岩崎千明
ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より
やや高域不足ともいえるがバランスの良さと中声部の安定した力強さから、超ロングセラーを続ける製品でとくに音楽を選ばぬ再生ぶりも広く一般用としてふさわしいものだ。
岩崎千明
ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より
やや高域不足ともいえるがバランスの良さと中声部の安定した力強さから、超ロングセラーを続ける製品でとくに音楽を選ばぬ再生ぶりも広く一般用としてふさわしいものだ。
菅野沖彦
スイングジャーナル 2月号(1970年1月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より
オーディオ・テクニカのAT−VM3は、かって選定新製品として本誌で取上げたことがある。今回は、ベスト・バイとしての再登場であるが、このカートリッジのコスト・パーフォーマンスのよさからして当然のことといえるであろう。特に、ジャズの再生にあっては、そのパルスの連続する情報に対して振動系のトランジェントのよさが振動系支持の安定によって保証されなければならない。この点で、このカートリッジは同社のAT35X同様、ユニークなサスペンション方式を採用していて、レコード溝の走行方向への引張りには大変安定した構造である。V型に配置された二個のマグネットによる発電機構もAT35Xと同じだが、この構造のもたらすメリットが果して決定的に他の構造より勝るかどうかはいえない。しかし、現実の音から明確に感じられるのは、この系列のカートリッジのもつ、歯切れのよい、しっかりした音像の再現と、複雑な波形に対するスタビリティのよさだ。
AT−VM3は帯域バランスがおだやかで、目立ったピークやディップは音から感じられない。概して、こうしたおだやかな周波数特性をもつカートリッジは音が沈み勝ちで、弦楽器などにはよい結果が得られても、パーカッションやブラスにはめりはりが立たない物足りなさが残るものが多い。しかし、このカートリッジの場合は、おだやかなバランスでありながら、一つ一つの音に対する立上りが鋭いために、ジャズの再生でかなり満足すべき結果が得られるものである。音色を大きく左右するファクターは周波数特性であることは事実だが、もっと根本的な音質は、むしろ、トランジェントやクロストークの特性によるものであることが、多くのタイプの異ったカートリッジが教えてくれる。特に、カートリッジとか、スピーカー、そして、マイクロフォンのような変換器にあっては、その機械振動をあずかる振動子の材質のもつ固有の音色が、必らずどこかに現れる。見かけ上の特性の上でこれを殺すことは出来ても、再生音の質には多かれ少かれ、その素顔をのぞかせるように思う。現在のところ、カートリッジの振動系はかなり理想に近いものであるが、なお改良の余地がないわけではない。一つの固定した考えにこだわらず、常に異ったアングルから見直し、どんな小さなこともおろそかにしない開発精神が大切だ。
テクニカは、そうした点で、かなり自由に製品の開発をおこなっていることが、これらの商品から推察できる。6、900円という値段は決して安いとは思わないが、今のカートリッジの相場からすれば高い値段ではない。メーカーにはいろいろいい分もあるのだろうが、カートリッジの価格は高すぎる。こういう安い価格が通用するのは、カートリッジが嗜好品だからであろう。もし、これを純粋に科学技術の産物と解釈して大量生産品扱いをすれば、もっと安い価格で充分な特性のものが得られるはずだ。ユーザーがカートリッジを選ぶ時には、この辺をはっきり認識してかからなければいけない。嗜好性の対象となるような名品は、当然のことだが、眼玉が飛びでるほど高くるし高いとそれだけ良い音にも聞えものだ。高ければ、当然、物理特性も向上しているが、それと同様に仕上げの美しさや高級観からくる印象が音に影響を与えるものだと思う。
このAT−VM3は千円台だから実用品として考えてよくその意味では実質的価値は10、000円以上のものに決して劣らないといえるのである。今や国産カートリッジの水準はきわめて高く、たくさんの優秀製品があるが、このカートリッジもそうした製品の一つとしてジャズ・ファンに安心して推められるものだと思う。
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
