Category Archives: 国内ブランド - Page 82

トリオ L-07C + L-07M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 同じトリオの製品でいえば、プリメインアンプのKA9300のグレイドアップ版とでもいえるだろうか。ちょうどその時期にトリオの目指していた音は、どちらかといえばいくぶんコントラストを強調した、輪郭の鮮明な、そして低音をかなり引き締めた、ややハードな傾向だった。ただ、その中にたとえば弦楽器のような音にも、しなやかに反応してゆくナイーヴな面をあわせ持っているところが、単に硬い一方のアンプとは明らかに違う良さだ。07C/07Mの組合せにもほぼそのような性格が聴きとれる。それは、プログラムソースでいえば、どちらかといえばポップス系に、また組み合わせるスピーカーでいえば、JBL系よりはヨーロッパ系との相性、が感じとれる。言いかえれば、JBL系でクラシックを鳴らしたりすると、説明過剰というか、音の輪郭の鮮明すぎるところが多少鼻につく結果になりがちともいえる。05Mとの組合せの方で書いたように、最近のトリオは少し方向をかえている。

オンキョー Integra P-303 + Integra M-505

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 大づかみにウェット型そしてどこか女性的なやさしさ。しかしLo−Dの7500や7300のところで書いたような、線の細い感じとは少し違う。決して音がひょろひょろしたり頼りなくなったりしない充実感も密度も、そして低音のしっかりした支えもほどよく持っていて、音域の中での欠落感のようなものがなく、バランスもよく整っている。その上で、音楽している演奏者の表情というか、表現上のニュアンスがとてもよく感じとれ、さらに空間にひろがってゆく音の余韻の響きと溶けあいの繊細な美しさも十分に再現できる。たいそう滑らかで上質の音といえる。弦や女声はもちろん、ベーゼンドルファーの艶や弾みもよく出るアンプはこれ以外には少ない。欲をいえば、こういう柔らかな音を鳴らしながらも、もうひとつピシッと引き締った冷徹な切れ込みも聴かせてくれれば満点なのだが、それはぜいたくというものだろう。しかしこのアンプくらい、鳴ってくる音と見た目の印象のちぐはぐなのも少ない。

トリオ L-07C + L-05M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 07C+07Mのところで書いたと同じたとえを持ち出すが、同じ07Cでも05Mとの組合せになると、KA9300よりもむしろKA7300Dの方に近くなる。9300のは愛、というよりその時期にトリオが作っていた音は、輪郭の鮮明さの強調が、プログラムソースや組合わせるスピーカーによってはいくぶん鼻につくようなところがあった。しかし、KA7300Dのあたりからは、そのいわばアクの強い面がすっかりこなれてきて、自己主張が抑えられ、プログラムソースに柔軟に反応してゆくナイーヴな面がいっそうよく聴きとれるようになってきた。それでいて、従前から持っていた音の構築のたしかさを失っていないから、たとえば「オテロ」の冒頭でも、このクラスのアンプとしてはかなりドラマティックな表情も再現することができる。ただ、細かいことをいえば低音でも07Cの個性(その項参照)が出てきてしまうし、いくぶん骨細に張り出す傾向もある。が、総合的にはかなりの音だ。

ラックス 5C50 + 5M21

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ラックスのトランジスター技術が高く評価されたのは、少し古い話だがプリメイン型のSQ505の時代にさかのぼる。ただそれからあとのしばらくの間、少々低迷ぎみの時期が長く続いたが、今回のこの「ラボラトリー・リファレンス」と名づけられた新シリーズで、ラックスは再びその持てる技術力を出し切って全力投球したという印象だ。このシリーズは、どの製品をとっても、現在の世界の水準からみても相当に高いレベルにあるといえるが、その中心的な存在がこの5C50と5M21の組合せだ。音の品位の高さ、透明な解像力の高さ、そして緻密でしっとりと肌ざわりの滑らかな質感のよさ、とても素晴らしいできばえだ。しいていえば、ラックスというメーカーが体質的にもっている真面目さもまたストレートに出ていて、単体それぞれよりも組み合わせた音の方に、かなり真面目な音を感じてもう少しハメを外してもという気にさせるが、それは私のような不真面目人間の言うことだろう。

