Category Archives: 国内ブランド - Page 31

ソニー PS-X800

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 ソニーのPS−B80は、世界最初のMFB制御方式のバイオトレーサーアームを採用した製品として、オーディオの歴史に名をとどめるフルオートプレーヤーシステムであるが、今回新しく登場したPS−X800は、理論上で理想のトーンアームであるリニアトラッキング方式のアームをバイオトレーサー化して採用した注目の新製品である。
 リニアトラッキング方式のトーンアームは、レコード制作時に使うカッティングレースの動作と近似の動作をするために水平方向のトラッキングエラーが極めて小さく、トーンアームの全長が短く、軽質量でトラッキング能力が高いメリットをもっている。
 しかし、現在市場にあるリニアトラッキングアームは、細かく見れば針先の移動に対してトーンアーム支持部の動きが静止・移動・静止と断続的に移動する方式が多い。この細かい点に注目して、今回発売のリニア・バイオトレーサーでは、アクティブ・トレース・サーボ方式を開発、アーム支持部の速度と針先速度の差として得られるトラッキングエラー角を検出し、常に針先速度とアーム支持部の速度が同じになるようにサーボをかけ、トーンアーム自体が動くという新リニアトラッキング方式を採用している。
 リニアトラッキング方式にはアーム支持部を移動させるためのガイドを必要とする。PS−X800のガイドはモノレール型で、アーム支持軸とアーム支点が常に同軸上にある。また、軸受にはノイズ発生の原因となるベアリングを排除し、特殊樹脂に含油したスライド軸受により振動を防いでいる。
 アーム駆動は独自のリニアトルクBSLモーター採用であり、アーム部のコントロールには垂直と水平が独立した速度センサーを備え、独立したリニアモーターに速度フィードバックをかけて低域共振を抑えるとともに、トーンアームが動くリニアトラッキング方式の問題点を解決している。
 機能は自動アームバランス、純電子式針圧印加をはじめ、自動盤径選択とレコード有無選択、2速度のアーム移動、それにカセットと連係動作用の別売のシンクロリモートコントロールRM65がある。
 音の傾向はスケールが大きく、素直で抑制の効いた、安定感のある表現が特長。独特の素気なさがかえって現代的な魅力だ。

オンキョー Integra A-817D

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 アンプの出力の+側と−側から2系統のサーボをかけるオンキョー独自のWスーパーサーボ方式を採用したプリメインアンプ、A817、815に改良が加えられ、それぞれモデルナンバー末尾にDのイニシアルの付いた新モデルに発展した。
 改良の主なポイントは、Wスーパーサーボを一段と強化して、歪みの原因となる超低域成分や電源部アースインピーダンスに起因する雑音成分を40dB以上も抑えたこと。これは100倍以上も強力な電源部を使ったことに相当する効果であるとのことで、従来の50倍から2倍アップしたものだ。この結果、中低域での音の分解能が一段と向上したとのことである。
 また、DCアンプ特有のスピーカーへのDCリークも、強化されたWスーパーサーボの副次的なメリットとして−100dB以上も抑圧し、スピーカー振動板の偏位がなくリニアリティノよ五百とが得られる。Dタイプとなってパワーも増加し、A815Dが55W+55W、A817Dが75W+75Wになった。
 基本構成は従来と同様で、ハイゲインイコライザーアンプとハイゲインパワーアンプの2アンプ構成。トーンコントロールは、特別なトーンアンプを使わずパッシブ素子だけで構成するダイレクト・トーン方式で、オンキョー独自の回路設計である。
 パワーアンプは、普遍的なBクラス増幅と各社各様の発展型高能率Aクラス増幅が最近では一般化しているが、オンキョーでは高能率Aクラスに多いバイアス可変方式を避けて、Bクラス増幅ながらAクラスなみのリニアリティをもち、バイアス変動のないリニアスイッチング方式を採用している。このあたりは、各社ともに何を重視してアンプ設計をおこなうかというポリシーの現れるところでそれぞれ一長一短が存在するだけに、どの方式を結果の音としてユーザーが支持するかにつきるところだ。
 MC20MKIIとDL305を用意して聴く。音の粒子が滑らかに磨かれ、独特のスムーズさのあるしなやかなワイドレンジ型の音だ。微妙に薄化粧をしたようなこの音は大変に美しく、音場感は少し遠くに拡がる。総合的にDL305がマッチするが、MC20MKIIともどもゲインが不足ぎみでMM型を標準に使いたいアンプだ。

