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アルテック 612C Monitor

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

伝統的なスタジオモニターのサイズでまとめた実力はさすがに見事だ。

アルテック Model 19

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

プロ機の技術が輝く堂々たるハイファイスピーカー。

アルテック A7-X

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

歴史と実績に保証された最新の技術が光る王者的風格。

アルテック 620A Monitor

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

新しき装いをもつ伝統をバックにした完成度の高いモニターである。

アルテック A5

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

巨大なエネルギーを感じさせる中域は大型ドライバーの独特の魅力。

アルテック 612C Monitor

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 アルテックの612Cは、当社が長い歴史をかけて完成させてきた2ウェイのコアキシャル・モニタースピーカー、604シリーズの最新製品8Gを比較的コンパクトなエンクロージュアに内蔵したシステムである。コアキシャル・スピーカーらしい、音像定位の明確さ、聴感上のバランスのよさが保証されるが、エンクロージュア容積の不足もあって、なんといっても低域の再生が十分でない。これが、このシステムの一番の泣き所といってよいだろう。しかし、中・高域のバランスは最高度に整っているし、各種音色の分離、音の質感の解像力は、さすがに、世界的に広く使われているモニタースピーカーとしての面目躍如たるものがある。音像の輪郭がきわめてシャープであり、あいまいさがない。ステレオフォニックな位相感の再現も、コアキシャルらしい自然さをもっているが、やや左右の拡がりが狭くモノ的音場感になるようだ。このスピーカーの持つ、メタリックな輝きは、決して、個性のない、いわゆるおとなしい音とはいえない。にもかかわらずこれが世界的に使われている理由は一に実績である。モニタースピーカーというものは、多くのスタジオで、多くのプロが使うという実績が、その価値を決定的なものにするといってよく、この点、アルテックの長い歴史に培われた技術水準とその実績の右に出るものは少ないといえるだろう。

アルテック 620A Monitor

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 中高音域の密度が濃いために総体に音が張り出して近接した感じに聴こえる点は612Cと共通の性格だが、中味が同じユニット(604-8G)でもエンクロージュアがひとまわり大きくなると、低音域が豊かになると同時に腰の坐りのよい安定感のある音になるためか、かなり聴きごたえのある味わいの濃い音に仕上ってくる。
 612Cではトゥイーターレベルを1~2段落した方がバランスが良かったが、620Aになると一応そのままで低・高音のバランスは整っていて、たとえばアルゲリチのショパン(スケルツォ)などでも、いくらか「スピーカーの鳴らす音だ」という感じの、言いかえれば自然のピアノの音にくらべて人工的な味わいはあるものの、打鍵音が腰くだけにならず一音一音の打音の密度とそれに続く余韻の響きの良さには一種の実体感があって、音量を上げたり絞ったりしてやや長い時間聴きこんでみたが、弱音でも音のディテールを失わずバランスのくずれもなく、全音域に亙って欠けた音域を感じさせないので、手ごたえの確かな音が楽しめる。ただ、ラヴェルの「シェラザーデ」のように音の色彩感の豊かさや色あいの微妙さを、まだブラームスのクラリネット五重奏曲のように木管と弦の織りなす香気を、るいはクラヴサンやチェロのように一種なまめかしい倍音の繊細さを大切にしたいような、キメのこまかなニュアンスや味わいを深く求めてゆくにはいささか物足りない。
 620Aの鳴らす音は、たとえばラヴェルの場合でも音を空間に散りばめるよりは一点に凝縮させ塗り込めるような、ひろがってゆくよりはひとつの枠に閉じこめてゆくような傾向があって、それは高域の伸びが十分でないことと、高域の音自体がやや骨太であることによるのだろうが、新しいステレオ録音に対しては、もう少し高域のレインジの広さや、音のいっそうの細やかさが出てこないと不満を感じると思う。
 ただ、中低音域以下の鳴り方には、612Cと違っておっとりしたゆとりを感じさせるために、612Cのように張り出しすぎ、あるいはパワーを上げてゆるとやかましいというような感じにはならないし、620Aをしばらく聴き込んだあと、4343の中・高音域のかなり広い部分が、抑えたというよりは欠落したかのように一瞬錯覚するくらい、両者のこの音域のエネルギーの出かたは対極的だ。このため、ポップスやジャズの場合には、腰の強く輝かしい迫力、密度の高く能率の良いためにハイパワーを放り込んでも少しもつぶれた感じがなく音量がどこまでもよく伸びるという長所によって、相当に気持のよい楽しみ方ができる。仕事のための聴き分けようモニターという枠にとらわれず、家庭でのレコード鑑賞用としても、この音が好みに合いさえすれば、手もとにおく価値のあるスピーカーだ。

