Daily Archives: 1974年6月15日 - Page 2

オルトフォン SPU-GT/E, RS212

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 他のカートリッジでは絶対に聴くことのできない重厚な豊かさと、その厚みにくるまれて一見柔らかでありながら芯の強い解像力は、もはや一メーカーの商品であることを離れてひとつのオーディオ文化とさえ言いたい完成度を示していた。残念ながら経営者の代が変って、最近の製品の音質は少々神経質な鋭さが出てきたし、専用のダイナミックバランス・アームも製造中止になってしまった。何とか以前の音質を保たせたいものだが……。

SME 3012, 3009/S2 Improved

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ごく初期に少数市販された製品は、軸受まわりが現在のようなオムスビ型ではなく、丸いリングを切りっぱなしで、その他細部も今ほど練り上げられていない。山中敬三氏の話ではそれ以前にもっと別の試作品に近い形の製品もあったらしいが、一応現在のスタイルで市販されてからでもすでに15年。その間幾度かマイナー・チェンジが施されている。こういう年月を経て名器が完成するという代表的なサンプルだろう。

ソニー PS-2410

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 レコードというデリケートな素材を載せて回すプレーヤーのフィーリングは、物心ついた年齢からレコードが身近に回っていたような育ち方をした人間にでなくてはつかめない言い表し難いある種の感性が必要だが、その点、国産のプレーヤーに、満足な製品の殆ど無いのは仕方ないことかもしれない。中ではソニーの一連の製品、ヤマハの一部の製品、パイオニアのPL41の頃の製品の一部に、多少はマシといえるものがある。

EMT 930st, 927Dst

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 やや旧式ながらヨーロッパの伝統的な機械の美しさをいまだ受け継いでいる、いわゆるスタジオ用のマシーンだが、人間と機械との関係にいかに血の通った暖かさを思わせる手触りや、取り外してみるとびっくりする分厚いターンテーブルや、ほとんど振動の無い駆動モーターのダイナミックバランスのよさなど、むろんカートリッジや内蔵のヘッドアンプの良さを含めて、ディスク・プレーヤーの王様はこれだと思わせる。

B&O Beogram 4000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 近ごろ最も頭に血が上った製品で、写真よりも実物の方がいっそうチャーミングでしかも写真に写るよりも実物の方がはるかに小型でキュートである。フールプルーフのオートメカニズムやそれを誘うするワンタッチのコントロールパネルの感触や、ストレートラインのアームの動きなどまるでドリーム・デザインのようでありながら実に良く練り上げられている。蛇足ながら専用のSP15型カートリッジの音質も独特のクールな魅力。

B&O Beomaster 3000-2

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 B&Oというメーカーも、他に類型の少ない独特のデザインポリシーで際立っているが、一連のレシーバーのデザインは、とくにどの型ということなく、どれをとってもそれぞれに素晴らしい。残念ながら日本ではFM放送の波長の違いからそのままでは楽しめないが、一台ぐらい手許に置きたい魅力がある。パネルの白いアルミニュウム(機種によってプラスチックもあるが)やレバースイッチの形状など、ヤマハ製品にB&Oの影響がみえる。

ブラウン L710

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ブラウンには同じようなユニットを組み合わせた一連のシステムのヴァリエーションがあるが、私は620、710が好きだ。この上の810はウーファーが二つで、やや低音が重く中域の明瞭度をマスクする。ブラウンの滑らかな音は、充分解像力にも優れるし、音楽が瑞々しく、ハーモニーがよく溶け合う。白とウォールナットがあるが、断然ウォールナットがいい。仕上げも美しく虚飾のないすっきりしたデザインは極めて高いセンスだ。

ダイヤトーン DA-A100

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 どことなくマッキントッシュやその類型のイメージが拭いきれなくて無条件にとはいえないにしても、ある種の凄味を感じさせ、ハイパワーアンプとして良いまとまりをみせている。この系統には管球式ではダイナコのMKIII、ラックスのMQシリーズや、トランジスターではC/Mラボの35Dなどのすばらしくチャーミングなデザインもあって、三菱だけが抜群という意味ではない。ペアになるプリはデザイン、性能とももう一息。