サンスイ AU-X11

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 サンスイのプリメインアンプは、現在のシリーズの出発点であるAU607、707から第2世代のAU−D607、D707、D907を経て、現在はAU−D607F、D707F、D907Fの第3世代に進化しているが、それぞれの特長として第1世代はDCアンプ構成、第2世代がダイヤモンド差動増幅方式採用、第3世代のスーパー・フィードフォワード方式が技術的な特長になっている。
 今回発売されたAU−X11は、従来サンスイプリメインアンプのスペシャリティモデルとして第2世代のプリメインアンプの時期に登場したAU−X1の後継モデルとして開発された製品である。
 基本的なデザインはAU−X1と同じだが、新しくヴィンテージの名称が付けられ、パネルサイドに木製サイドボードが加えられたのが異なった点だ。
 基本的構成は、ゲインと負荷抵抗切替可能なMCヘッドアンプ、イコライザーアンプ、フラットアンプとパワーアンプの4ブロック構成で、トーンコントロール回路はない。イコライザーアンプのダイヤモンド差動増幅DCサーボ回路、パワーアンプ部のダイヤモンド増幅スーパー・フィードフォワード方式に特長がある。
 電源部は伝統的な協力電源採用のポリシーを感じさせるもので、MCヘッドアンプ、イコライザー、フラットアンプ、それにパワーアンプがそれぞれ独立した左右独立型を採用。電源トランスはパワー段専用に左右独立巻線の大型トロイダル型、プリドライブ以前の回路用に左右独立の大型EIトランスを使う2電源トランス方式である。
 機能面は、イコライザー付パワーアンプともいえるシンプルなタイプで、左右独立のレベルコントロールをバランサーの代りに使う方式。イコライザー出力を直接パワーアンプに結ぶジャンプスイッチをもち、この場合にはゲインは−14dBとなる。また、サブソニックフィルターは、16Hz−3dB、6dB/oct型だ。
 コンストラクションは、オーディオアンプでその性能と音質を決定的に支配するところだが、AU−X1に比べAU−X11は、かなり大幅な変更が行なわれた。従来はパワートランジスター用左右チャンネルのヒートシンクが中央部に位置し、それをはさんで横一列に左右チャンネル各4個使用の電解コンデンサーが配置されていたが、今回は、この配置が入れ代り、8この電解コンデンサーを中央部に集中配置コンデンサーのタイプもより高性能型に変更されている。最近ではヒートシンクにヒートパイプを採用する例が多く、サンスイのFシリーズもこのタイプになったが、AU−X11のみは従来型の重量級ヒートシンクを採用している点は注目したいところだ。
 シャーシは、マグネティック歪対策としてAU−D907LIMITEDで採用した銅メッキが施され、ボンネットはアルミ製、サイドはローズウッドの木製に変っている。
 マイクロSX8000とMC20+AC3000MC及びDL305+DA401をプレーヤーに、JBL4343Bを使いAU−X11を聴く。AU−X1が、一般のアンプより1octほど伸びたように感じるソリッドな低域をベースに非常に押し出しの良いエネルギッシュなサウンドを特長としていたことに比べると、AU−X11は全体に音の粒子が細かくリファインされ、適度に力強い低域をベースとしたナチュラルな帯域バランスをもち、ディフィニションが優れた音場感の拡がりが加わった音になった。MC20、DL305ともに特長は素直に音となるが、MM型使用時の方がX1のイメージを強く持つようだ。ヴィンテージの名称の如く、パワーで押す若者が年月を経て余裕のある大人の魅力を備えた印象。

