菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
’93年の発売だが、テクニクスのサイレンス・テクノロジーが生きたSNのいいパワーアンプである。Rコアによる電源回路は同社お得意のヴァーチャル・バッテリー・オペレーションで、電圧増幅段はMOS−FET、出力段にはバイポーラ・トランジスターを使っている。100W×2のパワーだが、ドライヴ力はもっと大きい感じだ。
菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
’93年の発売だが、テクニクスのサイレンス・テクノロジーが生きたSNのいいパワーアンプである。Rコアによる電源回路は同社お得意のヴァーチャル・バッテリー・オペレーションで、電圧増幅段はMOS−FET、出力段にはバイポーラ・トランジスターを使っている。100W×2のパワーだが、ドライヴ力はもっと大きい感じだ。
菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
マッキントッシュの最高級プリアンプで、アナログアンプ部をディジタルのコントロール部と電源から完全に分離した形態。コントロール部は最新のディジタル・コンセプトによるが、アナログ部はフォノイコライザーはもちろん、ローインピーダンスMCカートリッジ用のトランスまで内蔵する深慮が素晴らしく、音も品位が高く自然。
菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
アキュフェーズの最高級プリアンプ。同社はディジタルとアナログのプリアンプの2本柱をもっているが、リファレンスはこれだ。長年の積み重ねで洗練された音質は最高の品位を感じさせるもので、このアンプがあればこそディジタルプリも作れたと言えそうである。音質は外国製品にないキメの細かい美しさがある。
井上卓也
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
「TEST REPORT 2000WINTER 話題の新製品を聴く」より
E407は、現在におけるプリメインアンプのリファレンスモデルを目指して開発された、アキュフェーズのプリメインアンプのトップモデルである。本機は、E406Vの後継機に位置付けられる新製品で、新世代のプログラムソースであるSACDやDVDオーディオなどに求められる周波数特性やSN比、クロストークなど、すぐれた諸特性を実現しているという。
内部は、機構・回路設計ともに、プリ部とパワー部は完全に分離した準セパレートアンプ的構成が特徴で、プリ部とパワー部は独立した使用が可能である。また、プリ部・パワー部ともに高域位相特性にすぐれた電流帰還型増幅回路を採用している。
前作を受け継ぎ、プリ部は、オプションのフォノEQボード用増設スロットを装備する。なお、トーン回路は、独自の加算型アクティヴフィルター方式を採用した。
パワー.部は、マルチエミッター型パワートランジスターを3組並列プッシュプル構成としている。電源は、放熱フィン付きのダイキャストケースに納められたマックスリング型トロイダルトランスと、33kμFの容量をもつ電解コンデンサーを2個搭載。さらにヘッドフォン出力は、専用アンプを使用する音質重視型設計で注目される。入出力の切替えは、すべてロジック・リレーによる制御を行ない、増幅系は、ディスクリート回路で構成されている。
プリメインアンプらしく、エネルギーバランスを重視した帯域バランスは安定感が充分に高く、中域の充実した密度感は、高級セパレートアンプに勝るとも劣らぬ魅力があるようだ。ほどよく抑制が効き、スムーズな音を聴かせていた、いままでの同社のプリメインアンプと比較すると、解き放されたかのように、自然体で伸びやかな音を聴かせる。しかも、スピーカー駆動能力にもすぐれ、力強く線の太い表現力を加えたこの音は、本機ならではの味わいといえよう。
井上卓也
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
「TEST REPORT 2000WINTER 話題の新製品を聴く」より
1949年の創立以来、半世紀にわたるマッキントッシュのアンプテクノロジーを注いだ、限定生産モデルの真空管ステレオパワーアンプMC2000は、ソリッドステートアップ技術のメリットを絶妙に導入した回路構成と類例のない魅力的なサウンドで注目を集めているが、それに続き、同社ステレオパワーアンプのトップモデルとして開発されたモデルが、このMC602である。
基本的には、MC500を受け継ぐ位置付けの製品ではあるが、本機は従来モデルとは一線を画した内容で、大変に意欲的な設計が行なわれている。
最大の特徴は、入力段から出力段までが完全なバランス・プッシュプル構成であるということだ。現時点では詳しいデータは明らかにされていないが、おそらく同社トップモデルMC1000モノーラルパワーアンプで採用された回路と近い構成だろう。
出力オートフォーマーは、従来型を2個組み合わせたようなプッシュプル巻線を採用している。これは創業時に超広帯域出力トランス技術を特徴のひとつとしていた同社の伝統を、現在に伝える新設計のオートフォーマーだ。
この出力オートフォーマーで結合される2台のマッチングされたパワーアンプは、相補バランス回路が組み込まれているため、ダブルバランス構成となり、歪みの打ち消し能力は大変に高くなる。これは独自の出力オートフォーマーなしには達成できない、オリジナリティ豊かな技術的成果といえよう。
