Monthly Archives: 5月 1968

トリオ MT-75

トリオのシステムコンポーネントMT75の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

MT75

サテン M-11/E

サテンのカートリッジM11/Eの広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

M-11E

パイオニア T-5000

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1968年5月発行)
「新製品試聴記」より

 パイオニアT5000。4トラック・ステレオ・テープ・デッキとして同社が初めて開発した意欲作である。音響専門メーカーとしてパイオニアがこれで完全に全製品を網羅することになった。もともとスピーカーの専門メーカーとしてスタートした同社は今や音響機器の綜合メーカーとして名実共に横綱格。数年前からターンテーブルが好評で回転機器の分野でも信頼度を高めた。マニアが、パイオニアのテレコを期待したのも無理はない。
 そうした大方の期待の中で登場したのが、このデビュー作T5000であるが、さすがに数々の独創的なアイデア、機構をもったオリジナリティに溢れた製品だと思う。この製品の出現で、従来、とかく面倒くさがられたオーブン・リール式のテープ演奏が、ずっと楽になり手軽に扱えるようになったといってもよい。つまり、オープン・リール式のテープは、あのペラペラしたものを狭い間隔(キャプスタンとピンチローラーの間やヘッド・ハウジング)を通して引張り回し、片方のリールに巻き込むのにずい分厄介であったが、T5000では大巾に簡略化されている。その仕組みは、テープを両脇からはさんで駆動するキャプスタンとピンチローラーのうち、後者はパネル内に納っていて、テープをかけてスタートする際にハネ上ってはさむ仕掛になっている。だから、狭いギャップなどというものはなく実に扱い易い。そして、4トラックの往復再生と録音が自動逆転機構(手動も可)で安定した動作が得られるという至れり尽せりの機構を備えている。ピンチローラーが中央にあって駆動すると書いたが、その両側にそれぞれの方向専用の消去ヘッドと録再ヘッドが2個づつ、計4個配置されていて完全なシンメトリック・アレンジメントで住復作動のデッキとして大変よく練られた設計だ。自動逆転機構は今やこの種のテープデッキの必須条件といってもよく、このT5000では、テープの両端にセンシング・テープをはっておこなう。長いプログラムの録音など、テープをかけかえたり、ひっくりかえしたりしないで往復録音可能というのは大変便利で、この機構を持たないテレコを使っていた方にはその有がたさのほどが分るだろう。そして逆転の際の立上りスピードが実によく、実用上ほとんど瞬間的に規定スピードとなる。もしこの立上りが悪いと、その間まことに不快だし、録音ソースが連続していると穴があくことになるから、これは大切な問題なのである。ワン・モーターでよくここまでの性能をだしたものだ。
 再生操作面と録音のそれとをステップで処理した鮮やかさ、VU計内のパイロット・ランプが、再生時は白、録音時は赤に切り換るところなどはなかなかの冴えを感じさせる。左右リールの円形と巧みなバランスを見せるヘッド・ハウジングの扇形デザインも美しい。
 実際に使ってみると動作は大変スムースで確実である。欲をいうとプレイ、ストップ、そして早送りのレバーがややかたいこと、録音レベル調節ボリュームのツマミの左右の位置や形態にもう一工夫ほしい気もするが、その他の点では大変すばらしいテープ・デッキである。音響専門メーカーとして、音マニアの気質を知り尽した心増いばかりの商品。そして肝心の音は実に明解でシャープな切れ味である。他の同種のテレコと多数比較できなかったが、このクラスのものとして最高の音質だと思う。録音のいいテープだと、レコードからは得られない安定した豊かな肉づきをもった音が魅力的。レコードという便利で、すばらしい音のプログラム・ソースが、がっちりと網を張っているにもかかわらず、4トラックのレコーデッド・テープが着実に愛好層を獲得していることは何を物語っているか。本誌でも再三テープ音楽のすばらしさについては取り上げられている。
 昔はレコードと同じ程度のクォリティの得られるテープレコーダーは大変高額で手が出なかった。このテレコは5万円台だが、同価格のレコード・プレーアーと比較してそのクォリティを考えるとまるで夢のようである。