総体に、やや重くダークな音で、音の切れ込みの良さとか音離れの点に多少の不満が残るが、柔らかくバランスの良い音質で、欠点の少ないカートリッジである。スクラッチもよく抑えられて、高域にピーク性の危なげな音も感じられない。ただ、どのレコードの場合にも、楽器がやや遠のく印象で、ソフトタッチの音になる。激しさを求める向きには敬遠されそうだが、耳当りのよさをとるべきだろう。オーケストラや弦合奏では、、弦楽器のみずみずしさがもっと欲しい気がするし、声もややドライでタッチがコロコロして輪郭が明瞭だが、強打音ではやや音離れが悪くなる傾向がある。ソフトムードというところで好みが分かれそうだ。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:95
菅野沖彦
スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
カートリッジは手軽に差変えて使えるので、ちょっとオーディオにこった人なら2〜3個はもっているものだろう。というよりは、お金が貯って、良いカートリッジが発売されたと聞くと、つい買ってきて使ってみたくなるのが人情。事実、カートリッジを変えると良悪は別にしても音が変るからついつい、これで駄目ならあっちでは……ということになるものだ。もっとも、カートリッジというものは、それを取付けるトーンアームと一体で設計されるべきもので、うるさくいえば、先ッチョだけを変えるというのは問題がないわけではない。だから、同じアームにAとBのカートリッジをつけ変えて、Aがよかったからといって一概にAのほうが優れたカートリッジだと断定できない場合もあるのである。アームを変えたらBのほう力くよくな
る可能性もあるのだ。そこで、カートリッジを差変えて使うことのできるトーンアーム、いわゆるユニバーサル・アームは勢い高級な万能型でなければ回るわけであるが、今回のテストには英国製のSME3009を使用した。国産にも優れたアームが多数あるが、このSMEのアームは精度の高い加工とスムースな動作、ユニバーサル型としての妥当な設計、そして外国製ということで国産アームよりも客観性があると考えられるためか、研究所の測定などにも、現在ではこのアームを使うことが常識となっている。
アームの条件について前書きが長くなってしまったが、この試聴記はSJの試聴室で実際にじっくリテストした結果なのでその条件について書いておくことも必要だと考えた。アンプやスピーカーは別掲の通り。使用レコードは新譜として各社から発売されたものの中から録音のよいものを数枚選び、さらに私自身の録音したものを何枚か聴いた。これは私にとってもっとも耳馴れたプログラム・ソースなので、その出来不出来はともかくテスターとしての私の耳には最高のプログラム・ソースだからである。
さて肝心のオーディオ・テクニカの新製品AT−VM3だが、この製品は同社がすでに発売しているAT3というロング・ベスト・セラーに変るものとして登場させたもの。そして構造的には同社の開発したVM式という独特なムービング・マグネット型である。これは、AT35という同社の高級カートリッジで初めて実現した方式で、AT35そのものはかなり長期にわたって改良が重ねられたものだ。音の本質的なよさを認められながら帯域バランスの点でいろいろ問題があったものをコントロールして現時点ではバランスのよいカートリッジに成長した。このAT35を普及タイプとして設計しなおしたのが、このAT−VM3と考えられ、価格的にも求めやすいものになった。VM型の特長は、左右チャンネルに独立した発電機構をもつことと、振動系がワイヤーで支持され支点が明確になっていることだが、この2点は従来のMM型が指摘された問題点を独創的に改良したものである。そのためと断言してよいかどうかはわからないが、音の根本的な体質とてもいうものがVM型共通のクォリティを得ていることがわかる。つまり、きわめて明解な締った音質がその特長で、冷いとも思えぬほどソリッドなダンピングのきいた音がVMシリーズの特長である。硬質で現代的なスマートな音がする。比較試聴に使ったシュアーV15IIやエンパイヤー999、ADC10EMKIIなど世界の一級品に悟して立派な再生音が得られた。ベースの音程の分解能は特に注目に価いするものだった。ブラスの高域やシンバルが、冷いのが特長でもあり難点であるが、対価格という立場で考えれば、優秀製品として推したい。ただし、本誌では蛇足かもしれないが、弦のアンサンブルやクラシックのヴォーカルやコーラスにおいてはもうひとつ不満があることをつけ加えておこう。音響機器にハードでドライな客観性を求めるか、ソフトでウェットな個性を容認するかというオーディオの興味の焦点の一つがそれであろう。
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