フィデリティ・リサーチ XF-1

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 低インピーダンス専用のスイッチレス型トロイダル巻線採用の高性能トランス。
 聴感上でナチュラルに伸びたワイドレンジ型に近いレスポンスと、音の粒子のキメが細かく、滑らかに磨込まれた美しく爽やかな印象が特徴で、クォリティはFRT3Gより一段と高い。
 MC20IIとの組合せは、豊かに量感タップリに鳴る、低域から中低域をベースとした情報虜が多い音である。音色は暖色系で滑らかさがあり、楽器の固有音をかなり正確に鳴らす。
 FR7fとすると帯域バランスはナチュラルとなり、音色もニュートラルになる。素直に聴かせる分解能の高さ、ダイナミックで余裕のある表現力、ナチュラルに拡がる音場感のプレゼンスなど、優れたカートリッジの性能をフルに引出した音。

フィデリティ・リサーチ FRT-3G

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 リング型コアにトロイダル巻線を採用した入力インピーダンス2段切替の製品。
 最近の製品らしく、昇圧トランスとしては帯域の狭さを感じさせないレスポンスと、キメ細かく滑らかでありながら適度に力感もある音に特徴がある。
 MC20IIは、少し細身のスッキリした音になるが、音場感はスムーズに拡がり、再生の難しいディスクの大振幅でも、破綻を見せずこなしてしまう。音の表情は素直で、適度なダイレクトさもある。
 DL305では、MC20IIよりもトランスのキャラクターにマッチし、伸びやかなレスポンスと一段と分解能が高い音を聴かせる。音色は明るく軽く、反応も適度に速い。FR2は穏やかで素直な表情と爽やかでバランスが優れた音である。

アントレー ET-200

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 高性能化を目的として入力スイッチを取除いた低インピーダンス専用トランス。
 ET100と比べると全体に音のキメが細かく、一段とワイドレンジ型になったのが判る。MC20IIは、やや細身の高域にアクセントがついたスッキリ型になり、爽やかさはアルが、やや実在感不足の傾向がある。FR7fは、予想より低域バランスの線が太い大味な音になる。アントレーEC30を組み合わすとやはり、それなりに納得のいくバランスとなり、力強いMC型というEC30の特徴が素直に聴かれる。
 このトランスもRCAピンコードによる音の変化があり、ET15でナチュラルなバランスとなったコードはメリハリ強調型となり、付属コードですっきりした音になるが、今一歩なのだ。

アントレー ET-100

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 入力インピーダンスが3Ω、10Ω、40Ωの3段切替で使える昇圧トランスで、定評の高かった初期の製品を改良したのが現在のモデルである。
 聴感上の帯域は、安定感がある低域をベースに少し抑え気味の中域と輝きがある中高域から高域が適度のバランスを保つ。音色は明るく、音表情は穏やかで安定感がある。
 MC20II、FR2、DL305の3種のMC型に対し、それぞれの特徴を引出しながら適度にクッキリとコントラストの効いた、プレゼンスのある音として聴かせる。価格的にみて、現状では高価な製品ではないが、昇圧トランスの一種の基準尺度として使えるだけの信頼性の高い音は見逃せない。ET100は付属コードでバランスがとれる。

アントレー ET-15

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 3Ω、40Ω切替型の昇圧トランスである。
 聴感上の帯域バランスは、柔らかく軟調の低域、抑え気味の中域、硬質でコントラストをクッキリとつけるがやや粗い中高域から高域をもつ、個性の強いタイプだ。
 MC20IIとDL305ともに、トランスの個性のために大きな傾向の差が出ないが、音色が明るく細かさも出てくる点でDL305の方が良い。
 パスを含むスイッチ切替実験の結果、付属RCAピンコードを普通のタイプに交換してみると、個性の強さは大幅に減り、トランスとしては素直でキャラクターが少なく、ナチュラルな帯域バランスをもっていることが判った。昇圧トランスやヘッドアンプでは、使用するRCAピンコードで音が大幅に変わることが多い点に注意したいものだ。

