菅野沖彦
スイングジャーナル 9月号(1970年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
4トラック・オープン・リールのテープ・デッキは、FM本放送にともなって増々その需要を高めているらしい。家庭用のステレオ・テープ・レコーダーとして、この4トラックの往復2チャンネル録音再生という規格は完全に定着した。もちろん、カセット式の高性能化、普及化など、常に新たな規格の製品が開発されていて、いろいろな面で落着きのない、刺激の強い、流動的なテープ界ではあるが、その中で一つ一つ残っていくものが標準と呼ぶにふさわしいメリットを持っている。テープ自体の高性能化はこれからもどんどん進むだろうから、今までのものより、より小単位面積で、より低速で同等の性能が得られる方向へいくであろう。しかし、常に時間当りの単位面積の大きなテープが有利であることはうたがいないので、ハイ・ファイ用のテープとしては現在の6mm巾に4トラックの録音帯を持つものが当分その地位を占めるだろう。テープ・スピードも、19cm、9.5cmというのが高品質の録音再生用として標準的なところである。
ところで、ティアックは、この4トラック、2チャンネルのテープ・デッキの普及の一翼をになって来た強力な専門メーカーだが、今度発売された新製品A2300は、今迄の技術の蓄積を生かして、もっともシンプルでオーソドックスなデッキとしてまとめ上げたという感じのする製品である。
まず、このデッキのフューチャーをみると、3モーター、3ヘッド式という高級テープレコーダーの標準モデルといってもよい構造である。したがって、オート・リバースはなく、往復動作はテープリールのかけかえでおこなう。つまり余計なものを排して基本性能を追求しようという開発精神がここにうかがえる。業務用のテレコはすべてこの形式によっているが、それは.テープ巾を片道だけで使い切ってしまうためもある。4トラックの場合はこの点でオートリバース機構の必然性があるのだが、実際に使ってみれば便利だが、必らずほしいという機構でもない。レコードだって裏返えすのが当然で、それほどわずらわしくもないし、テープリールのかけかえをいとうようなら、そもそもオープン・リール式のテープの高性能を追かけるという本筋からはずれているようにも思える。つまり高性能を追求することと、簡便さとはどうしてもうらはらなのである。また、オートリバースは録音再生両方に使えるものならよいが、高級機の録再独立ヘッド型では、再生だけのオートリバースがほとんどだ。しかし、本当にオート・リバースがほしいのはむしろ録音のほうだといってもよいのである。FM放送などで、連続的なプログラムを出来るだけ中断することなく録音したい時にこそ、オート・リバースは威力を発揮する。待ったをしてくれないプログラムで、あわててリールをかけかえるのはかなり骨が折れる。そこへいくと再生のオートリバースは便利この上ないが、ゆっくりかけかえても別にどうということはない。オート・リバース機能については人それぞれの考え方もあろうが、私としては再生には絶対必要とは思われないのである。とすれば、独立型の3ヘッド・タイプについてはオート・リバースのメリットがあまり認められないわけで、このA2300のような機構は大変好ましい。
3モーターなので、その操作性、動作の確実性はすばらしく、特にリレーとロータリー・スイッチの組合せによるコントロールは合理的であるし、きわめて使いよい。いちいちその使用方法を書くスペースがないが、使いこなし次第で大変便利だ。
使う身になった細かい配慮はテープデッキの専門メーカーにふさわしいもので、リール台の高さ調整もその一つ。またサービス性の向上も、メインテナンスの上での大きなメリットだ。そして特質すべきはロー・ノイズ・タイプのテープに対するバイアス量の変化をスイッチで切換えている点だが、その値が実に巧みに設定されているようで、バイアス量の変化によるピーキングを上手にバランスさせて、広い適応性を与え、スコッチ203、ソニーSLH、BASF35LHなどのロー・ノイズ・タイプに平均した動作で音質的にも妥当なバランスを得ているのである。最大の難点としては高級感がそのデザイン上にうまく表現しきれなかったことぐらいである。とにかく実力のある優秀なデッキであった。
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