Category Archives: 筆者 - Page 27

マイ・フェアリーオーディオ

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「Music Consolette 偶然の結晶を求めて」より

 白金台にある古い住宅街のはずれに、白い高層マンションがある。その十二階に彼女の部屋はあった。
 さきほどまで耳を圧していた都会の暗騒音は夜の闇に吸い取られたみたいにすっかり消え、濃紺の夜空に影絵のようにひろがる雑木林のシルエットがときおりふきぬける風にかすかにざわめく音しか聞こえなかった。
 エレベーターを十二階で降り、絨毯をしきつめた廊下を歩く。彼女の部屋は廊下のつきあたりにあった。
 2LDKのすっきりした部屋の中は、あからさまに女の子の部屋であることをしめす象徴的なものは何もなく、うまく冷たさと暖かさを均衡させた空間だった。
 板張のフロアーには寒色系の色をつかった精緻な幾何学模様が織りこまれたファブリックのソファが、弧を描くようにしてゆったりと置いてあり、北と西側の壁全体が窓になっている。大都会の夜が目の前に広がり、闇に浮かびあがるようにして見える東京タワーには昼間の姿とは違った美しさがあることに気付く。
 反対側の真っ白な壁には、シックなリトグラフが掛かっていた。
 彼女は翻訳の仕事をしながら、雑誌にエッセイや詩を書いているフリーランス・ライターだ。外交官を父にもついわゆる帰国子女だった彼女は、語学力をいかし大学大学中から翻訳の仕事をしていた。
 僕が知ってるのはその頃からの彼女だ。1941年、早春のウーズ河に身を投じ自殺した英国の女流作家、ヴァージニア・ウルフの著作The Waves『波』という作品が一番すきだという彼女。
象徴散文詩といわれる繊細であやうい詩的な世界を好む彼女は、まだ二十三歳になったばかり。ほっそりとした、やや背の高い女の子だ。以前から今様の即物的な価値観からは距離を置いたところにひっそりと潜行した、いわばミニマルマイノリティーな存在だった。
 リトグラフがかかった壁に接するもう一方の壁には、B&Oのウォール・ハンキングタイプのスピーカーが、まるでなにかの抽象絵画か彫刻のようにとりつけられていた。
 サイドボードの上には同じB&OのレシーバーとCDプレーヤーがあった。
 漆黒とクロームの面で構成された直線的で清潔なフォルムには一見、無機的で人工的な感じがあるけれど、なぜか柔らかな部屋の空気にも自然に溶け込んでいた。
 僕は部屋に入った時からその存在に気付いていたが、いったいどんな経緯でB&Oのシステムがこの部屋に収まることになったのか、あえて訊ねなかった。以前は、もっと大袈裟で神経質な音を出す装置があったはずなのだ。
 彼女もそれについて、いちいち説明や弁明をすることはなかった。
 テーブルの上には細長く精巧な感じのするリモコンが置いてある。彼女は華奢な腕をのばし、繊細な指つかいでそっとそのボタンに触れた。
 ほどよい音量で音楽が鳴りはじめる。
「ティム・ストーリーのグラス・グリーンというアルバムなの。飲み物は何がいい?」
 僕は水割りをもらうことにした。
「彼が先週ヨーロッパで買ってきたロイヤル・サリュートがあるんだけど、それでいいかしら?」
 僕は黙って頷いた。
 金属成分が多いクリスタルグラスの冷たい透明感が琥珀色な液体をきりっと引き締めるようにして包み込む。
 恐る恐る一口、舐めるようにして舌の上でころがしてみた。トロっとした絶妙の味わい。そして濃縮された税金の味がうっすらと喉に残った。
 彼の存在は僕もよく知っている。
 来月、カメラマンである彼の三冊目の写真集が発刊される予定だが、僕の手元にはすでに彼自身から送られた、その写真集があった。
「『写真なんていうのはね、見る人の皮膚や神経に現実的な存在感の印象をダイレクトに刻み込んでくれる。だから、無意識にものを眺めているときの視覚より鋭利に対象にくいこむんだ』たしか、そんな風に言ってたっけ」
 彼女を手に持ったグラスの氷をときおり細い指でつつきながら、そのことについてじっと考えていた。
「多分、ファインダーを通して眼に映ったものだけは彼の網膜で記号化され、きちんと記録されるのね……二進法の記憶」彼女はたしかそんな風に言った。
 僕は水割りをすすりながら、しばらく黙ってその事の意味を考えてみた。
 その時、彼の写真集の表紙になっていた北欧のとある風景が目に浮かび、スピーカーがかなでるティム・ストーリーのピアノの響きがそこに霞のようにひろがった。
 透明感を大切にした音造りには、儚い記憶のぬくもりを呼びさますような優しさや柔らかさが溶け込んでいて、それを音楽そのものがもつ孤独感、硬質な哀しみ、といった対立的な要素と、うまくつりあいをとっている。そんな微妙な陰影をぼかさないで、きちんと再生していた。
 無感動に飽和した質と量の偏った均衡より、彼女のB&Oが聴かせた知と情がやわらかく均衡した響きには、不思議な説得力があった。これは彼女が選んだ装置だ。
 その時、僕はそう確信した。
     *
今回のシステムは、厚さがわずか8cmのスピーカー、ベオラブ5000を中心に、レシーバーとして、B&O最新のベオマスター4500、CDプレーヤーはベオグラムCD4500を使用。どちらも操作はアクリルパネルに軽く触れるだけでよいが、リモコンでの操作も可能だ。ベオマスター4500は、FM/AMあわせてして20局までプリセット可能で、アンプ部のパワーは片チャンネル55W。このスピーカー出力を直接パワーアンプ内蔵(120W×2)のアクティブ型スピーカーであるベオラブ5000に接続する。一見パワーアンプがだぶるようだが、長い接続ケーブルの引き回しでも有利な点があり問題はない。なお、アナログプレーヤーのベオグラム4500とカセットデッキのベオコード4500も別にある。