真に明確な設計思想を反映するものなら素晴らしい魅力をもち得る

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 オーディオ製品の魅力を具体的に表現することは難しい。もし、それが出来るなら、私は世界一の魅力的なオーディオ機器を自分でつくってしまえる。従って、これについて書く事は、やはり、ある程度、抽象的な表現になってしまうと思うのだ。オーディオ機器に限らず、機械というものの魅力は、第一に、その機械が目的とする機能を果す上で最高の性能をはっきしていなければならないということだろう。これは当り前の事のようだがなかなか難しい。そもそも目的とする機能といったけれど、この目的の考え方が大問題なのである。車の目的一つを考えてみても、その難しさがわかろうというものだ。車は速くなければならない。遅い車は無意味である。遅くてよければ、歩いて事足りる。カゴでも馬車でもよい。また、ただ速いといっても、その速さにもいろいろある。急激に加速する速さと、巡航できる最高速度とは別物である。ランナーの短距離と長距離のような性格かもしれぬ。次に、車は自由にあらゆる道路を走破できるものでなければならぬ。電車や汽車のように予め設置された線路を走るものとはちがう。直線もカーブも、平坦な道もデコボコな道も坂も走らなければならない。つまり、あらゆる状態に対応できる操舵性をもっていなければならない。そして、もっとも重要な事は、そうした性能が常に安全も保障された上で発揮できなければならない。車は、確実に停れなければいけない。人間と車は常に一体のものだから、肝心の人間が、極度に疲れたり、危険に身をさらされたのではなんの意味もないどころか、その存在理由は根底から覆るだろう。ちょっとあげただけのこれだけの条件を完全に満たすだけでも容易ではないわけで、車の設計者は、全ての条件を満たす事を理想としながらも、現実可能な範囲で、どこかにポイントをしぼらざるを得ない。速さ一点ばりのスポーツカーにするか、快適第一の大型セダンにするか、客本位の乗用か、貨物本位のトラック化。つまり、目的はさらに細分化され選択整理されるのである。この選択整理のされ方が、設計の思想の根源となり、出来上るものの性格を決定づけるといってもよいであろう。この段階で、よほど煮つめられていないと、出来上る段階までに、何度か設計変更や手直しがあって、結果的に、中途半端な無性格なものになってしまうものだと思う。
 オーディオ機器の目的とは何か? いわずとしれた音の再生である。しかし、ここにもまた、車の場合と同じように、いくつかの目的の細分化が生れるのである。小さい音、大きい音、徹底的にワイド・レンジな音、耳を刺激しない適度なレンジの音、専門家が使うか素人が使うかによって分れる機能や操作性のちがい、何でも適度に満足させるか、一点重点主義でいくか……等々、多くのバリエーションが考えられるだろう。手近な例をあげれば、一体型のものとコンポーネントでは、本質的に、この目的の細分化や整理の考え方は異るのである。また、もし細かい話しをすれば、ツマミの数を少しでも減らして操い易くするが可変できるものは全てツマミでコントロール出来るようにするかといった事も含まれる。このように、その機器が、目的をどう定めるかという思想の確固たるバックボーンを持っていないものは魅力はないし、また、当然、最高の性能は出し得ないのである。作る人間の頭の良さと才能、精神が、まずこの第一段階で、機器に明確に反映してくるのである。私はスポーツ・カーも好きだし、セダンも好きだ。ジープも好きだ。と同じように、コンポーネントも、一体型も、小さなカセット・ラジオでさえも好きである。それが、真に明確な設計思想を反映するものならば、皆、それぞれに素晴らしい魅力を持ち得ると信じている。
 さて、このような基本的な事柄だけで、私のいわんとしていることは終りのようなものだし、後は全て、その基本精神をいかに製品に生かし切れるかというテクニックの問題なのだが、もう少し話しを発展させてみようと思う。
