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ラックス 25C44

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 高域にわずかに強調感があって、たとえばNo.29ににたような安っぽさが多少残る点が気になったが、どんなレコードをかけても一応ソツなく聴かせる適応性の広さを買って特選にした。組み合わせるアンプやカートリッジに、高域のおとなしいものを選ぶと、総体に質の良い再生をしてくれるだろう。

テスト番号No.13[特選]

JBL Lancer 44

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 中域が張り出す傾向が、多少硬めであるが、総体には音の質がなかなか良く、楽器のひとつひとつの音像がくっきりと浮き彫りにされる印象である。音量の大小にかかわらず、音色がほとんど変わらない点は見事である。弱音の解像力もなかなか良い。中域から高域にかけての独特の音色には、好き嫌いがありそうだ。

テスト番号No.3[特選]

ブラインド試聴者の立場から

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 50機種のスピーカー・システムをブラインドで聴いてチェックするという、無茶苦茶な難行苦行をやらされた。なんとも物凄いテストで、どこから手をつけていいかといった状態が何度もあった。単独でのクオリティ・チェックと、相互の比較試聴を限られた時間内でおこなうのだから楽ではない。比較試聴などでは、隣合わせの10種類ぐらいが限度ではないかと思う。1・2・3と比較していって20ぐらいになれば1、2はごちゃごちゃになってしまう。
 そこで、元へもどっていると、今度は先を忘れてしまうという、ていたらくであった。そこで何日かのデーターをそろえて総合して判定したわけだが、とにかく疲労困憊の仕事だった。それにしても、いろんな音のスピーカーがあるもので、興味深くあきれたことだった。

■試聴テストのポイント
 これほど多くのスピーカー・システムを瞬時切換して聴く場合には、条件として実に困難な問題が起ってくる。つまり、すべてのスピーカーを同条件化で鳴らし、しかも、同条件の聴き方をすることの難しさは、テストにとって大切な問題なので初めにこれについて私の考えを述べておくことにする。
 スピーカーが設置場所によって大きくその再生音にちがいが出ることは周知のことだ。そして50機種を一つの室内の同じ場所に置くことは神さまでも無理だ。そこで、私の場合、配置を三回変更した状態で聴いて総合して判定したが、なおかつ、部屋とその場所による音質傾向を私自身の頭の中で適宜補整して聴いたつもりだ。次に能率の差だが、これはその都度ボリュームをコントロールして感覚的にはそろえて聴いた。また、極度によく聴こえたり、その逆に悪く聴えたものについては特に時間をかけて数多くの比較確認をおこなった。プログラム・ソースは試聴に際して用意されたものと私自身の愛聴盤を併用した。
 さて、このような配慮をしても、それはもとより、ほんのわずかなコントロールにすぎず、問題の解決にはほとんど役立たないだろう。この試聴テスト・リポートは、あくまで、この条件下におけるものとして受取っていただかないと問題が残ると思う。
 だが、こうした条件下で試聴した時に、いくつかの着眼点ならぬ着耳点があるが、それについてここに書いておくので、採点表、ならびに各スピーカー・システムについてのメモと照合して判断していただきたい。
 第一のポイントはバランスである。これは単に周波数特性の問題ではないが結果的には再生周波数の凹凸、分布の平均性ということで、プログラム・ソースの音楽的情報がスピーカーからいかなる感覚的エネルギー・バランスで再生されるかということである。私にはあらゆる音響器材の諸特性の中で、このバランスを第一に考える。それだけに置き場所のちがいの条件は厳しかった。派ランスは音色と連なると思う。
 第二にクオリティ。音質である。これは、周波数特性のパターンなどで左右されない本質的な性格、いわば、金物が鳴るか、木が鳴るかという類のものだ。振動系の質量、コンプライアンス、材質、磁気回路、箱の性質など多くのファクターによって出来上るクオリティなのだろうが、これはスピーカーの特性になかなか現われない大事な要素だと思っている。勿論、測定に現われる諸歪みによっても大きく影響を受けるものだろうが、この辺のところは専門家に聴いても明確ではない。興味の的である。
 第三が左右のペアで聴いた時のプレゼンス。スピーカーとしては指向特性による影響の最も大きいファクターである。これも、位置関係が鋭く関係するので、あまり今回の試聴では重点をおかなかった。
 音の分解能、抜け、ダンピングなどといった細かい特徴はすべて、これらのポイントに含まれると思う。今回テストの対象にできなかった重要な特徴として、音量に関するものがある。小音量と大音量の音量のちがい、入力特性などについての細かい聴感試聴は残念ながら能力的にも時間的にも余裕がなかった。勿論、ブックシェルフの性格上ある程度のパワーを入れるべきもののあることなどは充分考慮して試聴したつもりである。