電源部は、MC602の完全バランス設計をいかすために、高圧タイプの電源2台を各チャンネル毎に備える。負荷インピーダンスが2Ω以下に下った時にも、出力電流保存機能が備わり最大1kWの出力を供給することもできるという。
また、定格値の高周波歪率は、0・005%以下と発表されているが、中域においては、測定限界(0・0002%)以下の歪率であるという。高周波歪率やSN比などは、いままでは比較的寛容という表現をされることが多かった海外製品が、測定器の測定能力以下の歪率を公表するようになったという進歩は、驚くべきもので、従来からの独特な音の魅力に加えて、スペック的な性能が向上し、相乗効果としてどのような音が聴かせるか、と大きな期待を抱かせる。
機能面では、伝統的なパワーガード、温度プロテクションなどの保護回路の完備をはじめ、電源ON時にアンプ動作を約2秒遅らせ、他の機器からの雑音発生を防ぐターン・オン・ディレイ回路、高出力時にメーター照明の明減を防ぐメーター照明調整回路などがある。さらにハイパワーモデルとしては、高効率が特徴で大面積放熱版採用により自然空冷を達成した。また目立ちにくい点だが、ステンレス製シャーシの採用も特徴にあげられる。
素直に製作された純A級アンプのように、自然体でナチュラルな音を、MC602は聴かせてくれる。音量をあげていっても、まさしくストレスフリーに音量は上昇し、情報量が次第に多くなる。このことは、基本性能の高さを示す、まごうことなき証しである。
雰囲気がよく、しっとりとしてかつ、しなやかなたたずまいのよい音は、真空管パワーアンプMC2000に一脈通じるところがあるもので、最近のマッキントッシュに共通する音の傾向である。
大編成のプログラムソースでも、あまり音量を上げなくても、納得して聴くことができるが、音量を上げるにしたがって次第に情報量が多くなり、細部のフォーカスがあってくる爽快さは、オーディオならではの味わい深いものである。必要に応じてどのようにでもパワーをあげられる余裕度の高さは、さすがにハイパワー機の独壇場の味わいといえ、一度聴くと簡単に元にもどれない、実に困った世界である。
井上卓也
ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「TESTREPORT ’99 話題の新製品を聴く」より
ソニーとフィリップスが共同開発したスーパーオーディオCD(以下SACD)は、DVDオーディオとはことなるフォーマットの、次世代の新しいピュアオーディオのプログラムソースである。現在のCDフォーマットは、PCM方式で44・1kHzのサンプリング周波数と16ビットの量子化でアナログ信号をデジタルデータとして記録・再生を行なう。高域周波数のフォーマット上の再生限界は、20kHzとなっているために、アナログLPフォーマットのほうが、単純に高域レスポンスがすぐれていることになる。したがって、CD再生ということでいえば、再生系のアンプやスピーカーは、従来のアナログLP再生用でも、なんら問題はないといえる。
ところが、今回のSACDでは、1ビットDSD(ダイレクト・ストリーム・デジタル)方式で、サンプリング周波数は、2・8224MHzと高い手法が採用されている。これは原理的に約1・4MHzまで高域の帯域を伸ばすことが可能。しかしかりに高域の再生限界が100kHzであっても、アンプ、とくにパワーアンプは、30kHz程度以上のフルパワー再生は難しく、その意味では、単純にSACDの登場を喜んではいられないともいえる。
今回、ソニーがSACDプレーヤー発売にあわせて発表したセパレート型アンプが、プリアンプTA−E1およびステレオパワーアンプTA−N1である。
TA−E1は、SACDの最大の特徴である高域の再現を最優先させるため、必要最小限の機能に絞り、信号の流れを単純かつ最短にするための内部レイアウトが採用されている。
メカニズムの基本となるシャーシは、ベース部に10mm厚アルミ板と2mm厚の銅板2枚を積層した構造である。7mm厚のフロントパネルと、10mm厚とフロントパネルよりも厚いリアパネルは、ともにアルミ系の非磁性体を採用している点が特徴といえる。また、トップパネルの2分割構造からもわかるように、信号系と電源系とを、構造的に分離・独立した点も大きな特徴。
信号系には、アルミ合金製金属基板に耐熱絶縁処理を行ない、銅の回路パターンおよび表面実装した部品をもつメタルコアモジュールを採用。これは熱バランスがよく、振動にも強いという特徴をもつという。
さらに、高域周波数特性と位相特性にすぐれた新開発リニアフェーズ回路を採用し、音質的にもっとも重要なボリュウムは、コンダクティヴプラスティック抵抗型で、そのハウジングは直径50mmの真鍮削り出し加工製である。
電源部は、セラミックケース入りのアモルファス電源トランスを採用。整流ダイオードからの入力端子と、増幅部への出力端子とを分離構造とした、3端子型電解コンデンサーの搭載にも注目したい。
TA−N1は、重量16kgのヒートシンクを左右に配置し、15mm厚のフロントパネル、10mm厚のリアパネルによるフレーム構造が特徴。回路構成は、プリアンプ同様のメタルコアモジュールをプリドライブ段に使用している。また、出力段には、オーディオ専用非磁性金メッキ処理が行なわれた、パワーMOS−FETを各チャンネル5個並列接続で使用。
電源部は、重量13kgのNF(非焼成)セラミックハウジングに収められた、容量1・5kVAの新トーラストロイダル電源トランスと高速大容量ダイオード、4N高純度のアルミニウム電極箔をもつ電解コンデンサーで構成される。
