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エレクトロリサーチ Model320(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 JBL以後の第三世代というべき超広帯域再生と低歪を追求するスピーカーの志向の中で、米国製としてひとつの代表が、このエレクトロリサーチのスピーカーシステムだ。
 ハイエンドからローエンドまで、完璧なフラットレスポンスをきわめ、しかもハイパワーに耐える点で英国に代表されるヨーロッパ製とは一線を画すいかにも米国製らしい魅力だ。
 このスピーカーはエレクトロリサーチの中級機種に相当するが、使用アンプは、でき得る限りハイパワーが好ましく、しかも高い品質はむろんだが今や国産の中にそうした意味でも可能性あふれる製品が目白押しだ。その中の注目株ナンバーワンは、パイオニアの新型の77シリーズのセパレートアンプであろう。価格面から若いファンにも手ののばせるレベルで、しかも内なるクォリティは倍の価格にも匹敵しよう。パワー250W/chは、この低能率ながらパワフルなスピーカーのための製品といえるほどだ。組合せるべきカートリッジにより、あらゆるジャンルの音楽を内包させ得よう。シュアーは、この点で気楽に奨められるが、ここでは、最高級品のV15タイプIIIを挙げておこう。

スピーカーシステム:エレクトロリサーチ Model 320 ¥98,500×2
コントロールアンプ:パイオニア C-77 ¥120,000
パワーアンプ:パイオニア M-77 ¥180,000
プレーヤーシステム:ソニー PS-8750 ¥168,000
カートリッジ:シュアー V15 TypeIII ¥34,500
計¥699,500

ソナーブ OA-12(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 このスピーカーの良さはちょっと一言では表わせない。いうならば、広範囲に拡散された音の壁面に反射する間接音が、室内の広さ以上に、音響空間を拡大してくれ、生の音楽の現場としてのホールのプレゼンスが見事。米国製スピーカー〝ボーズ〟のようなエネルギー的なものよりも雰囲気としての再生ぶりが思いもよらぬすばらしい効果をもたらす。
 このソナーブのシステムではこうしたいわゆるオーソドックスな再生サウンドとは異質な、例のない雰囲気の再生ぶりに気をとられて、つい再生の本質的クォリティを見失いがちになってしまうものだ。
 そこでまず、なによりも純粋な形でのクォリティを狙うべきである。そうしたとき、ヤマハのCI、BIは価格的に誰にも奨められるわけではないにしても、心強い存在だ。
 ソナーブの透明な美しい響きは、このCI、BIの鮮明度の高い豊かな色彩で、より高い音楽性をひきだし得よう。楽器のパワフルなソロをのぞむというのでなければ、このシステムのもたらすサウンドの質のレベルの高さは、ちょっと他には得難いものであることは確かだろう。

スピーカーシステム:ソナーブ OA-12 ¥178,000
コントロールアンプ:ヤマハ C-I ¥400,000
パワーアンプ:ヤマハ B-I ¥335,000
プレーヤーシステム:デュアル 1229 ¥79,800
カートリッジ:オルトフォン VMS20E ¥27,000
計¥1,019,800

ダイヤトーン DS-50C(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 ダイヤトーンのフロア型というだけでスタジオユースのモニターシステムのイメージが濃いが、その外形といいサウンドといい、期待を越えてマニアにとって新たなる魅力を秘めた新型といえるスピーカーだ。
 30cmのウーファーながらゆとりとスケール感はもっと大型のシステムに一歩もひけをとるところがない。しかも中音域の充実感、バランスの良い再生帯域のエネルギースペクトラム。広帯域という意識は感じさせないにしろ、モニターたり得るだけのハイエンドの延びは今日の再生と音楽の条件を十分に満足させよう。能率の高さからパワーアンプの出力はあまり大きい必要はないにしろ音離れのよい響きに迫力をも求めれば高出力ほどよいのは当然。マランツMODEL1150はその規格出力以上のパワー感をもち、こうしたときに最も適応できよう。価格を考えても国産メーカーの中でこの質に達した製品は決して多くないはずだ。中域の充実感はダイヤトーンスピーカーの持つ最大の美点だが、マランツのアンプはこれに一層みがきをかけるであろう。
 EMTのカートリッジがその質をさらに高めてくれる。

スピーカーシステム:ダイヤトーン DS-50C ¥88,000×2
プリメインアンプ:マランツ Model 1150 ¥125,000
チューナー:マランツ Model 125 ¥84,900
ターンテーブル:マイクロ DDX-1000 ¥138,000
トーンアーム:マイクロ MA-505 ¥35,000
カートリッジ:EMT XSD15 ¥65,000
計¥623,900