ラックス CL32 + MB3045

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ラボラトリー・リファレンス・シリーズでトランジスター技術の粋をみせたラックスが、それでもあえて管球アンプを残しているのは、やはりトランジスターでは得られない何らかのメリットを認めているからに違いない。そのことは、音を聴いてみるとすぐにわかる。音楽が鳴り始めた瞬間から、ふっと肩の力が抜けてゆく感じで、テストしようなどという気負いを取り去ってくつろがせてしまうようなこの暖かい鳴り方はいったいどこからくる魅力なのだろう。解像力も甘いし、決して音を引き締めないから曲によっては少々手綱をゆるめすぎる傾向もなくはない。ただ、管球というイメージから想像されるような古めかしさはない。新しい傾向の音楽や新録音の魅力を十分に抽き出すだけの能力は持っていて、弦や声など、思わず、あ、いいなあ! と言いたくなるような親密感というのか、無機質でない暖かさに、ついひきこまれてしまう。こういう音を良いと感じるのは、こちらの年齢のせいなのだろうか。

テクニクス SU-A2 (Technics A2) + SE-A1 (Technics A1)

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 単体のところでも書いたようにコントロールアンプA2を二台聴いたが少しずつ音が違うので少々不安だが、良かった方の組合せの音について書く。まず大づかみには、たいへん透明感の高い、どちらかといえばウェットで線の細い繊細でしかし決して力の弱さのない緻密な音がする。バランス的には、中〜高域にわずかにエネルギーが片寄る感じがあって、たとえば「オテロ」のトゥッティではときに音が部分的に張り出しすぎることもあるが、低域での支えがしっかりしていて、音の基本的なクォリティが十分に高いために、それは欠点ではなく特色として受けとれる。総体に音の過剰な肉づきを抑えてゆく傾向があるので、ふつうの音量で聴くかぎり、どちらかといえばやせ型の音といえる。音はとても美しいのだが、そこにどこか人工臭というのか、楽器の自然の音に対してもう少し作りあげた美しさのようなものを感じさせる。しかし、音量を上げるにつれて、骨格の強い力があらわになってくる。

ラックス C-12 + M-12

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 たいそう品位の高い美しさに支えられた、しかしどこか小造りの感じのする、すっきりと整った音だ。ラックスのアンプには一貫してこの上品さがあるのだが、ときとしてそれが少々控え目にすぎると感じられることもある。ものごとをあらわにしない含みのある言いまわしは関西独特の奥ゆかしさでもある反面、少々品の悪いことを承知で腹にあることを言い切らないと気が済まない関東の人間には少々もどかしい感じがあるが、それに似ているのかもしれない。かといって押しつけがましい露骨な音は困るが、音楽を鳴らすための適度のバランスというものを頭に浮かべてみると、この12シリーズの音はやはり少々控え目すぎるように思える。この傾向はおもにC12の方がしはいしているらしい。とにかく磨き込まれた透明感のあるこの美しさは極上の水準だ。その美しさを長所とするには、しかし低音域全体の豊かな支えと、高音にかけての切れ込みが、それぞれもう少し感じとれる方がいいのではなかろうか。

テクニクス SU-9070II (Technics 70AII) + SE-9060II (Technics 60AII)

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 マークIIでない方の、いかにも物理データ・オンリィといった感じの、一応の音はするが音楽としてどこかよそよそしさ、素気なさを感じさせる音に対して、II型は一変している。基本的には、おそらく物理特性を重視した正攻法での作り方であるらしく、音のバランスがよく、すべてのプログラムソースに対して欠点の少ない、いわば過不足のない音を聴かせるところはたしかにテクニクスだが、しかし従前までのそれとは思えないほど、音が生きていてほどよい魅力も感じとれて、極上とはいえないまでもかなりの随順でのできばえだ。ひとつひとつのぷろぐらむそーすについて細かいことを言い出せばいろいろ注文もある。たとえば弦楽四重奏では、鳴りはじめた瞬間から聴き手をひきずりこむほどのしっとりした雰囲気までには至ってないし、ベーゼンドルファーの音も基本的な骨格はしっかりしているが、あの独得の艶と色気までは出しきらない。ただそれはこの価格帯のアンプには少し無理な注文だと思う。

