井上卓也
HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より
マルチアンプ方式を採用するためには、ユニット構成が2ウェイなら2台、3ウェイなら3台のパワーアンプを使うことがベーシックな方法である。この場合、パワーアンプに同じモデルが使用できれば、各専用ユニットとそれに組み合わせるパワーアンプの関係は、もっとも差別がなく簡単に処理できる。しかし、異なったパワーアンプを混成して使用する場合には、定石としてパワーの大きいアンプから順に、ウーファー、スコーカー、トゥイーターと接続することである。これは、一般に、出力音圧レベルは、スコーカー、トゥイーターよりもウーファーがもっとも低いからだ。また、スコーカーとトゥイーターでは、スコーカーに強力なドライバーユニットホーンを組み合わせたタイプを使っていればスコーカーはトゥイーターよりも出力音圧レベルが高い例も多い。しかし、ユニットとしての構造上、トゥイーターのほうが小型で軽い振動系を使うためにスコーカー用とトゥイーター用のパワーアンプに出力の差があるときには、トゥイーター用に出力が小さいアンプを組み合わせることにしたい。
マルチアンプ方式は、既製スピーカーシステムのスピーカーユニット構成に対応したパワーアンプを使う使用法のほかに、それをベースとして他の専用ユニットを追加し、さらにマルチウェイ構成としてグレイドアップする利用法がある。
現在の10万円をこす価格帯のフロアー型システムでは、2ウェイ構成の場合には、高音用として、500〜800Hz程度の比較的低いクロスオーバー周波数から20kHzあたりの高音の限界まで、ドライバーユニットとホーンを組み合わせたホーン型ユニットで受け持たせている例が多い。このタイプのスピーカーシステムをベースとして、さらにグレイドアップする方法は、高音ユニットの受持帯域をさらに分割して、トゥイーターを追加して、3ウェイ化することが考えられる。
高音用ユニットの受持帯域にトゥイーターを追加するときには、音色的に共通の傾向をもつトゥイーターを選び、ベースとなるスピーカーシステム用に1台、トゥイーター用に1台のパワーアンプを用意し、できれば連続的にクロスオーバー周波数が変化できるタイプのエレクトロニック・クロスオーバーを使って最適なクロスオーバー周波数を探すべきである。クロスオーバー周波数が決まったら、そのままマルチアンプで使うことのほかに、場合によれば、マルチアンプ方式と比較しながら同等な音が得られるように、LCネットワークに置換えて調整することもできよう。つまり、マルチアンプ方式を使ってLCネットワークのときの最適クロスオーバー周波数を探そうという利用法である。
同じ2ウェイシステムを3ウェイ化する場合でも、別の方法もある。前の例では、そのままトゥイーターを追加して3ウェイ構成としたが、2ウェイの高音用に使っているドライバーユニットの性能が優れており、なおかつ他メーカーを含めてより大型のクロスオーバー周波数が低くとれるホーンと組み合わせることができる場合は第1ステップとして低音と高音のクロスオーバー周波数の下限をマルチアンプ方式によりチェックし、これをスコーカーを追加して3ウェイ化するアプローチがある。数値上では、たとえば800Hzと500Hzとのクロスオーバー周波数の違いは小さく思われるかもしれないが、聴感上での両者の差は大きく、海外製品を主とする高級スピーカーシステムでは、共通の特長としてこのクロスオーバー周波数を低くとっている例が多いことからも、数値的な差の大きいことをわかっていただけると思う。この場合には、新しく決定したクロスオーバー周波数に対応できるLC型ネットワークがあれば幸運だが、ない場合には、本来のマルチアンプで使うことにしたい。低音と中音をマルチアンプ化してもスコーカーとトゥイーターはLC型ネットワークを使いたいところだが、スコーカーのほうが出力音圧レベルが高い例が多いため、これもマルチアンプ化せざるを得ないだろう。
次に3ウェイ構成が標準のこのクラスのブックシェルフ型システムを考えてみると、専用端子が付属していても実質的なマルチアンプの利点が活かされないほど完成度は高いはずなので、スーパーウーファーを追加して超低域の拡張を考えたほうがよいだろう。当然、2チャンネルのマルチアンプ化である。
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