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QUAD FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 チューナー単体としての物理特性や音質で比較すれば、もはや国産各社が内容的にいっそう充実した製品を作り出しているが、プリの33、パワーの303や405の存在が貴重であるとすれば、それと組み合わせるのに、やはり見た目にも同じ兄弟のFM3を使いたくなるのは人情というものだろう。

QUAD 33, 303, 405, FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 創設者のP・ウォーカーは英国のオーディオ界でも最も古い世代の穏厚な紳士で、かつて著名なフェランティの協力を得てオーディオの開拓期から優秀な製品を世に送り出していた。ロンドンから一時間ほど車で走った郊外にあるアコースティカル社は、現在でもほんとうに小さなメーカーで、QUADブランドのアンプ、チューナーとコンデンサースピーカーだけを作り続けている。
 QUADは、なぜ、もっと大がかりでハイグレイドのアンプを作らないのか、という質問に対してP・ウォーカーは次のように答えている。
「もちろん当社にそれを作る技術はあります。しかし家庭で良質のレコード音楽を楽しむとき、これ以上のアンプを要求すればコストは急激にかさむし、形態も大きくなりすぎる。いまのこの一連の製品は、一般のレコード鑑賞には必要かつ十分すぎるくらいだと私は思っています。音だけを追求するマニアは別ですが……」
 こうした姿勢がQUADの製品の性格を物語っている。
 管球アンプ時代から、QUADはアンプをできるかぎり小型に作る努力をしている。ステレオプリアンプの#22は、それ以前のモノーラル・プリアンプと全く同じ外形のままステレオ用2チャンネルを組み込むという離れわざで我々をびっくりさせた。必要かつ十分な性能を、可能なかぎりコンパクトに組み上げるというのがQUADのアンプのポリシーといえる。
 この小さなアンプたちはデザインもじつにエレガントだ。ブラウン系の渋いメタリック塗装を中心にして、暖いオレンジイエローがアクセントにあしらわれる、というしゃれた感覚は、QUAD以外の製品には見当らない。このデザインは、どんなインテリアの部屋にも溶け込んでしまう。ことに、プリアンプとFMチューナーを一緒に収容するウッドキャビネットは楽しいアイデアだと思う。
 必要にして十分、と言っていたQUADも、一年前にパワーアンプの新型#405を発表した。100W×2というパワーをこれほど小さくまとめたアンプはほかにないし、そのユニークなコンストラクションは実に魅力的でしかも機能美に溢れている。
 アメリカや日本のアンプのような贅を尽した凄みはQUADの世界にはないが、33、303のシリーズの音質は、どこか箱庭的な、魅力的だがいかにも小づくりな音であった。405はその意味でいままでのQUADの枠を一歩ひろげた音といえる。この小柄なシャーシから想像できないような、力のある新鮮な音が鳴ってくる。クリアーで、いくらか冷たい肌ざわりの現代ふうの音質だ。アメリカのハイパワーアンプと比較すると、ぜい肉を除いた感じのやややせぎすの音に聴こえる。そして、405の音を聴くと、QUADはおそらく33よりも一段階グレイドの高いプリアンプと、やがてはチューナーも用意するのではないかと想像する。しかしそれはあくまでも良識の枠をはみ出すことのない、QUADらしいコンパクトな製品になるにちがいない。

