Category Archives: コントロールアンプ - Page 4

パイオニア Exclusive C5

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 端正なバランスと、木目の細かい質感の美しい音のプリアンプだが、意外に神経質な線の細さもあって戸惑わされる。これは、このアンプの繊細で、解像力のよい高域のせいだと思われる。中高域が線が細く聴こえるのだが、案外、中低の厚味不足のせいかもしれない。音は締まりすぎるほど締まっていて、ぜい肉や曖昧さがない。組み合わせるスピーカーやプレーヤーとのバランスが微妙に利いてくるアンプだろう。今回は、JBLのほうがよかった。
[AD試聴]繊細さ、鋭敏な華麗さなどの面が強調され、ふくよかさや熱っぽさが物足りない音楽的雰囲気になった。マーラーの第6交響曲も、シュトラウスの「蝙蝠」も同じような点が不満として残った。したがって、マーラーでは濃艶さが、シュトラウスではしなやかさが不十分に感じられた。しかし、緻密なディテールの再現は素晴らしく、声の濃やかな音色の変化などの響き分けなどは第一級……というより特級といってよいアンプ。ジャズでもよくスイングする。
[CD試聴]ADの線の細さは、CDではそれほど感じられない。決して豊かな肥満した音ではないが、ふくらみやボディの実感がCDのほうがよりよいようだ。ショルティのワーグナーでは、細部のディテールは当然ながら、トゥッティのマスとしての力感もよく、力強い再生音だった。これでもう少し、音に脂がのって艶っぽさが出ると最高だと思った。概して日本製のアンプにはこの傾向があり、楽器も演奏もどこか共通したところがあるのが面白い。

アキュフェーズ C-280

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 きりっと締まったテンションのある音が魅力的である。特に、その高域の彫琢の深い陰影に富んだ再現力は特筆に値する。楽器の質感が肌で直接触れるようなリアリティのある音であり、かつ、独特の効果的な色合いをもっている。リニアリティ、ダイナミックレンジなどの物理的な要素によると思われる。音の面からは完璧に近いといってよいだろう。残るは、この特有の艶っぼさと、ややウェットな雰囲気がリスナーの嗜好に合うか合わないかであろう。
〔AD試聴]オーケストラの細部のディテールは鮮明に再現され、弾力性のある、テンションのかかった緊張したサウンドが魅力的だ。マーラーの第6交響曲の色彩感は完璧にまで描かれる。ステレオフォニツクなフェイズ差による空間の再現も確かで、ステージの実感が豊かな「蝙蝠」は効果的であった。JBLでは、やや冷たい音色感となり、暖かさと丸みのある質感が不足したが、B&Wでの再生音は不満がない。ジャズは両スピーカー共、音色感が最高。
[CD試聴]優れた特性が余裕のある再生音となっていて、全ての試聴CDに対して満足のいく対応を示してくれた。ADの場合にもいえることなのだが、あまりにも明解であるため、ややもすると音楽の細部に気をとられ過ぎる傾向のある音ともいえる。JBLで聴いたカウント・ベイシーなど、やや重心が高いバランスのように感じたが、総じて、もっと図太さとか、渾然とした響きの一体感などという点の魅力が希薄なのかもしれない。

カウンターポイント SA-5

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 質感の上でも、バランスの上でも、非常に高品位なプリアンプだと思う。弦楽器の質感は特に素晴らしく、ヴァイオリン群のリアリティと滑らかな音の美しさは大変魅力的である。中低域も深々と鳴って、音の立体感が充実している。欲をいえば、もう少しエッジの鋭いシャープなダイナミズムの面への対応であろう。音の勢いといったエネルギッシュな面がやや物足りない。また細かいところの完成度にもやや不満が残る。
[AD試聴]マーラーの第6交響曲は、明晰な解像力で各楽器を克明に聴かせながら、かつ、ふっくらとした自然な質感が気持ちよく、豊かな雰囲気で全体が統一される。B&Wで聴く弦の音は美しく、ヴァイオリンのプルトがひとかたまりにならず、ちゃんと分かれ、しかも整って聴こえる。人声の質も自然で、ドライになることがないし、ステージのライヴネスも繊細な間接音の陰影までよく再現してくれた。ジャズにもう一つ、強さ、輝き、艶っぽさが欲しい気もした。
[CD試聴]CDでは、ADより強靭な音の質感があって、音の実在感がより生きてくる。それでいて、このアンプ特有のふくよかな雰囲気はなくならない。ADより一段とクォリティの高い音が楽しめるアンプである。ショルティのワーグナーが、力強さに豊かで柔らかい響きの感触が加わって、一段、品位が上がった印象であった。しかもJBLでもギスギスしないのである。音にコクがあるという感じの味わいが何とも魅力的であった。

サンスイ C-2301

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 サイテイションXIIとは対照的な音で、こちらは重厚で粘りのあるサウンドを特徴とする。どちらかといえばウェットなサウンドの傾向である。それだけに音楽が軽薄に響くことはないが、ともすると、やや濃厚になり過ぎ、さわやかさやデリカシーが十分生きない。しかし、このボディの厚いサウンドの魅力は大きく、血の通った人間表現としての演奏の説得力に通じるものがある。十分に腰の坐った安定したバランスと弾力性ある質感は魅力的。
[AD試聴]ロージーの年増の魅力が発揮され、艶麗な表現の魅力は大したものである。また、バリトン・バスのヴォーカルも生々しく、どうやら人の声には好結果が得られるアンプのようだ。空間感は豊かだし、音の立身体感やまるみのある実感も第一級。マーラーは相当濃厚な表現で、レーグナーの流れるような素直さが、この粘りのある音とは少々異質だ。また「蝙蝠」のワルツのヴァイオリンが洒落た軽妙さを過ぎて俗っぽくなるのも不思議であった。
[CD試聴]ジークフリートのマーチの厚く柔らかい管の響きは大変魅力的だし、弦の音も十分しなやか。ショルティの演奏に肉付きが加わって豊潤になるのが、効果的であった。CDの音をドライな響きにすることがなく、むしろ、このアンプ持前の熱っぽく弾力性のある音の質感で補う方向が好ましい。ベイシー・バンドの音は、B&Wでもまずまずの再現だったがJBLでは一段と冴えて、輝きのある音色を十分聴かせる。ベースの弾みもよかった。

