Category Archives: スピーカーシステム - Page 26

Lo-D HS-90F

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 新しい傾向のサウンドへの対応にすぐれたスピーカーといえようか。音は、決して軽快といえるようなものではないが、湿りけや暗さがないために、❶のレコードの場合などでも、さわやかさをもたらしうる。それに音場感の面でも、ひろがりの提示もいい。重厚な音への対応より、きめこまかな音への対応にすぐれているとみるべきかもしれない。❷のレコードできかれるグルダのかすれぎみの声はきわめてなまなましくきかせるが、❸のレコードでのバルツァのはった声は、わずかながらではあるが硬くなる。さらに、そこでのブラスのつっこみも、かならずしも充分とはいいがたい。しかし、低域が適度にふくらむようなことがなく、全体としてのまとまりということでは、ある程度の水準に達しているとみるべきだろう。もう一歩力感の提示がしっかりできるといいんだがと、試聴しながら考えていた。

総合採点:7

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(好ましい)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(物足りない)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(ほどほど)

ハーベス Monitor HL

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 このスピーカーのきかせるあかるく、軽やかで、さわやかな音色は、なかなか魅力的だ。音像も、決してふくらみすぎることなく、きりりとひきしまっているので、きいての印象は、まことに心地いい。とりわけ❶のレコードなどは、チャーミングなひびきできかせてくれた。その意味で、あなどりがたい魅力をそなえたスピーカーだということを認めた上で、どうしてもいっておかねばならないことがある。特に❷のレコードであきらかになることだが、ピアノの、強い打鍵による音の提示が、弱くなる。❸のレコードでの、バルツァのフォルテではった声も、金属的とはいえないまでも、硬めになるのも、気になった。しかし、基本的にはしっかりしたところのあるスピーカーであることはたしかで、❸のレコードできかれる低音弦の動きなども、あいまいにならず、あきらかにされていた。

総合採点:7

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(好ましい)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(物足りない)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(ほどほど)

ダイヤトーン DS-70C

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 くせのない音──といっていいだろう。しっかり基本をおさえた安定のいい音といういい方もできるにちがいない。ただ、シャープな反応に不足するところがあるというべきか、角のある音の提示に甘いところがある。たとえば、❸のレコードでのブラスのひびきなど、もう少し力と光をもって示されると、音色的な対比ということで、まろやかな音もはえるにちがいない。声についていえば、❸できかれる強い声より、❷できかれるかすれぎみの声の方で、このスピーカーのよさが示される。❶のレコードできかれるサウンドは、もう少し軽やかさにきこえる方がのぞましいが、それぞれのサウンドキャラクターは、一応つつがなく示されている。とはいっても、このスピーカーとしては、❶より、❷や❸のレコードの方が、その本領を発揮しやすいということはいえるだろう。まとまりのいい、くせのない音をきかせるスピーカーだ。

総合採点:7

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(ほどほど)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(ほどほど)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)

パイオニア Exclusive Model 3401W

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 基本的に、カチッと引締った、緻密だが、いくぶん硬い金属質を感じさせる。しかしその硬さや金属質の肌ざわりは、欠点とはならず、むしろ冷たい快感ともいえる魅力的な音色に仕上っていて、このまま鳴らし込んでゆけば、もっと柔らかさも出てくるのではないかという期待を抱くことができる。パワーはいくらでも入るという感じだし、上げるにつれて気持の良さも増してくる。かといって絞った音が悪いわけではなく、すばらしくクリアーで透明だ。レンジは十分に広く、バランスも良い。ただしレベルコントロールはMIDを−1に絞った方がよかったが、質感は極上。スカッと音離れもいいし、どこか国産離れした気持の良い鳴り方をする。背面は壁につけ、ブロック平置き程度の低めに設置して、重低音を十分に補うほうがいい。初期の製品の印象はあまりよくなかったが、ずいぶん練り上げられてきたと思う。

総合採点:9

●9項目採点表
音域の広さ:9
バランス:8
質感:8
スケール感:9
ステレオエフェクト:9
耐入力・ダイナミックレンジ:10
音の魅力度:9
組合せ:やや選ぶ
設置・調整:やや難し