フィッシャー ST-550(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 かつては全米ナンバーワンの規模を誇るアンプメーカーとして、フィッシャーは米国内ハイファイ業界の良識派を代表するものであった。創始者が交替した今日、フィッシャーはアンプメーカーとしてよりもブックシェルフ型スピーカーのメーカーとしての姿勢を強めているが、そのサウンド志向はアンプメーカーだった場合と何ら変ることなく、代表的イースト・コースト派としてヨーロッパ指向の強いサウンドを身上とする。
 ST550は、その最高級ブックシェルフ型としてはもっとも大型で38cmウーファーを収め、全指向性を狙って左右に配した中音、高音のドーム型ユニットが特徴だ。耳あたりの良いソフトな音色バランス、ボリュウムを上げていくと底なしの重低音に、ブックシェルフ型で或ることを忘れさせてしまうほど強力かつ雄大で、品の良い中域以上の弦の美しさも特筆できよう。
 つまりクラシック音楽、それもオーケストラなどにもっとも力を発揮しそうだ。ここではフィッシャーのサウンドのセンスあふれる高いクォリティを活かそうと、豊じょうな良さを秘めるケンソニックのM60を組合せイーストコースト志向を意識した。

スピーカーシステム:フィッシャー ST-550 ¥249,000×2
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-200 ¥165,000
パワーアンプ:アキュフェーズ M-60 ¥280,000×2
チューナー:アキュフェーズ T-101 ¥110,000
プレーヤーシステム:デュアル 701 ¥118,000
カートリッジ:オルトフォン M15E Super ¥31,000
計¥1,482,000

クライスラー Lab-1000(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 糸づりダンパーというグッドマン・アキシオム80と同じ技術を採用した30cmウーファー、同じくフリーエッジの中音用の強力なドライバー、さらに平板ダイアフラムという独特なる技術を具えたユニットを組合せて3ウェイ構成のブックシェルフ型に相当すべき大型フロア型システム。マルチセルラーホーンを中音、高音に用い、その高音ユニットを内側に向けるという奇抜なアイデアながら、かつモニターユースにもなり得るクォリティを確保した高水準の安定度をサウンドに感じさせるのはロングセラーのキャリアからか。
 いかにも音ばなれのよい響きの豊かさが、このラボシリーズの大いなる特徴といえるが、それをなるべくシンプルな純度の高い形で発揮させることがカギであろう。
 国産の高級アンプの中で、ひときわその純粋さを形、内容ともに感じさせるのがテクニクスの最新セパレートアンプだ。この音と価格は、ちょっと比類ない魅力としてマニアの多くが関心をもつに違いあるまい。クライスラーの高い可能性を発揮するのに、もっとも適切なベストのひとつであると思う。ダイナベクターのMC型高出力カートリッジも見落せぬ魅力だ。

スピーカーシステム:クライスラー Lab-1000 ¥139,000×2
コントロールアンプ:テクニクス SU-9070 ¥70,000
パワーアンプ:テクニクス SE-9060 ¥85,000
プレーヤーシステム:テクニクス SL-1500 ¥49,800
カートリッジ:ダイナベクター OMC-3815A ¥18,000
計¥500,800

KEF Model 104(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 最近の英国を代表するスピーカーメーカーとしてKEFは、わが国でも人気上昇中だが、この104はこれまでのシリーズを一段と質的に練り上げたシステムとして有名だ。
 英国のスピーカーは、ともすれば耐入力の点で心配が残るのだが、このシステムは比較的大きなサウンドエネルギーをとり出すことができそうだ。しかし、やはり米国製ブックシェルフ型のARやKLHなどとは数段に違うので十分な注意が必要だ。
 極端なハイファイ志向の音というよりは、音楽を楽しめる音という表現ができるような耳当りのよい音だ。小音量でクラシックの小編成曲を聴くときの魅力は注目でき、バロック音楽などを十分楽しむことができよう。やはり英国の音というにふさわしい印象をもったシステムといえる。
 ここでは非常に質の高い再生音を目標とし、きめの細かさと高出力を兼ねそなえたラックスL309Vを使うことにした。ここでも高出力の威力を十分発揮してくれる。カートリッジは、スピーカーと同じく英国のデッカMKVとして、中高音の粒立ちを一層きめ細かく再生してくれよう。シームは当然インターナショナルだ。

