Category Archives: タンノイ - Page 4

タンノイ Autograph

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 コーナータイプという構造の制約から、十分に広い条件の良いリスニングルームで、左右に広く間隔をとって設置しなくてはその良さを発揮できず、最適聴取位置もかなり限定される。大型のくせにたった一人のためのスピーカーである。オートグラフのプレゼンスの魅力はこのスペースでは説明しにくい。初期のニス仕上げの製品は、時がたつにつれて深い飴色の渋い質感で次第に美しく変貌するが、最近はオイル仕上げでその楽しみがない。

タンノイ Autograph

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 英タンノイのスピーカーシステムは、すべて、デュアルコンセントリックと名付けられた同軸型ユニットを1個使用していることに特徴がある。このオートグラフはモニター15ゴールドをフロントショートホーン、リアをバックローディングホーンとした大型のコーナーエンクロージュアに入れたシステムでけっして近代的な音をもってはいない。けれどもアコースティックの蓄音器を想い出すような音質は、かけがえのない魅力だ。

タンノイ IIILZ, Autograph, GRF

タンノイのスピーカーシステムIIILZ、Autograph、GRFの広告(輸入元:シュリロ貿易)
(スイングジャーナル 1970年10月号掲載)

Tannoy

タンノイ IIILZ MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 重低音の量感など期待したら、完全に裏切られる。へたにレベルセットすると中音がキャンキャンうるさく鳴ったり、高音がモコモコとこもったり、ろくなことにならない。
 けれど、このスピーカーくらい品の良い響きを聴かせる製品もめったにない。もうそこのところだけがこのスピーカーの良さで、しかもこの品位の高い音質は、こうして53機種を聴きくらべてみて、結局このスピーカー以外に求められないものだったのかと、いやでも納得させられてしまう。ぜい肉がなくて細身な上に、重低音の量感など出ないから、音の厚みがないように聴こえるが、まあこのスピーカーぐらい透明で彫りが深くて、知性的な色気を持った音が、どうしてタンノイ以外のメーカーに作れないのか。残念ながら、毎度べたほめという結果で申しわけありません。

採点表
大編成:★★★★
小編成:★★★★★
独奏:★★★★★
声楽:★★★★★
音の品位:★★★★★
音のバランス:★★★★
音域の広さ:★★★★
能率:★★★
デザイン:★★★★★
コストパフォーマンス:★★★★
(特選)

タンノイ IIILZ, Autograph, GRF

タンノイのスピーカーシステムIIILZ、Autograph、GRFの広告(輸入元:シュリロ貿易)
(スイングジャーナル 1970年6月号掲載)

Tannoy

タンノイ IIILZ MKII

菅野沖彦

スイングジャーナル 12月号(1969年11月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 タンノイのモニターIIILZといえば、伝統的な英国の名スピーカーとして有名である。英国には、スピーカー・メーカーが多く、グッドマン、ワーフェデール、KEF、ローサー、リチャード・アレン、クヮド、ヴァイタ・ボックス、そして、このタンノイなどの有名スピーカーがある。これらの英国製スピーカーは日本でもファンが多く、それぞれ独自の個性をもった音がファンを獲得している。しかし、それらのファンは圧倒的にクラシック・ファンが多く、英国スピーカーはジャズの世界では全くといってよいほど冷遇されてきた。何故だろうか? それにはそれなりの理由がたしかにあったのかもしれない。その理由を証明するにはスピーカーというものが、一連の電気音響機器の中で特別にソフトウェアーとしての性格の濃いものであるということから話しはじめなければなるまい。電気音響機器は、大きく二分して、変換系と伝送増幅系とからなっていることは、本誌の愛読者ならすでにごぞんじのことと思うが、変換系、つまり、あるエネルギーを、異った性格のエネルギーに変えるものの代表的なものが、マイクロフォン、カートリッジ、スピーカーである。
 この変換系の中でも、直接、空気の波動を扱うマイクロフォンとスピーカーには特に問題が多い。変換能率、周波数レスポンス、歪特性などの特性のよいものをつくること自体大変難しいことだが、もっとも問題になるのは、そうした、いわば解析ずみの特性データによって完全に把握しきれない問題である。これが、結果的な音色に及ぼす影響がきわめて大きく、これらの製品の最終判断は聴覚によらなければならないのである。例えば、振動体にはなんらかの物質を使わなければならないが、この物質自身の個有の特性は必らず音色として現れてくるものである。聴感覚によって判定するとなると、当然、そこには制作者の音への好みが反影せざるを得ないのであって、同じような物理特性をもった二つの製品のどちらかをとるというようなギリギリの場合だけを考えてみても、音への嗜好性、音楽の好みなどがはっきりと現われてくることになろう。スピーカーがソフトウエアーとしての濃い製品だというのはこのような意味であって、スピーカーほど、この点で厄介な、しかし、面白いものはないのである。
 音への好みは単純ではない。年令、体質、教養、性格などの綜合されたものが音の嗜好性を形成する。当然、人種の差、文化水準の差、伝統といった条件も必らずまつわりついてくるものだ。
 そこで、英国系のスピーカーには、どうしてもクラシック音楽のイメージが強いとされてきた理由もなんとなくわかるのではあるが、今や、英国も、ビートルズを生み、ミニスカートをつくる現代国家であるし、特に輸出によってお金を嫁ぐことに熱心なことは先頃の英国フェアでもよく知っておられる通りである。英国がその古い伝統と、高度な産業技術を、クラフトマンシップを生かしてつくり上げた製品は、筋金入りの名品が多く、しかもお客の望みを十分に叶えてくれるサービス精神にもとんでいる。タンノイはいぶし銀のような艶をもつスピーカーだと評されていたが、このIIILZのニュータイプのIIILZ MKIIは、さらに明るさが加ってきた。重厚明媚を兼備えた憎い音を出す。これでジャズを聞くと、実に新鮮な迫力に満ちた音だ。MPSのジャズのように、最近はジャズの音も多様性をもってきた。アメリカ録音に馴れていた耳には大変新鮮な音のするヨーロッパ録音ではある。再生系も、英国スピーカーはクラシック向と決めこまないでチャンスがあったら耳を傾けてみてほしい。