アルテック 620A Monitor

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 620Aは612Cと共通のユニットをもったモニタースピーカーである。つまり、コアキシャルのフルレンジスピーカー、604−8Gが内蔵されている。38センチ口径のウーファーに、ホーン・トゥイーターが同軸でカプリングされた有名なユニットだ。612Cと比較して、こちらのほうがエンクロージュアが、より理想に近い。同じユニットでも、エンクロージュアの違いによりシステムとして、かなりの差が出ている。612Cの時に感じられた、位相感の再現性がより優れ、左右のユニット間の音のうまりが、ずっと緻密になり、ステレオフォニックな音場感も、こちらのほうが豊かに再現されたのである。勿論、低域の再生も、こちらのほうがはるかに優れ、豊かな低音感であった。ただし、いたずらに低域がのびている音ではなく、むしろ聴感上の低音感としての感知領域以下の低い帯域は、十分な再現とはいえない。このシステムも、使い方で低音の再生に大きな変化をきたすはずで、通常、スタジオでは、宙釣りして使うケースが多い。あるいは、台の上に設置するといったケースも少なくないだろう。今回の試聴は床にフロアタイプとして置いたので低音感はより豊かになったと思われる。さすがに、プログラムソースの細部までよく判別の出きるシステムで、エコーの流れやバランスは、普通のスピーカーよりはっきり聴こえる。

アルテック 612C Monitor

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 これの旧型である612A(604E入り)をかつて自家用に購入し、結局私の家ではどうにも使いこなせずに惜しくも手離してしまったといういきさつがあったので、改良型ともいえるこのモデルが、どんなふうに変っているか(あるいは変っていないか)という点に興味を持って試聴に臨んだ。中音域のよく張り出して相対的に高・低両音域がややおさえ気味に聴こえるバランスは大掴みには旧型と変らない。そういう性格のために総体に音がぐんと近接した感じに、そしてかなりハードに聴こえる。たとえば試聴盤中、バッハのヴァイオリン協奏曲では独奏ヴァイオリンがやや音マイク的にきつい音で録音されているが、そうした音源の場合とくに、キンキンした感じが強い。ヴァイオリンをすぐ近くで聴くとこういうきつい音のすることも事実で、その意味ではナマの楽器の鳴らす音の一面を確かに聴かせるのだが、耳の感度の最も高いこの音域がこれほど張って聴こえると、音量を上げたときなどことにやかましい感じで耐えがたくなる。試みに、トゥイーターレベル(連続可変)を-1から-3ぐらいまで絞ってみる。-1からせいぜい-1・5がバランスをくずさない限界のようで家庭での鑑賞にはこのあたりがよさそうだ。ハイエンドの伸びがかなり物足りないのでトーンコントロールのターンオーバーを高くとって補正してみたが、本質的にトゥイーターの高域の硬さがあるために、音の繊細さや爽やかさが増してくる感じにはなりにくい。同じ意味で、独奏ヴァイオリンのバックで鳴っている弦楽オーケストラの、肉声やチェムバロの繊細な倍音が鮮やかに浮かび上る感じがあまり出ない。
 ステレオの音像は広がるタイプでなく、左右のスピーカーのあいだに凝縮する傾向になる。したがって、独奏者の中央での定位はしっかりしている。低音はかなり引締め気味なので、これもアンプで+3から+6dBぐらいまで補整を加えてみる。量感としては整ってきて、中域の密度の高いこととあいまって充実感が増してくるが、反面、ピアノの音などで箱の共鳴音、といってオーバーなら音像がいかにもスピーカーという箱の中から鳴ってくることを意識させられるような鳴り方になりがちだ。ヴォーカル、それもクラシックの歌曲のようにマイクを使わないことが前提の場合でも、声がPA(拡声装置)を通したようにやや人工的に聴こえる。但しこれらはすべてクラシックのソースの場合の話で、ポップスに限定すれば、中域の張って明るい音、低域をひきしめた音、高域端の線の細くない音、は概してプラスに働いて音楽に積極的な表情をつけて楽しませる。能率はかなり高い方で、リファレンスのJBL4343よりもアンプのボリュウムを8ないし10dBほど絞って聴感上で同じようになった。アンプの音質の差にも敏感で、用意したパワーアンプの中ではマランツが一応合うタイプで、マーク・レビンソンにあると音を引締めすぎるのか硬さが目立った。