スレッショルド FET two SeriesII

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプの音は独特である。質感としては無機的なものではなく、暖かい肌ざわりを感じさせる面もあるのだが、音に鮮度がなく、冴えがない。高域にはかなり鋭いキャラクターがあるのだが、かといって、荒れた華麗な響きという印象にもならない。聴感上、レンジが狭いような印象も受ける。俗にいう〝ぬけの悪い音〟という印象なのである。パワーアンプでは優れた成果を上げているスレッショルドだが、プリはいつも苦戦するようだ。
[AD試聴]マーラーの交響曲では、レンジ感に不満がある。この優れた録音のワイドレンジが十分発揮されない印象だ。グランカサの低音も、つまるような感じになるし、ヴァイオリン群の音色の艶が出ない。「蝙蝠」で感じられたのだが、他のアンプより、ライヴネスの減衰が速いようで、残響時間が短くなるような感じを受ける。ジャズのほうが不満は目立たず、ベースの弾みもよいほうで、よくスイングする。個々の音色の特徴が十全に再現されない傾向。
[CD試聴]ADに於ける印象と大きく変るところはない。それぞれのCDの特徴がよく生かされない。どこといって、大きな不満はないのだが……。音色の冴えがよくないのが問題なのだろう。Dレンジの点でも、Fレンジの点でも、CDのもつ物理特性を十分カバーしていると思うのだが、いずれの音楽にも、その魅力が生きてこないのである。B&WでもJBLでも、同じような印象に終始した。

ハーマンカードン Citation XII

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 きわめて明快なサウンドで、音像のエッジがシャープ。現代的で直截的な趣きである。したがって、その反面、音楽の豊潤な味わいや、暖かい情緒的表現が希薄である。ある種のシャープな感覚一点張りの音楽には、いかにも優秀なプリアンプという印象になるだろうし、強さ、迫力、解像力という側面でのみオーディオサウンドをとらえる向きには好まれるだろう。中低域の厚み、低域の抑揚の表現が物足らない。
[AD試聴]マーラーはこのアンプで聴くと弦のプルトが少なく感じられ、ヴァイオリンが薄っぺらになる。質感が冷たく硬くなる傾向。どこか、小骨っぼい印象の音が楽曲の情趣を損ねるようだ。人の声はどちらかといえば子音強調型で、うるおいに欠ける印象。パルシヴな音に対しては鋭敏な反応をもっているようで明快に響き、気持ちがいい。しかし、その中にも、楽器の固有の厚味があってほしい。造形的だが、それが直線的に過ぎる音という印象なのである。
[CD試聴]重厚な響きや、暖かいニュアンスに不足する点はADでの印象と同じだが、それがCDでは一層強調される傾向である。ワーグナーのジークフリートのマーチでは、曲想が正反対で、明るく、さっぱりした音の雰囲気になり、分厚く濃厚なオーケストラのテクスチェアーが生かされない。これはスピーカーを変えても、パワーアンプを変えても同じ傾向だから、このプリアンプの性格だと思う。明るいパーカッシヴな音楽に向くようだ。

DBシステムズ DBR-15B

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプの音は、高音域にやや色づきがあり、中域が平板ドヘ。やや中域の盛り上ったバランスでFレンジはそれほど広帯域を感じさせない。それだけに、新鮮な魅力は感じられないが、かといって、大きな難もない。コニサー好みの回路とコンストラクションをもったアンプだが、音だけでいうと、特にとりたてていうほどの魅力は感じられなかった。比較をしなければ、それなりにかなりの水準の音を聴かせてくれるのだが……。
[AD試聴]マーラーは可もなし不可もなしといった再生音でソツのない音だった。弦の瑞々しい音も、もう一歩だし、木管の清々しさも、このレコードの実力を十分発揮していないようだ。ジャズではピアノの高域のハーモニックスが強調され気味であるし、サックスの音色も少々硬さが気になった。ベースは量的な不満はないが、弦やフレットポジションによる音程に伴う音色の変化がいま一歩明瞭ではないのが残念だ。JBLのほうが好ましい。
[CD試聴]チューナーポジションで聴くCDの音の方がADより鮮度があって、ストレートなよさがある。ただ、音楽的情趣の点で不満が出るのはADと同じ傾向である。いろいろなCDを聴いてみると、明らかに、フォノイクォライザーよりクォリティが高く、ラインアンプ系の優れていることが判る。フォノのように中域の平板な感じはないが、ピアノでは、やはり丸味のない響きが気になった。全体に丸い立体的な響きが加われば……と欲が出る。

カウンターポイント SA-3

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 ソースの魅力を、あるがままに……という言葉を使いたくなるほどストレートに再生してくれる。だから、音楽がもつ、明るさや暗さ、硬さや柔軟さ、繊細さと力強さといった対照的な情緒のいずれにも偏ることがなく表現の複雑さや幅が生きるのである。それでいてこのアンプらしいアイデンティティともいえる質感はちゃんとあって、暖かく透明である。ソリッドな実体感もある。基本的には安定した優れた物理特性に裏付けられた高品位な音。
[AD試聴]粒立ちのよさと、透明な空間感、そしてマッシヴなハーモニーの融合で、オーケストラは大変効果的で、B&Wで聴いたマーラーの第6交響曲の響きは素晴らしかった。擦弦のリアリティが生き生き再現され、演奏の動きが生々しい。木管はまろやかで透明、金管は輝かしく力強い。人の声も暖かくボディがあって、唇のぬれている質感が濃やかに聴ける。ジャズでもよくスイング感が出てベースが快く弾む。JBLだとやや硬質になり、ドライに響く。
[CD試聴]CDではAD以上の魅力を発揮する。B&W、JBL共に、ショルティのワーグナーで、緻密かつ力強いパフォーマンスに圧倒的な印象を受ける。コントラバス群の弓の動きの実感は他のアンプとは一味も二味も違う。高弦のしなやかさと肉付きもよく、決して冷徹にならない。アメリンクのステージの空間にくっきりと浮彫りになる実在感と、艶と輝きに満ちて毅然とした歌唱の姿勢が手にとるようにわかる。ジャズでも音色の響き分けが見事だ。

