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JBL 375 + 2397(組合せ)

岩崎千明

スイングジャーナル臨時増刊モダン・ジャズ読本 ’76(1975年秋発行)
「理想のジャズ・サウンドを追求するベスト・コンポ・ステレオ25選」より

●組合せ意図、試聴感
 使い慣れたJBLをシステムとして生かすべく考えたのがこの2397ホーンと375ユニットの中高音用を組込んだシステムだ。52年発行の米国のあるオーディオ文献に掲載してあったウェスターン・エレクトリック社無響室の写真で、技術者の横に置いてあるスピーカー・システムが眼に止った。この、小型フロアー型とも思えるシステムに、大きさといい、形状といい、JBLの木製ラジアル中高音用ホーン2397をそっくりの高音ユニットが使われているではないか!
 これを見付けたのは7月中旬の、長い入院生活の退屈さまぎれのひとときだったが、そのときすでに、我が家では1年半ほど使用していた2397の、原型を発見した気分でいささか得意であった。
 さて、2397ホーンと2328アダプターとのアセンブリーに、ドライバー・ユニットの375またはそのプロ版2440を組み合わせた高音用ユニットは、それ以外のJBLの高音用ユニットに較べて、格段の品の良さと、音の繊細感が素晴らしく、パワフル一点張りのJBL中高音用ホーンとは何か違ったスッキリした音なのが、この上なく大きな魅力だ。そして、このユニットの魅力をフルに活かしてやろうと考えたのがこのJBLの強力型ユニットを用いたスピーカー・システムだ。
 我が家で7年来も付き合っているバックロード・ホーン型エンクロージャー、ハークネスの中に収めたD130とはまた違って、もっともマニアにとって手近な形の低音用ユニットを考えると、平面バッフルに取り付けた最新型モデル136Aウーハーがある。これは従来のウーハー130Aより、ずっとf0を下げた点で、家庭用としてはロー・エンドをはるかに拡大できるユニットだ。低音用ユニットとのクロスオーバーとしてJBLのネットワークには、LX5またはそのプロ用の3110がある。この木製ホーンは、一応カット・オフ周波数が500Hz、使用クロスオーバーとして800Hzを指定されるが、375という強力ユニットと、家庭用として、アンプから送りこむパワーを、それほどの大きさにすることはないという前提のもとに、その音響エネルギーの中域でのレベル・ダウンを予測すれば、500Hzを選ぶこともできる。
 こうした変速用クロスオーバーでの使い方は、色々な問題点もないわけではないが、その創り出される音色バランスからは意外なほどに、おとなしいサウンド・クォリティーが得られるので、ぜひ試聴されることを強く望む。木製ホーンは決して問題点を悪い形では現わさない。
 さて、136Aは、中域でやや控え目ながら、ロー・エンドはずっと伸びて、平面バッフルでも至近距離では実にゆとりある深く豊かな重低音を楽しませてくれる。こうした高級なシステムを、フルに発揮するのに、JBLのディーラーであるサンスイの高級アンプは、JBLのアンプなき今、欠かすことはできまい。BA1000は、ブラック・パネルのハイ・パワー、BA5000、BA3000とはまた異った家庭用の広帯域再生に迫力あるクリアーなサウンドを発揮してくれる。プリアンプのCA3000はフル・アクセサリーで、ハードな魅力のカタマリだ。この、サンスイのアンプを組み合わせた本コンポーネントは、高級マニアも充分納得するだろう。プレイヤーでは、トーレンスTD125MKIIとピカリングXUV4500Qの組合せが極めつけだ。

●グレード・アップとバリエーション
──JBLの新製品ユニット136Aと375+2397をネットワーク3110でつなぎ、サンスイCA3000+BA1000でドライブ、次にこれをマルチ駆動、チャンネル・フィルターにサンスイCD10を用い、アンプではサイテーション16を低域用に、375+2397をさきほどのBA1000でドライブいたしましたが、結果としてはいかがでしたでしょう。
岩崎 マルチ駆動とする前に、まずやりたいことは、ここでは試みませんでしたが、ユニットをエンクロージャーに収めたいですね。これがまず第1のグレード・アップですね。これは自作でもけっこうです。実は、JBLの4350に、あるいは4340というプロ・ユースのマルチ駆動用システムに刺激を受け、触発されまして、これはマニアの間でもチャンネル・アンプを使ってみようとする気運が高まってきたと思います。これを実際に試してみるのも意義のあることではないかと思います。また、理論的に考えてみた場合、ネットワークの持つL成分、C成分というものを、無視して考えられない面がないわけでなく、とりわけインダクタンスを持つコイルにおける直流抵抗分がスピーカーのボイスコイルに直列に入ることを考えた時、それがたとえごくわずかでも、ゼロではない限り、なんらかの形で影響が出てくるということも考えられますね。確かに理論上、わずかでもダンピングの面で理想状態より悪くなってしまう。そのあるかなしの、ごくわずかの問題点であっても、たとえ神経質と言われようと取り除く方向で努力するのが世のマニアの常なんでしょうね。理想に一歩でも近付こうとする努力がマルチ・アンプ・システムなんですね。さらに言うなら、自分だけの、オリジナルなシステムを究極に求めるならば、自分の嗜好をより完全な形で求めようとするのは当然だと思うんです。それを端的に表現できるのがマルチ・チャンネル・システムだと思うんです。クロスオーバー周波数をはじめ、レベル調整でも、ネットワークに付随する減衰量のあらかじめ指定された点以上に、自由に、1dB、0・1dBといったわずかの変化量さえ可変できるし、またクロスオーバー付近でのスロープ特性も6dB、あるいは12dBと、自由に選べます。すなわち、あらゆる意味で、良い音というものを判断できる耳があり、自身があるならばある程度完全に近い形をとりうる方式だといえますね。
──低域に使用していただきましたサイテーション16に関してはいかがでしょうか。
岩崎 このモデル16というアンプは、力強さ、エネルギー面におきまして、海外製アンプの中ではとりわけ質の高い強力な製品で、とても150W+150Wとは思えない、それ以上のものを感じさせてくれますね。回路的に見ますとこれは左右を完全に分離した独立電源を用いておりまして、超低域におけるクロストークを排斥することで、再生音場に対するマイナス面を除去しよう、という試みがされています。またLEDによるパワー表示はどうも日本人の好みとは異るようですが、しかしピーク表示という意味に関してはこれほど正確なものはないわけで、性能的にはメーター指示よりはるかに上回るものを持っており、ハイパワーアンプにはさわしい方式だと思いますね。

