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QUAD 33, 303, ダイナコ PAT4

岩崎千明

無線と実験 5月号(1968年4月発行)
「最近の海外Hi-Fiアンプの傾向」より

まえがき
 近着の米国オーディオ誌を眺めていたら、変ったことに気付いた。最近のオーディオやハイファイ誌に小型のFMラジオの広告が多いことである。それも1頁あるいは2頁みひらきという堂々たる広告でありながら、そのラジオはステレオ・アダプターもついていない程度の、小型パーソナル・タイプである。しかし、そのFMラジオは、本格的なHi−Fiメーカーで作られていることが興味をそそった。
 Hi−Fiアンプの最大メーカーから総合メーカー的な色合を濃くしているフィッシャー社、ブックシェルフ型スピーカー・メーカーとしてARと並び、最近はモジュラー・ステレオから完全な総合メーカーへと脱皮をとげて登り坂のKLH社、カートリッジ・メーカーとしてシュアに並ぶ高品質をもって鳴り、最近はスピーカー・システム、アンプへと手を拡げているADC社など、そうそうたる一流メーカーの手で、小型FMラジオがどんどん作られているのは何を示すか?
 その辺の事情を調べてみたら面白いことが判った。昨年末は米国市場においてFMラジオが爆発的に売れて、民需電子産業としてカラー・テレビに次ぐ売行きだったとか。これはFM放送網の拡充した50年代後期以来の流行だということである。
 何が理由で、今どろFMラジオが急激に売れてきたか。この辺が今年の米国市場のHi−Fi界のアンプの行き方と決して無関係ではなさそうなのである。
 そこでFMラジオが今までとどこが違うか。その技術的背景を考えてみよう。昨年末以来のFMラジオは、むろん例外なくトランジスター化されている。そしてその技術を踏台とLて、Hi−Fiメーカー製ラジオは、コンパクトながら、かなり完全な密閉型スピーカー部を備えているのが特長だ。管球式では小型ラジオのスペースの多くはシャシーにとられてしまうが、Tr化されればごく小型の基板以外は全部スピーカーが占められる。
 グッドマンのマキシム・タイプのスピーカーは米国でUTCが一手に引受けてマキシマスという名で売っていたが、その売行きは当初における予想を下まわって大したことはなかったが、その技術はモジュラー・ステレオのスピーカーにおいて生かされ、さらに今日、小型FMラジオにおいて真価を発揮しているわけである。
 もうひとつ、FMラジオで見逃がされないのは、フロント・エンドへFETを採入れることにより、永年問題となっていた強力電波による過大入力のクロストークの解決である。Hi−FiアンプのFETの採用はスコット社のチューナー・アンプを皮切りにシャーウッド、ケンウッドなどから今日では大部分の製品に採用されているが、これはFETの量産体制が備わった67年における大きな進歩であった。FMラジオの大流行は、「FETの採用により今までのクロストークの問題が解消し、Tr化によりスピーカー・システムを充実させることができ得た」ことが理由だ。

アンプの大きな流れ
 米国のHi−Fiアンプを見るとき、FM小型ラジオの著しい売行きからも判断できるように、Hi−Fiレシーバーが今や完全に庶民の実用品となってきている点を見逃がせない。そこで、Hi−Fiアンプのあり方も日本での場合とかなり違っており、その辺のことを了解していないと全般的傾向を判断しにくいいわけである。
 今年度のアンプ界における傾向で注目できるのは、マランツ18にみられるような、超一流ブランドによるレシーバー、つまりチューナーつきアンプの出現である。価格700〜500ドルという従来の倍の価格の高級アンプが狙うのはどんな層か。マランツ以外に、マッキントッシュ、アルテック、スコット フィッシャー、さらにソニーからもこの級の豪華型が発表されており、高級アンプはますます高級化、デラックス化の道をたどりつつある。
 スコット、フィッシャーなどの場合には、その一連の製品のイメージアップが大きな目的であるが、マランツ、マッキントッシュ、アルテックなどにおいてははっきりした目的があり、それがハイファイ・マニアでないオーソドックスな高級音楽ファン、ないし金持ちの一般市民に狙いを合せた製品であることは間違いなかろう。
 これと対照的に一般のHi−Fiアンプ、特にチューナーつきのレシーバーと呼ばれる総合アンプは全般的傾向として低価格の方向に進んでいる。米国でもっとも一般的な名声をもつフィッシャーを例にとると500ドルの700Tの最高ブランドを頂点にしていながら一般向けは200ドル級という、今までにない低価格の200Tと普及化されているのが判る。
 ケンウッド、パイオニア、サンスイなど日本製米国向けのアンプにもこの傾向はみられ、これらの製品はそのままの型で日本市場に出ているので如実に見ることができる。ハイファイ産業は今やマニアだけの物でなく一般市民の間に大きく根を下してきているのだ。

