「長島氏の再生装置について」

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

 長島氏のスピーカーシステムは、大型のジェンセン・インペリアルシステムと呼ばれていたものだ。いまではジェンセンというブランドネームはポピュラーではないが、古くSP時代からLP全盛期にわたり、スピーカーユニットとしては国内でかなり愛好されていた。とくにSPの頃には、明快で歯切れのよいスピーカーとして定評があり、ローラ・セレッションの前身のローラのスピーカーユニットが柔らかく滑らかな音をもっていたのとよく比較されたものだ。
 インペリアルシステムは、83×140×70cm(W・H・D)の外径寸法と約95kgの重量をもつ大型システムだが、コーナー型エンクロージュアの後をカットしたようなセミコーナー型ともいえる形態をもち、そのうえ、シンプルなバックロードホーン型であるのが特徴である。このバックロードホーンは、一般的なエンクロージュアの天板部分に開口部があり、部屋のコーナーに置いて両側の壁面と天井をホーンの延長として使う場合と、全体を倒立させて両壁と床面をホーンの延長として使う方法の二種の使用が可能であるが、長島氏の場合は床側にホーン開口部を置く使い方である。
 使用ユニットは、ジェンセンのトライアクシァル型フルレンジユニットG610Bで、3ウェイ同軸型としては歴史が古く他に例のない存在である。このユニットの前身は、LP全盛期に最高のスピーカーユニットとして、高価のあまり買うという実感とはほど遠かったG610であり、変わったのは、コーン紙前面のブリッジ上にセットされたトゥイーターのホーンが、円型から矩型になったことくらいである。
 ウーファーは、ホーン型中音と高音ユニットの能率に合わせる目的で、おそろしく強力な磁気回路をもっていて、特性的には低域に向かってレスポンスが下がる典型的なオーバーダンプ型である。中音は、布目の細かいフェノール系のダイアフラムが特徴で、形状はウェスターンの555と同様な特殊なタイプである。ホーンはウーファーの磁気回路を貫通してウーファーコーン紙をホーンとして使っているのはタンノイと同じだが、磁気回路は独立しており単独に取外し可能な構造になっている。トゥイーターは、中音と同じくフェノール系のダイアフラムをもつホーン型で、かつての円型ホーンをもっていたユニットは、単体として、たしかPR302という型番で発売されていた。
 アンプ系は、マランツの管球タイプのシャープ7コントロールアンプと♯2×2の構成。プレーヤーシステムは、エンパイア598ニュートラバドールとオルトフォンSPU−A/Eのコンビ、テープデッキがルボックスのHS77、FMチューナーは珍しいルボックスFM−A76。
 長島氏のインペリアルシステムから出る音は、中音と高音のレベルセットが異例ともいえるMAXであるが、長島氏の長期間にわかるエージングの結果、ナチュラルなバランスであり、とくに低域が、バックローディングホーンにありがちな固有音がまったく感じられず、引締り重厚であるのが見事である。G610Bが同軸型であり、システムがコーナー型であることもあって、部屋のなかでの最良の聴取位置はピンポイントであり、そこでのみ音像が立ち並ぶ独得なステレオフォニックな音場空間が拡がる。

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