アルテック Model 19

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶くっきりした、力のあるひびきで示されるピッチカート。
❷たっぷり余裕のある低音弦のスタッカートはなかなかいい。
❸くっきりと、あいまいにならずに特徴あるひびきを示す。
❹第1ヴァイオリンのひびきのたっぷりした提示は独特だ。
❺力をもったクライマックスのひびきは圧倒的だ。力にみちている。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノのひびきのゆたかさを示すが、音像は大きめだ。
❷音色的な対比を示しはするが、もう少し小味でもいい。
❸音楽的な身振りが、やはりどうしても大きくなる。
❹一応特徴は示しはするが、さわやかとはいえない。
❺木管のひびきがたくましくなる傾向がある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶細かい表情をそれなりに示して、拡大しないよさがある。
❷接近感は明らかになるが、雰囲気ゆたかとはいいがたい。
❸声が硬くなる。クラリネットの音色はこのましい。
❹はった声は、さらに硬くなり、金属的になるきらいがある。
❺オーケストラのひろがりを感じさせ、声とのバランスもいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の声が前にでる傾向があり、すっきりさに欠ける。
❷声量の変化を極端に示す。言葉のたち方は充分でない。
❸残響をひきずりがちなため、ひびきに肉がつきすぎる。
❹各声部の音の動きが多少重く感じられる。敏捷さがほしい。
❺最後の「ラー」でののびは、自然で、このましい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンという高い音とポンという低い音との対比は充分だ。
❷シンセサイザーのひびきはきわだって奥の方からきこえる。
❸浮遊感は充分とはいいがたい。もう少し軽くてもいい。
❹前後のへだたりは充分にとれて、ひろがりを感じさせる。
❺力をもってもりあがるピークは迫力がある。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶透明ではあるが、暖かい、かなり上質のひびきだ。
❷対比は充分について、ギターはかなり積極的に前にでる。
❸びひきとしてのまとまりがよく実在感もある。
❹光りをもって、くっきりと提示され、有効だ。
❺他のひびきの中にうめこまれがちで、効果の点で充分とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきはさらにさわやかでもいいだろう。
❷ひびきの厚みを力をもって示している。
❸必ずしもさわやかとはいいがたいが、音色的特徴は示す。
❹ドラムスの音は、少し重めだが、アタックの鋭さは示す。
❺楽器のひびきの方がきわだちがちである。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力は充分だが、音像的には大きくなりがちだ。
❷クローズアップの迫力をなまなましく示す。
❸消え方も明らかにし、スケールもゆたかだ。
❹充分シャープに反応できているのがいい。
❺他の点では問題ないが、音像対比では多少ひっかかる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶おしこんでくるような力のある音が特徴的だ。
❷ブラスは、腰の強いひびきで、直進してくる。
❸過度に横にひろがることなく、積極的に前にはりだす。
❹一応のへだたりもあり、見通しも充分だ。
❺力強くリズムが刻まれ、めりはりをつける。

座鬼太鼓座
❶一応の距離はとれているが、ホール・トーンのごときものが感じられる。
❷音色的には、もう少し繊細で枯れていてもいいが。
❸くっきりと、あいまいにならず示されている。
❹中味がぎっしりつまった、スケールゆたかなひびきだ。
❺❹ひびきとの対比の上で充分に成果があがっている。

アルテック Model 19

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 従来のアルテックからみると、まず二つの点で大きく変っている。第一に、中〜高域のドライバーに、「タンジェリン・タイプ」と名づけられた新型を採用して、2ウェイでありながらハイエンドのレンジを延ばしていること。第二に、ネットワークをくふうして、中域、高域のバランスを独立にコントロールして細かくバランスの調整ができるようにしてあること。レベルコントロールには、HIGH、MIDそれぞれにOPTIMUMの表示をしてある幅を持たせてあるが、今回の試聴ではMID、HIGHともOPTIMUMの文字の〝O〟のあたりに合わせた。MIDをこれ以上上げると中音がやかましくなるし、HIGHも上げればレンジは広がるがややキャンつく傾向も出るので、右のポジションがよかった。置き方では、フロアーにじかに置くと低音がわずかにこもるので、ほんの数センチの低い台で持ち上げると、音の抜けがよくなった。左右にはあまりひろげると中央の音が抜ける傾向があった。総体にJBLのような緻密な質感とは違っていくらかラフな鳴り方だが、アンプの方でいろいろいコントロールしてみると、結局、ハイもローも適度におさえてナロウレインジに徹してしまう方が、中域のたっぷりして暖かく楽しい、アルテックの良さが生かされると感じた。アルテックはワイドレインジにしない方がいいと思った。