タンノイ IIILZ MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 特選機種の中では、このスピーカーが最もクセが強く、ずいぶん考えたのだが、何よりも音の素性の良さが、ただものではないので、あえて推した。相当にムラ気のある製品らしく、四日間を通じて、その日によって三重丸と□の間を行ったり来たりする。休憩時など、立会いの編集氏がパチパチ切替えているのを隣室で聴いていると、中に二つ三つ、ハッとするほど美しい再生するスピーカーがあって、No.14もそういう製品のひとつだった。中低音の音質から想像して、キャビネットをもっと上等なものに作りかえたら(経験上だが、どうもこの音は安もののベニアの音だ)、総体的にすばらしいシステムになると思う。わたくしの採点で、室内楽に三重丸をつけた唯一のスピーカーである。

テスト番号No.14[特選]

タンノイ IIILZ MKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 大変ソリッドでしまった音である。軽やかさや繊細さという点で、室内楽のデリカシーをもったソースには欲をいう余地はあるが、このまとまりとクオリティの高さは立派である。かなり品位の高いスピーカーだと思う。オーケストラとジャズにもっとも安定した再生を聴かせ危なげない。欲をいうと高域の解像力というかデリカシーというか、そうしたキメの細かさが加わって欲しいとこで、そうなれば文句なしのシステムである。

外国製の組合せ型

菅野沖彦

スイングジャーナル 12月号(1967年11月発行)
「SJオーディオ・コーナー 特集/ステレオ装置読本」より

外国製の組合せ型
 外国製品の組合せについて書く前に、現在、国産パーツの水準が世界的に第一級といえるものが多い中にあって、なおかつ輸入製品が存在することについてふれておかねばなるまい。いうまでもなく、オーディオ・パーツは科学の産物で、その多くは商品としての品質の均一性をもつべく管理のゆきとどいたメーカー製品である。したがって、製品の性能は理論と測定による物理特性によって設計、製造の一貫性が保れるべきだ。一口に技術水準といういい方をすれば日本と諸外国との間に差は認められない。ある分野では日本のほうが優れている面すらある。しかし、これは理論、設計面について特にいえることで、実際の製造面になると必ずしもそうはいかない。特に材質面と音に対する感性の二点においては最高級品を比較した場合、たしかに外国品には一日の長のある製品を散見する。そしてまた、外国の専門メーカーの歴史と伝統そして豊富なデーターの集積とは国内メーカーが一朝一夕には追いつけないものかもしれない。また、最も大きな相違点である音のちがい、これこそ血のちがいであり、土のちがいであり、環境のちがいであるといわざるを得ない。よくいわれることだが、物理特性のみをもってしては外国の一級品が必らずしも国産パーツを凌駕しない。しかし、結果として出てくる音には強い個性と充実した密度の高い音が存在し、ジャズや西洋音楽の特質と密着したアトモスフィアをもって圧倒的な説得力をもった製品が存在するのである。この差はよく紙一重といわれる。
 このように、国産製品の水準が高度化した現在、未だ輸入品の一部には立派に存在価値のある、なくてはならぬ逸品がある。それらは、もはや機器としての性能以上に音楽を創造する芸術作品といえるほどの風格すら備え、見る喜び、持つ誇りといった充実感が優れた再生音と共に強く感じられるのである。
 それでは、そうした外国製品のみによる組合せの実例をご紹介しよう
★組合せA
〈カートリッジ〉シュアー㈸V15II
〈トーン・アーム〉SME・3009
〈ターンテーブル〉トーレンス・TD124II
〈アンプ〉JBL・SG520E、SE401E
〈スピーカー〉JBL・075(高音)、375+537-500(中音)、LE15A(低音)、N500、N7000(ネットワーク)
合計 約120万円(含箱類)
 アメリカ製品を基調とした最高級組合せとなると価格も100万を越える。このクォリティは今のところ国産では絶対に得られないといってもいいだろう。ただし、この装置を生かすには部屋が小さくとも12畳相当、できれば30畳程度の広さが欲しい。このクラスになると、いかなるプログラム・ソース(音楽)にもペストリプロダクションを得られる。
★組合せB
〈カートリッジ〉オルトフォン・S L15+2-15K
〈トーン・アーム〉SME・3012
〈ターンテーブル〉ガラード・401
〈アンプ〉マッキントッシュ・C22、MC275
〈スピーカー〉タンノイ・GRF
合計 約112万円
 前者がアメリカ調とすれば、これはヨーロッパの香り豊かな重厚な装置である。音のキャラクターはかなりちがう。最高級品でも装置の音質が全く傾向のちがうものがでてくるといったことは外国製品のメーカーの主張が感じられ興味深い。本来、クォリティが上れば上るほど装置の個性はなくなるという考え方に対する一つの示唆といえるかもしれない。