マクセルのカセットテープUD-XLの広告
(オーディオ専科 1975年4月号掲載)
Category Archives: テープデッキ関係 - Page 12
マクセル UD-XL
ソニー TC-5550-2
菅野沖彦
スイングジャーナル 3月号(1975年2月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
音をとる楽しみは大きい。オーディオの世界は長い間、音を聴く世界であった。専門家だけが音をとることを許され、一般アマチュアは、それを聴く楽しみに限定されていた。レコード、ミュージック・テープ、そしでラジオというように、全て与えられたプログラム・ソースの再生に楽しみの世界があった。無論、そこには大きな趣味の世界があった。一般にいわれるように、必らずしも、聴くことは受身の行動だとはいい切れない。まして、自分で再生装置を構成して、同じプログラム・ソースからありとあらゆるバリエーションをもった音を再生するオーディオの楽しみは、再生とはいいながら、かなり創造性の強い趣味の世界だといえるのである。しかし、自分で録音をするということになると、その性格は一段と明確になってくる。写真の楽しみは撮影にあるし、写真というメカニズムは、素人が撮影するというプライバシーと共に今日のような大きな発展を見た。もし、写真が、オーディオのように、撮影済みのフィルムを再現するという範囲に限られていたら、とても現在のような発展は望めなかったであろう。そして、この音をとるということの楽しさは、録音機をうまく操ったり、S/Nのいい音を録音再生するというメカニックな楽しみと共に、自分の頭の中にイメージとしである音を具現化するところに、その真骨頂があるといってよいのである。実際には自分の外にある音を対象として、これを録音するのに違いないが、ただそこに音があるから録音するというのでは次元が低くすぎるし、楽しさも浅い。自分のイメージに合った対象を求め、それをイメージ通りに録音すること、あるいは思いがけない対象を発見して、それを瞬間的に自分のイメージに火花を散らせ、自分の感じた音として適確に把えること、時には強引に自身のイメージに合わせるべく音をつくり変えてしまうこと、こうした録音の楽しみこそ、まさに創造的な制作としての楽しみであり、その世界は大きく深いといえるであろう。
ところで、そうした目的には世の中の多くのテープレコーダーがあって、それぞれ目的と用途が設計思想の基本となっているが、ここにご紹介するソニーの新製品TC5550−2は、そうした高級な趣味層向けに、ハイ・クォリティ・サウンドで、サウンド・イメージをクリエイトするための道具として作られた高級デンスケである。同社でも、オープン・デンスケ、TypeIと称しているが、この分野での経験の豊富なソニーらしい立派なマシーンが登場して嬉しい。その昔、デンスケの呼称の元となった、ゼンマイ式の重いデンスケをかついで肩をこらせた筆者にとって、あらゆる点で、これは理想のマシーンだと思える程なのである。この種の機械の最も重要なポイントはパワー・サプライだが、これは4電源方式という便利なもので、単一乾電池8個、充電式バッテリー、カー・バッテリー、AC100Vと万全である。まず、どこへ行こうと電源に悩むということはない。メカニズムは少々繁雑だが、それだけ機能は豊富である。筆者としてはもっとシンプルなもののほうが好ましいが、メカニズムの好きな人にはその欲求が充分満たされるであろう。デザイン、仕上げにはマニア好みの格好よさが溢れているのである。トランスポートの要めはがっしりとダイカストで固め、19cm/sec、9・5cm/secの2トラック・2スピードの録音特性は素晴らしい。音楽録音にも全く心配なく使えるほどだから、野外の自然音などは完璧。あまりよいので家庭用のデッキとしても使いたくなるほどでなぜ7号リールがかけられるようにしなかったのだろうなどと、少々見当はずれの欲が出てくるほどなのである。ヘッド構成は3ヘッドの独立式、駆動モーターはDCサーボのワン・モーター、44×94mmのダ円型スピーカーがモニターとしてついている。マイクの入力はロー・インピーダンスで−72dBの感度を持つ本格的なプロ仕様。ラインは勿論、100Ω以上で−22dBである。音質は明解で安定し、バイアス、イコライザー共に3段切換で、テープに対する適応性も広く、高性能テープも使いこなせる。重量は6・8kgと決して軽くはないが、この内容としてはよく押えられている。19cm/secは勿論、9・5cm/secの音質のよさは特に印象的で、基本性能をかっしりと押えたメカニズムとエレクトロニクスのよさを感じた。
デンオン DH-710S
岩崎千明
ジャズ 9月号(1974年8月発行)
ステレオ・デッキの市販品を完成したのがDH710であり、メカとアンプをセパレートさせてレザーケースに入れ可搬型としたのがDH710Sである。ダイレクト・サーボドライブのキャプスタンモーターと、これにベルト結合されたサブ・キャプスタンとの2キャプスタン機構により立上りもすばらしく、ワウ・フラッタも0・03%と超高性能。
大きな特長以外に随所に、走行系操作メカニズムヘッド、アンプあらゆる所にプロ用メーカーとしてのキャリアが生かされ、プロフェッショナルの信頼性と性能とか、すばらしいサウンドの上に成立している。