スタックス SRA-12S + DA-80M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 組み合わせたSRA12Sは、コントロールアンプとしてよりは同社のヘッドフォン(スタックスではイヤースピーカーと呼んでいるが)の専用アンプとしての性格が濃いと思うし、価格的にみてもDA80M(2台)とはかなりバランスが違うようなので、本来は、DA80Mは別のコントロールアンプでとライブすることを考えているのではないだろうか。ただ、この両者の組合せで鳴らしてみると、いかにも屈託のないのびのびとした明るさ、一様にステージ前面に並列にせり出したような独特の音像の並び方、といった音の性格は一貫している。その意味で、音像のひとつひとつに、もう少し引きが欲しい。言いかえれば奥行き方向への立体感をもっと感じとりたい。また、シェフィールドのテルマ・ヒューストンの黒人独特の声の艶とか、ベーゼンドルファーの一種脂っこいトロリとした味わいなどを、どちらかといえば脂気をおさえて鳴らす傾向があった。

ソニー TA-E88 + TA-N7B

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ソニーにかぎらずどのメーカーの製品でも、概してパワーアンプよりもコントロールアンプの方に、そのメーカーの音が色濃く反映される傾向がある。この組合せでも、それぞれの単体のところでも書いたことだが、いくぶんアクの強さ、あるいは押しの強さを感じさせる音の傾向はE88の方に多く感じられ、N7Bの方は基本的にそれと似ているがE88よりはナイーヴな面を持っている。この両者を組み合わせた音は、やはりE88の個性が支配的になり、たとえば菅野録音の「サイド・バイ・サイド3」のピアノトリオを例にあげると、ピアノの打鍵音をかっきりと際立たせ、ベースのピツィカート、そして前半をコードで支えるギターの音などを、ひとつひとつ、目鼻立ちをはっきりさせながら楽器の存在を強調する感じで聴こえる。これに限らず、録音されている音の姿をひとつひとつあらわにしてゆく傾向があって、そのことが、曲によって少々分析的にすぎるようなイメージを抱かせる場合もあった。

ソニー TA-E86 + TA-N86

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 名作と謳われたプリメインアンプTA1120の頃から、ソニーのソリッドステート・アンプの音には、本質的にかなり冷徹というか、やや無機質的な、整ってはいるがどこか突き放した冷たさを私は感じていて好きになれなかった。新しい製品になるにつれて、それもごく最近になって、かなり大幅に変身を試みはじめたようで、中でもこの86シリーズは、とてもバランスがよく滑らかで柔らかな肌ざわりを持っていて、一聴した印象では少し前までのソニー製品とは思えないほどだ。だが、柔らかいといっても決して女性的な弱腰の音ではなく、むしろ一見柔らかな音の中に、意外にコントラストのきつい芯の強さがくるみこまれていると感じとれる。そのことは、たとえばシェフィールドのレコードで、一見ウォームな丸みのある、しかし現代ふうの反応の鋭い音でリズムセクションのきちんと整った中から、テルマ・ヒューストンの声がぐっと張り出してきこえるという一例からも聴きとれた。

マランツ Model P510M

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 リファレンスパワーンアンプ♯510Mとは、デザイン面で異なるラックマウント仕様のパワーアンプであるが、同一ロットではPタイプから先にセレクトされているということで、聴感上での音質も少し異なっている。
 ここで試聴したモデルは、リファレンス用の♯510Mよりも余裕のあるスケール感タップリの音であり、ソリッドさ、タイトさの面では不足気味かもしれない。低域から中低域の量感の豊かさは充分にあり、音色が暖かく、適度の重量感があり、安定したベーシックトーンとなっているため、中域のソリッドさがあまり目立たず、トータルの音の姿・型がやや異なって聴こえる。エネルギー感が充満したクォリティの高い音である。