アキュフェーズ C-200L

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 ワイドレンジでスケールが大きく、響きのたっぷりした音。肉付き豊かなグラマーな美人を見るようだ。それも、決して過度にはならない化粧をほどこした着飾った美人である。感覚的にはこんな感じだが、ひるがえって情緒的あるいはより官能的にいえば、暖かく弾力性に富む質感で、脂肪の適度に乗った濃厚さを感じる。細身の美人とさっばりしたお茶漬け好みの人には嫌われるかもしれないが、西欧音楽を鑑賞するにはこの質感は違和感がない。
[AD試聴]マーラーは大変豪華な響きで、B&Wが大きなスケールで鳴る。高弦が艶やかでいて、木管の清涼感もよく再現される。奥行きを含めたステレオ感が豊かで厚く、「蝙蝠」のステージの大きさがよく再現される。JBLでは、やや誇張のある鳴り方で、もう少し抑制が利いて自然な慎ましさが欲しい気もした。磨きのかかった輝かしい音色が、JBLだと、やや人工的に感じられなくもない。ロージーの声は艶っぽく濃厚な味わい。
[CD試聴]フォノの音とCDの音は共通していて、濃艶な表情がCDでも感じられる。明晰な分、CDにより好ましいアンプかもしれない。線の細くなるところがないために、CDの高域が神経質に聴こえることがない。ベイシーのCDで感じたのだが、ミュート・トランペットの音が輝きはあるが、一つ鋭さに欠ける……いいかえれば、高域にもう少し硬質な響きがあってもよいのかもしれない。また、CDの低音はフォノの時より、やや重苦しく弾みが悪かった。

マランツ Sc-11

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 明るく、めりはりの利いた快い音のプリアンプである。エネルギッシュで、熱っぼい響きだが、分解能がよいため、重苦しさや、押しつけがましさはなく、溌剌とした鳴り方だ。難をいえば、やや派手な傾向が強いが、荒々しくギラつくようなことがない。B&WでもJBLでも、よくスピーカーの特徴を生かしてくれたプリアンプであった。優れた物理特性に裏付けられた音でワイドレンジだが、そうした感じが表に出ない練られた音だと思う。
[AD試聴]マーラーの交響曲の色彩感を、細部まで行き届いた照明で明確に見るような鮮かな鳴り方である。打楽器の力感や、ブラスの輝きは得意とするところである。弦の質感も決してざらつかない。J・シュトラウスのワルツのリズムに乗ったしなやかな弦の歌も美しく響いた。ロージーの声も、中庸で、ハスキーな色っぽさがほどよいバランス。JBLだと彼女が10歳ほど若返った感じだが……。ベースは重厚で、しかもよく弾んでくれるのでスイングする。
[CD試聴]このアンプはADとCDの印象が違って聴こえた。ショルティのワーグナーでは、思ったより、ブラス音が明るくなく、少しもったりと響く。ジークフリート・マーチにはこのほうが適しているようにも思うのだが、他のアンプと違う鳴り方で戸惑った。B&Wの時にこの頃向が強く、JBLではこのアンプらしい透明な響きが聴けた。この辺がマッチングの微妙なところ。ベースを聴くと低域の締まりにもう一つ欲が出る。やや空虚な響きを感じるのだ。

ビクター P-L10

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプの音はコクがある。やや押しつけがましい感じがするほどである。繊細さや透明感といった面よりも、豊かさ、粘りのある質感といった印象の強い音である。だから、人によっては好みがはっきり分かれ、くどい印象として嫌われるかもしれない。開発時期が新しいものではないが、ウォームな質感は音楽の表現にとって、最新アンプにないよさもある。濃厚な質感で決して無機的な響きは出さないのだが、それだけに、やや重苦しい感触だ。
[AD試聴]それほどレンジの広さは感じないが、音がマッシヴなためオーケストラのスケールは大きく、迫力がある。これで、各音像にもう一つ輪郭の明確な彫琢のシャープさがあればよいのだが……。マーラーの再現には濃艶な味わいを聴かせる。「蝙蝠」のステージのライヴネスの透明感が不足するので、臨場感が不足する。余韻が抑えられる感じだ。ロージーの声は、いかにも年増の濃艶な色気たっぷり。ベースは重く豊かだが、弾みは悪くないのでスイングする。
[CD試聴]肉付きのたっぷりした、グラマラスな感じのする音はCDでも共通のオーケストラなどのマッシヴな厚味がよく出て、堂々と響くのはよいのだが、もう少し、透明感が欲しい。冴えとか、さわやかさといった情趣が苦手のようだ。反面、強い説得力がある音だ。B&Wより、JBLのほうが合うようで、量感のあるふくよかな音が、JBLのシャープなエッジと結びついて効果的だ。ジャズでは特にこの傾向が強くJBLは大変よく鳴った。

テクニクス SU-A4 MK2

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 淡白な味わいで、色に例えると、明るめのグレーといった感じの音である。温度でいうと20度Cぐらい。つまり、熱っぼい表現でもなければ、冷たいわけでもない。そして、音が軽目の印象でマッシヴな実体感は感じられない。高域に独特の木目の細かさがあって繊細感があるが、迫力は物足りない。絵に例えると水彩画の味わいで、決して油絵ではない。そんな印象の音である。特性のよさは感じられるのだがエネルギー感が不足しているのだろうか。
[AD試聴]ヴァイオリン群の高域に、独特のキャラククーがあって、ある種のリアリティを演出する効果があるが、少々線が細いようだ。音の出方が平板で、立体的な丸味が感じられない。空間のイメージは透明で、決してべたつかないのだが、音に実在感が不足する。いかにも日本的な、やや動物性蛋白質の不足した感じの音だ。だから、血がさわぐ情熱的な表現は苦手だが、趣味のよい端正さが特徴。ジャズよりもクラシックの静的な音楽に向く再生音である。
[CD試聴]CDらしいダイナミックレンジの広さと、がっしり安定した音の実在感が稀薄だが、反面、さわやかで押しつけがましくない音が楽しめる。物理的なダイナミックレンジは不足するわけではなく、音色から受ける印象である。ピアニッシモの透明な残響感などの再現は大変よく、SN比のよいCDの魅力を味わわせてくれる。B&WよりJBLのほうが、このアンプの特質を補って、より表現力の豊かな方にもっていってくれる。粗さのない滑らかな音だ。

