Daily Archives: 1978年4月30日 - Page 10

ビクター M-7070

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 シャープで立ち上りの早い、反応の早い音が特長のパワーアンプである。
 トータルバランスやエネルギーバランスの面では、EQ7070よりも、むしろこのM7070のほうが一段と優れており、120Wの定格パワーから予想した音よりも、充分にパワーの余裕を感じさせる音である。バランス的にはフラットレスポンス型で、音色は低域から高域に渡ってよくコントロールされた、明るく軽く、細やかなタイプで、音の表情も活き活きとし、鮮度が高い爽やかな音を聴かせる。ステレオフォニックな音場感は、ナチュラルに広い空間を感じさせるタイプで、音像の立ち方もクリアーで、実体感がある。

アキュフェーズ C-200S + P-300S

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 内容に多少の手が加えられてSタイプと名前が変ったにしても、すでに発売以来5年を経過するのだから、内外を通じても最も寿命の長い製品で、まして変転の激しいセパレート型アンプの中ではきわめて稀な好例といえ、こういう製品づくりの姿勢には心から拍手を送りたい。さて当初のC200+P300の音は、いわゆるトランジスター臭を極力避けたかのように注意深く練り上げられながらも、こんにちの時点ではいささか音の粒の粗さと解像力の甘さが感じられたが、今回の改良で音は一変して新鮮味を加え、とても切れこみの良い、音の輪郭もディテールも鮮明な現代ふうのアンプに変身した。おそらく改良の意図も解像力の向上にあったと思われるが、例えばアメリンクの声などで、歌の表現の抑揚がごくわずかだが大ぶりになりがち。あるいは「サイド・バイ・サイド3」のギターのコードもやや際立つなど、高域にかなりアクセントがあるようだ。また低音ではリズムを幾分重く聴かせる傾向も聴きとれた。

ビクター M-3030

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 低域ベースの安定した、かなり活気のある音をもつパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジは、豊かな低域をベースとした安定感のあるバランスで、高域もハイエンドは少し抑え気味の印象を受ける。低域の音色は、豊かで柔らかく重いタイプで、重心の低いズシッとしたエネルギー感があり、中域は、量的には充分なものがあるが、音の粒子がやや粗粒子型で、滑らかに磨かれてはいるが、引き締ったクリアーさでは今一歩という感じがする。カートリッジは、4000D/IIIや881Sよりも、ピカリング系のソリッドで輝きがあり、クォリティの高いタイプがマッチしそうで、アンプ本来の特長が活かせるだろう。

トリオ L-07M

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 安定感のあるソリッドで、かなりタイトな音をもつパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジは、ローエンドとハイエンドを少しシャープに落したような印象があり、このためか、中域が量的にタップリとあり、張り出した活気のある音となっている。バランス的には、低域の音色はやや柔らかく甘く暗いタイプで、反応は少し遅いが安定感は充分にある。中域は寒色系の硬質な音で、とかくなめらかで細かいが中域が薄く充実感に欠けがちの最近のパワーアンプのなかでは、このパワーアンプのソリッドさは、一種の割り切った魅力にも受け取れる。音の表情は、L07Cよりも伸びやかさがあり、反応も一段と早いようだ。

トリオ L-05M

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 同じモノ構成のパワーアンプL07Mと比較すると、音の伸びやかさが一段と加わった、滑らかで細かい音がこのパワーアンプの魅力である。聴感上での周波数レンジはかなりナチュラルに伸びており、バランス的には中域が少し薄く、低域は豊かで柔らかい。音の粒子は細かく、よく磨かれていて、細やかなニュアンスの表現や、表情の伸びやかさをかなり引き出して聴かせる。
 ステレオフォニックな音場感は、左右にもよく広がり、前後方向のパースペクティブをもナチュラルに聴かせるが、音源は少し距離感を感じるタイプで、左右のスピーカー間の少し奥まったところに広がる。音像はソフトで適度なまとまりと思う。

テクニクス SE-A1 (Technics A1)

