかどうかが問題になると思うんだ。ひびきの力というのは、そのことなんだけれどね。
──わかるような気がするよ。そういわれてみると、プレーヤーシステムによる音の変化が基本的なところでの変化だということも、納得できるな。
──あらかじめわかっていたことではあるんだけれど、今度、試聴をしてみて、あらためて、プレーヤーシステムのコンポーネントの中での重要性について考えさせられてしまったよ。
──限られた予算内でなんとかしていこうと思うときに、どうしてもプレーヤーシステムは後まわしになるというか、予算を他のところにまわしがちだからね。
──いや、それはいちがいにいえないよ。本当にわかっている人は、まずプレーヤーシステムからと考えているかもしれないからね。今度の試聴では、機能面については、ぼくのうけもちでなかったので、なにもふれなかったけれど、その点でも、さらに積極的にさまざまな試みがなされていいように思うな。
──それはそうだけれど、きみのはなしをきいていると、まず音の面で、より一層充実することの方が先じゃないの?
──それはそうだ。なんといったって、プレーヤーシステムは、コンポーネントの土台だからね。そこがしっかりしていなければ、いかにいいカートリッジをつかい、いいアンプをつかい、いいスピーカーシステムをつかっても、極端なことをいえば、砂上の楼閣になりかねないからね。
──ずいぶんおどかすじゃないか。
──いや、おどかしているわけじゃないよ。事実をいっているだけだよ。
──それで、しめくくりの言葉は、どうなるわけ?
──プレーヤーシステムに対してより一層のご注目を!──ということになるだろうな。むろん、これは自分に対していう言葉でもあるんだけれど。
パイオニア XL-1650
黒田恭一
ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より
●オルトフォンMC20で聴く
音像は大きめだ。とりわけ張った声に誇張感がある。ひびきの微妙な推移・変化がききとりにくい。もう少しシャープな反応が示されてもいいだろう。このプレーヤーシステムにはあわないカートリッジか。
●デンオンDL103Sで聴く
すっきりしたよさはあるが、全体にそっけなさすぎるように思う。音像は小さめだが、細部にこだわりすぎているといえなくもないようだ。歌い手の呼吸が誇張ぎみに示されている。
●シュアーV15/IVで聴く
きつさはない。しなやかとはいいがたいが、ひびきに脂がつきすぎていないもはいい。ただ、ひびきに、もうひとつこくがないので、どうしても表面的になる傾向があるのがおしい。
ヤマハ PX-1
黒田恭一
ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より
●オルトフォンMC20で聴く
音像を肥大させないところにこのプレーヤーシステムのよさがあるというべきだが、総奏でのひびきの力の提示にもう一歩ふみこんでの積極性がほしい。ひかえめなところはこのましいのだが。
●デンオンDL103Sで聴く
さわやかだし、すっきりとしているが、ひびきのこくといった点で、多少ものたりない。声など、もう少し、声ならではの湿りけが感じられた方がいいだろう。細部の鮮明な提示はいいが。
●シュアーV15/IVで聴く
示すべきものをすっきり示して、しかし決しておしつけがましくならないよさとでもいうべきか。もう少し力感がほしいと思わなくもないが、リズムの切れに鋭く反応するあたりはいい。
ソニー PS-X9
黒田恭一
ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より
●オルトフォンMC20で聴く
たっぷりしたひびきが、積極的におしだされる。総奏でのひびきの重量の提示など、見事だが、軽やかさ、さわやかさという点で、もう一歩だ。そのために全体としての印象が幾分重い。
●デンオンDL103Sで聴く
このプレーヤーは、中域のひびきに対しての反応のたしかさによさがあるようだが、ここでそれが示されている。くっきりした、あいまいさのないさまざまなひびきへの反応はよい。
●シュアーV15/IVで聴く
腰のすわった音とでもいうべきか。音像は大きくなりがちだが、くっきりと示す。強い音に対しての対応は、なかなかのものだ。微細なひびきに対してさらにシャープに反応すれば、よりこのましいのだが。
サンスイ SR-838
黒田恭一
ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より
●オルトフォンMC20で聴く
シュアーではききとりにくかった背後でひびくホルンがききとれる。オーケストラのひびきはむしろせりだしぎみだ。ひびき全体にべとつきが感じられなくもない。音像が大きめなのはシュアーと同じ。
●デンオンDL103Sで聴く
音像は小さくまとまるが、オーケストラのひびきを分解してきかせる傾向があり、幾分つきはなしたようなつめたいところがある。声に、もう少しうるおいがほしい。はった声が硬くなる傾向がある。
●シュアーV15/IVで聴く
音像は大きめ。したがって歌唱者は、かなり間にでてきた感じになる。音楽の表情は強調されがちだ。弦のひびきには、もう少しまろやかさがほしい。積極的なところをもってよしとするかどうか。
テクニクス SP-10MK2+EPA-100+SH-10B3
黒田恭一
ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より
●オルトフォンMC20で聴く
声のきめこまかさなど、思わず耳をさばだててしまうほどだ。音像は幾分大きめだが、それとても過剰ということではない。リズムの切れの鋭さ、あるいはアタックの強さなども見事に示す。
●デンオンDL103Sで聴く
ひびきは大変にみずみずしい。声とオーケストラのバランスなど、いささかの不自然さもない。はった声が、硬くなったり、薄くなったりすることなく、自然にその力を感じさせる。
●シュアーV15/IVで聴く
ピッチカートの誇張のないひびきと、ホルンによるふくらみのあるひびきの対比など、実に見事だ。このカートリッジのよさが十全にいかされたという印象だ。すっきりしていて、力感の提示も充分だ。
シュアー V15 TypeIV
黒田恭一
ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より
●シュアーV15/IVの基本的性格
これまでのシュアーの音を頭においてきくと、シュアーもずいぶんかわったなとつぶやくことになるだろう。ひとことでいえば、きめがこまかくなった。それでいて、シュアー本来の──といっていいのうかどうか、つまり決してじめつかないで、生気にとんだところはのこされている。傾向としては、ひびきをくっきり示すタイプといえよう。ただ、特に低域の本当に腰のすわったエネルギー感とでもいうべきもの提示は、かならずしも得意ではないようだ。その点でことさらの不足を感じるということではないが、幾分表面的になる傾向がなくもない。すっきりさを志向したカートリッジと考えていいだろう。
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