QUAD 33, 303

岩崎千明

サウンド No.7(1976年発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(アンプ編)」より

 このアンプだけは、他のものと違って少々くつろいだ選択基準にのっとっている。つまり、朝に夕に、息を抜いたひとときに気軽にスイッチを入れてレコードを楽しむためのアンプとでもいえようか。特に、そうしたときに「音に対決する」といった息づまるような聴き方でなく、音楽を楽しめるコンデンサー・スピーカーを選んで、これを実用的に鳴らすことを考慮した時に必ず浮上するのが英国のアコースティック・インダストリー・マヌファクチャー社のコンデンサー・スピーカーQUAD(クォード)ESLであり、それをドライブするためのアンプとしてのクォード・トランジスタ・プリアンプ33、パワーアンプ303なのだ。
 ごく一般的な音楽の高級ファンの場合「永く聴いても疲れることのない装置」が強く望まれるものだ。QUADのシステムはこうした要求にぴったりであろう。聴く位置は固定されるが音像の確かさもすばらしいし、その品質は価格からは想像できない。まして最近のポンド下落の折で、日本での価格はこれからも高くなることはあるまい。
 クォードのアンプとして、オーディオマニアであれば、管球式のステレオ用プリアンプ・モデル22とパワーアンプ・モデル2を2台というのが、いつわらざる本音だろうし、今日、やや骨董的な価値も出てきて、マニアであればあるほど大いに気になるアンプであろう。
 ただ、今ではこれを探すのは労多く、価格的に割高のはずだ。トランジスターで間に合わせようというわけではないが、303と33でもいい。内容を見れば米国製の同価格の製品とくらべてみるとよく判ろうが、驚くほど綿密に、精緻に作られ、まるで高級測定器なみだ。プリント板の差換えでフォノイコライザーやテープイコライザーを変えられるようになっている所もいい。アンプの再生クォリティーは、今日の水準からは決して優れているというわけではないが、しかしESLを鳴らすには、この303の出力は手頃だし、最新パワーアンプ100/100ワットの405のお世話になることもあるまい。価格対内容では世界有数の製品だ。

QUAD ESL

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 スピーカーが振動板というひとつの重量物、いくら軽いとはいってもそれは重さのあるものだが、それを動かして空気中で音波を作り出すことを土台としている以上、作り出した音波自体が避けたくとも、大きな制限を受けることになる。楽器の中に限ったとしても、打楽器以外の天然の音はすべて、重さのある振動板によって作られた音ではないから、もしそれを本物らしく出そうとすると、振動板は「重さ」があってはならない。
 例えば管楽器のすべてがそうだ。木管ではリードが振動して音源となるが、リードは竹の小片で高音用スピーカーの振動板なみに軽い。しかし高音用ユニットでは、木管の音は出そうとしても出るわけがない。ときおり、もっと重い振動板によって軽やかな管楽器の音を出そうということになる。それがバイオリンのような小がらの弦楽器になると、もっとひどいことになる。バイオリンの弦の重さは、高音用ユニットの振動板よりも軽いくらいだから。
 ESLと呼ばれて、今日世界に例の少ないコンデンサー型・スピーカーが高級マニア、特に弦楽器を主体としたクラシック音楽のファンから常に関心を持たれるのは、そうした理由からだ。コンデンサー型システムの音は、あくまで軽やかだが、それは振動板がごく薄いプラスチックのフイルムだからであり、それは単位面積あたりでいったら、普通のスピーカーのいかなる標準よりも2ケタは低い。
 つまり、あるかないか判らないほどの軽い振動板であり、ボイスコイルのような一ケ所の駆動力ではなくて、その振動板が全体として駆動されるという点に大きな特長がある。つまり駆動力は僅かだが、その僅かな力でも相対的に大型スピーカーの強力なボイスコイル以上の速応性を持つ点が注目される。過渡特性とか立上がりとかが一般スピーカーより抜群のため、それは問題となるわけがない。ただ低音エネルギーにおいてフラット特性を得るため、過大振幅をいかに保てるかが問題だが、ESLはこの点でも優れた製品といえる。

QUAD ESL

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 いろいろな機会に何度もとり上げられて、今さら何も言うことはなさそうに思えるのだが、実のところこのスピーカーは、アンプやカートリッジやレコードの録音が新しくなるにつれて潜在的に持っていながら評価されにくかった本質を少しずつ我々の前に現わしてくるようなところがあって、それを見抜けなかったことを恥じなければならないにしてもしかし、周辺機器の進歩ということをつくづく考えさせられる。総体的な印象は、本誌22号でのテストリポート(199ページ参照)や、『別冊1975コンポーネントの世界』でのシンポジウム(71ページ以降)で発言したことで尽くしているので、ここでは使いこなしの面について多少の補足をするが、第一に、二つのスピーカーと聴取位置の選び方。かなり近寄って、スピーカーの面が耳を向くように位置すると、すばらしく鮮度の高いクリアーな現実感が得られる。第二に、背面の空間を十分にあけて置くこと。ピアノの実音までの音量は鳴らせないが、大出力の安定なアンプが必要だ。