試聴は、CDソースと、スピーカーにB&Wのマトリクス801S3を使用した。スッキリと伸びた広帯域型の見事なレスポンスをもったアンプだ。音の粒子は細かく磨かれ、粒立ちがよく、このタイプとしては異例の表現力豊かな楽しい音を聴かせる。
音場感情報はひじょうに豊かで、SN比の高さが活かされた見事なまとまりである。高剛性筐体採用のため、設置方法で音の変化が激しい点は要注意。
菅野沖彦
ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「EXCITING COMPONENT 注目の新着コンポーネントを徹底的に掘り下げる」より
日本における真の意味でのオーディオ専業メーカーといえる存在はいまや数少ないが、アキュフェーズは創業以来、脇目も振らず、高い理想と信念で、オーディオ技術と文化の本道を、独立独歩、誇りを持って毅然と見続けているメーカーである。
「たとえ、それが量産の産業製品であるにしても、良きにつけ悪しきにつけ、製品には人が現われる。その背後に人の存在や、物作りの情熱と哲学の感じられないものは本物とはいえないし、そのブランドの価値もない。物の価値は価格ではなくその情熱と哲学、それを具現化する高い技術である」
というのが、昔からの私の持論だ。人といっても、それは、必ずしも一人を意味するのではなく、企業ともなれば、複数の人間集団であるのは当然だが、その中心人物、あるいは、その人物によって確立された理念による、明確な指針と信念にもとづくオリジナリティと伝統の継承が存在することを意味することはいうまでもない。
アキュフェーズというメーカーは「知・情・意」のバランスしたオーディオメーカーであると思う。これはひとえに創業者で同社現会長の春日二郎氏のお人柄そのものといってよいであろう。個人的な話で恐縮だが、春日氏は私が世間に出てオーディオの仕事を始めた昭和30年頃にお会いして以来、もっとも尊敬するオーディオ人である。技術者であり歌人でもあり、もちろん、熱心なオーディオファイルでもある春日氏はすぐれた経営者でもある。長年にわたり、春日無線〜トリオ(現ケンウッド)という企業の発展の中心人物として手腕を発揮されてきたが、初心である専業メーカーの理想を実現すべく、規模の大きくなったトリオを離れられ、創立されたのが現在のアキュフェーズだ。
すでに周知のことと思えるこれらのことをあらためて書いたのは、ここにご紹介する新製品であるP1000ステレオパワーアンプの素晴らしい出来栄えに接してみて、その背後に、まさにこの企業らしさを強く感じさせるものがあったからだ。
P1000のベースになったのは’97年発売のモノーラルパワーアンプM2000と’98年発売のA級動作のステレオ・パワーアンプA50Vである。これらのアンプはアキュフェーズの新世代パワーアンプの存在を、従来にもまして高い評価を確立させた力作、傑作であった。
この世代から、すぐれたパワーアンプが必要とする諸条件の中でアキュフェーズがとくに力を入れたことの一つが、低インピーダンス出力によるスピーカーの定電圧駆動の完全な実現であった。ご存じのようにスピーカーのボイスコイル・インピーダンスは周波数によって大きく変化するし、また、スピーカーは原理的にモーターでありジェネレーターでもあるために、アンプによって磁界の中で動かされたボイスコイルは、同時に電力を発生しそれをアンプに逆流させるという現象を起こす。パワーアンプが安定した動作でスピーカーをドライブして、そのスピーカーを最大限に鳴らし切るためには、これらの影響を受けないようにすることが重要な条件なのである。
われわれがよく音質評価記事で「スピーカーを手玉にとるように自由にドライブする……」などと表現するが、これを理屈でいえば前記のようなことになるであろう。
アキュフェーズは、このパワーアンプの出力の徹底した低インピーダンス化こそが理想の実現につながるという考え方をこの製品でも実行している。低インピーダンス化にはNFBが効くが、スピーカーの逆起電力がNFBのループで悪影響をもたらすので、出力段そのものでインピーダンスを下げなければならない。
またスピーカーのボイスコイル・インピーダンスの変化には、出力にみあう余裕たっぷりの電源回路を設計・搭載しなければならない。現在のスピーカーはインピーダンスが8Ωと表示されていても周波数帯域によっては1Ωまでにも下がるものが珍しくない。これを全帯域で完璧に定電圧駆動するとなると8倍の出力を必要とすることになる。つまり、8Ω負荷で100Wという出力表示をもつアンプでは、負荷インピーダンスが1Ωになった時、800Wの出力段と電源がなければ十全とはいえないということになる。このような出力段と電源の余裕がなければ、プロテクションが働き、音が消えることはなくても、最高の音質を得ることはできないであろうというのがアキュフェーズの考え方である。事実、堂々たるパワーアンプでも、簡単にプロテクション回路が働いてしまう場合もある。自信がもてなければ安全確保が優先するのもやむをえない。いいかえれば、一般的な8Ω100Wと表示されたプリメインアンプなどでは、その1/8の10W少々が実用範囲だといえるかもしれないのだ。それでも4Ω以下とインピーダンスが下がるほど、発熱が辛い。だからプロテクション回路が働くわけである。これがなければ出力素子が破損する。
これが、P1000でアキュフェーズが訴求する最重要項目で、このためにこのパワーアンプの出力は8Ω125WW+125Wだが1Ω1kW(実測値1250W)が保証される。コレクター損失130W、コレクター電流15Aの素子11個のパラレルプッシュプル出力段構成は、カレントフィードバック回路とともにアキュフェーズのお家芸ともいえる技術を基本としている。