ブックシェルフ型スピーカーのタイプと原理

井上卓也

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

50機種を分類する
 ブックシェルフ型と呼ばれるように本棚に載るくらいの小型ながら、大型スピーカーシステムと十分比較できるくらいの低音を再生する製品が実用化されはじめたのは、やはり45/45方式の2チャンネル・ステレオディスクの開発によって2台のスピーカーシステムが必要になった、時代の要求からであろう。
 もちろん、それまでにもスピーカーシステムの小型化の試みはされていたが、なかなか実用化はできず、音響技術者にとっては、彼岸にも似たものだった。それが米AR社のアコースティック・サスペンション方式の開発から端を発して、今日のブックシェルフ時代に至っている。
 このARの開発以来、今日まで、すでに15年余りの年月が経過しているが、ブックシェルフ型が実用期に入るまでには、スピーカーユニット自体の進歩もさることながら、トランジスターアンプがちょうど足並を揃えて開発され、今日のように比較的容易にハイパワーアンプが入手できるようになったことも、ブックシェルフ型の普及に大きな役割を果したことも見逃せない。
コーラルがわが国初めてのブックシェルフ型を完成
 ARでAR1発表後、しばらくして日本でもブックシェルフ型が製作された。主として輸出用として開発されたものらしいが、25cmウーファーをベースとした2ウェイシステムだった。
 比較的小口径のウーファーで、低域まで再生するには、当然コーンの大振幅が要求される。この要求を満たすための一部として、ボイスコイルの巻幅を、ヨークの厚みより長くしたロングボイスコイルが使われるため、能率が急激に低下する。この能率低下を防ぐために、強力な磁気回路をもたせるわけであるが、それでもなお能率の悪化はさけられないのが普通である。
 スピーカーの能率の悪いものは、アンプの方でカバーすることが必要となってくるが、コーラルのブックシェルフ型が発売された頃は、真空管アンプ全盛であり、パワーの小さいアンプはほとんどであったため、国内で目の目を見なかったことを思い出されるファンも少なくないだろう。
主流となったブックシェルフ型
 この頃のブックシェルフ型スピーカーシステムの能率の悪さが語りつがれて、いまだにブックシェルフ型は能率が悪いとか、インスタントコーヒーのように、間に合わせ的に思われているのはあたらないとおもう。
 現在のブックシェルフ型スピーカーシステムは、今回の50機種テストに立ち合った感想からも、能率の改善とトランジスターアンプのハイパワー化の相乗作用??で、住宅事情の悪いわが国で主流を占めるまでに成長しているのが感じられた。

テスト機種をタイプ別に分類する
 今回のブラインドテストのために集められた50機種を中心にして、ブックシェルフ型の分類をしてみたい。
 もっとも大きく分類すると、
1 密閉型エンクロージュア
2 バスレフ型エンクロージュア
3 後面開放型エンクロージュア
 の三種類になる。
 さらに50機種を細かく分類すると
1 密閉型
 A密閉型(8機種)
 B完全密閉型(19機種)
2 バスレフレックス(通称バスレフ型)
 Aダクトをもたないバスレフ型(2機種)
 B角型ダクトをもつバスレフ型(3機種)
 Cパイプダクトをもつバスレフ型(6機種)
 D複数個のパイプダクトをもつバスレフ型(1機種)
 E複数個のダンプしたパイプダクトをもつバスレフ型(3機種)
 Fダンプしたパイプダクトをもつバスレフ型(2機種)
 Gダンプド・バスレフ型(1機種)
 Hドロンコーンをもつバスレフ型(4機種)
3 後面開放型(1機種) 計50機種