オルトフォン社長に聞く

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1968年5月発行)
「オルトフォン社長に聞く」より

 オルトフォンといえば世界一のカートリッジの代名詞。まず、その名を知らぬ人はいないだろう。しかし意外にそれ以上のことは詳しく知られていない。無理もない。オルトフォンというメーカーは北欧デンマークにあって、本来プロ機器専門のメーカーなのである。メッキ設備からプレス機、そしてカッティング・マシーンなど、レコードを製造するためのすべての機械を作っている特殊なメーカーである。そして、そのカートリッジとトーン・アームだけが、一般愛好家にも縁がある商品で、このところ高級ファンを中心に広く使われるようになった。オルトフォンという名前を聴いただけで、艶やかで重厚な、豊かに響く音がイメージ・アップするファンも少なくないだろう。オルト(ギリシャ語のパーフェクト、つまり完全)フォン(ラテン語の音)の名のごとく、それは現在、私たちが入手し得る最高のカートリッジである。
 このオルトフォンの社長ハ−ゲン・オルセン氏が初めて来日した。それを機会に早速オルセン氏に会見を求め、オルトフォンという企業について、それを代表するオルセン氏の、音についての考えなどを詳しく聴くことができた。私の質問に答えるオルセン氏は気品のある初老の紳士でおだやかな風貌の中にも鋭い感性と技術者らしい潔癖性をしのばせる。
 以下、氏との対話をもとに筆者の印象も加えて紹介するとしよう。
 まず、オルトフォンという会社、正しくはフォノフィルム・インダストリーとはいかなる会社か?
「1918年に二人のトーキー・エンジニア、ピーターセンとポールセンによって創設されました。そして、1943年ぐらいまで、トーキー関係の仕事を専門としてきたのですが、この年からレコード製造機器の製造を始めました。この頃はデンマークは第二次大戦中で大変困難な時代でしたが、1946年に初めてカッター・ヘッドを完成しました。これはヘッドからのフィードバックによってカッティングしている音をモニターできるという点で世界で初めてのヘッドでした。このカッター・ヘッドで切った原盤を試聴するについて、よいカートリッジがないことを知り、続いてカートリッジの製造に着手したわけです。もちろん、当時はモノーラル・カートリッジで、タイプA、タイプCと呼ばれるものです。このタイプCカートリッジは大変好評で世界中のレコード会社や放送局からの注文が殺到しました。1951年から数年間のことです。そしてステレオ時代になったのですが、初期のステレオには問題がありましたが、私共が最初のステレオ用のカッターヘッドを作ったのは1959年で、同時にステレオ用のムービング・コイル・カートリッジを作りました。これが、SPUシリーズです。私共の会社は全部手づくりで製品を仕上げていますので、そんなに数はできません(現在月産7000個)、同じ形のものでも年々性能の向上があります。」
 思ったより新しい会社だ。タイプA、タイプCのモノーラル・カートリッジも日本での使用者が少くない。そしてSPUシリーズというカートリッジは、オルトフォンの名を完全に浸透させた傑作で、ステレオ・カートリッジの名品である。その後、S15という新型を出したが、残念ながらあまり評判時よくなかった。これについてオルセン氏は
「S15は優れたカートリッジです。SPUより一段と進歩した製品です。しかし、一つだけ、このカートリッジについて誤解されていることがあると思うのです。それは、ヴァーティカル角が完全に15度のカッティング・ヘッドで切られたレコードだけを考えて設計されている点です。実際にアメリカや日本ではカッティング角が15度のものばかりではなく、そうしたことでこのカートリッジが受け入れられなかったかもしれません。」
 ちょっと本誌の読者にはむずかしいかもしれないが、S15も悪くはないということだ。そして、1年後にその不評の巻き返しを計るかのごとくSL15が発売されたのであった。このSL15は期待にそむかぬ優秀な製品で好評を得た。
「SL15はS15より設計基準を広げ、広い適応性を計りました。同時にSPU、S15の開発時にはできなかったことをSL15では実現しています。SL15は今までのオルトフォンの中での最高のカートリッジです。」
 自信満々のオルセン氏は説得力をもって語る。
