Monthly Archives: 6月 1974

アキュフェーズ E-202

岩崎千明

スイングジャーナル 7月号(1974年6月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 商品として完成されたE202をSJ試聴室の机の上に置いて秘かに舌を巻いた。
 E202との初顔合せはすでに数10ヶ月前のプロト・タイプであった。すでに、その時見せつけられた高性能振りと、力に溢れるサウンドにおいて、言うべき言葉も無かった程に感服してしまったのだが、その外面的デザイン、特に仕上げの話に集中した。
「このアンプが20万前後だとすれば、20万円という少なからざる投資をする側の期待は、おそらく絶大なものであろうし、この外観上、パネル・デザインではなく表面の仕上げの不完全さからだけで幾分不満を抱いてしまうのではなかろうか。しかも購買者との最初の出合いはおそらく外観のみで、多くの面がユーザーの内側に入りこむことなく、決断を迫られるに違いない」
 ところでこの言葉は実は数ヶ月前に某社の高額アンプを示された時にもやはりメーカーの担当者に語ったと記憶する。日本のオーディオ・メーカーは、今までコスト・パフォーマンスという面を中心的に、あらゆる面を推進してきたため、高額コンポーネントで完備していなければならないはずの真の「高級感」、「豪華なフィーリング」高級投資者に向けるべき感覚やその満足感をよく知らないのではなかろうか。
 それというのも今や世界を席巻しつつある日本のアンプ、といえどもその国の最高級製品、例えばマッキントッシュ、マランツをはじめ米国における新らしいメーカーの諸高級商品の持っている、高級品のみの具える「フィーリング」を体得せんと意図した事が今までに無かったためか。
 ところが、である。今日、こうして目の前にある商品となったE202は、パネル・デザイン、外観と、何ら変わるところが無いにもかかわらず、まったくパーフェクトに完成されていたのだ。例えば、プロト・タイプでは安っぽさの残っていたメーターとそのグリルの成型について言えば、商品ではいかにも高級VU計のフィーリングそのもので、やや小型とはいえ、プロフェッショナル用のイメージをはっきりと感じさせる。ツマミひとつにしても、一見さりげないのに、指で触れてその感触の良さ、動きのスムーズさに底知れぬ信頼感さえ指先から感じ取れるのだ。つまりすべての面で高級商品のみの持っている豪華なフィーリングが満ちみちて、それが外観の上にもにじみ溢れているのである。
 国内メーカー製品も、ついに海外高級アンプにも負けないだけの豪華なセンスを秘めるに至ったかと、じっくりと見入ってしまったのだ。
 たまたま手元に量産第1号と称する大手ステレオ専門メーカーの20万近いといわれるプリ・メインアンプの新製品が参上した。このメーカーの商品企画の腕は抜群と定評あるのだから当然だが、このP社製にもE202に較べ得るだけの豪華で重厚な高額商品でなければ出てこないたたずまいを感じさせて、いよいよ日本製アンプが、量だけでなく質においても名実共に世界一になる日も遠くないのを感じさせたのは感激的ですらあった。
 その感激の真只中でのE202のSJ社の試聴が僅かなりともマイナスとされるような点がある訳がない。新着の「ザ・クルセイダース」のライブの力に満ちた明快なサウンドは試聴室に爆発し、分厚いコンクリート壁を隔てた編集諸氏の面々から「もう少し音を絞ってくれまいか」と陳情されたほどであった。
 そのサウンドに関してとやかくは言うまい。ただ伝えておかねばならないのは、すでにケンソニックの最高製品として発表されているC200、P300との組合せと切換えてもその迫力一杯のジャズ・サウンドは、信じ難いことにはE202においても殆んど変らない、という事実だ。ごくごく低レベルの歌において、E202に明快さが加わるという以外には。
 市販高級アンプの続出する此頃だが、今までの製品とはっきり次元を異にする、世界を目ざした超豪華アンプということになると、残念ながらこれだというものは滅多にない。しかし、ケンソニックE202こそは、そういう意味で、世界に誇り得る、海外においてもその良さをはっきりと認め得るプリ・メイン型アンプのベストと言っても良い。

