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サンスイ B-2301

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 オーディオアンプは、とかく、エレクトロニクスの技術に基づいた製品であるるだけに、回路技術的な新しさや、音質対策が施された部品選択などに注目する傾向が強い。
 一方において、アンプの機械的な構造、つまり、シャシーやケースに代表される機構設計面は、管球アンプの昔から、音質を決定する重要なファクターとして検討はされていたものの、計測データに基づいた、音質との相関性を追求する技術は、いまだに未完成といわなければならぬ実状である。
 この機構設計面でノウハウに基づいた成果を現実の製品に導入した点では、サンスイのアプローチは、時期的にも早く、その成果も非常に大きいと思われる。銅メッキシャシー、銅メッキネジ、真鍮板の構造材などはその例で、これらの手法はその後多くのメーカーが踏襲し、最近の機構設計の定石になっていることを評価すべきである。
 B2301は、BA5000、3000以来、約10年ぶりにサンスイが開発したハイパワーアンプである。1・3kVAの超大型電源トランスに代表される伝統的な強力電源部をベースに、アルミブロックと銅板でサンドイッチ構造とするパワートランジスター取付部、140μ厚プリントパターン採用などに加えて、新開発ダイアモンドパワーステージとカスコード接続プッシュプルブリドライブ段の新採用のほかに、入力系がバランスと一般的なアンバランスと切替使用ができるのも本機の大きな特徴で、回路構成上のユニークさが、これからも類推されるだろう。

BOSE 901 SALOON SPECTRUM

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 901シリーズは、コンサートホールのプレゼンスをリスニングルームで再現する目的で、全域型ユニットを前面に1、背面に8個使用したユニークな構成と、活々とした鮮度感の高い音質で、既に高い評価を得ている。
 今回の901SSは、従来の特徴に加えて、業務用システムとして定着し、PAシステムのスタンダード的な存在である802のストレートでダイナミックなサウンドと、モニターシステムとして使えるようにグレイドアップさせた音の、二つの異なったサウンドが、ひとつのシステムで対応できるように開発されたボーズ製品中のトップ機である。
 基本構成は901を受継ぐが、エンクロージュアは表面仕上げが変更され、上下にリジッドなダイキャストフレーム、左右に回転可能なウイングが取付けられているのが特徴だ。
 専用イコライザーは、高SN比設計のダイレクトリフレクティングとサルーンスペクトラム切替イコライゼーション付の新型である。
 エンクロージュアが強化され、イコライザーの性能が向上したため、901と比較しても帯域バランスは一段とフラットになり、分解能が確実に1ランク上がっている。また新しいサルーンスペクトラム使用での明解で音像がグッと前に出るモニターライクな音も新鮮な魅力である。
 デジタル時代にマッチした、許容入力の大きさ、直線性はユニット設計の優位性を示し、エンクロージュア内部に吸音材を使わない音響設計は他の追従を許さぬ異次元の世界だ。とくにデジタルソースでの音質は絶品である。

アントレー ET-100

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 高価格だが高性能とされていたMC型が、低価格化と超高級化という相反する方向に急激に展開し、カートリッジといえばMC型というほどにまで普及した最近の傾向は、オーディオ史上でも異例なことであろう。MC型の普及をここまで加速させた背景として、電子技術の急速な発達でもはやプリメインアンプでも、MC型ダイレクト使用可能は標準的機能になっていることがあげられるだろう。しかし一方では、独自のリッチな音と高SN比のメリットから、昇圧トランスの愛用者も多い。とくにキャリアの長いファンにこの傾向が強いようだ。
 ET100は、中級昇圧トランスとしてすでに定評が高く、安心して使え、推選できる数少ないロングセラーモデルである。発売後明らかに一〜二度は改良が加えられ、アップ・トゥー・デイトな性能と音質にリフレッシュされているが、今回さらに手が加えられて、一段と完成度が高まった。外観上は同一筐体ではあるが、パネルが限定仕様と同じブラックに変っている。
 音質面では、わずかに穏やかで安定感はあるが、鮮度感が今一歩、といった印象が解消された。みずみずしく、緻密で、適度に力強さと豊かな表現力をもつトランス独自の魅力が素直に出せるようになった。また、3Ωにくらべ弱かった40Ω入力時の音にシャープさが加ったことも見逃せない特徴といえる。

オーディオテクニカ AT160ML

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 カートリッジの性能向上は、駆動系の軽量化という基本的なテーマの解決が最大のポイントであり、カンチレバー先端に位置するスタイラスは、等価質量を小さくするために、その大きさを可能なかぎり微小化することが不可避なプロセスである。一方、針先形状も音満との接触部分をカッター針に近似させるため、円錐形から楕円形に発展し、CD4方式の開発を期にして各種の線接触型が試みられ、高域レスポンスと歪の低減に大きな成果を挙げてきた。
 今回、AT160MLに採用された針先は、従来の針先形状とは一線を画した新形状のマイクロリニア型と呼ばれるタイプで、昨年来、レコード回転数を現在の半分に下げても現状の特性が得られることで注目を浴びたマイクロリッジ型に改良が加えられた形状で、高性能かつ楕円の約3倍のロングライフを誇る画期的なものだ。
 カンチレバーは金蒸着ペリリュウム材、VM型パラトロイダル発電系は、これまでのテクニカ技術の集大成といえるものだ。
 AT160MLは、素直に伸びた帯域感と細かく磨きこまれた微粒子状のソノリティをもち、非常に穏やかで、滑らかであるためおとなしい音に感じられよう。しかし、聴き込めば、音の細部を丹念に描きだし、内側に大変な情報量が含まれていることがわかってくる。しなやかで、豊かさとナイーブさが両立した熟度の高さが魅力だ。

ヤマハ HA-3

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「PickUp 注目の新製品ピックアップ」より

 MC型カートリッジの出力電圧は平均して約0・1mVほどの低さであるため、これを音質劣化させずにアンプのフォノ入力に送り込むことは非常に難しいものだ。
 昇圧手段にヘッドアンプを選ぶ場合、ヘッドシェルにヘッドアンプを内蔵させてカートリッジからの信号をダイレクトに受けて増幅することができれば、ほぼ理想に近いはずである。この方式を世界初に実用化した製品が既発売のHA2であり、今回のHA3は、その第2弾製品である。
 基本構成は、HA2と同様で、ヘッドシェル内にHA3ではサテライトアンプと呼ばれるようになったFET構成アンプを組み込み、これとHA3本体内のアンプでヤマハ独自のピュア・カレント増幅方式を構成させるタイプだ。本体内にはRIAAイコライザーをも備えているため、本機の出力はAUX入力に接続して使う。
 このHA3の方式は、MCカートリッジ出力を至近距離でアンプに入力し、信号電圧を電流に変換してHA3本体に送るため、トーンアーム内部の接続部分、接点や内部配線、さらにアームコードなどでのノンリニアの影響が極小となり、高純度の音が得られる特徴がある。
 HA3独特の改良点は、出力系に固定出力と可変出力の2系統があり、可変出力を使ってパワーアンプをダイレクトに駆動できるようになったことと、HA2ではヘッドシェル組み込みのアンプが本体と一対一でバランスが保たれ調整されているため、カートリッジ交換のたびに取付け直しが必要だったが、今回はヘッドシェル組込みアンプが1個と任意のヘッドシェルに組込み可能のサテライトアンプが2個、合計3個のサテライトアンプが付属し複数個のMC使用時の使いやすさが向上していることだ。なお、各サテライトアンプは、本体アンプとのマッチングが完全にとられ、誤接続での安全性を確保する保護回路付。
 HA3は、MCダイレクト使用可能のアンプと比較すると、非常にクリアーで抜けのよい音が得られる。アンプとしてのキャラクターは明快で、クッキリと音に輪郭をつけて聴かせるタイプだが、それにもまして音の鮮度感が高く、反応の速いことが、このタイプの優位性を物語る。なお、パワーアンプのダイレクト駆動は、これをさらに一段と際立たせた独特の世界である。

