Tag Archives: Eclipse

アヴァロン Eclipse

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 前号この頁に初登場した米国アバロン社のスピーカーシステム/アセントIIの下位モデルであるエクリプスが発表された。
 アセントIIが3ウェイであったのに対し、今度のモデルは2ウェイ構成で、チタン製ドームスコーカーが省かれている。チタンドームトゥイーター、およびノーメックスケブラーと呼ばれる繊維を織り込んだ複合素材からなる22cm口径のウーファーは、同様のユニットがそのまま採用されている。また、アセントIIではサブエンクロージャー内に別付けされていたネットワークが、本機では一般的スピーカーシステム同様、本体エンクロージュア内に収められるようになった。
 エンクロージュアのサイズからすると、わが国の感覚ではややウーファーが小さいように感じるかもしれないが、これは完全密閉のエンクロージュアで理想的な特性を得るためのものと考えたい。密閉型では、エンクロージュアの内圧が相当に高くなるわけで、ユニットの口径を大きくするには、振動板の強度を高める必要があり、振動板の重量増を招きかねない。
 したがって、密閉型では低域の再生限界を補うため、ユニットにたいしてエンクロージュアを十分に大きくし、強度を高め、かつユニット自体の磁気回路や振動板の質量、エッジの硬さ、あるいは内部の吸音材の量、そういった多面的な要素をふまえた上でバランスを取る必要がある。
 スピーカーシステムの実際の低域特性は、ユニットそのもののf0のほかにf0における制動状態=Q0に影響されるのだが、エクリプスでは42Hzで0・5のQを設定している。一般的には0・7以上はアンダーダンピング、0・7以下ではオーバーダンピングといわれているが、ケースバイケースでの検討が必要だろう。
 実際の再生音は反応が早く造形のたしかな低域が聴けた。
 ユニットは完璧な新品であり、鳴らし込みが十分にされていないため、ややニュアンスにぎこちないさが感じられた。2ウェイでもあり、クロスオーバーポイントが下がってトゥイーターにかかる負担が増え、下方に距離を置いてマウントされたウーファーの高域特性の是非にも大きく依存することになるため、上級期アセントIIの圧倒的な透明感や精鋭ながらも、スムーズな響きにはやや水を開けられてると言う印象はいなめない。価格も100万円ほど安くなっているのだから、直接的な比較は意味がないのかもしれないが……。
 それでも手の込んだ贅沢なエンクロージュアのおかげで、音場の自然な広がりや安定した定位感のよさは楽しむことができる。おそろしく立派な装丁を施された分厚いオーナーマニュアルや、今時めずらしい板による厳重かつ堅牢な梱包がなされていることにメーカーの意気込みやプライドというものを如実に感じた。