ダイナベクター DV-6A

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 DVカートリッジ用に開発された、巻線を含む全ての線材に銀線を採用し、一次巻線はスイッチ切替でバランス型とアンバランス型に使用できるユニークな構想にもとづいた製品である。
 入力インピーダンス40ΩでDL305を使う。柔らかな低域をベースとした安定型の帯域バランスをもつことはDV6Xと似るが、音の基本クォリティは格段に高く、豊かな響きと少し硬質な中高域がバランスを保つ。音場感はナチュラルでスピーカーの奥に拡がる。
 試みにバランス型に切替えると帯域バランスはナチュラルに伸び全体にクリアーで表情豊かな音に変わる。とくに前後方向のパースペクティブがスッキリと感じられるのはバランス型の大きな特徴で、今後の発展が楽しみな製品である。

ダイナベクター DV-6X

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 DV6Aのジュニアタイプとして開発されたスイッチレスの昇圧トランス。
 入力インピーダンスは3〜60Ωと発表されているために、MC20IIとDL305を使う。
 聴感上の帯域バランスは、柔らかな低域をベースとした暖色系の音色をもった穏やかなタイプで、ハイエンドはなだらかに下降するレスポンスをもつようである。
 DL305は低域ベースで高域が下降気味となり、柔らかな雰囲気は楽しめるが、本来の、解像力があり爽やか音とは別のキャラクターに感じられる音になる。
 MC20IIは、DL305よりは明快さが出てくるが、やはり本来とは異なった穏やかな音になる。製品の性格からいっても、ダイナベクター・カートリッジ専用の昇圧トランスという印象が強い。

デンオン HA-1000

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 DL103Dの発売とほぼ同時に開発されたセパレート型電源採用のヘッドアンプで、利得切替は24dBと32dBの2段切替型だ。
 MC20IIは、ローエンドを少し抑えたワイドレンジ型で、ハイエンドはやや上昇ぎみのバランスとなる。いわゆるスッキリとした細身のバランスで、音の表情は淡泊でサッパリとし、音を整理し凝縮して小さく聴かせる傾向がある。音場感はナチュラルでプレゼンスはかなりのものだ。
 DL305は情報量も多く、滑らかに伸びたレスポンスと、トータルバランスの優れたクォリティの高さ、やや抑制の効いた素直な表情が特徴である。全体に音楽を凝縮して聴かせる傾向は24dBの利得の方にもあるようで、一般的にはもう一段とスケール感が欲しい。

デンオン AU-340

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 広帯域、低歪をテーマに開発されたデンオン昇圧トランス中で最新の製品である。入力は、3Ωと40Ωの2種類が切替使用可能。
 MC20IIは、安定感のある低域をベースに、少しハイエンドを抑えた帯域バランスである。全体の線はクッキリと太く、楽器の基音成分をクッキリと聴かせるが、倍音の豊かさは今一歩という印象である。各プログラムには平均して対応しディスクのキャラクターを素直に引出す性能がある。
 DL305では、やや硬質でスッキリとナチュラルに伸びた帯域バランスと、細やかな粒だち、軽く明るい音色が特徴となる。全体に音を美しくキレイに聴かせる傾向があり、クォリティは充分に高いが、押し出しのよいパワー感とリアリティの面では少し不満が残る。

デンオン HA-500

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 HA1000に続いて開発された製品で、利得は24/32dBの2段切替だ。
 聴感上の帯域バランスはあまりワイドレンジを意識させないナチュラルなタイプで、適度に分解能がよく爽やかな、,軽く明るい音が特徴で、使いやすい音の傾向と思われる。
 MC20IIを32dBで使う。クッキリと粒立つシャープで整然としたやや硬質な音である。全体に力があり、音像がグッと前にせり出す傾向があり、各プログラムソースをコントラストをつけて明解に聴かせる。
 DL305を24dBで使うと、安定した低域をベースに滑らかでスムーズな音である。音場感は32dBとは逆に少し奥に拡がるタイプに変わる。試みにFR2を32dBで使う。滑らかさとメリハリが両立した快適な音だ。