ヤマハ MC-2000

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「PickUp 注目の新製品ピックアップ」より

 最近のカートリッジの特徴は、新製品のすべてがMC型だ、ということである。
 とくに国内製品では、MC型の問題点のひとつでもあった低価格化が生産技術面で飛躍的に改善され、1万円を割るモデルさえ出現している。その内容も、価格は安くても悪くしようがないというMC型独特の構造上の利点もあって、正しくコントロールし追込めば、予想以上に素晴らしい結果が得られるまでにいたっている。
 一方、高級カートリッジの分野では、振動系の軽量化というオーソドックスなアプローチが一段と促進され、結果としての実用針圧は1gの壁を破り、コンマ・オーダーに突入している。
 MC2000は、振動系軽量化への技術限界に挑戦したヤマハの意欲作だ。MC型の音質の碁盤である発電方式は、ヤマハ独自の水平・垂直方向に発電系をもち、マトリックスでステレオ信号とする十字マトリックス方式で、当然のことながらコイル巻枠は空芯型だ。カンチレバーは、高純度ベリリウムを先端φ0・22mm、根元部でφ0・34mmとテーパー状にした肉厚20μパイプを使用。全長も従来のMC3などの5・5mmから3・7mmと短縮され、カンチレバー等価質量0・034mgを達成している。なお、コイルは芯線径12・7μの銅線使用である。
 支持系も大幅に発展した部分だ。ダンパーは、温度特性を改善した異種材料を組み合わせた新開発LTD型を独自の段付き型で使用。温度特性は従来の3〜4倍に改善されたということだ。これに、30μステンレス7本よりのサスペンションワイヤー、支持部0・06mm角ソリッドダイヤ特殊ダ円針が振動系のすべてである。なお、ボディは端子一体型・高剛性ポリカーボネート製、内部は質量集中構造で、自重5・3gとヤマハ製品中で最軽量である。
 針圧を標準の1gで聴く。帯域バランスは、軽量型らしく広帯域を意識させぬ滑らかでナチュラルなタイプ。音色はほぼニュートラル、音の粒子が細かく滑らかで、素直に音の細部を引き出す、このタイプ独特の魅力が感じられる。表情は基本的に抑え気味だが、針圧の0・05gの変化で、伸びやかにも穏やかにも鋭く反応を示す。優れた製品の性能を活かすためには、アームの選択と使いこなしが不可欠の要素だ。

ビクター Zero-100

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「PickUp 注目の新製品ピックアップ」より

 Zeroシリーズの製品群は、リボン型トゥイーターとダイナミックレンジの広いユニットによるワイド&ダイナミック思想をテーマに発展してきた。昨年末Zero1000が登場したが、今回のZero100は、Zero1000の3ウェイ化モデルと思われやすい新製品だ。
 ユニット構成上の特徴は、高域に独自のファインセラミック振動板使用のハードドーム型を使用していることである。このあたりから将来のZeroシリーズの展開が、特徴的であったリボン型ユニットをドーム型に変えて質的向上を図る方向へ行くであろうことは、ほぼ同時発売のZero0・5の例を見ても、かなり明瞭であろう。
 システムの基本は、Zer1000での成果を導入し、リファインした製品である。スーパー楕円特殊レジン製バッフルボード使用のエンクロージュアは、裏板構造は異なるが、内部の定在波と振動板背面にかかる背圧の処理は重要項目として検討された。Zero1000以来約一年の成果は相当に大きい。毛足の長い純ウール系吸音材開発は、独自のエステルウール開発以に巻いて使う定在波の制御方法や適度にエンクロージュア振動を抑え音を活かす補強(響)棧などの処理方法も従来と異なる。
 ユニットは、すべてファインセラミック振動板採用。低域はZero1000用と類似するが、センターキャップに通気性をもたせ磁気回路内の背圧を前面に抜く方式の採用が特徴。中域はZero1000の75mm口径に対し、65mm口径の新開発ユニットで、振動板周囲にイコライザー類を持たぬ最新の設計法とユニットとしての構造的な発展で、質的向上は明らかだ。高域はZero1000の35mm口径に対して30mm口径とし、高域レスポンスを改善している。すべて新設計ユニットだ。
 聴感上のSN此が優れ、音の粒子が細かく滑らかに伸びた帯域バランスの製品だ。豪快に鳴らすには金属やコンクリート、硬質ブロックの置台を使うが、ナチュラルで色付けがなく本当の意味での反応の速さや音場感的な見通しの良さを聴くためには、良質な木製の置台が望ましい。この場合音色はニュートラルで聴感上のDレンジも広く、狭い部屋が広いホールに化するような見事な音場感とヴィヴィッドな表情が魅力。

テクニクス SB-M2 (MONITOR 2)

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「PickUp 注目の新製品ピックアップ」より

 テクニクスのスピーカーシステムは、従来からマルチウェイシステムのひとつの問題点であった各ユニットの音源中心を、前後方向に揃えるリニアフェイズ化を重視したシステムづくりが最大の特徴だった。
 この考え方は、海外でも米アルテックのA7システムや、欧州ではフランス系のキャバスやエリプソンのシステムが先行していたものだが、音源中心が振動板面で決まる平面振動板ユニットの全面採用で、明らかに世界のトップレベルに位置づけされるようになった。
 M2には、木目仕上げのM2(M)と、シルバー塗装仕上げのM2(S)の2モデルがあるが、今回はM2(S)仕様の試聴である。基本構想は、既発売の4ウェイシステム、M1を3ウェイ化し、いわゆるスタジオモニターサイズにまとめた製品である。
 使用ユニットはすべて、扇を全円周に展開したような独自の構造の軽金属ハニカムコアを採用したことが特徴である。
 低域は直径200mm、重量3・1kgの磁石と直径75mmの高耐入力構造ボイスコイル、独自のリニアダンパーを組み合わせた38cm口径ウーファー、中域は直径140mm、重量1・2kgの磁石と直径50mmボイスコイル採用の8cmスコーカー、それにスキン材に積層マイカ使用、スコーカーとの取付位置を近接化するために特殊な角型磁石を採用した28mmトゥイーターを組み合わせている。エンクロージュアは、筒型ダクト使用のバスレフ型で左右対称型だが、M1でのバッフル面両側にあった金属製の把手兼補響棒がないのは大きな改善だ。なお、ネットワークは低域と中高域分割型、フェライトコア入りコイル、高域用コンデンサーはメタライズド・フィルム型採用で、高域にはサーマルリレー使用の保護回路付である。
 テクニクスらしく基本特性が世界のトップランクの見事さだけに、M2は使い方が最大の決め手だ。簡単な鳴らし方で概要を掴むと、柔らかく豊かな低域と素直で透明感があり、ややおとなしい中域から高域をもっている。低域を程よく引き締め、低域と中域のつながりを密にする使用が望まれる。置台に硬質コンクリート台型のブロックを3個使い、最低域の重量感を確保しながら同軸構造のスピーカーコードを併用すると、現代的なモニターライクな高分解能な音が聴ける。