プロ用のメカとして例えば、純エレクトロニクス方式のテンション・サーボをみてみよう。高級プロ用メカしか採用されることがなかったこのメカニスムにより、低速再生の演奏中も早送りし、巻戻しもすべての状態において、テープへ加わる張力は一定に保たれるので、丁度よい力でリールに巻きとられる。これにより低速再生時において供給側つまり未使用側の巷径の違いによるスピード変動がないし、ワウ・フラッターなどの理由による変調もない。これは十万円以上のデッキでも殆ど見舞われる大きなトラブルであるのは、高級デッキのユーザーなら知りつくしているに違いない。またテープ張力・テンションが一定なのでテープヘッドへの接触、テープの走行の安定性などあらゆる面でこの特点が生かされることになるし、電気的にはテープの四チャンネル各トラック間の位相歪も極端に少ない。むろんヘッドへのタッチが適当なのでヘッドの摩粍もまたテープ自体の傷みも少ないのはむろんだ。
こんなぐあいにたったひとつの技術があらゆる点に画期的な効果を生み出してくる。
もっともこのたったひとつを、今まではコストがかかりすぎるため、プロ用以外では採用しなかったわけで、デンオンのデッキの価値はこういう点にこそあるのだ。
デッキで音質的に直接重要なのはヘッドだが基本的に音域を高域までのばすとヘッドの摩耗が早くなり、これは相反する条件だ。デンオンの場合、プロ用の一時(いっとき)、数十時間という苛酷な条件のもとに耐久力を培ってきたヘッドの技術がここにも生かされ放送用・高密度フェライト・ヘッドを採用している。特に再生ヘッドはテープの接触面付近を加工の手間に制限なしにという加工で特殊な面に仕上げることにより今までどうにもならなかった「形状効果による低域のあばれ」が生じないのは特筆できる大きな成果だ。
デッキメカニズムの良否をみるにはテープが無理なく走行するかどうかをみればよいといれれるが、デンオン710Sにおいてこの点でももっとも優れてただただ見事という他ない、左石のテンション・アーム間のテープはほとんど直線に近く、テープの接触するのはヘッド以外にはローラーで行ない、さらに一方向エアダンパーをテンションアームにとり入れてスタート時の張力の過度に加わるのを防いでいるという至れり尽くせりのメカだ。
むろんアンプもプロ用そのもので、PP回路を用いて録音の最高レベルは高級プロ用なみ規準レベルに対して3dB以上のゆとりを持つ。イコライザーも精密な調整が
できる連続可変型。マイク録音では驚くべき55dBのSNを得ているのである。
ウーヘル Compact Report Stereo124
瀬川冬樹
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
手帳一冊よりも小さなカセットテープに録音するのに現在のようなアンプ一台ほどの大きなデッキが必要だということを誰も疑問に思わないらしいことが逆にわたくしは不思議でならない。たしかにメカと電気回路で中味はいっぱいだが、それはメーカーの都合で既製の大型パーツを流用しているからで、本質から考え直して練り直してみればこんなに小さなメカニズムで往復再生さえできることを、ウーヘル124が教えてくれる。
ナグラ IVSD
瀬川冬樹
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
テープデッキというよりはまるで精巧な時計やカメラを思わせるメカニズムとその仕上げの精密さで、驚くほどコンパクトな設計でありながらプロ用として絶対の信頼をかちえているところが実にニクい。純然たるプロフェッショナル用の設計であるところが、我々に馴染みの深い一般アマ機とは勝手の違う面が多分にあるが、類型のない(ライバルに同じスイスのステラボックスがあるにしても)発想に学ぶ面が多分にある。
ルボックス A77MKIII
瀬川冬樹
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
10号リールのかかる家庭用デッキの中では、最もものものしさが少なく、アンペックスkのメカニズムにくらべると使いこなしに多少の馴れが必要であるにしても、そこがヨーロッパ系のメカニズムの伝統ともいえ、安心して愛好家に勧められるデッキのひとつである。新形のA700も、77の発展というよりは全く新しいメカニズムで生れ変った本格的なマシーンだが、メカも操作系も実に洗練されていて不消化なところが全くない。
アンペックス AG500
瀬川冬樹
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
昨今の国産のオープンリール高級機のようにいかにもメカメカしい、ラウドにわめき散らすような、やたらと白い枠で囲んだ劇画調の子供じみたメカニズムにくらべて、AC500が何と洗練されて控え目にみえることか。むろんこれは7号リール専用機で、10号リール用としてのAC440Bはもう一段風格があるが、むしろ7号リールに徹したコンパクトな設計のよさが全体の調和を保っている点にこそ、AG500の魅力がある。
ナカミチ Nakamichi 700
岩崎千明
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