ヤマハ NS-470

菅野沖彦

スイングジャーナル 7月号(1974年6月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ヤマハのスピーカー・システムとして最新型のNS470を聴いた。新しいNSシリーズのスピーカー・システムは、NS650、NS690を頂点としていずれも、まともな音を再生するスピーカーという印象で好きなものだが、(事実、まともな音を再生するスピーカーがいかに少いかというのが実感だから……)、今度のNS470という、いわば普及価格のシステムも一口にいって、バランスのよい、音楽本来の姿を再現してくれるシステムであった。やはり、さすがに楽器作りの長年のキャリアを待ったヤマハらしい体質が感じられる。このシステムは、NS690などで使われているものと同系の振動材を使ったソフト・ドーム・ツイーターを新開発のコーン使用の25cm口径ウーハーと組み合わせた2ウェイであって、クロスオーバーは2kHz、エンクロージャーは密閉型のアコースティック・サスペンション式、ブックシェルフ・システムである。300×577×275・5(mm)というサイズは、ブックシェルフらしいプロポーションで、比較的重い13・5kgという重量だが、これなら、たしかに棚へ乗せて使う事が出来そうだ。あまりにも大きく、重いブックシェルフ・システムが多いので、このシステムぐらいの大ききのものをみるとほっとするのである。正面グリルはオレンジとグリ−ン系の2種が用意され、好みで選択出来るが、モダーンなカラー・タッチは若い層に喜ばれるだろう。エンクロージャーの仕上げはきわめて高く、木工の得意なヤマハらしい美しい仕上げである。ただし、表面木目の仕上げ材はツキ板でなく木目プリントのビニール材である。つまり偽物である。コストからして、こうせざるを得ないのかもしれないが、私個人の気特を率直に述べれば、趣味の世界に偽物が入りこんで来るのは不快である。もし、木が使えないならば、ビニールらしい仕上げでカラフルにする事を考えたほうがまともではないか。わざわざ木目プリントをしてまでも木にみせようという根性のデコラやビニールや紙を見ると、いじましくて嫌になる。デコラやビニールそのものを否定しているのではなく、無理に木に見せようとする態度が嫌なのである。このスピーカーの性能や音質は、明らかに、コンポーネント・システムとしての品位の高さを持っていると思うので、それだけに、この仕上げにはどうしても不満なのである。あまりにも巧みに張ってあるので初めは解らなかったが、解った途端に音まで悪く聞えてしまった。こんなことはどうでもいいという人には音だけについて語らねばなるまいが、音は本物である。ステレオフォニックなプレゼンスの豊かさ、音場の奥行の再現、モノフォニックな音像の定位の明解さと、楽音のリアリティに満ちたタッチの鮮やかさは、このクラスのスピーカーとしては高い讚辞を呈したい。小型ながら、かなりの音圧レベルも再現し、ジャズのパルシヴな波形にも頼りなさがない。弦楽器やピアノの倍音のデリカシーもよく出るし、小音量での音のぼけや鈍い濁りもない。ドーム・ツイーターは能率をあまりかせげないので、ウーハ一に対してのレベルのノーマル・ポジションはほぼマキシマムに近いが、ウーハーの中高域が軽く明るいので、部屋の特性か低域上昇タイプでも重く暗くなることがない。32、000円という価格は、NS650と比較してやや割高という感じもするが、実際には値上げをしていないNS650が割安だという評価が妥当だと思う。上手に組み合わせれば、10万円台でトータル・コンポーネントとして組み上げる可能性をもったシステムで、これだけバランスのよい、音質も美しく、しっかりしたスピーカー・システムは決して多くないと思う。ジャズを大音量で聞くというケースでは、さすがに低域の敏感と力強さには物足りなさも残るけれど、全体のバランスを考えれば、これは我慢するべきといえるだろう。スピーカー・システムというものは、必らず、どこかを重視すればどこかが犠牲になるという宿命をもっている。ましてや、ある範囲でコストを限定すれば、これはしかたのないことなのである。総合的に見て、このNS470いう新製品はヴァリュー・フォー・プライス、つまり、買って損のない価値をもった快作といえると思う。最近好調なヤマハのオーディオ製品への力がよく発揮されたシステムである。

アルテック Crescendo (605B)

岩崎千明

スイングジャーナル 7月号(1974年6月発行)
「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ・システム紹介」より