スピーカーシステム:KEF Model 104 ¥79,000×2
プリメインアンプ:ラックス L-309V ¥148,000
ターンテーブル:ラックス PD121 ¥135,000
トーンアーム:デッカ International Arm ¥25,000
カートリッジ:デッカ Mark V ¥25,000
計¥491,000

ウエストレイク・オーディオ TM2(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 JBLのユニットを用いていながらJBLブランドでないところに、このウェストレークの特長があるのだが、その中心となるのは中高音用のユニットとして用いているホーンがトム・ヒドレーのオリジナルホーンである点だ。設計者の名をそのまま冠したこのホーンは、JBL2397をそのままの形でふたまわりほど拡大したような、大型の木製ホーンで、ドライバーユニット2440と組合せ、クロスオーバー800Hz以上を受けもっている。
 JBLのプロフェッショナル用大型スタジオモニター4350と外形がよく似た大型のバスレフレックス箱に収めた2本のJBL38cmウーファーは、初期において2215を採用していたがごく最近は変更したとも伝えられる。JBL4350が、2ウーファーの4ウェイであるのに対して、ウェストレークは、2ウーファー3ウェイ。それは中音の強力なオリジナルホーンで達成されたともいえる。
 高音用として2420ユニットをホーンなしで、そのまま高域ユニットとしているが、磁気回路を貫通する8cmの長さの小さな開口のショートホーントゥイーターといえる。
 このようにJBLのユニットそのものを、ひとひねりして用いているが、4350と価格面ではほぼ同じにあるので、この両者の比較は大変興味をひかれることだろう。もっとも4350も、ごく最近、その特長となるべき中低音用ユニットを変更すると伝えられていて、本当の勝負はこのあとになろう。
 ウェストレークを活かすには独特の中音域ユニットをいかにしてより効果的に鳴らすかという点にかかりそうだ。プロフェッショナルユースとしてのこのシステムを、あらゆるかたちで追い求めるとしたら、マランツの新型パワーアンプこそ、もっとも適切だろう。ハイレベルでも、家庭用としても、音楽の美しさを凝縮してくれよう。プリアンプとして3600は確かにひとつのベストセレクトには違いないが、プロのみのもつ最高レベルのSNを、ここではぜひ欲しい。家庭用としてのポイント、ダイナミックレンジの飛躍的拡大を考えれば、SNのよいプリアンプが要求され、クワドエイトのプロ技術で作られた、小型ミクシングコントロールにフォノ再生仕様を加えたLM6200Rが、今日考えられる最高と断じてもよかろう。カートリッジは、プロ用機から生れた103Sを使うことにしよう。

スピーカーシステム:ウェストレーク TM2 ¥1,200,000×2
コントロールアンプ:クワドエイト LM6200RI ¥760,000
パワーアンプ:マランツ Model 510M ¥525,000
ターンテーブル:デンオン DP-5000F ¥78,000
トーンアーム:デンオン DA-305 ¥19,000
カートリッジ:デンオン DL-103S ¥27,000
計¥3,809,000

アルテック X7 Belair(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 アルテックブランドには数少ないブックシェルフ型のシステム。特に日本市場を意識しての企画だけに、その音色を練りあげて、極めてスムーズなバランスの良さが明快なアルテックサウンドの上に構築されている。
 25cmのウーファーは市販品種ではないが、ドーム型のトゥイーターは、最新の市販ユニットだ。やや大型のブックシェルフ型の背面には、アルテックのマークも鮮かな、本格的な独立製品そのままのネットワークが埋め込まれているのが、このシステム全体の価値を大きくしているのは見逃せない。
 いかにもアルテックらしいスケールの大きな堂々たる低音のゆとりは、極端なローエンドの拡大を狙ったものではないが、量感のすばらしさは、この価格とは信じられぬほどだ。暖かい感触の中音、鮮明でスムーズな高音。音楽のジャンルを選ばぬ高い水準の音質は、組合せるべきアンプさえ得られれば、家庭用としてひとつの理想を成すに違いない。ここではパワフルな響きに分解能の卓越した再生ぶりを期待して、マランツの最高品質のプリメインを組合せる。心地よく、やや甘さのあるアルテックの音は格段の力を加えるに違いない。

スピーカーシステム:アルテック Belair ¥78,800×2
プリメインアンプ:マランツ Model 1150 ¥125,000
チューナー:マランツ Model 125 ¥84,900
プレーヤーシステム:テクニクス SL-1350 ¥90,000
カートリッジ:ピカリング XV15/1200E ¥26,700
計¥484,200