これらの素子や回路を搭載する筐体、ヒートシンクがフェイスパネルとともにみせるこのアンプの風格は堂々たるものであるだけではなく、繊細感をも兼ね備えていて、そのオリジナリティが、じつに美しい日本的なアイデンティティを感じさせるものだと思う。それは作りの高さ、精緻な質感によるもので、海外製品とは、趣をことにする魅力を感じさせる。そして、その特質はサウンドにも顕著に現われていて、力と繊細さがバランスした独特の美の世界を持っていることを聴き手として嬉しく思う。なにかと同じような……、ということは、けっしてメーカーにとってもユーザーにとっても好ましいものではあるまい。
ヴェルディのマクベスのプレリュードにおけるオーケストラの深々とした低音に支えられた力強いトゥッティ、サムエル・ラミーのバスの凛とした歌唱、ピアノはやや軽目のタッチに聴こえるが、透明感は素晴らしい。ホールトーンの漂いと抜けるような透明感も豊かであった。
清々しい響きには濃厚な味わいの表現にはやや欠ける嫌いはあるが、これが日本的な美しさとして生きていて、ツボにはまると海外製品にない、あえかな情緒が心にしみる音触である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「EXCITING COMPONENT 注目の新着コンポーネントを徹底的に掘り下げる」より
ラックスというメーカーは日本のオーディオ専業メーカーとして最古の歴史と伝統を持つことはご存じの通り。同社の社歴は、そのまま、わが国のラジオ、オーディオ産業の発展の歴史を語るものといってもよい貴重な存在だ。多くの経営的な困難を体験しながらも、初心を忘れず、ひたすらアナログ高級アンプを中心に磨き続けてきた不屈の精神には感服せざるを得ない。
現会長である早川斎氏は先代の築かれたこの仕事を天職として、全生涯をかけ一路邁進し続けてこられた人である。氏はオーディオを高邁な趣味としてとらえ、その製品には徹底的にこだわり抜く社風を築かれてきた。したがって、ラックスの製品には、まさに入魂ともいうべき作り込みの精神が伝統として脈々と流れているのである。
いまや、マネージメントのトップ自身が真にオーディオ・マインドを身につけておられるという日本のオーディオメーカーは少なくなってしまった。もともと特殊な趣味であるオーディオが、1960年代あたりから大きくスケールアップして産業化し、わが国の高度経済成長にともなって一部上場企業化するところが多くなりはじめて以来、オーディオ専業メーカーの体質は変りはじめたのである。それにともない、レコード・オーディオ文化も爆発的に大衆化し、本誌の読者諸兄にとってのオーディオは、頭に「本格」の2文字をつけなければラジカセやミニコンポなどと、区別ができないような時代になった。
大衆化自体は結構なことだし、産業の発展も喜ばしいことには違いないのだが、本来のオーディオの核心が希薄になっては、喜んでばかりもいられない。まことに痛し痒しといった感があるが、ラックスやアキュフェーズのような企業にとっては嵐に巻き込まれたような戸惑いがあることも否めない。しかしこの環境下での新製品C10II、またすでに発売されたパワーアンプB10IIをみると、ラックスらしい磨き込みが如実に感じられ、頼もしい限りなのである。
高級アナログプリアンプC10IIは、従来モデルのC10が、1996年の発売であるから3年日のリファインでありヴァージョンアップである。今回は、とくにあらたなローノイズ・カスタム抵抗器の採用と回路定数の全面的な見直し、外乱ノイズへの対策などにより、さらなるS/Nの向上がはかられたという。プリアンプのサウンドにとって決定的な影響を与える要素はすべてといってよいが、なかでも素子の持つ物性は、その影響が大きい。
C10で開発された、例の多接点式精密アッテネーター(スーパー・アルティメット・アッテネーター)は58接点の8回路4連式のもので、これに取りつけられる456個の抵抗のすべてが一新されたわけである。このアッテネーターでは信号経路には2個の抵抗が入るだけであるから、その純度はきわめて高い。個人的には音楽のフェイドを段階的に行なうのは、けっして好きではないし、接点間ではわずかながらノイズが発生する。
しかし、今、あえてこの芸術的ともいってよい、手間暇とコストのかかるアッテネーターにこだわるところが、いかにもラックスらしく貴重である。これらのリファインメントは、たんにS/Nの向上としてかたづけるわけにはいかないもので、その音質のリファインも顕著で、プリアンプのもつ魅力を再認識させられるほど、いい意味での個性を感じさせられた。
プリアンプに限らず、オーディオ機器はすべてがことなる個性をもっているが、メインプログラムソースがCDの時代になってプレーヤーの出力がラインレベルなるとプリアンプ不要論が台頭してきた。このため、オーディオファイルの多くが、不便を承知で、プレーヤーとパワーアンプ間にはアッテネーターだけを入れて使うことが、いい音への近道だという短絡的、かつ音の知的理解に偏向しているようである。
また、プリアンプのあり方に対しても「ストレート・ワイアー・ウィズ・ゲイン」という、いかにも説得力のありそうな、非現実的な理想論を現実論にすり替えて掲げている例が多いようである。音は頭で考える前に、先入観抜きの純粋な感性でとらえ、判断しなくてはならないことはいうまでもあるまい。
各種の入力切替えに、いちいちパワーアンプのスイッチを切って抜き差しするというのでは、まさにストレート・ワイアー症候群である。そのストイックな心理状態もわからなくもないが、とくに現在のようにメディアが多彩になれば、これらの入力を自由に切替え、スムーズに音楽再生をコントロールすることは必要ではないだろうか?