ヤマハ NS-2000

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 NS1000の高級モデルがヤマハで開発中で、型番はNS2000というウワサは、昨年来耳にしていた。3ウェイか4ウェイ構成かという問題。それに、低域または中低域用の振動板材料に独自のベリリウムスキンを使った既発表の平面型を採用するのか、コーン型ならどのようなマテリアルを新導入するかというところが注目のポイントであり、非常に興味深かった。
 実際に登場したNS2000の姿を見たのは、全日本オーディオフェア前であるが、オーソドックスに開発された3ウェイシステムというのが最初の印象である。
 基本構想は、中・高域に熟度の高い独自のベリリウムドーム型を使い、問題の低域には、純カーボン繊維積層型の高剛性、低内部損失の新コーンの組合せ。エンクロージュアは、全面25mm厚高密度パーチクル板採用で、指向特性に優れたラウンドバッフル部にはブナのムク材を大量に使った完全密閉型。ヤマハの誇る木工技術を活かし高級家具調の見事な仕上げが施されている。ラウンドバッフルのため、ユニット配置はヤマハ初の一直線レイアウトというものだ。
 注目の低域は、純カーボン繊維の縦方向の比弾性率、強度を活かし、横方向の弱さをカバーする目的で、コーンを扇形に八等分した形状のカーボン繊維一方向配列シートを相互に繊維方向を直交させた4層構造とし、コーン裏側の円周方向に補強リブを採用、きわめて剛性の高いコーンを実現している。磁気回路は直径18cm、厚み20mmの磁石採用。無酸素銅線ボイスコイル口径88mmは、国内製品中では異例の大径で、強力な駆動力を物語るものだ。また、有限要素法を用いて磁束分布を計算した、新設計の低歪磁気回路も見逃せない。中・高域ユニットは、従来より結晶構造を細かくした振動板を採用、特に高域の磁気回路強化が目立つ。なお、ネットワークのコンデンサーが、すべてMP型であることは異例だ。
 NS2000は、滑らかでシャープな音が特徴。モニター調の1000Mより、NS1000系の発展型とも考えられるキャラクターだ。注目の低域はスケールが大きく、ソリッドさが新たに加わった魅力だ。大パワー使用での迫力も注目されるが、特徴を活かした使い方は、良質な木製の置台に乗せて、実際的な家庭内の聴取レベルでバランスを整え、質的な高さを追求したい。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤトーンのスピーカーシステムは、低域振動板材料として軽金属ハニカムコアにスキン材を使うハニカム構造の採用から、新しい世代への展開が開始された。つまり、低域の改善からスタートした点が特徴である。DS401、90C、70Cなどが最初に新ウーファーを採用した製品であり、スキン材をカーボン繊維系に発展させたタイプが、大型4ウェイ・フロアー型のモニター1である。
 これらのプロセスを経て、全面的に使用ユニットが見直され、一段と飛躍を示した製品が、伝統的なDS301、303に続く高密度設計の完全密閉型システムDS505である。低域用スキン材に芳香族ポリアミド系のアラミド繊維を導入、軽量で、防弾チョッキにも使われる強度と適度な内部損失を活かし、ハニカムコーンの完成度を高めた。同時に、ボイスコイル部分と振動板を一体構造とした、DUDと呼ばれるボロン振動板採用のハードドーム型ユニットも新登場している。
 引き続き、昨年は大口径ボロンドーム型スコーカーとバスレフ型エンクロージュア採用のDS503が開発された。一方では、80cm、160cm口径の超大型ウーファーでのトライなどを経て、現時点のスピーカーシステムでのひとつの回答が、4ウェイ構成フロアー型という形態をもつ新製品DS5000であると思う。
 一般的には、DS505のフロアー型への発展とか、DS503の4ウェイ・フロアー型化というイメージで見られるだろうが、内容的にはDS505以来の2年間の成果が充分に投入された完全な新製品だ。
 基本的構成は、業務用としてスタートした40cm口径の伝統的な低域ユニットに、初めてアラミド繊維スキン材を導入してベースとしている。直径200mmのフェライト磁石採用で、ボイスコイル直径75mmは、4ウェイ構成専用ウーファーとしての設計。
 中低域用25cmユニットは、アラミド・ハニカム構造とダイヤトーン初のカーブドコーン採用が注目点で、システム中で最もシビアな要求が課されるミッドバス帯域での高域再生限界を高める効果を狙っている。このあたりは、ミッドバス構成4ウェイ・ブックシェルフ型の名称で登場したDS505の設計思想を踏襲したものだ。
 中高域用6・5cm口径ボロンドーム型ユニットは、DS503系がベースである。しかしユニットとしての内容は、ほとんど関連性がない新設計によるものだ。まず、振動板はチタンベースのボロン採用は同じだが、ボイスコイルを巻いている部分までボロン化が進められ、ボイスコイルの振動が、よりダイレクトにドーム振動板に導かれるようになった。磁気回路も強化された部分で、直径156mmのフェライト磁石は二段積重ね使用、磁気回路の厚みが増しているだけに、ポール部分の形状、バックキャビティなどは変更されている。また外観上では表面のダイキャストフレームに真ちゅう製金メッキ仕上げの特殊リングが組み込まれ、主としてフレーム共振のコントロールに使われていることも目新しい。
 高域用2・3cm口径ボロンドーム型ユニットも中高域同様にDS503系だが、2段積重ね型磁気回路による強化で、磁気飽和領域での低歪化の手法は中高域と同様な設計である。また、4ウェイ化に伴い、最低域のレスポンスの向上に見合った最高域レスポンスの改善のため、振動板関係でのリファインがおこなわれたユニットだ。
 なお、磁気回路の低歪化は、低域、中低域ともに、ダイヤトーン独自の磁気ギャップ周辺に特殊磁性合金を組み込む方法が採用されている。
 ネットワーク関係は、DS505で新採用された圧着鉄芯を使う独自の技術開発に基づく低歪みコアと無酸素銅を使うコイルと、適材適所に測定と試聴の結果で選択されたコンデンサーを従来のハンダ付けを廃した圧着接続で使うのはDS505以来の手法だが、圧着用スリーブに金メッキ処理を施したのは、今回が初めてのことだ。なお、ネットワークは、マルチアンプ駆動用に低域と中低域以上が分割使用できる4端子構造が採用されているが、端子、ショートバーともども金メッキ処理になっている。
 エンクロージュアは、針葉樹系合板を直交して貼り合せた2プライ構造のバッフルが板厚30mm、側板と裏板などは、同じく針葉樹系チップボードの2プライ構造で板厚24mmの材料を使う。内部補強棧関係も、減衰特性のきれいなシベリア産紅松単材を採用、表面はウォールナットのオイルステン調仕上げである。エンクロージュア型式は大口径のアルミパイプを使ったバスレフ型で、重量は約90kgとヘビー級である。
 試聴は、約10cmほどの硬質な木材のブロック4個で床から浮かしたセッティングから始める。プレーヤーは試聴室リファレンスのエクスクルーシブP3、カートリッジはデンオンDL305にFR Xf1の組合せ。アンプはスレショルドFET TWOプリアンプとS/500パワーアンプのペアだ。
 大口径ウーファー採用のフロアー型らしく、量感タップリでやや柔らかい低域をベースに、軽い質感で反応の速い中低域、シャープで解像力が高く、スピード感のある中高域が、鮮映なコントラストをつけて飛び出してくる。この音は非常にソリッドに引き締まり、情報量が極めて多い。プログラムソースの音を洗いざらい引き出して聴かせたDS505的なキャラクターを数段階スケールアップし、聴感上でのSN比を一段と向上したタイプにたとえられる。
 置台の材料を硬質な約10cm角、長さ50cmほどの角材に変えたり、位置的に、極端にいえば1cmきざみに変更し追込むと、DS5000は極めてシャープに反応を示す。トータルバランスを大きく変えることなく、ある程度の範囲で、柔らかいウォームトーン型バランスからシャープなモニターサウンド的イメージまでの幅でコントロールすることができる。
 表現を変えれば、置き方、スピーカーコードの選択、さらにスピーカー端子での接続を低域側と中低域以上の端子に変えることでの音質的変化を含み、結果は使いこなしと併用装置で大幅に変る。即断を許さないのがこのシステムの特徴である。
 ちなみに、アンプ系をより広帯域型に変え、適度なクォリティをもつCDプレーヤーと組み合わせて、CDの音をチェックしてみた。いわゆるCDらしい音は皆無であり、CDのもつDレンジが格段に優れ、SN比が良い特徴が音楽の鮮度感やヴィヴィッドさとして活かされる。音場は自然に拡がり、定位はシャープで、楽器の編成まで見えるように聴きとれる。これは、アナログには求められない世界だ。デジタルのメリットは、相応しい性能をもつスピーカーでないと得られないというのが実感。

