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ティアック LS-360

岩崎千明

スイングジャーナル 5月号(1969年4月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ティアックが最初にスピーカー・システムを発表したのはもう一年も前であった。かなり好評をもってむかえられたこの大型ブックシェルフ型スピーカーの音に、初めて接したとき、私はそれほど感じなかったがまた同時にテープレコーダー・メーカーとしてトップ・クォリティをうたわれるティアックの音に対する独特なポリシーないしは立場のむつかしさというものの一面をかい間みた思いがした。テープレコーダーというものはレコードと一律にして判断でき得ないきわめて優れた再生品位を持っている。これはまぎれもない事実である。そして、これと表裏一体のマイナスの面も無視はできないこのマイナス面にはヒスを主体とするSNがあり、あるいは位相の問題もあろう。このマイナス面を意識しすぎた音作りが最初のスピーカー・システムの音にあったといえるのである。
 具体的にいうならば声や歌が生々しいプレゼンスを持っているのにかかわらず器楽曲における類をみない独得の音色的バランスである。ヒスに対しての心使いから生れたのであろうが、少し高域が足りないようである。
 TEACというブランドの知名度は、日本においてよりも米国マニアの間での方がより高い。それもずっと以前、ステレオ初期から、超高級テープレコーダー・コンサートン・ブランドのメーカーということで伝説的でさえあった。
 そして、このトップ・レベルののれんがスピーカー・システムという音作り一本の商品に気おいこみすぎた結果といえそうだ。さてこのところテープレコーダーのティアックがマニアの間でますます地盤を固めてきた結果プレイヤー、アンプなど商品の範囲を広げるのは当然である。プレイヤーはマグネフロートを吸収してティアック独特の精密仕上げにより性能を一新した傑作であり、また当初海外向けに出されたアンプはとかく、ユニークな設計と企画のインテグレイト・タイプAS200は、これまた高品位の再生に期待通りの真価を発揮する優秀製品である。JBLのアンプを思わせるAS200の出現は、引き続きティアックが本格的なスピーカー・システムにも力を入れてくることを予想させた。
 今回発表された新型システムLS360は、まぎれもなく「ティアック」ブランドにふさわしいスピーカー・システムということができる。
 30cmウーハーを使用した3ウェイという常識的な構成をうんぬんすることは、ここでは必要ないだろう。注目したいのは、単にハイ・ファイ・テープレコーダー・メーカーというせまい立場で、この音は企画され設計されたのではないといえる点だ。AS200の回路構成にみられるコンピュータ技術に立脚した回路、たとえば差動アンプ回路やその安定性、またこのハイ・レベルの音から知ることのできるハイ・ファイ的センス、これは単にテープレコーダーの高級品メカニズムだけを作っていた頃のティアックのものではない。
 ハイ・ファイ総合メーカーに大きく飛躍していこうという姿勢から生み出された音作りを新型スピーカーにも見出すことができるのである。
 きわめてクリアーな歪の少なさを感じさせる中音。かつてのシステムから一段とレベル・アップしたすぐれたバランスの上に成り立っている音は分解能力の点でもずばぬけ、手元にあったヴォルテックス・レーベルの前衛派の数枚は、定位よくマッシヴに再現され、ひときわ鮮烈さを増したことを伝えよう。中音域に起因すると思われるいま少しのブラスの輝きがほしいが、このスケールの大きな音がこの価格で得られるというのもティアックならではのことだ。

JBL Lancer 77

岩崎千明

スイングジャーナル 5月号(1969年4月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 アメリカ人は、JBLとかジムランといういい方をしない。ランシングと呼んでいる。James B Lansingの略だから当然で、このランシングスピーカーは米国の相当なマニアにとっても「高価な豪華品」を意味している。
 さてこのJ・B・ランシング社にランサーという名をつけたシステムが出たのは確か5年前である。
 ランサーという名からは、本来の語意の槍騎兵にふさわしいマスートなセンスをうかがわれるが、さらにこの名からシリーズに賭けた意欲をも知ることができよう。
 この時期を境にしてJBLはスピーカー・メーカーから規模も狙いもぐんと拡大した大型メーカーとして生れ変ったようだ。ランサーには、おなじみLE8Tを主体にし、パッシブ・ラジエター(ドローン・コーン)で低域を素直にのばした比較的普及価格のランサー44があるが、その一段とハイ・クォリティーの製品がランサー77である。
 さらにその上にパワー・アンプつきのランサー99や、このシリーズ最高級のランサー101がある。
 ARスピーカーの爆発的人気を意識して作られたこのランサーのシリーズの特長は「広い帯域特性と、素直な音色バランス」にある。ハイファイ技術のきわめて高度に達した今日では、広帯域特性はひとつの最低条件ともなっている。しかし、ランシング・スピーカーの最大の特長は、あくまでもその高能率と分解能のずばぬけた優秀性とにあり、これがいかなる楽器の音をも鮮やかに再現する基本的な底力としてこの社のスピーカーの他にない特長であり、ポイントでもあった。そして、この優秀性を基本的には損なうことなく、広いレンジを得たのが、ランサー・シリーズなのである。
 こういう点を考えると、ランサー・シリーズの中でも、もっともランサーらしい優秀性をそなえている製品はランサー77である。
 ランサー77は、JBLだけでなく米国製としても珍らしい10インチ25センチ・ウーファーが主力となっているが、この10インチ・ウーファーLE10Aはブックシェルフ型ランサー77のために設計されたのに相違ない。つまり本来のシステムとしての優秀性を確保すべく、広帯域ウーファーとして作られたものだ。当初はLE30Aという口径3インチのドーム・ラジエター・タイプのトゥイーターと組み合せて発表されたが、高域の鮮かさと指向特性とを改善する意味もあってか、いまは小口径のLE20Aとの組合せでランサー77として発表されている。
 この一見なんの変哲もないLE20Aからたたき出されるシンバルの音はまったく紙質のコーンから出てるとは思えない。このシンバルのブラッシの余韻やすみきった超高音はいわゆる周波数域だけでなく、優れた指向特性の所産でもある。
 そして、この超高音特性に加えてLE10Aにパッシブ・ラジエターを加えて超低域特性をスッキリと素直に伸ばしている点で、ランサー・シリーズ中でも広帯域特性という点でずばぬけた製品だ。加えて、中音域のややおとなしいひかえめなバランスはJBLスピーカーには珍らしいほどである。しかもひとたびブラスのソロに接するや輝かしいタッチをくっきりと再現しフルバンドの咆哮にはスケールの大きな音場を鮮烈に再現してくれる点は、JBLならではといえよう。
 93、500円という価格はブックシェルフタイプとしてたしかにかなり高価なものには違いない。しかしこの音に接したなら多くの市場製品の中でも抜群のコスト/パーフォーマンスを得るに違いない優秀システムがこのランサー77なのである。