既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする(その3)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 第2の中音用ユニットを加えるプランは、ベースとなるシステムが2ウェイ構成であるときに使いやすい。実際に、現在シリーズ製品としてメーカーから発売されているブックシェルフ型システムのなかには、同じウーファーとトゥイーターを使用し、上級モデルにはコーン型スコーカーを加えて3ウェイ構成としている例が多い。エンクロージュアの外形寸法では、2ウェイにくらべて3ウェイ構成のほうが、コーン型スコーカーのバックキャビティを必要とするために1サイズ大きくなるが、ウーファー用としてのエンクロージュア内容積では変わらず、低音の性能はほぼ同じと考えてよい。
 かつて、JBLのシステムにあったL88PAには、中音用のコーン型ユニットとLCネットワークが、M12ステップアップキットとして用意され、これを追加して88+12とすれば、現在も発売されている上級モデルのL100センチュリーにグレイドアップできる。実用的でユーモアのある方法が採用されていたことがある。
 ブックシェルフ型をベースとして、スコーカーを加えるプランには、JBLの例のように、むしろLCネットワークを使いたい。マルチアンプ方式を採用するためには、もう少し基本性能が高い2ウェイシステムが必要である。例えば、同軸2ウェイシステムとして定評が高いアルテック620Aモニターや、専用ユニットを使う2ウェイシステムであるエレクトロボイス セントリーVなどが、マルチアンプ方式で3ウェイ化したい既製スピーカーシステムである。この2機種は、前者には中音用として802−8Dドライバーユニットと511B、811Bの2種類のホーンがあり、後者には1823Mドライバーユニットと8HDホーンがあり、このプランには好適である。
 また、アルテックの場合には、511BホーンならN501−8A、811BならN801−8AというLCネットワークが低音と中音の間に使用可能であり、中音と高音の間も他社のLC型ネットワークを使用できる可能性がある。エレクトロボイスの場合には、X36とX8、2種類のネットワークとAT38アッテネーターで使えそうだ。
 マルチアンプ方式では、クロスオーバー周波数の選択、ユニットの出力音圧レベルやボイスコイルインピーダンスの制約がないために、スコーカーユニットの追加は大変に容易である。つまり音色の傾向さえ選択を誤らねば、他社のユニットホーンの採用も可能であり、実は、このように他社のユニットが自由に選べるのがマルチアンプ方式の本当の魅力だ。中音ユニットの音色傾向は、構造にも関係するが、ドライバーユニットなら主に振動板であるダイアフラム材質により左右される。アルテックが現在の主流である軽金属のダイアフラムであることにくらべて、エレクトロボイスは伝統的に硬質フェノール樹脂製のダイアフラムを採用している特長があり、これが、エレクトロボイスのサウンドの特徴になっている。このタイプのダイアフラムは、よくPA用と誤解されやすいが誤りであり、ナチュラルで軽金属ダイアフラムの苦手な弦やボーカルに優れた再生能力をもつ。
 その他のバリエーションには、3ウェイ構成のシステムの低音と中音の間に、主にコーン型の中低音ユニとを加える方法がある。この場合には、追加したユニットを置く位置がポイントになる。この方法は、クロスオーバー周波数が低くなるため、マルチアンプ方式のほうにメリットは大きいものがある。

●スピーカーシステム
 アルテック 620A Monitor
 エレクトロボイス SentryV
●ドライバー
 アルテック 802-8D
 エレクトロボイス 1823M
●ホーン
 アルテック 511B
 エレクトロボイス 8HD
●コントロールアンプ
 GAS Thoebe
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 サンスイ CD-10
●パワーアンプ
 低音域:GAS Son of Ampzilla
 中音域:GAS Grandson
 高音域:GAS Grandson

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(アルテック A5)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 アルテックA5システムは、一般によく知られているA7−500−8システムを内容的に一段とグレイドアップしたタイプで、ザ・ボイス・オブ・ザ・シアターシリーズ業務用スピーカーシステムのなかでは、A7とならび、実用上、家庭内に持込んでコンシュマー用として使用できるもっとも小型な製品である。
 現在、国内でA5システムと呼ばれているタイプは、A5Xシステムといわれるタイプをベースとして、ハイフレケンシーユニットと組み合わせるホーンを、マルチセルラ型から大型セクトラルホーン311−90に置換え、コンシュマー用に相応しい指向性を得ようとしたシステムである。
 もともとA5システムは、開発された時点においては、現在のタイプとはまったく異なったより大型のエンクロージュアを採用しており、システムとしては、ウーファーと高音用のドライバーユニットの基本的な構造や規格で同じであることに類似点があるのみであるから、このA5システムも、A5シリーズのヴァリエーションのひとつとして考えてもよいと思われる。
 エンクロージュアは、A7−500−8システムと共通のフロントホーンとバスレフ型を複合した独特の828Bで、ウーファーは、416−8Bの強力型ユニットである515Bを組み合わせている。このユニットは、コーン紙を含む振動系は、ほぼ416−8Bと同等だが、磁気回路はアルニコ系の鋳造マグネットを採用した強力なタイプで、出力音圧レベルは105dBと発表されている。
 高音用には、振動系が改良され、モデルナンバーが異なる291−16Aが指定されていたこともあったが、現在では、オリジナルともいうべき288−16Gドライバーユニットと311−90セクトラルホーンを組み合わせて使用している。
 クロスオーバー周波数は、より大型のドライバーユニットとホーンの組合せにもかかわらず、より小型なA7−500−8システムと同じ500Hzが指定されている。LC型ネットワークは、超大型のN500F−Aがマッチする。この場合の聴感上の特長は、A7−500−8にくらべ中音のエネルギー感と密度が格段に優り、低音も引締まった充実した響きで、いかにも業務用システムらしい堂々とした音が得られる点である。
 また、A5システムは、フロントホーン付の828Bエンクロージュアを採用し、高音ユニットとのエネルギー的、音色的つながりが意図されていると同時に、低音と高音の両ユニット間の位相が調整されている特長があることも見落とせない重要なポイントとしてあげることができる。
 マルチアンプ化のプランには、GASのアンプをベースにDBシステムズのエレクトロニック・クロスオーバーを使う。家庭用としての使用では、クロスオーバー周波数を指定より下げてみるのも大変に興味深い。