ピカリング XSV/5000

井上卓也

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 米国のカートリッジメーカーとして、かつてのLP時代に高出力MI型カートリッジ、いわゆるピカリング型で一世を風靡した米ピカリング社から、同社のトップモデルに位置づけされるXSV/5000が新製品として発売されることになった。このモデルには二種類が用意され、XSV/5000がカートリッジ単体の製品、XSV/5000Sがヘッドシェル付の製品である。なお、このモデルと同時に従来の625Eに代表される音楽ファンのためのシリーズの新製品としてXEV/3001とXEV/3001Sが発売された。
 XSV/5000は、ピカリング製品を分類すると二シリーズあるうちの、いわばラボラトリー・リファレンス的な意味あいの強い高性能シリーズの新製品で、従来の3000や4000の性能を、PCM録音やダイレクトカッティングなどのプログラムソース側のハイレベルカッティングに対応するために、特にトレーシング能力を重点に性能を向上したモデルである。
 白とゴールドの対比がシャープな現代的なイメージを抱かせるボディと、特徴的なブラシが付属するボディの内側には、立上がり時間10μsecというトランジュント特性と、10〜50000Hzの広帯域レスポンスをもつ軽量振動系が組み込まれている。
 カンチレバー材料などの詳細は公表されていないが、振動系質量に直接関係があるスタイラスには従来のステレオヒドロン針をベースに、一段と軽質量かつ密着性を高めたヌード・ステレオヒドロン針が新採用され、音溝に対する機械的インピーダンスを低減し、ディスクからのエネルギー伝達効率を向上させているとのことだ。
 XSV/5000は、シャープで鋭角的に音をクッキリと浮き立たせる特徴と、洗練された雰囲気を備える、ピカリング独特のサウンドキャラクターを受け継ぎながら、一段とローレベルの分解能が向上した抜けのよい、ワイドレンジの音が際立つ製品だ。聴感上のSN比が高いため、ステレオフォニックな音場感は見通しよく拡がり、音像定位も非常にクリアーな新しい魅力が従来にない特長だ。表現力は豊かで、ソリッドで力のある低域をベースに華麗なサウンドを聴かせる。この質感の見事な低域がこのモデルの最大の美点で、柔らかなスピーカーやアンプをキリッと引き締めてくれる。

パイオニア S-922II

井上卓也

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 S922は、パイオニア独自の新素材であるカーボングラファイトをウーファー振動系に初採用したパッシヴラジェーター方式採用のフロアー型システムであるが、S955IIIと同様な手法により大幅な改良を受けて、S922IIとして新発売されることになった。
 パッシヴラジェーター方式は、ドロンコーンをもつバスレフ型として、1935年に有名な音響学者H・F・オルソンによってパテントがとられた方式である。この方式は、ウーファー振動板と同サイズの振動板を、ボイスコイルと磁気回路を省いてエンクロージュアに取り付けて低域レスポンスを向上させるタイプで、ウーファーのエンクロージュア内側の音圧により振動板が駆動されるためドロンコーン(怠けもののコーン)方式という別名がある。
 ユニット構成は、低域に26cm口径、中域に6・5cm口径のコーン型ユニットを使い、高域に新開発ベリリウムリボン型ユニットを採用した3ウェイに、38cm口径バッシヴラジェーターを加えた方式である。
 コーン材料は、中域、低域、パッシヴラジェーターともにパイオニア独自のカーボングラファイト振動板採用で、低域はS922より20%磁束密度を向上した磁気回路、ガラス繊維強化積層ポリイミド・ボイスコイルボビン新採用で、耐熱性と弾力性を高め、さらに新開発ダイナミックレスポンス・サスペンション採用でリニアリティを向上、高耐入力、過渡特性に優れ、解像度の高さが特長である。中域は低域同様のボイスコイルボビン材採用。高域はリボン材料の変更が主な改良点だ。
 バッシヴラジェーターは、低域ユニット口径より大きい38cm口径採用が特長で、同口径振動板を使うタイプに比べ重低音再生を狙った設計で、オルソンの方式を発展させた、近代スピーカーシステムによく使われるタイプである。ここでの改良は、コーン支持部のワイヤーサスペンション採用である。
 S922IIは、S922に比べシャープで引き締まったソリッドな音が目立つ。低域はパッシヴラジェータ一方式としてはタイトで、ローエンドでパッシヴラジェーターが効果的に働く。中域はクリアーでコントラストがクッキリとつき、高域は華やかでシャープだ。表情は少し硬いため、柔らかく伸びやかなアンプの併用が決め手だろう。