日本市場での海外アンプ
 米国市場でのデラックス化を反映して、日本に最近入ってきたアンプも多くが超高級品である。30万円前後の高価格だ。マランツ18、アルテック711B、フィッシャー700T。最近発表されたソニー6060やパイオニアの1500T、トリオの1300、サンスイでも同級のものがあるというが、米国市場では全て超豪華型といわれる級だ。
 これらのレシーバーは取扱いやすさを考えれば、一般向けという点に焦点を合わせた以外の技術的グレードの点で、今までのプリメイン型よりも高級であるといわれる。
 しかし今日の日本における需要層であるマニアの立場からはちょっと物足りない点が多い。たとえば入力端子が、本格的高級機なみにたくさんほしい。またチャンネル・アンプ化のためプリアンプ、メインアンプを独立して使いたいなど、数え上げればきりがない。日本製の高級アンプでは、こういうマニアの要望がほぼ完全に実現されているだけに海外アンプに対する物足りなさは一層だ。
 しかし、考えてみると日本のマニアのレベルはおそらく世界一ではなかろうか。チャンネル・アンプにしても日本ではかなり多く実用されているのに、米国市場ではアコースティックX以外の商品はなく、むろんマニアの間でそれが実用化している例も聞いたことがない程度だ。最近では米オーディオ誌の3月号に、チャンネル・アンプの記事がアコースティックXを例としてのっているのが珍らしいほどだ。特にステレオ期以後において、マニアに関しては日本の方が水準が上である。
 67年のコンシューマー・レポートの米国市場におけるアンプのテスト・レポートにおいても、日本製アンプがパイオニアの1000TAをはじめ、輸出専門メーカー製などがフィッシャー、スコットとならび、上位にランクされていることからも日本製品のグレードの高さが判ろうというものだ。これは結局、日本のハイファイ需要層の底辺の広さと、そしてマニアの満点の高さが製品に反映しているのだといえる。