エスプリ TA-E901

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 精密機械を感じさせるような緻密で、しっかりした音の造形は独特のものだ。決して冷徹な音ではないが、常に人工的な美しさの感覚がつきまとう。輝かしく磨き抜かれた貴金属をイメージアップするような音である。自然な質感とは違うが、これは、オーディオ的な美の世界として魅力的である。組み合わせるパワーアンプやスピーカーは選ばないほうで、このアンプなりの個性をしっかり発揮する。立派な作りと精緻な音をもった優秀なプリである。
[AD試聴]総合欄で書いたこのアンプの傾向は、レンジの広いオーケストラで圧倒的な威力を発揮する。ただし今回試聴したADには、ぴたっとくるものがなく、いずれもメカニカルな質感が気になった。ロンドン系の録音や電気楽器系の音楽によりマッチした音だろう。暖かく、まろやかな中低域が欲しいマーラーや、酒落た柔軟さで響いて欲しいシュトラウスなどが、少々肩肘張って固苦しい。ジャズはベースが力強く、しかも粘りもあるのでスイングする。
[CD試聴]ショルティのジークフリートのマーチは、録音の性格と演奏がよくマッチして直裁的で精緻なものだが、それがこのアンプでは圧倒的な再現が得られたクレッシェンドしてフォルティッシモに至るたくましさと激しさ、その中での音色の分解能は大したものだ。全体にいわゆるCDらしい音を聴かせるのが興味深くもあった。曖昧さを拒絶した透徹な音が、CDの特質と合っているのだろう。JBL4344とSA4によりよいマッチングである。

デンオン PRA-2000Z

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 全体にやや痩身な感じの音だが、それだけに、繊細で、さわやかな美しさがある。中低域に厚味が不足するような印象を受けるアンプ。それだけに、パワーアンプやスピーカーとのマッチングが決め手となるだろう。試聴したパワーアンプもSA4のほうがよく合う。スピーカーは、JBLがいい。曖昧さや、鈍さのないアンプだが、かといって、神経質すぎることもないし、高域のしなやかさも不満のないものだ。品位の高いプリアンプである。
[AD試聴]レーグナーのマーラーは大変美しい高域が生きて一段と洗練された演奏に聴こえる。B&Wだとやや神経質になる傾向だが、JBLでは小骨っぽさは残るものの、細かい分解能のため、オーケストラのテクスチュアーが鮮かに再現される。ローズマリー・クルーニーのハスキーさと艶っぽさがほどよくバランスした声が魅力的だし、ベースも、抑制されてボンボン野放図にならない、締まった質感の音だ。リラックスした雰囲気には欠けるが端正な音。
[CD試聴]分解能力の高い音はADへの対応と同じ性格であるが、このアンプの質感はCDでより生かされるようだ。ジークフリートのマーチにおける木管と金管の重奏部での音色の鳴らし分けは、クリアーな点、他の追従を許さない。ただ、中域の厚味が少々不足気味のためffへの盛り上りの迫力に物足りなさはある。アメリンクの声が大変明るく美しかったが、ややニュアンスが若過ぎる傾向だ。ジャズは、明解なタッチ、音色の妙の濃やかな再現だが、力が不足。

ヤマハ C-2x

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプは、情緒的な面よりも、まず、その物理特性の優れた、ワイドレンジと粒立ちのよさが印象的だ。したがって、全ての音楽的特徴に対して平均的に堅実な再生音を聴かせてくれるのがよい。しかし、裏返しに、深い思い入れや、個性の魅力といった面では物足りなさを感じるかもしれない。オーディオは物理特性の優秀さが最重点だとは解ってはいても、感性や情緒はそれだけでは満たされぬところが面白くも難しい。優等性的なアンプ。
[AD試聴]Fレンジも広く、スケールも大きいオーケストラの再生音は力感に溢れている。やや賑やかなのが高域の特徴。しかし、これは録音のせいかもしれない。東独のオーケストラにしては渋い味のある音が、派手になる傾向だ。「蝙蝠」のステージ感の拡がりや空間の豊かさにも優れた再生を聴かせるし、過不足のない音だが、もう一つ魅力に欠ける。ジャズもヴォーカルも、やや太目の印象で、力感はあるが、ベースの響きが少々重く、弾みに欠ける嫌いがある。
[CD試聴]CDの再生音はやはり全てのプログラムソースをストレートに聴かせる傾向である。CD臭さを強調するわけでもないし、かといって、丸めて無難に聴かせるわけでもない。どちらかというとJBLの方が合っていて、説得力のある再生音を楽しむことが出来る。B&Wでは、あまりに中庸的で魅力に欠けるようだ。が、B&W801Fからシンバルの硬質な響きをちゃんと聴かせた数少ないプリの一つ。ミュート・トランペットも鋭く、かつボディがある。

QUAD 44

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 やや淡白な響きだが、それだけに品のいい音で、クラシック音楽の端正な響きに好ましい再生を聴かせてくれる。試聴した二種のスピーカーでは、JBLよりB&Wに断然優れたマッチングを示す。JBL4344では、レンジの狭さや、小じんまりとした、おとなしい音が不満として現われるが、B&Wだと、それが前記のような品位ある方向に変るのである。クレルとカウンターポイントのパワーアンプとのそれよりスピーカーとの相性であろう。
[AD試聴]マーラーの交響曲は大変品位のよい響きで、流麗な雰囲気。派手さや輝かしさ、あるいは熱っぽさといった興奮度の盛り上る音ではなく、どちらかというと冷静淡白な音のプリアンプ。ぜい肉のない、それでいて厚さを失わないオーケストラの質感は素晴らしい。JBLだと、ややスケールの小さい音になる。ジャズは801の限界で、スイングとは異質な冷静なサウンドとなるが、JBLでも、もう一つワイルドさの欲しい鳴りっぷりであった。
[CD試聴]ここでも、ADで聴いたプリアンプの印象とは大筋で変化はないように感じられた。ワーグナーのブラスの響きが美しく、音色の識別が明確に出来る。その分、ffでの重厚さはやや不足だが、そのまた反面、弦の濃やかさ、さわやかさは見事だった。アメリンクの声がきりっとしまっていて高貴な雰囲気で、ピアノも実に軽やかなリズムのきれだ。ジャズは、ADと同じく、随所にキラキラと光る音色の美しさが聴ける反面、情感は若干不足ぎみ。