デンオン DP-4500

岩崎千明

スイングジャーナル 4月号(1969年3月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 音楽ファンが、レコードから音楽だけでなく、音そのもののよしあしに気付いてくると、機械の方にもこり出してくる。そして装置がステレオ・セットから、アンプ、スピーカー、プレイヤーと、独立したコンポーネントになり、さらにそれが高級化の道をたどるようになって、オーディオ・マニアと呼ばれるようになる。その辺で妥協してしまえばよいのにこのあとも時間と金をつぎこみ、泥沼に入るようになると、呼ばれているだけでなく、本当の「マニア」になってしまう。そういうマニアが極点として、放送局仕様のコンポーネントを揃えるというのはしばしばみられる行き方である。海外製の高級パーツを揃える場合と似て、ひとつの標準として、自分自身に納得させ、安心させるに足るよりどころをそなえている点が、魅力となっているのだろう。たしかに、放送というぼう大な聴き手のマスコミにおいて使われる機器であるだけに、それは最大公約数的な意味の「標準」として、またさらに信頼度と安定度とを要求される。この「標準」によって音楽を聞くことにより、ひとつの安心感のもとに音楽を楽しむことができるというものだ。
 またさらにオーディオ一辺倒の音キチでなく、本当の音楽ファンが音の良さに気付いた場合の機械に対する手段としても、放送局仕様のパーツで装置を形成するケースも少なくない。どちらの場合でも、局用仕様という点が「標準」として誰をも納得させるからであり、そういう点では正しい結論といい得る。
 オーディオ技術が進み、しだいに優れた製品が多くなり、どれを選んだらよいかという嬉しい迷いが多くなったこの頃、放送局用仕様という「スタンダード」は、かくて大きな意味を持ってきたようである。
 特にNHKにおいて使われている音楽再生装置に最近は著しくマニアの眼が向けられるようになった。三菱のダイヤトーンのスピーカーがそうであり、コロムビア・デンオンのテープ・デッキや、ここに紹介するデンオン・プレイヤーがそうである。
 デンオンは本来、NHKのスタジオ演奏用機器の設計製作だけを目的としたメーカーであった。NHKの他、官公庁の装置をわずか作るだけで、全然といってよいほど一般市販品を作っていなかった。
 ところが、コロムビアがデンオンを吸収したことが、マニアの福音となって、待ちこがれた局用仕様がマニアの手に入ることになった。
 その中でも、特に注目されているのが、DL103カートリッジである。
 ステレオ・レコード演奏用としてNHK技術研究所と、デンオンが協同開発したカートリッジである。昔モノーラル・レコード用として同様に協同開発したPUC3が米国の最高級と絶賛されたフェアチャイルドなどと互角に張り合った高性能を知る者にとって、このDL103は大きな期待を抱かせた。そしてDL103のこの上ない素直な音はどんなマニアをも納得させずにはおかなかった。装置の他の部分がよければよいほどDL103はそれにこたえて新らしい音の世界を開いてくれたのである。
 コロムビア・デンオンが、高級マニアのために企画したプレイヤーDP4500に、このDL103がつくのは当然すぎる企画だろう。そしてこのカートリッジの高性能を引出すシンプルな、しかし高精度で仕上げられたアームと、マグネフロート機構でロング・ベスト・セラーのベルト・ドライブ・ターンテーブルを組み合せたプレイヤーが、このDP4500だ。もし、予算に制限をつけず、安心して使えるプレイヤーを選ぶことを望まれたら、少しの迷いもなく薦められる、価値あるプレイヤーだろう。

