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ソニー TA-1166

岩崎千明

スイングジャーナル 1月号(1969年12月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 コンポーネント・ステレオという言葉が説明なしに通用し、セパレート・ステレオに代って流行してきつつある。そしてステレオ専門メーカーの製品が市場において、ますますその地位を確固たるものとしてきている。
 音楽ファンの好みが次第に高級製品に移行してくるに従って、製品のレベルも格段に向上しつつあるこの頃である。
 こうした情勢下のハイ・ファイ市場において、最近ソニーがアンプを中心とした一連の製品を発表し注目された。高級アンプにおいて、国産製品はもちろん全世界の製品の中にあっても屈指の水準を誇るソニーのトランジスタ・アンプ、その血統を引いた製品が今回発表されたTA1166なのである。
 かつてこの欄で、ソニーの普及型レシーバーSTR6500を試聴したが、ソニー製ということで、あまりにも多くを期待し、肩すかしを感じたことがあった。TA1166については約5万円という佃格を考え、ほぼ同価格の他のアンプと比較対照とすることに努め、期待の過ぎることを戒めさえした。
 しかし結論からいうと、これは不要であったようだ。ソニーの技術はTA1120においてみせたその水準の高さは、新製品にはっきりと示されて、5万円弱の製品とは信じられない優秀性をみせたのである。
 TA1166は同級製品の中にあって一段と優れた再生を約束してくれるアンプである。くっきりとした音の粒立ち、アタックにおける尖鋭な音、という点でまぎれもなく名作TA1120の流れを引く再生を示してくれたのである。
 アンプにおいてトランジスタがよいか、球がよいか、という論争が今でもくり返えされている。しかし、音の解像度、分解能力という点ではよく作られたトランジスタ・アンプがはっきりと優れていることは誰しも認める事実である、そして、少くともジャズという音楽芸術は、楽器のひとつひとつの音に演奏者のすべてをかけているだけに、この瞬間の音こそ忠実に再生することが他の何よりも、例えば全体の響とか、ハーモニーとかよりも重要である。とすれば、その再生にあたって、何よりも分解能力が重要となるであろう。その点で、音の立上りの良さに抜群のソニーのアンプはジャズの再生に対し、この上なく理想的といえる。しかも5万円という価格から予想できる音楽ファンの平均的好みを配慮してか、低音感について力強い迫力と共に、一段と豊かさを加えての音作りが心にくいほどだ。むろん、この低音感は単に低音のみが出るというのではなくそれに対する高域の透明な切れ味があってのものだ。
 高域の、冷たいほどにとぎすまされた切れ味は、ソニーの名作TA1120においてすでに十分知らされてきており、それがそのままTA1166に受けつがれて血筋の良さを感じさせているのである。
 TA1166のデザインは、今までのソニーのイメージをまったく打ち破ったメカニカルな、現代的な線が強い。一見通信機を思わせる、思いきったシャープな線でかこまれたダーク・グレイの2トーンだ。
 このデザインから、初め、若者向けのものという印象を受けたのだが、どうしてどうして単に若者向けに止まる程度のものではなく、音色にも、バランスにもきわめて高い水準を示して、類のないパネルの仕上げの良さが、そのまま内容的にも十分に神経を使った高級品であることを感じさせる製品であった。
 ただ、これは個人的な好みなのかも知れないのが、パネル・デザインがあまりに凝りすぎて、例えば、バランス調整のスライド部のまわりなど、繁雑な印象を受ける。せっかく使い良さそうに配された各ツマミは、もう少しスッキリとまとめられていた方が、若い層だけでなくより広い層に支持を受けるのではないだろうか。とはいえ、この価格のアンプにまた魅力いっぱいの製品がひとつ加わったのは、ファンにとっても喜ばしいことにちがいない。

サンスイ SP-2002

岩崎千明

スイングジャーナル 1月号(1969年12月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 山水がブックシェルフ・スピーカーSP100とSP200をひっさげて、国産スピーカーの戦列に加わってから3年の月日が経った。
 技術的進歩、開発のテンポの著しく早いハイ・ファイ業界において、3年間という月日は、製品がほとんど入れ代ってしまうほどであるが、山水によってきっかけが作られたといってもよい、ブックシェルフ・スピーカーの分野では、特にそれがはっきりした形で現れ、再生音の傾向までが変ってしまった、といえるほどである。それは裏返えせば、それほどにまで山水のスピーカーが成功し、他に影響を与えたといえるのである。
 単に音域を低い方に延ばすことにのみ技術を傾けた他社のスピーカー・システムは、山水のSPシリーズにくらべて低音感が重く、スッキリと豊かな山水のシステムとは対称的で、それがそのまま山水のシステムを空前といわれる成功をもたらし、それ以後の国産ブックシェルフ・スピーカーの音のパターンまでも方向づけてしまったといえよう。
 国産のブックシェルフ・タイプ・システム全盛の今日を形作った、山水・SPシリーズも、3年の年月で他社の新製品に追上げられ、さらに新らしい技術を導入して製品の向上を企ることとなった。
 そして誕生したのが、SP100を向上させたSP1001であり、さらに、SP200を向上させたSP2002である。
 SP1001、SP2002とも低音のソフトな豊かさに一段のさえと張りつめたアタックの良さが加わった。さらに特筆すべきは、その中音域の充実ぶりである。
 特にSP2002はその効果が、非常によい結果をもたらした。つまり全体の音色と音のバランスが、格段にグレードアップされた。それはまぎれもなくJBLのスピーカーと同じ路線上にある音である。
 JBLの日本代理店でもある山水のスピーカーがJBLと似たとしてもこれは決して偶然ではあるまい。いや、それは山水でなくしては得られなかった結果といえないだろうか。
 それは、ここに使われているユニットを観察しても判ることなのである。
 まずさえたアタックの鮮明な低音を得るため低音用スピーカーはコーン紙が一段と改良され、低いf0と硬度が増したコーン紙を与えられている。さらに注目すべきはその中音用だ。一見SP200とよく似た中音用のコーンは、アルミ・ダイアフラムが、中心部に加えられている、しかもよくみるとこのダイアフラムは凸起が高く、従来のあらゆるスピーカーにくらべて深く成形されていることに気付こう。このような深いダイアフラムはJBLの最近の製品中、特に優秀性を認められているLE20トゥイーター(高音用)のダイアフラムだけである。この砲弾型に高く凸起したダイアフラムにより高音のエネルギーが歪なく一段と強くなり、指向性の著しい向上が図られているようである。このJBLの技術に山水の技術陣が見逃すわけがない。音楽再生上特に重要なこのダイアフラムをとり入れた、とみるべきであろう。その結果、特に歪の気になる中音の高域において従来より歪をおさえ鮮明度の高い中音を得ることができる重要なファクターとなっているのである
 このアタックのすばらしい低域と、鮮明でタッチのシャープな中高音はそのままJBLの本来の良さと同じ傾向の再生音をつくり出したのである。そして、JBLのスピーカーと同じように、この優秀性はジャズにおいてもっとも効果を得ることができるのも確かな事実である。