メリディアン MLP

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 いかにも外観にふさわしい、よく整理された音のプリアンプである。特にワイドレンジとも感じられないし、ひときわ抜きんでた物理特性の冴えによる目を見張らされるような音でもないが、楽器の質感を自然なタッチで聴かせ、音色バランス・帯域バランスが実に巧みにまとめられている。だから何を聴いても、快く、美しく、安心して音楽に溶け込むことができるのだろう。解像力もほどほどによく、鋭過ぎることも、鈍くもない。好印象だ。
[AD試聴]オーケストラの各楽器の濃やかな質感の違いや動きが緻密に再生されて快い。特に弦と木管のニュアンスが、やさしく、しなやかで魅力的である。「蝙蝠」のステージを彷彿とさせる空間感も透明で、ライブネスの再現も豊かである。セリフの子音も極度に強調されることはなく、バリトンやバスの声域も、重くなり過ぎることなく幅が出る。ジャズのベースの弾みもよく、音程も明解に識別できた。スイングするアンプ。ロージーはやや若々し過ぎるが。
[CD試聴]CDモジュールを通してのCDの書はMLP流の整理がなされて大変聴きよい耳当りのよい音となる。ワーグナーのイントロでの管の音色の分離と溶け合いが程よくコントロールされ、低弦楽器の擦過音もちょっぴりスパイシーでリアリティを演出する。トゥッティにおける安定したバランスも音楽的に美しい。ヴォーカルも中庸をいく自然さで、毅然さと艶っぽさをどちらもよく出す。ジャズもよくスイングするし、個々の楽器の実感も生き生きと聴かせる。

オンキョー Integra P-306RS

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプは、オンキョー独特のサウンドで好き嫌いがはっきり分れる音だ。つまり、プリアンプとしてはかなり個性的だが、この価格で、これだけ明確な個性の主張をもっているというのは、見方をかえれば立派だ。ベイシックな物理特性は水準以上のものだからである。立体感に富んだ音で、決してドライな響きにはならないし、粗っぼい質感も出さない。むしろ、ぽってりと太り気味の音である。それだけに暖かいし、ウェットである。
[CD試聴]CDに対してADと異なった対応が感じられる面は特になく、やはり弾力性のある太目の音だ。しかし、比較的CDが出しやすい機械的な冷たさは中和して聴かせる効果がある。ジークフリートの葬送行進曲の開始の雰囲気は壮重であり、音は分厚い。ただ、細かい弦のトレモロなどがやや不透明で、大把みな感じがする。ベイシー・バンドはピアノの冴えた輝きのある音色が丸くなり過ぎる傾向だし、ミュート・トランペットの音色の輝きもやや鈍いほう。
[AD試聴]マーラーのシンフォニーは粘りのある表現で低音の量感が豊かだし、高域のヴァイオリン群も、ギスギスしたり、ざらつくことがない。レーグナーの流麗な演奏とはやや異質だが、ユダヤ系のマーラーの音楽のもつ、一種の粘着性は効果的に表現される面があった。透明感とかデリカシーといった面には不満が残る。ロージーの声は年なみの円熟した色気があって、脂ののった濃艶な歌唱が魅力的で、こうした曲想に最適のアンプである。

試聴テストを終えて

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 コントロールアンプ26機種を聴いた。我々は、音の試聴だけで、使い勝手や、作り、デザインなどは評価から全く除外したことになっている。とはいうものの、眼の前に置かれたアンプを見ながら聴いたわけだから、それらが持つ、音以外のイメージが、全く、なんらの影響をもたらしていないとはいいかねる。しかも、ほとんどの製品は、今までに、いろいろな機会に接したことのあるもので、すでに自分の内に総合的なイメージが出来上っているものが多いので、ブラインドテストのような性格ではない。しかし、それがかえって、個々のアンプの音を浮彫りにするにあたってプラスになっていると思うのだ。仮に、ブラインドで、試聴室で聴いた感じだけで判断をすると、限られた条件だけでの結果になるわけで、かえって危険があるだろう。いまさらいうまでもなく、コントロールアンプ単体は、ありとあらゆる条件での組合せで使われるものであり、特定のパワーアンプやスピーカーとの組合せで、そのアンプの音の傾向を断じ切ることは出来ない。この試聴でも、二つのパワーアンプとスピーカーを用意したわけだが、それは、現実の組合せの中でのごく限られた条件にすぎないのである。対照的な二台のパワーアンプとスピーカーを用意することによって、最低限の条件設定としたのである。少々、口はばったいいい方になるが、こうした条件の制約があっても、長い経験と、過去に同製品を聴いた印象の総合での今回の判断は、個々の製品の性格や傾向をかなりの確度をもって把握できたと思っている。極端なことをいえば、今回の試聴で、それまでもっていた印象と全くちがったアンプがあったわけではないので、改めて聴かなくても印象記は書けたといってもよい。私が聴いたことのないアンプについては、よく知っているアンプと同時に聴けたことで、いっそう明確に、その素性を知り得たと思うのである。ただし、表現上、この試聴の実際に即した書き方をしているので、マクロ的な印象記にはなっていない。これが、話者に、あまりにも特定の条件下だけの印象記として受け取られる危険があるようにも感じられ、心配されるのである。読者諸兄の御賢察をお願いする次第である。
 オーディオコンポーネントの中で、スピーカーなどの変換器のように、個体差があるものではないが、コントロールアンプも、こうして26機種も連続的に比較試聴すると、個々の音の違いには驚かされる。何故? こんなに違うのだろうと不思議に思うほどである。そして、単体のコントロールアンプとなると、いずれもが、ただ機能をはたすということ以上の、個性的魅力を価値観の中に入れてこなければならない。同時に、たとえ、音の美しさや魅力が感じられたとしても、特性・機能などのハードウエアーとして問題のあるものは、当然チェックしなければならないとも思う。高価な単体コントロールアンプにもかかわらず、数万円のプリメインアンプのプリ部にも劣るSN比の悪いものなどは、いかに音がよくても問題である。この辺は個人によって考え方が違うと思うが、ノイズレベルが、CDの登場によって大幅に低減した現在、単体コントロールアンプとしてのSN比の条件は、かつてより厳しくあるべきだと思うのである。安定性や信頼性も大事な問題だが、今回は私の判断の条件の中には入れていない。試聴時に正常に動作している以上、音だけの担当という立場で、それらは無視することにした。ノイズは耳に聴こえる音のうちであるから無視するわけにはいかなかった。
 こうして特選と推選を選んだ。
●特選
①ウェスギU・BROS1
②アキュフェーズC280
③マッキントッシュC30
④マーク・レヴィンソンML7L
●推選
①メリディアンMLP
②デンオンPRA2000Z
③マランツSc11
④アキエフエーズC200L
⑤カウンターポイントSA3
⑥サンスイC2301
⑦H&Sエクザクト十エクセレント
 私の個人的嗜好は、強く出していないつもりである。いずれも、現時点での高い水準にあるものばかりであり、いわば、コントロールアンプの頂点に位置するものがほとんどである。しかし、オーディオは、頂点はワンポイントではなく、その頂上には、いろいろな花が咲く。どの花を求めるかがオーディオの楽しみでもあり、意味でもある。裾野に咲く草花も結構だが、単体コントロールアンプを求める人は、いずれも、そこからスタートして、頂上を目指す人達であるはずだ。