 大口径スピーカーのみの持てる、ハイ・プレッシャー・エナジーの伝統的な迫力の洗礼を受けたのは、アルテックの15インチによってであった。38センチという言い表わし方ではその迫力の象徴を表現するには絶対的に不足で、オレにはどうしても15インチ以外はピンとこない。
 それは昭和26年頃の、まだ戦後の焼跡の生々しい銀座の松坂屋裏のちっぽけな喫茶店であったっけ。重いドアを押して中に一歩踏み入れた途端、奥まで紫煙が立ちこめ、そこに群がる黒人兵達の嬌声やらどなり声を圧するが如く、ニューオリンズ・ジャズのホーンの音のすさまじさ。動くこともできず思わずその場にたたずんではしばし、呆然としていた。
 初めは本物のバンドが紫煙の奥に在るのかと、いぶかしくなるほどにそのサウンドは生々しくリアルで力に満ちていた。奥に入っていって、そのジャズ・エネルギーがなんとスピーカーであることを知らされた。その名、アルテックの603Bは、死ぬまで忘れられない名としてオレの脳裏に刻み込まれたのだった。この邂逅はその後のオレのオーディオ・ライフへの道を決めてしまった劇的なものであった。
 この戦後の東京では最も古いに違いない喫茶店「スイング」は今も渋谷は道玄坂の一角で、その時のあの15インチ〝603B〟が、今もなお健在で集まってくる若人に20年前と同じ圧倒的な迫力をもって応じている筈である。
 この603Bが、今日の新たなる技術をもってリファインされたのが「クレッセンド」のユニットの605Bに他ならない。
 さて、15インチ2ウェイ・コアキシャル型の605Bは、その名から推測されるようにプロフェッショナル・モニター用として名の轟く604Eを基準とした製品だ。ユニット自体は604Eの11万強に対して約9万と安い。だから、しばしば604Eの普及型というとらえ方をされる。事実外観上の差はほとんどなく、マグネット・カバー上の型番を見るまでは見分けることすら難しい。
 だが、604Eが音質チェックを目的としたモニター(監視用)であるのに対して605Bはあくまで音楽再生を目的とした、アルテックきっての高級スピーカーなのである。つまり、音楽をサウンドとしてではなく、音楽とのかかわりを深く求めんとして再生する限り、この605Bの方がより好ましいのである。それは音色の上にもはっきりと現れて604Eがしばしばクリアーであるが、堅い音として評されるのに対して、605Bのそれは何にも増して「音楽的な響きをたたえた暖か味」を感じさせる。604Eの力強いがなにかふてぶてしく、鮮烈であるが華麗ではないサウンドに対して、605Bはこのうえなくバランス良く豊麗ですらある。
 つまりいかなるレベルの音楽愛好者といえどもこの605Bの魅力の前にはただただ敬服し、感じ入ってしまう品の良いサウンドであることを知らされるに違いない。しかもこのサウンドは、単に音が良いというだけでなくしばしば言われる〝シアター・サウンド〟を代表するアルテックという、世界で最もキャリアのある音楽技術に裏付けられた物理特性あっての成果なのだ。電気音響界きっての誇りと伝統と更に現代技術の粋とを兼ね備えた音楽再生用スピーカーとしての605Bの優秀さは、もっと早くから日本市場にも紹介されるべきであったのだ。
 これがかくも遅れたのは、このスピーカーが抜群の高音響出力を持つためだ。高いエネルギーを可能とすることには付随的なプラスαとして無類の高能率があるのだ。そうした場合、スピーカー・ユニットを組込むべき箱は実に難しく、多くの点を規制され充分な考慮をせずには成功しない。箱の寸法とか補強措置や板厚のみならず、その材料にまで充分に注意を払わねばならない。つまり箱に優れたものをなくしては優れた本来の性能を出せなくなってしまうのだ。
 幸いなるかな日本市場では605Bは「クレッセンド」と呼ぶシステムとして優れたエンクロジュアに組込まれた形でユーザーの手に渡ることになっている。つまり605Bの良さは損なわれることなく万人に知られ得るに違いないし、それはしばしば誤られるごとく「ウエスト・コースト・サウンド」といわれるものではなく、この30年間常に、いや創始以来ずっとハイファイをリードし続けた、アメリカのオーディオ界の良識たるアルテック・サウンドの真髄を発揮した「サウンド」なのである。
 まずクレッセンドが比類なく高能率、高音響出力という前提では、アンプにはさして大出力は不要ということになる。その結論はひとつの正しい判断として間違いないし、そうした決定から国産の平均的アンプ、40/40W程度のものを対象としても、アルテック・クレッセンドはその実力を充分に発揮してくれ、そのサウンドは、間違いなくそこに選ばれたアンプが「かくも優れたものであったか」ということを使用者におそらく歴然とした形で教えるに相異あるまい。
 だからといって、このひとつの結論としてのそのサウンドがアルテック・クレッセンドの良さをフルに引き出したのかというと、残念ながら決してそうではないのである。国産の40/40Wのアンプは矢張りその価格に見合った性能しか秘めていない。倍にも近い価格の、だから多分高出力になっているに違いないより高級なアンプの持っている諸特性を考えれば40/40Wの手頃な価格のアンプはやはりそれなりの特性でしかないのだ。
 つまりクレッセンドの内蔵する
アルテックの605B、その輝やかしい歴史と伝統に支えられた15インチ・コアキシャルは、もっとずっと、否、最高級のアンプで鳴らした時にこそ、最高の性能を発拝してくれるのである。
 それはイコライザー回路から、トーン・コントロールから、およそ回路の隅々にまで至るすべての点に最高を盛り込んだアンプのみがアルテックの傑作中の傑作を最も本格的に鳴らしてくれるのである。
 そしてそういう結論を大前提とし、なおかつ、大出力は必要条件ではないとしてもすべてを満たし得るアンプ、その少なくない国産品から選べば、次の3機種こそアピールされてよかろう。①ソニー:TA−8650②オンキョー:Integra711③ヤマハ:CA1000 以上のアンプは最大出力は100/100Wを下回るものの価格的にはヤマハを除いては割安とは言い得ない。つまり、メーカーとしてはどれもがそのメーカーの最高機種としての誇りと技術を託した高級アンプなのであり、そうしたベストを狙ったもののみがクレッセンドの良さを最も大きく引き出せよう。特にヤマハのアンプは品の良さと無類の繊細感で.この中では最高のお買物として若い人にはアピールされよう。ソニーの場合新開発FETアンプの持つ真空管的サウンドを買ったのだ。オンキョー711については、使うに従ってその良さが底知れぬ感じで期待でき、是非これに605Bを接いでみたい誘惑にかられているのだ。プレイヤーはプロ志向の強いトーレンスTD125MKII。カートリッジとしては、使い易さと音の安定性からズパリ、スタントン600EEを推そう。