分類したシステムの解説
■密閉型
 ここで密閉型を完全密閉型と密閉型に分類したが、単なる密閉型とは、一機種を除いて取り外しのできる裏板とエンクロージュア本体との接合面に、空気もれを防ぐためのパッキング材が使われていないものにした。完全密閉型とは、ほぼ完全に空気もれを防いでいるエアタイトなシステムをいう。
 ブックシェルフ型に多くみられるロングボイスコイル型と呼ばれる大振幅に耐えられるユニットは、能率の低下を補うために強力な磁気回路をもっている。これらのユニットは小型の密閉型エンクロージュアに入れても十分な低音が再生できるが、ただ、専用ウーファーの大振幅動作時に生ずる強大な音圧に耐えるため、極めて丈夫に作らなければならない。この辺の問題については前項の岡氏の記事に詳しいので参照されるとよい。
密閉型エンクロージュア
 完全なエアタイト型でなく、エンクロージュアの裏板が取り外せるようになっており、一枚の吸音材がエンクロージュアの側面四面と裏板に張られている普通の密閉型エンクロージュア。
完全密閉型エンクロージュア
 エンクロージュアの各面を糊などで固着した後に、バッフル板前面からスピーカーユニットが取りつけられて、ほぼエアタイトな状態にあり、内部が計算などで決められた適量の吸音材で満たされたもの。
■バスレフ型
 バスレフ型エンクロージュアは、密閉型エンクロージュアにスピーカーを取りつける開口以外の低音共振用の筒を取りつけたものである。現在の進歩したスピーカーユニットでは、バスレフ型本来の特徴である低域再生周波数を伸ばすことや低域の歪みの減少などに生かされ、今日のエンクロージュアの標準的なものとなっている。
 この型はスピーカー後面から放射される逆相の音は、中音以上がエンクロージュア内部で衰えて、低音だけが内部の空気のバネと、内部と外気をつなぐダクト内部と付近の空気の質量で位相を反転し、スピーカー前面から直接出る低音を補う動作をする。
 密閉型が低域に向かってゆるやかに下がるレスポンスをもち、かなり低い周波数まで再生できるのに比較して、このバスレフ型では再生可能な最低周波数では劣るが、ある周波数までは、ほぼフラットに再生できる。
Aダクトをもたないバスレフ型
 スピーカーの開口面積に比べて小さい開口の丸孔をもったもので、動作上ではバスレフ型の特徴は少なく、スピーカーコーン紙にかかるエンクロージュア内部の背圧を逃がすための効果の方が大きいとおもわれるが、外観上の点からバスレフ型の分類に加えた。
B角型パイプダクトをもつバスレフ型
 木製の角型パイプダクトをもったエンクロージュアで、最近までは、一般にバスレフ型といえば、ほとんどが、このタイプのエンクロージュアであった。バスレフ型エンクロージュアのスタンダードともいえるタイプ。
Cパイプダクトをもつバスレフ型
 ブックシェルフ型スピーカーではじめて使われたように思われるが、大型スピーカーシステムでは、早くからYLの製品に見られた。合成樹脂製の丸いパイプをダクトに使ったエンクロージュアでバスレフ型としての動作は角型パイプダクトをもつものと同じである。
D複数個のパイプダクトをもつバスレフ型
 二本以上の合成樹脂製のパイプダクトをもつもので、今回のテストで見られたものは同じ寸法のパイプを二本使った製品があった。
 動作は二倍の面積をもったパイプ一本と、ほぼ同じものと思われる。
E複数個のダンプしたパイプダクトをもつバスレフ型
 複数個のパイプダクトをもつタイプと同じことであるが、パイプ内部にダンプ用の吸音材がシリンダーにたいするピストンのようにつめられている密閉型とバスレフ型の中間的動作と思われる。
Fダンプしたパイプダクトをもつバスレフ型
 パイプダクト内壁に吸音材が巻かれてあったがHよりはバスレフ型本来の動作に近いものに思われる。
G ダンプドバスレフ型
 EFがパイプダクト内部に吸音材を使ってダンプしてあるのに比べて、エンクロージュア内部に余分な量の吸音材がつめられているのが異なり、動作は、やはり密閉型とバスレフ型の中間的動作である。
Hドロンコーンをもつバスレフ型
 ダクトでなくボイスコイルと磁気回路を外したスピーカーが代りに取りつけられている一種のバスレフ型である。ダクトをもつものに比べて低域共振周波数付近だけでなくピストン運動の範囲内での改善ができるタイプ。
■後面開放型
 スピーカーのバッフルは、無限大バッフルが理想的だが、よほど条件に恵まれない限り実際に使うことは不可能である。スピーカーの初期には小型の平面バッフルを家庭用などにも使っていたが、次いで平面バッフルの周囲を折り曲げたような形を下後面開放型エンクロージュアが使われ始めた。その形状からくる、強度な共鳴音が固有の低音を作り出す効果がある。
 HIFI用スピーカーシステムとしては、ほとんど使われることがないが、特に超大口径のウーファーとか広い面積の振動板をもつ平面型スピーカーと併用されることがある。
 一般に薄型の製品が多いが、これは奥行きを深くすると後面開放型に独特の特定周波数の低域共振がおこり、低音の品位を悪くするためである。
 今回のテスト機種の中では、特異な振動板をもつヤマハNS15が一機種あったが、本来のブックシェルフ型とは少し異なるものである。