あとでローウィのデザインと聞いて、やっぱりそうかと思い、半面少々ガッカリもした。日本人ばなれしたデザインは日本人ではなかったのだ。カセットというイメージ、いやテープデッキというイメージをこのデザインからはとうてい感じられない斬新で現代的なセンスだ。
サウンドは、カセットにありがちな、力不足の不安のないガッツのあるダイナミックなサウンドがなによりも魅力だ。
デンオン DH-710
岩崎千明
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
オープンリールは、目下わが家には2トラがない。せめて1台ぐらいはないと、と考えていろいろ探し試聴してみると、海外製品に並んでこのデンオンの新製品がクローズアップされてきた。だから、これは手元において確かめたものではなく、手元において、よくみて使いたい。国産品といえども海外製品と並べてもおそらくその期待を裏切られない製品だと思う。デンオンの回転機器の確かさを日頃放送局のスタジオでみてるためか。
アンペックス AG440B
菅野沖彦
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
アンペックスのプロ用のマス・プロ・デッキ。特性的には不満がなくはない。しかし、この音の生気あふれる輝きは、一度とりこになったら離れられない。デッキのトランスポートも、エレクトロニクスもデザインも抜群。プロ用のテレコで、現役製品中随一のものだ。リレー・スイッチのボタンの色彩感、直線的でシンプルなモノトーン・イメージのパネル。ただし日本製のコンソールのデコラの色や仕上げは少々興ざめする。
ソニー TC-2850SD
菅野沖彦
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
カセットのポータブル型として登場した一号機で、欲をいえば、さらに安定性、小型化、デザイン・センスなどに不満があるが、現在の段階ではやはり魅力のある製品だ。私は昔から、35ミリ高級カメラと同じような精密機械としてのポータブル・カセットの出現を待ち望んでいる。材質、加工精度、信頼性などで、ライカ級のカセット・デッキが出たらどんなに素晴らしいだろう。その可能性を予知させてくれたのがこの機械だと思う。
アカイ GX-400Dpro.
菅野沖彦
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
アカイが初めて出した2トラック38cmのテープデッキ。メカメカしたマニア・ライクなデザインは、決してセンスのいいものとはいい難い。しかし、私にとって野暮さは気になっても嫌らしさとして映らない。それより、この機械のスムースな動作、豊富な機能、よく練られた操作性、そして、一種独特のクリアネスと甘美さを感じさせるなめらかな音は魅力である。もう一つ無駄を排してスッキリしたら一段と魅力的だろう。
デンオン DH-710
菅野沖彦
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
デンオンが業務用のテープデッキの技術をよく生かして民生用の2トラ38cmに置きかえたデッキ。デュアル・キャプスタン、サーボ・コントロールのトランスポートは大変スムースで安定。キメの細かい滑らかな音質は、よい意味での日本的繊細さを感じさせる。可搬型はトランスポートとエレクトロニクスが分かれてキャリング・ケースに収まるが、ケースに少々寸法の狂いがあったりして私の信頼感を傷つけた。木製のキャビネット入り。
ナグラ IVSD
菅野沖彦
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
最高級のポータブル・テープレコーダーである。メーカーはスイスのクデルスキーSA。最高の技術水準をもった高性能機器で、重量は6・4kgながら、50kgの大型コンソールにも匹敵するする性能をもつ。テープ・スピードは、9・5cm、19cm、そして38cmでも回せる。勿論1/4インチ幅の標準テープに2トラックで録音する。アダプターを使えば10号リールも使用可能。とにかく、高品質の材料と精密加工のもつ美しさと確かさに溢れた魅力は抜群だ。
デンオン DH-710S
井上卓也
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
業務用テープデッキでは定評の高いデンオンの38cm2トラックは永らく発表が待たれた製品である。DH710Sはメカニズム部分とアンプ部分を分割したトランクに入れたポータブルタイプにできているのが魅力である。重量が30kg程度と重いので簡単に持運ぶことはできないが、内部を見れば重量がある理由はうなずけるはずである。実際に常用してみると安定感があり、信頼がおけるのはデンオンならではである。
ルボックス HS77MKIII
井上卓也
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
2トラック38cmが使えるデッキのなかでは、デザインがシンプルで、信頼性が高く、小型軽量であることでは、このHS77を除いて他にはない。ACサーボ型のキャプスタンモーターを含む3モーター、バックテンションの連動機構などポイントを抑えた設計は見事である。アクセサリー過剰気味の国産デッキに比較すれば比較的にシンプルである。ポータブルタイプのメリットをいかしてバーサタイルに使いたい。