マルチ・チャンネル・ステレオとは

菅野沖彦

スイングジャーナル 4月号(1969年3月発行)
「オーディオ・コーナー ’69ステレオの新傾向」より

マルチ・チャンネル・アンプ・システムとは何か
 オーディオに関心のある人は、近頃この言葉を見たり聞いたりすることだろう。これは最近流行のきざしをみせているアンプのシステムで、高音、中音、低音にそれぞれ独立したアンプを使うものである。従来、スピーカーはマルチウェイ・システムといって3つあるいは4つ、またはそれ以上を音域別に使う方法は珍しくなかった。しかしこれをアンプでおこなうというのは耳馴れないことかもしれない。かといって、この方式は昔からなかったわけではなく一部高級マニアの間では使われていた。もともと1台のアンプですむ(ステレオなら左右各1台)ものを、2台も3台も使うのであるから費用もかさむし使い方もやさしくはないということで一般には敬遠されていたのだが、最近になってアンプがトランジスタ化されて小さくまとめられるようになったり、再生装置の水準が高くなって、ある程度の域まで達成されてさらに質的向上を追求する結果、一般にも普及のきざしを見せてきたわけだ。
 図をみていただけばおわかりのように、チャンネル・アンプ・システムは、ブリ・アンプの出力をチャンネル・フィルター(フィルター・アンプとかデバイディング・フィルターとも呼ぶ)によって周波数帯域別に分割し、それぞれの帯域に専用のパワー・アンプを使う。その結果、従来のマルチ・ウェイ・スピーカーシステムに使われていたネットワークは不必要になり、アンプとスピーカーは直結される。この分割する帯域の数によって2チャンネルとか3チャンネル、あるいは4チャンネルなどと呼ぶ。それでは、なぜこんなことをするのか、どういう利点があるのかということについて考えてみることにしよう。チャンネル・アンプのメリットについて説明するためには従来のネットワーク式の欠点について述べなければならないだろう。ネットワーク式に欠点がないとすればわざわざこんな面倒でお金のかかることをしなくてもよいと思われるからである。しかし、ネットワークの欠点などというと、ネットワーク式ではよい音が得られないというように早飲み込みされる危険がありそうだ。実際にはネットワーク式でも最高の音を求めることも不可能ではなく、チャンネル・アンプ式は理論的な根拠をもったよりよき音へのアドヴェンチャーであると解していただきたい。したがって、チャンネル・アンプなら必らずネットワーク式より音がよいとは限らず、優れた設計と高度な製造技術による高性能の製品と、高い感覚と豊かな音楽的体験による使いこなしがともなわければその真価は発揮されないと思う。チャンネル・アンプのメリットを述べるにあたっての前置きが長くなってしまったが、この辺をよく理解していただいかないと、いろいろ誤解を生じると思う。
 低音用のスピーカーには高い音を切って低音だけ、中音用には低い音と高い音の両方を切り、高音用には低いほうを切って高い音だけを供給するという必要があることはおわかり願えると思う。そのためには、スピーカーの前でそういう分割作用をおこなわなければならず、その役目を果すのがネットワークやチャンネル・フィルターである。ネットワークはアンプとスピーカーの間に挿入され、チャンネル・フィルターはアンプの前段に近いところに挿入されるネットワークに使われているLC素子には、アンプの性能を多少劣化させるものがあり、これを取り除きたいためにチャンネル・アンプが生まれた。チャンネル・アンプではRC素子回路で周波数分割をおこなえるものでこの害がない。ここでのLはチョークコイル、Cはコンデンサー、Rは抵抗である。この中でLはよほど巧みな設計とぜいたくな作り方をしないとアンプとスピーカーの間に入って音質を害するとされている。また、帯域別にパワー・アンプを使うと、ひとつのアンプが分担する周波数範囲が限定されるためにアンプそれぞれの負担が軽くなり働きやすくなる。音質を悪くする最大の要因にIM歪(混変調歪)というものがあるが、これは、高い周波数がエネルギーの大きな低い周波数に邪魔されて起る歪でチャンネル・アンプにすればアンプにおけるIM歪の発生が大きく減るものと考えられる。これはスピーカーについてもいえることで、ひとつのスピーカーで全域を受け持たせるより2~3分割したマルチ・ウェイ・スピーカー・システムのほうが有利である。ネットワーク式ではアンプのIM歪はどうにもならないが、チャンネル・アンプ式では、これを軽減できるわけだ。このIM歪はカートリッジやプリ・アンプでも問題となるが、少なくともパワー・アンプ以後では従来のネットワーク式より有利になると考えてよいだろう。この他、それぞれの帯域のレベル・コントロール(音量調節)をするために、ネットワーク式で使われるアッテネーターもよほどのものを使わないと音質に影響があり、調節範囲を限定したタップ式で3段切換で増減するのが普通だが、フィルター・アンプなら、これをボリュームで自由にコントロールできるという利点もある。さらに、高中低それぞれの周波数範囲が交叉する点(クロス・オーバー・ポイント)を正確にとるには、ネットワーク式では使うスピーカーの特性によって変るのだが、チャンネル・フィルターでは問題ない。つまり、ネットワークはそれぞれのスピーカ一専門のものしか使えないが、チャンネル・アンプならどんなスピーカーをつないでも正確な分割ができる。これらの利点のために得られる音は抜けのよい透明な音質、歯切れのよい明解な音質といった印象に連なることになるのだが、それにはそれ相応の知識と経験を必要とする。以上でごく大ざっばにそのメリットの可能性については理解していただけたと思うので、次にその使い方や正しい考え方について述べよう。

チャンネル・アンプ・システムには何が必要か
 全帯域を3分割する3チャンネルが最も一般的なので、それを例にとって話しを進めよう。
 まず必要なのは独立したブリ・アンプである。ないしは、プリとパワー部を分離することのできるプリ・メイン・アンプが必要。最近の新製品(チューナー組込みの総合アンプは除く)にはこの分離ができるものが多い。アンプの後面端子板にジャンパー・ターミナルが出ていて、これを切り離すことによってそれぞれ独立したアンプとして使えるようになっている。
 次に必要なのがチャンネル・フィルターである。
 3分割するのだからパワー・アンプが3台必要。片チャンネル3台ずつだからステレオでは実に6台のアンプということになる。この場合、先述のプリ・メイン・アンプを使えば買いたすパワー・アンプは2台である。もう察しがついたことと思うが、ジャンパー・ターミナルのついたプリ・メイン・アンプを買っておけば、当初はネットワーク式で使っておいて、後にフィルターとパワー・アンプ2台を買い足してチャンネル・アンプ式にスムースにグレード・アップできるわけだ。
 最後に当り前の話だがスピーカー・システムが必要。3チャンネルのアンプでドライブするのだから3ウェイのシステムがいるわけ。大抵のシステムはスピーカーのターミナルとして+-1組が出ていて、箱の中でネットワークを通してそれぞれのスピーカーに結線されている。しかし、チャンネル・アンプでドライブするには、高、中、低、それぞれのスピーカーへ直接結線する必要があるから+-3組のターミナルがなければならない。したがって多少スピーカー・システムに手を加えなければならないが、そのぐらいはだれにでも出来る。最近のシステムでは、ネットワーク、チャンネル両方のターミナルが設けられスイッチで切りかえるようになっているものが多くなった。しかし、ここで少々脱線するが、チャンネル・アンプ・システムの究極の姿というのはスピーカーを単体で組み合わせて高度なシステムを完成するというほどの高い水準にあるといってよく、このシステムに取組むにはその程度の覚悟が必要だ。さもなくば、メーカーの完成品に、このシステムが利用されたものがあるから、それを買ったほうが得策だと思う。
 さて、これだけのユニット・コンポーネントがそろえばチャンネル・アンプ・システム構成の準備は整ったわけで、次にこれを正しく組み合わせて使う段になる。