ダイナコとクワッド
 さて、コンシューマー・レポートといえば、そのトップ・ランクの製品が、米国で低価格製品の異色とされているダイナコであった。
 ダイナコはアクロ・サウンドの技術者であったD・ハフナー氏が戦後アンプ・キットのメーカーとしてスタートした独特なメーカーである。この社の製品の高品質ぶりは定評があるのだが、最近、米国市場を湧かしているアンプは次のようなものがある。
 マランツ初のチューナー・アンプ〝モデル18〟、マッキントッシュ初のチューナー・アンプ〝1500〟とその改良型〝1700〟、これは終段は球で7591をPPとしたトランスつきだ。そしてこの高級2機種に対してARが初めて出すアンプ、そしてこのダイナコのTr化されたアンプのシリーズ、メインアンプの〝ステレオ120〟と、プリアンプの〝PAT4〟である。
 コンシューマー・レポートにおけるダイナコは管球プリアンプ〝PAS3X〟、とTrパワーアンプ〝ステレオ120〟だ。Trプリアンプ〝PAT4〟はすでに一昨年末に発表され、一部の商品が出まわっていたものだが、メーカーとしても「PAT4が必らずしもPAS3Xよりも優れているとはいわない」という微妙ないい方で、その販売に力を入れてることをしなかったものだ。それはTr化に伴いトラブルの予測ないしは実際に起きていたに違いなく、現実に市場に出ていた〝PAT4〟は全製品ダイナコの手で回収されたと伝えられていた。
 しかし、昨年、67年暮以来、そのS/Nに関するトラブルも解消し予期の高性能に達したようで、68年度は大々的に〝PAT4〟を売る方針のようだ。
 そしてその第一陣はすでに米市場で好評をもって迎えられ、日本でも4月には発売れよう。
 〝ステレオ120〟、60/60ワット・パワーアンプとの組合せは、価格を考えると最高品質といわれており、米国でも売行はキットを含めてプリ・メインのトップを行き、ものすごいようである。なおFMチューナーは管球式の従来のFMステレオ・マルチつきがコンビとされている。
 日本ではこのダイナコと前後してクワッド・ブランドで知られる英国アコースティカル社のTr化された新型アンプが入ってきた。
 QUAD33プリ、303パワーアンプの組合せである。クワッドは日本でハイファイ初期から特に高く評価されており、ファンも多く、人気も高い。このクワッドとダイナコのアンプが、日本マニアの間で当分の間人気争いの2大製品となろうことは明らかであり、またその内容、技術の対称的な点を含めて興味が深い。

QUAD33プリアンプ
 回路全体を簡略化、単純化するという点でダイナコと似た構成上の考え方を示しているが、ダイナコが球をほとんどそのままTrに置きかえた構成に対しクワッドはその2ブロックとボリュームとの段間に2つのエミッター・フォロワーのインピーダンス変換回路を挿入し、スイッチ配線に対してのリードのストレイ容量の影響および回路間のマッチングを考慮している、この点がダイナコと差があるだけである。トーン・コントロールが2段にわたるNF型である点、LCによるハイカット・フィルターがプリアンプ最終段にある点などダイナコとまったく同じであるのも興味深い。
 英国製共通のパワーアンプがハイゲインなため、プリアンプ出力は規格歪率にて0・5Vと低いが、この構成では1Vの出力においてもなんら差支えないであろう。
 ダイナコとの差は写真より判るように、その構造の違いだけといえそうだ。ダイナコのPU入力端子は3つあり、これは回路図よりみられるように入力端子において低レベル入力なみに落されてイコライザーに加えられるような方式をとっており、回路内でのスイッチを含め複雑化を防いでいるが、クワッドのプリアンプでは永年やってきたようなプラグイン・イコライザーの考え方をプリント基板の挿し変えという方式によっている。
 これは従来のようにいくつかのイコライザー・ユニットを用意するのでなく、あらかじめ0.5〜2mVまでの低出力、1.5〜6mVまでの高出力、セラミック用の各種のカートリッジのイコライザー、それに予備の端子を具えたプリント板の向きを換えて挿し変えて必要に応じた使い方をするわけである。
 テープ・アダプターの方はイコライザーに続くエミッター・フォロワーそのもので、プリント基板裏面にあるスクリューを切換えてテープ出力に応じたレベル・セットができる。このようなクリッピングを考慮した設計はTr化されたセットでは適切なものといえる。