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 スケール感の大きな、ゆとりが感じられるパワーアンプである。音の細やかな表現や、情報量の豊かさがベースとなるステレオフォニックな音場感の再現性では、コントロールアンプA2のほうが一枚上手のようである。音色は軽く柔らかく滑らかなタイプであり、ゆとりがタップリとあるために、スケール感の非常に豊かな音を聴かせる。表現はおだやかでやや間接的な傾向があり、マクロ的に音を外側から枠取りを大きく掴んで聴かせる特長があり、バランス的には、中域の密度がやや薄く、中高域あたりには少し音の粒子が粗粒子型で、柔らかく磨いてあるのが感じられる。おおらかで安定した音は、ハイパワーアンプならではのものだろう。

私の推奨するセパレートアンプ

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 94機種プラス46組合せと、合計140回。それに1機種ごとにリファレンスを念のために聴き、また実際に試聴はしたが種々の事情で掲載されない10機を加えると、ざっと300機種ぶんほど聴いた計算になるが、これだけ数多く聴いた中で、試聴後もあえてメモをみなくてもその音をはっきり思いだせるようなアンプが、ほんとうの意味で優秀な製品といえるにちがいない。しかし機種名を聞いてとっさに音が思い浮かばなくても、メモを参照すると、あ、そうだとたちどころにその音を思いだせる程度のアンプなら、一応の合格機種ということになりそうで、その線までは一応の水準と考えた。もっとも、あまりにもひどい音がして忘れないというアンプも中にはあるから、音を憶えているということが必ずしも基準にはなりえないが。
     *
■同一メーカーの組合せによる推薦機種
 別表の①から⑨までは国産、⑩から⑲までは海外の、それぞれ同一メーカーどおしの組合せ(⑪のみ例外)をまずあげる。
 ①から③までは、その音質はもちろん、外観や仕上げの良さ、コントロール機能に至るまで、それぞれに水準以上のできばえで、いわば特選クラスといえる。ただし①のラックスは、私か実際に入手するとしたら、トーンコントロールアンプ5F70を必ず追加したいところだ。
 次の④から⑥までの三機種は、音質という面ではそれぞれのよさはあっても、①から③までのようなどこからみてもスキのない完成度の高さまでには至っていない。たとえば④のアキュフェーズは、デザイン面と、コントロールアンプがあまりにもシンプルで実際の使用に際してはときとして機能上に不満を感じることがあるだろう。⑤のオンキョーも機能的に省略しすぎて、少なくとも私には、トーンコントロールやフィルターが、ごく簡素なものでいいから欲しいし、それなりに出てくる音優雅さにくらべて、外観が失礼ながら野暮すぎる。その点⑥はさすがラックスで、デザインには不満は全くないが,やはりファンクションが少々不足であることと、音がいくらか甘口なのでその点使用者の感覚とピントが合わないと理解されにくい。
 ⑦はやや硬調ぎみだが音楽の表現力、彫りの深い表現がとても好ましい。調子の出るまでにかなり時間のかかる点は使いこなし上の注意点だ。しかしコントロールアンプのデザイン(というより仕上げや色あい)は、誰にすめても嫌われるので、この点がややマイナスポイントという次第。
 ⑧はデザインも音質もトータルにバランスがとれて、中庸をおさえたおとなの風格を持っていて、製品としての完成度は最上位のグループにひけをとらないが、音質の面でこれならではという魅力をわずかに欠くという点で特選とまではゆかないが、反面、あまり個性の強い音を嫌う向きには喜ばれるだろう。
 その点では⑨にも同じことがいえる。ただし、外観が少々メカ志向であること、ファンクションが私には少々ものたりないことで、やはり上位には入らない。
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 海外製品に移ると、⑩のおそろしく透明度と品位の高い、しかしやややせ型の音質と、⑪透明感でわずかに劣るが⑩にはない音の厚みと豊かさをとるか、の違いはあるが、ともに私自身がこんにちの世界中のアンプの中でベストに入れたい組合せだ。
 ⑫はそれとは全く逆に、書斎やベッドルームや、またオーディオマニアでない愛好家のインテリアを重視した部屋などで、出しゃばらず場所をとらず、いつまで飽きずに使えるアンプとして、やはり存在価値が高い。
 ⑬から⑮までは、トータルバランスのよさ、そしてグレイドの高いハイパワーアンプでしか聴くことのできない充実感と安定感が、それぞれに音のニュアンスを異にするもののいずれも見事なバランスに支えられて好ましい。
 ⑯のマッキントッシュは、⑭のGASと共に必ずしも私個人の好みとは違うが、この豪華な味わいはほかのメーカーの製品からは決して得られない。
 ⑰と⑱は、スリムで簡潔な作りの、最近のアメリカのセパレートタイプのひとつの傾向の中で、バランスよく手際よくまとめられた手ごろな製品で、ともに肩ひじの張らない音のよさが見陸だ。
 ⑲は、この仕上げの粗さが必ずしも私の好みではないが、内容本位という点で、ローコストであることを前提にその割には良い音、という意味であげた。