●スピーカーシステム
 アルテック A5
●コントロールアンプ
 GAS Thaedra
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 DBシステムズ DB-3+DB-2
●パワーアンプ
 低音域:GAS Ampzilla II
 中高音域:GAS Son of Ampzilla

アルテック Model 15

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、うすく、多少のへだたりをもってひびく。
❷低音弦のひびきは、重く、ねばりぎみである。
❸フラジオレットの音色を伝えるものの、充分とはいえない。
❹ここでのピッチカートは、大きくふくらみがちだ。
❺迫力があり、力も感じさせるが、鮮明とはいいがたい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はふくれぎみで、音の質としてはたくましい。
❷音色的な特徴を拡大ぎみに示し、大柄だ。
❸室内オーケストラのものとしては、たっぷりひびきすぎる。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは、肉がつきすぎている。
❺個々の楽器の音色を示すが、鮮明にとはいいがたい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像が大きく、表情をきわだたせる傾向がある。
❷残響をかなりひっぱり、接近感を誇張する。
❸クラリネットをクローズアップぎみに示す。
❹はった声は、かたくなって、のびない。
❺オーケストラと声とのバランスがいいとはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はかなり大きい。定位ははっきりしない。
❷ひびきに多少のねばりがあるために、不鮮明になりがちだ。
❸残響をひっぱりすぎているために、細部があいまいになる。
❹バリトン、バスが強調されぎみなので、各声部のバランスが悪い。
❺のびてはいるが、軽やかさがない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の方が大きくひびく。
❷奥へのひきはいいが、クレッシェンドが自然でない。
❸一応の浮遊感を示すものの、ひびきはねばりきみだ。
❹前後のへだたりは示せているが、広々とはひびかない。
❺ピークでの、ひびきのふくらみは圧倒的で、迫力も充分だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきに力がつきすぎていて、透明感が不足だ。
❷ギターの音像は大きく、そのひびきは力強い。
❸きわめて積極的に自己主張して、前にはりだす。
❹このひびきの輝きがききとりにくい。
❺他のひびきの中にうめこまれて、ききとりにくい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が、ふくらみ、重くきこえる。
❷重厚にきこえるが、音の重なり具合はよくわからない。
❸ハットシンバルの音が湿ってきこえる。
❹ドラムスの音像が大きく、鋭くつっこんでこない。
❺バックコーラスの効果は一応示せている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像が大きく、入れものの中でひびいているかのようだ。
❷指の動きを、なまなましくきわだたせる。
❸弦をはじいた後の音の消え方をくっきり示す。
❹ある種の力感は伝えるものの、シャープな反応に不足する。
❺サム・ジョーンズとの音像的対比が不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶迫力はあるが、リズムが重く感じられる。
❷ブラスのひびきに力があり、効果的だ。
❸積極的に大きく前にはりだしている。
❹へだたったところからきこえるが、効果的とはいえない。
❺ふやけてはいないが、重くリズムが刻まれている。

座鬼太鼓座
❶尺八は左奥からきこえるが、距離感は足りない。
❷尺八のひびきに脂がつきすぎている。
❸かなりたっぷりと、力をもったひびきできこえる。
❹スケール感ゆたかなひびきをきかせる。
❺きこえることはきこえるが、効果的とはいえない。