JBL 4411

井上卓也

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 JBLの44シリーズは、その最初の製品4430、4435で示されたように、新時代のプロフェッショナルモニターに要求される条件を検討した結果から生まれたフレッシュな感覚のデザインと基本性能を備えたシステムである。今回、このシリーズ製品として、コンパクトタイプの4411が新発売された。続いて、より小型の4401が発表されることになろう。
 JBLコントロールモニターと名付けられた4411は、時代の変化に対応した最新デジタル録音や、高性能アナログ録音の大きな情報量をこなす目的で開発され、高サウンドプレッシャー、高耐入力、広いダイナミックレンジなどを備えた製品である。
 基本的に44シリーズは、43シリーズのマルチウェイ的発展、広い周波数帯域と高出力でクォリティの高い音を狙った開発とは対比的だ。シンプルなユニット構成ながら、JBLの新しいテーマであるエネルギーレスポンスの平坦化という条件から水平と垂直方向の指向性の差を少なくし、さらに、電気的、音響的なサウンドバランスの補整という新しい技術の導入に注目したいシリーズである。
 その最初の4430、4435が2ウェイ構成を採用していたために、44シリーズは2ウェイ構成と考えられていたわけだが、4411は予想に反して3ウェイ構成であるので、やや奇異な感じを受けるかもしれない。この点について、現時点ではJBL側から明解な回答を得られていないが、フラットなエネルギーレスポンスを得るための最小ユニット構成が44シリーズの設計目標と発展的に解釈すれば、小型システムでエネルギー量の少ないユニットを採用する場合、特に中域以上の周波数帯城においてはプレッシャー型ドライバーユニットを使わない限り、2ウェイ構成でエネルギーバランスをフラットにすることは至難の技である。このため、必然的に3ウェイ構成とするという、海外製品独特のフレキシブルな発想による結果ではないだろうか。
 4411は、44シリーズ中最初のブックシェルフ型で、ブックシェルフ型としては標準的な使用であるはずの横置き仕様のユニット配置をもつ特徴がある。ユニット配置は、現在の製品としては標準的な左右対称型で、フロントグリルを取り付けた状態でレベルコントロールを可能にした新レイアウトがデザイン的に目立つ点だ。
 使用ユニットは、低域が30cm口径の128H、中域が13cm口径コーン型のLE5−9、高域は25mm口径044ドーム型で、基本的にはコンシュマ一タイブで既発売のL112と同等と考えてよいだろう。
 ほぼ同じ外形寸法とエンクロージュア方式、使用ユニットをもつ、この2種類のJBLシステムは、一般的レベルの想像では近似したサウンドをもつものと考えられやすいが、現実の試聴ではL112がタイトで引き締まったサウンドを聴かせることと比較して、4411はスケール感の豊かな、ダイナミックで伸びのある音をもつという、いわば対照的なサウンドである点が、非常に興味深い。
 このあたりから、JBLのシステムアップの技術やノウハウを知るためには、エンクロージュアの内部をチェックする必要があるだろう。エンクロージュアは共にバスレフ型で、外形寸法を比べてみると、4411の方が幅が広く、奥行きが少ない。このようなプロポーション的な変化があるが、容積的には同等で、パイプダクトの寸法も同じものが使われている。外形寸法的には、一般に奥行きを縮めるとシステムとして反応の速い音にしやすい傾向があるのだが、ウーファーユニットとダクト取り付け位置の相関性も低域のキャラクターを変える大きな要素で、主にエンクロージュア内部の定在波の影響とバスレフ型の動作の違いが音に関係をもつ。また、4411では、音源を小さくするために、ユニットが集中配置になっていることも、モニターシステムらしいレイアウトである。
 エンクロ−ジュアは、海外のコンパクトなシステムに共通の特徴である内部に補強棧や隅木を使わないタイプで、両者共通である。板厚は、モニター仕様の4411のほうが、L112の約25mm厚から約17mm厚へと薄くされ、ウーファー取付部は座グリ構造で、ユニットを一段落してマウントするタイプとし、結果として機械的な強度を下げた設計としている。ここには、音の立ち上りを少し遅くして豊かな響きを狙い、反応の速さを奥行きをつめてカバーするという、非常に巧妙なチューニング技術が見受けられる。吸音材は共にグラスウールが使われている。ダクト位置が遠い4411では、少しダンプ気味とした低域レスポンスのコントロールがポイントになっている。また、ネットワークは、4411のほうがコア入りで、損失を抑え厚みのある低域を狙っているようだ。アッテネーターパネルには、軸上周波数特性フラットの位置と、エネルギーレスポンスがフラットになる位置とが明示されている。
 試聴では、横位置で大幅にセッティングを変えてチェックしたが、サウンドバランスとキャラクターは安定し、大幅な変化を示さないのは、4411の美点である。ダイナミックで鳴りっぶりのよさはJBL小型システムとして傑出した存在で、横位置標準使用が選択の鍵を握る。好製品だ。

パイオニア S-955III

井上卓也

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 パイオニアのS955は、国内製品中で際立った、ユニークで高性能なユニット構成をもつ高級スピーカーシステムである。1977年に最初のモデルがCS955として発表されて以来、その改良モデルS955を経て、すでに5年間のロングセラーを誇る優れた製品であるが、今回、来るべきデジタル化されたプログラムソースによる高品質プログラムソース時代に対応した新製品S955IIIに発展して新発売されることになった。
 システムとしての基本構成は、36cmウーファーをベースとし、これにユニークな構造のドーム型スコーカーと特徴的なリボン型トゥイーターの3ウェイユニットをバスレフ型エンクロージュアに組み込んだタイプで、CS955以来変化は見られないが、それぞれのシステムが開発された時点での時代の要求するサウンドに対応して、システムとしての音の狙いにかなりの変化が見受けられる。
 ちなみに、パイオニアが目指した各システムの音の狙いを比較してみると、CS955では繊細さとスケール感の融合、S955は、これをベースとしたエネルギー感の強化が新テーマであった。今回のS955IIIでは、最新のプログラムソースに対応したタイトでパワフルなサウンド、と大幅に変更されている。
 基本的にスピーカーシステムは、ユニットの種類や構成、それにエンクロージュアの外形寸法などが同じであってもテーマとする音の狙いにより、最終的なサウンドキャラクターをかなり自由にコントロールできるユーテリティの広さをもっている。したがって、最適ユニットやネットワーク定数やタイプ、エンクロージュア材料とその構造などの選択には、常に音の狙いが重要な条件として行なわれ、その無限ともいえる組合せの結果から、最終的なそのシステムのサウンドが結果として創造されることになる。このシステムアップの技術や一般的には考えられない程度のミクロの次元でのノウハウ量が、各メーカーそれぞれの独自の世界であり、いわゆるメーカーのサウンドキャラクターができる理由で、新製品を眺める場合に大変に興味深いところである。つまり、逆にいうと、システムをチェックしてみれば、実際に試聴をする以前に大体どのような傾向のサウンドを聴かせるかは、ある経験をつめば自動的に類推することができることになる。
 S955IIIの構成ユニットからその変化を眺めると、ウーファーは、現在入手できるサイズとしては第2位にランクされる外径200mmの大型フェライト磁石と厚さ10mmのT型ポールを採用して磁気回路の飽和を利用した低歪磁気回路やコーン材料、形状はCS955以来同じだが、サスペンション関係は、いわゆるダンパーが従来の平織り布ダンパーから新開発の二重綾織り布ダンパー採用のダイナミックレスポンスサスペンションに改良され、低損失、ハイストローク化が図られた。また、ボイスコイルボビン材料は、CS955のプレスパン、S955のクラフト紙からガラス強化ポリイミド樹脂積層板に変り、耐入力、過渡特性を向上させ、分解能の高いダイナミックなベーシックトーン再生が狙われている。
 外側に独自のワイヤーサスペンションを採用した特徴のあるベリリウム振動板採用のドーム型スコーカーは、まず、ダイアフラム材料がCS955でのベリリウムとアルミの二重構造からS955でのベリリウムのみの軽量化を今回も受け継ぐ。ボイスコイルボビン材料は、ウーファー同様の新素材で耐入力を50%以上向上する設計だ。なお、磁気回路の外径156mm大型フェライト磁石は、S955時点で厚みを従来の22mmから25mmに増し、強化されている。
 リボン型トゥイーターは、CS955でのPT−R7相当、S955での磁気回路を強化したPT−R7A相当タイプから、今回は、振動板材料がアルミ系から新しくベリリウムに変更されたPT−R7III相当品が採用され、独特の繊細さに加えて芯のある反応の速い魅力が加わった。
 ネットワークは、想像以上に構成、部品、取付場所などが音質を大きく左右する重要なポイントであるが、意外に注目されない部分でもある。今回、S955IIIでは新しく並列・平衡型が採用されている。このタイプは600Ωラインに代表される伝送系には標準で、特に珍しいタイプではなく、スピーカーシステムへの応用も一部では早くから試みられ、特に音場感的情報量の多さやダイナミックな表現力などの魅力で、アマチュアレベルでは使われていたが、製品として採用されたのは今回が初めてである。
 エンクロージュア関係はバスレフ型のダクト形状の変更が主で、従来の折曲げ型から平らな矩形断面をもつ直線型に変っている。なお、新システムの定格上の特徴は、最大入力と高・中域間クロスオーバーの変更である。
 試聴システムはプリプロかそれ以前の実験室段階の製品で、詳細な試聴リポートは避けたい。基本的な音の狙いであるタイトでパワフルな方向への展開は明確で、従来とは印象を一変した大幅なサウンド傾向の変更が感じられた。潜在的能力は充分にあるシステムだけに、その完成された姿での結果を期待したい注目のシステムである。