オーディオテクニカ AT-3M

菅野沖彦

スイングジャーナル 12月号(1969年11月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 ジャズのレコードに限ったことではないが、モノーラル時代の名演奏の再発売ものには見逃せない名盤がたくさんある。レコードというものの本質からいっても、記録性ということは大変重要なもので、特にジャズのような瞬間性の大切な、二度と再び同じ音楽がこの世に存在し得ないものについては、きわめて貴重なものだ。資料としてはもとより、かけがえない音楽体験として、モノーラルのレコードを、ただ局面的なオーディオ観で、ステレオ録音ではないからというだけで、遠ざけてしまうとしたら、その音楽的損失は計りしれないほど大きい。しかもモノーラルにも、ステレオ顔負けの素晴しい録音のものさえあるのだから、なおさらのことである。特にジャズ・サウンドは、空間サウンド以上に楽器音そのもののリアルな再現が好まれるという美的観念があるから、モノーラル録音はクラシックの場合ほどの制約にはならないともいえる。クラシックとジャズとの間には、音楽的な音そのものについての美学の差があることは否めない。ジャズのステレオ録音に、マルチ・モノ的な音が多いものもそうした理由による。荒々しいタッチ、生々しい触感、激しい圧迫感をもった音を明確に把握しながら、しかもステレオフォニックなプレゼンスを2チャンネルの再生から得ようとすることは容易ではないし、これは、ジャズ録音にたずさわる私たちの抱える大きな課題なのである。
 ところで、モノーラルのレコードが現時点で再発売される時に、いわゆる擬似ステレオ化されているというケースがあるが、これについては、クラシックもジャズも、心ある人々が大反対しているようだ。しかし、先に述べたようなジャズ・サウンドの美的観念からして、ジャズの疑似ステ化についての反対はクラシックとは比較にならないほど強烈で、ついに、近頃では、ほとんどのレコード会社がモノーラルのまま再発するようになった。
 こうなってくると、もう一つ問題となるのが再生のシステムであって、ステレオ・カートリッジで、モノーラル・レコードを演奏することには一考する必要が生じるというものだ。つまり、ステレオ・レコードとモノーラル・レコードとでは、溝を切刻するカッター針の曲率半径が異り、溝の形はちがう。また本来、モノーラル・レコードには縦振動の成分は含まれていないし、それを再生するカートリッジも縦の振動成分に対しては感度をもたないように設計されている。ステレオ・カートリッジでも、左右チャンネルの出力をシリーズ結合して縦成分をキャンセルして使えばまだよいが、そのままの状態で使ったのではかならず不都合が生じる。一般にいわれることは、モノのカートリッジでステレオ・レコードはかけられないがステレオ・カートリッジでモノーラル・レコードをかけても差支えない……というのだが、それはレコードに対する保護の面からであって、そのレコードを理想的に再生することに関しては問題がある。モノ・レコードはモノ・カートリッジでかけるのが本来である。そこで、このAT3Mは貴重な存在である。ステレオになってカートリッジの振動系は大幅な進歩を遂げているが、このAT3Mもモノ当時のカートリッジとは格段の性能をもつ。欲をいえば、現時点でカートリッジ・メーカーの技術をもってすれば、さらに理想に近いモノ・カートリッジが出現するはずだが、モノ・レコードを聞く人には、広くこの製品を推薦したい。ステレオ・カートリッジで聞くよりも、はるかに腰の入った、がっしりとした音の再生ができるのである。今さらモノ・カートリッジをと思われる人もいるかもしれないが、ジャズ・ファンならばぜったいに聞き逃せないモノーラルの名盤のよりよい再生のために、このカートリッジを今月のベスト・バイ商品として選んでみた。

タンノイ IIILZ MKII

菅野沖彦

スイングジャーナル 12月号(1969年11月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 タンノイのモニターIIILZといえば、伝統的な英国の名スピーカーとして有名である。英国には、スピーカー・メーカーが多く、グッドマン、ワーフェデール、KEF、ローサー、リチャード・アレン、クヮド、ヴァイタ・ボックス、そして、このタンノイなどの有名スピーカーがある。これらの英国製スピーカーは日本でもファンが多く、それぞれ独自の個性をもった音がファンを獲得している。しかし、それらのファンは圧倒的にクラシック・ファンが多く、英国スピーカーはジャズの世界では全くといってよいほど冷遇されてきた。何故だろうか? それにはそれなりの理由がたしかにあったのかもしれない。その理由を証明するにはスピーカーというものが、一連の電気音響機器の中で特別にソフトウェアーとしての性格の濃いものであるということから話しはじめなければなるまい。電気音響機器は、大きく二分して、変換系と伝送増幅系とからなっていることは、本誌の愛読者ならすでにごぞんじのことと思うが、変換系、つまり、あるエネルギーを、異った性格のエネルギーに変えるものの代表的なものが、マイクロフォン、カートリッジ、スピーカーである。
 この変換系の中でも、直接、空気の波動を扱うマイクロフォンとスピーカーには特に問題が多い。変換能率、周波数レスポンス、歪特性などの特性のよいものをつくること自体大変難しいことだが、もっとも問題になるのは、そうした、いわば解析ずみの特性データによって完全に把握しきれない問題である。これが、結果的な音色に及ぼす影響がきわめて大きく、これらの製品の最終判断は聴覚によらなければならないのである。例えば、振動体にはなんらかの物質を使わなければならないが、この物質自身の個有の特性は必らず音色として現れてくるものである。聴感覚によって判定するとなると、当然、そこには制作者の音への好みが反影せざるを得ないのであって、同じような物理特性をもった二つの製品のどちらかをとるというようなギリギリの場合だけを考えてみても、音への嗜好性、音楽の好みなどがはっきりと現われてくることになろう。スピーカーがソフトウエアーとしての濃い製品だというのはこのような意味であって、スピーカーほど、この点で厄介な、しかし、面白いものはないのである。
 音への好みは単純ではない。年令、体質、教養、性格などの綜合されたものが音の嗜好性を形成する。当然、人種の差、文化水準の差、伝統といった条件も必らずまつわりついてくるものだ。
 そこで、英国系のスピーカーには、どうしてもクラシック音楽のイメージが強いとされてきた理由もなんとなくわかるのではあるが、今や、英国も、ビートルズを生み、ミニスカートをつくる現代国家であるし、特に輸出によってお金を嫁ぐことに熱心なことは先頃の英国フェアでもよく知っておられる通りである。英国がその古い伝統と、高度な産業技術を、クラフトマンシップを生かしてつくり上げた製品は、筋金入りの名品が多く、しかもお客の望みを十分に叶えてくれるサービス精神にもとんでいる。タンノイはいぶし銀のような艶をもつスピーカーだと評されていたが、このIIILZのニュータイプのIIILZ MKIIは、さらに明るさが加ってきた。重厚明媚を兼備えた憎い音を出す。これでジャズを聞くと、実に新鮮な迫力に満ちた音だ。MPSのジャズのように、最近はジャズの音も多様性をもってきた。アメリカ録音に馴れていた耳には大変新鮮な音のするヨーロッパ録音ではある。再生系も、英国スピーカーはクラシック向と決めこまないでチャンスがあったら耳を傾けてみてほしい。