アルテック Model 15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 最近のアルテックの製品の中では、前々号のアンプテストのときに使ったモデル19にとても感心した。ほんらいアルテックのスピーカーの音には、ベル研究所からウェストレックスに至る歴史の重みに裏づけられた重厚でしかも暖かさを失わない良さがあって、古くからのレコードファンにも、どこか昔の上質の蓄音機の鳴らす音に一脈通じる懐かしさ、あるいは親しみが感じられた。さすがにA7あたりの製品には、音域的に狭さが感じられるようになってきたが、モデル19は、古くからの暖かい音の良さを維持しながら現在のワイドレンジの方向をできるとり入れて成功したスピーカーのひとつだと思った。モデル15がその弟分だということで、大きな期待を持って聴いたのは当然だ。だが、決して期待が大きかったためばかりではなく、いかに冷静に使いこなしをくふうしてみても、このスピーカーの鳴らす音は私の理解の範疇をはるかに越えてしまっている。たとえば高域端(ハイエンド)のピーク性のクセが気になるという一事にもあらわれるように、アルテックらしい暖かさまたは確信に満ちた豊かさが感じられない。とくにグラモフォン系のレコードはもう箸にも棒にもかからないという手ひどいバランスで、レベルコントロールや置き方や組合せをいろいろ変えてみても、私の耳にはどうやったら良い方向に鳴らせるのか、判断がつきかねた。

アルテック 9440A

菅野沖彦

ステレオ別冊「あなたのステレオ設計 ’77」(1977年夏発行)
「’77優良コンポーネントカタログ」より

 アメリカのアルテック社はプロフェッショナル機器専門のメーカーで、同社の劇場用スピーカーのA7シリーズは有名だ。しかし、アルテック社はエレクトロニクスや各種の機器を開発していて、高級業務用のアンプ類が少なくない。この9440Aは、比較的新しく開発されたトランジスター・ステレオ・アンプで200W/チャンネル以上の出力で、モノでは800Wの大出力が得られる。いかにもアルテックらしい堂々たるコンストラクション。

アルテック A5

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 アメリカのアルテックの代表的製品。ユニークな、フロントホーンをもったエンクロージュアには38cm口径ウーファーがおさめられ、上を500Hz以上をホーン・ドライバーが受持つ。ユニットは総てむき出しのまま。本来は、大劇場用の強力システムだが、家庭手も、優れた再生音が得られる。独特な風格あるもの。

アルテック A5

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 会議室や中程度のホール、またはそれ以上の広い会場で、できるだけ無理せずに楽しめる音を鳴らしたいというような条件があれば、アルテックを必ずしも好きでない私でも、A5あたりを第一にあげる。以前これを使ってコンサートツアーを組んで大成功を収めたことがある。私自身は家庭用とは考えていない。

アルテック Model 19

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 周波数特性のワイド化と、ユニットやエンクロージュアの無駄な共鳴音や夾雑音の類をできるかぎり抑ええ込むというのが新しいスピーカーの一般的な作り方だが、アルテックの新型は、周波数特性こそ従来の同社製品からは考えられないほど広帯域化しながら、キャビネットやホーンの共鳴音も適度に残してあって、それが何ともいえず暖かくふくよかな魅力ある音に聴こえ、新型であってもどこか懐かしさのようなものを感じさせる一因だろう。

アルテック A7-500-8

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 個人の住宅で、びっくりするほどおとなしい音に飼い馴らしている愛好家の例を知らないわけではないが、私個人は、特性も音質も外観も仕上げも含めて、狭い室内で至近距離で眺め・聴く製品とは思いにくい。反面、小ホール等公共の場所で鳴らしたときの、朗々と明るく気持よく響く質の高い音質は、他のスピーカーで代替できない優れたアルテックの特徴だと思う。もちろんそういう長所を自宅で生かしてみようと試みるのはご自由だ。

アルテック 620A Monitor

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 世界的に最も普及している604E/612Aモニターは以前持っていたが、過程で手頃な音量では音が硬く延びがなく手離してしまった。新しい620Aは、エンクロージュアが大きくなったせいか、音がゆったりと落着いて、モニター的なクォリティを保ちながら家庭でもくつろいで楽しめる音になってきたと思う。604も8Gになって高域のレンジが広がって、私のような広帯域指向の人間にも拒絶反応が起きなくなった。

アルテック 620A Monitor

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 アルテックはアメリカの代表的なスピーカーメーカーであるが、その作品中、ながい伝統に輝く傑作が、38cm口径のコアキシャル同軸型ユニットである。604、605シリーズと呼ばれ、世界中の録音スタジオのモニターとして大きな信頼に支えられてきた。これは、そのユニットを最新のテクノロジーでリファインした604−8Gというユニットをバスレフのフロアー型エンクロージュアに収めたプレイバック・スタンダードである。

アルテック A7-500-8

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 A5の廉価品といってもよいが、その実力はワン・アンド・オンリーのもので、大ホールでの再生に真価を発揮すると同様、家庭に持ち込んでみても悠然として、スケールの大きな、きわめて雰囲気の豊かな音を再生する。これはクロスオーバーが500Hzだが、この下に800HzのA7−8もある。ウーファーは同じ416−8Aだが、ホーンが異る。ヴォイス・オブ・シアターと名前通りの豊潤なサウンドである。