デンオン AU-320

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 AU310の細身で素直な音と比較すると、低域の量感が一段と増加したことと、中高域に少し輝かしいクッキリとコントラストを付けるキャラクターがあり、トータルバランスを形成しているのが異なる点だ。
 MC20IIは、やや薄くシャープでクッキリとした音で、音場感の拡がりも一応の水準にある。しかし本来の音と比べると、中低域の豊かさが減り、中高域が硬質になっているのが判る。
 40Ωに切換えDL305にすると、全体に線が太い絵のように細部が見えず、音場の拡がりも狭くなる。DL103に替えると、低域の力強さと中高域の輝きが巧みにDL103の音にアクセントをつけて効果的に聴かせる。やはり、カートリッジとトランスの製作年代のマッチングの成果であろう。

デンオン AU-310

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 高インピーダンス専用トランスでDL103、103S用に開発された製品。
 DL305では、ナチュラルな帯域バランスと、少し細身のスッキリとしたシャープな音となる。音場感はやや後方に拡がるタイプだが、ホールのプレゼンスは一応の水準で聴かれる。
 ロッシーニは適度に軽快さがあり安心して聴けるが、気をつけて聴くと分解能が不足気味で、反応も少し遅い。ドボルザークとなると中高域に少しキャラクターがあり、ホールの後の席の音だ。峰純子はやや硬めで、小柄なボーカルながらまとまりはよく、カシオペアもそれなりに聴かせる。
 DL103にすると帯域バランスがピタリと決まり、これなら納得という音だ。この変化は大変におもしろい。

コーラル T-100

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 今回の特集に集めた唯一の一万円未満のトランス。
 3Ω専用モデルでMC20IIとFR7fを使う。全般的にはFR7fのスケールの大きな音がマッチするようだ。聴感上のf特は少しナローレンジ型で適度にコントラストをつけて、やや硬質の音を聴かせる。ロッシーニは生硬さがあるが雰囲気をひととおり聴かせる。低域が不足するためか演奏の店舗が少し速くなる。この点は、中高域にクッキリ輪郭をつけるMC20IIの方が、スケールは小さいが小粒にまとまりバランスよく聴ける。ドボルザークはFR7f、MC20IIともに硬質になりすぎる。峰純子、カシオペアは平均的に聴かせるが、カートリッジの個性を引出すには至らない。SN比を稼ぎ、小粒にカリッとまとまる音が特長だ。

オーディオテクニカ AT-650

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 3段切替スイッチ付のユニバーサル型トランスだ。
 MC20IIは、少し高質さはあるがスッキリとした爽やかな音で、聴感上のf特もスムーズに伸び、キャラクターの少ない穏やかな音である。プログラムソースとの対応の幅も広く、音をキレイに聴かせるのが特徴となる。
 DL305は、やや細部の描写が不足気味で、線が太く、本来のシャープさが出難い。
 AT34IIにすると中高域に少し硬いキャラクターが付くが、バランスの良さは、当然のことながらベストである。このトランスも付属コードを交換するとかなり音質が変化するため、使用にあたっては、コードを変えて使用システムに最適のバランスに調整するのが好ましい使用法と思う。

オーディオテクニカ AT-630

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 中間インピーダンスをもつオーディオテクニカのMC型カートリッジ用の昇圧トランス。
 ややミスマッチにはなるが、MC20IIを使うと、トランスとしては適度の帯域バランスと少し細身の滑らかな音となる。ロッシーニは程良く鳴るがドボルザークは音源が遠く、大ホールの後の席で聴く感じだ。峰純子は少し細身の穏やかなボーカルとなり、雰囲気はアルが少し実体感不足だ。カシオペアは小柄になるが、一応楽しくは聴ける。
 AT34IIを組み合わせると、やはり、f特をはじめトータルバランスは一段と向上し、ややラフな面もあるが、価格から考えれば、充分な昇圧トランスらしい安定した落着いて聴ける音が得られる。この意味でも専用トランスと考えたい。