コンラッド・ジョンソン Premier Three

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 いろいろな点で中庸をいくアンプ。この場合の中庸とは決して中途半端な意味ではなく、文字通りの中葉である。バランス・質感共に、びしっと、一つのクリティカルポイントを得ているのである。したがって、プログラムソース個々のもつ特質が、明瞭に再生され、それぞれの魅力をよく伝える。あえて不満な点を指摘すれば、高弦の質感が、スピーカーによってはやや鋭くなる傾向と、低域の力強さが、今一歩といったところである。
[AD試聴]マーラーの第6交響曲はバランスが素晴らしく、質感も誇張がない自然なものだった。弦の細部のディテールの表情がよく再生されるので、シュトラウスの「蝙蝠」のオーケストラのしなやかな魅力がよく生かされる。人の声も、ぬれていて、いかにもそこにいるかのようなリアルさだ。ロージーの声も、ハスキーさと艶っぽさがほどよく調和した彼女の魅力をよく聴かせたが、ペースの力感がやや弱く、生き生きとしたリズムにならないのが惜しい。
[CD試聴〕チューナー入力でCDを聴いたが、それほど、鮮度の高い音とは感じられなかった。ショルティのワーグナーなどはむしろおとなしく聴きよい音の傾向で、風格のある音に昇華していた。アメリンクの声が少々賑々しく気品に欠けるのが惜しい。ロンドンのCDとフィリップスのそれとで、反応が異なって出たようだ。ベイシーのピアノのアクション感はよく再現されリアルであったが、音色のほうは、艶がないので、戸惑ってしまった。

マッキントッシュ C30

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 マッキントッシュから新しいコントロールアンプ、C30が発売された。マッキントッシュのコントロールアンプは、現在まで、C29とC33が多くのファンに愛用されているが、このC30の登場により、C29が消えることになる。この点からすれば、C30は、C29の系統をひく製品ということになるが、内容的には、むしろ、C32、C33の系統といえるものだ。ブロックダイアグラムは、ほとんどC33と変りはない。5分割のイコライザーは、30Hz、160Hz、500Hz、1・5kHz、10kHzとC33と同じものが採用されているが、これは、きわめて利用度の高いもので、よほど凹凸の激しい部屋でもない限り、音場補正としても有効である。パネルレイアウトは、この5つのイコライザーコントロールとヘッドフォンボリュウムの6つのツマミを中心にシンメトリックにまとめられ、マッキントッシュ伝統のシンメトリックレイアウトが生きている。もちろん、グラスイルミネーションの、あの美しい、グリーン、レッド、ゴールドのパネルデザインは、ユニ−クにして合理的、そして、夢のあるものだ。リアパネルは8系統のラインレベル入力をもち、フォノは1系統になった。さらに、エクスターナル・プロセッサーという、外部アクセサリーの入出力回路が2系統あって、きわめて豊富なファンクションを備え、出力端子も、ラインとテープををみても、マッキントッシュが、コントロールセンターとしてのユーティリティの高さを重視しているコンセプトがわかるのである。そもそも、マッキントツシュの製品の特徴は、高度な性能とクォリティサウンドを、使い易さの多機能性と結合させ、いささかも最高級品としての品位を犠牲にしないところにある。つまり、トータルパフォーマンスの高度な達成という点での完成度の高さが同社の主張であって、決して一部のマニアの要求に応えるために普遍性を失うようなことはしない。その意味では、俗にいわれるエソテリックオーディオの範疇に入るものではなく、多くの人達に使えて、しかも、並のマニアックな製品をはるかに超える優れたパフォーマンスを得ている真の大人の製品であるといえるだろう。これは、真のプロだけが作り得るものである。長いキャリアをもったメーカーでなければ作り得ないものともいえるだろう。この辺りが、巷間によくある、信頼性と、トータルコンセプトに乏しい、個人に毛の生えたようなガレージメーカ−の製品とは根本的に異なる点である。
 高性能な車といえばスポーツカーということになるが、多くのスポーツカーは信頼性に欠けるし、日常の使用に供し難いものがある。ぽくの知る限り、唯一、この点で高い完成度をもっているのは西独のポルシェである。もう、16年もポルシェに乗っているが、その信頼性は抜群で、まるで、フォルクスワーゲンと同じようなメインテナンスで、いつでも安定した調子がくずれない。イタリアンやブリティッシュのスポーツカーとは、この点が大違いである。年中、調整を必要としたり、あちこちがこわれたり、ガレージがオイルで汚れる……などといった心配は全くなく、それでいて、走りは、それらを上廻るのがポルシェの良さである。デイリーショッピングから、サーキットランまで一台で使えるのがポルシェなのだ。マッキントッシュも、それに似ている。ポルシェやマッキントッシュは、そうした理解のもとに買われるべきものなのだ。
 C30は、まだ手許で、一週間ほどしか使っていないが、その音は、まさに、マッキントッシュの重厚さと、滑らかさであって、C29の音より熟成した雰囲気をもっている。この点でも、C33の系統と考えて間違いない。C33から、モニターアンプや、エキスパンダー・コンパンダーを取り除き、ややコストダウンをはかったというのが、この製品であろう。入力切換などのファンクションスイッチは、信頼性を重視し、全て電子スイッチになり、機械的接点をもたない。このスムースなファンクションは、新しいだけに、C33をも上廻っている。外部機器との干渉には周到な注意が払われ、他からの影響は全くないといってよく、どう使っても、ハムなどの影響は受けない。些細なことと思われるかもしれないが、ノイズに悩まされる超高級機は意外に多いのである。マッキントッシュの製品には修理の出来ない不具合がないのである。ポルシェが手を油だらけにしないで乗れる唯一の高性能スポーツカーであるのと似ている。