マランツ Model 170DC

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 スケールは小さいが、滑らかで伸びやかな音をもつ、軽快な印象のパワーアンプである。
 リファレンスコントロールアンプLNP2Lとの組合せでは、♯3250との場合ほどワイドレンジに伸びた印象は薄らぐが、中域の音の密度は一段と向上して、小型のパワーアンプとしては、現代アンプらしいキャラクターをもったまとまりをみせる。バランス的にはかなりフラットレスポンス型で、低域は柔らかく甘いタイプであり、中域はこのクラスとしては活気があり、量的にも不足感が少ない。4343をドライブするにはややパワー不足の面があるが、音の鮮度はかなり感じられる音である。

マランツ Model P3600 + Model P510M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 以前のセパレートアンプテストのときには、プロフェッショナルタイプでない方の♯3600と510Mの組合せを、また今回のテストのリファレンス用には、Pのつかない方の510Mを、何回もくりかえして聴いている。というわけで、マランツの音にはずいぶん馴染んでいることになる。かなり優秀と思われるアンプでも、長い時間をかけていろいろな機会にいろいろな組合せで聴いていれば、どこか鼻につく音が気になってくるものだが、そういう意味では驚くべきことにマランツというアンプには、目立って耳ざわりな音いうものがない。ことにこのPシリーズの方は、Pなしのモデルよりも総体に音の強調感を(ほんのわずかの問題だが)抑えてあるらしく、テストソースを通じて、密度の高い充実感のある、危なげのない安定な、いくぶん明るいが決して輝きすぎでなく、やや乾いているが決して不快でない質感の良さ……という具合に、前回でも中庸をおさえた音と発言したことを再びくりかえす結果になった。

マランツ Model 3250 + Model 170DC

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 510Mや、プリメイン型の♯1250も含めて、少し前のマランツのアンプには、高域に一種キラキラした輝きのある力強い音が特徴であった。ところが♯3250と♯170DCの組合せでは、デザインも一新されたことに現われているようにその音の傾向もずいぶん変って、ごくオーソドックスに、いかにも特性が平坦であることを思わせるバランスの良さと、周到に練り上げられた美しい明るい音を聴かせる。ただその明るさは、単体のところでも書いたように、どこか人工光線で一様に照らされたという感じの、いいかえれば翳りの部分の少ないやや平面的な印象を与える。そのこととも関連してか、音の質感もやや乾いた傾向で、それも自然乾燥でなく慎重にエアコンディショニングされた感じの、いくぶん静的な美しさといえる。こうした音はどちらかといえばパワーアンプの性格が支配的で、コントロールアンプの方はもう少し中庸を得た音に仕上っている。価格を前提にすれば最上のできばえといいたいほどだ。

Lo-D HCA-7500 + HMA-9500

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 HMA9500でLo−Dの音は傾向が変った。そのことは単体のところでも書いたが、したがってコントロールアンプは7500でも、トータルの音は別のメーカーのように違ってくる。まず、HCA7500の持っていたいくらか線の細い、密度の薄いやわらかい音は、HMA9500の男性的な腰の太い音にカバーされてか、すっかり影をひそめてしまう。というより、9500のときとして少々力を誇示しすぎる傾向を7500のやわらかさがうまく補うのか、力強さと繊細さとがうまくミックスされて、かなりグレイドの高い聴きごたえのある音に仕上ってくる。音量をぐんと上げても危なげのない安定感が快い。細かくいえば弦のしなやかさ、アメリンクの声の女っぽさやほのかな色気、あるいはベーゼンドルファーの脂こい艶、そしてキングズ・シンガーズの声の響きのやさしさ、などといった面でわずかにあとひと息、という欲は出るものの、総合的にはかなりの水準の音が楽しめた。

Lo-D HCA-7500 + HMA-7300

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 7500どうしの組合せにくらべると、基本的な音の傾向は全く同じだが、音の緻密さはやや増してくる。ここでの価格と出力の差は投資効果が大きいようだ。本質的には、7500の組合せで画いたと同じくさしい音。やかましさを嫌った柔らかい音。7300単体のところでも書いたように、女性的ともいえるウェットな感じが大すじを支配している。またそこでも書いたように、これとごく対照的なのがダイヤトーンで、中〜高域をかなり張り出させて硬質に仕上げているのに対して、Lo−Dの方はちょうどその音域を逆におさえこむかのように、音量を上げてもうるさくない。そのことが、線の細い感じをいっそう際立たせる。ただ、こういうやさしい音を本当の長所として生かすためには、中音域から重低音域にかけての音の力の支え、というよりも密度をもう少し濃く仕上げるべきではないかと思う。しかしこの音はほかのメーカーでは得られないのだから、やはりひとつの個性として存在価値が大きいといえるのか。