ソニー CDP-X77ES

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 聴感上での帯域バランスを重視し、あまり広帯域のfレンジとせず巧みに総合的な音をまとめた印象が強い手堅いモデルだ。ロッシーニは、音の細部にこだわらず、素直なバランスの音を聴かせる。表情は真面目型で少し抑える傾向があるが、ややウォームアップ不足気味の音と思われる。Pトリオは、柔らかく線の細いピアノと硬質なヴァイオリン、線が太く硬さのあるチェロのバランスとなるが、金属的に響かないのが好ましい点だ。しかし、響きが薄く、厚みがいま一歩不足気味である。ブルックナーは、線が太く硬い鉛筆で描いたような一種の粗さがあり、演奏会場のかなり後ろの席で聴いたような音の遠さがある。平衡出力にすると、バランスは広帯域型に変り、全体に薄いが独特のクリアーさ、シャープさがある音になり、高域はむしろ透明感がかげりがちだ。ジャズは薄味の軽快指向型のまとまりで、表情が表面的になりやすく、低域の質感をどうまとめるかがポイントだ。

デンオン PMA-890DG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
柔らかく、しなやかな音を雰囲気よく聴かせるアンプだ。音場感はスピーカーの奥にやや引っ込んで広がり、音像はソフトにフワッと浮くタイプだ。低域は全体に軟調でソフトフォーカス気味にまとまり、中域から高域は少しメタリックで硬調に聴かせる。大編成の曲は散漫になりやすく、トゥッティでは混濁気味となる。