京セラ C-910

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 バランスとしてはまとまっているが、音色的には楽器によって、ニュートラルさをか欠いた音色で不自然さが気になる。特にハイエンドに特徴があって、ハーモニックス成分の再生に不満が残る。低音域の量感はあるのだが、少々重く鈍い。パフォーマンスは水準だが、単体プリアンプとしての音の品位や洗練度では、もう一息の感じがする。物理特性にも、一段の向上を望みたいし、バランス作りにはさらに磨き上げがほしい。
[AD試聴]Fレンジの広い、そして、そのバランスが重要なオーケストラの再生で、高域に異質な質感が聴かれることがある。そのため、ヴァイオリン群の響きにしなやかさが乏しく、やや華やかになり過ぎる。ステレオの空間感の再現は若干狭く、ステージの奥行きの見通しが悪い。ジャズでは、ベースがこもり気味で、弾みが十分ではないので、スイングしにくい。重く、量感だけで迫ってくる感じが強い。ピアノの音色も冴えたところがなく鈍いほうだ。
[CD試聴]ADでの印象と大きく変るところはないようだ。ジークフリートのマーチのイントロのティンパニーの音色の抜けが少々悪い。中域の厚味がやや不足する感じで、強奏での音のマッシヴな響きが、やや薄くもなる。力感のある音なのだが、繊細な音色の再現が苦手なためか、音楽の愉悦惑が薄れる。ベイシーのピアノの粒立ちが平板になるし、ベースの音もやや重く弾力感が不足するのが惜しい。明るい音だから一つ繊細さが加われば……と悔まれる。

コントロールアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 コントロールアンプという独立型のアンプはプリメインアンプにない美的味わいを感じられるものでなくては意味がない。ただ優秀なだけでは物足りない。またいかにデジタルソースが注目されているとはいえ、アナログレコードのイコライザーが並以上のクォリティでなければ評価は出来ない。同時に、デジタル対応としてライン入力の充実も必要であるのはもちろんである。それに加えて、仕上げ、操作性、デザイン感覚などを含むプラス・アルファの魅力が感じられなければ、このジャンルのアンプとして高く評価するわけにはゆかないとも思う。
 20万円未満からは残念ながら、惚れ込めるものがなかった。
 20万〜30万円には3機種。デンオンPRA2000Zはデザインにやや淋しさがあるが、すっきりした低歪感に、適度なふくよかさと滑らかさが加わり好ましい。ビクターP−L10は暖色のトーン、どっしりとした重厚なバランスで安定感のある音が魅力だし、仕上げも入念で軽薄さがない。エスプリTA−E901はソリッドで艶のある音色が、外装のメカニカルなイメージとマッチして、いかにも現代感覚に溢れる魅力がある。
 30万〜50万円の領域からはアキュフェーズC200Lを推した。デビュー以来10年のパネル、シャーシをフェイスリフトにとどめ、内容の充実に磨きをかけ、独特の艶麗な音質に風格が加わった。形は古さが否めないが、その分、嫌味がない。
 50万〜100万円では6機種が浮上したことからして、ここがコントロールアンプの中心帯と見ることが出来る。エクスクルーシヴC5はなんとも鈍重な外観が惜しいが、その透徹な音は評価出来る。サンスイC2301は新しい製品としての技術の新鮮さと伝統的なアンプ技術のバランスが魅力で、力感と透明な空間感の再現が見事。アキュフェーズC280は明晰で豊潤な高品位な音と入念の仕上げが内外に見られる力作である。カウンターポイントSA5はSN比も実用レベルに改善され音像が立体的でまろやか、しかも、解像力に優れ、募囲気満点である。マッキントッシュC29、C33は見てよし、聴いてよし、完成度の高い製品で、高級品で実用性の高いコンセプトは抜群のレベルにある。C29は堅実、C33はそれに情緒性が加わった心憎い音のまとめ。

コントロールアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 単純に考えれば、フォノイコライザーとフラット兼トーンコントロールアンプという代表的な構成で示されるコントロールアンプは、基本的に電圧増幅段のみであり、優れた製品が出来やすいようだが、アンプの分野では至難なジャンルといわれるだけに好製品は少ない。とくに、高級機では、単に高価格機となりやすく、国内製品では、各種の部品が予想外に入手難で専用部品の開発まで手がけるだけの英断がないと優れた製品の開発は困難のようだ。その点、海外製品は、それぞれ、個性的な回路設計と独自のサウンドバランスで、魅力的に音楽を聴かせてくれる特徴がある。
 20万未満では、これに相当する非常に充実したプリメインアンプと比較して製品数も少なく、内容もやや希薄な印象がある。需要が少ないことが最大のネックだろう。なかでも、素直で、適度に反応の早い音をもつ、デンオンPRA1000は、各種のパワーアンプに寄り添い型で対応し、なかなかの佳作だ。また、テクニクスSU−A6MK2のフレッシュさ、素直さもよい。
 20万〜30万円では、いわゆる、コントロールアンプらしい製品の存在しはじめる価格帯だ。なかでも、リフレッシュされたデンオンPRA2000Zは、華やかさは少ないが、純度が高く、ナチュラルな音は使い込むと次第に魅力の出るタイプの昧わいだ。また、ヤマハの回路設計技術の集大成と伝統的な機構設計が一体化したC2xは、新世代のヤマハサウンドの魅力があり、熟成し安定した音のビクターP−L10、独自の振動解析による機構設計がユニークな京セラC910のハイレベル入力からの緻密さのある音は、新しい魅力の芽生え。
 30万〜50万円では、本来信頼に足るべき性能、音質、デザインをもつコントロールアンプが存在すべき価格帯であるべきだが、予想外に製品数は少ない。創業以来のモデルナンバーを受継いだ、アキュフェーズC200Lの信頼感のある雰囲気、マランツSc11の温古知新的魅力も好ましいが、エクスクルーシヴC3aの風格は、このクラスとして別格の存在だろう。
 50万〜100万円では、エクスクルーシヴC5の内容は国内製品で飛び抜けた存在で、後続製品にとっての巨大な壁である。ダークホースは穏やかだが内容の濃いハーマンカードンXXP、大人っぽい魅力が特徴。