チャンネル・アンプ・システムは次のことに注意する
 正しい配線と、バランスのとれたレベル・コントロールの2つがチャンネル・アンプ・システムを完成させる必要十分条件である。正しい配線をするためには少なくとも以下に述べることを知っておくこと、またバランスのとれたレベル・コントロールをするには日頃の音楽的体験と全般的なオーディオの知識が必要である。毎号本誌を熟読していれば、それは自然に養われているはずだと思うが……。
 正しい配線をするためには、チャンネル・フィルターについて理解する必要がある。製品によっても異るが、普通、チャンネル・フィルターには、レベル・コントロールが3組(高中低が左右一組ずつ)とグロスオーバー周波数切換スイッチの2つがついている。この他、遮断特性切換とか低音増強ツマミなどのついたものもあるが、ここで大切なのは、クロスオーバー周波数切換スイッチである。クロスオーバー周波数とはすでに述べたように、分割する周波数帯域の交差点であり、使うスピーカーによって最適なポイントを選べるように何種類かに切換えられるようなスイッチがついている。低音と中音の間を150Hz、300Hz、600Hzの3点、中音と高音の間を2、000Hz、4、000Hz、6、000Hzの3点といった具合に切換えられるわけで、この周波数ポイントの選び方が、音質に大きな影響を及ぼす。最適値を決めるためには、使用スピーカーの特性をよく理解し、メーカーの指定があればそれを参考に、なければ、特性表などから推測して、それぞれのスピーカーの無理のない範囲を有効に選ぶ必要がある。普通、スピーカーにはf0といって最低共振周波数がある。そして、それ以下の低域は使えない。例えば、30cmスピーカーでfoが50Hzとあればそのスピーカーの再生できる低音の限界は 50Hzだと思ってよい。これが中音に使う12cm~20cmのスピーカーでも同じことで、そのf0以下にクロスオーバーをとることは論外である。かといって、低音に大口径スピーカーを使った場合、あまり高いほうまでこのスピーカーに受け持たせると歪が多くなるし音質的に好ましくない。その兼ね合いがむずかしくクロスオーバーの決定の秘術が生まれることになる。またホーン・スピーカーではそのホーンのカットオフ周波数が再生できる低限であり、普通それより高い所でつなぐのが常識だ。中音用にホーン・スコーカーを使う場合など、クロスオーバーはあまり低くとれないのでウーハーの高域特性のよいものが要求される。こういう点を一応理解した上で、データがあればそれに従ってクロスオーバー周波数を選び(厳密に考える必要はなく、±10Hz~15Hzは問題ない)、さらにいろいろ切換えて音を聴くべきであろう。メーカーの指定より100~200Hz高い(低い)ところでつないだほうがよい音になったというようなケースも珍しくなく、スピーカー・ボックスや部屋の条件で変るから、かなりフレキシブルに考えてよい。
 プリ・アンプの出力端子とチャンネル・フィルターの入力端子をピン・ジャックでつなぎ、チャンネル・フィルターの高中低それぞれの出力端子を3台のパワー・アンプの入力端子に同じようにつなぐわけだが、パワー・アンプと各スピーカーのつなぎ方に注意する点がある。ご存知のことと思うが、ステレオの場合、左右スピーカーの+-の接続が狂っていると再生音はよくない。これを位相が狂っているというが、チャンネル・アンプの場合は、左右それぞれ片側だけで高中低と3台のスピーカーにつなぐわけで、その間の位相が問題となる。高音用スピーカーに対して中音用の+-がひっくり返っていたり、高音、中音はそろっていても低音だけでひっくり返っていたというようなトラブルが非常に多い。左右で12本の配線ともなると実際にゴチャゴチャになるもので、余程注意して配線しなければ、あとでなんとなく音が悪くても気がつかず、よけいな心配をするものだ。すべてのスピーカーの+-がアンプの+-と正しくつながっていることが原則として必要だから念には念を入れてチェックすることである。原則としてと、ことわったけど、これには理由があって、クロスオーバー周波数の減衰特性(遮断特性)によって位相が変化するので、場合によってはスコーカー(中音域)だけを+-をひっくり返してつなぐ必要がある場合が起る。しかし大抵の場合は、フィルター内で処理されているから、アンプとスピーカーの指示を合わせればよいと考えるべきだろう。この減衰特性は、ゆるやかに下るもの、急激に下るものというようにいろいろな考え方から設計されており、通常、6db/oct、12db/oct、18db/oct、の3種がある。これは1オクターブで6db下るという意味で、12db、18dbとなるにつれ急激なカーブを描くわけだ。シャープに交叉させるほうがよいか、ブロードな曲線で交叉させるほうがよいかについては諸説があるが、正しく設計製作されていれば12dbか18db/octがよい。切換えスイッチがある場合は試聴で決定することになる。
 さて、正しい配線が終ったら、いよいよ各帯域のレベル・コントロールということになるが、私たちが一般におこなっている方法をお教えしよう。
 聴きなれたレコードを用意する。プリ・アンプのモード・セレクターをモノーラルにする。バランス・コントロールをどちらか一杯に廻して左か右だけのシステムを生かす。レコードをかけて、中、高はしぼりこみ、低音だけ一杯にあげる。次第に中音を上げていき、低音との調和のよいと思える点でとめる。次に高音のボリュームを同じ要領でコントロールする。もしこの過程で、中音を一杯にあげても足りない場合には低音を、高音を一杯にあげても足りない場合には中音と、それにともなって低音それぞれ下げることになる。バランス・コントロールを逆に廻して、もう一方のシステムだけを生かす。先に調節したツマミの位置にならって調節し、あとは、左右のシステムの音をそろえる。ついでに、バランス・コントロールの中点で音が中央から出てくるようにする。ここで初めてモードをステレオに切り換えるとすばらしい立体音が得られるという仕掛け。言葉でいうとこうなるのだが、実際にはこの調整は大変難しいし、やりがいのあるものだ。ありとあらゆるレコードで、長時間かけて、腹の減っている時、ふくれている時、天気のよい日、悪い日といったあんばいに、なにしろ微妙に変化する音のコントロールであるから、じっくり落ち着いてやりたいもの。1か月や2か月はかかってもなんの不思議はないだろう。ご健闘を祈る。