アルテック Belair(組合せ)

岩崎千明

スイングジャーナル臨時増刊モダン・ジャズ読本 ’76(1975年秋発行)
「理想のジャズ・サウンドを追求するベスト・コンポ・ステレオ25選」より

●組合せ意図、試聴感
 おそらくこれを見たマニアは、誰しもむしょうに欲しくなってしまうだろう。マニアとしての熱が高ければ高いほどに。マイクロの新型ターンテーブルDDX1000だ。
 いずれ新たに本誌をはじめ、多くの誌面を賑わすに違いないこの、ユニークなターンテーブルは、従来のプレイヤーの概念をまったく変えてしまった。
 手段と目的とを、豪華な形でこれほどまでに見事に結合した製品は、オーディオ界全般を考えてみても滅多にあるまい。まさにプロフェッショナルな現場で活躍する、カッターレース用のターンテーブルを、そのまま切り取ってきたとでもいえようか。プロフェッショナルな豪華さを、これほどまでに徹底的に意識して追求したターンテーブルは、他にあるまい。
 このマイクロのDDX1000を入り口に置いて、このコンポはスタートした。だから、メカニカルでプロフェッショナルなフィーリングを、コンポ全体に置こうと意識して、モニター的スピーカーを選び、マニア的マランツを選んだのだ。それも、プリアンプ、パワーアンプと確立した、セパレート型アンプだ。♯3200と♯140の組合せがそれである。
 さて、アルテックのベルエアは、すでにデビュー以来数ヶ月、しかし、商品の絶対数が足りず、よって日本市場での需要に応じ切れず、ディーラーはその対処に弱っているとか。ブックシェルフ型とはいえ、サウンドの上でも、またグリルを外した外観上にもモニター的な雰囲気をぷんぷんと生じる、オリジナル・アルテックの2ウェイ・システムの新製品なのである。
 このアルテック・ベルエアを思い切り鳴らしてくれるアンプに同じ米国西海岸(ウェスト・コースト)の、今や全米きっての強力きわまるアンプ・メーカー、マランツが登場するのは少しの不思議はないだろう。♯3200は、例の大好評の♯3600をベースとした、ジュニア型ともいえるプリアンプで、それとコンビネーションになるべき♯140は、先頃発売されたプリメイン・アンプ♯1150のパワー部を独立させたものともいえる、ジュニア型のパワーアンプだ。ともにデビュー早々で、特に日本市場の高いレベルのファンを意識した商品であろう。
 パワーアンプは、深いブルーに輝く大型VU計をパネルに備えて、みた目にもマニア・ライクだ。
 期待した通り、サウンドはマランツの共通的特長の力強いエネルギー感の溢れるものだ。それは70W+70W以上のパワー感をもってベルエアを、文字通りガンガンと鳴らしてくれた。ベルエアはそれ自体、朗々と鳴ってくれるシステムだが、その期待をさらに高めさせたのがこのマランツのサウンドだろう。ややもすると響きすぎのベルエアの低域は、マランツの力によって内容を充実した味を濃くしたといえそうだ。緻密なサウンドとなったこのベルエアのサウンドの響きは置き場所を選ぶこともなくなっただろう。
 プレイヤーのハウリングの少なさは構造上の特質としてアピールされるが、ベルエア-マランツによって得られる十分にしてパワフルな低域も、このシステムの低域の素晴らしさを一段と高める大きなファクターといえるし、試聴に使用したレコードをも申し分ない状態で再生できた。