 オルセン氏がこの会見を通じてもっとも強調したことは、音響機器についてのセールス・トーク、つまり宣伝文句のナンセンスについてであった。オルトフォンのカートリッジやアームについて大きな宣伝文句をもって表現されることは好まないというのである。オルセン氏の語ることはすべて技術的な裏付けのあることであり誇大な表現は一切しないということをくり返しくり返し力説しながらカートリッジの針圧の軽量化の必要性と、一方では過度になる危険性、針先のコンプライアンスについての最適値についてなど、こまかい技術的な話しが続いた。
 ところで、カートリッジの最終チェックはどういう方法をとるか。つまり、測定できるファクターはすべて厳格に測定することはもちろん、私の聴きたかったのは音を決めるにあたって耳による聴感をどう扱っているかの問題だった。
「ご質問の聴感テストについてですが、実は製品の開発、チェックを問わず、これをたいへん重視しています。新しい機構や仕様を採用する時、新製品の開発にあたっては、たくさんの耳のよい人たちにモニターしてもらって意見をききます。そして、私たちの社内での試聴を最終決定にします。製品の検査としては100個に1個の抜きとりで最終測定と試聴をします。私の経験では、100個に1個の割に検査していけばまず問題はないと思うのです。なぜなら、各プロセスにおいて厳重な検査がされ、組立てはすべて手で慎重におこなわれるからです。」
 聴感テストにはどういうレコードを使うか? これは大変重要な問題である。つまり、聴感によるテストには、聴感と科学的な分析とを関連づけて耳を測定器のように利用する方法と、もう一つ完全に感覚器として美意識に結びつけて評価するものとがあるからだ。後者の場合は、とくにどんなレコードを演奏するかということは非常に重要なことだといわねばなるまい。
「試聴に使うレコードは90%以上ドイツ・グラモフォンのレコードです。」
 しめた! 実際私はそう思った。実は飛び上らんばかりに嬉しかった。ドイツ・グラモフォンのレコードはクラシックが中心だから本誌の読者にはあまり縁のない話と思われるかもしれないが、オルトフォンのカートリッジほどグラモフォンのレコードを、すばらしく再現するものはない。これは私がつね日頃感じていたことで、私なりの空想で、オルトフォンのカートリッジとグラモフォンのレコードの音溝の形状とは非常によくあい、相互関係的なものがあるのではないかと、思っていたのである。というよりも、グラモフォンのレコードはオルトフォン以外のカートリッジでかけた場合、音色に異質なものが加わるというような事だけではなく、時に歪っぼい不安定な再生音になることすらあるのだ。そして、逆は真なりとはいかないところが不思義で、オルトフォンのカートリッジはいかなるレコードをかけても不安定になることがない。これは、オルセン氏の次の説明が理解の糸口となるように思われる。
「商品としての機械は誰がどう使おうと常に安定した動作が得られるものでなければなりません。そのためには極度に軽い針圧や、高いコンプライアンスは好ましくないと思います。また、針先の形状は非常に重要です。特に最近のダ円針については問題があります。私共はカッターを作っていますので、レコードの溝については徹底的に解析しています。一口にダ円いっても正確なダ円針はそうありません。オルトフォンの針先はそうした点で完全に磨かれ、検査されています。」
 これをまとめて私なりに解釈するとこういうことになる。聴感によるテストのうち、感覚的な美的判断という点では、オルトフォンのカートリッジは、あの重厚な豊かなグラモフォン・レコードの響きへの共感をもってなされる。つまり、ジャズ・ファンにはやや縁遠いが、それはベートーヴェンやブラームスの、そしてベルリン・フィルの伝統的な重厚な響きである。そして、カッティング・マシーンのメーカー、オルトフォンのレコードへの徹底的な理解の成果は、オルトフォン・カートリッジの機器としての万能性、安定性として現われている。この結論は、次のような少々意地の悪い質問によって導きだしたものである。〝オルセンさん、もしAという人がオルトフォン・カートリッジを買って、カラヤン指揮のベルリン・フィルによるベートーヴェンの交響曲をグラモフォン・レコードで聴き、すばらしいカートリッジだといったとします。そして、Bという人はコロムビア盤のマイルス・デヴィスを聴いて不満をもらしたとします。あなたはこれをどう解釈されますか?〟