市販されているマルチ・チャンネル用のコンポーネント
 プリ・アンプ、パワー・アンプ、プリ・メイン・アンプ、そしてチャンネル・フィルターなどで構成することはすでに述べたが、現在市場にある製品で代表的なものについてご参考までに紹介しておこう。まず、とりあえず、ネットワーク式で使えて、さきへいってからチャンネル・アンプに発展させるという目的から、プリ・メイン型を見ることにする。
〈トリオ〉
 KA4000、KA6000、そして新しく発表されたKA2600など、すべてのプリ・メイン型はプリとパワーのジャンパー・ターミナルによりグレード・アップが容易である。
〈パイオニア〉
 SA70、SA90という新製品がプリとパワーのジャンパー・ターミナルに独特のアイディアが盛り込まれて使いよい製品。プライス・パーフォーマンスの優れた高性能アンプである。
〈サンスイ〉
 AU555、AU777が中心となってこの社のポリシーであるグレード・アップのスタート・ラインをつくっている。コンポーネント・システムによるチャンネル・アンプ化への積極的な姿勢で一貫していて頼もしい。
〈ソニー〉
 TA1120Aが代表製品で、高級プリ・メイン・アンプとしてのすべての機能を備えている。同社の一連の製品でチャンネル・アンプ・システム化が可能である。
〈ラックス〉
 新製品SQ505、SQ606でソリッド・ステート・アンプを完全に消化したラックスはもともとこうしたコンポーネント専門のメーカーである。
〈コーラル]
 A550が中級品のプリ・メイン型としてグレード・アップに適している。
〈ナショナル〉
 テクニクス50Aが発表されており期待される。
〈ティアック〉
 AS200が現時点での代表製品で、もちろん、プリとパワーの切り離しが可能で将来の発展に差支えない。

 ところで初めからプリとパワーを独立で構成させていく方法も考えられる。セパレート・アンプとしての代表製品を同じように展望して見よう。
〈パイオニア〉
 SC100という高級プリ・アンプとSM100というパワー・アンプがコンビとして考えられる。さらに新製品で価格的に求めやすいSC70(プリ)、SM70(パワー)も発展的なコンポーネントとしての典型的なものといえるだろう。
〈サンスイ〉
 プリ・アンプはCA303がユニークな高級品。これは中にチャンネル・フィルターが組込めるようになってあり、マルチ化のためのプリ・アンブといってよい。パワー・アンプとしてはBA60、BA90が主力製品だ。
〈トリオ〉
 新しく発売したM6000というパワー・アンプを使って、同社のプリ・メイン型へ加えてのグレード・アップが可能である。独立のプリ・アンプはまだそのライン・アップにはない。
〈ビクター〉
 プリ・アンプとしてロー・コストのMCP200、高級品PST1000、パワー・アンプとしてMCP200に対するMCM200、PST1000に対するMST1000と優秀製品がそろっている。
〈ソニー〉
 プリ・アンプはTA2000、パワー・アンプは TA3120という高級品がある。価格も性能も最高の製品で信頼度も高い。
〈ナショナル〉
 テクニクス・シリーズの機器はぜいたくな高級製品で、ブリ・アンプは管球式のテクニクス30A、パワー・アンプも同じ管球式の40Aが堂々たる風格。
〈ラックス〉
 PL45という高級ユニバーサル・プリ・アンプがある。管球式で同社の高い技術水準を反映した優秀製品。パワー・アンプはMQ36という大型なマニア向きのものがある。
〈マランツ〉
 アメリカ製の最高級アンプで、プリが7T、パワーが15という魅力的な製品がそろっている。
〈JBL〉
 スピーカー・メーカーとして有名なアメリカのメーカーだがそのアンプも非常に高度な回路技術を駆使した優秀品で、プリはSg520、パワーはSE400S。
〈マッキントッシュ〉
 アメリカの最高級品として前2者と共に有名。管球式のプリC22とパワー・アンプMC240、MC275がアンプの王者といわれている。

 このように、ちょっと代表的なものを眺めただけでも枚挙にいとまのないほどであるが、最後にチャンネル・フィルターをあげておくことにする。市販の全製品といってよいほど大部分が3チャンネルで、中には2チャンネルにも使えるものが多い
 ソニーのTA4300はロー・ブーストやブースト立上り周波数の切換スイッチまでついたぜいたくな製品でやや大型だが同社のシリーズと一貫したデザインでまとめられている。
 ビクターのMCF200はMCP200、MCM200とのシリーズで小型で使いやすく機能的にも完備した優秀品。
 サンスイではCD3が主力製品だったが近く廉価品のCD5が発売される。
 トリオは高級品F6000を発表しているが市場に出るのは6月の予定
 YL音響にCH401という4チャンネルまで可能なフィルターがあり同社のプリ・アンプSCU33、パワー・アンプTM40とシリーズをつくっている。
 以上きわめて概観的にマルチ・チャンネル・アンプ・システムについて眺めてみた。我と思わん方は、是非このシステムに挑戦していただきたい。インパルシヴなジャズのミュージック・ソースを混濁なく、大出力で安定して再生するためには、こうした高級システムが大いに威力を揮するものである。