 オーディオ機器に限らず、機械の魅力の重要な要素の一つは、なんといっても、見てさわって感じられる感覚である。大きな意味でのデザインといってよいだろう。そして、機械美、メカニズム・ビューティというものの第一条件は、必然から生れたものでなければならない。つまり、虚飾はこの世界では通用しないのだ。というと、何の味気もない、シンプルなものを想像されるかもしれないが、そうとばかりは限らない。ボーイング747のコックピットを見たまえ。もの凄い複雑な計器類が並んで、まるでメーターのジャングルである。決してシンプルなものとはいえない。しかし、あれは、全て必要欠くべからざるものばかりなのだそうだ。DOHCエンジンのエンジン・ヘッド・カバーを開けて見たまえ。エンジンの中には虚飾はない。凄く複雑だ。美しい。ヘマなデザインの時計は文字板よりも中味の方がはるかに美しい。アンプもそうだ。いいアンプというものは、中味が実に美しい。いいかげんなアンプは、外観は勿論、中味も美しくない。非合理的な部品の配置。チャチなパーツ。安っぽいビスやシャーシーやビニール線が乱雑である。こんなアンプは特性も音も絶対にいいわけがない。一方、シンプルなほうはどうか。私はかつて、父親が所有していた関の孫六という日本刀の素晴らしさに唸った記憶がある。柄や鍔や莢も凄かった。しかし、何といっても私を夢見心地にさせたのは、刀身そのものであった。シンプルきわまりない刀の姿、その形と質感の与える魅力は、いかなる複雑な装飾にも勝って大きな感動を与えたのである。匠が全智全能を傾けて焼き入れた鉄、その硬軟の美しいバランスは実際の切れ味を超えて美しく冴えていたことを思い出す。ダイムラー・ベンツやポルシェに使われている特殊鋼も、それ自体、魅力に溢れた質感で私を把えてしまう。ただのナマクラな鉄とは次元を異にした味である。こっちは、日本刀の匠に代って現代科学のなせる業である。このように、私は機械の美しさは、必然的に、その性能を追求した時に生れる味わいだと思うのである。そして、そういう味わいをもつ機械は、性能も必ずいいものだ。オーディオ以外の話しが多くて恐縮だが、オーディオ機器の魅力も同じ次元で把えることが出来ると思う。デザインや質感、触感のよいオーディオ機器も、きっと優れた特性をもち、素晴らしい音を出してくれるものではなかろうか。内容とは無関係な感覚や次元でデザインされたパネル。コストの制約からか安っぽい素材を無理にゴマかした使い方。ギクシャク、ザラザラした操作スイッチやボリュームの類。そんな機器で良い音を出したものには未だ一度もお目にかかったことがない。私の手許にあるオーディオ機器で真に魅力にとんだものはそう多くはないが、マランツの7や7Tのパネルは一級品だ。素材と仕上げの良さが感じられ、感覚的にはシンプルな、プリ・アンプはこうあるべしという設計者の思想や頑固な精神が沁み出ている。JBLのSG520のプリ・アンプも、少々劣るけれど、やはり一級品だろう。なによりも、そのデザイン感覚のシャープさが、このプリ・アンプの音と実によくマッチしている。マッキントッシュは全然、違う感覚だ。夢である。ロマンである。メカニズムの美というものの把えかたを私とは全く違う角度からアプローチして見事に調和させている。手許にはC28、MC2105があるが機械屋が、機械の冷たさ硬さに愛情をもって衣を着せたのが、これらのアンプのパネルの魅力だ。JBLの375ドライバーに537-500ホーンをつけたもの、それに075をむき出しで使っているが、必然から来た、これらのスピーカー・ユニットの外観は、それこそなんの虚飾もない。人はどう思うか知らないが、私はとても好きである。なにかで、おおいかくそうなどという気は全く起さない。仕事で使っているノイマンやアンペックスの機器も同じである。プロ機器はなおさら虚飾はない。
 最後に正直に一つ告白しよう。いろいろ理屈を並べたてたけれど、オーディオ機器は音のいいものは形もよくみえてくる。つまり、見た眼の悪いものからはいい音がしないといったけれど、中には、見た眼の悪さが気にならなくなってくるものもある。音がよほどいいのである。ただ、そういうものには見た眼にも虚飾だけはないのである。