Lo-D HS-400(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 ハイファイ・スピーカーのもっともむずかしい面はクォリティの管理にあるといえるが、日本の電気メーカーとして、常にオリジナル技術で先頭を切ってきたLo−D技術陣は、HS500を通して得たこの至難の問題点を真正面から取り組んで「信頼性」「寿命」さらに「生産性」をも一挙に解決すべく、メタル・サンドウィッチのスチロール系のコーンを開発した。
 大型のHS500がこの開発の土台となったが、HS400はこの新デバイスを量産製品に実現したという点で、世界に誇るまさに画期的製品だ。特有の音響的なピークを電気的共振型で除くという点を危ぶむ声もないわけではないが、実質的に特性上なんらの支障もないということで成果は製品を聴く限り表面化していないのも確かである。たいへん活々として再生ぶりが前作HS500との相違点で、広帯域に亘る極めて低歪再生ぶりはまさにそのものといえよう。組合せるべきアンプによって生命感溢れるサウンドは躍動しすぎになりかねないので無理な再生を狙うとき、ほどほどに押えが必要かとも思われる。日立のアンプV−FETを採用したHA500Fはこうしたときにうってつけ。

スピーカーシステム:Lo-D HS-400 ¥47,800×2
プリメインアンプ:Lo-D HA-500F ¥89,800
プレーヤーシステム:ソニー PS-3750 ¥47,800
カートリッジ:(プレーヤー付属)
計¥275,600

KEF Model 5/1AC, JBL 4341

瀬川冬樹

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’76」(1975年冬発行)
「オーディオの中の新しい音、古い音」より

 イギリスのBBC放送局で、1968年までは全面的に、そして現在でも一部のスタジオでマスターモニターとして活躍しているLS5/1AはKEFの製品で、BBCの研究員と協力してその開発に携ったのがKEF社長のレイモンド・クックである(本誌昨年版参照)。このスピーカーの音の自然さは他に類をみないが、現時点では耐入力及び音の解像力に多少の不満がある。KEFでは約二年前に、同じスピーカーユニットでマルチアンプドライブ式に改造し、MODEL 5/1ACという型番で新らしいスタジオモニターを完成させた。初期の製品は内蔵パワーアンプの歪やノイズの点で不満があったが、今年9月、R・クックが再来日の折に私の家まで携えてきた改良型のアンプに入れ変わって以後の製品は、明らかにBBCモニターを凌駕する音質に改善された。JBLと同じく冷徹なほどの解像力を持ちながら、JBLがアルミニウムのような現代的な金属の磨いた肌ざわりを思わせるならKEFは銀の肌、あるいは緻密な木の肌のようで、どこかしっとりとうるおいがあるところが対照的で、しかもこの両者には全く優劣がつけ難い。
 JBLプロフェッショナル・シリーズのモニター・スピーカーの中で、♯4350(本誌昨年版に紹介)ほどのスケール感とダイナミックな凄味には欠けるにしても、同様に周波数レンジがきわめて広く平坦で、音のバランスのよさと音のつながりの滑らかさという点で、♯4341は注目すべき製品といえる。
 各帯域のレベルコントロールの調整や設置条件の僅かな違いにも鋭敏に反応するし、カートリッジやアンプに他のスピーカーでは検出できないような歪があっても♯4341は露骨にさらけ出してしまう。レコードにこれほど生々しく鮮烈な音が刻まれていたのかと驚嘆するような、おそろしいほど冷徹な解像力である。そういう能力を持ったスピーカーだから、鳴らす条件を十分に整えなくてはかえって手ひどい音を聴かされる。もうひとつ、スタジオでハイパワーで鳴らしても三ヶ月以上鳴らしこまないと鋭さがとりきれない。家庭で静かに鑑賞する場合は、一年以上の馴らし運転期間が必要だろうと思う。