ブルメスター Model 878

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 輝かしく豊潤な音だが、繊細さには欠ける。とろっと脂ののった〝大とろ〟のような質感で、独特の魅力を感じるし、並のアンプにはないクォリティの高さをもっているとも思う。このアンプの真価は同社のコントロールアンプとのコンビで発揮されるものだと思う。パワー単独で聴くと若干大掴みで、濃やかさに不満が残るようだ。「ドゥムキー」のピアノは丸く太く輝かしく立派だが、弦が倍音ののりに欠けるので鈍くなる。力感に溢れた音だから、オーケストラの充実したサウンドは聴き応えのあるものだが、ウィーン・フィルのしなやかさと精緻さにはもっと繊細感がほしい。しかし、神経質で刺激的な音からは遠く、私の好みの音の範疇に入るものだ。太く艶っぽいヘレン・メリルの声は、彼女の豊かさをよく表現しているが、一方でハスキーな特徴が出ていない。いわば豊満な女体を連想させるような色艶には富んでいる。ベースも豊かだがやや鈍く重い。

デンオン PMA-890DG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
響きのたっぷりとした、軽く雰囲気の良い音が聴かれる。低域は柔らかく量感も充分にあるが、音色は軽いタイプで分解能は不足気味である。バランス的には、中域が薄くエネルギー感が少ないため、大編成の曲でのハーモニーは薄くなり、中高域の硬く、ややメタリックな面が強調される。小編成は聴きやすいが、突っ込み不足。

ソニー TA-F555ESG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
柔らかい低域は、ややエネルギー的に腰高にまとまり、線が細く硬く、整然と音を出す中域から高域が、まとまりの良い音を聴かせる。「レクイエム」のスッキリとしたプレゼンスは爽やかであり、演奏会場の空間の広がりがわかる音ではあるが、間接音を抑え気味に聴かせるこのペアの特徴がよく出た例といえるだろう。

オンキョー Integra A-701XG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
音を充分にコントロールして、柔らかく雰囲気の良い音を楽しむことを指向した音づくりのアンプであろう。アクティヴに適度の個性で音を楽しく聴かせるスピーカーとは相性が悪いようで、各プログラムソースは、嫌な音は出さないが表現がかなり間接的となり、録音上の個性が薄められ、聴きやすさはあるが楽しさをも抑え気味。

メリディアン 206

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 全体に各種プログラムソースを、ややクラシカルな個性的な自分の音として消化して聴かせる独特のキャラクターに注目したい製品。ロッシーニは、全体にナローオレンジで硬質な音にまとまり、情報量は少ないが、古いアナログディスク的な一面のある音とでも表現したい印象がある。Pトリオは、206の硬質な個性がよく出た明快なピアノとチェロがオーディオ的にわかりやすいコントラストを聴かせる。音場感は少し狭いタイプだ。ブルックナーは、音の輪郭をクッキリと聴かせる、かなり個性的なまとまりとなるが、一種の思い切りの良さが感じられるポイントを押えた音楽の聴かせ方は、再生音楽としてオーディオ的にこれならではの魅力を感じる向きもありそうだ。ジャズは、明快なクッキリとした音を描くまとまりである。聴き込めばブラスは薄く、ベースが小さく硬調となるが、余分な音を整理し、分離よく聴かせどころを巧みに残したような独特の個性は興味深い。

アキュフェーズ DP-11

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかく、軽く、爽やか指向の音を持つモデルであるが、音場感はフワッと柔らかい雰囲気にまとまる傾向があり、見通しの良さは平均的程度である。ロッシーニは爽やかで軽い音にまとまるが、中高域に独特の輝く個性があり、声の伸びやかさを抑え気味として聴かせ、空間の拡がりも不足気味。Pトリオは音色が暗く、暖色系となり、中域の表情が硬く、息つぎの音が少し誇張気味に感じられ、プレゼンスもあまり出ない。
 ブルックナーは予想よりも大掴みで、大味なまとまりとなり、低域に強調感がある。全体に力がなく、低域の輪郭の明瞭な特徴が活かせない。平衡出力は、空間の再現能力が高く、ホールの広さが感じられるようになる。低域の軟調描写傾向は残り、大太鼓はボケ気味で、弦楽器が全体に硬くなるが、全体のバランスは保たれている。プログラムソース全般に同一傾向があるが、再生システムとの、いわゆる相性のようでもある。