●グレード・アップとバリエーション
──「ミンガス・アット・カーネギー・ホール」がすごくごきげんに鳴っていて、私達にしてもかなり楽しめたと思うんです。
岩崎 そうですね。でも、このベルエアというかなりの高能力スピーカーを持ってしても、なお♯140というマランツの70W+70Wのパワーアンプではドライブしきれない面がありました。どうしてももっとパワーが欲しいなと思いましたので、さらにパワー・アップを図るべく、同じくマランツの♯240を追加することで良好な成果がえられたと思います。♯240はメーターの付いていないタイプですがメーター付きの♯250と同規格製品です。予算とかデザイン、すなわち好みに合わせてどちらかを選べばいいと思いますが、ここでは実質一本やりで♯240としました。
──歴然と差が出ましたね。
岩崎 音の力強さが格段に違いますね。パワーの差だけではない、音のエネルギーそのもののグレード・アップだと思いますね。しかし、価格以上のものは得られていることの証拠に、音の出方そのものの、リアリティまでさらに一段と加わってきたと思うんです。本来はソウルフルな、黒い音楽を楽しもうということでプランをスタートさせたわけですが、パワーアンプを♯240に替えることで、さらに忠実度の高い、プレゼンスに富んだ、ジャズの熱演をより一層リアルにとらえることができましたね。
──そうですね。まさに狙い通りといったところでしょうか。加えて音そのものを一段と研ぎすまされたものにしようというお考えのようですが。
岩崎 音の輪郭をクリアーにし、エッジをとぎすますという意味ではカートリッジでのグレードを上げてみました。最初に用いたグレースのF9Lを最近発売されたピカリングのXUV4500Qにかえてみようと思いました。この他にも海外製品ではスタントン681EEE、エンパイアなど、いろいろ考えられるわけですが、現代的なサウンドを非常に広帯域で、しかも技術の新しさも感じるXUV4500Qを用いました。これは、この場合非常に成功したと思いましたね。一般に、このピカリングのカートリッジは、音がはね上ると言われていますが、決してそんなことはなく、確かにスタントンの方が落ち着いた音がしますが、XUV4500Qでは一聴してレンジの広さを感じさせる、フラット・レスポンスで、高域での解像力は抜きんでていますね。現代アメリカのハイファイ技術の最先端を行く、良さというものが各部にびっしりとうずめつくされているといった感じがしますね。
──そうですね。レコードの録音の良さがまさに明解に表現されているといった感じのサウンドのようですね。
岩崎 たとえばここで聴くキース・ジャレットにしましても、その透徹したサウンドが一段と透徹してくると申しますか、どちらかといえば、録音の良いレコードほどその真価を発揮するシステムだと思うし、またカートリッジをピカリングにすることでその傾向がさらに強まったと思うんです。音のメカニズムというものを、ずっと深くつきつめて考えていった場合、どうしてもこうしたシステムを組むことが私には必然性を持ったものに感じられますね。

JBL LE8T(組合せ)

岩崎千明

スイングジャーナル臨時増刊モダン・ジャズ読本 ’76(1975年秋発行)
「理想のジャズ・サウンドを追求するベスト・コンポ・ステレオ25選」より

●組合せ意図、試聴感
 JBL大型システム・パラゴンを聴くようになってから、至近距離できくマルチウェイのシステムの持つ「ステレオ音像の不自然さ」がやたら気になるこの頃だ。ほんの、ちょっと顔を左右にふっただけで、その正面の音像はスッと位置を変える。それだけならまだよくて、音域が変わるにつれて、その音像は大幅に移動してまるで躍るように動き廻る。首をふらなければそうしたことはほとんど意識されずにすむかも知れないが、逆に気になり出したら、頭を動かさなくても気になり出す。
 こうした現象を避けるために、永い間、ラジアル・ホーンとか、放射レンズつきの中高ユニットとの2ウェイで通してきたが、むろんスピーカーの振動板の構成がシンプルなほど有利になるので、シングル・コーンのフルレンジ型ひとつのシステムを用いることがもっともオーソドックスな解決法であり、理想的なテクニックでもあるといえよう。
 だから、ここではぐっと後戻りの印象を受けるかも知れぬがLE8Tを用いることにした。もうひとつ考えられるのにアルテックの755Eパンケーキと呼ばれる永く愛されている755Eが考えられる。
 LE8Tのプロ・シリーズ2115は、それはハイエンドの拡大という点で一挙向上してはいるが、聴きやすさとか音楽としてのバランスの点でLE8Tの方が、かえっていいくらいといえそうで、ここでは予算が限られたこともこともあってユニットを購入して平面バッフルに取付けて用いることとする。21mmのベニア合板を2つに切って90×90cmの板の中心からやや下にずらした所に17cmの穴をあけて用いる。
 さてLE8Tを鳴らすのに最初一般的なリスナーの便利さを考えてレシーバーを用いるつもりだった。
 しかし、ちょうど出たばかりのヤマハCA−X1という普及価格のアンプを見、それを試聴してみてこれを採用した。今までのヤマハのアンプのようなジッとおさえた控え目な鳴り方ではなくて、スピーカーを朗々と鳴り響かせてくれるのが驚きであり、嬉しい限りだった。効果的にCA−X1の採用は大成功だったといってよかろう。決してこのX1はパワー競争の所産ではないので、あり余るパワーとはいえないにしろ、LE8Tというさして大きくないスピーカーをガンガン鳴らすには不足はまったく感じさせることはない。それどころかゆとりも感じるので、低音コントロールを2ステップほど上げて、平面バッフルによる低域の不足を補うことさえできる。つまりLE8Tを90×90cmという平面バッフルできくにはこの程度の補正は必要である。
 プレイヤーのヤマハYP511は白い木目でなく、落ち着いた雰囲気で高級感も十分で、新型の多い中にあってもまずお買徳。ヤマハの例によってカートリッジのシュアー製も大きなプラス・アルファだろう。
 さてこのCA−X1にはコンビとなるべきチューナーもあり、こちらもまた大変に優れたクォリティーで、価格からはどうしても信じられぬほどだ。