試聴後記

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 前号の試聴後記で、採点の基準及び根拠について書くスペースがなかったのでその点を補足させて頂く。
採点の基準と根拠
 100点満点法によっているが、実際には最低点を0点でなく65点付近でおさえてある。私個人としては、せめて50点ぐらいまで最低線を落としたかったのだが、編集長から「そんな点をつけてごらんなさい。50点なんていう製品を買う気になれますか!」と口説かれてみると、なるほど、それじゃまるで欠陥製品という印象になりそうなので、それはやめにした。
 もうひとつ、この採点は音質ばかりでなく、価格とのバランス、デザインその他の要素を総合した点数なのだから、そうなると音質もデザインも違うスピーカーシステムに1点という僅差をつけることは、どうも理くつに合わないようにおもわれたので、100点を基準としてそこから3点ずつ減点しててゆく、という方法をとることにした。また、100点というのはいわば完全無欠ということで、そういう製品はないと思うから、現実にはマイナス3点の97点が私の最高点となっている。
 そこのところをもう少し具体的に分析すると──
 97~94点……市販品として、価格とのバランスを含め最高水準の製品。
 91~88点……最高製品に準ずる製品。
 85点…………一応水準に達している製品。合格点。
 82~79点……価格その他からみてまあまあ。
 76~73点……二~三の注文または条件つき。
 70点以下……やや難点多し。もう一息。
 ──というような意味あいになる。
 製品によっては必ずしも評価は3点きざみではなく、1点前後の補整をしてあるが、原則的に右のような基準によっているために、同点の製品が多い。しかし仮に点数は同じでも、ある製品は音質が良いがデザインに難があり、別の製品ではデザイン良く価格が安いが音質はもうひと息、というように、決して同じ水準というわけではない。これはくり返すが総合評価点なのだ。
 したがって、音質に関していえば、3万円台の91点のスピーカーよりも5万円台の85点の方が音が良い場合が多い。この点に誤解が多く、10万円台の88点よりも3万円台の91点の方が音が良いかのように取り違えないで頂きたい。
国産スピーカーについて
 36号で国産の躍進したことを書いたが、今回のテストでは必ずしもそう言い切れないことを再び感じたことは残念だ。というのは、前回のテストに入っていた製品は、各メーカーが時間をかけて十分に練り上げた自信作が多かった。ところが今回は、おそらくこの暮の商談に割り込もうということなのか、テストの期日ぎりぎりにかろうじてまとまったというような(正確にいえばまだまとまっていない)試作品あるいは量産以前の少量生産品がいくつか混じっていた。もう少し時間をかければもっと完成度の高い音質に仕上がるだろうに、と思える製品でも、スピーカーばかりは実際に量産に移って街に流れてみなくては、確かな評価ができにくい。そこで不本意ながらも、明らかな試作品については-3~-6点、または市販ホヤホヤの初期ロットの製品については-3点前後、それぞれ減点した。今回は右の理由からかなりの製品が減点対象になったため、総体に36号よりも国産品に辛いように見えると思う。
     *
  テストに使った機器およびレコードは36号と共通なのでその評価は、前号100ページ、118~119ページ、120ページを、それぞれご参照いただきたい。また関連事項として、現代のスピーカーの特徴やその流れについて書いた、前号74~96ページの文を参照願えれば幸甚である。

クリプシュ LS-BL La Scala

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 おそろしく能率が高い。しかもハイパワーによく耐える。シェフィールドのダイレクトカッティング・レコードをかけて、思い切り、それこそ飛び切りの大音量をほうり込んでみる。聴いているうちに背中に冷汗を感じるほどの音量に上げると、まるで突き刺さってくるようなハードで切れ味のいい音に、豪快な滝の水にあたったような爽快感をさえおぼえる。こういう鳴らし方は、本来、今回の試聴のようなあまり広くない部屋では邪道で、あくまでも広大なリスニングルームあるいは小ホールでこそ生かされる性能といえる。反面、小型のリスニングルームでは、中~低音のホーン特有の朗らかに響く音色が、概して音の格調を損ないがちで、置き場所や置き方の研究が必要だ。左右にあまり広げると中央の音が抜ける傾向が顕著なので、なおのこと小さい部屋ではステレオのひろがりを満喫するのが難しい。構造も音もいまや特異な存在で、そこが貴重でもあり古めかしさでもあり、目的や好みや使いこなしによって評価の大きく分かれるスピーカーだ。

採点:79点

インフィニティ Monitor II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 アメリカ西海岸の新しい世代のスピーカーだが概してスーパーハイ(超高音)の領域を強調する傾向のあることは前号(81ページ以降)に書いたとおりだが、インフィニティのウォルシュ・トゥイーターの音は、どことなく粘った感じの、クチュクチュあるいはペチャペチャとでもいう形容の似合うたいそう独特の音を鳴らす。いかにも高域のレインジが広いんだぞ! と言わんばかりで、そしてたしかにレインジは広いのだが、音色のつながりが必ずしも良いとはいえない。レベルコントロールで絞ると音の面白みに欠けるので、結局FLATの位置の方がよかった。東海岸の製品が中~低域に引きずられるのとは対照的に、何を鳴らしても総体に中高域にひっぱられて軽い音になる傾向を示す。それがどこか空威張りのようで、もう少し実体感が欲しい。ただ、シェフィールドのダイレクトカッティング・レコードでパワーを上げると、がぜん精彩を放って、こういう音がこのスピーカーの性に合っていることがわかる。上蓋を取った方が音の広がりがよく出る。