採点:95点

QUAD 33

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 性能もデザインも実にユニークで洒落ていてこういう製品が存在することがうれしくなる。とうぜん、パワーアンプの♯303、チューナーのFM3と組み合わせるべきである。

QUAD FM3

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 デザイン、性能ともに、決してバーサタイルなチューナーではないが、QUAD専用チューナーとしての魅力は充分にある。聴きこむFMではなく、聴き流すFMといえよう。

QUAD 303

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 現在の標準からいえば、セパレート型としてはローパワー機である。しかし、ソリッドステートアンプが比較的に弱い旧タイプのスピーカーを巧みに鳴らす点を見逃せない。

QUAD FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 初期の製品は受信バンドを日本で直していたのでトラブルも多かったが、最近、日本向けに特別にバンド変更したものをQUADで供給するようになって、性能も安定した。

QUAD 33

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 大型の傾向が著しい国内製品群からみると、実にコンパクトで、楽しい機種である。メカメカしいオーディオではなく、音楽を、くつろいで聴くためには素敵なアンプである。

QUAD 33

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 このプリアンプを選んだ最大の理由はデザインの魅力だ。むろん、性能が著しく悪くては困るが、まずまず中級の中味。持つ喜び、使う楽しみの味わえる愛すべきプリだ。

QUAD ESL

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 以前の製品よりも改良されたという見方もあるようだが、私はそうではなく、アンプその他の性能が格段に向上したために、このスピーカーの実力が改めて見直されたのだと思う。

QUAD 50E

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 メーカー側の思惑とは逆に、日本では303よりも業務仕様のこちらに人気が高い。それというのも、信頼性とか英国製品らしい個性がより強く受けとれるからであろう。

QUAD ESL

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 世界でも例のない準コンデンサー型システムで、デリケートな音の素子が他に類のないクリアーな響きを伝える。低域が大音量で僅かにわれるのが気になるのは、欲張り過ぎか。

QUAD 33

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 時代の流れを越えて、誇りと伝統を貫くといったジョンブル精神をオーディオに凝縮したのが、このプリアンプだ。マニアであればサブ用として必ず欲しくなる魅力の強烈さ。

QUAD 303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 単体のパワーアンプとして評価しても、中出力の、良質で安定な製品といえるが、その独特のコンストラクションや色調など、やはり同社の33型プリとの組合せで真価を発揮する。

QUAD FM3

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 プリアンプと並べて常備したくなるこのチューナーは、実質的な面よりもデザインとオーディオ用としての音の素直さとに魅力が強い。高級ファンのサブ用的な英国製品。

QUAD ESL

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 能率は、あまり高くないが、ESL独得の清澄な音は、他に求められない魅力である。セットする場所的な制約は多いが、小音量で、室内楽などを聴くためには絶品である。

QUAD 33 + 303 + FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 プリアンプの小型で精巧な造形処理と、パワーアンプの工業用機器を思わせる緻密な形態と、全く異質とも思える意匠を巧みに融合した手際の見事さ。意匠も色彩も他に類型の出現する余地の無いほど独特でしかも完成度が高い。初期の製品はいかにもトランジスター臭い粗さがあったが、現在の製品は音質の面でもまた一流である。この場合はチューナーもぜひ同じシリーズで揃えないと魅力が半減する。

QUAD ESL

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 コンデンサー・スピーカーという独特の構造を最高に生かしたデザイン。赤銅色のパンチング・メタルは金属の冷たさよりは逆に渋味のある暖かい感触とさえ言え、一度は部屋に持ち込んでみたい魅力がある。むろん音質も好きだ。夾雑物のないクリアーな、しかし外観と同じように冷たさのないしっとりとした雰囲気をかもし出すような、演奏者と対話するようなプレゼンスを再現する。黒い仕上げもあるようだが赤銅色の方が断然良い。