オルトフォン SL15

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 個性的な魅力と欠点が交錯して存在した忘れがたいカートリッジであるS15に続いて発表されたこのSL15は、しばらくの間はSPUの存在があまりにも大きいために忘れていたのだが、折にふれて使ってみるとオルトフォンの音を受継ぎながら現代化された魅力が次第に感じられてきた。私にとって、いわば大器晩成型のカートリッジである。ストレートな表現ながら適度の情趣性がある。やはり、オルトフォンはオルトフォンなのだ。

マッキントッシュ MC2105

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 C28プリアンプをはるかに上回るパネルデザイン。片チャンネル150ワットの大出力と、重厚な音のイメージは、このアンプの大きさ、重さ、デザインと完全に一体になっていて、どこにも無峻や違和感がない。ブルーにイルミネイトされる出力レベル・メーターの色のギリギリの線で嫌らしく青くなるのを押えた明度と色調。まさにアクアブルーの自然の神秘さを再現する。これを真似た国産のアンプのすべては嫌らしい失敗作である。

オルトフォン SPU

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 数多くの海外製品、国内製品が発表され消えていく中にあってステレオ初期以来MCカートリッジの王座を維持している実力は大変なものである。豊かな低音をベースにして明快で適度の響きをもった中域から高域のソノリティはレコードファンの誰しもが感じるあの魅力をもっている。感覚的に古さを感じてはいながら使うたびに一種の安心感と新しい喜びを感じさせるのは何なのだろうか。現在、消えてしほくない製品の筆頭である。

シュアー V15 TypeIII

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 エラックとクロスライセンスをもつシュアーはMM型のオリジネーターであり製品の豊富さでも屈指の存在である。V15タイプの第3世代として登場したV15/IIIは、シュアーサウンドと呼ばれたV15/IIを音質面、物理特性面ともに一段とリファインして完成したシュアーの傑作である。フラットに延びきった周波数レスポンスとトラッキング能力は抜群で、V15/IIIを聴いてみて髄15/IIの色づけの濃さが確認できるようだ。