ダイナコのPAT4
「偉大なものはすべて単純である」この言葉はフルトヴェングラーの芸術に対しての名言だが、ダイナコの回路図をみたとき、この言葉を想起した。実に単純きわまりない。片側の構成は4石、それも2段直結の2ブロックという、もっともシンプルな構成である。一般にハイファイ・アンプTr化の最大の問題点はトップの雑音発生である。S/N比を高く保つことがいかにむつかしいか、最高級を謳われるマランツ7TにおいてさえS/Nのバラツキが需要家最大の悩みのたねであった。
 ダイナコはこれを、構成を最少滅に喰いとめるという、もっとも当り前なオーソドックスな方式で解決したわけである。たくさんのツマミが好きで、マルチ・スピーカーが好きな変形マニアにはこのダイナコの良さは納得できないであろう。すべて製品は最終的に到達した性能、ハイファイでは、それに加えて出てきた音で判断すべきである。
 初めの2石直結ブロックはNF型のイコライザーを構成している。イコライザーはフォノ・テープヘッドおよび特別入力端子の3つが用意されている。直結アンプの前後に入力切換のスイッチがあり、その出力側にモニター・スイッチ、ヘッドフォン・ジャックによる入力端子、簡単なCR型のロー・フィルターが続く。
 そのあとにシーソー・スイッチ2個によるステレオ・モード切換があり、ボリューム・コントロール、バランス・コントロールと一連のリード配線を経て第2ブロックの2段直結回路に導かれる。
 この2つの直結構成の回路はほとんど同じもので電源B電圧の後段が高いため、動作点も後段が大入力用となっているわけだ。
 第2ブロックは、ダイナコ特許の2段構成NF型トーン・コントロールで、すでに管球式PAS3Xにおけるもの。もっと初期のモノ用プリPA1の回路と基本的に何ら変るところがない。BAX型と呼ばれるNF型のトーン・コントロール素子がエミッター・コレクター間の2段にわたって結ばれている。このため全体の中域のゲインは20dB以上あり、しかも従来起りがちの低域の上昇がなまることもなく、超低域上昇特性のよさは、まさにマランツなみを誇るものである。ダイナコ・プリアンプの優秀さの最大の支えとなっているのが、このダイナコ特許の2段NFトーン・コントロール回路であり、Tr化された今日でもこれは少しも変ることなく続いているのをみると、米国製品に珍らしい技術的なしぶとさを感じるのである。
 この2段出力段のあとにLCによるハイカット・フィルターが入り、出力端子へと導かれる。低出力インピーダンスのあとのハイカット・フィルターだけに素子のインピーダンスを下げなければならず、コア一に巻かれたインダクタンスを採用したのであろう。出力インピーダンスの十分低いトランジスター回路ではLは管球以上に利用されるわけだ。
 ダイナコPAT4の出力は2Vまで規格歪率でおさえられており、むろん電源負荷である点を考えると、規格出力が0.5Vのクワッド・プリアンプ〝33〟よりも独立使用の点で有利であり,またクワッドがヨーロッパ規格のコネクター式入力端子であるのに対し,ダイナコが米国のRCAピン・プラグ入力端子である点も、日本のオーディオ層にはなじみ深く、有利といえそうである。内部配線の米国らしいみてくれを考えない合理的なリードの引きまわし方は、一見弱々しくみえる内部構造とともに,神経のこまかいマニアには納得できないかも知れない。そういう点からはクワッドの測定器なみの組み立て配線の方がはるかに良心的で日本人的センスであるが、出てきた性能はほとんど同レベルと考えてよく、まさに合理主義的米国式か、ガッチリと伝統を守る英国式かという内部構造の点と約2万円近い価格差だけが選ぶ者にとっての導標だ。

ダイナコ PAS-3X, Stereo 120

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 パワーアンプ♯120は、発売当初からウォーム・トーン(温かい音色)ということを強調していただけあってトランジスターアンプの中では、充実感のある力強いマッシヴな音質だった。
 ただ、PAS3Xと組み合わせた場合には、プリアンプの方のキャラクターがそれに加わって、もう少しソフトで丸くなって、音の解像力が少し不足する感じになる。もうだいぶ以前に発表されたまま未発売のトランジスタープリアンプPAT4と組み合わせればおそらく全体にもう少し品位の高い音になるだろうと思う。現にプリアンプだけほかのものに変えると、音のグレイドはずっと向上する。
 しかしプリメイン合わせた輸入価格の13万6千円というのは、性能を考えお買徳であろう。