フィリップス LHH500

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかく角のとれた、しなやかで雰囲気のよい音を持つモデルである。プログラムソースとの対応の幅は広く、あまりハイファイ調とせず聴きやすいが、音楽的に内容のある音をもつ点は、大変に好ましい。ロッシーニは、ほどよくプレゼンスのあるナチュラルな音だ。ほどよく明るい音色と、中域から中高域にかけての素直な音は魅力的でさえある。低域の質感が甘い面もあるが、まとまりの良さはフィリップスらしい特徴である。Pトリオは、サロン風なまとまりとなり、予想よりも音の厚み、音場感情報が不足気味で、中高域に強調感があり、息つぎの音の自然さがなく、気になる。ブルックナーは、全体にコントラスト不足で音が遠いが、平衡出力にすると、音場感はたっぷりとあり、音の芯も明快で一段と高級機の音になる。Dレンジ的伸びと鮮度感が不足気味で、fレンジは少し狭くなり、中域の量感がむしろ減る傾向となる。ジャズは実体感がいま一歩で分離もいま一歩。

ゴールドムンド Mimesis 3

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 いかにも緻密精緻な音の質感がスイス製であることと、このアンプのコンパクトなサイズに似つかわしく好ましい。品のよい音だ。「ドゥムキー」の弦、特にヴァイオリンは輝かしく、かつ艶っぽい。ピアノもよく締まった粒の立つ音で、生き生きとして立上りも鋭い。ベートーヴェンの「エロイカ」における柔軟性のあるしなやかなウィーン・フィルらしいヴァイオリンの音色の艶には感心させられたし、潤沢な木管の響きも美しかった。各楽器の音色の鳴らし分けも敏感な方である。ただ、トゥッティでややにぎやかな音になるのが惜しい。どっしりとした重厚な安定感が失われるのである。同じパワーのアンプでも、このあたりに違いが生じるのは、電源を中心とした全体の物量の差といえそうだ。サン=サーンスの「オラトリオ」における、各独唱者の声の色合いや質感の微妙な味わいの再現では最も優れたアンプの一つといえる。ヘレン・メリルは暖かく、ベースは少々力不足だ。