私のアルテック観

瀬川冬樹

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ・アルテック」
「私のアルテック観」より

 アルテックについての忘れられない想い出から書こう。ただそれが昭和三十年代早々ではあったが、いつのことかその辺の正確な記憶はひどくあやしい。
 私はまだ嘴の黄色い若造で、オーディオ界の諸先輩に教えを乞う毎日だった。そんなある日、最も私淑していた池田圭先生に連れられて、当時ユニークな設計で優秀なクリスタル・ピックアップなどを作っていた日本電気文化工業株式会社(DBという商標を使っていた)の味生(みのお)勝氏に紹介して頂くため、雪谷ヶ大塚かそれとも洗足池の近くだったか、とにかく池上線沿線の中原街道ぎわにあった、DBの会社を訪問した。
 まだ工業デザインの本格的な勉強をはじめる以前のことで、しかし若さからくる無鉄砲と世間知らずとで、それまで勤めていたある雑誌社をとび出して、フリーの工業デザイナーを気どってはみたものの、その実仕事をくれる人などありはせず、結局のところ雑誌のカット書きや版下作りなどしながら、素寒貧の暮しをしていた。
 そんな私を見ていられなかったのか、池田先生が味生氏に、この男に何かデザインさせてやってくれないかと、紹介してくださったのだ。
 味生勝氏はアメリカで勉強し向こうで生活しておられたという技術者で、眼光鋭い洗練された紳士だったが、当時の私の、やせて顔色の青ざめた、おどおどした態度の青二才に、まともなデザインのできる筈などないことは誰の目にも明らかで、結局デザインの話などはほとんど出なかったのだが、その晩、池田先生と私を自宅に招いてくださった。そこにあったのが802Cドライバーと811Bホーンだった。
 味生氏の重厚な応接室(といっても実際は味生氏のいたずら部屋であることは一見してわかった)には、そアルテックと、ウーファーがグッドマンのAXIOM150の2ウェイシステムが置かれてあった。ステレオ以前の話である。
 スピーカーは、当時まだ珍しかった高・低2系統のデュアルチャンネル・アンプでドライヴされていた。アンプのことはよく憶えていないが、味生氏製作の6V6PPか何かだったろう。
 ピックアップも、当時としては珍しい(そのときはじめて実物を目にした)シュアの〝スタディオダイネティック〟というモデルで、先細りのスマートな黒い角パイプの先端に、のちに松下電器がWM28というピックアップで国産化したものの原型ともモノーラルのMM型カートリッジがついていて、たしか2~3グラムくらいの針圧(8グラム近辺でも軽針圧と呼んだ当時としては驚異的な軽針圧だ)で動作したと思う。ちに、ステレオ化されて〝スタディオ・ダイネティック〟が〝ステレオ・ダイネティック〟と変わったが、そのカートリッジが単体で市販され、M3Dの名でステレオ用のMMカートリッジのいわば元祖となり、シュアの名をこんにちのように有名にするきっかけを作った(この話は、いずれ出るであろう本誌シュア号のためにとっておくべきであったかもしれない)。
 そこで再びアルテックだが、味生氏の音を聴くまでは、アルテックでまともな音を聴いたことがなかった。アルテックばかりではない。当時愛読していた「ラジオ技術」(オーディオ専門誌というのはまだなくて、技術専門誌かレコード誌にオーディオ記事が載っていた時代。その中で「ラ技」は最もオーディオに力を入れていた)が、海外製品ことにアメリカ製のスピーカーに、概して否定的な態度をとっていたことが私自身にも伝染して、アメリカのスピーカーは、高価なばかりで繊細な美しい音は鳴らせないものだという誤った先入観を抱いていた。
 味生氏の操作でシュアのダイネティックが盤面をトレースして鳴り出した音は、そういう先入観を一瞬に吹き払った。実に味わいの深い滑らかな音だった。それまで聴いてきたさまざまな音の大半が、いかに素人細工の脆弱な、あるいは音楽のバランスを無視した電気技術者の、あるいは一人よがりのクセの強い音であったかを、思い知らされた。それくらい、味生邸のスピーカーシステムは、とびきり質の良い本ものの音がした。
 いまにして思えば、あの音は味生氏の教養と感覚に裏づけられた氏自身の音にほかならなかったわけだが、しかしグッドマンとアルテックの混合編成で、マルチアンプで、そこまでよくこなれた音に仕上げられた氏の技術の確かさにも、私は舌を巻いた。その少し前、会社から氏の運転される車に乗せて頂いたときも、お宅の前の狭い路地を、バックのままものすごいスピードで、ハンドルの切りかえもせずにグァーッとカーブを切って門の中にすべりこませたそれまで見たことのなかった見事な運転に、しばし唖然としたのだが、音を聴いてその驚きをもうひとつ重ねた形になった。
 使い手も素晴らしかったが、アルテックもそれに勝とも劣らず、見事に応えていた。以前聴いたクレデンザのあの響きが、より高忠実度で蘇っていた。最上の御馳走を堪能した気持で帰途についた。
     *
 ステレオ時代に入り、初期のデモンストレーションばかりの実験期も過ぎて、名演奏がレコードで聴けるようになったころ、当時は三日にあげず行き来していた山中敬三氏が、アルテックの802Dドライバーと511Bホーンをひと組入手された。彼も同じ「ラジオ技術」の愛読者として、海外製品に悪い先入観を植えつけられて、それまでは国産のホーンスピーカーを鳴らしていたが、私が話した味生邸での体験談も彼をアルテックに踏み切らせるきっかけのひとつであったようだ。そして確かに山中邸のステレオスピーカーは、それまでの国産とは別ものの本格的な音を鳴らしはじめた。国産の大型中音ホーンのためにぶち抜いた壁の穴が、その後長いこと、左右のスピーカーの中央に名残りを刻んでいた。
     *
 そうしてアルテックの良さを体験しながら、私自身はアルテックを買わなかった。欲しい、と思ったことはいく度かあったが、当時の私には手の出せる金額ではなかったし、そうこうするうち山中氏に先を越されてしまって、後塵を拝するのも何となく癪だったということもある。ししそれよりも、当時のアルテックのあのメタリック・グリーンの塗装の色や、ホーンの接ぎ目の溶接の跡もそのままのラフな仕上げが、どうしても自分の感覚にもうひとつしっくりこなかったということもある。昭和41年から約5年間ほど、604Eをオリジナルの612Aエンクロージュアごと(あの銀色のメタリックハンマートーン塗装は素敵だ)入手して聴いていたこともあるが、私にはアルテックの決して広いとはいえない周波数レンジや、独特の力と張りのある音質などが、とうも体質に合わなかったと思う。私の昔からのワイドレンジ指向と、どちらかといえばスリムでクールな音が好きな体質が、アルテックのファットでウォームなナロウレンジを次第に嫌うようになってしまった。
 しかし最近、モデル19を相当長時間聴く機会があって、周波数レンジが私としてもどうやら許容できる範囲まで広がってきたことを感じたが、それよりも、久々に聴く音の中に、暖かさに充ちた聴き手にやすらぎをおぼえさせるやさしさを聴きとって、あ、俺の音にはいつのまにかこの暖かさが薄れていたのだな、と気がついた。確信に満ちた暖かさというのか、角を矯めるのでない厳しさの中の優しさ。そういう音から、私はほんの少し遠のいていて、しかしそこが私のいまとても欲しい音でもある。おもしろいことにJBLが4343になってから、そういう感じを少しずつ鳴らしはじめた。私が、4341よりも4343の方を好ましく思いはじめたのも、たぶんそのためだろう。もっと齢をとったらもしかして私もアルテックの懐に飛び込めるのだろうか。それともやはり、私はいつまでも新しい音を追ってゆくのだろうか。

