菅野沖彦
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう」より
私のオーディオの基本姿勢は、客観と主観、物理特性と感性のバランスです。つまり、評価基準として科学技術と美学の2つのバランスが必要です。スピーカーにたいしても、物理的には周波数帯域と直線性などの点でメディアと同水準の特性を要求します。録音されている周波数/ダイナミックレンジが出ないものは不満です。残念ながら、ほとんどの市販製品がそうですが!? 感性的には私の好みに合うスピーカーは必ずしも一つではないし、同じ設計思想によるものとも限りません。好きな食べものが一つでないのと同じです。スピーカーを個性や癖で安易に分類するのは危険ですが、この世に無個性なスピーカーはないので、聴き手の音響的、音楽的嗜好との接点は大切です。私は、演奏者の「気」の感じられるような、血の通った、精緻かつ豊潤な音が好きです。嫌いなのは、刺激的で、冷たい、機械的な音と、病的で脆弱な音。そして、使い手の調整不備による変則的な帯域バランスです。
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