サンスイ AU-777D

菅野沖彦

スイングジャーナル 12月号(1969年11月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 AU777Dは、従来のAU777を改良した新機種で、信頼度の高い、高いグレードをもったアンプである。AU777はベスト・セラーと呼ばれた製品で、サンスイのトランジスタ・アンプの評価を固めたアンプだが、このD型になって、一段と音楽的にもよくなった。試聴してみても、従来、やや気になった高音域のザラザラした荒さが大きく改良されていて、より滑らかにふっくらとした音を出すようになった。そして、中音域のバンド・パス・パターンをコントロールできるトリプル・トーン・コントロール方式の採用は、ルーム・アコースティックの調整に役立つのみならず、ジャズの再生にもっとも充実性を要求される中音域のコントロールに大きな威力を発確するものだ。一般に、迫力ある音にするというと、低音と高音を増強するような傾向がなきにしもあらずだがこれは本来正しくない。低高音を増強することは、中高域をやせさせることになり、決して迫力のある音にはならず、うるさい音になる。かといって、低、高音を落して中音域をクローズ・アップさせたのでは、切角のワイドレンジが泣く。この辺の微妙なコントロールは音づくりの妙味であるが、そう簡単にはいかないものだ。このトリプル・コントロールは中音域を1デシベル・ステップで、+−5db調整できるようになっているが、これが大変上手い特性曲線に設定されていて効果的であった。決して極端な増減ではないし、選択帯域を曲線が適切で、あらゆるレコードに、まともな効果をあげることができるのである。もちろん、併用スピーカーの特性を補うこともできるし嗜好に合わせるという使い方にもつながるものだろう。
 例のブラック・パネルのメカニカルなデザインと、機能的なレイアウトはかつてのAU777をそのまま踏襲している。細かい特長を捨い上げてみると、接続カートリッジ間の入力回路が二つあるが、そのうち一つは、入力インピーダンスを30kΩ、50kΩ、1100kΩの三段に切換えることができる。これは、カートリッジの出力インピーダンスのマッチングをとるという目的だが、適確なインピーダンス整合を計るという考え方から発展して、インピーダンス・マッチングによって変化する音帯の相違をトライするというマニア意欲を満たすサンスイらしい配慮であると見た。入力回路は、この他、チュ−ナー、AUX、テープ・ライン、テープ・モニターなどと豊富であり、高級プリ・メイン・アンプとしての機能をよく備えている。また、入力感度3・5mVのマイク入力端子をもっていて、喫茶店などの使用には便利だが、これがピン・ジャック端子であることは考えもの。これは是非、マイク用として一般的なミニ・ジャックとすべきであろうし、できればフロント・バネルに出して欲しかった。出力回路としては、まず、プリ・アンプ出力が、かなりのハイ・レベルであることが、マルチ・アンプ・システム発展の時には大変便利である。そして、二系統のスピーカー出力端子が扱いやすいターミナルで出ている。フロント・パネルには、20dbのミューティング・スイッチ、ハイ、ロー・カット・フィルター、ボリューム・コントロールと同軸になったレバー式バランス・コントロールなどが整然と並んでいる。いかにもマニア好みのメカニカルな雰囲気ではあるが、素人には、馴れないと、あまり整然と並びすぎていて、かえって戸惑いを感じるようだ。特に、左右独立の六つのツマミからなるトリプル・トーン・コントロールとなったので、余計にぎやかな印象を与えるのであろう。
 このアンプは、価格的には中級プリ・メイン・アンプであるが、サンスイの現役プリ・メイン・アンプを代表する製品で、その再生音の品位はかなり高い。定格30W+30Wの出力は、現行商品の中では決して大パワーではないが、ジャズの再生に向く能率のよいスピーカーには十分な出力である。試聴に使ったアルテックのA7が堂々たる迫力を再現してくれたし、ブックシェルフ・タイプの数種のスピーカー・システムでも、特に不満は感じられなかった。従来のタイプの発展型だけに特に目新しさこそないが、それだけよく練られた、信頼度の高い製品だと思う。

ラックス SQ707

菅野沖彦

スイングジャーナル 11月号(1969年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 SQ707というラックスの新製品アンプは、アンプの老舗ラックスが生みだした傑作である。ロー・コストの普及アンプであるが、決して安物ではない、これは、このアンプを使ってみればただちに理解できるであろう。第一、見た目にも、いかにも品位の高い音が出そうな美しい姿をしている。徹底した合理的な設計と、量産計画から割り出されたために、この価格がつけられたものと思う。数多くの商品を見馴れた眼には一目で、この製品の優秀性がピンとくるであろう。安物とは安物しか作れないメーカーが作るものらしく、高級機を作る技術と体験をもったメーカーがつくるロー・コスト商品には自ずから、その品位が滲み出るものであることを敢えてくれる
 SQ707の機能は、プリ・メイン・アンプとして必要なすべてを備えていて、一般の使用上、まったく不便を感じない。入力側からみていくと、フォノ、チューナー、テープデッキ、補助入力の4端子が用意されていて、フォノの入力感度は2mV、その他は120mVとなっている。出力側は、録音用のライン出力と、3ヘッド・タイプのテープレコーダーのモニター再生端子、そして2系統のスピーカー出力端子とヘッドフォン・ジャックがそろっている。コントロール機構には両チャンネル独立の高、低トーン・コントロールに、高低の湾曲点を変更するスイッチ、18dbのミューティング(アッテネーター)スイッチ、ABスピーカー切換スイッチなどがラックス特有のパネル・レイアウトですっきりと並んでいる。パネルはホワイト・ゴールドの瀟洒な色彩をヘアー・ライン・フィニッシュにした美しい輝やきをもつ。ケースはABS樹脂使用のユニークなもので、合理性はもちろんのこと、下手な鉄板加工より完成感が強く枠である。操作面によく練られているし、スイッチやボリューム類は専門メーカーのラックスらしく実にタッチがよく、スムーズであった。そして、その再生音は、こうした外観上の特長と共通した、あるいはそれらを上廻る質の高いもので、まるで澄みきった深い水を見るように、濁りや汚れのない、そして丸やかなものだ 実にふっくらと、独特のプレゼンスといいたいほど軽やかに空間が再現されるのである。この特長は、コンテンポラリー・レコードのように、ステレオフォニックな空間性のある録音により効果的で、ブルー・ノートやインパルスのようなマルチ・モノーラル的な録音では、やや丸味がついて物足りないという印象になるかもしれない。連続出力17Wという表示に物足りなさを感じられる人もいるかもしれないが、能率のよいスピーカーを使えば、家庭用としてパワー不足は感じられず、SJ試聴室のアルテックA7が、ガンガン鳴る。我家では、サンスイのSP1001やクライスラーのCE1ac、またオンキョーのFR12というような数種のスピーカーをつないで、鳴らしてみたが不足は感じなかった。もちろん大きな部屋で、大音響を期待すると無理も生じるが、10畳ぐらいの部屋までなら十分いける。まして4・5畳〜6畳での使用にはまったく心配はいらないだろう。名士の手すさぴといったらメーカーに怒られるかもしれないが、このアンプには音にも、外観にも、そうした余裕が滲み出ていて無理な気張りをまったく感じさせないのである。34、000円という価格も、ユーザーにとって、それほど気張りを要しないだろうし、本誌の選定新製品として名実共に推奨にあたいする製品である。
 このアンプから出る素直な音は、この製品を初めて使われる多くのオーディオ入門者に、初めから趣味のよい、音の規準を与えてくれると思う。これはいい変えれば、市販製品にあり勝ちな、ちょっと聞きには強い印象を与える、辛しや味の素が度ぎつくきいていないということである。ロー・コストの普及アンプの代表的地位を占める製品になるだろう。

