ケンウッド L-07D

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーシステムは完全にアームまで一体となったもので、カートリッジレスである。このケンウッド、つまりトリオの作ったプレイヤーシステムは、非常に力作だ。このプレイヤーの思想というのは、できるだけ剛性と重量でがっちり固めていって、そして異種共振を持った材料を組み合わせることによって、共振点を互いにずらし、プレイヤーとして必要な良い共振モードを作り出そうということ。つまり特定の周波数に大きな共振が出ないような形にしていこうという、リンリンデックとかトーレンスのフローティングマウントシステムとは反対の考え方だ。日本の高級プレイヤーシステムに対する最近の考え方の主流を占めているものだ。そのために非常に凝った構造となっている。アームそのものにもう少し望みたいところもあるが、これは力作というにふさわしいプレイヤーだ。各部の構造、仕上げともに非常にしっかりとしており、精度も高い。アームの高さ調整などもギアでもって回転させる方式でスムーズに行える。その結果、必然的にできたデザインというのは非常にメカメカしいものになって、少々レコードを聴くというムードからはかけ離れてしまった。私自身も大変に良いプレイヤーだと思って、かなりの期間使ってみたが、もうひとつ愛着が持てない。力作であるということを十分認めながらも、デザインには注文をつけたいと思う。
音質 音質面について、ちょっと細かくレポートしていくと、高音域がやや華やぐ傾向にある。やや硬く、輝きがつく感じがあるが、しかしそれほどきつくはない。低音に関してはなかなか妥当なエネルギーバランスで、楽器のそれぞれの個性的質感をよく出している。例えばベースなどは決してゴリゴリとしたベースにはならないし、ドスンドスンというような、ただただワンノートベースのような重い響きにならない。ベースの響きは非常によく出てきている。はずみもあるし、弦楽器らしい柔軟性もよく出ている。なかなか解像力の優れたプレイヤーだけれども、かといって決して猛々しい音ではない。どちらかというと妥当な、むしろおとなしい音といってもいいかと思う。解像力が非常に明快なものだから、よくこのプレイヤーはガチッとした音というように評価されている場合が多いのではないかと思うが、それは見た目からもきているのではないだろうか。実際には音としてはそんなに硬い音ではないと私は思っている。ある意味ではエネルギーバランスとしては、レファレンス的なバランスを持っている。つまり標準的なバランスを持っているといってもいいのではないか。オーケストラを聴いてみても、管の音色の鳴らし分け、あるいは弦楽器の質感の鳴らし分けもなかなかよく、自然だ。トゥッティでのエネルギーバランスも非常によくとれていると思う。音場感、プレゼンス、ステレオフォニックな広がりとか奥行き、あるいは空間の再現、このへんもまずまずだ。飛び抜けてハッとするような次元は越えていないけれども、高級プレイヤーとしてはまず十分な再現能力を持つものではないかと思う。多くのプレイヤーは見た目と音の印象が非常に似ているけれども、このプレイヤーだけは見た目は少々ごつくてメカメカしすぎるが、音は標準的な、妥当なエネルギーバランスをもっているといえる。

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