QUAD FM II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 同社のトランジスター・アンプ・シリーズ303、33とペアに設計されたFMチューナーで、たいそう小柄に作ってある。FM専用とはいうものの、同調ツマミ一個のほか、手をふれる部分がなにもないというさっぱりした外観で、電源のON-OFFもプリアンプの方に依存するという簡潔さだから、QUADのアンプと併用するのでなくては、かなり使いにくい面がある。それでいて、もしも性能が良かったらサブ・チューナーとして使ってみたいと思わせるチャーミングな雰囲気を持っているのはさすがだ。
 ダイアルスケールは有効長約14センチの等間隔目盛。上品で読みとりやすい。メーターはなく、同調をとると二個のネオンランプがシーソー式に点灯し、二個同時に同じ明るさに光った点が同地うょてんを示すというのも変っていておもしろい。ステレオ/モノの切換はオートマチックで、ネオンで表示される。かんじんの音質だが、意識的に(だろう)レンジをせまく作ってあり、それはよいとしても左右の音量バランスがよくないなど、ちょっと期待はずれの感があった。日本で受信バンドを変更した製品なので、これが本来のQUADの性能なのかどうかは断じ難いが。

QUAD 33, 303, ダイナコ PAT4

岩崎千明

無線と実験 5月号(1968年4月発行)
「最近の海外Hi-Fiアンプの傾向」より

まえがき
 近着の米国オーディオ誌を眺めていたら、変ったことに気付いた。最近のオーディオやハイファイ誌に小型のFMラジオの広告が多いことである。それも1頁あるいは2頁みひらきという堂々たる広告でありながら、そのラジオはステレオ・アダプターもついていない程度の、小型パーソナル・タイプである。しかし、そのFMラジオは、本格的なHi−Fiメーカーで作られていることが興味をそそった。
 Hi−Fiアンプの最大メーカーから総合メーカー的な色合を濃くしているフィッシャー社、ブックシェルフ型スピーカー・メーカーとしてARと並び、最近はモジュラー・ステレオから完全な総合メーカーへと脱皮をとげて登り坂のKLH社、カートリッジ・メーカーとしてシュアに並ぶ高品質をもって鳴り、最近はスピーカー・システム、アンプへと手を拡げているADC社など、そうそうたる一流メーカーの手で、小型FMラジオがどんどん作られているのは何を示すか?
 その辺の事情を調べてみたら面白いことが判った。昨年末は米国市場においてFMラジオが爆発的に売れて、民需電子産業としてカラー・テレビに次ぐ売行きだったとか。これはFM放送網の拡充した50年代後期以来の流行だということである。
 何が理由で、今どろFMラジオが急激に売れてきたか。この辺が今年の米国市場のHi−Fi界のアンプの行き方と決して無関係ではなさそうなのである。
 そこでFMラジオが今までとどこが違うか。その技術的背景を考えてみよう。昨年末以来のFMラジオは、むろん例外なくトランジスター化されている。そしてその技術を踏台とLて、Hi−Fiメーカー製ラジオは、コンパクトながら、かなり完全な密閉型スピーカー部を備えているのが特長だ。管球式では小型ラジオのスペースの多くはシャシーにとられてしまうが、Tr化されればごく小型の基板以外は全部スピーカーが占められる。
 グッドマンのマキシム・タイプのスピーカーは米国でUTCが一手に引受けてマキシマスという名で売っていたが、その売行きは当初における予想を下まわって大したことはなかったが、その技術はモジュラー・ステレオのスピーカーにおいて生かされ、さらに今日、小型FMラジオにおいて真価を発揮しているわけである。
 もうひとつ、FMラジオで見逃がされないのは、フロント・エンドへFETを採入れることにより、永年問題となっていた強力電波による過大入力のクロストークの解決である。Hi−FiアンプのFETの採用はスコット社のチューナー・アンプを皮切りにシャーウッド、ケンウッドなどから今日では大部分の製品に採用されているが、これはFETの量産体制が備わった67年における大きな進歩であった。FMラジオの大流行は、「FETの採用により今までのクロストークの問題が解消し、Tr化によりスピーカー・システムを充実させることができ得た」ことが理由だ。