ソニー STR-6500

岩崎千明

スイングジャーナル 4月号(1969年3月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ソニーのこのSTR6500を私が知ったのは、秋の大阪のオーディオ・フェアであった。私はその価格を知ったとき本当に驚ろいた。
 国産はおろか全世界のハイ・ファイ市場においてその高品質が抜群のTA1120をはじめとして、SJ誌増刊でも私が選んだチューナーつき6060も、ソニー・ブランドのアンプはきわめて高品質だが、高価格と相場がきまっていた。もっとも高価格といっても、このずばぬけた性能と、内部の金のかかったパーツ群をみれば、コスト・パフォーマンスという点では、あるいは一番のお買徳かも知れない。もし他のメーカーでこれだけのものを作ったら、おそらく倍近い価格をつけるのではないか? と思うくらいである。
 このソニーが新製品に4万円台という価格をつけた! 安いことに驚いたのではなく、このクラスのアンプにソニーが乗りだしたという事実についてである。
 4万円台ながら、前面パネルのデザインやつまみ、パネルの仕上げは今までの路線上にあるもので、一見6万円台を思わせる豪華さである。手を抜かない仕上げがソニーのハイ・ファイ・メーカーとしての貫禄をにじませている。しかし、私は編集部が持参したソニーのアンプのパッケージを手にしたとき、ふと懸念を覚えた4万円台という価格からか少し軽すぎるような気がした……。スピーカーをつなぎ、音を出したとき一聴して従来のソニーとは違うものを意識させられた。今までの音が、ソニーが宣伝文句によく使っていたように冷たさを思わすほど「透明度の高い音」を感じきせるのに対し、この新型アンプは、冷たさは少しもなかった。むしろ暖かくソフトな音である。もっともこれは従来の代表製品1120の音が高いレベルにあるのでこれとくらべてはじめて感じられるのだが。
 この音は4万円台の価格と共に購売層を意識して創られたものだろうと思う。音キチやオーディオ・マニアのすべてを納得させることはできなくても、音楽を愛する人には共感と、賛辞をもって迎えられるに違いない。
 ソニーはいまや、全世界の市場をトランジスタ・ラジオとテープレコーダーで占めてしまうほどの大メーカーである。この大メーカーの優秀な技術力をハイ・ファイに傾けて1120という傑作を世に送った。この企画はいかなるアンプよりも優れた製品という当初の目的がほぼ完全な形で達せられているといえよう。高度の音楽マニアやハイ・ファイ・マニアを納得させてしまうハイ・クォリティの音が実現されたのであった。
 同じメーカーが今度は一般的な音楽ファンのための音作りがなされたアンプをひっさげて、市場のもっとも大きな需要層にのりこんでくるということ。このメーカーの新しい姿勢に、私は驚きと脅威を感じたのである。
 おそらくこのアンプは、高い人気を持って売れるであろう。歪の少ない、ウォーム・トーンが若い音楽ファンを良い方向に導いて、優れたハイ・ファイ・マニアを多く育ててくれることを期待しよう。
 そして、それゆえに私はひとこと付け加わえたいことがある。それはこのアンプが、あくまでも日本の小住宅用のものであることを……。大音量を必要とする12畳以上の部屋で使用する場合にはものたりないかも知れない。理論的なものを述るとむづかしくながくなるので、終りに私はここでこのアンプを生かした組合せの方法をひとことつけくわえたい。リスニング・ルームであるがこれは、できれば6~8畳までの部屋で、さらに組み合わすスピーカー・システムは、高能率なものを推めたい。

サンスイ SP-1001

菅野沖彦

スイングジャーナル 4月号(1969年3月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 サンスイの新製品スピーカー・システムSP1001を聴いた。同社はSPシリーズのシステムでスピーカーの音まとめを完全にマスターし、SP100以来、200、50、30、といずれも水準以上のシステムとして好評だった。SP100の当りぶりは業界でも伝説化するほどで、これほどの成果を収めた(営業的に)スピーカー・システムは後にも先にも珍しい。スピーカー・システムというものは、すべてのオーディオ製品の中で、耳によるまとめのもっとも難しいものだ。いい方をかえれば、製品の性能を決するファクターの中で、耳によるコントロールの占める部分がもっとも大きい。つまり理論的に解明されていない部分が多く、どうしても実際に聴いて仕上げていかなければならない。つまり、スピーカー・システムはそのメーカーの音への感性を雄辨に物語るわけであるから、メーカーにとっては大変こわい商品でもあるわけだ。現在のオーディオのかかえている問題の典型的なパターンがスピーカー・システムであるといっても過言ではない。もちろん理論的に裏づけられた正しい設計と、科学的に体系化され整理集積されたデータがなければ、同じオリジナリティーの製品を大量に生産することは不可能であるし、スピーカーに対して適用される現在の測定方法によるデータも満足すべきものでなくてはならない。現在の測定データは不十分ではあるが絶対に必要な条件でもある。このような実状のもとでサンスイのSPシリーズは実にみごとに物理特性と感覚性の両面をバランスさせ、それを巧みに生産システムに結びつけて量産化したものであるといえる。
 このSP1001のシステムは、低音に25cmウーハー、中音に16cmスコーカーのそれぞれコーン・スピーカーを使い、高域は25mmのドーム型という構成である。エンクロージュアはサンスイお得意のパイプ・タクトによる位相反転型で、SPシリーズ特有の豊かなソノリティーの一因となっているように思う。このSP1001は、従来のSP100と同級品だからSP100のMKIIのような商品といえるだろうが音は透明感と解像力の点で一新され大変明解な清新な音色となった。ユニットをみれば、SP100とはまったく異なった系列のシステムてあることがわかり、SP100のウォーム・トーンからこれはクリアー・トーンという印象になった。しかし、従来一貫して感じられていたSPシリーズの暖かさと艶麗さをもっていることは感心させられる点だ。音には必らず個性がでるということを改めて感じさせられた。低域はよくのびて弾力的だし、中域の明るい抜けのよさは特にジャズの再生には向いている。そして高音域がやや甘くしなやかすぎるのが私としては、ひとつ気になるところなのだが、これは高音域用に1個数万円もするトゥイーターを使っても満足のいかない問題だから欲張り過ぎかもしれない。また高域はパワー・アンプによってもずい分その質が変わるものだし、これは簡単に片づけられないことだと思う。シンバルの音色にはドラマーなみの悩みを感じるのがマニア共通の問題であろう。スティック・ワークの鋭いアタックとブラッシュ・ワークの繊細な音色を共に満足に再生することは、その両方を満足に録音することと同様にむずかしいと思う。
 背面の端子板は、2〜3チャンネルのチャンネル・アンプ・システムで駆動できるダイレクト・コネクターとネット・ワークによる3ウェイのコネクター、高中それぞれを3段階にレベル変化できるスイッチが設けられた本格派であるし、とかくやっかいな結線ターミナルもワン・タッチの操作が簡単で安全性の高いものであり、商品に対する誠意を感じた。