■コントロールアンプ単体
 ❶のML1Lについては改めていうまでもない最上の音質。ただ、実際に使ってみて私にはやはりトーンコントロールのないのがちょっぴり不満になる。
 ❷は設計がアメリカ、製造が日本で、そのためにかなりローコストだが、価格以上の音質で、仕上げもよく、機能も充実して、コントロールアンプによいものの少ない現時点では、注目してよい製品。
 ❸のハフラーはメーカーとしては新顔だが豊富な体験を持つヴェテランの作品らしく、簡潔な手際よいまとめかたで、仕上げはまあまあだが輸入品としては安いという点が魅力。
 ❹から❻までは、コントロールファンクションが省略されすぎているが、最近の海外のソリッドステート技術のいわゆる反応の鋭敏さがそれぞれの音質の良さを支えている。
 ❼はコントロールアンプ唯一の国産品だが、パワーアンプとの組合せで示さないのは、同じシリーズどおしでは少々音がブライトすぎるように思われるので、もう少し穏やかなパワーアンプと組合せることを前提に、時間がなくて試みれなかったが、案外後出のダイナコの管球パワーアンプなど、おもしろいのではないかという気がした。

■パワーアンプ単体
 ❽と❾は、ともに数少ないヨーロッパ製のアンプだが、その繊細な品の良さ、滑らかでことにクラシック系の弦や声を鳴らすときのほどよい艶のある美しさと、やややせぎすながら立体的な彫りの深さはとても魅力的で、いずれもすばらしいパワーアンプだ。
 ❿はプロ用として入力回路が平衡型低インピーダンスになっているので使用上の注意が必要だが、内容は❽をプロ用としてモディファイした製品で、いくぶん硬質だが支えのしっかりした骨太の安定感のある音は独特だ。
 ⓫から⓰までは、国産の、それぞれによくできていると思われる製品を列挙した。これらはすべて、ペアとなるコントロールアンプとともに企画されている製品ばかりだが、あえてパワーアンプ単体だけをあげたは、裏がえしていえばペアとなるべきコントロールアンプの完成度が、それぞれのパワーアンプのレベルまで達していないと思えたからだ。その意味では、これらをより一層生かす、或いは持てる能力を100%抽き出すコントロールアンプが、それぞれに欲しくなる。ただ、⓬のパイオニアM25は、バランスを無視すればエクスクルーシヴC3があり、⓭のラックスM12は5C50が、またアキュフェーズはC220が、それぞれにあり、同じメーカーの中に良いコントロールアンプがある。もちろん他のメーカーの優秀製品と組合せることは一向に差し支えない。⓰についてはコントロールアンプの❼のところで書いた事を繰り返しておく。
 ⓱から⓳までの3機種は、アメリカ製の、それぞれに性格のかなり強いパワーアンプで、中ではダイナコ/マークVIの、いささか反応が遅いがすばらしく豊かで暖かい音がいまだに耳に残っている。解像力の良いコントロールアンプと組合せたときに音が生きてくる。⓲のDBシステムズと⓳のスレシュオールドは、ともにコントロールアンプがあるが、同一メーカーどおしで組合せない方がその個性が生かされそうに思って、別々にあげた。

国産/組合せ特選機種
①ラックス 5C50+5M21
②エクスクルーシヴ Exclusive C3+Exclusive M4
③ヤマハ C-2+B-3

国産/組合せ準特選機種
④アキュフェーズ C-220+M-60 (×2)
⑤オンキョー Integra P-303+Integra M-505
⑥ ラックス CL32+MB3045(×2)

国産/組合せ推薦機種
⑦トリオ L07C+L-05M (×2)
⑧デンオン PRA-1001+POA-1001
⑨テクニクス SU-9070 II+SE-9060 II

海外/組合せ特選機種
⑩マーク・レビンソン LNP-2L+ML-2L (×2)
⑪マーク・レビンソン LNP-2L+SAE Mark 2600
⑫QUAD 33+303