採点:82点

リーク 2075

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 イギリスのスピーカーの中でも、タンノイとリークが、現在では最も辛口の、中音域にしっかりした芯と張りを持たせた最右翼といえる。大掴みにいえば、タンノイ・ヨークほど独特ではないが、しかし音像くっきりと艶めかせて鳴らす特有の硬質な艶は、一度聴いたら忘れられない個性といえる。いわゆる音の自然さといった尺度からみれば、中~高音域にときとして喉を絞った発声のようなくせがつきまとうところが弱点といえるかもしれないが、しばらく聴き込んでゆくと、たとえばセレッション66がこれにくらべると明らかに安いスピーカーだとわかるような、ふしぎな格調が聴きとれる。低音はのびのびと、基音もむろんだが低次倍音の領域がしっかりしているせいか、ベースのソロなど一種ゴリッとした振動的な音が魅力だしピアノの低音も実体感をともなってがっしりと地についている。つまり音に軽々しいところがない。現代ふうの広帯域を目ざしながら、旧型スピーカーの良いところも併せ持たせたような作り方のように思える。

採点:88点

オマール TL6 Ambionic Monitor

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 左右に拡げたスピーカーのところから確かに音がこちらに向かって聴こえてくる、という一般的なスピーカーの鳴り方に馴れた耳でいきなりこのオマールを聴くと、音がスピーカーから直かに鳴る感じよりも部屋のあちこちから聴こえてくるような鳴り方にしばらく戸惑ってしまいイライラしてくる。けれどこの製品が、面と向って個人でレコード音楽を鑑賞するためでなく、部屋の音響特性とのバランスをとりながら一家団らんの場で音のムードを撒き散らすための作り方、いわば上等なイージーリスニング用だと解釈して、たとえば映画音楽や、ストリングスのムード音楽などを鳴らしてみると、どうやら聴きどころの焦点が合ってきた。前後に音が出るためどちらが正面という指定もないし、コントロールのツマミも多く、最適なコンディションを得るには多少の時間がかかるが、音の出る場所をことさら意識させず、リスニングポジションを限定しない鳴り方がおもしろい。特異な存在としてむしろオーディオファン以外の層に奨めたい。

採点:85点

アルテック Crescendo (605B)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 筆太の力強いタッチで朗々と鳴り響く味の濃い音質は、明らかにアルテックの個性である。中音域を最も重視してこの音域に厚みを持たせ、高域にしっかりと芯を一本通しながらなだらかに落し込んでゆく作り方は、現代の尺度からみればもはや旧式の特性には違いないが、そこに線の太い安定感が生じ、やはり名器のひとつと納得させるだけの、密度の濃い音で説得する力を持っている。能率のきわめて良い点も重要な長所だ。エンクロージュアの大きいことも手伝って、こせこせしない悠々たる鳴り方はブックシェルフや小型スピーカーには望めない。反面、弦の倍音のあの魅惑的な表情や、ヴァイオリンの独奏の鮮鋭かつ繊細な表情の出にくいという面ひとつとっても、やはりこれは古いスピーカーなのだという感想は否めない。左右にひろげて設置しても、オーケストラが中央に固まる傾向があり、ワイドレンジ型の爽やかな広がりを聴いた耳にはどうにも不満が残る。蛇足ながらエンクロージュアはオリジナルの620Aを奨めたい。

採点:85点

タンノイ New Rectangular York

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 旧ヨークより高域のレインジも広がりクセも少なくなっているにもかかわらず、たとえばスペンドールのような音のクセをできるだけ取り除いてフラットで色づけの少ない自然な音を目指したスピーカーを聴いたあとでは、しばらくのあいだ聴けないくらい、中域の張り出した(最近のイギリス製品には少ない)、ホーン特有の色のついた個性の強い音なのだが、しかしそういう尺度を当てはめて退けるにはあまりにも見事に磨かれた、格調の高い、緻密でスケールの大きい、味の濃い音質である。総体にランカスターより重量感のある、悠揚せまらざるという感じの音を聴かせ、左右に4m近くもひろげて、目の前いっぱいに並んだ小沢の「第九」を聴くうちに、いつのまにかテストを忘れて聴き惚れてしまった次第。エンクロージュアの工作やグリルクロスの品位が以前より落ちているのは残念だが、ヨーク健在なりの意を強めた。こうした性格の良い面を生かすには、少し旧い音だがオルトフォンSPUやラックス38FDIIといった組合せが好ましいと思う。

