Category Archives: アナログプレーヤー関係 - Page 13

コッター Mark2/TypeP, Mark2/TypePP, Mark2/TypeS

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 タイプPがオルトフォンなどの低インピーダンス用、タイプPPがEMT用、それにタイプSがデンオンなどの高インピーダンス用となっている。基本トランスは完全に同じもので、トランスの多重巻線の接続を変更して使用を変えているために、3タイプ間の変換は後からでも可能である。
 タイプPにはMC20IIを使う。聴感上のf特は高域と低域をわずかに抑えた、トランスとしては標準的なタイプだ。柔らかに低域は安定感があり、中高域に独特のわずかのキラメキがある。音の分離は優れるが、ソーによれば今一歩の印象もある。音色はほぼニュートラルで、各プログラムを平均してそれなりのクォリティで聴かせる。
 タイプPPにはTSD15を使う。スケールが大きく、暖色系の豊かな音で、適度にスムーズさをもつが、TSDの本来の音を少し滑らかに角をとって聴かせるタイプである。
 タイプSにはDL305を組み合わせる。ナチュラルに伸びたf特と、耳あたりがよく抑えた光沢を感じさせる音は、大変にキレイであるが、峰純子は少しマイルドになりすぎ、カシオペアもムード音楽的になる。試みにMC20IIを使ったが、総合的にこれがベストである。

コーラル T-100

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 今回の特集に集めた唯一の一万円未満のトランス。
 3Ω専用モデルでMC20IIとFR7fを使う。全般的にはFR7fのスケールの大きな音がマッチするようだ。聴感上のf特は少しナローレンジ型で適度にコントラストをつけて、やや硬質の音を聴かせる。ロッシーニは生硬さがあるが雰囲気をひととおり聴かせる。低域が不足するためか演奏の店舗が少し速くなる。この点は、中高域にクッキリ輪郭をつけるMC20IIの方が、スケールは小さいが小粒にまとまりバランスよく聴ける。ドボルザークはFR7f、MC20IIともに硬質になりすぎる。峰純子、カシオペアは平均的に聴かせるが、カートリッジの個性を引出すには至らない。SN比を稼ぎ、小粒にカリッとまとまる音が特長だ。

トーレンス Reference

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 EMTの927Dstと、偶然のように殆ど同じ価格だが、EMTは、同社のTSDシリーズのカートリッジ専用であるのに対して、こちらは、好みのアームやカートリッジをとりつけられるユニバーサル・ターンテーブルシステム。レコードの音溝を針先でたどるという、メカ的なプリミティヴな方式を守るかぎり、メカニズムに十二分の手を尽したプレーヤーシステムは、それ相応の素晴らしい音質を抽き出してくれるという証明。

オーディオテクニカ AT-650

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 3段切替スイッチ付のユニバーサル型トランスだ。
 MC20IIは、少し高質さはあるがスッキリとした爽やかな音で、聴感上のf特もスムーズに伸び、キャラクターの少ない穏やかな音である。プログラムソースとの対応の幅も広く、音をキレイに聴かせるのが特徴となる。
 DL305は、やや細部の描写が不足気味で、線が太く、本来のシャープさが出難い。
 AT34IIにすると中高域に少し硬いキャラクターが付くが、バランスの良さは、当然のことながらベストである。このトランスも付属コードを交換するとかなり音質が変化するため、使用にあたっては、コードを変えて使用システムに最適のバランスに調整するのが好ましい使用法と思う。

EMT 927Dst

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 いまは消えてしまった16インチ(40cm)ディスクを再生するための大型プレーヤーデッキだが、標準の30センチLPをプレイバックしてみても、他に類のない緻密でおそろしく安定感のある音質の良さが注目されて、生き残っている。大型のダイキャストターンテーブルの上にガラス製サブターンテーブルを乗せたのが927Dst。プラスチック製はただの927st。しかし音質面では、ガラス製のDstにこそ、存在価値がある。

オーディオテクニカ AT-630

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 中間インピーダンスをもつオーディオテクニカのMC型カートリッジ用の昇圧トランス。
 ややミスマッチにはなるが、MC20IIを使うと、トランスとしては適度の帯域バランスと少し細身の滑らかな音となる。ロッシーニは程良く鳴るがドボルザークは音源が遠く、大ホールの後の席で聴く感じだ。峰純子は少し細身の穏やかなボーカルとなり、雰囲気はアルが少し実体感不足だ。カシオペアは小柄になるが、一応楽しくは聴ける。
 AT34IIを組み合わせると、やはり、f特をはじめトータルバランスは一段と向上し、ややラフな面もあるが、価格から考えれば、充分な昇圧トランスらしい安定した落着いて聴ける音が得られる。この意味でも専用トランスと考えたい。