海外/組合せ準特選機種
⑬アムクロン IC150A+DC300A IOC
⑭GAS ThaedraII+AmpzillaII
⑮マランツ model P3600+Model P510M

海外/組合せ推薦機種
⑯マッキントッシュ C32+MC2205
⑰GAS Thalia+Grandson
⑱スレシュオールド NS10custom+CAS1custom
⑲スペクトロアコースティック Model 217+Model 202

コントロールアンプ特選機種
❶マーク・レビンソン ML-1L
❷マランツ Model 3250
❸ハフラー DH-101

コントロールアンプ準特選機種
❹AGI Model 511
❺DBシステムズ DB-1
❻オーディオ・オブ・オレゴン BT2
❼ビクター EQ-7070

海外/パワーアンプ特選機種
❽ルボックス A740
❾QUAD 405
❿スチューダー A68

パワーアンプ推薦機種
⓫Lo-D HMA-9500
⓬パイオニア M-25
⓭ラックス M-12
⓮サンスイ BA-2000
⓯アキュフェーズ P-300S
⓰ビクター M-7070 (×2)
⓱ダイナコ Mark VI (×2)
⓲DBシステムズ DB-6
⓳スレシュオールド 400A custom

テクニクス SE-9060II (Technics 60AII)

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 かなり国内製品のパワーアンプとしては平均的な性格をもった、オーソドックスな音である。聴感上での周波数レンジは、ローエンドとハイエンドを少し抑えたナチュラルなバランスであり、音色は均一で軽く、やや明るいソフトなタイプで、低域もあまり柔らかくなりすぎないのが特長である。バランス的には、中域は量的には充分のものがあるが、エネルギー感としては不足気味で音が伸びず、頭を抑えられた印象の音となる。リファレンスコントロールアンプLNP2Lの特長を引き出して聴かせることができず、あまり音の反応が早くなく、本来のペアの魅力が出ないが、このクラスのセパレート型アンプとしては、これが本当だろう。

スタックス DA-80M

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ウォームトーン系の豊かで細やかな音をもつパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジはかなりナチュラルに伸びており、バランス的には、中低域が柔らかく量感が豊かで、中域は少し薄く、高域はわずかに上に向ってなだらかに下降するレスポンスに受けとれる。低域は甘く軟調傾向を示すが、M4よりも厚みはあるが音色はやや重く、暗いタイプである。中域は細やかだが、エネルギー感は不足ぎみで、粒立ちも甘いタイプである。LNP2Lの中域を+1、高域を+2に調整すると帯域バランスはかなり改善され、本来の細やかで伸びのあるウォームートン系の、響きの豊かなクォリティの高い音となる。

ソニー TA-N7B

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 おだやかな、寒色系のクリアーな音をもつパワーアンプである。聴感上での周波数レンジは、組合せで予想したよりもナローレンジ型となり、低域は重くおだやか型、中低域はやや薄く、中域から中高域はソリッドで硬質な面があり、高弦では輝きが過剰気味に再生される。音の表現はかなりマジメ型で、表情を抑える傾向があり、音の反応も早さと遅さがあってバランスが悪くなるが、リファレンスコントロールアンプLNP2L,またスピーカーシステムの4343と、かなりミスマッチの印象が強い。やはり本来のN7BのペアコントロールアンプはE7Bであり、トータルバランスは数段優れていると思う。