 今回のテストに集められた50機種の分類は上記のように3つのタイプになるが、まだこの他にブックシェルフ型として使うことのできるエンクロージュアがある。これらは以前から小型エンクロージュアで、いかにして十分な低音を再生するかという目的で開発されたものである。
(イ)RJ型エンクロージュア(ワーフデールで製品化したもので、レモン型の開口をもった前面バッフルとその後部にスピーカーユニットをとりつけるバッフルの二重式になったもの)
(ロ)音響迷路型(ラビリンス型)エンクロージュア
(ハ)バックローディング・ホーン型エンクロージュア
(ニ)ディストリビューテッド・ポート型エンクロージュア
(ホ)アコースティック・レジスタンス型(ARU型)エンクロージュア
(ヘ)複合駆動型エンクロージュア(エンクロージュアの実効的容積を増すために、密閉型エンクロージュアの中に、メインスピーカーともう一つのサブスピーカーを取りつけ補助的に駆動する方式)
(ト)複数個の同じ小口径スピーカーを使った密閉型またはバスレフ型エンクロージュア
 ほぼ以上の如くであるが、ここで密閉型エンクロージュアで加えておかなければならないことがある。ARで開発されたアコースティック・サスペンション方式と類似の方式がLPの初期にすでにわが国でも考案されていたことである。
 これはオーディオ歴のあるファンなら誰でも知っていることだろうが、オルソンの「音響工学」の訳者として知られる東京工大の西巻氏が提唱した、「フラフラ型6半」のスピーカーシステムである。
 息を吹きかけるとコーン紙が動くくらいf0を下げた16cm型スピーカーを小型の密閉型エンクロージュアに入れて使う方式で、当時の大口径ウーファーに比較して、軽く伸びのある低音が再生できるため、HiFiファンに当時大いにもてはやされたものである。
 もちろんボイスコイルを巻きなおしてロングボイスにするのが正しい使い方なのだが、一般には従来のままのボイスコイルが使われていた。これを製品化したのが有名なミューズSF6Pという鹿皮エッジの16cmスピーカーである。
 この西巻氏の発想が、実際のエンクロージュアまでを含めた製品に発展することがなく、埋もれてしまったのは、ブックシェルフ全盛のいま、かえすがえすも残念に思われる。

ブラインドテストに立会って
 今回50機種のブックシェルフ型システムのブラインドテストに立会って感じたことだが、この一年余りの期間に国産ブックシェルフのグレードが、かなり向上し、輸入高額品との格差が少なくなってきたことである。
 テストの標準機種にしたAR3aの数分の一の国産製品がおや!! と思わせるくらいの高品位の再生音を聴かせてくれたものもあり、このことは非常に嬉しいことである。中でも、価格的制約の中で、スピーカーメーカーから供給されるユニットを使いながら、かなりグレードの高い製品を送り出しているメーカーの健斗をたたえたい。
 しかし、各氏のブラインドテストの結果では、輸入品が比較的良い点数を得た。選ばれたポイントがどこにあったかということがこの際大きい意味をもつとおもうが、それは、海外製品の安価なシステムでさえ、音楽再生をする上に必要な点をうまくおさえているのを認めないわけにはゆかない。これは、周波数特性だとか、歪特性だとかの物理的なものからさらに上の問題もあろうが、設計製作する彼等の音楽との触れ合いに歴史があること、製品開発のデーターの蓄積の多いことは当然考えられよう。
 加えて海外製品の多くに見られるのは、必要なところにはおしげもなく物量を投じる姿勢である。ユニット一つをみてもそれは立証される。
 海外製品は価格が高いから当然といえばそれまでだが、今後国内メーカーに望みたいことは、高級な海外製品に匹敵するブックシェルフ型を開発してもらいたいことである。そのためには、最初から十分な物量を投じたブックシェルフ専用のユニットから開発し、システムにまとめ上げてもらいたい。例えば日立HS500、あるいはパイオニアCS10に代表される製品の開発である。
 それらの製品が国内に出揃った時にこそ、初めて輸入品にない、本来あるべき日本の音が創り出されるとおもうし、またそれが、音響専門メーカーとしては当然のあり方ではなかろうか。
 従来、とかくブックシェルフ型というと、高級マニアから軽視され勝ちであったが、比較的小さな部屋で使うことの多いわが国の事情では、今後とも、ブックシェルフ型がスピーカーシステムの主流となることは疑う余地はない。