テクニクス ST-3500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 黒い窓の中に原色系の派手なグリーンあるいはブルーの文字がケバケバしく浮かび、同じく安っぽい赤かオレンジ色の指針をとり合わせるというパターンが国産のチューナーやレシーバーの典型的な表情だったが、テクニクス、ヤマハ、ラックスなどの新しい試みによって新鮮で清楚な、精密間、高級感に溢れたスタイルが生まれはじめたことは喜ばしい。なかでは、通信機ふうのイメージでまとめたテクニクスが、性能を含めて好きだ。

ナグラ IVSD

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 テープデッキというよりはまるで精巧な時計やカメラを思わせるメカニズムとその仕上げの精密さで、驚くほどコンパクトな設計でありながらプロ用として絶対の信頼をかちえているところが実にニクい。純然たるプロフェッショナル用の設計であるところが、我々に馴染みの深い一般アマ機とは勝手の違う面が多分にあるが、類型のない(ライバルに同じスイスのステラボックスがあるにしても)発想に学ぶ面が多分にある。

JBL 4320

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 本来プロのモニター用として開発されたシステムだが、その充実した音の緻密さは、すべての音楽プログラムを一分のあいまいさもなく再生する。デザインだって、プロ用とはいいなから、家庭の部屋へ持ち込んで少しもおかしくない。むしろ、その直截な現代感覚はモダーンなインテリアとして生きる。シャープな写真が魅力的で、しかも、正直に対象を浮き彫りにして魅力的であるように、この明解で一点の曇りのない音は圧倒的だ。

ルボックス A77MKIII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 10号リールのかかる家庭用デッキの中では、最もものものしさが少なく、アンペックスkのメカニズムにくらべると使いこなしに多少の馴れが必要であるにしても、そこがヨーロッパ系のメカニズムの伝統ともいえ、安心して愛好家に勧められるデッキのひとつである。新形のA700も、77の発展というよりは全く新しいメカニズムで生れ変った本格的なマシーンだが、メカも操作系も実に洗練されていて不消化なところが全くない。

アンペックス AG500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 昨今の国産のオープンリール高級機のようにいかにもメカメカしい、ラウドにわめき散らすような、やたらと白い枠で囲んだ劇画調の子供じみたメカニズムにくらべて、AC500が何と洗練されて控え目にみえることか。むろんこれは7号リール専用機で、10号リール用としてのAC440Bはもう一段風格があるが、むしろ7号リールに徹したコンパクトな設計のよさが全体の調和を保っている点にこそ、AG500の魅力がある。

パイオニア Exclusive C3 + Exclusive M4

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 プリアンプのパネル・レイアウトは国産機の大半が目差している機能的・人間工学的な処理法のひとつの典型だが、ノブ類の配置や感触やレタリングなど、キャビネットの質感の良さも含めてかなり練り上げられて安っぽさを感じさせない点、ようやく日本にも本当の意味での高級機が完成しはじめたと言えそうだ。パワーアンプも神経がゆきとどいている。合わせて63万円という価格には多少の疑問も残るが音質も素直である。

QUAD 33 + 303 + FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 プリアンプの小型で精巧な造形処理と、パワーアンプの工業用機器を思わせる緻密な形態と、全く異質とも思える意匠を巧みに融合した手際の見事さ。意匠も色彩も他に類型の出現する余地の無いほど独特でしかも完成度が高い。初期の製品はいかにもトランジスター臭い粗さがあったが、現在の製品は音質の面でもまた一流である。この場合はチューナーもぜひ同じシリーズで揃えないと魅力が半減する。

マッキントッシュ C26 + MC2505

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 どの製品をとってもこれほど永いあいだ一貫して独特のデザインと音質のポリシーを保ち続けているところがJBLとは全く対照的ながら大きな魅力になる。ただしこのメーカーの製品は、放っておくとやや成金趣味的な或いはいくぶん図太い神経がちらほらみえるところがわたくしの好みとは本質的に相容れない部分で、しかし中ではそういう面の最も少ないのが、C26とMC2505の組合せだろうと思う。