採点:94点

JBL L65 Jubal

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 旧型のL101に代るべき製品だが、低音はより明るく弾み、しかも高音は格段にレインジが拡張され、従来のJBLからみると別もののように繊細な高音を聴かせる。したがってクラシックのオーケストラものでも、一応こなせるようになった。L101と比べると、中音の品位は少し落ちるのでポピュラー系には中域の多少の粗さも明るさ、華やかさといった長所として生かせるが、クラシックの弦を主体に聴くには、アンプやカートリッジに、中~高域のややウェットな、滑らかで緻密なタイプを組み合わせる必要がある。音量をしぼっても細かな音が失われないし、ハイパワーにもきわめて強いのがJBLの良いところだが、このL65は音量を上げても音像がばかげてふくらむようなことのない点がことに好ましい。ブロック一段程度の台に乗せた方が音の抜けがよく、左右に思い切り拡げて設置して定位を確保したい。背面は壁に近づける。レベルセットは中音を-1、高音を0とした。タンノイ等と同様長期間馴らし運転しないと音の鋭さがとれないので注意。

採点:94点

ダルクィスト DQ10

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 低音から高音までの音のこまかな起伏を塗りつぶしてしまうような、良くいえば細かな欠点もくるみ込んでしまうような、そして艶消しの感じの乾いた質感。オーケストラのレコードで総体のバランスに注意して聴いても、ピアノの音でもヴォーカルでも、大掴みなところのバランスは問題なくまとまっているのだが、例えば楽器の演奏にともなう附帯雑音──たとえば弦合奏のざわめくような、楽器の周囲に漂うような雰囲気感──までも塗りつぶしてしまう感じで、たとえばアンバーとンやバルバラのレコードで、ほかのスピーカーでは聴きとれる唇の湿った感じが出てきにくいし、どこか音の鮮度が落ちたようでいわゆるインティメイトな雰囲気が出にくい。まるで歌手が向うを向いて唱っているみたいだ。細かいことをいえば全域の中で低音域の質感が少し落ちる感じだが、そういうことより、すべてを無難にまとめたような作り方が私には全く魅力の欠けた音にしか思えない。いわば高級なイージーリスニング用には悪くないかもしれない。能率は低い方だ。

採点:82点

モーダウント・ショート MS737

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 中~高音域にほどよい艶の乗った滑らかな品の良い音質だ。同じイギリス製品の中で比較すると、スペンドールBCIIのやや細身の自然さと、セレッション・ディットン66の味わいの濃さとの、ほぼ中間的存在といえそうだ。弦合奏、合唱、あるいはヴォーカルに良い面をみて、ことに女性の声(アン・バートン、バルバラ)など暖かく湿った唇を思わせ、滑らかでやさしく品が良い。音量を絞っても、キーソニックほど抑え込んだ感じでなくむしろ解き放たれたといいたいような自由で、派手やかな明るい音を響かせる。弱点といえば、これはイギリス系に共通の性格だがハイはワーに弱く、実演に近い音量に上げてゆくと骨張ってやかましくなる。あくまでも中程度以下の音量で美しさを楽しむスピーカーだ。低くとも台に乗せた方が音離れがよくなる。背面を壁にぴったりつけても低音がダブつくようなことがない。全域にわたってキメ細かくコントロールさせた秀作スピーカーといえる。

採点:91点

アリソン Allison:One

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 雑草を刈りとり間引きして上品に整理した感じのARと対照的に、雑草もまつわりつくが自然の勢いにまかせた元気のいい音といえようか。少しぐらい粗くとも大掴みなバランスの良さで開放的に音を鳴り響かせるという感じである。中~低音の土台がしっかりしていて、オーケストラやピアノの低音域が豊かに鳴るし、コンボジャズのバスドラムやベースのファンダメンタルも実感的に聴こえる。中~高音域は、ARやKLHよりは延びている印象。ただシンバルやスネアドラムで、切れ味はそんなに悪くないがトゥイーターだけが離れて鳴るという感じがわずかながらある。全域を通して、音の品位は必ずしも高級とはいいにくいが、音をむやみに抑えこんでいないところがこのスピーカーの長所といえそうだ。カートリッジはシュアー、エンパイア系がアリソンのこの性格を生かすと思う。音像定位は形状から想像するより良いが、どちらかといえば部屋の長手方向の壁面に、左右に広く(3メートル以上)離して設置するのがよいと思う。