アコースティックリサーチ AR-3a

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 このスピーカーは、まずバランスが申し分なく、次に音色が艶やかで滑らかだ。聴き馴れたレコードの感じな情報は全て再生され、余計な音は出てこないという印象で、端正なイメージである。オーケストラの迫力、ジャズのガッツがもう一つ物足りないが、室内楽やヴォーカルのキメの細かさ、柔らかさは大変品位が高く魅力的であった。やや抜けの悪いのが不満といえばいえなくもないが、暴れのない点では比類がない。

トリオ・ボザーク B-313

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 大変キャラクターの濃いスピーカーだ。重く厚い低域、引き締まった控え目な中音、高質の高音、それらが一つとなって再生する音はマッシヴで重厚な安定感がある。しかし、私の好みからすると、いかにも明るさと軽やかさが即し、デリカシーとニュアンスの再現に難がある。全体にダンプされ過ぎた感じで、特に中音域のふくよかさ、陰影といった点で不満があった。シェリー・マンのブラッシングのピアニッシモはどこかへ消えた。

アコースティックリサーチ AR-5

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 クオリティは引き締った音で品位は高いが、抜けが悪く低音の上のほうからかぶり気味でこもる。バランスはよくとれていて、プログラム・ソースのシェイプがくずれることはない。低い能率でもあるし、かなりハイ・パワーでドライヴすると抜けの悪さもカヴァーされてくる。また、高域のエネルギー不足感じられ、質が良いだけに残念な気がした。使用条件をととのえれば、まだまだ高い性能を発揮するようにも思える。

JBL Lancer 77

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 私にはもっともぴったりきたシステムで、今回の試聴器中では最右翼に置きたいもの。明るく、よく抜けながら、音質が安っぽくなく解像力も優れている。プレゼンスも豊かでオーケストラのかもし出す音響空間もよく再現された。バランスの点でも中域がやや強い感じはあるがよくまとまっている。しかし、ジャズの再生で、中音が平板な感じで深みが足りないのが不満として感じられた。ピアノの打音の立上がりもよく大変好ましい音であった。

アルテック Lido

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 全体のバランスはよくとれているが、ややハイ不足で、どこか位相歪みのような不自然な部分(中低域)があり、音がのびきらない。しかし、締まったソリッドな音色は印象的で、ピアノなどの衝撃音には腰の強い引きしまった再生音が得られた。こうした傾向はジャズの再生により好適で、オン・セットのリアルなベースの再現は大変鮮やか。音像のイメージも明解である。どちらかというと全体に平均した周波数分布をもつソースでアラがでる。

Lo-D HS-500

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 実にのびのびとして弾力性のあるベースの音。澄んでいて丸味がある。まず、それが印象に残った。中域から高域への連続性に音色的にうまくつながらないところがあって、高音域が、やや冷たい。全体にマッシヴでソリッドなハイ・クオリティをもっているだけに、中域にもう一つ充実感が欲しいと思う。その辺がスムースになれば極めて高度なシステムといえるだろう。それにしてもジョージ・デュビビエのベースの美しさが印象的だった。

JBL Lancer 44

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 大変力強い音質だが、少々気になる響きが中域につきまとう。また、ごく低いほうののびもやや、ふやけた感じで不満だった。しかし、中音域あたりのマッシヴなクオリティは強固な音のイメージをもち、非常に聴きごたえのある音である。オーケストラは迫力のある再現だが、やや、きめが荒く、室内楽ではそれがやや仇となる。ジャズではガッツのある再生音が効果的だが、やっぱり、のびと抜けの点ではもう一つ不満が残った。

タンノイ IIILZ MKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 大変ソリッドでしまった音である。軽やかさや繊細さという点で、室内楽のデリカシーをもったソースには欲をいう余地はあるが、このまとまりとクオリティの高さは立派である。かなり品位の高いスピーカーだと思う。オーケストラとジャズにもっとも安定した再生を聴かせ危なげない。欲をいうと高域の解像力というかデリカシーというか、そうしたキメの細かさが加わって欲しいとこで、そうなれば文句なしのシステムである。

アコースティックリサーチ AR-3a

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 これだけはあらかじめAR3aと知らされていたが、かりに名前を伏せてあったとしても、この特徴ある音は、容易に聴き分けがつく。全体にやわらかくソフトフォーカスで、キリッとしたところが少ない。従ってポピュラー系の音楽を雰囲気的に楽しむにはよいが、クラシックでも室内楽やピアノなどの細かな陰影までを感じとろうというには無理がある。しかし、どんなレコードをかけても、楽器も声もすべてそれらしく、異質な音が少しもしない点、立派なものだ。全域にわたって、非常に質の良いなめらかな音を聴かせてくれる。このスピーカーは、小音量で鳴らすよりも、あるていどパワーを入れてやる方が、良い音質になる。