●グレード・アップとバリエーション
──おもに「ドラム・セッション」のレコードなどを聴かせていただいたわけですが。
岩崎 そうですね。音の定位というものをここで少し考えてみたわけで、シングル・コーン一発という形をとってみようと思い、LE8Tを一本、平面バッフル仕様としましたが、どうも低域の伸びが不足しがちで、「ドラム・セッション」での、あのオンな感じのドラムの音が間近に、力となって量感をともなって出てこないんです。どうも箱がないとね。そこで、グレードアップの第一としてはこのLE8TをサンスイSP−LE8Tの箱に収めるという作業ですね。もちろん低域をアンプでブーストしてやるという手もあることはありますが。
──次に、音の解像力という点ではいかがですか。あのシンバルの音をよりリアルにとらえるにはどうすればいいでしょうか。
岩崎 その点では、YP511付属のカートリッジでは、音が平均的になりすぎて、力となって出てくる部分に物足りなさを感じますね。音にメリハリをつけ、さらに解像力をも増すという面で、私はオーディオテクニカのAT15Saに魅力を感じました。これを使う方向でいけばいいでしょう。またもう一つの方向としてMC型のカートリッジを使うということで、この場合、出力電圧の少なさという面でハンディがあるわけですが、高出力型MC型もありますので、オンライフOMC38−15Bなどは非常に一音一音をくっきりと浮き出させ、しかも力強さも持っていますね。その点、デリケートさとは違う意味での細やかな表現も可能としてくれる素晴らしい製品だと思います。サテンのM117というカートリッジも似たようなタイプですしね。ただ音の傾向としては以上あげたカートリッジは、それぞれ異った性格を持ったものだけに、できれば何かの機会を得て、聴き較べ、自らの感覚にそった選択をしてほしいですね。
──この「ドラム・セッション」における生々しいリアリティーを持った音は確かに素晴らしいものだと思いますが例えばバリエーションとして、もっとボーカルなら強いとか、やわらかな味を持ったとかいう、別の良さをそれに付け加えたい時にはどうしたらいいでしょう
か。
岩崎 リアルな音像再現という点で、ヤマハCA−X1は抜群の偉力を発揮しますが、たとえば、もっと生の演奏の持っているやわらかい雰囲気を狙う場合、最近話題となっているFETを使用したパワー部を持つアンプの使用は有効だと思いますね。その意味ではソニーTA4650、日立Lo−DのHA500Fが考えられますが、結果、HA500Fでは中域のやわらかみが良く出てきて、ボーカルでは品の良い──たとえばアニタ・オディの声がそれほどやわらかくて品がいいとも思えないんですが(笑)──響きの良い豊かな声が聴かれますね。これはもう、それだけで大変な魅力ですね。また、ソニーTA4650では、CA−X1とHA500Fの中間をゆくというか、両方の良さをうまく兼ねそなえたものを持っていましたね。「ドラム・セッション」でのタイコの皮の張り具合がゆるむこともなく、しかもサックスやトランペットなど、管の再生にもやわらかな丸みを帯びた、それでいてリアルな音で楽しめましたね。

スペンドール BCII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 明るく豊かに屈託のない鳴り方。むろんそれは新しいモニター系の、帯域を広くフラットに作るという方向での、しかも明らかにイギリスの音質の範疇での話だが。このスピーカーの音のバランスは、ひとつのスタンダードな尺度としてもさしつかえないほど見事である。これをたとえばジョーダン・ワッツのTLSと比べると、より温かく中域が豊かで、解き放たれたような広がりで鳴る。むろんTLSの抑制を利かせた鳴り方も一方の対照として魅力的だが。BCIIは、低生きてもあまり音を締めない作り方だが、しかしダブつくわけでなく解像力も良い。新しいプログラムソースのダイナミックな音にも正確に反応する。いかにも音の鮮度が良く、イギリス製の中ではむしろ積極的に語りかけるような親密感を鳴らすところが魅力といえる。アンプやカートリッジもグレイドの高い、緻密な音の製品を組み合わせること。専用のスタンドを借用する方がいい。左右に十分にひろげてセッティングするのが良さを引き出すコツといえようか。