クレル MD-1 + SBP-64X

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 アンプメーカーとしてその名を馳せた米国クレル社から、デジタル機器専門メーカーとして独立して創立されたクレル・デジタル社より、既発表のCDターンテーブル/クレル・デジタルMD1と、シグナルプロセッサー/SBP64Xがついに正式発売となった。
 昨今アメリカ国内では、ハイエンドメーカーのデジタル機器への参入が活発化しているが、これは、先に発表されて話題を独占している感のあるワディアに続く存在として期待されていた。
 ワディアが単体のD/Aコンバーターのみであったのに対して、こちらはシステムとして完成した、いわゆるセパレート型CDプレーヤーシステムの形態をとっている点にマニアの関心が集中しているのだろう。
 元来、アナログディスクの信者として自他ともに認めるクレルの創始者、ダニエル・ダゴスティーノ氏の作品であるだけに、まずCDターンテーブル/MD1は、ディスク再生時に、アナログ再生に等しい儀式を要求する。
 分厚いアクリル製ダストカバーをゆっくりと持ち上げ、おもむろにCDをセットしたあと、クランパーの代りともなるディスクスタビライザーを乗せる。
 ダストカバーを閉める時、途中で手を離しても、重いカバーはゆっくりと自動的に下降するようになっており、一切のショックはない。
 ディスクトランスポート部はフィリップスのCDM3を使用しており、これをスチューダーのA730と同じものだが、その固定方法などを含め、きわめて対照的なアプローチがみられ、ここではアナログプレイヤー的剛性を追求しているようである。
 本体四隅の丸いカバーはサスペンションタワーと呼ばれ、中には多重構造のインシュレーターが隠されている。
 内部の詳細は明らかにされていないが、周辺機器に対する高周波ラジエーションの問題なども充分考慮されているとのことだ。
 一方SBP64X/ソフトウェアベース・デジタルプロセッサーは、デジタルフィルターに56ビットアキュムレーターを備えるモトローラ製DSP56001をチャンネルあたり2個の計4個使用しており、これまでにない演算精度を獲得しているという。
 SBP64Xではワディア/2000同様、DSPを用い毎秒6000万回余りの速さで独自のソフトウェアアルゴリズムを実行するのに必要な演算を行う。DSP56001の24ビット幅データパスと56ビットアキュムレーターが、デジタルデータの入力に厳密な18ビット64倍オーバーサンプリングで信号を補完し、バーブラウン製PCM64、18ビットD/AコンバーターでD/A変換を行う。さらに、完全ディスクリート構成の電流・電圧変換器からデグリッチ回路を経て、ディスクリートバランス型出力段に至る構成である。
 DSPにより、一般のデジタルフィルターとして用いられるFIR(Finite Impulse Response=有限インパルス応答)フィルターでは克服できなかった過渡特性的な欠点をクリアしている。
 電源部は3個のトロイダルトランスを独立させ、デジタル回路、DAC回路、アナログ回路に独立して電源供給を行なう。
 電源部から本体へのパワーケーブルも2本あり、1本がアナログ部とDAC部へ、もう1本がデジタル回路へと分かれており、デジタルノイズの混入を防いでいる。
 聴き慣れたディスクを国産最新のセパレートCDプレーヤーと比較しつつ聴いた。その上で、これは物凄い情報処理能力をもった画期的な製品であることが、じわりと実感できる。音の密度、音場の空間再現性において、まるで同じソースを聴いていると思えないほどの圧倒的なクォリティ差を一聴して感じさせ、まさによく出来たアナログディスクを極上の状態で聴くに近似した心地良さを提供してくれるものだった。
 複雑にからみあう楽音を精緻に分解して聴かせながら、響きの有機的なつながりが緻密で、弦楽器群のオーバートーンの重なりやローレベルでの透明感、情報量がすばらしく、余韻の消え方は圧巻だった。
 パルシヴなソースでも、叩きつけるようなエネルギー感がありながら、響きに高い品位が維持されるあたり、ただものではないという印象を強くした。

カーヴァー Silver Seven-t

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 繊細さや瑞々しさは十分とはいえないが、ごく標準的なレベルのグレードの再生音だ。中域がしっかりした密度感をもっているから、音楽のバランスはよく保たれる。「ドゥムキー」のヴァイオリンの音色は少々太く生ぬるいけれど、神経質になったり、粗くなったりしないのがよい。ピアノも、透明な輝きが不十分だが、厚みのある音である。
 ベートーヴェンの「エロイカ」では、細かい音やニュアンスの再現は不足するが、全体としては力もあり、トゥッティでの濁りや不安定さも感じられない。もちろん、ウィーン・フィルらしい魅力の再現というレベルには至らないが……。サン=サーンスの「オラトリオ」では、音が軽々とした雰囲気に変るのが不思議であった。ソースによってずいぶん変化するものだ。透明度もよく再現し、のびのびとしたソノリティを聴かせる。ヘレン・メリルの声の色艶はよく、ベースはやや軽い音である。

チェロ ENCORE POWER AMPLIFIER

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 チャンネルあたり60Wのパワーとは思えない力とソリッドネスを聴かせるアンプ。しかし、それは決して熱っぽくはなく、常に冷静である。冷徹と呼んだほうがよいかもしれない。このアンプの粒立ちの見事さ。繊細精緻な音の微粒子感の見事は、特質に値するものである。他に類例がない音といってもよいアイデンティティをもっている。チェロのアンプの特質なのである。まるで、すべてのプログラムソースのベールを一枚はいでしまうような透明さを聴かせるのが凄い。濁り、汚れ、曖昧さなどの一切を排し拒絶した透徹さをもっているし、この微粒子感の感触は、一種の快感を感じさせもする。つまり、決して冷たい無機質な音とは違うのだ。何を聴いても、ただその美しさに聴きほれて、絶句するありさま。しかし、どうしてもなじめない音なのだ、この音は僕にとって! これだからオーディオは面白い。端正明晰な麗人の肌の冷たい湿度に心凍てつくような妖しき誘惑である。