JBL 4430, 4435

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART2」より

 JBLは、4333、4350以来、モニターシステムにマルチウェイ化の方向を導入してきたが、昨年末、突如2ウェイ構成のスタジオモニターの新シリーズの製品を発表して、JBLファンを驚かせた。
 モニターシステムのマルチウェイ化は、たしかに、周波数レスポンス、指向周波数特性、歪率などの物理的特性を向上する目的にはたいへんオーソドックスな手法である。しかし、数多い構成ユニットをシステム化するにあたっては、バッフルボード上の配置からして問題になる。ユニットのレイアウトは、音響条件のみを優先してレイアウトしたとしても、4ウェイともなると発音源が散らばり、水平方向と垂直方向の指向周波数特性を均等に保つことは至難の技であり、モニターシステムに要求されるシャープな音像定位の確保が難しくなる。古典的モニターシステムの多くが、2ウェイ同軸型に代表されるユニット構造を採用しているのは、発音源が一点に近い利点をいかしたからだ。
 一方、現代のモニターシステムには、広い周波数帯域の確保や低歪率も重要な条件であり、最大音圧レベルを含み、この目的にはマルチウェイ化がもっとも妥当な解決策であるわけだ。
 JBLが〝43〟シリーズのモニターシステムで築いた技術を背景に、現代のモニターシステムに対する数多くの要求を完全に満たすものとして新しく開発されたのが、2ウェイ構成の〝44〟シリーズといえるだろう。
 再びモニターシステムの原点にかえって、新設計された44シリーズの最大の特長は、外観でも非常にユニークなハイフレケンシーユニット用のバイ・ラジアルホーンである。この新ホーンは、これまでの各種ホーンの欠点をほぼ完全に補ったもので、1kHzから16kHzにわたる広い周波数帯域で、水平と垂直の指向性パターンが一定し、ウーファーとのクロスオーバー周波数付近では、38cm口径のウーファーの指向性パターンと近似させるとともに、開口部の処理で第2次高調波歪が低減されているのが特長だ。簡単に考えれば、このバイ・ラジアルホーンが開発されて初めて、2ウェイ構成の新モニターシステムが完成されたといえよう。
 ユニット構成は、4430が38cmウーファーのオーソドックスなシングル使用の2ウェイ・2スピーカー。4435が、ダブルウーファーのスタガー使用の2ウェイ・3スピーカーである。4435で面白いのは、エンクロージュアキャビティは、それぞれのウーファーユニット専用で、ウーファーはエンクロージュア内部で音響的に隔離されている点である。
 使用ユニットは、両システムともに高域は共通である。コンプレッションドライバーには2421Aが採用されている。
 ウーファーユニットも一新された。4430には2235Hが1本、4435には、振動系は2235Hと同じだが、マスコントロールリングのない2234Hが2本使用されている。なお、4435の最初に輸入されたサンプル(編注=本誌No.61の新製品欄で紹介したもの)では、低域は2234Hと2235Hの異種ウーファーユニットの組合せであったが、正規のモデルは2234Hが2本に変更されている。
 44シリーズの電気的な特長は、クロスオーバーネットワークにある。現時点では回路、L・C・Rの定数的な使用方法は不明であるが、1kHzをクロスオーバー周波数とするハイパス側に、約3000Hzから高域に向かって6dB/オクターブでレスポンスが上昇する高域補強回路と、どの周波数で高域上昇を抑えるかを決める調整回路が組み込まれ、それぞれエンクロージュア前面のレベルコントロールで単独に調整できるようになっているものと思われる。
 ローパス側は、4430は標準的な使用法だが、4435では片側の2234Hは最低域専用で、100Hz以上はハイカットされるスタガー使用が特長である。
 4430のエンクロージュアは、サンプルシステムでは左右非対称型であったが、実際に輸入された製品では左右対称型に変わっている。4435も、前述のウーファーユニットの変更のほかに、バイ・ラジアルホーンの取り付け位置が変更されている。全体に、やや内側に移動され、その下側のウーファーユニットとほぼ一線上に並ぶように修正されている。このバイ・ラジアルホーンは、バッフルボードから開口部がかなり突き出しているが、これはドライバーユニットのダイヤフラム位置をウーファーのそれと合わせる目的によるものである。この手法は古くは、アルテックのA7システムで採用されているオーソドックスなタイプといえる。
 エンクロージュア型式はパイプダクトを使用するバスレフ型で、4430の内部構造の詳細は現時点では不明だが、4435はおおよその内部構造がわかっているので、イラストを参照されたい。
 4435のエンクロージュア内部構造の特徴は従来の4343、新4344と比較するとわかることだが、ウーファー上側に裏板とバッフル板を結ぶ前後補強棧が設けられていることだ。スピーカーシステムを開発する場合のエンクロージュアの一般的概念として、この種の補強棧を入れるということは、システムの中域エネルギーを必要とする場合に使うことが多い手法である。なお、吸音材は伝統的な25mm厚グラスウールで、1立方mあたりの重量が12kgのタイプが採用されている。
 44シリーズは、高域レスポンスが改善された2421Aと、指向特性のパターンが抜群に優れた新開発のバイ・ラジアルホーンにより、水平と垂直方向の指向性パターンを均一にするとともに、電気的に高域を補整し、エンクロージュア内部構造でクロスオーバー周波数付近のエネルギーを改善し、高耐入力ウーファーを組み合わせるといった正統派的な技術アプローチで開発されていることが特徴といえるだろう。

JBL 4344

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART2」より

 4344は基本的な外形寸法こそ、最初の4343から変化はないが、スピーカーシステムとしては内容を一新した完全な新製品である。43シリーズ中の位置づけとしては、既発売の4345系の基本設計を受け継いでおり、4343Bの改良モデルというよりは、4345からの派生モデルということができる。
 4344のバッフルボード上のユニット配置は、4345を踏襲したレイアウトで、左右対称型のシンメトリー構成を採用している。4343で試みられたバッフルボードの2分割構造(中低域以上のユニットが取り付けられた部分のバッフルを90度回転して、横位置での使用を可能としている)は採用されず、完全にフロアー型としての使用を前提とした設計・開発方針がうかがえる。ちなみに、4343系と比較すると、ウーファー取り付け位置が上に移動し、バスレフダクトの位竃が大きく移動して、中低域ユニットの横となっている、という2点が大きな相違点だ。このユニット配置は、4343系のウーファーが、バッフルボードの下端に位置するため、実際の使用では床面の影響を受けやすく、使いこなしが難しかった点が改良されたことを意味する。
 エンクロージュア内部構造の相違も、4344が4343系とは完全に異なるシステムであることを物語るものだ。まず、中低域(ミッドバス)ユニット用の、バックキャビティの形状が全く違う。4343系では、バスレフポートとの相対関係から、奥行きが浅い構造であったが、4344ではほぼ四角形の奥行きが深い構造となり、補強棧を併用することで、バッフルと裏板にまたがって保持されている(図参照)。
 また補強棧が多く使われていることも目立つ変化である。とくに、4343系と比較すれば、天板と底板に、横方向に大きな補強棧が使われているのが特徴である.、この補強棧の使用法は、低域の再生能力を改善する目的で使われる例が多く、国産のスピーカーシステムでは低域の改善方法として採用されている標準的な手法である。裏板の補強棧の使用法も4343系と大きく異なるが、エンクロージュア側板の補強棧が、横位置から縦位置に変更されていることも含み、エンクロージュアの鳴きを抑える方向ではなく、適度に響きの美しさをいかす方向のチューニングであることがわかる。これは、バッフルボードに約19mm厚の積層合板が採用されていることからも明らかなことである。積層合板がバッフル板に使用されたのは、正式に公表されたものとしては(筆者は以前JBLのエンクロージュアで、同じ型番のものでも、チップボードを使ったり、積層合板を使ったりしているものを見ている)、JBL初のことと思われる。