グレース F-8C

岩崎千明

スイングジャーナル 11月号(1969年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 F8Lというベスト・セラーのカートリッジに「MUSICA」と名付けたF8Mが加わったのは昨年春であった。F8シリーズは国産MM型カートリッジの代表のようにいわれ、その性能、品質、さらに再生品位までもが高い信頼度をそなえている製品である。
 非常に繊細に音のひとつひとつを適確に拾い上げる能力、どんな演奏のレコードでも正確に音溝をトレースする能力、このようなもっとも大切にして必要な条件を、危な気なくそなえているという点て、グレースのF8Lは国内製品中でもベストに上げられるひとつであった。
 そして、その音の繊細さに、より以上の迫力、アタックの力強さを加えて誕生したのがF8Mであった。
 むろんF8Mは発売後、F8Lと並んで好評を持って迎えられ、特にジャズ・ファンからはF8L以上に支持されていると聞く。
 F8L、F8Mの話を長々と前置をしたのには理由がないわけではない。
 今回、F8Cが発売された。F8シリーズの最高級品としてのF8Cについて、次のようなことがよくいわれているのである。
 つまり「F8CはF8LとF8Mとの中間的な製品である」「F8LとF8Mの良い所を採り入れて作られたのがF8Cである……」
 これは結論からいくと誤りである。F8CはF8シリーズの標準品種F8Lを基として出発したF8Mとは兄貴分に当る製品である。メーカーの言によると「F8シリーズの最高級を目指して、精密技術を駆使して完成した製品」である。
 結果としてF8Mのアタックを加えられたF8Cは、音色の上で、F8LとF8Mの中間的なファクターを示すこととなった。メーカーサイドでは、しかしこれはあくまで聴感上の結果であるという。
 F8Lをもととしてその性能向上化の結果、それ以前のF8Mと似たとしても、技術的にはかなり違ったものからスタートして得たのである.
 一般にカートリッジの高性能化の方法として、針先カンチレバーの質量を減らし、その支持をやわらかにすることにより、振動系を動きやすくするのを目的とする。これはシュアーのカートリッジが追従能力、トラッカビリティの向上を狙って優れた性能を得るに到ったことからも納得ができよう。
 レコード音溝に刻みこまれた20、000ヘルツにも達する高速振動に追従するには、そのカンチレバー自体の自由共振はその限界を越えることが好ましい。しかし現実にはそれが、いかに難かしいことか現在の市販製品は20、000ヘルツ以上のものがない。もっとも高いひとつであるF8Lにしても18、000ヘルツである。一般には音声帯域内にあるこのカンチレバーの高域共振はダンパーによって押えられているわけである。このように押えられて周波数特性はフラットにされている。
 微少化されて20、000ヘルツ以上の音声帯域以上高い範囲に自由共振点が達したためJ支持部によるダンプの必要力くなくなって、針先の自由度が大きく向上したわけである。つまり針先コンプライアンスが向上して追従性がF8Cにおいて、25×10の−6乗
cm/dynと、より優れているのはこのためである。アタックの優れているのはこの結果、過渡特性が向上したからである。
 しかし、この僅かな向上のためにかなりのコストアップがつきまとうことになり、コスト・パーフォーマンスの点でF8Lにくらべて損をすることとなるのだが、この点こそ次のように強調したい。
 一般にコスト・パーフォーマンスを考えない最高級カートリッジとして国産を選ぶことは今日ではめったにないのが通例である。国産メーカーの奮起を促すことをいつも叫んできた我々にしては、このF8Cの出現をもっと価値のある成果として見直してもよいのではないだろうか。F8Cこそ外国製高級カートリッジに挑戦した国産カートリッジ第一弾なのであるから。

ヤマハ NS-15

岩崎千明

スイングジャーナル 11月号(1969年10月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 世界最大のピアノ生産量を誇る日本楽器がスピーカーを作り出した、と聞いたとき、大して驚きもしなかった。その形態がいくら変っているとしてもそれはヤマハが世界に誇るエレクトーン用のそれであるから、とごく当然と考えていた。
 そのスピーカーがハイ・ファイ用である、と知られたとき、かなり驚きをもってその話を受けとめた。
 大きく薄型のヤマハのシステムが私の部屋へ試聴用に運び込まれたのは発売する半年以上も前だったが、その特異な形状は改めて見るとやはり奇異な思いにとらわれた。
 私の知る限り、大型平板スピーカー以外の変形は英国KEF製のADCモデル18のウーファーの角のとれた長だ円型だけで、このヤマハのように奇妙な形は史上初めてであろう。
 それまでのスピーカー技術をあざけ笑うようにさえ思えるこの妙なスピーカーは、アンプにリードを接ぎスイッチを入れると生々した、いかにもVIVEな感じで歌い出した。
 その頃、私はアルテック515Bを組入れた845ボックス、つまりXA7用のウーファーを、愛用のアルテックのシアター用マルチセラー・ホーンと組み合わせて使っていた。
 そのXA7の横においたヤマハのNSスピーカーは、アルテックに大したひけをとらずに太い低音を部屋いっぱいに轟かしたのであった。これにはかなり驚いた。今まで国産はおろかアルテックの業務用のこのウーファーと並みで音を出せるスピーカーなどでJBL・D130を除いては全然なかったからだ。
 ヤマハのNSスピーカーの低音はJBL以上に高能率だった。そして何よりも、その低音はその頃の国産のウーファーにあり勝ちだった重い押しつけがましいことはないし、明るくカラリと澄み、鮮かなアタックは冴えていた。ただ、A7の深い低音域までの延びが、NSスピーカーには物足りなかったのであった。
 しかし業務用のXA7という価格の上でひと桁も違うスピーカーとあまり大差ない鮮かさを、従来の国産ではまったく苦手だったウーファーという分野において外国製と匹敵するこの成果は大いにたたえてよいと思う。
 このシステムはほかに中音用と高音用の3ウェイ・システムであったがこの部分が原因となっているのか判らないが、中音域の上でかなり派手な音作りがなされ、ハイ・ファイ用というにはいささかためらわざるを得ない試聴品であったことを加えよう。その後、このシステムの最新型がヤマハ・ミュージック・ショーで発表されたが、変形のカーブがかなりスッキリして、KEFの長方形スピーカーによく似た形をとってきた。そして音質的にはきわめて素直になりやや派手さのあった中音域はおとなしく、しかもNS本来のVIVEな生々しさは少しも失なわれていないようであった。
 NSのこの優秀性は技術的に2つのポイントにしぼれると思う。そのひとつはすべてのスピーカーにいえることだが強力なマグネットであり、もうひとつは大きな面積をもったコーンが、軽く丈夫なためである、この軽いコーンは、物理的にただただ特性を良くすることをやっていない点だ。この特性本位から音色本位の技術はピアノや楽器創りのヤマハならではの姿勢であろう。この姿勢から今日のNS15のようなハイ・ファイ用としても優れた性能のスピーカーが生れてきたことは注目してよかろう。ドラムの乾いたスキンの音を、迫力十分に伝えるこのスピーカーの行き方は、従来のスピーカーの進むべき道を変える要素を持っているだけに今後が期待できよう。

