瀬川冬樹
ステレオサウンド 50号(1979年3月発行)
特集・「栄光のコンポーネントに贈るステート・オブ・ジ・アート賞」より
SME3012は、いわゆる16インチLP用のロングサイズアームだが、これが同社の最初の作品で、一九五九年に発売された。当時はナイフエッジを支える軸受部が、のちにSMEの形を特長づけた例のオムスビ型の成型品ではなく、おそらく適当なサイズの金属パイプを輪切りにしただけで、いかにも生産量の少なさを思わせる。ヘッドシェルには、MADE IN DENMARK の刻印の入ったオルトフォンG型シェルを、ネームプレートだけSMEに貼りかえて流用していた。このオルトフォン型のプラグインコネクターを採用したことが、その後の、ことに日本のアームに大きな影響を与えたが、当初の製品はアルミニウムでなくステンレスパイプに制動材をつめていた。インサイドフォースキャンセラーもまだついていない。メインウェイト(バランス用)は、ヘッドシェル30グラム以上に対応できるよう大型で、ライダーウェイト(針圧加圧用オモリ)も、二分割できて、二個重ねると最大5グラムまでかけられる。G型シェルはカートリッジの取付位置を修整できないから、カートリッジ交換にともなって針先の位置の違いを修整するために、アームベースを前後にスライドさせる。軽針圧でのアームの操作の安全のために、油圧式のアームリフターが考案されている──というように、それ以前のいかなるアームよりも根本の動作原理を正しく解析し、正しいしかもユニークな解答を与えた点がSMEの大きな功績で、このことが、やがて軽針圧時代を迎えた世界じゅうのピックアップに、どれほど大きな影響を及ぼしたか測り知れない。
いま考えてもふしぎなことは、オルトフォンがSPUを発売した一九五九年に、いち早くエイクマン(SME社長)が殆どそのSPUのための精密アームを仕上げている点だ。だが、その後シュアに転向して、徹底的に軽針圧を追求するようになるのもおもしろい。それにしてもSMEは、ふつう言われているユニバーサルアームではなく、一個のカートリッジに対して、特性を徹底的に合わせこんでゆくというのが、本来の思想であることを、蛇足ながら申し添えたい。
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