ソニー TA-F555ESG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ダイヤトーン DS-77Zとの相性
音の輪郭がクッキリと付き寒色系の押し出しの良いダイレクトな音である。音場感は比較的間接音が少なく、音が前に出るタイプであり、総合バランスはオーディオ的にわかりやすくまとまりはよい。大編成の曲では、予想よりもfffで濁りがちで安定度が崩れるが、小編成は使いこなせば本格派の音が楽しめそうだ。

ダイヤトーン DS-77Z

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

口径30cmを超すウーファーベースの伝統的3ウェイブックシェルフ型の典型的存在であり、現在生き残っている数少ない機種だ。3ウェイらしく、中域のエネルギーが充分にあり、情報量が多いために使いこなしを誤れば圧迫感のあるアグレッシヴな音になりやすく、このあたりを使いこなせないようではオーディオは語れない。

ティアック P-500 + D-500

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 全体にプログラムソースの音を軽く、柔らかい傾向の音として聴かせる、いわば個性の強い製品ではあるが、音色が暗くならず、表情に鈍さがないことが好ましい。ロッシーニは、かなり広帯域型のfレンジと、軽く滑らかな雰囲気のよい音だが、少し実体感が欲しいまとまりだ。Pトリオは、楽器の低音成分が多く、やや中域を抑えたバランスの、線が細く柔らかな音だ。音場は引っ込み奥に拡がり、響きはきれいだが音源は遠く、細部は不明の音。ブルックナーは、音源は遠いが、空間を描く音場感のプレゼンスはナチュラルでフワッとした雰囲気があり、これでよい。トゥッティでは、予想外に中高域に輝く個性があり硬質な面が顔を出すが、それなりのバランスで聴かせるあたりは、ターンテーブル方式の利点であるのかもしれない。ジャズは、低域はブーミーでエネルギー感が抑え気味となり、いまひとつ弾んだリズム感が不足気味で、見通しもやや不足気味だ。

アヴァロン Ascent MKII

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 米国、カリフォルニア州ボゥルダーに本拠を置くアバロン社製スピーカーシステム/アセントMKIIが輸入されることになった。
 写真のように、やや個性的ともいえるプロポーションを持つが、この形こそコンピューターシミュレーションと聴感から追い込んで作られた必然の形態だったという。
 バッフル面からの一次反射と、回折によるユニット周辺の残留音響エネルギーが付帯音として作用し、システムトータルとしての響きの透明度を濁す原因ともなるトランジェント低下をきたすことに留意して、トランジェントの向上という点に偏執狂的なこだわりをもってアプローチした、という印象が強い。
 ユニットは、22cm口径のウーファーをベースに、5cm口径のチタンドームスコーカーと2・5cm口径の同じくチタンドームトゥイーターという3ウェイ構成をとっている。いずれも、ドイツ製のユニットということだ。バッフル面は、なんと板厚15cmという恐ろしくぶ厚いもので、基本的にエンクロージュアの共振によるエネルギーロスを最少に止めるという、ハードな作りがなされている。
 そのエンクロージュアの作りは、熟練した職人芸を要求されるような高度で複雑な携帯をとり、実際、細部の作りは見事な仕上りを見せる。
 エンクロージュア本体の後ろに設置される。サブエンクロージュアともいえそうな黒いボックス(片チャンネルにつき一本)はネットワークを収める専用の独立した箱で、下部に取りつけられたネットワークはエポキシ系樹脂で封印固定されている。これは、ユニットから浴びることになる磁気的悪影響や振動、温圧による揺さぶりからネットワーク素子を守るためだ。
 一方、使用素子は厳密に選別され、1%以内という誤差許容度を確保しているという。またネットワーク本体に、プリント基板を使用していないとのことだ。
 パワーアンプとの接続はバイワイヤリング接続のみならず、トライワイヤリング接続も可能で、バイアンプ駆動にも対応している。
 先端指向のアプローチがなされた結果は、音そのものに見事に反映しており、トランジェント特性の良さゆえの、本物の柔らかさがあり、透明で濁りのない響きは、特にアコースティックな楽器の持つ響きのリアルさや、澄み切った再現性において第一級の冴えをみせる。
 ギターを弾く音、管楽器のエネルギー、怒涛のような音の盛り上がり、そういったものが、見た目の瀟洒な作りからは想像できないレベルで再現された。これは家庭用の羊の顔をかぶったモンスターといえそうだ。

