トーレンス TD126MKIIIBC

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 高級ターンテーブルの中では、安直に使える家庭用の高級ターンテーブルというイメージが非常に強い。トーレンスの思想であるクッションによってモーター部分とアームのベース部分と一体にして浮かせるという構造のターンテーブルシステム。見た感じからいくと、おそらく二十万円に近いと思えないイージーハンドリングな感じを持つ。構造的には別に目新しいところはなくて、DCモーターによるベルトドライブ。特に重量級とはいえないが、回転メカニズムを支えて、そしてトーンアームを明確に支えるコンストラクションの部分はがっちりと出来ている。
 当然だが、何といっても浮かしたターンテーブルというのはやはり外部からのショックに強くて針とびが少ない。ハウリングマージンも取れる。最近のように低域がどんどん伸びてきている場合にはこのハウリングマージンを重量だけで押えていくのは並大抵のことではない。50kg、60kg程度では押え切れるものではない。そういう意味から、このトーレンスのようないき方のフローティングシステムというのは、大きなメリットを持っている。日本においては、このフローティングはあまり受け入れられず、どちらかというと、どんどん重量で固めていく傾向のようだが、それ一辺倒の思想は改めてもいいのではないかと思う。このシステムにはアームが付いてカートリッジレスのものと、アームレスのものとあるが今回はアームレスを試聴した。
音質 テストにはオーディオクラフトのAC3000MCのトーンアーム、オルトフォンのMC20MKIIをつけて聴いたが、音の点でのバランスはとにかくものすごくいいターンテーブルだ。
 操作性は慣れれば非常に明快だが、スピード切り替えとスターターが一緒になっていて、OFFスイッチはアームの手元についている。慣れればこれは大変使いやすいマニュアルターンテーブルだ。
 いま日本だけでなくて、世界的にDDモーターが全盛時代を占めている。この時代にベルトドライブに固執しているのは一、二のメーカーだけだが、そのメーカーには技術的な主張があるわけだ。実際に音を聴いてみても、このベルトドライブの持っているよさというのは何となくわかるような気がする。明らかな欠陥がDDにあったり、ベルトにあったり、ということではないから明確にいうのは困難にしても、ベルトドライブが持っている音の穏やかさというか、滑らかさというか、非常に温か味を感じる音だ。
 具体的に言うと、ややピアノの音が高域音にうわずるところがある。これは、もちろんカートリッジとトーンアームというものの音をいろいろなターンテーブルで聴いた平均より、という意味だ。それから音の密度、締まり具合というものが、完全にこのクラスの最高級のプレイヤーと比べるとやや甘いというところがあるが、それがまた音の穏やかさというか、聴きやすさということにつながってくる。オーケストラの低域のコントラバス、チェロなどの楽器の持っているブーミーなボディというのがよく出る。そういう点ではこのシステムはよく楽器の、そういう独特な音の傾向というものを出してくれたと思う。全体的にとにかく音楽らしく聴かしてくれるいいターンテーブルだった。

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