グッドマン Achromat 400

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 久しく鳴りをひそめていたグッドマンだが、むかし愛用したスピーカーだけに、待ちこがれた感じで鳴らした。結論をいえば、イギリスのひと世代前の、キラキラ光る細い金属線のような高音と、やや手綱をゆるめて鳴らす低音のあいだにはさまれてむしろ抑えた感じの中音という、例のイギリス・トーンが鳴ってきて、もう少し現代ふうのフラットネスを期待していた耳には、ちょっとがっかりという感じだった。しかしそれがイギリスの地酒というか地方色であることを頭において聴きこんでゆくと、ひろがりと奥行きのよく出る音場感。ヴァイオリンのハイポジションに特有の光沢と輝きが聴きとれる点。かつてのグッドマンの持っていた、渋さにくるまれた高域の独特の華やかさが、やはり世代が変っても鳴ってくるところがおもしろい。こういうクセの強い音を聴き馴れない人には理解されにくい音かもしれないが、うまく鳴らしてゆくと、これでなくては鳴らない味が、私には一種の魅力である。専用のスタンドがなかなか合理的でよく考えられている。

ESS amt-1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 低音から高音までの音の自然さ、バランスのよさで、今号掲載分の中ではスペンドールと比肩できる良いスピーカーだと思った。ただ、そういう良さを出すには、使いこなしに多少の工夫が必要だ。まず配置の面では背面をなるべく固い壁につける方がいい。これで低音の土台が非常にしっかりしてくる。レベルコントロールは〝NORM〟が良かった(BRIGHTとSOFTポジションあり)。限られたスペースでいろいろな曲についての詳細は書けないが要するに、すべての楽器に対して品位の高い、な滑らかで繊細な、適度に、艶も乗った美しい音色で、これは価格に対して相当にグレイドの高い掘り出し物だと思った。艶という点では、ヨーロッパ系の濡れたようなみずみずしさには及ばないが、しかしアメリカの製品としてはきわめて夜広っぱ的な清潔な響きの美しさを持っている。解像力もよい。この音を生かすには、アンプやカートリッジに、かなり緻密な音を組み合わせるべきだ。たとえばエンパイア4000やEMT。そしてマークレビンソン系のアンプ。

JBL L36 Decade

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 鮮烈、というとオーバーかもしれないが、たとえばあれほど鮮明な鳴り方をするヤマハ1000Mが、これとくらべるとおとなしく聴こえるといえば、まず全体の感じを大掴みに説明できる。必ずしも極上の品位とはいいにくいが、この一種新鮮な鳴り方はやはり魅力で、とくにポピュラー系では、音像をくっきりと隈どって、低音弦の弾力的な鳴り方に支えられて、むろんナマとは違う作られた魅力であるにしても、音離れのいい、腰のくだけない力の強い音を聴かせる。クラシック系をどこまで鳴らせるか挑戦してみようと、レベルコントロールの中音(プレゼンス)を-2に、高音(ブリリアンス)を-1にしぼった。これでも鮮鋭さは失われないが、これ以上絞っては、音のバランスもJBLの魅力も失われてしまう。高い台に乗せてアンプで低音をやふ増強してみると、量感が確実に増す。スクラッチノイズの質からみても中~高域の質感は決して上等ではないが、ともかくまとまりの良さでつい聴かされてしまう。クセも強いが妙に魅力的な音。

ジョーダン・ワッツ Jupiter TLS

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 抑制の利いた端正な鳴り方。低音から高音まで、でしゃばらず、しかし独特の魅力的な渋い光沢で聴かせる。周波数レインジも相当に広く、明らかにイギリスの新しい、フラットネスとワイドレンジを目ざした作り方だ。箱鳴りを完璧なまでに抑えてパワーを上げても低音をやや増強しても、低音楽器の音階が明瞭で、オルガンのペダルトーンも、ファンダメンタルが気持よく聴ける。あらゆる音に、イギリス紳士のような節度があって、しかしそこによく練り上げられた周到なバランスが作り上げられ、オーケストラからソロものまで、さらにジャズ系まで、ほどよい張りと明瞭度の高い自然な響きをともなって、こころよく聴き込むことができ、テストであることをつい忘れさせる。ハードな現代のプログラムもけっこうこなせるだけの力を持っているし、カートリッジやアンプもEMT、マークレビンソンといった緻密で新鮮な傾向がよく合う。壁にぴったりつける方がよさそうだ。バルバラのインティメイトな声が忘れがたい。

ラウザー Auditorium Acousta

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 少し古い世代の製品で、独特の持ち味で聴かせるスピーカーだから、現代のモニター系を聴くような尺度とは正反対の聴き方をしないと、良さが理解しにくい。とくにこの製品は、正面と背面とに音を分散放射するタイプだから、部屋の音響条件や置き方の変化によって大幅に音色やステレオ効果が変化する。今回の試聴では必ずしも最適の配置ができたとはいいにくいが、それでも、ことにヴォーカルやコーラスの場合に、一種独特の温かみをともなって、多少の古めかしさはありながら品の良い響きで不思議に幸福感のようなものにひたることができる。オーケストラも、あまりパワーを上げずに、トーンコントロール等でうまく補整すると、端正な、音を分析するよりも全体にくるみこんでしまうような、滑らかで品の良い響きで聴き惚れさせる。古い録音、小編成の曲、渋い曲に向いている。反面、新録音のスケールやダイナミックス、或いは解像力の良さなどを鳴らすだけの力はない。アンプ、カートリッジもそういうカテゴリーから選ぶとよい。