フォステクス GZ100

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 まろやかなひびきは、むろんこのましい。再生音で音楽をきいているときに、もっとも嫌悪すべきは、金属的なというべきか、刺激的な音だ。ただ、音楽は、まろやかな、耳にやさしいひびきだけでできているわけではない。強い音がどうしても必要だ。それに、本来のまろやかなひびきは、強くしっかりとささえられているといういい方もできるにちがいない。その点で、このスピーカーシステムには、ものたりなさを感じた。ふっくらとたっぷりひびくのは、たしかに美質のひとつにちがいないが、そのために音像がふくらんでしまう。そして、音楽のうちの硬と軟の対比が不充分になる。音場感的にも、どうしても平板になりがちだ。軟は硬と対比されて、軟本来のこのましさがあきらかになるといういい方もゆるされるにちがいない。まろやかなひびきのよさは認められるにしても、いささかものたりなかった。

総合採点:6

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(ほどほど)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(ほどほど)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(ほどほど)

AR AR-9

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 目の前に置かれてみると、見上げるような感じで、相当に大型の、背の高いスピーカーであることがわかる。まず一聴してわかるのは、高域のレインジを平らにしかもハイエンドまでよく伸ばしていること。そして、従来は中域を盛り上げて低・高両端をおさえぎみのいわゆるカマボコ型周波数特性であったが、新シリーズは現代的なフラットレスポンス型に変っている。つまりARはもはやアメリカ東海岸の一地方色(ローカルカラー)でなく、十分に国際的(インターナショナル)なバランスに仕上っている。さすがに大型でローエンドも十分量感があるためか、背面は必ずしも壁に密着させなくともよく伸びてきこえる。レベルコントロールはマイナス側に3dBステップと粗っぽいが、好みによって中高域または高域を、−3まで落としてソフトタッチに徹した方がよいこともありそうだ。このたっぷりと、いかにも血の濃い感じの音は、相当に聴きごたえがある。ながい時間聴き込んでゆくと、もうひと息、上質かつ緻密な質感や、音の艶を望みたくなってくるが、良いスピーカー。

総合採点:8

●9項目採点表
音域の広さ:9
バランス:8
質感:8
スケール感:9
ステレオエフェクト:9
耐入力・ダイナミックレンジ:8
音の魅力度:8
組合せ:普通
設置・調整:やや工夫要

セレッション Ditton 662

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 レベルコントロールが例によってついていないから設置のしかたが全体のバランスや鳴り方を支配する。662は、背面を壁にぴったり寄せて低音の量感を補う置き方が基本だと思うが、そうすると、こんもりと暖かく、くるみ込まれるような穏やかな音がする。また逆に背面を大きくあけると、ローエンドは不足するが、音の鮮度が増して音離れのよい印象になる。いずれをとるにしても中途ハンパに背面をあけるのはよくないように思う。KEF105IIと比較すると、105ほどの広がりや定位のこまやかさや正確さは持っていないが、暖かく、鋭さのない、聴き手を十分に楽しませくつろがせるやわらかい魅力的な音色を持っている。音のこまかなアラを目立たせない。適度の肉づきと適度の厚みがある。ほどの良さということをイギリス人は最もよく知っているというが、このスピーカーなどまさにそのひとつの典型かもしれない。質が高くしかも穏やかだから、カートリッジやアンプの質の良さをよく鳴らし分ける。

総合採点:9

●9項目採点表
音域の広さ:8
バランス:9
質感:9
スケール感:8
ステレオエフェクト:8
耐入力・ダイナミックレンジ:8
音の魅力度:9
組合せ:やや選ぶ
設置・調整:やや工夫要

KEF Model 105 SeriesII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 数ヵ月前から自宅でリファレンス用として使っているので今回の試聴でも物差しがわりに使った。とくに、音のバランスが実によく練り上げられている。しかしこのスピーカーの特徴を聴くには、指定どおり、いやむしろ指定以上に、中〜高音域ユニットと聴き手の関係を、できるかぎり正確に細かく調整する必要がある。左右のスピーカーの正しい中央に坐り、焦点が合うと、スピーカーの内中央に歌い手が確実にそしてシャープに定位し、たとえば歌手の声(口)の位置と伴奏との、音源の位置──左右、奥行、そして(信じ難いことだが)高さの相違まで、怖いようなシャープさで鳴らし分ける。ただこのスピーカーの音色は、やや抑制の利いた謹厳実直型、あるいは音の分析者型、で、もう少し色っぽさやくつろぎが欲しくなることがある。また、ポップスではJBL的なスカッと晴れ渡った音とくらべると、ちょっと上品にまとまりすぎて物足りない思いをする。それにしても、価格やサイズとのかねあいで
考えれば、たいした製品だ。