パートリッジ TH7834

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 この製品もTH7559同様に、キットとトランス単体が用意されている。本機は入力対出力の位相は同相で、一般の製品と等しい。
 MC20IIでは豊かで柔らかく、力強さのある低音をベースに、適度にコントラストをつける中高域がバランスをとった押し出しのよい華麗な音を聴かせる。ロッシーニ、ドボルザークを容易にこなし、カシオペアの強力なパンチも見事だ。これならSPUを使ってみたいところである。
 DL305では全体に線が太くなり、MC20IIとの本来のキャラクターの差が縮むようだが、音としては全体に力強くなったDL305、といった印象で、低域ベースで少し高域を抑えた安定感のある堂々としたタイプだ。
 TSD15では、ややオーバーゲインで使い難い。

オーディオニックス ADN-III

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 左右独立電源採用の利得切替なしのヘッドアンプで、入力と出力の位相が逆になる反転アンプである。
 聴感上のf特はワイドレンジ型で、音の粒子は細かく、適度にしなやかな反応と特定のキャラクターが少なく、基本的クォリティは相当に高い。
 MC20IIは水準以上のクォリティの高い音になるが、低域が少し軟調で甘くなり、中高域に少しキャラクターが聴きとれる。音像は少し引込み気味で、音場がスピーカーの奥に広がるタイプ。
 DL305は、帯域感は広いが高域の分離が今一歩不足気味で、これは中高域の硬質なキャラクターによるマスキングのせいであろう。全般的にみれば、MC20IIよりも音にフレキシビリティがあり、音を整理してキチンと聴かせるタイプだ。

パートリッジ TH7559

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 英国パートリッジ社のトランスを使った製品で、別に配線材で有名なベルデン社のコード付オールキット、および単体トランスも用意されている。
 このTH7559は,一次側入力に対して二次側出力が位相反転する、反転トランスであるのが特徴。
 聴感上の帯域バランスはナチュラルに伸びたタイプで、音の芯がクッキリと再現される少し硬質なリアリティのある音が目立つ点だ。MC20II、DL305ともに低域が安定し、ソリッドに引締まり、音に躍動感がある。この音は大変気持よく、ダイレクトディスクの峰純子のリアリティは試聴製品中でベスト3に入る見事さだ。
 TSD15はスケールは大きいが音の輪郭が甘く、少しソフトに過ぎる。これは位相関係が原因であろう。

オーディオインターフェイス CST-80E40

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 40Ω程度の高インピーダンスMC用トランスで、二次側の負荷条件は47kΩ/50pFが標準である。
E03と比較して、滑らかでキメ細かい音とナチュラルに伸びたスムーズなf特がこのE40の特徴である。プレゼンスを感じさせる中低域の残響成分を充分に聴かせるのが、このブランド共通の特徴だろう。
 DL305では、各プログラムソースを平均的にこなすが、音を美しくキレイに聴かせる特徴はE03と同じで、TSD15は全体に音が鋭角的で力強い特徴を少し抑えた誇張感の少ない音になる。試みにMC20IIを使ってみるとf特バランスが大変に優れたクッキリとコントラストのついた適度にシャープで安定した音で、これがベストだ。

オーディオインターフェイス CST-80E03

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 米国オーディオインターフェイス社の3Ωの低インピーダンスMC用昇圧トランスである。したがって、MC20IIとFR7fを使ったが、結果としては少しFR7fのほうがトータルバランスの優れた音であった。
 このトランスは、ゆったりとした余裕の低域から中低域をベースとした暖色系の豊かで滑らかな音が特徴である。音の表情は穏やかなタイプであるため、ロッシーニやドボルザークのようなプログラムソースをゆったり楽しむのに好適なタイプである。
 このトランスの豊かな中低域の残響成分はコンサートホールのプレゼンスを美しく再現し、音像は少し距離をおいてナチュラルに拡がる。しかし、カシオペアのようなプログラムソースは不得手なタイプである。