デッカ Mark V

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 独特な垂直系のカンチレバーを採用したダイレクトカップリング方式とマトリクス内蔵の構造を一貫して通しているのは異例な存在である。従来から音色上でも異色といわれ、ある範囲のソースに対しては抜群の表現力をもつ、いわば単能カートリッジといわれていたが、このMKVは伝統を保ちながらよりバーサタイルな性格をもっている点がよい。明るく輝かしい音ながら緻密であり、ニュアンスの表現でも見事である。

エンパイア 1000ZE/X

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 このカートリッジほど使用する人によって評価が変わる例はあるまい。けっして表面的に個性の強さを感じるような性格ではないだけに大変に興味深いものがある。ヨーロッパ系のカートリッジがもつ明快さや輝きといった美点こそないが、都会的に洗練された陰影の深い音はソフィスティケートされた、このカートリッジならではの魅力であり、欠かすことのできない存在である。内面的な個性の豊かさでは、右にでるものはない。

B&O Beogram 4000

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 いわゆるヨーロッパ調デザインのオリジネーター的存在であるB&Oのオーディオ製品はオーディオに限らず世界のインダストリアルデザインに影響力をもつといわれている。ベオグラム4000は超薄型のシステムながら完全にフールプルーフな純電子的コントロールによるフルオートプレーヤー機構を備えている。メカニカルなフルオートにくらべレコードサイズの自動識別、自動変速などの新機能を備えた未来志向型の典型だ。

エンパイア 598 New Troubadour

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 すべてを濃いゴールド系の色調で統一したニュートラバドール598は、旧タイプほどのアクの強さは、薄らいでいるがアメリカならではつくりだしえない雄大なスケール感をもっているのは見事というほかない。システムのトータルなバランスは、完全なハウリング対策をベースとしているだけに優れたものがある。機構的には実用上で不便に感じる面ももつが、却って自己主張の強い魅力と受取れるところがオーディオである。

トーレンス TD125MKII

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 かつてのTD124の面影こそないが数少ないヨーロッパ系のマニュアルプレーヤーシステムの最右翼に位置する製品である。薄型でキュービックなデザインであるが完全なハウリング防止対策、交換可能なアームボード、クラッチ機構付のサーボベルトドライブなどプレーヤーシステムに要求される基本を確実に把握したトータルバランスの良さでは、DD方式を武器とした数多い国産プレーヤーシステムの遠く及ばざるものがある。

ダイヤトーン DA-A100

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 パワーアンプが自己の存在を主張し、フロントパネルをメーターなどで装う傾向が強いなかにあって、このアンプのように機能に徹したデザインはオールドファッションではあるが不思議に心をひかれる魅力がある。音の隈どりがナチュラルでローレベルの音の消え方が美しい。現在ではアンティーク化したと感じた往年の名器マランツ♯7に精気をよみがらせ、新しい原題の音の魅力として私に教えてくれたのは、このアンプなのだ。

マッキントッシュ MC2300

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 超弩級ハイパワーアンプ。片チャンネル300ワットのモンスター・アンプ。その次元の違う再生音のスケールの大きさは、鳴らしてみれば納得するだろう。少々ちゃちなスピーカーでもガッシリと鳴る。ただし、いい気になってパワーを入れるとヴォイス・コイルが焼けてすっ飛ぶ。8ℓFFキャディラック・エルドラードを思わせるアンプだ。重さに匹敵する価値を感じる事だろう。こういうアンプを他に先がけて商品化する底力が凄い。

ラックス SQ38FD

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ソリッドステートアンプがパワーFETの開発で新時代を迎えようとする昨今、管球式アンプに意欲を燃やすLUXの存在は貴重である。SQ38FDはプリメインアンプとして異例な管球式であり、プアンプとパワーアンプを独立して使うと、さほどとは思わないがプリメインアンプとして使えば独特の魅力があるインテグレートアンプの特徴をもつのは好ましい。管球式アンプの音は豊かで柔らかいという誤れる伝説の作者でもある。

ヤマハ CA-1000

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 シンプルで、かつ精巧な印象を受けるヤマハのアンプデザインは強いポリシーの表現であり個性的である。CA1000は連続可変型ラウドネスコントロール、話題を集めたA級B級切替などの特別機能を備え、音質面ではスッキリとした格調の高さが感じられる。独特なデリケートさを70Wというパワーが巧みにカバーするが、魅力をひきだすためにはカートリッジ、スピーカーを選ぶ必要がある。ナイーブな感受性が魅力である。