ビクター P-L10, M-L10

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 ビクターのラボラトリーシリーズのコントロールアンプP−L10とパワーアンプM−L10は、いま、聴いておきたい音、というよりは、いま、安心して聴ける音、といった性格のセパレート型アンプである。
 従来からもビクターには、オーディオフェアなどで見受けられた一品生産的な特殊なモデルを開発する特徴があったが、その技術をベースに、薄型コントロールアンプの動向に合せた7070系のコントロールアンプと、いわゆるパルス電源を初めて採用したモノ構成の7070パワーアンプをトップランクの製品として持ってはいたが、ビクターのセパレート型アンプとして最初に注目を集め、多くのユーザーの熱い期待を受けたモデルは、パワーアンプのM7050であろう。
 これらの従来から築きあげた基盤の上に、アンプの基本思想として、忠実伝送と実使用状態における理想動作を二大テーマとして、ラボラトリーシリーズのセパレート型アンプとして1981年秋に開発されたモデルが、P−L10とM−L10である。
 コントロールアンプP−L10は、かつてのソリッドステート初期に、グラフィックイコライザー(SEA)を搭載した超高級コントロールアンプとして注目を集めたPST1000以来、久しぶりに本格派のコントロールアンプとして総力を結集して開発された意欲的なモデルである。
 最新の技術的産物としてのアンプではなく、音楽性追求のための技術という考え方を基本にして開発されただけに、例えば、音量を調節するボリュウムコントロールには、一般的に抵抗減衰型のタイプが使われるが、これでは可変抵抗器が信号ラインに入り接点をもつために、位置による音質のちがいが生じやすい点が問題にされ、アンプの利得を可変にすることにより音量を変える新開発Gmプロセッサー応用のボリュウムコントロールが採用されている。
 このタイプは、ボリュウムを絞っていけば、比例してノイズも減少するため、実用状態でのSN比が大幅に改善され、結果として、音場感情報が豊かになり、クリアーな音像定位や見通しのよい広い音場感が従来型に比較して得られる利点がある。このバリエーションとして、昨年来のプリメインアンプA−X900やA−X1000にスイッチ切替型として採用されているが、この切替えによるSNの向上が、いかに大きく音場感再生と直接関係しているかは、誰にでも一聴して判かる明瞭な差である。
 また、フォノイコライザーでのGmプロセッサーの応用にも注目したい。入力電圧を電流に変換増幅後、その電流をRIAA素子に流す単純なイコライザー方式は、CR型の伝送・動特性とNF型の高域ダイナミックレンジを併せ持つ特徴があり、電圧を電流に変換する変換率を変えればトータル利得を変化できるため、MMとMCポジションで性能、音質が変わらず、トータルな周波数特性はRIAA素子のみで決定されるため、RIAA偏差は自動的に100kHzまでフラットになることになる。
 フォノ3系は低出力MC用ハイゲインイコライザーで、入力感度は70μVと低いが、SN比は非常に優れているのが特徴である。外装は、ビクター独自のお家芸ともいえる高度な木工技術を活かした、21工程に及ぶ鏡面平滑塗装仕上げ、これは見事だ。
 ステレオパワーアンプM−L10は、ビクター独自のスイッチング歪をゼロとした高効率A級動作方式〝スーパーA〟の技術をベースに、スピーカー実装時のアンプの理想動作を追求した結果、全段カスコード・スーパーA回路を新採用している。この回路も、実際の試聴により、スピーカー実装時のアンプ特性劣化や、音楽再生時のTIM歪や発熱による素子のパラメーターの変化に注目した結果、優れた回路方式として採用されている点に注目したい。
 この方式は、パワー段までカスコード・ブートストラップ回路を開発し、採用しているため、出力段のパワートランジスターは数ボルトの低電圧で動作し、電流のみ変化する特徴があり、電圧と電流の位相がズレるスピーカー実装負荷でも、ダミー抵抗負荷と同じ動作、性能が確保され、アンプは負荷の影響を受けない利点がある。また、低電圧動作のパワー段は、発熱量が低く、従来型に比較してスピーカー実装時の瞬間発熱量は1/10以下となり、サーマルディストーションの改善とアイドリング電流の安定化にもメリットがある。
 構成部品は、エッチングなしのプレーン箔電解コンデンサー、高速ダイオード、高安定金属皮膜抵抗、低雑音ツェナーダイオードなど定石的な手法が各所に認められる。
 外装は、平均的に16工程程度とされるピアノ塗装を上廻る21工程の鏡面仕上げローズ調リアルウッドのキャビネット採用。
 定格出力時、160W+160W(20Hz〜20kHz・8Ωで、THD0・002%)周波数特性DC〜300kHz−3dBの仕様は、セパレート型アンプとしてトップランクの特性である。
 P−L10とM−L10のペアは、充分に磨き込まれた、安定感のある、タップリとしたナチュラルな音が特徴である。各種のキャラクターが異なるスピーカーシステムに対しても、ナチュラルな対応性を示し、それぞれの特徴を活かすセッティングも、個性を抑えたセッティングも、かなりの自由度をもってコントロールできるようだ。
 好ましいアンプというものは、個性的なキャラクターの強い音をもつものではなく、結果として、電気信号を音響エネルギーとして変換するスピーカーシステムに対して、充分なフレキシビリティをもって対応可能なことと、聴感上でのSN比が優れ、音場感的情報量をタップリと再生できるものであるように思う。
 この意味では、このセパレート型アンプのペアは、発売以来3年を迎える円熟期に入ったモデルであるが、各種のスピーカーシステムに対する適応性の幅広さと、ビクターの伝統ともいうべき、音場空間の拡大ともいうべき、音場感情報の豊かな特徴により、現時点でも、安心して聴ける音をもつ、セパレートアンプとして信頼の置ける存在である。