アコースティックリサーチ AR-4a

岩崎千明

スイングジャーナル 10月号(1969年9月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 AR4は米国のAR社の製品中、もっともポピュラーな小型のブックシェルフ型スピーカーである。
 AR社、詳しくはアコースティック・リサーチ社は50年代末期に米国ハイ・ファイ界にデビューしたまだ10年を経たぬ新進メーカーであるがそのユニークな技術に裏書をされた優れた製品は、すべて米国市場で空前といえるほどのベスト・セラーを続けている。おなじみの米国コンシューマー・レポート誌のテストにおいてAR社の製品はひとつ残らず、A BEST BUY つまり「絶対お買徳」と判定されてきた。コンシューマーキラーといわれるゆえんがこの辺にあるのだが、発売するすべての製品が、これほどにうけるのは、万事合理的、機能最高主義の米国人気質に徹底した技術と企画のうまさが物をいっているのであろう。
 AR社は米国内ではAR2およびAR3の2種のスピーカー・システム、ARXAと呼ぶプレイヤーとが家庭用ステレオの独占的製品としてよく知られているのだが、日本市場ではスピーカー・システムのみが高級製品としてよく知られている。アコースティック・サスペンション方式の低エフ・ゼロ・スピーカーはブックシュルフ・システムの別名とまでなっているが、いずれも日本では10万を越す高級品で、AR2からグレード・アップした最近のAR5も12万以上と、すべて家庭用スピーカーとしては輸入品の中でもきわめて割高だ。
 しかし、ユンシューマー・レポート誌のA BEST BUYに選ばれることからも判るとうり、コスト・パーフォーマンスの点で非常に優れているのがARの製品の特長であり、それがベストセラーとなる最大の理由なのである。つまりARの製品はすべてポピュラーな性格の製品なのであり、しかも高性能という点に価値が高いのである。さて、ARスピーカーの中でもひときわポピュラーなのがAR4aである。20センチの低音用と高音用スピーカーとの2ウェイ方式のこの小型のシステムは、ポピュラーな製品と狙って生れてきたわけではない。
 このAR4の発売された67年の前年には、英国の代表的スピーカー・メーカー・グッドマン社が超小型システム「マキシム(米国名マキシマス)」を発売し、それは米国市場で大へんな人気を呼んだ。名とは逆にごくミニマム・サイズの「マキシム」は小さな体に似合わず、力強い低音とすばらしい中高の解明力で、なにごとも大きいものの好きな米国人の間でもかなり売れた製品であった。
 小型車VWワーゲンに対すると同ように輸入品に対する対抗製品のトップ・バッターとして、それを作るにふさわしいベスト・セラー・メーカーAR社が、マキシムを意識して作ったのがこのAR4であった。
 AR4はマキシムほど小さくはないが従来のARスピーカーのサイズよりはずっと小柄だ。しかし、その小柄に似合わず、大きな音を出した時にもびりつくことはなく、音にゆとりがある。小さく鳴らした時の澄んだ音は、大きく鳴らした時にも、少しも影りをみないのはさすが米国製品である。「能率の低い」という点はARスピーカーの大きな欠点でありまたその特長ともなっているが、AR4も能率はあまり良くない。しかし大きな電気入力を加えた時、つまり大型アンプで鳴らすAR4の素直な音はさすがハイ・ファイの本場米国のベストセラー製品とうなづけよう。特に、プログラムを選ばず、ヴォーカルもソロも、フルバンドも、ドラムもそしてピーターソンのピアノも素直な響きで鳴らす。
 38、000円という価格は日本市場ではちょっと割高だが、このスピーカーもまた価値がある製品なのである。

フィリップス EL3312A

菅野沖彦

スイングジャーナル 10月号(1969年9月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 カセット・テープの普及がとやかくいわれながら、まだ我国では、その歩みがもどかしい。アメリカでは8トラック・カートリッジとこのカセットとの比較の点では、明らかにカセットが優位に立とうとしているのであるが、これは、その大半を占める用途であるカー・ステレオのカセット化の波によるものらしい。しかし、今年のニューヨークのCESにおいても、ホーム・ユースのカセットも注目に価いする活況を呈していたことを思えば、カセットの今後は日本でもかなりの期待が持てそうである。日本の現状では、カセットはメモコーダーとして延びてはいるが、音楽録音再生用としてのステレオ・カセットはまだまだかったるいのが実状であろう。その最大の理由は、やはり音質の点にあると思われる。扱いの点では、カセットの抜群なイージー・ハンドリングは万人の認めるところであるから、これで、満足できるハイ・ファイ音が得られれば、もっと急激な伸長を遂げるだろう。ところで、最高の状態でのカセット式はどんな音かを聞いたことのある人は何人いるだろうか。これを知ればもっと多くの人がカセットに注目するにちがいないと思うほど、現在では、カセット・ステレオの可能性は高い。最高のカセット・ステレオ・デッキを使って、細心の注意と技術をもって録音再生すれば、これがカセット? と思うほどのハイ・ファイ音が聞ける。つまり、カセットの可能性の証明である。
 これに必要なのが、フィリップス社製のEL3312Aというカセット式ステレオ録音再生デッキであるが正直なところ、このフィリップスのデッキでないと、その可能性の限界は確認できない。もっとも、フィリップスはカセット・システムの本家であるから当然かもしれないが、そ
れにしても他の製品がもう少し良くなってもらわないと、カセットの普及上困るのである。では、どこが、どう良いかというと、ワウ・フラの少いことなどのメカニズムの特性は勿論、その音質のまとまりにはまったく脱帽せざるを得ないのである。電気的特性ではカセットの現状ではまだ制約はあるが、その制約の中で聴感上もっとも快よいバランスをつくっているのが見事なのである。
 このEL3312Aはカセット・デッキとしてはやや大型だが、ピアノ式の操作機構は扱いやすく確実で、マイク入力端子回路がついていて、附属のステレオ・ユニット・マイクで簡単にステレオ録音ができるし、パワー・アンプの小さいものもそなえているし、ライン・アウトもとれるという万能型である。手持の装置につないで置くには、5ピンのDINコネクターを使って録音再生が可能である。
 私は職業柄、マスター・テープをこのデッキでカセットにコピーして聴くことがあるが、客にこれを聴かせると大抵驚いて、カセットの可能性を再認識すると同時に、市販のミュージック・カセット・テープのプリントの悪さに疑問を持つ。したがって、現状ではこのデッキを購入されて、自分で、FMやレコードからプリントして使われてみることをまずお推めしたい。その便利さ、音の良さには一驚されるであろう。
 カセットこそは、現代の若者にピッタリのサウンドマシーンである。そして、テープは録音再生ができるというのが本質的な特徴なのであるから、こうした録再デッキを買ってアイデア豊かな音楽の楽しみ方を研究するがよい。SJ編集部のF君などは、愛車のクーパーにカセット・ステレオを持込んで大いにハッスルしている。そのプログラムソースはすべて、このEL3312Aでレコードからコピーしたもの。金がかふらず、楽しみが増えて何よりである。