デンオン PMA-700

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 シリーズ製品ながらPMA700は、PMA500とは性質が異なっている。ちょっと聴くと誰しもPMA500のサウンドに魅力を感じるだろうが、内面的な表現力の大きさでは比較にならぬ格差があることが、聴き込むにしたがって判るはずである。いわば体質的に異なった大陸的な稽古をもつためにオーディオ道楽をかなりしないと魅力はつかみ切れない音である。これがボザークと共通なPMA700の魅力だ。

デンオン PMA-500

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 プリメインアンプが現在ほどの完成度をもたなかった二年半ほど以前、初めて聴いたPMA500の音は鮮烈な印象そのものであった。アンプとしての基本的性能を抑えたうえで、音楽をいきいきと躍動感に富んで聴かせるパフォーマンスは見事である。スッキリとした音ながら色あいは濃いタイプで、ステレオフォニックなプレゼンスの再現に優れる。いまだに、このクラスの新製品でこのアンプを上回る機種がないのは何故か。

フェログラフ S1

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 いわゆる英国の音がもつ伝統を守りながら新しい英国系モニタースピーカーは大幅なグレイドアップをなしとげたようだ。比較的小型で奥行きが深いプロポーションをもち、拾い周波数レンジと能率が極めて低いことが共通な特長といえよう。S1システムは、バランス上、やや高域と低域の周波数レスポンスが少々する傾向をもつが、ステレオフォニックな拡がりと、定位の鮮明さに優れる。格調が高く緻密な音は素晴らしい。

JBL 4320

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 JBLプロフェッショナルシリーズのモニタースピーカーは現在4機種あるが近日中に、さらに充実したシステムがシリーズに加わると予測されている。4320は旧D50SMモニターをベースとしてモディファイしたプロフェッショナルモニターの中心機種である。とかくモニターといえばドライ一方の音になりやすいが、表現力が豊かであり強烈なサウンドも、細やかなニュアンスも自由に再現できるのは近代モニターの魅力だ。

JBL L26 Decade

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 JBLの新世代を象徴する新しい魅力をもったシステムである。米国では約130ドルで現在ではJBLのもっともローコストなシステムであるが、このディケードの音は、まさしくJBLの、それもニュージェネレーションを感じさせる、バイタリティのあるフレッシュで、かつ知的なサウンドである。米国内でも爆発的な人気らしく、JBLのラインのほとんどがこのシステムでしめられていたのを見ても裏付けられるようだ。

アメリカ・タンノイ Mallorcan

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 マローカンは、英タンノイのユニットでは比較的なじみの薄いモニター12ゴールドを米タンノイがブックシェルフ型エンクロージュアに収納したシステムである。英国の音のティピカルな存在である。タンノイの音から想像すると驚かされるほど、このマローカンの音はボザーク、KLHと共通性をもった米東岸の音をもっている。まさにニューイングランドの音といってよいだろう。小型ながら適度のスケール感と高品位な音が魅力。

ジョーダン・ワッツ Module Unit

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 いまはなき、ローサーと並ぶフルレンジユニット、グッドマンAXIOM80の設計者であるEJジョーダンが自らの名を冠したユニークなフルレンジユニットである。10cm口径の一体成型軽合金コーンにベリリュウムカッパー線を3本使ったダンパーなど構造上でも異色の存在である。明るく滑らかで反応の早い音は小口径フルレンジユニットのファンの琴線に触れる魅力であろう。現在数少ない個性豊かなユニットの典型である。

マランツ Model 500

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 マッキントッシュも一目おく優れたアンプ。いかにもアメリカを感じさせる力量アンプである。伝統のゴールド・アルマイト・フィニッシュのパネルにシンプルな、それでいて美しいツマミ。メーター周りは、特に、よきにつけ、あしきにつけアメリカ的だ。音も凄い。すっきりした透明感で、しかし力に溢れた量感。ほかのアメリカ製ハイパワーアンプより一桁上のクォリティ。品位の高さではMC2300に匹敵する両雄だ。

マッキントッシュ C28

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 シンメトリックなツマミ配置が完成の域に達したコントロール・アンプ・デザイン。なんといっても、イルミネーションのグラス・パネルが創り出す、ファンタジックな効果が印象的。絶対に指紋をつけっぱなしにしておけないという代物だ。もし、これを指紋だらけで平気で使っていられるとしたら、そんな無神経な奴は死んでしまえ! である。重厚な落着いたサウンドは、やや陰りを感じさせる渋さで黒光りといったイメージだ。