総合採点:10

●9項目採点表
音域の広さ:9
バランス:10
質感:9
スケール感:8 
ステレオエフェクト:10
耐入力・ダイナミックレンジ:8
音の魅力度:9
組合せ:やや選ぶ
設置・調整:やや難し

オーレックス SS-L8S

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 かなりコストのかかった入念な作りで、内外ともに充実した製品だ。バスレフのフロアー型に30cmウーファーをベースにコーン型スコーカーとドーム型トゥイーターを組み合わせた3ウェイシステムである。ところで、肝心の音の方だが、音質の品位はかなり高く、各ユニットのクォリティのよさが感じられる。しかし、全体の音の印象としては少々抑圧がききすぎて、柔軟さが足りないように感じられる。どこか抑え込まれてきゅうくつなのである。音が重い印象で、圧迫感がある。余韻や、空間のライブネスなどのデリケートな再生が不十分で、雰囲気があまりよく出てこない。ピアノの歌うべきパッセージも、おとが 一つ一つ途切れ気味で、音が高揚しない傾向を持っている。パワーハンドリングには余裕があって、少々のハイパワードライブにもびくともしないから、ジャズやロックの大音量再生は安心して楽しむことができる。ただ、バスドラムのチューニングがやや高くなる傾向が気になったし、リズムも楽しく弾んでくれない。

総合採点:7

オーレックス SS-L8S

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 すべての面でほどほどの──といったら、否定的にうけとられかねない。たしかに、このスピーカーに、きわだった魅力があるかといえば、ノーといわざるをえない。しかし、このスピーカーのきかせる、おさえるべきところをきちんとおさえた音は、ききてを安心させるものだ。背のびをしたり、身のほどしらずの表現をしようとしたりしないところがあるので、このスピーカーのあぶなげのなさをうみだしていると考えるべきだろう。こまかいあじわいの提示より輪郭をあいまいにしない音のきかせ方にひいでている。ひびきは、どちらかといえば重めだが、音像がふくらむようなこともなく、さして気にならない。これでもうひとつ高い方の音にきらりと光る輝きがでれば、さらに魅力をましたのだろう。❸のレコードでの迫力、ひろがりの提示などは、この価格帯のスピーカーとしては、なかなかすぐれている。

総合採点:8

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(ほどほど)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(好ましい)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)

オンキョー Monitor 100

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 堂々たる貫禄はブックシェルフ型の限界といってよいだろう。スピーカーとしての能力は大型フロアータイプに迫るものがあるが、コントロールにもう一つ、つめが欲しいと思う。それは、わずかながら中高域にピーキーな汚れが感じられることだ。バランスのいいオーケストラのトゥッティなどを聴くと、この傾向がちらりと顔を出す。全体にはスムーズな、むしろやや内向的な鳴り方でこれは同社のM6などの音色とは全く趣を異にするものに感じられるだろう。しかし、よく聴きこむと、必ずしもそうとはいかないようだ。ウーファーとスコーカーのつながり付近の音の表情には一脈通じるところもあるようだ。ハイパワーで鳴らせるが、音の本質にやや弱々しいところがあって、音量のわりには迫ってくるものが少ない。いわば骨細の音のイメージがつきまとう。しかし、いずれのソースも全体を大掴みながらバランスよく再生するし、リニアリティが高く、指向性のよさと相まって、水準の出来といってよいスピーカーである。

総合採点:7

オンキョー Monitor 100

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 グルンディッヒ/プロフェッショナル2500がきかせる音とは対極にある音をきかせるスピーカーといえよう。グルンディッヒが硬とすれば、これはまぎれもなく軟だ。声の、とりわけ弱音のものなどは、まろやかさとしなやかさをあきらかにして、なかなかこのましい。ただ、その声が、❸のレコードできかれるようなはった強い声になると、金属的に鳴り、音像もふくらむ。❶のレコードできけるようなタイプの音楽は、このスピーカーにあっていないといっていいかもしれない。あたかも飛来するといった感じできこえてくるはずのアルパートのトランペットの音が、ふくらみぎみになり、直進力も弱い。❷のレコードでも、弱音は、それなりのまとまりを示すが、強い音に対しては反応が充分でない。おそらく、このスピーカーシステムは、音量をおさえぎみにして、静かな音楽をきく人のためのものといえるだろう。