ティアック A-2050

ティアックのオープンリールデッキA2050の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

A2050

ソニー Hi-Fidelity

ソニーのオープンリールテープHi-Fidelityの広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

Sony-Tape

パイオニア PL-41C

パイオニアのアナログプレーヤーPL41Cの広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

PL41

アイワ TP-1012

アイワのオープンリールデッキTP1012の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

TP1012

サンスイ AU-222, AU-555, TU-555

サンスイのプリメインアンプAU222、AU555、チューナーTU555の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

AU555

ナショナル SC-660

ナショナルのシステムコンポーネントSC660の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

SC660

アルテック Magnificent (A7-500W-1)

アルテックのスピーカーシステムMagnificent (A7-500W-1)の広告(輸入元:エレクトリ)
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

A7-500W

オーム PARROT66

オームの交換針PARROT66の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

Parrot66

ソニー SS-2800

ソニーのスピーカーシステムSS2800の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

SS2800

ラックス SQ505

ラックスのプリメインアンプSQ505の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

SQ505

パイオニア T-5000

パイオニアのオープンリールデッキT5000の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

T5000

トリオ SC-201

トリオのスピーカーシステムSC201の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

SC201

サンスイ AU-555, アコースティックリサーチ AR-Amp

岩崎千明

無線と実験 6月号(1968年5月発行)
「新型プリメインアンプを試聴する サンスイAU-555」より

まえおき
 この原稿を本誌に間に合わせることができたのは、編集者の大へんな努力のたまものといえます。というのはこの原稿がきわめて特殊のケースにより、特殊な状態のもとで書かれたため締切りぎりぎりだったからです。
 メーカー以外の人間が、この原稿を書いた時点で未発表の製品を手にすることができるのは、ちょっと例のないことだろうと思うからです。そして、この原稿のネタとなった新型アンプを見せて頂いた山水電完KKにも誌面をかりてお礼を申し上げます。
 山水から新型アンプが出るという噂を伝え聞かれたのは、東京で桜の満開に近い頃のことだった。もっともこの種の噂というものは、しょっちゅ出るものらしい。そして、それは多くの場合、競争メーカーから出される作戦的なもののようである。相手メーカーから新型発売のニュースが流されるというのは、ちょっと変な感じがするが、需要者は現時点での製品を買うことをためらってしまうことになるので、そのメーカーの製品販売を直接押えるという巧妙な戦略的作戦になるわけだ。
 もっとも新型発表近いという時に、いやがらせを兼ねてすっぱぬきを強行して、発売される新型のイメージを薄れさせようというイジワルな兢争メーカーも少なくない。
 この辺の事情は、もっと商売の額の多い、したがって競争もはげしいクルマのメーカーを見れば、Hi−Fiメーカーにおけるより高度のテクニックが展開され、実例から判断のたしになるようだ。
 ちょうどその頃、昔からの友人でくるま気狂いのトーキ関係の技術屋さんから、アンプを探してくれないかと依頼されていた。手軽に使えて、手軽に買えて、しかも性能も十分よく、多用途のHi−Fiアンプというめんどうな希望だった。
 その時点で、これを探すと、市場にはトリオのTW61ぐらいしかない。ラックスSQ77Tの方が好きなんだが、あれは音楽マニア用にしか作っていないとうそぶいたかたの顛を思い出して、これ幸いときっかけに利用して山水に尋ねてみたのである。「どこからそんなことを聞いたんですかねえ! 確かに出ることは出ますが、5月の予定なんですよ」というメーカー側の返事だった。そこでもうひとふんばり、ずうずうしくも、それを見せてくれないか、と強引に頼みこんでみた。
 いいわけが成功したかどうか、条件づきでこの未発表のアンプを見せてもらうことにこぎつけた。