採点:82点

アコースティックリサーチ AR-10π

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 出力計をにらみながら、ピアノや管弦楽のフォルティシモの一瞬でしばしば100ワットを越すくらいまでパワーを上げてみる。ピアノが眼前で鳴るくらいの音量にしたときでも危なげのない安定な鳴り方。ソフトな肌ざわりを失わないバランスの良さ。とても気持ちの良い音だ。ピアノの実体感、スケールの大きさ、あるいは管弦楽のことに中~低音楽器群の音のふくらみや腰の強さの描写力は素晴らしい。反面、アルゲリッチのタッチの鋭さとか、弦合奏にともなう一種ざわめくような雰囲気、またはチェンバロの繊細な響きという面になると、たとえばスペンドールでは音の余韻が空気の中に溶け込んでゆくように消えてゆくのに対して、ARはそれを鋭い刃物で断ち切るようで、音量を絞ればなおのこと音の冴えや艶を失う。あくまでも柔らかなタッチの上等な音だ。50センチの標準台にインシュレーターを開始横位置にセット。背面を壁から離し、コントロールはLOWを4π、MIDを-3dB、HIGHを0dBにセットした。

採点:88点

セレッション Ditton 66

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 イギリスの製品の中では総じて温かく穏やかな音をねらうのがセレッションの特徴だが、66は中でも豊かで厚みのある、スケールの大きい音を聴かせる。リークやタンノイの硬質な艶は持っていないし、スペンドールBCIIの自然なワイドレンジよりももう少し意識的にふくらみをつけた音だから、ちょっと聴くとシャープさに欠けた、おっとりした音に聴こえるが、管弦楽曲やオペラをわりあいに音量を上げて鳴らしたときの、少しのやかましさもなくそれでいて音の実体感豊かな、身体を包みこむような快い響きは、ほかに類似のスピーカーがちょっと思い浮かばない独特の世界だ。決して鋭敏なタイプでないが柔らかい響きの中にも適度の解像力を保ち、抑えこんだ感じが少しもないのにあばれるのでなくほどよい色づけで、これがイギリス人のいうグッドリプロダクションかと納得させられるような練り上げられたレコードの世界を展開する。ただ、国内プレスに多い乾いた音のレコードでは、この良さは聴きとりにくいかもしれない。

採点:94点

タンノイ New 12″ Lancaster

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 タンノイに限ったことではないが。、中~高域に英国系の振動板を持ったスピーカーは、数ヵ月鳴らしこまないと、どこかトゲの生えたような鋭さの取れない音を鳴らす。この製品もそうだったので、トランジスターアンプをやめて、ラックスのSQ38FDIIとオルトフォンのSPU-GT/Eを組み合わせてみたら、弦や声の金属的な響きが一応抑えられた。にもかかわらず本質的な性格として、中音域がやや薄手であると同時に高音の倍音領域の高い方に細い刺が残っていることが、特徴というよりはやや弱点として、少し音にクセをつけすぎるように思える。あるいはそれが特徴のある個性というところまで仕上っていないといった方が正しいかもしれない。以前の12インチにもこの傾向はあったが、基本的には同じ線のようだ。エンクロージュアのサイズがもうひとまわり大きくないと、たとえばピアノでも、もうひと息スケール感が出にくい。低音の一部で少々ふくらみすぎる音を置き方などでうまくおさえないと気になりそうだ。

採点:82点

フェログラフ S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 過去多くの機会に私は紹介したが、今回の試聴では、初期のものからみると音の傾向が少し変っている。以前の製品では、中域を抑えすぎるほど抑制して、低音と高音の両端をやや強調するという、イギリスの製品に多いバランスで聴かせたが、今回聴いたものは、高・低両端をむしろ抑えて中域をかなり(といってもイギリス製にしては)張り出させて、総体にやや硬い傾向の音質になっていた。中程度の音量で鳴らす限り、音域全体に緻密さが増して、以前のようにやや上澄みが強調される感じあるいは高域にこなれない鋭さのあったところが改善され、クリアーでしっとりした印象が出てきた。ところが反面、左右に思い切り広げて設置したとき、たとえばソロイストが中央におそろしいシャープさで定位する、あの薄気味悪いくらいの雰囲気が一歩後退したところが私には少し残念だ。とはいってもこの製品の鮮鋭な雰囲気描写と解像力のよさは、やはり特筆の部類に入ると思う。背面は壁から離して設置し、解像力の優れたカートリッジを組み合わせる。

採点:91点