総合採点:6

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(物足りない)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(ほどほど)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(ほどほど)

グルンディッヒ Professional 2500

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 独特の手ごたえのある音をきかせるスピーカーだ。音のクォリティは決して低くないと思うが、個々の音を力づくでおしだしてくるようなこのスピーカーの音のきかせ方には、個人的には、抵抗を感じる。たとえば❷のレコードできけるグルダによって強くうたれたピアノの音の迫力がでるものの、微妙なニュアンスということになると、いかにもものたりない。❸のレコードでは、バルツァの声が、太く感じられ、そのシャープな表現がいくぶんあいまいになる。❶のレコードなどは、このスピーカーシステムにもっともあわないものといえるだろう。サウンドのとびちり方は、それなりに示しはするが、ひろびろとした音場感の提示はできない。しっかり腰のすわった、たくましい音ということはできるにちがいないが、すべての音がたくましさでカバーできるわけでもない。まさに独特の、たくましい音をきかせるスピーカーだった。

総合採点:7

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(ほどほど)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(好ましい)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(ほどほど)

グルンディッヒ Professional 2500

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 4ウェイ4スピーカーの密閉ブックシェルフ型。その名も「プロフェッショナル2500」という力の入ったものだ。大いに期待した初対面であった。しかし、残念ながら期待が満たされたとはいえなかったのである。まずユニットそのものから、それほど品位の高い音が出ていないということ。エンクロージュアの出来もそれほど剛性は高くないらしく、低音の質が決してよいとはいえないもので、かなり共振の感じられる不明瞭な低音だった。全体としてバランスのとり方はうまく、効果的に音楽のイメージをふくらませる音とはいえるが、トーンクォリティが不満なのである。ダンピングが悪いというか、密度が足りないというべきか、音の触感が緻密ではない。もっとソリッドな締ったクォリティなら、この音のまとめで数段素晴らしく聴けただろうと思われる。重厚なオーケストラのトゥッティも悪い響きのバランスではないし、シャシュのソプラノもいい声だ。それにもかかわらず、常に本質的な音の質感に不満がつきまとうのである。

総合採点:6

ビクター SX-7II

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 くっきりと音の輪郭を提示することをまず心がけたスピーカーといえるかもしれない。したがって、サウンドの微妙な表情は、感じとりにくい。❷のレコードでの、うたうグルダの、なかばかすれた声は、まろやかに、つまりあたりまえのものにきこえてしまう。しかしその反面、たとえば❸のレコードでのティンパニの音とか低音弦のひびきとかの、ひとことでいえばエネルギー感の必要な音への対応は、なかなか見事だ。ただ、そういう強い音への対応のこのましさは、多分、個々のサウンドへのさらにシャープな反応が可能になったときに、よりはえるということはいえるにちがいない。その鋭敏さということでいくぶん不足するところがあるので、❶のレコードできける音楽などは、もったりした印象のものにならざるをえなくなる。その点が改善されればさらにアトラクティヴなスピーカーになるだろう。

総合採点:7

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(物足りない)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(好ましい)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)

ESS PS-8A

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 気負わない音とでもいうべきか。独自の軽快さがある。全体の試聴に通して聴いた3枚のレコードの中では、❶のレコードがとびぬけてよかった。ひびきはあくまで明るくさわやかで、音場感的にも充分なひろがりが感じられた。アルパートのトランペットの、浮きあがったようなひびきの特徴もよく示されていた。❶とは、音楽的にも、またサウンド的にも非常にちかうところのある❸でも、オーケストラのひろがりを示し、そして声をくっきり示すあたりに、このスピーカーのよさが示されていた。ただ、おしむらくは、❷のレコードでのピアノの音が、いかにも力感にとぼしいというか、ものたりなかった。せっかくのグルダによってひかれたピアノの音が、あたかもサロンピアノのごときものに感じられたら困る。こういう気負わない音に対するには、やはりききても気負わないできくべきということか。

総合採点:7

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(好ましい)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(物足りない)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(ほどほど)