また、プリアンプによって、しかるべきバッファー効果とインピーダンスマッチングが得られるものでもあり、プリアンプを使うことで音がより良くなるということは、プリアンプのもつ音の個性と嗜好の関係以外にも理由のあることなのである。
さらに、有効なトーンコントロールやイコライジングというオーディオならではの便利で効果的なコントロール機能も大切だ。これらを使いこなすこともオーディオ趣味の醍醐味であろう。プログラムソースの録音の癖や部屋のピーク、ディップをそのままにしてケーブルだけを変えるより、よほど効果的なのである。
こういうコントロール機能をもつプリアンプを、私はオーディオシステムのコックピットと呼んで、システムには絶対必要な存在であると考えている。プリアンプ不要論などは、浅薄な電気理論だけで、オーディオを知らない人のいうことだろう。プリアンプの選び方と使い方こそ、その人のレコード音楽の演奏センスであり、オーディオセンスだと私は考えている。
C10IIは入力が全部で8系統ある。アンバランスは負荷50kΩの6系統、バランスは100kΩの2系統である。出力はアンバランス300Ωとバランス600Ωの2系統が用意されている。トーンコントロールはトレブルのターンオーバーが3kHzと10kHzの切替え、バスのそれも300Hzと100Hzが選べる。
これを的確に使えば、かなり広い対応ができるはずで、先述のようにケーブル交換以上に、オーディオファイルにとっては有効な音の調整ツールである。
なにがなんでも電気的にはいっさい余計なものを廃し、スピーカーシステム、あるいはプレーヤーやアンプの設置だけで、音楽的にいい音が得られるとは思えない。それらは基本的に大切なことではあるが、それだけで音を自身の理想に近づけられるほど、オーディオは単純ではない。
パソコンに例えれば、OSと同時にアプリケーションソフトが機能してはじめて有効に使えるように、オーディオにおいても、CDのような音楽ソフトの重要性はいうまでもないが、オーディオ機器のもつ電子機能への理解と習熟が、いい音を獲得するためには必要であることも知って欲しい。
オーディオにおいて電子機能を利用することを頭から邪道だとするほうが間違っている。本来、電子機能による録音再生がオーディオであることを考えてみれば明白ではないか。無論、何事もその乱用は慎むべきで、的確にたくみに使いこなすことこそが肝要なのである。
ところで、このプリアンプの音だが、まず、音触の自然さがあげられる。従来の音より楽音の質感がリアルである。いかにもラックスらしい個性的魅力という点ではオリジナルのC10のほうを好む人もおられるかもしれない。しかし、このレゾリューションの高い音はあきらかに細部のディテールがより精緻である。
オーケストラを聴くとエネルギーバランスは標準的なピラミッド型よりやや鋭角、つまり中域が締った端正な印象を受ける。B10IIとの組合せはアキュフェーズP1000より低音が豊かになり、高音は繊細な感じの、よりワイドレンジに変化して聴こえたが、パワーアンプとの組合せで多彩に変化するようだ。多くのパワーアンプで試聴したわけではないが、P1000、B10IIの他、アキュフェーズA50V、マッキントッシュMC2600などでの印象である。ドヴォルザークのドゥムキー・トリオの冒頭のメナヘム・プレスラーのピアノやキャスリン・バトルのコロラチューラソプラノでは高域の倍音が豊かで美しく、繊細の極みといいたいような美音であり、鳥肌が立つように感じられたものだ。
井上卓也
ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「モデル8Ti/9Tiハイカレント・ヴァージョンの実力」より
ジェフ・ロゥランドDGのパワーアンプは、ロゥランド・リサーチをブランドネームとした時代から、安定度が高く、しなやかさと力強さを巧みに両立させた音の魅力と、音と表裏一体となった筐体デザイン、精度、仕上げなど総合的なバランスの優れたアンプとして手堅い評価を獲得していた。
’92年11月に新製品として登場したステレオパワーアンプのモデル8とモノーラルパワーアンプのモデル9は、従来のモデル5やモデル7Fなどからいちだんと高い次元に発展したモデルだ。電圧増幅投とドライバー段部分には、当時の技術傾向を導入したモジュール化が採用されている。ディスクリートタイプと比べると、一体化されたモジュールは温度的に安定し、シグナルパスの短縮化、外部からの干渉の排除など電気的な利点に加えて、機械的な強度が高く、共振のコントロール、機械的なストレスによる音質劣化防止などの利点があり、メカトロニクスの産物といわれるパワーアンプではメリットの多い方式である。
モデル8の筐体は、19インチサイズのフロントパネル、両サイドの放熱板、入出力系や電源系を扱うリアパネル、トランスなどの重量物を支持し固定する底板がハコ型に組まれ、これに着脱可能のトッププレートを組み合せた、パワーアンプの定番的構造の設計である。ただし、とかくシャープエッジで共振しやすい放熱板のフィンのコーナーをラウンド処理しているのは、同社製品の特徴。大型電源トランスは筐体中央のリアパネル側にあり、大型電解コンデンサーはフロントパネル側に別ピースのサブシャーシ上に取り付けてある。線材関係で目を引くのは、出力系の配線に銅パイプを使っていたことだ。
翌’93年2月になると、同サイズの筐体中に鉛バッテリーを4個組み込んだ専用電源BPS8を組み合せたモデル、DC8とDC9が発売される(バッテリー電源部は両者同等)。BPS8は、バッテリーのB電圧が±24Vとやや低いため、完全DC駆動時の出力は、DC8が100W+100W(8Ω)、DC9が100W(8Ω)になる。BPS8は、パワーアンプ電源から充電されるタイプで、完全DC駆動時にはACプラグを抜くことで可能となる。
究極のDC電源として、鉛バッテリーは管球アンプ時代から一部で実用化されていたが、現実に詳しくチェックをすれば、完全充電時から放電時までにアンプの音は予想を超えて変り、充電量の異なる電池の組合せは音質劣化を伴うなど問題も多く、アンプ電源として長期間安定に働かせるためには、かなりのノウハウが必要だ。しかし鉛バッテリー動作は、アンプ設計者なら一度は試みたいマイルストーンであるようだ。