テスト番号No.1[特選]

アルテック BF419 Malaga

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 クオリティは大変高い音だと思う。締まっていて硬軟合わせもった緻密で腰のしっかりした音だ。しかし、高低域がのび切らず、レンジの狭さがなんとしても気になる。オーケストラの中でのオーボエなどのソロでは魅せられるほど素晴らしい音を聴かせてくれているのに、テュッティになるとバランスせずスケールがくずれる。ただし、ジャズにはマッシヴな中域がものをいって充実した再現が得られ迫力ある安定した再生音が得られた。驚異的な高能率。

パイオニア CS-10

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 中高域が、かぶり気味で、抜けが悪い印象だが、全体に質の緻密な再生音で、余計な音がうるさくなく、よくコントロールされた再生が得られる。低域は豊かであるが、これが中高域をマスクしているようにも感じられた。ベースのピツィカートはよくのび、丸味・弾力性に富み実感がある。これで中高域がよりマッシヴに、明澄になれば優れたシステムとなる。ピアノの中域の力と抜けが物足りなかった他は、よく制動されたシステムだと思う。

サンスイ SP-LE8T

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 解像力が大変よく、マッシヴで抜けのよい音はスケール感もある。ただし、高域ののびと繊細さにもう一つ不満があって、広い帯域のソースでは不満がでる。オーケストラの高域がまとまった響きとなって、浮き立たないし、高いハーモニックは十分に出きらない。パーカッシヴなソースには効果的で、ジャズには大変ぴったりしたキャラクターをもっていた。シンバルの打音もリアルだし、ガッツのある充実した中音域は力量感が豊かだ。

ADC 303A

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 低域が豊かに盛り上がり、量感はあるが、高域に冴えたのびがない。つまり、毛色の変った音色をもっている。どこか、ガサついた音で、さわやかさ、丸味、暖かさなどの快感が感じられない音で、どのレコードも味気のない再生音となるのが不思議であった。エコーとキャラコンでかなり個性的に仕上げられたポピュラー・レコードだけしか満足のゆくものではなかったという他はない。

ビクター BLA-E40

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 すっきりと端正なシェイプをもったバランスで、癖のない再生音が得られた。高音域の質がよくしなやかで柔らかい音色をもちながらよくのびている。中音域と低音域の間に抜けが感じられ、パンチの弱さとなっている。こうしたバランスはクラシックにはむしろ暴れのない再生音で美しいが、ジャズには弱さが出て迫力に欠ける嫌いがある。中音域の充実はジャズ再生の絶対の条件だといってもよいだろう。

ブラインドテスト実践方法

井上卓也

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 今回のブックシェルフ型スピーカーシステムのテスト方法は、私と編集部の間で慎重に検討した結果である。50機種というのは、わが国で発売されているブックシェルフ型のほぼ全部といえるくらいであるが、これだけ多くの機種をテストするということ自体、かなり無理があることは否定できない。しかし、音響製品全般についていえることだが、完全なテストというのは、実際にはありえないことである。
 例えば、スピーカーテストの場合、組み合わせるアンプやカートリッジの相性の問題、スピーカーを設置する部屋の問題、テストソースの問題、さらにはテストする人間のコンディションによる判定能力に差がでるという問題、等々……。数えあげればキリがない。
 それでは、機種を減らして厳密なテストを行なうか、という意見もあったが、テスター諸氏の確信のもてる範囲内で、やはり機種はなるべく多い方をとるべきであると考えたわけである。非常に数少ない機種を何回かにわけてテストするということは、その何回かにわたる回数が多ければ多いほど横のつながりが不明瞭になる。微妙な音質の差を頭脳に正しく長期間記録させることは、事実上不可能である。やはり、その場で短時間でもよいから相互比較をやる方がまず妥当といえよう。
 今回のテストでは、テスター一人当り約40時間をかけた。40時間といえば充分といえないまでも、一機種、約50分間を聴いたことになるわけだが、本誌のテストに常に参加される岡、菅野、瀬川、山中の四氏であるから責任のもてるテストができると判断した次第である。
     *
 今回のテストはステレオサウンド始まって以来の完全ブラインドホールドにして行なった。音質とか使いやすさだけでなく、デザイン等にも、大きくポイントを置く本誌にしては珍しいブラインドですとだが、純粋に音だけを評価するという意味ではもっとも妥当な方法だといえよう。オーディオ製品のテスト方の一つということで採用したわけである。
 以下にテスト方法について紹介しよう。