アルテック 620A Monitor

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 もう20年も前に焼跡の中に立ったバラックの並ぶ、銀座の裏のちっぽけなジャズ喫茶の紫煙にけむる奥から聴えたディキシーを、本物の演奏とすっかり間違えさせたのが、アルテックの603Bだった。それ以来アルテックの15インチ・コアキシャルは、深く脳裏にきざみこまれた。やがてレコード会社でモニター用に鳴っている604Eに耳を奪われて、一生のうちに一度はこのアルテックの15インチ・コアキシャルを自分の手元で、と心に誓った。だから僕にとっては、アルテック604Eは他のいかなる愛用者にも劣らぬ、もっとも強いあこがれそのものとして、オーディオの象徴的な存在であった。その後アルテックのシステムを仕事の上で接触することはあっても、高価なこのユニットは、なかなか手にできなかった。
 604Eが8Gとなってワイドレンジ化した際に、やっと20年の念願かなって入手できたとき、それはやはり何にも増して感激に満ちたわが部屋での音出しであったし、それは20年前のあのディキシーランドと同じキッド・オリーの10インチ・モノーラル盤で始めたものだ。トロンボーンの雄大な力強さは、やはりこの604−8Gでなければ出せ得ない響きだった。しかし、ステレオ版になって604は、より以上の真価を発揮してくれた。それはもうしばしばいわれるように、コアキシャル独特のユニット配列から得られるステレオ音像の定位の確かさで、業務用としてアルテック・コアキシャルでなければならぬ理由も、ただこの一点が大きくものをいいそうだ。