ARのアンプ
 ところで、山水のその時点では未発表であったその新型アンプが、手元に届けられる数日前に、私は米国市場における普及型アンプとして注目されるべき製品に接した。おそらく、この数年間、米国市易のベストセラーになるに間違いないであろうこのアンプというのは、ARのアンプである。
 ARは日本ではブックシェルフ型のスピーカー・メーカーとしてのみ有名である。56年、アコースティック・サスペンション方式という、特殊のスピーカーをひっさげてデビューしたアコースティック・リサーチは、もと米国オーディオ誌の編集者として聞こえたエドガー・ビルチューが、この特殊スピーカーでデビューした新進メーカーである。
 60年代初頭のステレオ初期になって、スピーカーを2つ必要とする時期になるや、小型で大型なみの豊かな低音が、たちまち人気となり、305mmと203mmの2ウェイであったAR1から、AR2型になるや、米国きってのベストセラースピーカーとなったものだ。
 その頃の在米の友人たちの噂を聞き、早速購入した62年製の、高音用がまたドーム・ラジェターでない126mm2本がまえのAR2、オリジナルは、一昨年までの私のメイン・スピーカーとして、また今でももっとも楽しめるスピーカー・システムとして、ジムランのLE8Tと共に数多い手元の中でも、音出しのチャンスの多いスピーカーである。
 今日ではAR3が、そしてその改良型のAR3aがAR社のスピーカーの主力製品で、これらのスピーカーのずばぬけた低音を通して、日本でもあまりにも評判の高いAR社だが、米国内では、スピーカーと並んで家庭用レコード・プレーヤーのまぎれもないベストセラーAR・XA(テンエー)のメーカーとしても知られている。
 これについて書くのはまた次の機会として、超小型モーターによりライト・ウェイト・ターンテーブルをベルトで回す独特のメカの超薄型プレーヤーは、セカンド・プレーヤーとして実に快的である。
 スピーカー、プレーヤー共米国市場ベストセラーのこのAR社が出したアンプということで、注目されるこのアンプのショッキングな点のひとつは型番がないことである。つまりAR社はこのアンプだけしかアンプの製品を出さないことを意味する。いかに自信に満ちたことか!
 このアンプは、2ヵ年間の完全保証を打出しているのも、トランジスターアンプ最大の難点であるパワーTr破損という点を解決してしまっていることを意味しよう。
 そんなバックグランドで、このアンプをのぞこう。
 さてARのアンプ、ひとくちでいうなら非常に広い需要層を対象にしたインテグレーテッドアンプだ。これは今までの同社の出してきたスピーカー、プレーヤーをみればわかることであるし、アンプ自体のシンプルなデザインをみれば一目瞭然だ。
 特に入力切替が”PHONO” “TUNER” “TAPE”のただ3つしかないことや、電源スイッチがボリューム連動であることからもうかがい知れる。しかし中をみて、そこに入力トランスがあったことに気がかりがのこる。日本の多くのマニアはトランスのアレルギーがひどいようだ。この入力トランスにかなりの反応を示すに違いない。
 しかし音をきいてみると、この素直なややソフトな静かな音、そしていざフォルテとなる時のすさまじい迫力からは、トランスの有無などは全然問題とはならない。それよりも、信頼性を第一と考えて、あえて入力トランス・ドライブを採用したAR社の良心を知る。
 しかも、このアンプの性能を知るとき、さらに真価を見直さざるを得ない。各チャンネルの出力は。4?負荷でクリッピング点において60Wをこえ、両チャンネル動作時で、50Wをしのぐ大出力ぶりだ。これはAR社の主力スピーカーである、AR3または AR3aが4Ωとかなり低いインピーダンスのため、トランジスターアンプ時代の今になって低負荷のため、オーバーロードとなりがちで、たとえばソニーのアンプなどでは動作中フォルテの時、しばしばスイッチを入れなおさなければならなくなる。
 低負荷はど出力の出る傾向のトランジスター時代に、AR3の4Ωというインピーダンスは8Ωが標準の今、やや低すぎて使い難いという非難がないでもなかったのだが、こうしてAR社アンプが発表されると、ARスピーカーをもつ者はARアンプを買いたくなるように、スピーカーを作った59年から、すでにトランジスターアンプの欠点と長所を熟知して、あえて4Ωとしていた企画性のうまさは舌を巻く思いだ。