ソニー SS-R5

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 この価格としてはかなりオーセンティックな力感の味わえるシステムで、迫力と豊かさの点ではかなり雄弁なスピーカーだといえるだろう。性格がそのまま感じられるような、ワイドレンジでハイパワードライブの可能なシステムである。ただ、その反面、音の繊細さ、しなやかさといった品位の点では多少期待はずれのシステムといわざるを得なかった。ピアノは、大方のスピーカーと全く異質の表現で、レガートなパッセージがもたもたした流れの悪い表現に聴こえたし、弦のニュアンス、デリカシーもよく再生されない。先述したように、力はあるからジャズやロックの力感は、かなりのハイパワードライブで再現可能ではあるが、肝心な楽器の音色が精緻に出てこないので、音楽の愉悦感が味わえない。音色が鈍く冴えないので、個々の楽器の持味が生かされにくく混濁してしまう。細かい音色を云々せずに、音楽を豊かにスポーティに楽しもうとという志向のスピーカーシステムということになるだろう。その意味では効果抜群だ。

総合採点:7

コーラル X-VII

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 大型スピーカーらしいとでもいうべきか、たっぷりひびく。しかし、たとえば音像的な面で、もう少しひきしまってほしい。声のきこえ方は、❷のレコードでも、そして❸のレコードでも、いわゆるビッグマウスになっていた。メッツァ・ヴォーチェの声が大きくふくれ、フォルテではった声がいくぶん金属的にひびいて細くなるというのは、どうしたわけだろう。❸のレコードでのブラスのひびきは、むしろ横にひろがる傾向があり、ききてめがけて直進してくる力に不足していた。むろん、たっぷりひびくのは、それなりにこのましいことではあるが、それならそれで、個々のひびきがもう少し密でないと、たっぷりひびくこのましさがいきないということになるにちがいない。サウンドのキャラクターとしては、多少古風ということになるのかもしれぬが、なかなか特徴的なきこえ方がしたということはできるだろう。

総合採点:6

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(物足りない)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(ほどほど)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(ほどほど)

ロジャース PM110

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 さまざまな点でKEF303とまったく逆の性格をもつスピーカーといえよう。音色的には、KEFよりこっちの方が暗い。しかし、力強い音に対しての反応は、このスピーカーの方がすぐれている。声のつや、あるいはきめこまかさということでも、KEFより、ひとランク上という印象だ。いくぶん図式的ないい方が許されるとすれば、❷のレコードで、グルダの右手がひかれる高い音の特徴はKEFでよりあきらかになり、左手でひかれる低いたっぷりひびく音はこのロジャースではえるということになるだろう。そために、❶のレコードできけるような、さわやかなサウンドを身上とする音楽では、どうしても、このレコードのマイナス面がでてしまう。しかし、個々の音のエネルギーをあやまたず示すということでは、このスピーカーには、なかなかすぐれたところがあり、それが魅力になっている。

総合採点:8

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(ほどほど)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(好ましい)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)

テクニクス SB-7

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 ひびきに独自の魅力があるということではない。しかし、このスピーカーの、さまざまなレコードに対するあぶなげのない、そして誇張感のない反応ぶりは、大変にこのましい。たとえピアニッシモでかなでられた音でも、その音は充分な力で支えられている。ピアニッシモの音がフニャフニャであっていいということにはならない。その辺のことを、このスピーカーは、ききてにわからせる。つまり、個々の音がそれなりにしっかりと示されているということになるだろう。❷のレコードでのグルダのなかばかすれたような声の特徴をあきらかにする反面、❸のレコードでのブラスのつっこみの鋭いひびきにも対応する。そのようなことから、基本をしっかりおさえられたスピーカーシステムの音という印象だ。あぶなげのなさというのは、そういうことをふまえてのことだ。安心してつかえるスピーカーといえよう。

総合採点:9

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(好ましい)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(好ましい)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)

ラックス MS-10

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 全体のバランスはよくとれていて、周波数レンジもよく伸びている印象だ。音そのものも、各楽器の音色を素直に出してくれる方だ。ただ、試聴したシステムはトゥイーターに少々引っかかりのある嫌な響きがつきまとい気になった。別の機会に聴いた経験ではこんなことはなかったので、このモデルだけのことかもしれないが……。不満としては、音楽の力感的性格に対して十分な反応を示さないことだ。どちらかといえば品のよい内省的な響きということなのだろうが、もう少し屈託のない明朗な響きに対応する能力がほしい。少し具体的に書くと、シルヴィア・シャシュのソプラノの声でトゥイーターの響きが刺戟的であったこと、バスドラムの強打やベースのピチカートの反応がやや鈍く、朗々としたファンファーレが透みきらなかったことなどだ。したがって、チャック・マンジョーネの演奏など、打楽器のリズム感のはじけるような鮮烈さが不十分で、このレコードの演奏が十全には生きなかった。