タンノイ Autograph

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ガイ・R・ファウンテンのシグナチュアーで保証される英国タンノイの最高級システム。大型コーナーのフロント・バックロード・ホーンに同社が長年手塩にかけて磨き込んだ傑作ユニット、〝モニター15〟を収めたもの。音質は、まさに高雅と呼ぶにふさわしく、華麗さと渋さが絶妙のバランスをもって響く。ただし、このシステム、部屋と使い方によっては、悪癖まるだしで惨憺たるものにも変わり果てる。

アコースティックリサーチ AR-Amp

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 数あるアンプの中でもこれほど簡素で端正に整った美しい製品は少ない。仕上げが実に良く真鍮色の光沢のある磨き上げたようなパネルとツマミ、ARのマークと紅色のパイロットランプの対比の見事さは印刷や写真でなく実物を目にするまでは実感として伝わりにくいが、なにしろ魅力的なアンプだ。現時点では残念ながら音質が少々古くなってきたがデザインだけでも買いたくなる。そんな製品はそうザラにないだろう。

フォステクス FE-103Σ

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 特性の向上を目差して無駄を省いたごまかしの無い製品には、素朴ながら飽きのこない簡素な美しさがある。このほかにも、P610A、8PW1、5HH45,ゴトーユニットのトゥイーター各種など、海外ではグッドマンAXIOM80、ローサー各タイプ、アルテックの604Eや755E、ジョーダン・ワッツなど、それぞれに独特の、手にとって眺めるだけでも魅力的なユニットがいろいろある。そういうものはみな音質もいい。

JBL Speaker Units

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 スピーカー・ユニットというものは原則としてキャビネットに収めるのだから、外形などどうでも良いという考え方があるが、JBLのユニットは、磁束を有効に利用するための理想的な磁気回路の形状の追求や、大きな音圧にも共振したりたわみを生じたりすることのないダイキャスト・フレームというような、性能のオーソドックスな追求から、自然に生まれた美しい形態で、ネットワークも含めてどの一つをとっても何とも見事な形だ。

ヤマハ NS-690

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 JBLのL26〝ディケード〟とほとんど前後して発表されて、どちらが先なのかよくわからないが、むしろこの系統のデザインの原型はパイオニアCS3000にまでさかのぼるとみる方が正しいだろう。最近ではビクターSX5や7もこの傾向で作られ、これが今後のブックシェルフのひとつのフォームとして定着しそうだ。NS690はそうしたけいこうをいち早くとらえ悪心つも含めて成功させた一例としてあげた。

アルテック A5

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 アルテックの劇場用大型システム。とても家庭に持ち込めるような代物ではないという人も多いが、それは観念的に過ぎる。絶対安心して鳴らせるスピーカー、つまり、どんなに大きな音でびくともせず、よく使い込んでいくと小さな音にしぼり込んだ時にも、なかなか詩的な味わいを漂わせてセンシティヴなのである。形は機械道具そのもの。デザインなどというものではない。これがまた、独特の魅力。凄味があっていい。

フェログラフ S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ほかのスピーカーにちょっと類型のないほどのシャープ音像定位が、このスピーカーの第一の特徴である。左右に思い切り拡げて、二つのスピーカーの中心に坐り、正面が耳の方を向くように設置したとき、一眼レフのファインダーの中でピントが急に合った瞬間のように鮮鋭な音像が、拡げたスピーカーのあいだにぴたりと定位する。独特の現実感。いや現実以上の生々しさか。デザインのモダンさも大きな魅力。

タンノイ Autograph

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 コーナータイプという構造の制約から、十分に広い条件の良いリスニングルームで、左右に広く間隔をとって設置しなくてはその良さを発揮できず、最適聴取位置もかなり限定される。大型のくせにたった一人のためのスピーカーである。オートグラフのプレゼンスの魅力はこのスペースでは説明しにくい。初期のニス仕上げの製品は、時がたつにつれて深い飴色の渋い質感で次第に美しく変貌するが、最近はオイル仕上げでその楽しみがない。