アンプの大きな流れ
 米国のHi−Fiアンプを見るとき、FM小型ラジオの著しい売行きからも判断できるように、Hi−Fiレシーバーが今や完全に庶民の実用品となってきている点を見逃がせない。そこで、Hi−Fiアンプのあり方も日本での場合とかなり違っており、その辺のことを了解していないと全般的傾向を判断しにくいいわけである。
 今年度のアンプ界における傾向で注目できるのは、マランツ18にみられるような、超一流ブランドによるレシーバー、つまりチューナーつきアンプの出現である。価格700〜500ドルという従来の倍の価格の高級アンプが狙うのはどんな層か。マランツ以外に、マッキントッシュ、アルテック、スコット フィッシャー、さらにソニーからもこの級の豪華型が発表されており、高級アンプはますます高級化、デラックス化の道をたどりつつある。
 スコット、フィッシャーなどの場合には、その一連の製品のイメージアップが大きな目的であるが、マランツ、マッキントッシュ、アルテックなどにおいてははっきりした目的があり、それがハイファイ・マニアでないオーソドックスな高級音楽ファン、ないし金持ちの一般市民に狙いを合せた製品であることは間違いなかろう。
 これと対照的に一般のHi−Fiアンプ、特にチューナーつきのレシーバーと呼ばれる総合アンプは全般的傾向として低価格の方向に進んでいる。米国でもっとも一般的な名声をもつフィッシャーを例にとると500ドルの700Tの最高ブランドを頂点にしていながら一般向けは200ドル級という、今までにない低価格の200Tと普及化されているのが判る。
 ケンウッド、パイオニア、サンスイなど日本製米国向けのアンプにもこの傾向はみられ、これらの製品はそのままの型で日本市場に出ているので如実に見ることができる。ハイファイ産業は今やマニアだけの物でなく一般市民の間に大きく根を下してきているのだ。

日本市場での海外アンプ
 米国市場でのデラックス化を反映して、日本に最近入ってきたアンプも多くが超高級品である。30万円前後の高価格だ。マランツ18、アルテック711B、フィッシャー700T。最近発表されたソニー6060やパイオニアの1500T、トリオの1300、サンスイでも同級のものがあるというが、米国市場では全て超豪華型といわれる級だ。
 これらのレシーバーは取扱いやすさを考えれば、一般向けという点に焦点を合わせた以外の技術的グレードの点で、今までのプリメイン型よりも高級であるといわれる。
 しかし今日の日本における需要層であるマニアの立場からはちょっと物足りない点が多い。たとえば入力端子が、本格的高級機なみにたくさんほしい。またチャンネル・アンプ化のためプリアンプ、メインアンプを独立して使いたいなど、数え上げればきりがない。日本製の高級アンプでは、こういうマニアの要望がほぼ完全に実現されているだけに海外アンプに対する物足りなさは一層だ。
 しかし、考えてみると日本のマニアのレベルはおそらく世界一ではなかろうか。チャンネル・アンプにしても日本ではかなり多く実用されているのに、米国市場ではアコースティックX以外の商品はなく、むろんマニアの間でそれが実用化している例も聞いたことがない程度だ。最近では米オーディオ誌の3月号に、チャンネル・アンプの記事がアコースティックXを例としてのっているのが珍らしいほどだ。特にステレオ期以後において、マニアに関しては日本の方が水準が上である。
 67年のコンシューマー・レポートの米国市場におけるアンプのテスト・レポートにおいても、日本製アンプがパイオニアの1000TAをはじめ、輸出専門メーカー製などがフィッシャー、スコットとならび、上位にランクされていることからも日本製品のグレードの高さが判ろうというものだ。これは結局、日本のハイファイ需要層の底辺の広さと、そしてマニアの満点の高さが製品に反映しているのだといえる。