クライスラー CE-1a

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 悪口が先になるが、ベルリン・フィルが明るく軽く、アメリカのハリウッドのオーケストラのように響く。これがこのスピーカーの音色的不満。しかし、バランスはよくとれているし、プログラム・ソースの選り好みも少なく、大変よくできた万能型のシステムだと感じた。この明るく軽やかな音色は、ジャズにはちょうど視聴に使ったシェリー・マンなどウエスト・コースト派の連中のサウンドにはぴったり来る。華やいだソプラノも魅力的。

ラックス 25C44

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 明るく明解な音で好感がもてる。バランス的には中音域がやや出過ぎの気もするが、これが決してマイナスにはなっていない。むしろ中域の充実感として受け取れるといってもよい。全体の音質は決して品位の高いものではなく、軽く、迫力不足だが、そうしたユニットを巧みに使いこなしてまとめた音づくりがうまい。どちらかといえばクラシック、ポピュラーに向き、ジャズには向かない。質感と力量感が物足りないからである。

オンキョー F-500

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 ベルリン・フィルが明るく軽くなり過ぎる。中低域の繋がりに、やや不連続感があり、高域に一種の響きが感じられるが、全体のまとめは美しく均整がとれている。ジャズでは、ベースの上音がやせ気味で、解像力をもう一つ要求したい気がするし、力量感が不足する。しかし、声楽の明るい抜けや、ムード音楽の甘美な雰囲気はなかなか魅力がある。深刻型の音を求める向きには不適当だが、明るいムード派にはよくまとまった好ましいシステム。

デンオン VS-220

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 音の品位が悪く、中音の下のほうに不自然な鳴きがあるし、高音域も制動不足のようなトランジェントの悪さが感じられる。音の印象は派手だが、ジャズを聴くと平板で、奥行き厚みがなくて物足りない。ポピュラー・ヴォーカルのかなり音づくりのきいたソースやムードものでは華やかさがプラスとなって効果的な響きがするが、価格的にも、もう一息オーソドックスな品位の高い音を要求したくなる。

ダイヤトーン DS-33B

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 まず、水準以上のシステムだと思う。しかし、最高水準という点からものをいえば、質がやや安っぽく、高域のざらつきが気になる。低域のダンピングも充分とはいいにくい。ベルリン・フィルの重厚なソノリティは生きてこなかった。ジャズでは高域がとげとげしく、シンバルの厚味や、豊かさが不足し、中域の迫力も今一歩という感じだった。全体によくまとまっているだけに、質的な点で不満が残るシステムだ。豊かさ、柔らかさ、重厚味がほしい。

サンスイ SP-1001

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 中低域に適度な脹らみをもたせた充実した音は、誰の耳にも快感として感じられるだろう。バランスづくりが大変効果的である。カラヤン、ベルリン・フィルの音がやや、甘味が加わるが、分厚いソノリティがよく再現された。シンバルのスティックによる打音、ブラッシングによるハーモニックも実にリアルで、高域の質がよい。欲をいうと、中低域にもっとソリッドでしまりのある品位の高い音がほしいところだが、総じてすばらしいまとまり。

コーラル BX-610

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 ベルリン・フィルの音が他のオーケストラのように品位のない音になった。全域にわたって制動がきかず、歯切れの悪い、また、高低域のバランスも悪い再生音である。音像がよく立たず、軽く平板な音となり、厚みや深さの再現がまったくなく不十分である。シュワルツコップやアンナ・モッフォのヴォーカルもキャラキャラと上が響くだけで、声の丸味や陰影が不思議にどこかへ消えてなくなる。価格バランスの点でも大きな不満が残る。

アコースティックリサーチ AR-4x

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 何ともいえない暖かみのある、やわらかい音質で、たとえばNo.3、14、25などから切替えると、高域が急に無くなったように見えることがあるが、単独にしばらく聴き込んでみると、柔らかい中にもかなり高い方までよくのびた特性が感じられる。とくにヴォーカルやムードでは、すばらしい雰囲気を再現した。面と向かって肩ひじ張って聴くというより、素敵なデザートを楽しむようなゆったりした気持で聴き流していたくなるような、またそんな目的のためにちょっと欲しくなるようなスピーカーだった。

テスト番号No.36[特選]