KLH Classic Four

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 AR・MSTのところでも、アメリカ東海岸の製品がハイを落して作ることを書いたが、同じボストン生まれのKLHのこの新型が、偶然そのことを説明してくれる。というのは、端子板のところにトゥイーターのレベル切換スイッチがついているがこの製品ではそれが二点切換えで、一方にNORMALの表示がある。問題はもう一方のポジションで、そこには何と、FLATと書いてあるではないか! つまり彼らの耳には、フラット即ノーマルではなく、ボストンの彼らの耳、ないしは東海岸のかなり多くの人たちの耳には、フラットよりもやや高音を落しかげんにセットした音が「ノーマル」に聴こえるという事情を、この製品が物語ってくれる。私はFLATのポジションで聴いた。モデル5や6のやや乾いたしかし暖かい音色をこの新型も受け継いでいるが、どういうわけか、音のバランスでは6型が、総体的な響きの良さでは5型の方が、それぞれ完成度が高いように、私には思えた。カートリッジでは、シュアーやエンパイアが良さを引き出す。

エレクトロボイス Interface:A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 キャビネットの背面の音の一部を放射するという、オーソドックスな製品とは違う作り方なので、ふつうの評価尺度をそのままあてはめるわけにはいかない。が、EVのスピーカーが昔から持っていた耳当りの良いまろやかなバランスはこの製品にも受け継がれている。東海岸系の一部のスピーカーのような反応の鈍さがない。音量を絞ってもハイパワーを放り込んでも、一貫して過不足のないやわらかなバランスの良さで、クラシックでもジャズでも、適度に渋い表現で楽しませる。構造上、バックの壁面から離す距離によって音のエフェクトが変るが、試聴時は壁から50センチほど離し、あまり低くない台(50センチ~60センチ)に乗せたときが、部屋の中いっぱいに音が広がる感じでよかった。ただし、こういう音質ではオーソドックスなスピーカーのようなシャープな定位は出にくい。その反面の、やわらかくひろがる響きを楽しむというタイプだから、居間などで上等のステレオの響きをムードとして楽しむという目的にその本領を発揮しそうだ。

アルテック X7 Belair

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 いままでのアルテックの音という先入観で聴くとちょっと戸惑うほど、違った音質になっている。むろん昔から一貫している音の味わいの濃さ、あるいは一種脂の乗ったような線の太い、表情の豊かな表現というアルテックの特徴は十分に受け継いでいる。が、以前のアルテックからみると、高音のレインジが別もののように拡張している。そのために、アルテックにしてはびっくりするくらい、楽器の高次倍音のニュアンスや、演奏にともなうざわめきのような雰囲気を鳴らしてくれる。ただしその鳴り方は必ずしも繊細緻密という感じとはいいきれず、どこか大掴みで、まだ十分に練れているとはいえない元気の良い感じがつきまっているが。このスピーカーは割合低目にセットする方がいい。トゥイーターのレベルセットが連続可変なので、大掴みなバランスがとれたあとは、やや時間をかけて細かく合わせこんでゆく必要がありそうだ。ヨーロッパ系の品位やデリカシーを重んじる作り方とは正反対の大味な表現が、好きか嫌いかの分れ目になる。

アコースティックリサーチ AR-MST

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 梅雨の長雨の最中で、ARにとっては非常に具合の悪い環境であったにちがいないが、どことなくいじけた、明るさや弾みに欠けた音で鳴りはじめた。もうひとつ困ったのは、極端にハイが落ちたバランスで鳴ることで、これはARやKLHなどアメリカ東海岸の製品に共通の作り方だということは知っていても、少なくとも現代のハイファイスピーカーの流れの中では、高音を落しすぎではないかと思う。言いかえれば、この音は、アメリカ東海岸の一地方色とでもいうべきで、日本やヨーロッパの現代のスピーカーの音の掴え方からみるともはや異色の作り方である。こういう特徴のある音は、この音を好むか嫌うか、聴き馴れるか馴染めないかという問題になるのだろう。レベルコントロールを最大(インクリーズ)、カートリッジをエンパイア4000DIII、アンプのトーンコントロールでハイを上げて、バランスとしてはまあまあ整ったが、それとは別に音の余韻あるいは響きを抑える感じの、あるいは艶を消す傾向の鳴り方が、私にはどうしても馴染めない。