AU555は日本のマニア向け
 新入荷のARのアンプは、ひとくちにいうなら「合理性のかたまり」である。これに触れて数日後、日本市場で最新である山水の新型アンプAU555に接した。
 両者がきわめて広いマニア層を対象として企画されたものである点、また偶然であろうがその外形寸法もほぼ同じで、規格の上でもよく似た点が少なくない。しかし、その根本にある相違点は日本のマニアのあり方を熟知した山水と、あくまで米国のマニアを対象としたARの違いに他ならない。
 まず第一に、出力の大きさである。山水は20W−20Wを基準としているのに対し、ARでは50Wと倍のパワーをもっている。日本の家屋構造を考えると片側20Wは妥当な線であろう、日本市場で最近ベストセラーのブックシェルフ型スピーカーを次々に発表する山水のSPシリーズの製品をみると、全面的にこの種のものとしては高能率である点を注目したい。
  SPシリ−ズの音が好評の大きなポイントは、その充実した中音域にあるのだが、これはあまりマスの大きくないコーン紙をもった大口径ウーファーによってのみみたされる特長であり、これが今までの国産Hi−Fiスピーカーと違った好ましい音色を作る大きな因となっている。
 そして、このような高能率スピーカーをドライブするのなら、あえて大出カアンプを必要とすることはないであろう。大出力はそのまま大出力Trと大型の電源を条件とすることとなり、強いては高価格につながる。
 山水のアンプではこれをおさえて高品質化を他にそそいでいる。そのひとつはアクセサリー回路の充実である。最近のマニアの傾向として、マルチ化が著しいが、万事マルチ化をしたがるぜいたくマニアの傾向のひとつの表れとしてカートリッジや、アームをまたスピーカー・システムを複数個もつことが最近のマニアの通例であり、これの完全利用のための入力、出力回路のマルチ化が、新型アンプでは大きなセーリング・ポイントとなってきている。
 このAU555もこの点が特に充実していることはパネル面をみてもうなずける。
 このアンプの兄貴分にあたる最近のベストセラーAU777そっくりのパネルがいかにもマニア向。一見AU777の4/5というところだが、外観的なデザインだけでなく性能の方もほぼそういうことができる。
 このアンプの中味をみると、そこにはまさに山水らしい信頼性に重点をおいた技術を知らされる。ガッチリしたシールド板は、AU111とまったく同じ構造で、プリアンプ部をそっくりかこみ、正面右端の入力切替スイッチのスイッチ・ウェファーの背部は、そうくり組みこまれたイコライザーの小基板が、高いSNを保つための巧妙な手段となっている。
 その上部には、トーン・コントロールのCRと共にプリアンプ増幅段の基板が配され、その全体をガッチリと厚い鉄板のL字型シールドが掩う。パワー用ステージは、これも一体のプリント基板がシャシー上に取付けられているが、総じてプリント基板上のパーツの配置が、この種の量産アンプには珍らしいくらいスッキリと整理されているのも、検討が十分加えられていることを物語る一面だ。
 パワー用のTrはシャシー背面パネル下部を内側にL型に曲げて、そこに下から取付けられており、背面パネル全体が放熱板として利用されるという巧妙なユニークな構造で、放熱板が特に不要となり、量産時に価格を下げる有力な手段だ。
 山水のアンプにはどれにもこの種の巧妙で合理的で、しかも優れたアイデアが散見できるが、メカに強い設計屋がいるに違いない。ずらりと並ぶスイッチの切れ味もかなりいい線をいっているが、特筆できるのはスピーカー端子だ。下をちょっと押さえて、小さな穴にスピーカーリード線をちょっと差し込んではなすだけで固定できるのは、うれしい。トランジスターアンプでは出力リード線のもつれなどが原因で、出力Trを破壊してしまうことがよくあるが、この端子なら間違いないし、もつれも起すまい。
 さて、音を出してみると、このアンプの良さはまさに納得させられてしまう。ゆとりのあるパワーが重低音域の豊かな迫力となって圧倒される。しかも音全体のイメージとしては、AU777それと同じく冷徹な明解性の高い音だ。

ケチをつけると……
 まず回路をみてそのケミカル・コンデンサーの多いのが気になる。丁寧なこととはいうものの間違いないからなんでも使っておけという、万事ことなかれ主義の優等生的設計屋さんの手法をみる思いだ。もっとも丁寧すぎてケチをつけるのはお門違いかもしれない。
 もうひとつ、PHONO端子のSNの良さに比べ、AUX端子のSNが意外なくらい良くない。回路図をみるに至って了解したが、全入力がNFを深くしたイコライザ−のトップから入っており、TAPEやDIN端子だけがイコライザー次段から加えられるようになっている最近のアンプでは、これが常識のようだがAUX端子の感度を上げるのが目的ではあるが、SNの多少の劣化は、入力が大きいから問題とされないのだろう。
 そして、最後にもうひとつケチをつけるなら、バランスつまみとボリュームつまみは、操作上ぜひ逆配置につけておきたかったと思う。つまり入力切替えのすぐ隣がボリュームつまみ、そしてその次に繁度の低いバランスを置くべきであろう。
 ともあれ,山水のAU555その3万円台というお値段としては破格の内容の魅力的新製品といえよう。