オンキョー F-500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 前項(No.26)の製品と一脈通じる点がいくつか見受けられる。たとえば音のつながりがよい点、やわらかな音の印象、絞り込んでも音像がぼけない、そして、あらゆるソースに対して適応するクセの無い(おそらく物理特性も良い)音質、特選機種の中では最もローコストらしいが、このスピーカーだったら、逆にアンプやプレイアーの方で、少々おごってやりたい感じである。というよりも、普及型といったアンプでは、こういうスピーカーはかえって取り柄のないつまらない音になりやすいからだ。むろん他のスピーカーにもあてはまることだが……。

テスト番号No.33[特選]

テクニクス SB-2510 (Technics6)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 今回のヒアリングで、第一日目からまっ先に浮かんできて、最後まで評価が殆んど変わらなかったスピーカー。音の品位という点ではもう一歩の感があるが、あらゆるレコードに対して過不足なく、楽器も声も割合素直に再生する。難をいえば、低域がいくらかこもり気味であること。しかし、やわらかく、フラットな印象の再生音である。どちらかといえば、小さめの音量で静かに聴くことの好きな人によいだろう。

テスト番号No.26[特選]

フォスター FCS-250

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 このスピーカーは、スケールが小さく、迫力を要求されるプログラム・ソースでは多少物足りなさが感じられる。しかし、音質は柔らかく、しかも腰があって好ましいし、全帯域にわたってのバランスも大変素直で抵抗感がない。ブックシェルフ・タイプとしてはもっとも標準的な音という印象を受けた。これで、切れ込みが今一歩鋭く、締まりが利いてマッシヴな音となればいうことなし。小じんまりとした美しさとまとまりをとるべきだろう。

デンオン VS-120

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 音のキメが荒いが、よくこなしたシステムといえる。つまり、高域が派手な音色のために全体にややどぎつい印象を受けるが、まとまりとしては悪くない。オーケストラのスケール感は十分ではないが、多彩な音の綾がよく出るほうだ。ポピュラーものには小じんまりまとまりで、効果的な音が聴ける。ジャズでは、要求をシビアーにすると、さすがに無理といった感じで、再生音の品位、スケールに不満がでてくる。

JBL Lancer 77

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 もしも、レベルコントロールがあるとしたら、中高域をもう少し抑えたい感じだが、とにかくすばらしいスピーカーであった。くっきりと澄んでいて、楽器の音に余分な音が全然まつわりつかない。明るく、抜けがよく、しかも軽い。相当なハイパワーでも、また絞り込んでもこの特徴がほとんど変わらない。これで室内楽の微妙な陰影がもう一段美しく再生されれば文句ないが……。どちらかといえば硬い方の音質だから、No.1の系統の音の好きな人には好まれないかも知れない。

テスト番号No.25[特選]

タンノイ IIILZ MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 特選機種の中では、このスピーカーが最もクセが強く、ずいぶん考えたのだが、何よりも音の素性の良さが、ただものではないので、あえて推した。相当にムラ気のある製品らしく、四日間を通じて、その日によって三重丸と□の間を行ったり来たりする。休憩時など、立会いの編集氏がパチパチ切替えているのを隣室で聴いていると、中に二つ三つ、ハッとするほど美しい再生するスピーカーがあって、No.14もそういう製品のひとつだった。中低音の音質から想像して、キャビネットをもっと上等なものに作りかえたら(経験上だが、どうもこの音は安もののベニアの音だ)、総体的にすばらしいシステムになると思う。わたくしの採点で、室内楽に三重丸をつけた唯一のスピーカーである。

テスト番号No.14[特選]

テレフンケン TX-60

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 明るく抜けて、のびのびとした音、それでいて、こくのある重厚味もあり、興味深いシステムだ。決してクオリティの高い音ではないが、切れ込みのよい明解な音がする。音楽的な音といってよい。Fレンジは決して広い方ではなさそうで、再生音場のスケールも小さい。ジャズにはそうした物理特性面での貧困が目立ち、迫力に欠けたが、やはり、まとまりのよさで聴かされてしまう。小憎らしいほどに巧みな、音まとめの妙だ。

サンスイ SP-50

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 オーケストラのスケールの再現は物足りないが、よくまとまったスピーカーである。いわば箱庭的まとまりとでもいうのだろう。全域にわたって、バランスのよい再現が得られる。中低域のしまりがなく、軽い鳴きをともなった音だが、これが全体の効果的な音づくりに利いているのかもしれない。高域にやや甘さがあるが、ムード音楽の艶っぽい弦楽器のユニゾンなどではかえって効果的。よくまとめられたシステムだと思う。

サンスイ SP-100

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 ベルリン・フィルの響きは中音域がよく、前へ出ず、低音ののびとしまりも物足りなかった。全体のバランスはとれているのだが、質的に充実感が足りない。よくいえば柔らかく、甘い、快い音だが、悪くいえば、にごってもごもごした不明瞭鈍重な音といえる。したがって、ジャズにも、抜けた明るさと積極的に前へ出るパンチがなく食い足りないもどかしさがでる。解像力のなさが一番の問題点として残るだろう。

フォスター FCS-200

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 高域の制動不足と暴れが感じられ、高弦がちりついて耳障りだった。そのために全体のバランスがやせ気味になり量感に欠けている。オーケストラの豊かな迫力が小さくまとまってしまって雰囲気が十分出てこない。シンバルの響きもシンシンと細い棒をたたいているようで不自然。音づくりの派手なソースを軽く聴き流す程度にはともかく、がっしり対峙して機器込むシステムにはなり得ない。

ラックス 25C43

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 力感はないが、量感はある音で、豊かである。オーケストラのスケール感がよく再現され全域にわたって明解なディフィニションが得られている。強い個性やアトラクティヴな魅力がないのが特長でもあり、弱さでもある音で、技術的にはよく検討されまとめられたといった感じがする。ジャズではガッツに物足りなさがあり、説得力の弱いのは先述した個性のなさによる。この個性と、まともな技術的精度の兼ね合いは、スピーカーの悩みの種。