JBL L16 Decade

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 小柄なくせに、ハイパワーで鳴らしてみると、信じがたいような堂々としたスケール感を聴かせて、少しも音がくずれない。JBLの一連の製品に共通の、クリアーで芯のしっかりした、カリッと詰まった音色をやはり受けついでいて、ことに打楽器を主体としたプログラムに対して、右のような偉力をみせる。ところが中音から高音にかけて、やや線の太い、どこか鼻にかかったような独特の音色を持っていて、弦やヴォーカルの音色に相当に個性の強い色をつけて鳴らすし、その鳴り方が本質的にドライなところがあるため、弦や声の内包している情感のような面を一切断ち切ってしまう。JBLの製品は、総体に贅沢の上に成り立っているので、ここまでコストダウンするのはもはや無理なのではないか。トゥイーターのレフベルセットをいろいろいじってみたが、結局「0」(ノーマル)以外にやりようがなかった。カートリッジはオルトフォン(VMS)系よりもシュアー、エンパイア系が合う。やや低めの台、壁にあまり近づけず、左右に拡げ気味にセットしたときがよかった。

ビデオトン D402E Supermax

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 これを聴いたあとしばらくのあいだは、何かほかのことで気分転換をしてから次のスピーカーの試聴にかからなくては、ほかの音がすべてピンボケのように聴こえる。それくらい特徴のある、ものすごくメリハリの利いた、艶々しい、彫りの深い、そして聴き手をいつの間にか引きずり込んでゆくような、説得力というのか深情けというのか、それともインティメイトというのか、どうも言葉の方が上すべりしているような、何しろ独特の音を聴かせる。ではこれが不自然に作られた人工的な音なのかというと、そうもいえない。聴いているうちに、たしかにナマの楽器の音にはこういうシャープな艶があるとおもえてくる。おそろしく化粧の濃い顔かと思ってよくよく観察するとそれが彫りの深い化粧気のない健康な顔であることに気づく、というような感じで、もういちど自宅でゆっくり聴き込んでみたい気がするし、この音にとりつかれたらほかのスピーカーなんか嫌になるのじゃないか、という気にもなる。なにしろびっくりした。

デュアル CL172

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 とてもバランスの良い、上質の響きを持ったスピーカーだ。価格の割には小型で、低音弦の胴鳴りのようなスケールの大きい響きまでを実感的に鳴らそうというのは無理だが、たとえば、カラヤン/ベルリン・フィルのエグモント序曲の場合など、この価格帯の製品の中でもことに好ましいバランスで、適度の厚みもきめの細かさもあり、内声の動きも問題なくすべてバランスして、緻密に、ユニゾンの響きも美しく聴きほれさせる。低音から高音までのバランスのとり方は、国産でいえばSX551にどこか似ているともいえるが、それよりももう少し抑制の利いた光沢を感じさせるところがやはり海外製品だ。ただしブラウンやヘコーから予想するような、かつてのドイツのスピーカーに際立っていた硬質な音はこの製品からはあまり聴きとれない。それだけいわばインターナショナルな方向に磨きをかけた音になっているわけだ。低音のファンダメンタル領域の厚みを欠くためか、わずかながら冷たい傾向の音質だが、なかなかいい味わいを持った製品だった。

オルトフォン type 225

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 全体の構成、あるいはソフトな耳あたりのいいバランスのとり方、帯域をあまり広げないで穏やかな音に仕上げるという作り方にスキャンダイナのA25との共通点が聴きとれる。同じ国の、しかも同じ系統のメーカーの製品であるだけに、世界的にみれば同じ傾向の音に仕上るのが当然かもしれないが、後発の製品にしては少しおっとりしすぎる音質に思える。試聴したのがちょうど梅雨の最中であったには違いないが、その点では他のスピーカーも同条件。よくいえばソフトだがしかしちょっと曇りすぎというか鈍重な音がして、もう少し抜けを良く、解像力を鮮明にしてみたいといろいろ試みたがやはり本質的に持っている性格まで変えることは無理のようだった。カートリッジのオルトフォンの音を頭に置いて、少し高望みしすぎなのかもしれないがもう少しひらめくような魅力があってもよさそうだ。その意味では、355がもっとクリアーな響きを持っているし、455には重厚さがある。そっちの方を試聴に加えたかった。

ヘコー SM625

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

『磨きあげたガラスのような硬質のクリアーな質感、張りつめた緻密な音、ショッキングなほど……』と表現した以前のシリーズ(本誌29号その他参照)のイメージを頭に置いて試聴をはじめて、しばらくのあいだは拍子抜けするほどがっかりした。全然変ってしまった。あの、爽快なほど気持の良い辛口の最右翼だったヘコーが、なんでこうも、ふつうの音に変ってしまったのか。こんな音ならなにもヘコーである必要がないじゃないか……。そういう感想が一応おさまってから改めてよく聴きこんでみたさすがに、クラシックのオーケストラを鳴らしても、音楽的なバランスは見事に整っている。ただ、くり返しに鳴るが以前のヘコーとは正反対のように、高域は丸くおさえこまれて、総体に甘口の、耳あたりのいい音に仕上がっている。小型、ローコストだから、低音の量感などは、使いこなしでカヴァーする必要がある。というわけでこの製品自体決して悪くないが、かつてのあのヘコー・サウンドを満喫したい向きは旧製品P4001を探すこと。