Lo-D HCA-7500 + HMA-7500

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 以前のセパレートアンプの別冊でも、8300シリーズの合評のところで、他の国産アンプにくらべてかなり異色の音がしたので、思わず、妙な感想を口走ってしまった(同号181ページ)。その印象は7500シリーズになっても一貫していて、これが従前までのLo−Dの目差していたひとつの方向だったことを改めて感じる。ひと言でいえばとてもウェットでやさしい音。できるかぎり音の荒々しさ、やかましさを抑え、小骨を注意深く取り除いた感じで、やわらかい。単体のところで書いたように、この傾向はことにパワーアンプの方にあるらしく、7500どうしを組合せると、コントロールアンプの方が持っている柔らかい中にもいくらか芯の硬さがうまく相補うのか、音はかなり整ってくる。とはいうものの、フォルティシモからピアニシモまで急激に変化する部分では、軽くエキスパンダーをかけたかのように強弱を強調する傾向も聴きとれて、ずいぶんユニークな音のアンプだと感じた。

ダイヤトーン DA-P15S + DA-A15DC

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 P15、A15のどちらも、音の輪郭の鮮明さや切れこみのよさを際立たせるタイプの、どちらかといえば金属的で硬質のハードな輝きを持っているが、両者を組合せるとそれがかなり相乗効果を招いて、総じて冷徹でコントラストの強い音に仕上ってくる。同じ♯15のつくシリーズ同士の組合せなのだから、これはかなり意図的に作りあげられた個性なのだろう。こういう輪郭も鮮明な音であっても、本質的には骨格の太い、構築のがっしりした支えがあるために、表面的にわめくタイプの音ではなく、たとえばピアノの強打や、あるいはシェフィールドのダイレクトカッティングレコードの、テルマ・ヒューストンのヴォーカルを支えるバックのリズムセクションなど、かなりのパワーでも腰がくだけたりせずに、良く張り出して力を失わない。パワーアンプ単体のところでも書いたが、ダイヤトーンの相性が、基本的にはクラシック系よりもポップス系にピントを合わせてあるらしく、この積極的にハードに徹した作り方はひとつの特徴といえる。

ダイヤトーン DA-P15S + DA-A10DC

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 パワーアンプの方が兄貴分のA15DCにくらべてややおとなしい音に仕上っているためか、同じP15との組合せでも、総合的にはニュアンスのかなり違う音になる。P15+A15DCのときの、ひとつひとつの音が輪郭をかちっと隈取られてバックから飛び出してくるかのようなコントラストの強い、金属質かつ硬質に徹してしまう傾向の方が、ひとつの強烈な個性として徹底していておもしろいといえなくもないが、ただそれでは少々硬すぎると感じる向きには、P15+A10DCの方が、むろん基本的にはダイヤトーンの個性を保ったまま、もう少し穏やかな方向の音として受け入れられるのではないたろうか。しかしパワーアンプ単体のところでも書いたように、本質的にポップス志向といえると思う。つまり、弦や女性ヴォーカルにはかなりハードな感じをあたえるのに対して、このアンプの持っている骨太に前面に押し出してくる力の強さが、ポップス系のことにハードな音楽には一種の特徴となる。

デンオン PRA-1001 + POA-1001

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 コントロールアンプ、パワーアンプ、それぞれ単独にテストした場合よりも、組み合わせた形の方がまとまりがよく、価格とのバランスを頭に置くかぎり、弟分の1003シリーズよりもこちらの方がやはり、セパレートアンプを入手したという満足感があるだろう。非常にバランスのよいこなれたまとめかたで、あらゆるプログラムソースに対して、ひととおり水準以上の音を聴かせる。低音から高音までのバランス、音の力と密度、立体感、そして音楽の表情の描写、どこからみても、ことさら際立った特徴は聴きとれないかわりに明らかな弱点がない。しいていえば中〜高域にエネルギーのわずかに固まる傾向があって、ことにクラシックの弦や声にもっとやわらかさや潤い、そして音のデリケートな余韻の空間に漂って消えてゆく繊細なひろがりが欲しい。しいて細かく言えば、ポップス系のように音源側でコントラストの強い傾向のプログラムソースの方が、どちらかといえば向いているといえそうだ。