ダイナコとクワッド
 さて、コンシューマー・レポートといえば、そのトップ・ランクの製品が、米国で低価格製品の異色とされているダイナコであった。
 ダイナコはアクロ・サウンドの技術者であったD・ハフナー氏が戦後アンプ・キットのメーカーとしてスタートした独特なメーカーである。この社の製品の高品質ぶりは定評があるのだが、最近、米国市場を湧かしているアンプは次のようなものがある。
 マランツ初のチューナー・アンプ〝モデル18〟、マッキントッシュ初のチューナー・アンプ〝1500〟とその改良型〝1700〟、これは終段は球で7591をPPとしたトランスつきだ。そしてこの高級2機種に対してARが初めて出すアンプ、そしてこのダイナコのTr化されたアンプのシリーズ、メインアンプの〝ステレオ120〟と、プリアンプの〝PAT4〟である。
 コンシューマー・レポートにおけるダイナコは管球プリアンプ〝PAS3X〟、とTrパワーアンプ〝ステレオ120〟だ。Trプリアンプ〝PAT4〟はすでに一昨年末に発表され、一部の商品が出まわっていたものだが、メーカーとしても「PAT4が必らずしもPAS3Xよりも優れているとはいわない」という微妙ないい方で、その販売に力を入れてることをしなかったものだ。それはTr化に伴いトラブルの予測ないしは実際に起きていたに違いなく、現実に市場に出ていた〝PAT4〟は全製品ダイナコの手で回収されたと伝えられていた。
 しかし、昨年、67年暮以来、そのS/Nに関するトラブルも解消し予期の高性能に達したようで、68年度は大々的に〝PAT4〟を売る方針のようだ。
 そしてその第一陣はすでに米市場で好評をもって迎えられ、日本でも4月には発売れよう。
 〝ステレオ120〟、60/60ワット・パワーアンプとの組合せは、価格を考えると最高品質といわれており、米国でも売行はキットを含めてプリ・メインのトップを行き、ものすごいようである。なおFMチューナーは管球式の従来のFMステレオ・マルチつきがコンビとされている。
 日本ではこのダイナコと前後してクワッド・ブランドで知られる英国アコースティカル社のTr化された新型アンプが入ってきた。
 QUAD33プリ、303パワーアンプの組合せである。クワッドは日本でハイファイ初期から特に高く評価されており、ファンも多く、人気も高い。このクワッドとダイナコのアンプが、日本マニアの間で当分の間人気争いの2大製品となろうことは明らかであり、またその内容、技術の対称的な点を含めて興味が深い。

QUAD33プリアンプ
 回路全体を簡略化、単純化するという点でダイナコと似た構成上の考え方を示しているが、ダイナコが球をほとんどそのままTrに置きかえた構成に対しクワッドはその2ブロックとボリュームとの段間に2つのエミッター・フォロワーのインピーダンス変換回路を挿入し、スイッチ配線に対してのリードのストレイ容量の影響および回路間のマッチングを考慮している、この点がダイナコと差があるだけである。トーン・コントロールが2段にわたるNF型である点、LCによるハイカット・フィルターがプリアンプ最終段にある点などダイナコとまったく同じであるのも興味深い。
 英国製共通のパワーアンプがハイゲインなため、プリアンプ出力は規格歪率にて0・5Vと低いが、この構成では1Vの出力においてもなんら差支えないであろう。
 ダイナコとの差は写真より判るように、その構造の違いだけといえそうだ。ダイナコのPU入力端子は3つあり、これは回路図よりみられるように入力端子において低レベル入力なみに落されてイコライザーに加えられるような方式をとっており、回路内でのスイッチを含め複雑化を防いでいるが、クワッドのプリアンプでは永年やってきたようなプラグイン・イコライザーの考え方をプリント基板の挿し変えという方式によっている。
 これは従来のようにいくつかのイコライザー・ユニットを用意するのでなく、あらかじめ0.5〜2mVまでの低出力、1.5〜6mVまでの高出力、セラミック用の各種のカートリッジのイコライザー、それに予備の端子を具えたプリント板の向きを換えて挿し変えて必要に応じた使い方をするわけである。
 テープ・アダプターの方はイコライザーに続くエミッター・フォロワーそのもので、プリント基板裏面にあるスクリューを切換えてテープ出力に応じたレベル・セットができる。このようなクリッピングを考慮した設計はTr化されたセットでは適切なものといえる。