総合採点:7

テクニクス SB-3

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 全体の印象としてはソフトタッチな、平面的な音像で、音の奥行感、マッシヴな立体感に乏しいスピーカー。すべての楽音が、さらっと淡泊な味わいになるのがこのシステムの特長で、決して聴きづらい汚れや、耳を刺すような刺激的な音は出てこない。バランスとしては中域以上の帯域に寄っているから、なおさら音が軽い印象を受ける。良さとして受けとるか、物足りなさとして受けとるかは聴き手次第といえるだろうが、私の音の好みからすると、音楽のエネルギーバランスとして、もっと低音に重心のある、重厚感がほしいのである。そして、高域も前述したように平面的だから、艶とか輝きといった印象を受けにくい。フリューゲルホーンなどは独特の音色的味わいが出にくく、時としてトランペットのぼやけたような音色に聴こえてしまう。ベースやバスドラムの力感と弾みも十分に出きらない。したがって、どちらかといえばムーディなストリングスの方がよく、ジャズやロックには不満が出る。もっとリアルなプレゼンスが欲しい。

総合採点:7

デンオン SC-101

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 何の変哲もないオーソドックスなスピーカーシステムだが、小型ブックシェルフとしては大変よくまとまったシステムだ。まとまりだけでなく、一つの魅力をも備えている。鋭さと柔らかさが、ほどよくバランスしているところが強みで、楽音によって、時として鋭さが難となる場合があるが、オーケストラなどを聴いても実感のある雰囲気が楽しめる。全体の音色としては明るく、プレゼンスの豊かなもので、2ウェイらしい自然な音場感が楽しめる。ヴァイオリン・ソロではもう一つ弦特有のしなやかさが欲しかったが、ピアノは粒立ちのよい輝きのあるものだった。小型スピーカーだから圧倒的なスケール感を味わうには、低域の量感、出し得る最大音圧レベルからいって無理があるが、一般家庭での平均的な音圧レベルで聴くには不足はないだろう。トゥイーターがもう一つスムーズになると一層素晴らしいシステムとなるように思うが、かといって、それがこのシステムの味の素として、重要な因子なのかもしれない。

総合採点:9

エスプリ APM-8

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 オリジナリティと最新のテクノロジーを高く評価したいシステムだ。平面振動板による4ウェイ4ユニット構成で、すべてが矩形の振動板をもったユニットであるのがユニークだ。この製品の開発にはソニーが数年間の年月をかけたと思うが、正直いって、プロトタイプ、あるいは初期のモデルでさえも、今回の試聴で聴いたような素晴らしい音ではなかったし、また、ここまでよくなるとも期待していなかった。驚いた。今のところ、国産スピーカーではベストであることは間違いないし、これでもっと音像の立体感や粒立ちに丸みが出てくれば、私としてもほれ込みそうなほどいい。もう一つは、やや高域(特に目立つので高域というが、実際には全帯域)にパルスを強調するキャラクターが残っているし、振動板の鳴りらしきものも、もう一つ抑制されると、もう残るは100万円という値段への挑戦である。このままでは100万円は高いという感じだが、もう一つ洗練されると、お金を貯めようという気になりそうだ。

総合採点:8

ロジャース LS5/8

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 イギリスのロジャースの大型システムで、パワーアンプが2台内蔵されている。ないそうといっても、メリディアンのようにエンクロージュア内にビルトインされたものではなく、QUAD405が2台付属しているといった形で、全体に完成度の点では問題があると思う。注文を受けてシステムをアッセンブルしたといったイメージで、完成した独立商品といった感じがしない。アンプとユニットのバランスも、わざわざ専用アンプで駆動するほどの効果はないように思う。繊細さがあるようでいて、意外にラフな面も顔を出す音で、帯域バランスも端正なまとまりがない。高域にはかなりの癖が感じられ、ヴァイオリンが細く刺激性をもって鳴る。オーケストラのトゥッティも透明度が不足するので、胸のすくような和音のフォルテの快感があじわえない。ジャズを聴いても低域の質感が大掴みで、バスドラムの微妙な音色感が出ないで、ドスンと単純になる。全体に低域のリズムが重く引きずる傾向があることも気になった点である。

総合採点:7