マイクロ MR-411

岩崎千明

スイングジャーナル 10月号(1969年9月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 マイクロ精機がいよいよ発売したレコード・プレイヤーMR411。「いよいよ」という言葉に、ふたつの意味がある。ひとつは永い間、ファンの間で普及価格でありながらグレードの高いプレイヤーが待たれていたことに対する「いよいよ」である。のこるもうひとつはファンの方には直接は関係ないかも知れないが、プレイヤーに進出したマイクロ精機のメーカーとしての意欲と期待である。
 最近、ステレオの進歩と、その需要層の拡大滲透が急速になされた結果、メーカーサイドの努力もあるがセパレート・ステレオ全盛期からプレイイヤー、アンプ、スピーカーの孤立パーツを組み合せるいわゆるコンポーネント・ステレオ期に大きく方向転換が行われつつある。
 そのため、アンプ、スピーカーにくらべて、レコード・プレイヤーの部門に優秀製品があまり多くはないこともファン側からは物足りなかった市場状況であった。
 そのため、依然として昔ながらのアーム、ターンテーブルを組み合せる形式を取らざるを得ない現状である。つまり専門メーカーのアームやターンテーブルの方が大メーカー・ブランドのプレイヤーにおけるアームやターンテーブルなどよりも、品質の上でより優れていると一般に信じられており、それを裏書きするかのような個々の製品が市販されているのはたしかな事実なのである。
 さて、マイクロ精機はアーム、カートリッジから出発してターンテーブルMB400とMB800をベルト・ドライブ方式のさきがけとしてティアックに続いて市販して成功を収め着々とプレイヤー部門の地盤を築き上げてきた。特に最近は輸出に加え大メーカーの下請けとしての業績も大いに上って躍進の著しいプレイヤー関係メーカーであり、この業界においての真の意味で量産体制の確立した数少ないメーカー規模をもっている。
 アームにしろ、カートリッジにしろ量産のなされ難い製品を大量生産すれば、それなりの設計技術や設備が必要であり、そのため、この業種は大きく育たないといわれてきたのをくつがえすほどに成長したのがマイクロ精機なのである。
 そして、市販のアームの中でマイクロの77シリーズがロングベストセラーを続け、さらに昨年発表したカートリッジM2100シリーズがベストセラーとなった。量産設備のととのったこのメーカーのムラのない品質に加え価格から考えられない高性能はベストセラーと始めから約束されていた。
 この高品質を結集したのが、今月発表のMR411プレイヤーなのである。
 しかも、このプレイヤーにみせるマイクロ精機の意気込みを製品の価格から推測できるのである。
 39、800円というこのプレイヤーの価格を聞いたとき、私はかたらわの編集部F君に「これはハタ迷惑の製品だネ」と話かけた。というのも同業メーカーにとって、このプレイヤーは大きな驚異になるに相連ないし今後の製品に大さな影響を与えるのが目に見えているからてある。ちょうど、昨年発表したM2100がその後の市販カートリッジの価格のオピニオンリーダーとなったのとも似ている。
 MR411のシンプルで抵抗なく受けいれられるフラットなデザインはその内部に眼を向けると裏ぶたにクロスした補強材に、メーカーの製品に対する細かい配慮を確められる。従来の薄いベニアの裏ぶたがしばしばハウリングの原因となっていたことに対する新機構だが、重いモータボードと共に注目してよい。
 最後にその再生音の品質だが、安定したトレースと素直なくせのない再生能力に定評あるM2100と77Hの組合せは「ロリンズ・オン・インパルス」の太い豪快なテナーを期待通りゆとりをもって楽々とSJ試聴室に響かせた。

クライスラー CE-1ac

菅野沖彦

スイングジャーナル 10月号(1969年9月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 スピーカー・システムの傑作が登場した。クライスラーCE1acがそ だ。最近の音響製品の中で、注目すべき商品だと思う。このスピーカー・システムを初めて見る時、まず、そのかっこよさに目を奪われるだろう。そのかっこよさは表面だけのものでは決してなく、細部に至るまで、ものを創る人の細かい神経と愛情の通った入念な仕上による本物のかっこよさなのである。サランネットをつけないで裸で使う時のことを考えて、バッフル板の表面は美しく仕上げられ、紗をかけられたオリーブ色のウーハーを基調にメカニカルな美しさに満ちたデザインである。サランネットといえば、これが色ちがいが3枚も付属していて部屋や好みに応じて選択できるようになっているのも心憎いかぎりだ。しかし、このサランの色は私個人としてはどれもあまり感心しないもので、このシステムはサランをはずして裸で使うのがベストである。音質上もそのほうが断然よろしい。ウーハーの周囲はレザー張り、上半分は艶消し黒色仕上げで、2個のアッテネ一夕ーを中心に美しいレター・プリントが施されている。後面には、チャンネル・システム用のダイレクト・インプットとネットワーク使用の2種のインプットが美しく並び、その切換スイッチもターミナルも上等だ。オーディオ機械作りのアマチュアリズムとプロ精神が見事に調和した作品という雰囲気が溢れている。
 さて肝心の音だが、これだけの入念な外装仕上げをする心が音をおろそかにする筈はない。真に美しい外観というものは機能を象徴するものであるし、本来、メカニズムのデザインというものは、そうしたものでなければならない。このCE1acの音のまとめには、クライスラーのスタッフはALTECをモデルにしたといっている。ウェスターン・エレクトリック時代からの澄んでのびやかな音の流れをくんでいるアルテックのシステムの本領は大型ホーン・システムによるのだが、その音を、小型ブックシェルフで追求しようという、まことに虫のよいぜいたくな欲求から、このスピーカー・システムは生れたのである。したがって、音質はアルテック系の大型システムのもつ、抜けのよさを狙いながら、システムの構造は、ARをモデルにしている。そもそも、アメリカにおけるアルテックとARという両者は、互いに大変意識し合っているライバル同志で、そのセオリーの点で、また、音質の点でも、対照的な存在である。一言にしていえば、アルテックの音は先程から何度も書いたが、透明である。ARの音は締って無駄がない。このCE1acは、構造的にアコースティック・サスペンションの完全密閉型、つまリAR型も採用しているので、その低音域の充実した締りはこのタイプ共通のものをもっている。そしてバランス的には、中音域から高城にかけての抜けがよいので、たしかにアルテックに共通したキャラクターなのだ。SJ試聴室では、アルテックのA7システム(箱は同社設計の国産だ)を標準システムとしておいてあるが、これと切換えてみて、その音域バランスにはかなり似通った個性を認めた。また、私個人、自宅でゆっくり試聴する機会にも恵まれたが、標準になるバランスをもちながら、音に味があってアトラクティヴである。周波数特性だけフラットなシステムには、時として音の生命感のない、つまらないものが多いが、このシステムには個性があって音楽が生きるのである。29、900円という価格とのバランス上からも価値のある商品であると思う。さんざんほめそやしたが、かといって、さらに欲をいえばいえなくもない。高域の甘美な味わいがもっとソリッドで品位の高い音になればなおよい。とにかくこの製品は、最近のヒット商品とするに足るすばらしいもので、私の録音したレコードも録音した当人として納得のできるバランスて、しかも音楽の生命溢れる再生が聴かれたことをつけ加えておこう。