オーディオデバイス HA-1000

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 MC型の出力電流100%利用する特殊回路設計のヘッドアンプである。
 利得切替はなくMC20IIとDL305を使ったが、低インピーダンスでは表情を抑えた緻密な音であるのに比べ、高インピーダンスでは明るく伸びやかで活気のある音と2通りに変化する。
 ロッシーニは、音場感が拡がり明るい華やかさでDL305が楽しく、MC20IIは精密で小さくまとまった格調の高さがあり対照的だ。
 このアンプの特長を聴かせるのはMC20IIの峰純子で、音色は暗いがソリッドさがあり、引締ったSPUといった音である。反応はさして速くはないが、適度にダンプされた印象はまさしくトランス的で、メモにもトランス的アンプとある。基本的なクォリティは高く個性的なアンプだ。

EMT XSD15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 EMTのカートリッジTSDシリーズは、ほんらい、同社のプレーヤーデッキに組合わされるいわばプレーヤーシステムの系の中のパーツであり、単売のカートリッジだと考えないほうがいいが、それでもTSDの魅力の半面なりを味わいたいという向きのために、オルトフォン/SME型のコネクターに代えたXSDが用意されている。この音の魅力を生かすには、アームやプレーヤーシステムの選び方が相当に制限される。

デンオン DL-303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 永く続いた103シリーズのあと、最近のカートリッジ設計の主流ともいえるローマス化をはかって企画されたのが303のシリーズで、現在、301、303、305の三機種が揃っているが、DL−301はヤング層の好みをことさら意識しすぎ、DL−305は303の繊細さに何とか力を加えようと力みすぎ、みたいに(私には)思えて、ことさらの音作り意識の加わっていないDL−303が、やはり最良の出来栄えだと思う。国産MCのベストに推す。

デンオン DL-103

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 おそらくオルトフォンのSPUに次いで寿命の長いカートリッジだろうか。永いあいだ1万6千円、その後1万9千円に改訂されたものの、FM放送用として入念に設計され、長期間作り続けられた安定性と信頼性は、その後数多く出現したいわゆる1万9千円MCカートリッジの攻勢を寄せつけない。最新型と比較すれば、音がやや太く重いが、MCとしては出力が大きく扱いやすく、良いアームと組合せれば、この音は立派にひとつの個性だ。

トーレンス TD126MKIIIBC

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 スイス・トーレンス社のターンテーブルは、TD125以来、150、160などすべて、亜鉛ダイキャストの重いターンテーブルをベルトドライブで廻すという方式で一貫している。同社ではS/N比の向上の点でのメリットを強調しているが、DDを聴き馴れた耳でTD126の音を聴くと、同じレコードが、あれ? なんでこんなに音が良いのだろう! と驚かされる。音の良さの理由は私には正確には判らないが、ともかくこれが事実なのだ。

フィデリティ・リサーチ FR-64fx

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 FR−64S/66Sのコンセプトを支軸にして、よりコンベンショナルで使いやすいユニバーサルなアームがこの64fxである。アーム材料はステンレスからアルミに変り、表面層を熱処理によりQダンプしている。中心部質量集中思想で作られ、総重量は重く実効質量は軽くというアーム設計になっている。全体はブラックフィニッシュで質感も美しく、加工精度も高い。精度の高いスプリングにより針圧をかけるダイナミック型。

EMT TSD15

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 このカートリッジでは、EMT独自のコネクター規格によるものだから、一般のトーンアームには取付けて使うことが出来ない。その場合にはXSD15を選ぶようになっている。同社のトーンアーム929か997と共に使うカートリッジだ。豊潤剛健な音質で、バランスは重厚で安定したものだ。デリカシーや透明度といった、軽量のコンプライアンス型では得られない充実したサウンドが好みの分れるところだろう。高貴な風格だ。

テクニクス SL-15

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 テクニクスが開発したSL−10を基盤に、さらに充実させ使いよくしたフルオート・プレーヤーシステムで、プレーヤーの世界に新しい一つの分野を開拓した、イージーハンドリングでハイパフォーマンスを狙ったもの。自動選曲は10曲までプログラム可能である。何から何までオートマティックに動作してくれる(レコード反転はしないが)便利さと、各パーツのクォリティがよくバランスした画期的なシステムである。

ビクター QL-Y7

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 プレーヤーシステムとしては、ビクターの現シリーズ中の最高モデルである。カートリッジはついていない。メカニズムはセミオートタイプで、電子コントロールのダイナミックバランスタイプのトーんー無をもつ。一種のサーボコントロールにより、アームの受ける機械的な不安定要素を制御して、安定したトレース能力と音質を得ている。FGサーボのコアレスDCモーターによるクォーツロック・ダイレクトドライブ方式。