オーディオニックス ADN-III

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 左右独立電源採用の利得切替なしのヘッドアンプで、入力と出力の位相が逆になる反転アンプである。
 聴感上のf特はワイドレンジ型で、音の粒子は細かく、適度にしなやかな反応と特定のキャラクターが少なく、基本的クォリティは相当に高い。
 MC20IIは水準以上のクォリティの高い音になるが、低域が少し軟調で甘くなり、中高域に少しキャラクターが聴きとれる。音像は少し引込み気味で、音場がスピーカーの奥に広がるタイプ。
 DL305は、帯域感は広いが高域の分離が今一歩不足気味で、これは中高域の硬質なキャラクターによるマスキングのせいであろう。全般的にみれば、MC20IIよりも音にフレキシビリティがあり、音を整理してキチンと聴かせるタイプだ。

オーディオデバイス HA-1000

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 MC型の出力電流100%利用する特殊回路設計のヘッドアンプである。
 利得切替はなくMC20IIとDL305を使ったが、低インピーダンスでは表情を抑えた緻密な音であるのに比べ、高インピーダンスでは明るく伸びやかで活気のある音と2通りに変化する。
 ロッシーニは、音場感が拡がり明るい華やかさでDL305が楽しく、MC20IIは精密で小さくまとまった格調の高さがあり対照的だ。
 このアンプの特長を聴かせるのはMC20IIの峰純子で、音色は暗いがソリッドさがあり、引締ったSPUといった音である。反応はさして速くはないが、適度にダンプされた印象はまさしくトランス的で、メモにもトランス的アンプとある。基本的なクォリティは高く個性的なアンプだ。

デンオン DL-303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 永く続いた103シリーズのあと、最近のカートリッジ設計の主流ともいえるローマス化をはかって企画されたのが303のシリーズで、現在、301、303、305の三機種が揃っているが、DL−301はヤング層の好みをことさら意識しすぎ、DL−305は303の繊細さに何とか力を加えようと力みすぎ、みたいに(私には)思えて、ことさらの音作り意識の加わっていないDL−303が、やはり最良の出来栄えだと思う。国産MCのベストに推す。

デンオン DL-103

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 おそらくオルトフォンのSPUに次いで寿命の長いカートリッジだろうか。永いあいだ1万6千円、その後1万9千円に改訂されたものの、FM放送用として入念に設計され、長期間作り続けられた安定性と信頼性は、その後数多く出現したいわゆる1万9千円MCカートリッジの攻勢を寄せつけない。最新型と比較すれば、音がやや太く重いが、MCとしては出力が大きく扱いやすく、良いアームと組合せれば、この音は立派にひとつの個性だ。

アキュフェーズ T-104

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 ほんらいは、コントロールアンプC−240、パワーアンプP−400とマッチド・ペアでデザインされた製品。三台をタテに積んでもよいが、横一列に並べたときの美しさは独特だ。だがそういう生い立ちを別としても、アナログ感覚を残したディジタル・メモリー・チューニング、リモートコントロール精度の高いメーター類などは信頼性が高い。そしてそのことよりもなおいっそう、最近の同社の製品に共通の美しい滑らかな音質が魅力だ。

アキュフェーズ P-300X

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 この社の第一世代の製品ともいえるC−200、P−300、そして小改良型のC−200S、P−300Sのシリーズに関しては、音質の点でいまひとつ賛成できかねたが、C−240、P−400に代表される第二世代以後の製品は、明らかに何かがふっ切れて、このメーカーならではの細心に磨き上げた美しい滑らかな音質がひとつの個性となってきた。P−300Xは、そこにほんの僅か力感が増して、C−200Xと組合わせた音の魅力はなかなかのものだ。

アキュフェーズ E-303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 プリメインタイプの最高機をねらって、著名ブランドがそれぞれに全力投球している中にあって、発売後すでに3年近くを経過しながら、E303の魅力は少しも衰えていない。特別のメカマニアではなく、音楽を鑑賞する立場から必要な出力や機能を過不足なく備えていて、どの機能も誠実に動作する。ことにクラシックの愛好家なら、その音の磨き上げた美しさ、質の高さ、十分の満足をおぼえるだろう。操作の感触も第一級である。