ヒアリングテストのポイント

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

聴き手の心を音楽にむかってふくらませるかどうか
●ヒアリングテストのポイント

 アンプの比較試聴を永年くりかえしてきて、ここ数年間で以前とはっきり違ってきた点が二つある。
  第一は、アンプの性能の限りない向上によって、現時点ではもはや、切換回路を通してスイッチで切換えたのではアンプ個々の微妙な音質の差が正しく掴めなくなっていること。第二に、アンプによってはスイッチを入れて音が鳴りはじめてから動作が安定状態に入るまでの一~二時間のあいだに、ごく微妙ではあっても音質の次第に変化するものが増えてきたこと。
 とうぜん、切換スイッチに何台か同時に接続して一斉に電源を入れて、はい聴きましょうといった単純な比較では、もはや個々の音の性格を正しく掴みとれなくなっている。
 本誌ではすでに数年前から切換スイッチの使用を廃止しているが、さらに、前回のプリメインアンプテスト(42号)のとき以来、試聴するアンプをあらかじめ最低3時間以上実働させてから試聴に入るというめんどうな方法をとっている。くわしくは別項(試聴テストの方法)をご参照頂きたい。
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 こうして一台一台を、切換回路を通さずに実際の使用状態と同様に正しく接続し入念に試聴すると、ふつうに切換スイッチでパチパチと瞬間比較するときには殆んど見落しがちの性格がよく聴き分けられる。
 テストレコードはいわば試聴用の素材にすぎないわけだが、しかし目の前に置かれた、一台のアンプのボリュウムを上げれば、機械をテストしようという態度よりはもっとふつうの愛好家の心理状態と同じに、さあこれからレコードを聴こう、という気持に自然になってくる。
 少なくとも私自身は、今回のテストにかぎらず常に、そうしたレコード愛好家としての心理状態を保ち続けるよう心がけているつもりだ。いわゆる単独試聴のときはもちろんだが、今回のような一部合同試聴の際にでも、おもて向きは嫌々ながらといったふうをよそおいながら、自分の手でレコードをのせてアンプの操作系を買って出るのも、そうした方がレコード愛好家としての心理状態を保つために、実をいえば私には具合がいいからだ。
 前にも書いたことだが、こうして一枚一枚のレコードを音楽として楽しみたいという態度で臨んだとき、そういう聴き手の心理をふくらませ、音楽を聴くことを楽しく思わせ、もっと先まで聴きたい、ボリュウムを絞りたくない、という気持にさせるような音がすれば、アンプでもスピーカでもそれが私には好ましい製品といえる。本当に良い音になってくると、もう何十回も繰り返し聴いている同じレコードの同じ部分を、つい我を忘れて聴き惚れて、しばらく捜査の手を忘れてしまい、同席の岡、井上両氏に叱られることもある。
 だが残念なことにそういう音は決してたびたびは聴こえてこない。とくに今回のテストでは、発売後かなりの時が流れてすでに一般的評価の定着した製品もいくつか登場しているが、私自身の評価はそれと必ずしも一致しなかったというのも、右に書いたように音楽を聴かせ幸せな気分にさせてくれるアンプでなくては、たとえ物理的にどんなにワイドレインジで歪が少なく音の立上りが良いという製品でも、それだけでは私には何の価値も認めらないからだ。せめてほんの少しのパッセージでいい、ふっと比較試聴という時間を忘れさせ、聴き惚れるまで行かなくてもつい耳を傾けさせる音のするアンプ。それが私の絶対の基準尺度だ。価格の高低、出力の大小、機能の多少などとはそれは全く無関係なことなので、今回の試聴でも、ことにコントロールファンクションの多い少ないはほとんど無視している。
 だが現実には、私にとってコントロールファンクションは意外に重要な項目だし、デザインのよしあしも大きな要素になる。そのことは別項の推薦機種の選定の中でふれている。

ソニー TA-N86

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ソリッドで引き締った音をもつパワーアンプである。聴感上では充分に広い周波数レンジを感じさせ、バランス的にはかなりフラットレスポンスで凹凸が少なく、音色では、低域が軽くソフトであり、中低域は粘った印象があり、中域にはソリッドな硬質さがある。音の鮮度はかなり高いタイプで、表情にはフレッシュな魅力がある。
 ステレオフォニックな音場感は、左右方向・前後方向のパースペクティブともによく広がるが、音源はかなり近づいた印象となる。音像のまとまりはよく、輪郭の線もかなりクッキリとしてシャープさがある。低域は、やや厚み不足を感じさせることもあるが、定格パワーからは充分な力をもつと思う。

サンスイ BA-2000

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 素直で、伸びやかさを感じる音をもったパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジはナチュラルに伸びた、現代アンプらしい印象があり、音の粒子が全帯域にわたり、細かく滑らかに磨かれ、音色も軽くフワッと明るい印象に統一され、充分にコントロールされている。バランス的には、中域が少し薄い傾向があり、低域が柔らかいために、エネルギー感は薄いが、スッキリと爽やかな音である。
 ステレオフォニックな音場感は、スッキリとした爽やかなプレゼンスが感じられるタイプで、音像も小さくまとまり、その輪郭も細くシャープでナチュラルに定位をする。スケール感もあり、かなり良い音である。