スレッショルド SA/3.9e

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 A級60W/8Ω/chのステレオアンプだが、繊細で明晰な音は美しい。しかし若干、音は軽めの雰囲気で、響きの深みや厚み、音の重厚な質感といった面に不満もある。スピーカーの能率が高ければ60Wのパワーは音量としては十分なはずだが、音の密度感や充実感にやや物足りなさが残るようだ。どちらかというと、重々しい響きを不得意とするアンプという印象。その分、明晰透徹で、緻密繊細な音色の鳴らし分けは魅力的である。肩の力が入りすぎない表情で音楽が美しく軽快に流れるのである。室内楽にはこのようなアンプの特質が生きて好ましかった。ベートーヴェンの「エロイカ」になると、明るく軽快できれいだし、ウィーン・フィルの特徴のある面はよく生かされるのだが、マッシヴなトゥッティの厚みと力に一つ押しと迫力が欠けるのだ。歌手の声の鳴らし分けはひじょうに鋭敏なレスポンスで多彩なのが印象的。どちらかというと小味なアンプだ。

オンキョー Integra A-701XG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ダイヤトーン DS-77Zとの相性
ほどよく角のとれた表情の豊かな音と、演奏会場の環境条件を音場感情報として聴かせるだけの能力を備えた音である。音色は独特の粘りっ気のある柔らかさがあり、中域から高域に硬質さが残ってはいるが、バランスを崩すものではない。正統派の音ではないが、一種独特のこれならではの魅力を持つ音の表現力は大変に興味深い。

マイクロメガ CDf1 Premium

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 フランス・マイクロメガ社製CDプレーヤー/CDF1プレミアムが本邦でも発売されることになった。
 同社はヨーロッパ圏で唯一のCDプレーヤー専業メーカーであり、CDF1プレミアムはその代表的な位置を占める製品である。
 写真からもわかるようにトップローディングタイプであるため、分厚く丁寧な作りのアクリル製ダストカバー(という表現がしたくなるような)をまず開けるところから〝儀式〟は始まる。
 ディスクを乗せ、さらに専用スタビライザーを装着し、ゆっくりとカバーを閉めるという一連の動作が必要なのだ。
 コンパクトですっきりとしたデザインから、軽くて可愛らしい音を想像していたのだが、実際に音が鳴り始めるや、そうしたあらぬ先入観は直ちに吹き飛んだ。
 さすがフランス製というだけあって、響きには、絵画的な色彩感や艶がのり、つぼを押えた音の隈取りの明快さにまず驚かされた。弾力のある暖かい響きには、味わいの豊かな個性的な面もあり、聴きごたえ十分だ。さらに適度な重量感もあり、ほどよく広がる音場にはどこか大人っぽい雰囲気があった。
 決して個性だけで聴かせる製品ではなく、現代的な情報処理能力も十分にもっていて、すっきりしたデザインに精度感が音の面からも感じることができた。したがって、現代的な録音の透明感や繊細感も十分に表現可能だ。
 注目のドライブメカは、すでに高い信頼性を獲得しているフィリップス製アルミダイキャストベースのCDM1IIにCDM4ピックアップを搭載している。
 フローティングには、同社のオリジナル機構が採用され、徹底した防振対策がとられているという。
 ディスクスタビライザーは、内部損失の大きいケブラー繊維とカーボンファイバー、そして直径がおよそ30mm、重さ約120gの真鍮製ウェイトから構成されている。
 D/Aコンバーターには、フィリップス製クラウンマーク付ヴァージョンS1仕様を採用し、アナログ回路はディスクリート構成クラスAオペレーションアンプとし、左右独立の大型トロイダルトランスを定電圧回路に採用している。
 またアナログアンプ部は、電源プラグをコンセントに差し込むと常に通電され、フロントパネルの電源スイッチのオン/オフによらず、ヒートアップが準備された状態で聴くことができるようになっており、短時間のウォームアップで所期の性能が得られるよさばかりでなく、動作の安定性も高めているという。