同年10月には、筐体設計を完全に一新したモデル8SPが発売された。筐体の主要構造は、分厚いフロントパネルとリアパネルを、同様な厚みの2枚の構造材でII字型に結合した構成である。電源部は、前後をつなぐ厚い金属板間に、2個のトロイダルトランスが横位置に、4本の電解コンデンサーが前後上下に固定されている。
筐体中央部で構造材によって2分割するこの構成は、いわゆるデュアル・モノ構成の筐体では、もっとも理想的な構造と断言できるが、筐体内空間を伝わる電磁波やシャーシを流れる各種グラウンド電流の相互干渉については効果はなく、依然としてモノ構成とは一線を画したものと考えたい。
モデル8SPをベースに、入力部にトランスを使うトランスインピーダンス・ディファレンシャルモード増幅を採用した改良版がモデル8Tであり、さらに、新開発のパワーICを各チャンネル12個並列動作とした第3世代の改良版がモデル8Tiである。当然のことながら、モデル9系の発展もほぼ同様ではあるが、一部、内容が前後することがある。
モデ8および9の技術的な発展改良のプロセスは、入力段モジュール化、入力トランス採用、パワーIC開発、鉛バッテリー電源の導入などの電気的な部分に加え、筐体構造の抜本的設計変更などの、エレクトロニクスとメカニズムの発展改良が相乗効果的に働き合った、いかにもメカトロニクスの産物であるパワーアンプにふさわしい典型的な進化だと言えるだろう。
モデル8Tiでいちおうは完結したかに思えたが、さらなる飛躍のチャンスが待ち受けていたようだ。モデル8Tiをベースに6チャンネルまで拡大し、トライアンプ駆動を可能としたMC6の開発・発売が、その契機である。
MC6は定格値では6チャンネルパワーアンプではあるが、低域用は2台のパワーアンプを並列動作させる設計で、実際には8チャンネル分のパワーアンプを内蔵してているものである。この並列動作と通常の動作との計測的、聴感的な比較が徹底して行なわれた結果、使用パワーICを2倍としたハイカレント・ヴァージョン(以下HC)が開発されることになった。並列動作の数を増加しても直流電圧が一定であれば、8Ω負荷時での出力は変らないが、負荷が2Ω、1Ωとなってくると電流供給能力の差が現われ、計測値的にも、聴感的にも、大きな格差が生じてくるようである。
モデル8TiHCは、パワーICの数は、8Tiの12個並列から24個並列と倍増している。
設計者のジェフ・ロゥランド氏の見解によれば、2倍の出力供給電流と出力インピーダンスが1/2となる利点に加え、歪率が半減し、特にiM歪みは50%に低減する効果があるという。通常のパワー段のデバイスの数を増す方法では、逆に歪みは若干でも増す傾向があり、スピードも低下する、ということである。ちなみに、パワーICは、1個で賞出力パワーアンプとして働くICパックで、高域特性に優れた小型パワーデバイスが使えるメリットがあるようだ。現実のモデル8TiHCでは、入力部に入力トランスを採用したバッファーアンプがあり、この部分の利得切替で、26dBと32dBが選択可能で、この出力をパワーICが受ける構成である。
なお、モデル8TiHCも、BPS8電源の使用は可能である。
モデル8Tiとモデル8TiHCおよびモデル9TiHCの3台を用意し試聴する。
8Tiは、信号を流してからの経時変化が穏やかで、比較的に早く安定状態に入り、この安定度の高さが特徴である。当初のモデル8は、安定度の高さを基盤にした、ややコントラストを抑えたしなやかな音を聴かせたが、入力信号に対応した力強さも併せ持っていた。8SPでのドラスティックな変化は、音にも劇的な変化をもたらしたが、リジッドなベースと剛体感のある音の骨格を持ってはいるが、それらが決して表面に出ず、聴感上では意識されないレベルに抑えるコントロールの巧みさは、ジェフ・ロゥランドの音の奥ゆかしいところであるようだ。
8Tiの音でもっとも印象的なのは、抑制的な表現が払拭され、ほどよくエッジが張りコントラストの付いた、ダイナミックな表現力が与えられたことである。もともと優れた増幅系と筐体構造を持つだけに、いかにも音楽を聴いているようなオーディオの楽しさを感じる、この音の魅力は絶大である。
8TiHCは、コントラストが少し薄くなり、ゆったりとした余裕のある大変に雰囲気のよい音を聴かせる。熟成された大人の風格があり、少々玄人好みであるようだ。
9TiHCは、8TiHCの内容をいちだんと濃くした音で、異例に鮮度感が高く、反応がシャープ。スピーカーを自由闊達に、伸びやかに歌わせる、この駆動力の見事さは圧倒的だ。
井上卓也
ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より
世界的に管球アンプの開発が、予想を超えて絶えることなく継続されているようであるが、スピーカーシステムにおけるB&Wノーチラスのような、想像を超えたレベルで管球アンプのデザインを変えたメーカーは、イタリアのユニゾン・リサーチをおいてほかはないのではなかろうか。
このメーカーは、ひじょうに大型で超重量級の管球プリメインアンプ、845アブソリュートが93年に輸入され、一躍注目を集めただけに、プリメインアンプのラインナップが充実しているのが大変に魅力的だ。
その巨大プリメインアンプとは完全に逆転の発想で開発されたのが、このシンプリー・シリーズだ。出力トランスは自社製リッツ線巻きとのことで、筐体構造は金属材科とリアルウッドを組み合せた、ユニークで素晴らしい出来である。この組合せは、視覚的にも美しいが、金属の固有音を木材でダンプし、ほどよい木の鳴りを加味するという音質面でのメリットもあるようだ。
シンプリーTWOは、6CA7シングル・ステレオアンプであるが、穏やかで豊かな音と言われやすい管球アンプのなかでは、反応もナチュラルで違和感がなく、伸びやかな表現力とほどよくフレッシュな音は、音楽をいつまでも聴いていたくなる、オーディオならではの楽しさがある¢
シンプリーFOURは、シリーズ第三弾製品として登場した、6CA7をパラシングルとしたモデルである。定格出力は、シンプリーTWOの12W+12Wから14W+14Wに増加したにすぎない。しかし、音の傾向は明らかに1ランク上級機らしい佇まいがあれ、重心がいちだんと低く安定感があり、それなりに押し出しの良いパワー感は、さすがに兄貴分の貫禄というべきだろう2機種ともにNF量は2段切替可能で、NF量と音質の相関性を聴くことができる。