 ユニット関係は一新された。ウーファーは、従来の43シリーズで標準的に使用されてきた2231A、2231H系から、振動系を一新して、リニアリティの向上をはかり、2231Aで採用されたものと同様のマスコントロールリングをボイスコイルとコーン接合部に入れた2235H。中低域(ミッドバス)は、4345と同じコンベックス型センターキャップ付新コーン紙採用の2122H(従来の4343Bに使われていた2121Hのセンターキャップの形状はコーンケーヴ型という)。中高域のコンプレッションドライバーには、ダイヤフラムのエッジ構造が一新された2421Bが採用されている。2421Bで採用されたエッジ構造は、それまでの2420が、アルテック系のそれとは逆方向に切られたタンジェンシャルエッジであったのに対して、すでにパラゴン用の中域ドライバーとして採用されている376と同様な、JBLオリジナルの折紙構造のダイヤモンドエッジ付ダイヤフラムになった。2420系のコンプレッションドライバーにダイヤモンドエッジが採用されたのは、この2421Bが最初である。ホーンと音響レンズは4345、4343B等と同じ2307+2308の組合せだ。スーパートゥイーターは、4345の発表時に小改良を受けて高域特性がより向上したという、2405である。
 また、ネットワーク関係は、4345と同様に、プリント基板が採用されている。大容量コンデンサーに小容量フィルムコンデンサーを並列にする使用法や、アッテネーターのケースから磁性体を除いて歪を低減するなど、エンクロージュアとともに、技術的水準が非常に高い日本製品の長所が巧みに導入されていることが見い出せる。
 なお、既にユニット関係の資料で公表されていることだが、従来までの数多くのJBLスピーカーの使いこなしの上での盲点を記しておく。それは、JBLのユニットの端子は、赤が−(マイナス)、クロが+(プラス)であり、一般的なJISなどの観念からすれば、普通に接続すると逆位相で使っていることになる点だ。ここに、JBLサウンドの秘密の一端があるが、詳細は割愛する(どのくらい音が変わるかは、自分のスピーカーシステムの±の接続を左右とも逆にしてみれば確認できる。一度実験してみることをおすすめする)。

JBL 4341

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART1」より

 4ウェイ構成のモニターは、巨大な4350に始まり、4331、4333と同時期に、4341が登場する。4341は基本的には、4333に使用されたコンポーネントの3ウェイシステムに(ただし、ホーンは4331、4333で使われている2312より短かい2307に変わっているが)、25cm口径の2121ミッドバスユニットを加えた構成と考えられる。4ウェイ化にともない、エンクロージュアは同じバスレフ方式でも、台輪のついたフロアー型となっている。
 4341は、中期のモデルでは、ミッドバス用のバックチャンバー容積が増やされ、これが次のモデルの4343に受継がれるが、エンクロージュアの変更以外にユニット関係、クロスオーバー周波数の変更はなく、4350を除く、4ウェイ構成の原点がこの4341である。4341は、4ウェイシステムとしては──エンクロージュア面での制約もあり──予想よりも中低域の豊かさが少なく、レベルコントロールをフルに使って帯域バランスを調整する必要があるが、それでも4343と比較すると、スケール感が今一歩といった印象である。極言すれば、それは大人と子供の差、といった表現も可能なほどだ。しかし逆にいえば、ややスリムで、センシティブな印象が、このシステムの魅力であるといえないことはない。
 4341はその後、エンクロージュアに大幅な改良を受けて4343に発展し、ウーファーとミッドバスユニットにSFG磁気回路を採用した4343Bに至るが、これについては過去の本誌の記事に詳しいので、特に詳述しないでもよいだろう。この4343シリーズと4350、4350Bのギャップを埋めるモデルとして開発されたのが、46cmウーファー採用の4345であり、4345での成果を活かして、ウーファーを38cm口径としたものが、最新の4344である。
 一方、モニターシステムは、2ウェイ構成がスタンダードという声は、依然として根強くスタジオサイドには残っていた。この要求に答えて、従来にない新しいアプローチで開発された新シリーズが、4430、4435であり、従来の〝43〟シリーズの全てを一新した、まったくの新世代の2ウェイモニターの登場である。

JBL 4333B

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART1」より

 4333Aの黄金時代は約4年以続くが、時代の影響が色々とJBLにも及んでくる。スタジオでの物凄いハイパワードライブの影響は、アルニコ磁石使用の磁気回路の減磁としてあらわれ、特にウーファーにおいてこの点が問題として指摘されるようになった。また資源的にも、時代の要求はフェライト磁石の採用を迫ることになる。
 これに対するJBLの回答が、1980年開発されたSFG回路である。SFG回路(シンメトリカル・フィールド・ジオメトリー)とは、フェライト磁石の減磁に強いメリットを生かし、磁気歪みを低減したJBL独自の磁気回路の名称である。
 SFG磁気回路を使う2231Hをウーファーに採用した新モデルが、4333Bである。4333Bの、フェライト系磁石を使う磁気回路独特の、厚みがあり、エネルギー感を内蔵した力強い低域には新鮮な印象を受けた。アルニコ系磁気回路では、重低音再生を指向すると、とかく、低域レスポンスがウネリがちで、低域から中低域にかけてのスムーズさを失いがちだが、SFG回路ではその点が問題なく、安定感のある豊かな低域エンベロープを聴かせる。これが4333Bの最大の特長であり、JBLモニターで最も周波数レスポンスがナチュラルな、完成度が非常に高い傑出した製品だ。

JBL 4333A

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART1」より

 3ウェイ構成の最初の製品が、4333であることは、前述したが、本格的な3ウェイ構成らしい周波数レスポンスとエネルギーバランスを持つシステムは、4333Aが最初であろう。4333Aでは、エンクロージュア外観が変わり、バッフルボード上のユニット配置とバスレフダクト位置が大きく修正されるとともに、板厚もバッフル板を除き従来の約19mmから約25mmに増加している。
 使用ユニットは4333と変わらないが、エンクロージュアの強化により、重量感があるパワフルな低域をベースに、充実した中域とシャープに伸びた高域が、3ウェイ構成独特のほぼフラットな周波数レスポンスを聴かせ、システムとしての完成度は、ある意味で頂点に達した感がある。

JBL 4331A, 4331B

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART1」より

 4331以後、約二年弱経過して、エンクロージュアの改良を主として開発された4331Aが発表されるが、システムとしては、バランス上で高域が少し不足気味となり、3ウェイ構成が、新しいJBLモニターの標準となったことがうかがえる。
 その後、4331Aは、4331Bに変わるが、豊かな低音に比べ、高域が明らかに不足し、これは、2405を加え3ウェイ化する必要があるシステムといえるだろう。