マイクロ VF-3100/e

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 適度に柔らかく、しかもハイ・エンドを僅かに強調してシャープさも盛り込んだといった作り方のようで、強い個性はないが無難なカートリッジという印象である。ツァラトゥストラの冒頭のオルガンが少々軽く聴こえること。音の奥行きや厚みに、やや欠けること。フォルティシモで幾らか音が荒れ気味になることなど、細かくあげればいろいろあるが平均的な水準あたりでうまくまとめられた製品のようだ。弦合奏や声は、ややハスキーで冷たい傾向だが、ジャズやムードの立体感や奥行きがわりあいよく出て楽しめる。ピアノは、タッチが多少重く粘るが、重量感がもう少しあっていい。スクラッチは、ハイ・エンドでいくぶんシリつく傾向がある。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:90

オーディオテクニカ AT-21X

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 トレーシングが安定しているらしく、針の浮く感じやビリつく傾向はほとんど無いが、音のバランスにやや難点があって、中域に僅かながら圧迫感があり、高域はなだらかに下降しているらしく華やかさとか繊細感が、もう少し欲しいような音質である。音源が遠くやや平面的で、総じて明るさが不足しているが、ムード音楽のギターの音は温かく、弦合奏は柔らかく耳あたりがいい。ピアノや打楽器は、タッチがやや重く、音離れに不満がある。オーケストラは重低音が割合豊かだが、中域の厚みがもっと欲しいし、フォルティシモは飽和的になる。ヴェルディの大合唱は、フォルティシモでも音の分離が明瞭で、音も充実しているが、やはり音源がやや遠い印象である。

オーケストラ:☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:75
コストパフォーマンス:85

ピカリング V15/AM-3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 ワイドレンジという感じの音ではなく、中~高音域の上の方に多少張りを持たせてハイ・エンドをカットしたような、おそらく中級品らしい音づくりだが、腰の強い明るい音が身上のようである。音の拡がりがよく出て奥行きもあり、分離も切れ込みも一応よく、低域にも適度の厚さがある。ピアノ・ソロでは、一種ふてぶてしいような張りがあって、引き締った腰の強い音を再生する。弦合奏のユニゾンでは何となく安っぽさが感じられる一方、妙につやのある音が印象に残るが、ヴェルディあたりになると、バランスの悪さや歪みっぽさが出てきて、さすがに欠点を露呈してしまう。華やかさ、明るさ、独特の拡がりに特徴がある。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:95

グレース F-21

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 おそろしく元気のいい音を持ったカートリッジで、低域に独特の量感があるし、中高域もかなり強調されていて、明るい派手な音を聴かせるが、音のキメが相当荒いことや、個性の強いキャラクターが全体のバランスをわずかながらくずしてしまっているという点で、今回テストした中では異色的な製品だった。逆カマボコ型に近い音質なので、華やかだが硬質のドライなタッチになり、ロスアンヘレスの声が別人のようにハスキーに聴こえるのはおもしろい。レクィエムもすばらしく威勢がいいし、モダンジャズも圧倒的迫力だ。スクラッチノイズまでが大きく勇ましい。音ぜんたいが、いかにも若さにまかせて走りまわっているような、ある種の逞しさに溢れている。

オーケストラ:☆☆★
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆★
ジャズ:☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆★
総合評価:55
コストパフォーマンス:65

東京サウンド STC-10E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 とりたてて欠点もないかわりに、素晴らしいという魅力もあまりない。総体にぼってりと重い音で、軽快さに欠けるが、かといって奥行きや厚みのあるという音でもなく、何となく水っぽい酒のような印象だ。弦合奏のユニゾンが割合美しいし(ただし高域の繊細感が物足りなかった)、ロスアンヘレスの声が温かく聴ける。ヴェルディのレクィエムも、ドンシャリ的にならず安定だが、内声部の充実感にやや欠けて、男声の魅力が不足していたのは他の多くのカートリッジ同様である。ピアノやジャズでは、タッチが重くなるものの丸味のあるウォームトーンが聴き易い。無難だが、いま一つ魅力に欠けるという音だ。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:95

パイオニア PC-15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 ブラインドテストNo.37(パイオニア PC20)の音にもう少し腰の強さが加わったような音質だが、中域が多少かたく、音が重い感じになる。ジャズの迫力では、リファレンス・カートリッジ(シュアーM75)によく似た、中域のしっかりした厚みがあり、ムードもバランスよくおもしろく聴かせる。
 弦合奏では中域の張りがいくぶん耳ざわりだが、ハーモニーがよく溶け合うし適度につやもある。ヴェルディでも中高域の張り出す感じはあるが、フォルティシモでも歪みがわりあい少ない、男声の美しい、明るいバランスの良い音である。ロスアンヘレスの声は、しかしやや品を欠き、ピアノ・ソロもタッチが硬く重く粘る。スクラッチノイズは少ない方だが、ややよごれ気味で多少耳につき、高域のしゃくれ上がったような音である。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:90

オーディオテクニカ AT-VM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 総体に、やや重くダークな音で、音の切れ込みの良さとか音離れの点に多少の不満が残るが、柔らかくバランスの良い音質で、欠点の少ないカートリッジである。スクラッチもよく抑えられて、高域にピーク性の危なげな音も感じられない。ただ、どのレコードの場合にも、楽器がやや遠のく印象で、ソフトタッチの音になる。激しさを求める向きには敬遠されそうだが、耳当りのよさをとるべきだろう。オーケストラや弦合奏では、、弦楽器のみずみずしさがもっと欲しい気がするし、声もややドライでタッチがコロコロして輪郭が明瞭だが、強打音ではやや音離れが悪くなる傾向がある。ソフトムードというところで好みが分かれそうだ。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:95

マイクロ M-2100/5

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 中低域にややふくらみを持たせた温色系の音に特長がある。特別に素晴らしいという音ではないにしても、バランス良く、柔らかく、上手にまとめられた製品と思われる。ジャズの低域が豊かで(もう少し締まりは欲しいが)臨場感があるし、独唱も合唱も、声と楽器のコントラストが表現されて距離感がよく出る。大編成のフォルティシモでも飽和した感じがなく音がよく伸びるが、音源がやや遠のいた印象になり、どういうわけか高域が幾分上がり気味に聴こえる。このカートリッジの弱点はピアノにあるようで、音が平面的で打鍵ONが少々安っぽくなるし、楽器のスケールがやや小型になる。スクラッチノイズが多少ジャリつく感じなのと、レコード外周の反りに弱くフラッター気味になりやすい。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:100