短絡的な表現をすれば、小口径から中口径フルレンジユニットの駆動にはTWO、2ウェイ以上のシステムにはFOURということもできるだろう。
シンプリー845は、モノ構成パワーアンプSmt845のステレオ版と考えられる大型プリメインアンプである。
オーディオ用3極出力管として古くから定番となっている845のシングルエンド使用で、純A純動作、定格出力18W+18Wである。
TWOとFOURを実用型アンプとすれば、トリエイテッドタングステンのフィラメントの輝きと、独自の筐体構造との調和の美しさが、見るだけで楽しい本機は、かけがえのないオーディオの世界を展開する完全に趣味のアンプなのである。
3極管シングルA級動作的な線の細さは感じられず、ナチュラルな表情で音楽を楽しく聴かせる、視覚的要素と表裏一体となった見事な音は、さすがに高級機の風格だ。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より
米ボルダーのアンプは、ハリウッドのスタジオ用パワーアンプで定評を築いたことを機会に、独自のユニット形式を採用したプリアンプを開発してきた。年月が経過するにしたがい、次第にコンシューマー・ユースの傾向が強くなり、サウンド傾向も変ってきた。当初の独特な、おおらかで健康的な豊かなアメリカをイメージさせる余裕たっぷりの音から、音のディテールの再現能力が向上し、音の細部のニュアンスをほどよく引き出すハイファイ的になり、その音楽性の豊かさが、独特の魅力として磨き上げられてきたようだ。
ところが今年、予想を越えて超ハイエンドオーディオの世界にチャレンジした、新2000シリーズのプリアンプ2010とD/Aコンバーター2020が発売された。そのあまりにセンセーショナルな登場ぶりには、いささか戸惑う印象があったことは否めない事実である。
新2000シリーズの2モデルは、ひじょうに剛性感が高い筐体構造を基盤に、主要部分はプラグイン方式を採用することで、発展改良やプログラムソースの変化に対応しようとする構想が興味深い。
電源を独立分離型とする主要筐体は、高さが低く横幅と奥行が十分にある扁平なシャーシがベースで、前面に厚いパネル状の表示部と操作部がある。その後ろ側には左右2分割された角型のブロックが設けられている。その背面は開いており、この部分に入出力端子を備えたプラグイン・ブロックが挿入される。
プリアンプ2010では、ベース・シャーシは操作系、マイコンなどの電源が収納され、D/Aコンバーター2020では入力系のインターフェイス切換え系、表示系、電源が組み込まれている。
左右2分割のプラグイン・ブロック部は、プリアンプでは左右チャンネルが完全に独立したラインアンプ用、D/Aコンバーターも同様な設計思想を受継いで左右独立した20ビット、8fsのDACが、5個並列使用されている。サンプリング周波数は、32/44・1/48kHz対応、アナログフィルターは、ボルダー方式3段の6ポール・ベッセル型フィルター採用、出力電圧は、4Vが定格値だ。
独立電源部は、プリアンプとD/Aコンバーター共用設計となっている。左チャンネル傳下、右チャンネル電源と表示系/制御系電源が各独立電源トランスから供給される。なお、左右チャンネル用は、それぞれ独立した出力端子から本体のプラグイン・ブロックパネルに直接給電され、表示系、制御系電源は、ベース・シャーシに給電される。こうした点からも、各電源間の相互干渉を徹底して排除する設計が感じとれる。
筐体構造は厚みがたっぷりとある銅板で、たいへんリジッドに作られている。重量で防振効果を得ようとする設計で、相当に音圧を上げた再生条件でもビクともしない剛性感は見事なものだ。なお、本体、電源部ともに底板部分には入念にコントロールされた脚部があり、床を伝う振動の遮断効果は非常に高い。
機能面はプリアンプでは、0・1、0・5、1dBの可変ピッチで−100dBまで絞れるリモコン対応音量調整、可変レベルミュート、左右バランス調整、表示部の8段階照度切換えの他、多彩なプログラムモードを備えている。D/Aコンバーターで最も興味深い点は、左右チャンネルの位相を制御して任意の聴取位置でもステレオフォニックな最適バランスが得られることで、部屋の条件補整用としても効果的だ。2010プリアンプ、2020DACともにビシッとフラットかつ広帯域に伸びた周波数レンジと、力強い音の輪郭をクリアーにくっきりと聴かせる。エネルギッシュでひじょうに引き締まった音で、従来モデルとは隔絶した、まさに異次元世界そのものの厳しく見事な音である。とくに、DACでは、圧倒的に情報量が多く、音の陰の音をサラッと聴かせる能力は物凄く鮮烈で、いたく驚かされる。
菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
ソニックフロンティア社のニューブランドで、管球式のプリアンプである。フォノイコライザーを内蔵し、電源はセパレートタイプでデュアル・モノ構成。ハイエンド機並みのこだわりを見せる。パーツも高品位なものが使われていて、音もしっかりして温かい。輸入品で25万円は安いと思う。仕上げは高いとはいえないが。
菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
最高級プリアンプC2302ヴィンテージで4年前に素晴らしい成果を上げ好評を博している同社だが、その経験を生かした新製品である。この製品も、熟達と入念な設計、高品位パーツ、そして、よく練られた機構などにより、鮮度と緻密感の優れた音を再生する。価格も妥当であり、価値の高い製品である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
このメーカーのコントロールアンプこそ真の意味でのコントロールアンプで、中点でオフになる5ポイントのトーンコントロールや豊富な入出力とモード切替えなど、一度使うとやめられない多機能で使いやすい製品だ。フォノイコライザーも標準装備している。例のグラスパネルのイルミネーションは最高の視認性を持つ。
菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