デンオン PRA-1003 + POA-1003

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 大づかみにとらえると、プリメインタイプの名作といわれたPMA700Zの傾向をきめこまかくグレイドアップした感じの音質で、バランスがよく整っているし、際立った個性もないかわりに音楽の表情を抑え込むようなことがなく、クラシックからポピュラーまで、いろいろなプログラムソースをひととおりの水準で楽しませる。ただ、セパレートタイプとしてもまた最近の高級プリメインタイプと比較しても高出力型ではないせいもあって、音のスケールの大きさの要求される(例えば「オテロ」のような)曲では多少小造りになるし、ハイパワーを要求する(例えばシェフィールドのような)レコードでは極端なハイパワーは出せないというように、価格の制約を頭に置いて選択の対象にしないと不満が出るかもしれない。しかしデザインや必要なコントロールの機能などを含めて全体のまとめかたは、とてもよくこなれていて、セパレートアンプを手に入れようという期待感を裏切ることはないだろう。

オーレックス SY-88 + SC-77

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 いままでに何度か、オーレックスのプリメインアンプを試聴した機会にも、またスピーカーの試聴でも感じたことだが、このメーカーの鳴らす音は、つねに慎重で、おとなしい模範サラリーマンふうのところがあって、荒々しさや歪っぽさをごく注意ぶかく取除いて作られている。そうした傾向は、音のやかましさやおしつけがましい個性を嫌う人には歓迎されるだろうが、しかし音楽には荒々しさと引きかえに躍動する生命感も、高ぶる感情を抑えながら情感をこめた歌い方もある。そうしたいわば演奏家の生きた表彰あるいはバイタリティ、または情熱のような部分を、このアンプはどちらかといえばかなりおさえて、むしろよそよそしいといいたような感じに仕上げて聴かせる。また、コントロールアンプにもパワーアンプにも、中低音域から重低音にかけての量感や厚みをおさえる傾向があったが、両者の組合せではいっそうその傾向がはっきりしてくる結果、中〜高域重視型のバランスに聴きとれる。

ヤマハ B-3

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 軽快で伸びやかな、フレッシュな音をもつパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジは、現代アンプらしいナチュラルなワイドレンジ型で、音の粒子は細かく滑らかに磨き込まれており、バランス的にはフラットレスポンスタイプであるが、中域の密度は少し薄い印象がある。音色は、軽く明るく滑らかであり、音の反応が早く、伸びやかに活き活きとした音を聴かせる。
 ステレオフォニックな音場感は、左右方向にも前後方向のパースペクティブをもよく広げて聴かせ、音像定位もナチュラルであるが、スケール感はやや小さく、音場が箱庭的な精緻さで再現される傾向がある。

アキュフェーズ C-220 + M-60

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 C200SとP300Sの組合せが一聴して音の切れこみや鮮明さを際立たせたのに対して、C220とM60(×2)の組合せは、アキュフェーズがもともと目ざしていた音のまろやかさ、あるいは機械臭さや電気臭さのないよくこなれた上品な音、という方向に仕上っている。「オテロ」のフォルティシモでも、音がわめくような荒々しい感じが少なく、しかし十分に底力を感じさせる充実した音がする。欲をいえば重低音の厚みがもう少し欲しい気はするが。また、これはM60の特徴だが、音像をいくぶんオフぎみに、どちらかといえば奥の方に定位させる傾向はC220との組合せでも変らない。ヴォーカルの場合には、歌い手の声帯のしめり気を感じさせるような、音の潤いはとても好ましい。300Wというパワーを露骨に感じさせないようないくぶんスタティックな印象があるが、音の上品さとあいまって、音楽ファンを十分に満足させるだろう。調子が出るまでにはいくらか時間のかかるタイプのようだ。