テストを終えて

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 39個というと多いみたいに思えても、いまわが家でいつでも鳴る形にシェルにマウントしてあるカートリッジが間もなく80個になろうとしているありさまだから、その大半は一度は耳にしている筈で、今回はじめて聴く製品は数種類しかないわけだけれど、ブラインドで銘柄を想像できたのは10個にも満たなかった。いくら音が違うといったところで、カートリッジの差というものは、たとえてみれば、同じメーカーのスピーカーでせいぜい1ランクちがいの音の差ていどが、カートリッジでいえばピンからキリまでぐらいの差にあたるといった程度で、そういうこまかな差を文字に書き表わすと、どうしても新聞を虫メガネでたどるように、写真の網点や活字のニジミがことさら誇張されるといった感をまぬがれ得ない。
 また一方、レコードあってのカートリッジの音ということを考えると、スピーカーが部屋や置き場所によってガラリと音質が変わるようにひとつのカートリッジの評価が、レコードによって、かわることは当然といえる。その点、今回テスト用として選ばれたレコードは、カートリッジのテスト用としては、どちらかというとカートリッジのかくれた欠点をえぐり出すというソースでなかったから、結果としては、ずいぶん点数が甘くなっていると思う。少なくとも、わたくし個人が対象にしている室内楽や器楽曲、声楽曲のとくに欧州系の凝ったレコードを再生したら、またいわゆる優秀録音ではないSPからのダビングものや年代の古い録音を再生したら、もっと辛い評価になったろうとも思う。加えて、カートリッジという商品は承知のように一個ごとの製品ムラがあるし、室温やその他の外的条件による適性針圧のちがい、負荷のちがい、またMC型ではトランスやヘッドアンプのキャラクターなど、さまざまの条件が複雑にからみあうので、カートリッジの本質を正しく掴もうとするなら、こういう短期間の比較にはもはや限界があるし、さらにつっこんで考えてみれば、ブラインドテストという方法に、根本的に無理があることに気がつく筈だ。
 実際の話、10号のスピーカー、今回のカートリッジと二回のブラインドテストを経験してみてわたくし自身は、目かくしテストそのものに、疑いを抱かざるをえなくなった(本誌のメンバーも同意見とのことだ)。目かくしテストは、一対比較のようなときには、先入観をとり除くによいかもしれないが、何十個というそれぞれに個性を持った商品を評価するには、決して最良の手段とはいい難い。むろん音を聴くことがオーディオパーツの目的である以上、音が悪くては話にならないが、逆に音さえ良ければそれでよいというわけのものでは決してありえなくてカートリッジに限っていってもいくら採点の点数が良かろうが、実際の製品を手にとってみれば、まかりまちがってもこんなツラがまえのカートリッジに、自分の大事なディスクを引掻いてもらいたくない、と思う製品が必ずあるもので、そういうところがオーディオ道楽の大切なところなのだ。少なくとも、ひとつの「もの」は、形や色や大きさや重さや、手ざわりや匂いや音すべてを内包して存在し、人間はそのすべてを一瞬に感知して「もの」の良否を判断しているので、その一面の特性だけを切離して評価すべきものでは決してありえない。あらゆる特性を総合的に感知できるのが人間の能力なので、それがなければ測定器と同じだろう。そういう総合能力を最高に発揮できるもののひとつがオーディオという道楽にほかならない。
 この原稿を渡した後で、コスト・パフォーマンスの点数を入れるために、価格を知らせてもらうわけで、とうぜん製品の推測もつくことになるが、どういう結果が出ようが、わたくしとしては右に書いた次第で、あくまでも今回与えられた条件の中で採点したにすぎず、この採点は商品としてのカートリッジの評価とは必ずしも結びつかないことをお断りしておきたい。

ビクター IM-10S

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 ブラインドテストNo.27(ピカリング V15/AM3)あたりと一脈通じる、中域から低域の厚い特徴のある音質だ。高域の特性があまり延びていない印象で、そのためか音が重い傾向だが、中低域の豊かさをとるべき音なのだろう。しかしスクラッチノイズの性質は、スペクトラムが低く楽音にまつわりつく感じで、多少耳ざわりである。ピアノのソロは中域の厚みと高域の丸さのために腰のつよい太い音質になるが、ジャズではこの強さが好ましい。ロスアンヘレスの声が明るく、伴奏との距離感の出るのもよい。弦合奏もよくハモる。しかしやはりヴェルディあたりになると、強奏で何となく安っぽいハイファイ調になり、音ばなれのよくないところが気になってしまうあたり、中級品と思われる音質である。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

スペックスSD-700 LaboratoryII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 わりあいに腰の強い、ホットな音質を持ったカートリッジで、多少品格に欠けるが一種のふてぶてしさを持った、中高域に張りのある音質は独特である。オーケストラではバランスよく、低域も充分出て、音の奥行きも立体感もなかなかよく出るが、フォルティシモではやや混濁気味で、強奏の際の伸びと分離に多少難点が残る。ピアノは、タッチが明瞭だが、ややこもり気味のところがある。弦合奏は特に難は無いというものの、中高域に幾らか圧迫感がある。ロスアンヘレスの声にもそういう印象が付きまとうし、ヴェルディも強奏部でやや荒くなる。しかし、ジャズやムードではダイナミックな近接感を伴って厚みのある楽しめる音を再生する。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

ADC ADC25

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 ピーク性の危なげな音が全然感じられないが、中域の盛り上がったカマボコ型の特性らしい。ピアノや打楽器の音がよく張り出して、やや派手だがピアノのタッチは軽く粒が立ち、適度の厚味を持ってしかも細かく、音が明るい。しかし、「ツァラトゥストラ」や「レクィエム」では、やや抑制を欠いて押しつけがましく、野放図に唱うといった印象がやや安手で品のない音になりやすいが、ジャズでは楽器が近接してある種の生なましさを再現する。フォルティシモでも音がつぶれずによく伸びる。ただ反ったレコードで何となくフラッター気味になるのは、針の支持の柔らかすぎのようで、トレースに不安定なところがありそうだ。スクラッチノイズは、ややスペクトラムが低く、楽音との分離がよくない。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

EMT TSD15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 いくらブラインド・テストでも、自分が毎日常用しているカートリッジぐらいは、見当がつこうというものだ。最初のスクラッチノイズを聴いただけで、これはEMTだと判ってしまったので、試聴記にも先入観が入ってしまうし、なにしろ目下惚れっぱなしの製品だけに欠点が書きにくい。まあ強いて難点をあげれば効果だし入手しにくいし、割合に寿命が短いし、しかも針交換が高価につくということで、決して万人にすすめるべき製品ではないし、いささか深情けの過ぎるような音質は、もっとリラックスして、カラリとドライに楽しみたいという人には毛嫌いされるにちがいない。つまり決して万能型のカートリッジでもなく無色でもない、かなりアクの強い音質だと思う。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆☆
総合評価:100
コストパフォーマンス:85