ビクター UA-7045

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 トーンアーム単体は、使用カートリッジの種類によって簡単には決めかねるものだ。軽針圧型から重針圧型まで幅広く対応させるためには、軸受構造もオイルダンプやナイフエッジよりは一般的なジンバルが好ましく、慣性質量も中庸をえたタイプがよい。この点ではUA7045は、長期にわたる使用経験上も各種カートリッジの特長を、それなりに素直に引出すのが最大の美点であり、明るく伸びやかな音は使いやすい現代的な魅力である。

エンパイア 4000D/III LAC

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 カンチレバー内部に特殊構造を施した現在のダイナミック・インターフェース・シリーズはエンパイアの最新モデルであるが、スタンダードなカンチレバー採用の製品のトップモデルが、この4000DIII/LACである。ワイドレンジ型で、音の粒子が微粒子型であるため、ソフトでスムーズな音とシステムによっては誤解されるが、高度なシステムでは、非常にシャープで繊細な音でMC型以上となり、現在でもリファレンスの位置づけを持つ。

ヤマハ MC-5

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 現在、デッカのMarkV以外には実用化されていないタテ方向とヨコ方向の発電系をもち、マトリックス回路を通して45/45方式とする発電機構を世界最初のMC型に導入したMC7はユニークな存在であるが、このタイプの第二弾製品が、このMC5だ。超軽量級の振動系はカンチレバーに当然ベリリュウムパイプを使う。スッキリと伸びたレスポンスと音溝をダイレクトに拾うような鮮明でシャープな立上がりは、MC型で類例がない。

デンオン DP-75M

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 ターンテーブル内側に磁気テープのような磁性体をコーティングし、これにパルス信号を記録し、磁気ヘッドで検出する精度の高いサーボ方式をDD型登場の初期から採用するデンオンが、この独自のDD型をクォーツロック化し、ターンテーブルに二重構造の振動防止機構を組込んだDP75フォノモーターをベースとしたシステム。DD型にありがちな、あいまいさがなく、穏やかで安定度の高い音は、リファレンス用としても使える。

ベストバイ・コンポーネント選定──過半数得票不成立のジャンルについて

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 本誌第59号ベストバイ・コンポーネント選定投票は、本誌のレギュラー執筆者八名によっておこなわれた。その結果や詳細についてはそれぞれのページをご参照頂くことにして、各項目中、①オープンリール型テープデッキ ②MC型カートリッジ用ヘッドアンプおよびトランス ③レシーバーおよびカセット・レシーバー(カシーバー)の三項については、あらかじめ規定された当籤必要票数を満たす製品が少なかったため今回は単に集計一覧表を公表するにとどめ、あえてベストバイ・コンポーネントとしての選定をしなかった。その理由について解説せよというのが、私に与えられた課題である。なお、以下に書く内容は、他の七名の選定委員の総意ではなく瀬川個人の意見であり、文責はすべて私ひとりにあることを明記しておく。

オープンリール・テープデッキ
 もう言うまでもなく、こんにち、カセットデッキおよびテープの性能が、実用的にみても相当に満足のゆく水準まで高められてきている。数年前によく行われた「オープンかカセットか」の類の比較論は、カセットという方式の枠の中で、カセットをかばった上での論議であったことが多く、私自身は、カセットの音質が真の意味でオープンの高級機と比較できるようになったのは、ほんのここ一〜二年来のことだと考えている。それにしても、事実、カセットの質がここまで向上してきた現在、そのカセットの性能向上にくらべて、いわば数年前性能でそのまま取り残されているかにみえる大半のオープンリール機については、こんにち、改めてその存在意義が大きく問われなくてはならないと思う。
 オープンリール機の生き残る道は二つあると私は思う。その一つは、高密度録音テープの開発とそれにともなうデッキの性能のこんにち的かつ徹底的な洗い直しによって、カセットをはるかに引き離したオープンリールシステムを完成させること。これについては、本年5月下旬に、赤井、日立マクセル、TDK,およびティアックの四社が連名で、この方向の開発に着手した旨の発表があった。たいへん喜ばしい方向である。オープンの存在意義のその二は、大型リール、4トラック、安定な低速度の往復録再メカの開発による超長時間演奏システムを本機で開発すること。この面での音質はカセットと同等もしくはカセットの中級機程度にとどまるかもしれないにしても、往復で9時間、12時間あるいはそれ以上の超ロングプレイという方向には、オープンならではの意義が十二分にある。

MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ
 5万円を割るローコスト・プリメインアンプにさえ、MC用ハイゲイン・イコライザーが組込まれている現在、あえて数万円ないし十数万円、ときにそれ以上を、トランスまたはヘッドアンプに支払うというからには、それなりの十分の音質の向上が保証されなくてはならない。ところがこの分野はまだ、根本のところまで解明されているとは思えなくて、現実には、どこのメーカーのどのMCカートリッジを使ったかによって、また、その結果それをどういう音で鳴らしたいか、によって、トランスまたはヘッドアンプの選び方が正反対といえるほどに分れる。別の言い方をすれば、一個で万能の製品を選ぶことが非常に難しい。そして、概して出費の大きな割合には得られる成果が低い。おそらくそうした現実が投票にも反映して、誰の目にも客観的にベストバイ、という製品が選ばれなかったのだろうと思う。トランス、ヘッドアンプについては、こんにちの最新の技術をもって、一層の解析と改善をメーカーに望みたい。

レシーバーとカシーバー
 棄権票が最も多かったということは、本誌のレギュラー筆者にとって魅力のある製品が極めて少なかったからであろうと思われる。いつ頃からか、チューナーとプリメインアンプを一体に組込んだレシーバーという形は、アンプとしては一段低い性能、という考え方が支配的になり、その反映として、作る側も、レシーバーをオーディオの真の愛好家むけに本機で作ろうとする姿勢を全く見せてくれていない。けれど、こんにちの進んだ電子部品と技術をもってすれば、レシーバーという形をとったとしても、性能の上では単体のチューナー+プリメインアンプという形にくらべて全くひけをとらないほどの製品に仕上げることは十分に可能なはずである。
 またレシーバーという形は、その使われ方を考えれば、本来、メインの再生装置が一式揃えてあることを前提に、大家族の個室、寝室、書斎、食堂その他に、さりげなくセットしてごく気軽に日常の音楽を楽しむという目的が多い。とすれば、なにもプリメイン単体と同格の性能を競うのでなく、むしろ電気特性はほどほどに抑えて、聴いて楽しく美しい音を出してくれるよう、そして扱いやすく、無駄な機能がなく、しかし決してチャチでない、そんな形を目指した製品が、せめて四つや五つはあっていいのではないだろうか。レシーバーといえば、入門者向き、ヤング向き、ご家庭向き、音質をうるさく言わない人向き……と、安っぽくばかり考えるという風潮は、せめて少しぐらい改めてもいいのではないだろう。少なくとも私自身は、日常、レシーバーをかなり愛用しているし、しかしそうして市販品をいろいろテストしてみると、オーディオの好きな人、あるいはオーディオマニアでなくとも音楽を聴くことに真の楽しみを見出す人、たちの求めているものを、本気で汲みとった製品が、いまのところ皆無といいたいほどであることに気づかされる。レシーバーなんて、作ったってそんなに売れない。メーカーはそう言う。それなら、私たちオーディオ愛好家が、ちょっと買ってみたくなるような魅力的なレシーバーを、どうすれば作れるか、と、本気で考えたっていいはずだ。
 ところで昨年あたりから、このレシーバーにさらにカセットを組込んだカセット・レシーバー、いわゆるカシーバーという新顔が出現しはじめた。これもまた、いや、もしかするとこっちのほうがいっそう、レシーバーよりも安っぽい目でみられているように、私には思えてならないが、レシーバーに馴れた感覚でカシーバーを使ってみれば、この形こそ、セカンドシステム、サブシステムとしての合理的な姿だと、私は確信をもって言える。だが、現実はまだそういうことを論じるにははるかに遠い。たとえば、①プリセットメモリーチューニング ②テープ自動セレクターつき ③録音レベルの自動セット──この三つはカシーバーを扱いやすくするための最低条件だし、しかもその機能が、安っぽく収まっているのでなく、音楽を楽しむのに十分の性能を維持していてくれなくては困る。どうせ小型スピーカーと組合わせるのだから、ワイドレンジ/ローディストーションであるよりは、必要にして十分な小さめの出力。ほどよく計算された聴き心持のよい音質。加えて扱いやすく、ジャリっぽくないデザインと操作のフィーリング。そんなカシーバーを、どこのメーカーが一番先に完成させてくれるか、楽しみにしている。