JBL 4331

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART1」より

このシステムは、エンクロージュアのデザイン、使用材料の板厚などはほぼ4320、4325を受継いでいる。しかし、バッフルボード上のユニット配置関係の変更を受けている。つまり、3ウェイ化する場合の2405の位置が4320、4325時代とは異なり、ウーファー、ホーン、ドライバーと一直線上に配置されている。また、バスレフポートが2個から1個に変更された。ユニット関係も、音響レンズと2420ユニットを除き新型に置換えられている。
 まず、ウーファーは、ボイスコイル口径は同じ4インチではあるが、磁束密度が高い130A系の2231Aとなり(2215の11000ガウスに対し2231Aは12000ガウス)、ハイフレケンシー用のホーンが全長が長い(2307の約22センチに対し約29センチ)2312となったが、クロスオーバー周波数は、800Hzで4320と変わらず、システムのインピーダンスが、ソリッドステートアンプに対応して8Ωに変更されたのも人きな改良点である。
 容積の制約のあるエンクロージュアで低域レスポンスを充分に得る目的で、2231AはそれまでのJBLのウーファーと比べ振動系重量が増加していて、これによる能率の低下を磁気回路の強化とボイスコイル・インピーダンスを低くすることで補っている。近代スピーカーユニットとしては、きわめてオーソドックスな設計手法の採用と思われる。システムの出力音圧レベルは、93dB/W/mと発表されており、4320の国内発表値97dB/W/mに比べ4dBのダウンとなっている。しかし、4320の出力音圧レベルは、JBL発表値からの換算値であるため、現実には、前値ほどの能率低下ではない様子だ。ちなみに、EIA感度48dB(1ミリワット入力時、30フィート地点)と発表されている。
 4331は、4320と比較すると一段と低音の量感が増加しているほか、聴感上の帯域バランスはホーンが延長されたため、中域エネルギーが増大してよりフラットになった。しかし低域の音色は、やや重い傾向となった。このシステムもオプションのネットワークと2405を追加すれば、3ウェイ化できるが、4320の場合よりも軽度ではあるが、中域のエネルギーが弱まる傾向を示し、基本的に2ウェイ構成独特のチューニングが施されているのがわかる。
 この4331は、いわば、JBLモニターが、4320/4325までの2ウェイ構成をスタンダードとする立場から、3ウェイ構成に発展するプロセスに登場したモデルで、JBLモニターで、2ウェイ構成の魅力を残す最後のシステムといった意義が惑じられる製品である。
 なお、2ウェイ構成モデルの派生的なシステムとして、4331と同時にバイアンプ方式の4330が発表されている。そしてこの4330に対応する、3ウェイシステムのバイアンプ専用モデルが4332である。

JBL 4350

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART1」より

 マルチウェイ化の発端は、4331や4333に先だって開発された、大型4ウェイ構成の4350の開発にあると考えられる。オーディオ帯域を、フラットなレスポンスとエネルギーバランスよく再生するスピーカーシステムを考えれば、低域、中低域、中高域、高域と4分割する4ウェイ構成が、最小の帯域分割数であり、位相特性的に考えれば最大の帯域分割数といえるだろう。
 JBLは、4350で初めて4ウェイ構成を採用するとともに、クロスオーバーネットワークに、一部エレクトロニック・クロスオーバーを導入した。4350では、低域と中低域以上をエレクトロニック・クロスオーバーで分割し、2台のパワーアンプでドライブする〝バイ・アンプ〟方式を採用している。このシステムの開発は、その後のJBLモニターの、マルチウェイ化と、バイ・アンプ方式という新しい方向への発展を示唆している。

JBL 4333

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART1」より

 4320、4325がレコーディングスタジオで多用されるようになると、スタジオ関係者の間では、使用体験を通して、次第に改良すべきポイントがクローズアップされてくることになる。
 それは、時代が要求する音楽の変遷に起因するモニタースピーカーへの要求条件でもあり、スピーカーシステムとしての完成度の高さを求める声でもあったわけだ。それを要約すれば、低域レスポンスの改善と、最大出力音圧レベルの向上が望まれていた。
 これらの要求に対するJBLの回答は、4320が登場して約二年後に、4331の開発としてあらわれる。
 4331は、JBLモニター初の3ウェイ構成を採用した4333と同時期に発表された。それまでのモニターシステムは、2ウェイ構成が最適とされていたが、JBLは4333を登場させることで、いわば常識を破り、この時期から、マルチウェイ化の方向が、JBLモニターにあらわれてきた点に注意したい。

JBL 4325

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART1」より

 4320に遅れること約一年で、新モデル4325が登場する。4325は、基本的に4320の改良モデルで、ウーファーがLE15系で、ボイスコイル・インピーダンスが4Ωの2216に代わり、高域ユニットとホーン/レンズは4320と同じタイプながら、クロスオーバー周波数を1200Hzに上げたのが異なった点だ。
 発表データ上では、低域のレスポンスが、4320の40Hzから、35Hzに下がっている。また聴感上では、クロオーバー周波数が上がっているため、中域のエネルギーが増加して、いわゆる明快な音になったのが、4325の特長である。しかし、ウーファーを高い周波数まで使っているために、エネルギー的には中域が厚くなっているものの、質的にはやや伴わない面があり、4320ほどの高い評価は受けなかったのが実状である。
 この4325の中域が明るく張り出す特長に注目して、スタジオモニターに採用したのが日本ビクターである。ちなみにCS50SMを一部採用していた日本コロムビアが、4320が登場した頃、タンノイ/レクタンギュラー・ヨークをモニタースピーカーに採用しているが、レコード会社のサウンドポリシーとモニタースピーカーの選択という意味では、興味深いことがらである。

JBL 4320

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART1」より

 1960年代に入りJBLにプロフェッショナル・ディヴィジョンが設けられ、プロ用のスピーカーユニット群が先行して開発されるとともに、それらのユニットをシステム化した〝スタジオモニター〟スピーカーシステムが登場する。
 その第一弾製品が4320である。低域にLE15系のハイコンプライアンス型ウーファー2215Bを、高域にはLE85系の2420ドライバーユニットに、HL91ホーン/レンズと同等な2307ホーンと、60年代のHL91と比べ構造が小改良されたスラントタイプ音響レンズ2308を組み合わせた2ウェイ構成で、バスレフ型エンクロージュアが採用されている。クロスオーバー周波数は、C50SM時代の500Hzから800Hzになった。モニタースピーカーとしてより高い音圧レベルでの再生を要求されるために上げられたのであろう。
 当時の代表的レコーディング・モニターシステムはアルテック604E同軸型ユニットと612Aエンクロージュアの組合せであった。4320は、この604E/612Aシステムと比べる、同軸型独特のピンポイントな音像定位では一歩譲るが、豊かで軽い低音の量感と、エネルギーが充分にあり、輝かしい中高域から高域がバランスを巧みに保ち、シャープで新鮮なサウンドが身上であった。その音からは、JBLが新世代のプロフェッショナルモニターとしてこのモデルを登場させた理由が、一聴した瞬間に理解できた。それほどの魅力をもつモニタースピーカーであった。
 しかし4320も、細部にして聴き込めば、周波数レスポンスは、やや、ナローレンジ型であることがわかる。低域は、豊かで反応が速い中低域がべースであり、中域のクロスオーバー周波数あたりはわずかに抑えられ、ハイエンドが、ゆるやかに降下する高域とバランスを保つタイプである。
 4320は、国内で発売を開始されるやいなや、新しいモニターシステムを切実に求めていたレコーディングスタジオに急激に採用され、一躍コンシュマーサイドにも注目されることになる。
 余談ではあるが、当時、4320のハイエンドが不足気味であることを改善するために、2405スーパートゥイーターを追加する試みが、相当数おこなわれた。あらかじめ、バッフルボードに設けられている、スーパートゥイーター用のマウント孔と、バックボードのネットワーク取付用孔を利用して、2405ユニットと3105ネットワークを簡単に追加することができたからだ。しかし、結果としてハイエンドはたしかに伸びるが、バランス的に中域が弱まり、総合的には改悪となるという結果が多かったことからも、4320の帯域バランスの絶妙さがうかがえる。
 ちなみに、筆者の知るかぎり、2405を追加して成功した方法は例外なく、小容量のコンデンサーをユニットに直列につなぎ、わずかに2405を効かせる使い方だった。