同社の最高級プリアンプC290同様のバランス伝送アンプ。出力には対称型のブリッジフィードバックによるフローティング・バランス出力回路を採用するなど、そのジュニア・モデルに相応しい実力機である。リモコンでもコントロール可能な使いやすいものである。フォノイコライザーはオプションである。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より
管球アンプメーカーとして最高の品質管理を誇り、安定度、信頼度がひじょうに高い上杉研究所から、好感度なフルレンジスピーカー駆動用の6CA7/EL34UL接続シングル動作のステレオパワーアンプ、UTY14が新開発された。本機はステレオサウンド社発行の管球王国Vol.2に製作記事が発表され、予想を超えた大きな反響があったもの。シャーシは100台が頒布された。それがさらに話題を呼び、今回完成品として限定生産されたのが本機。
回路構成は簡潔で、12AX7の半分と6CA7の2段構成で少量のオーバーホールのNFがかけられている。音質面で最高と言われるシングル動作は、出力トランスの直流磁化が不可避で低域再生能力が問題となる。しかし、小出力アンプでは優れた出力トランスを使うことで、容易にクリアー可能な範囲のものだ。本機の出力トランスは、挿入損失が少なく活き活きとした表現力、音楽の生々しさに重点をおいたタムラ製作所との共同開発品。コアボリュウムがたっぷりとした、余裕のあるタイプが採用されている。
機能としては、入力に2系統の入力切換えと音量調整をもち、プリメイン型として使える設計。SN比が高いためにマルチアンプシステムでの中域以上で、とくに高能率ホーン型につなげるなら、真空管アンプならではの音の魅力が発揮できよう。
筐体は対称型デザインだが、左右ケース内には片側に2個の出力トランス、逆側に電源トランス、チョークコイルが組み込まれており、整流はダイオードによる。なお、使用真空管は、管球アンプ全盛期に米GEで製造された高級品である。
B&W801S3は、本機に不適なスピーカーではあるが必要にして十分なパワー感があり、過度なクリップ感がない点がフォローしている。みずみずしく、ほどよくクリアーで力もあり、素直な音は心安まる印象だ。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
超広帯域型バランスアンプユニットをベースに、不平衡型入力も特殊回路で平衡受けとする独自な設計が異例だ。音量調整はリモコン対応で、この部分の機構はメカマニア泣かせの魅力がある。色づけが皆無で素直に伸びやかな音を聴かせながら、表情に豊かさがあることが嬉しい。高い技術力を基盤に程よく音楽性を備えた名作である。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
アナログプリアンプで最も音質に影響を与えるボリュウムコントロールに、まさしく前人未到の超弩級切換スイッチと超高精度・超高音質の抵抗を組み合わせ、それも平衡型として完成させた開発は驚嘆を覚える凄さがある。音に生彩があり、全土管の高さは異次元の世界。来年発売予定の高級ボリュウムに置き換えたC9も待たれる。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
同社のトップモデルD/AコンバーターDC91開発での成果を活かし、本格的なディジタルプリアンプとして将来までを見すえて開発された、時代の要求を満たす世界的にも唯一無二の貴重な存在。フォノEQなども別売モジュールで完全対応させ、将来的にはディジタルグライコ、チャンデバ等との連携も期待できる。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
シャーシ構造が金属とナチュラルな木材を組み合わせた個性的かつ実に見事なバランスを醸し出しているイタリア・ユニゾンリサーチのライン入力専用プリアンプ。増幅段の一部に2階建型のSRPP回路を採用する同社独自の設計が本機にも採用され、半導体アンプでは欠落しやすい音を素直に引き出す管球式の魅力は絶大だ。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
海外製品のプリアンプのなかでは、比較的に価格がこなれた製品であるが、基本的な音のクォリティが高く、アナログプリアンプとして重要な項目である音の鮮度感が失われていないことが、このモデルのもっと素敵なポイントである。単純な構成だけに使い勝手は簡潔で気持がよい。音楽性も充分に高く。好製品。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
何をもって大型3極管A級シングル動作の音とするかは、回路構成、出力トランス、電源回路、筐体構造により千変万化するため、現実には観念的な意味にすぎないと思うが、ユニゾンリサーチのSmt845の音は、いわゆる3極管シングルの音ではなく、現代的なクールさと程よく粘る弾力的な音で、類型的でない点が見事。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
清澄にして見通しがよく、明快に音の一音一音を磨き込んで活き活きと聴かせるというのが観念的な純A級アンプの姿だが、それを現実のものとして示した、アキュフェーズの自信作。パワーの余裕は定格値の50Wを超えて4倍以上と充分にあり、一種の厳しさをもつ音はかけがえのない魅力。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
高出力トップモデルはBTL方式とする従来の方針を変更し、通常のSEPP方式で最大かつ高安定度なパワーアンプを目標に完成されたステレオパワーアンプ。高性能な回路設計が素直に音に出ていた従来モデルと比べて、高性能なことが音楽性の豊かさに活かされるようになったことが実感的に聴きとれる大人の風格が嬉しい。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
超高級プリメインアンプでの実績を積み重ねて単体パワーアンプとした開発は手堅く、それだけに広範囲な検討を受けている。前段の蓄電池駆動可能な設計は前例のない構想で、プリアンプとの組合せが前提となるが、効果度は想像を超えて抜群。BTL使用時の音質劣化が少なく出力増加の利点が音として実感可能な点に注目。
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