■試聴室
 今回のブラインドテストも、いつもの本誌試聴室で行なった。洋間の12畳で、床には二重にじゅうたんを敷き、側面はカーテンを張りつめた部屋である。部屋の残響は標準的な状態で、この試聴室のテスト結果が、例えば和室の場合と、もっとライブな洋間に大幅にかわるということはないと思われる。

■ブラインドの方法
 ブラインドの方法は前項写真の通り音質を損なうことのない音の透過のよい薄手のカーテンを張りつめ証明は50組のスピーカーシステムを切りかえるスイッチボックスと氏プ、プレーヤーの周辺のみ当てるようにした。従って、テスター諸氏には鳴っているスピーカーが何物かはいっさい不明の状態であった。

■テストスピーカーの切替え方法
 50機種のスヒーカーシステムの切替えは50コのスナップスイッチ(二機種双投型)を使った切替えボックスをつくり、標準アンプのJBL SA600プリメインアンプにつないだ。このスイッチボックスは、とかくハイパワーのアンプを要求しがちなブックシェルフ型だけに、できる限りスイッチの接触抵抗による出力低下とか、DF(ダンピングファクター)の変化をなくすため良質のスナップスイッチを使った。テストの状態では50組のシステムはいつでも、どの機種でも任意に選択肢鳴らせるようにした。
 各スナップスイッチには、①から㊿番までの番号が打ってあり、テスターはその番号によって採点することにした。

■標準スピーカーシステムにAR3aを使用
 これだけ多くのブラインドテストとなると、何か一つの基準がある方がテストがかなり楽になることはいうまでもない。そこで本誌がブックシェルフ型スピーカーシステムの標準機としてAR3aを選んで、あらかじめテスターに明示しておいた。

■テストは計160時間
 今回のブラインドテストでは、テスター同志の話合いをさけるためと、厳格な比較テストを実施してもらうため、岡、菅野、瀬川、山中の四氏に一人づつ四日間計十六日間にわたりテストを依頼した。短い人でも一日8時間、長い人では14時間くらいにおよび、一日平均して10時間としても、一人40時間、四人合計して160時間というもうれつなテストだった。もちろん、これで完全だとはいえないと思うが、四氏ともほぼ確信のもてる状態で音質評価をしてもらった。

■スピーカーの置き場所
 ブックシェルフ型スピーカーでは、システムを置く位置によって、その評価にかなり差のあることはよく知られている。そこで、各氏それぞれ四通りのスピーカー配置で試聴してもらった。たとえば、下段に置いたシステムはその次の日には、中段に、その次には上段にというように積み変えた。さらに正面、右側、左側もそれぞれアレンジしてできる限り場所を入れかえてテストした。

■スピーカーの能率による音質の差
 今号でテストした50機種は、口径も違えば、構成も違い、当然スピーカーの能率の良し悪しによって、再生レベルが変わってくる。特に比較試聴の場合、音量の大きい方が得をする場合が多いが、今回はテスターに手許にアンプを置き、スピーカーを切替えた都度ボリュームを調整してもらって、聴感上なるべく音量を揃えるようにした。

■レベルコントロールのセットポイント
 テスト機種のスピーカー構成は、シングルコーンのユニットを1本使用したものから、4ウェイのマルチウェイシステムまであり、50機種のうち9機種を除いた41機種は何らかのレベルコントロール装置がついている。これらのレベルセットは、ノーマルあるいはナチュラルなどの表示のあるものはその点に合わせ、表示の内連続可変型のものはメーカーの指定した位置に合わせた。

■テストに使用した機種
 今回のテストに使用した機種は次の通り。
JBL SA600 プリメインアンプ
 このアンプは本誌第3号および第8号の氏プテストでトランジスターのプリメイン型のアンプである。
シュアー V15/タイプII
オルトフォン SL15/ME
 この両カートリッジは、いうまでもなく本誌のテストに必ず使用する世界第一級のカートリッジである。
FR FRT3 ステップアップトランス
 オルトフォンのカートリッジを昇圧するためにFRのトランスを使用した。このトランスも本誌7号のカートリッジ/プレーヤーシステム特集号で好評を得たものである。
グレース G560L
 トーンアームにはグレースのG560Lを使用した。国産の第一級トーンアームであることはユーザーの多いことをみればうなずけるところである。
ティアック TN202
 これもフォノモーターとして定評のある製品。