オンキョー Integra A-701XG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
SX700のSP端子は全域用にケーブルを接続する。柔らかく少し粘った印象のある低域と滑らかで線が細く、しなやかな独特の高域がバランスした、コントラストと色彩感を抑え気味とした個性の強い音だ。T&Pはライヴハウス的なプレゼンで充分に楽しめるが、クラシック系は少し軟調なまとまりで突っ込み不足だ。

クレル KMA160

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 クレルは最近製品の種類が多いためか、一時(特に創業時から数年)のように、クレルのアンプの音という明確なイメージが感じられなくなった。つまり、いろいろな音がするようになった。全くアイデンティティがないとはいわないが、このアンプの音などは初期のクレルの音とは大きく異なり、かなり力強く華麗である。鋭いアタックが鮮やかで、ピアノの音が硬質になるし、中域にやや独特の響きがのって、効果的な場合と逆効果の場合とがある。繊細緻密で、べたつかず、端正で深々とした音が味わえた昔日のクレルはどこへ行ったのだろうか? ベートーヴェンの「エロイカ」のトゥッティも十分透明とはいえない。しかし、有機的で力のある充実した音で、強い表現力を聴かせる。サン=サーンスの「オラトリオ」では、歌手の発音の小音が強調され気味であり、声の出方に圧迫感がある。もっと軽く出てほしいところ。ヘレン・メリルは力強く濃厚でベースも明解。

ゴールドムンド Mimesis 9

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

「ドゥムキー」のヴァイオリンもチェロも引き締まった音で毅然とした端正な演奏に聴こえる。ピアノも自然で、どちらかというと控えめな鳴り方。緻密な分解能をもち、きちんとした音像の再現だが、決して物理的な裸の音ではなく、美しさを感じさせるアンプだ。「エロイカ」も、オーケストラの複雑な音色の綾を明解に、そしてよくまとまったバランスで聴かせる。よく調和して響くがウェットに濁ったりはしない。あくまで明晰な解像力を失わない。音質はやや硬質だし、線画調の細かさのある音だが、決して冷たくはない。緻密な音、精緻な音といった魅力が特徴で、ウィーン・フィルのしなやかな甘美さにはもうひとつ柔軟性が足りないようだ。ジャズには品位の高い音で、シンバルのこまやかな音色の変化をよく再現するし、ベースも締まっていて明るい。馬力のある音ではないが、決して弱々しい感じはなく、ジャズの強烈な直接音も極端な低能率SPでなければ大丈夫。

パナソニック SU-MA10

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
適度に滑らかさのある線の細い音を聴かせるアンプだ。帯域バランスはナチュラルで、一種の鮮明さが聴かれるが、中域のエネルギー感が不足気味で、コントラストが薄くなり、聴きやすいが音の表情が硬くなる。音場感はスピーカーの奥に広がり、音像は小さいがやや引っ込み気味である。全体にもう少し力強さがほしい音だ。