アドヴェント ADVENT2

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 明るくよく弾む音。以前のアドヴェントのような変に乾いた音色でなく、適度にツヤの乗った、輪郭の鮮明な音がフレッシュな印象を与える。とても楽しい音質で、ポピュラー、クラシックの別なくクリアーで分離のよい音を聴かせる。デザインはどことなくブラウン、ヘコーばりだが、白いキャビネットの外装はプラスチック製とユニークだが、むろん共振は注意ぶかくおさえられ、箱鳴り的なクセはほとんど感じられない。小音量から大音量まで、音色がよく統一されている点もよい。たたじ極端なパワーは入れられない。いわゆるパワーに強いというタイプではないようだ。レベルコントロールがないので、置き方のくふうで良いバランスを探すことが必要。シュアーV15/IIIの品のない音を露骨に鳴らしてしまう。オルトフォンVMS20にすると、格段に品位の良い音質を聴かせる。したがってアンプもグレイドの高いものが必要。構成の割には高価という輸入品のハンディを考えても、一聴に値する注目製品、といってよいだろう。

エレクトロリサーチ Model300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 ローコストグループの中では、条件つきながらクラシックを一応楽しめるスピーカー。というのは第一に、演奏上のテクニックや楽器の音色の変化や各パートの動きなどのニュアンスをわりあいよく聴かせるからで、これは国産のローコストスピーカーには望みにくい長所である。低音は本もののファンダメンタルはむろん出ないにしてもオルガンなどでもけっこう感じはよく出るし、高音のレンジも広い。中音はややおさえぎみで薄手の感じ。したがってヴォーカルなどハスキーすれすれの鳴り方、あるいは弦合奏も倍音の上澄みが強調されるような傾向があるが、総体に柔らかくよく広がり定位も奥行きもあまり難点がつけにくい。能率が低くハイパワーに弱い(たとえばカラヤン/エグモント序曲のオーボエが変にビリついたりした)ので、サブスピーカー的、バックグラウンド的に使うのが本来の生かし方だろう。つい聴き惚れさせるといった魅力があり、輸入品のローコストスピーカーとしては音のまとめのセンスがいい。

マークレビンソン LNP-2

瀬川冬樹

月刊PLAYBOY 7月号(1975年6月発行)
「私は音の《美食家(グルマン)》だ」より

アメリカには、超弩級のマニアがいる。マーク・レヴィンソンもそのひとり。まだまだ納得がいかないといいながら、世界最高のプリアンプをつくった。
黒ヒョウを思わせるパネル前面に並ぶ無数のツマミは、ただひたすら、カートリッジがひろった音を、忠実無比にスピーカーに送りこむ。このプリアンプあってこそ、カートリッジもスピーカーも、その真価を発揮するといえる。ビューティフルなメカが、ハッピーなサウンドを生む好例だ。アメリカ、マーク・レヴィンソンLNP2(プリアンプ)108万円。

セクエラ Model 1

瀬川冬樹

月刊PLAYBOY 7月号(1975年6月発行)
「私は音の《美食家(グルマン)》だ」より

世界のオーディオ界を、アッといわせたかつての名チューナー、マランツMODEL10Bを作った技術陣がセクエラという別会社をつくって製作した最新のチューナーである。現代エレクトロニクスの粋を集めて作ったこのセクエラ・MODEL1は、128万円。もちろん、周波数帯域は、日本のそれに、本国アメリカで修整されている。オシログラフのさまざまな波形が、聴く楽しみと同時に見る楽しみをもつけくわえている。

ウーヘル CR210

瀬川冬樹

月刊PLAYBOY 7月号(1975年6月発行)
「私は音の《美食家(グルマン)》だ」より

こじんまりと、コンパクトにまとめられたカセット・デッキ。西ドイツ、ウーヘルCR210、21万円。いかにもドイツのメカらしく、内部の配線の美しさは、比類ない。小型にもかかわらず、機構はよくととのっていて、再生もオートリバースである。
音も、超小型とは思えないほど、クリアーでしっかりしている。サンショは小粒でもピリリと辛い、大は小を兼ねない、という好例か。
いたって軽く、持ち運びにも便利このうえない。

KEF Model 5/1AC

瀬川冬樹

月刊PLAYBOY 7月号(1975年6月発行)
「私は音の《美食家(グルマン)》だ」より

人間の肉声を、これほど忠実に、また魅力的に再現するスピーカーもない。とくに、女性ヴォーカルの艶っぽさは、古今にその比をみない。演奏会場を、眼前に見る思いともいえようか。イギリス・KEF社の新製品、MODEL5/1AC。パワーアンプ内蔵で予価60万円。この5月以降、日本国内で販売されはじめる。

KEF Model 5/1AC

瀬川冬樹

月刊PLAYBOY 7月号(1975年6月発行)
「私は音の《美食家(グルマン)》だ」より

前記KEFの前面サランネットをはずしたところと、同スピーカー組み込みのパワーアンプ、AD108P。探春で素朴なこの内部から、繊細なひびきが再現されることに驚かない人はいない。スピーカーの四隅をよぎるボードの切れ込みに注意されたい。指向性を良くするためのKEF独特のものだ。