試聴記と採点の基準について
 今回のテストリポーター四氏のうち、岡、菅野両氏には試聴記を担当してもらい、瀬川、山中両氏には、総合評価で推選、特選になった機種のみ、試聴記を担当してもらった。
 各氏にそろって記入してもらったのが、各機種ごとにある「ブラインドテスト評価表」で、
 ◉ 特選に値いするもの
 ◎ 推選に値いするもの
 ○ 準推選に値いするもの
 □ 次点
の四段階にわけて次のジャンル別7項目についてそれぞれ評点をつけてもらった。
 項目
 1 オーケストラ
 2 室内楽
 3 ピアノ
 4 声楽
 5 ポピュラー・ムード
 6 ポピュラー・ヴォーカル
 7 ジャズ
 たとえばオーケストラで特選のスピーカーはその項目のところに◉印がついている。従って、もしオーケストラ曲がたいへん好きな方であれば、なるべくオーケストラの項目に◉印の多い機種を、また、ジャズの好きな方はジャズの欄に◉印の多いスピーカーを購入の指針にされるとよい。
 8 コストパフォーマンス
 前記の7項目の採点が終了した時点で、各テスターにテスト番号によって価格を明示し、コストパフォーマンスを10点満点でつけてもらった。
 音質と価格をにらみ合わせて、最もお買得と思われる機種に10点、最もお買損と思われる機種に1点、従って5点近辺が価格相応といったところになるだろう。
 なお各機種の型名の後とブラインドテスト評価表、ならびに岡氏と菅野氏の試聴記の頭についている番号はテスト番号、つまり、スピーカー切替用スナップスイッチの番号と同じである。

オンキョー E-83A

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 あらゆるプログラム・ソースにも妥当な再生音を聴かせてくれたシステムである。中域のクオリティが充実し、解像力がよいのが特長で、低域がやや厚みと弾力性に欠けるのが欠点である。したがって、ベースの音の肉づきが物足りないが、スネアードラムやタムタムの抜けのよさ、リム・ショットの立上がりなどは快調だ。弦合奏も暴れの少ないしっとりした響きが得られ、ベルリン・フィルの渋く厚い音色もよくでる。ヴォーカルもよい。

ティアック LS-400

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 全体に音の抜けの悪さが目立ち、こもり気味で冴えない。また、周波数レンジも広い感じではなくオーケストラの多彩な音色を十分再現してくれるとはいい難い。どこといって大きな欠点はないのだが、どうもパッとしないシステムだ。バランスもかなりまとまっていると思うし、再生音の質も解像力に不満があるが、そんなに荒っぽくも粗くもない。つかみにくい音で評価に苦しむ。穏やかではあるが濁りがあって抜けきれない製品。

テクニクス SB-2506A (Technics4A)

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 バランスは、すっきりとまとまっていて、弦のアンサンブルなどには端正な再生音を聴かせる。オーケストラでは中音域がやせるためか量感に欠け、冷たい音が気になった。しかし、中域の質は決して悪くなく、よく制動のきいたものだ。このシステムの一番弱いのはジャズで、なんともとりすました音が合わない。中域の量感が欠けるのと、高域の甘美な柔らかさが、ジャズのアクティヴなパルスとは異質なのだろう。

アコースティックリサーチ AR-4x

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 全体のバランスはよくとれたシステム。中域に鳴きがあり、ちょっとカーカーといった響きが気になるが、上下へののびはよく、素直である。ピアノのパルス、声楽の暖かさ、柔らかみといった点に、多少の不満が感じられたけれど、他のレコードでは平均して水準以上の再生音が聴けた。大きなスケールの迫力ある音とはいえないが、質のよい音色とオーソドックスなバランスを兼備したシステムである。

ヤマハ NS-15

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 明晰な音色の分離が鮮かなスピーカーで高音のタッチは実にリアルに再現される。打音や擦音の立上がりが極めてよく、リアルである。中音域に多少引っかかる癖のあるのが気になるが、全体に大変優れたシステムだと思う。低域は、やや硬く、のびが不足する気もするが、音像の実在感が鮮かで抜群のリアリティをもっている。繊細な緻密な味わいという点ではもう一つ物足りなさがなくもないが、生き生きとした音の浮彫りが見事。

パイオニア CS-810

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 全体に音の抜けが悪いし、中高域の連続性もスムースではなくバランスが悪い。音質的には部分的によさも感じられるが、全体に統一されていないことは、システムとしては高く評価出来ない。オーケストラの量感も貧弱だし、かといって小味な室内楽でもまとまりが悪いから音楽にならない。ジャズの場合も音がやせていて演奏者たちの息吹が伝わらず、死んだ音になる。結局、音づくりの派手なポピュラーのソースでしか、納得がいかなかった。