ダイナコのPAT4
「偉大なものはすべて単純である」この言葉はフルトヴェングラーの芸術に対しての名言だが、ダイナコの回路図をみたとき、この言葉を想起した。実に単純きわまりない。片側の構成は4石、それも2段直結の2ブロックという、もっともシンプルな構成である。一般にハイファイ・アンプTr化の最大の問題点はトップの雑音発生である。S/N比を高く保つことがいかにむつかしいか、最高級を謳われるマランツ7TにおいてさえS/Nのバラツキが需要家最大の悩みのたねであった。
 ダイナコはこれを、構成を最少滅に喰いとめるという、もっとも当り前なオーソドックスな方式で解決したわけである。たくさんのツマミが好きで、マルチ・スピーカーが好きな変形マニアにはこのダイナコの良さは納得できないであろう。すべて製品は最終的に到達した性能、ハイファイでは、それに加えて出てきた音で判断すべきである。
 初めの2石直結ブロックはNF型のイコライザーを構成している。イコライザーはフォノ・テープヘッドおよび特別入力端子の3つが用意されている。直結アンプの前後に入力切換のスイッチがあり、その出力側にモニター・スイッチ、ヘッドフォン・ジャックによる入力端子、簡単なCR型のロー・フィルターが続く。
 そのあとにシーソー・スイッチ2個によるステレオ・モード切換があり、ボリューム・コントロール、バランス・コントロールと一連のリード配線を経て第2ブロックの2段直結回路に導かれる。
 この2つの直結構成の回路はほとんど同じもので電源B電圧の後段が高いため、動作点も後段が大入力用となっているわけだ。
 第2ブロックは、ダイナコ特許の2段構成NF型トーン・コントロールで、すでに管球式PAS3Xにおけるもの。もっと初期のモノ用プリPA1の回路と基本的に何ら変るところがない。BAX型と呼ばれるNF型のトーン・コントロール素子がエミッター・コレクター間の2段にわたって結ばれている。このため全体の中域のゲインは20dB以上あり、しかも従来起りがちの低域の上昇がなまることもなく、超低域上昇特性のよさは、まさにマランツなみを誇るものである。ダイナコ・プリアンプの優秀さの最大の支えとなっているのが、このダイナコ特許の2段NFトーン・コントロール回路であり、Tr化された今日でもこれは少しも変ることなく続いているのをみると、米国製品に珍らしい技術的なしぶとさを感じるのである。
 この2段出力段のあとにLCによるハイカット・フィルターが入り、出力端子へと導かれる。低出力インピーダンスのあとのハイカット・フィルターだけに素子のインピーダンスを下げなければならず、コア一に巻かれたインダクタンスを採用したのであろう。出力インピーダンスの十分低いトランジスター回路ではLは管球以上に利用されるわけだ。
 ダイナコPAT4の出力は2Vまで規格歪率でおさえられており、むろん電源負荷である点を考えると、規格出力が0.5Vのクワッド・プリアンプ〝33〟よりも独立使用の点で有利であり,またクワッドがヨーロッパ規格のコネクター式入力端子であるのに対し,ダイナコが米国のRCAピン・プラグ入力端子である点も、日本のオーディオ層にはなじみ深く、有利といえそうである。内部配線の米国らしいみてくれを考えない合理的なリードの引きまわし方は、一見弱々しくみえる内部構造とともに,神経のこまかいマニアには納得できないかも知れない。そういう点からはクワッドの測定器なみの組み立て配線の方がはるかに良心的で日本人的センスであるが、出てきた性能はほとんど同レベルと考えてよく、まさに合理主義的米国式か、ガッチリと伝統を守る英国式かという内部構造の点と約2万円近い価格差だけが選ぶ者にとっての導標だ。

QUAD 22, II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 素直ではったりのない、ごく正統的な音質であった。
 わたくしが家でタンノイを鳴らすとき、殆んどアンプにはQUADを選んでいる。つまりタンノイと結びついた形で、QUADの音質が頭にあった。切換比較で他のオーソドックスな音質のアンプと同じ音で鳴った時、実は少々びっくりした。びっくりしたのは、しかしわたくしの日常のそういう体験にほかならないだろう。
 タンノイは、自社のスピーカーを駆動するアンプにQUADを推賞しているそうだ。しかしこのアンプに固有の音色というものが特に無いとすれば、その理由は負荷インピーダンスの変動に強いという点かもしれない。これはおおかたのアンプの持っていない特徴である。
 10数年前にすでにこのアンプがあったというのは驚異的なことだろう。