ウーヘル 4200 Report
井上卓也
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
ポータブルタイプのテープデッキはカセットタイプというのが常識化しているが、便利さは必ず不便が伴うようである。単なる記録であって編集が必要なければ同じウーヘルのカセットデッキ、ステレオ124が魅力的な存在である。しかし、信頼性と編集ができるメリットをとって、あえてオープンリール型の420リポートをとりたい。外観上は、さほど魅力はないが、内部に巧みに配置されたメカニズムの魅力は捨てがたい。
アカイ GXC-46D
菅野沖彦
スイングジャーナル 2月号(1973年1月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
磁気テープというものはなかなか厄介なもので、S/Nをよくしようとして、高いレベルで録音すると歪が増える。その歪を警戒して録音レベルを下げるとテープ・ヒスが目立って不快な思いをするというわけだ。だから、現在のテープの改良のポイントは、より少いヒス・ノイズ、より広いダイナミック・レンジということで各メーカーが苦労している。録音レベルを高くとった時の歪は、まず高音域から現れる。あきらかに飽和して音が汚れるとまではいかなくても、高域が荒くすさんだ音になったり、充分高い音までのびきらなかったりという現象はよく起きるものだ。日頃、録音の話しで、テープと機器の限界をよく把んで、ギリギリ高いレベルで録音をとることがS/Nのよい優れた録音をとるコツである…という表現を私はよく使っているが、それはこの辺の難しさをいっているのである。最近のテープはダイナミック・レンジか広くなっているので、基準レベル・セット、(テレコの0VUと一応考えてよい)に押えることは無難だが、それより高く録音することも可能である。しかし、一方、1kHzでは0VUでなんら差支えはないが、10kHzでは歪みを発生するというテープもあることも事実なのである。特にカセットのようにオープン・リールより、いろいろな点で制約のあるものの場合は、この現象にはより慎重に当らなければならない。こうしたテープの特質を電子的にコントロールして、録音時の高域のレベルを抑制して歪の少い録音をとれるように考えられた回路がアカイのADRシステムである。これはテープとテープレコーダーの関係を正しく把握したきわめてオーソドックスなアイディアであり、テープのより有効な使い方として高く評価できるものだ。このADR回路の組み込まれたカセット・デッキGXC46Dが今回試用してみた新製品で、その実力は、本誌の選定新製品になる優れたものであることが確認できた。メカニズムは大変スムーズで、ワウ・フラッターは聴感上問題にならないし、操作性も非常によい。プッシュ式のキー・スイッチも軽く確度の高い動作である。早送くり巻きもどしのスピードもこのクラスでは速いほうだし、安全でスムーズだ。録音はラインからだけしか試せなかったが、安定なメカニズムと歪の少いエレクトロニクスのコンビが、現在のカセットの最高水準といってよい高品位の音質を可能にしている。ちょっと気になったのは、再生ライン・アンプのS/Nで、これはもう少しよくしてほしいところ。ドルピー・システムが内蔵されているが、S/Nの聴感上の効果は大きいが音質はこれを使わないほうがかなり優れていた。マイク録音にはリミッターを入れてオーバー・レベルを押えることもできるし、ロー・ノイズとクロームのテープ・セレクターにより、カセット用高性能テープの使いこなしかできる。また、再生時のレベル・コントロールの他、トーン・コントロールまでついていて使用者の使いこなしの多様性に大きな可能性を持っている。
全体のデザインもよくまとめられていて仕上げも悪くはないが、もう一つ手先練された感覚の冴えという点では物足りなさが残る。プッシュ式のコントロールにやたらに色を使っていないのはよいが、録音のキーはやはり明瞭に識別できるようにすべきだと思う。それとAKAIマークのブルーはなにか安っぽさを感じさせるので、もう少しおちついた色に変えた方がいいような気がする。せっかくの良い商品をマークの色だけで安っぽく感じさせてはもったいない。
それはともかく、同社の自慢の単結晶フェライトGXヘッドはとかく疑問の多いフェライト・ヘッドの中で、音質的には最も優れたもので、これは、最近、私が確認したところである。もちろん、このデッキにもこれが使われている。
カセット・デッキはメカニズムが小さく、こみ入っているために故障が多いと怖く。事実、私も二、三そうした体験をしているか、このデッキについては正直なところ、耐久テストはしていないのではっきりしたことはいえない。これだけの性能をもった製品だからメーカーとしてはそうした信頼性に充分気を使ってもらいたいと思う。
ソニー TC-9000F-2
菅野沖彦
スイングジャーナル 12月号(1972年11月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
2トラ/38。いうまでもなく、数多いテープ規格の一つ。1/4インチ巾のテープ上に2本の録音帯をもって毎秒38cmの速度でとばして録音再生をおこなう磁気録音方式のことである。オープン・リール・タイプとして、今、アマチュアに最も普及している規格は、4トラ/19であろう。トラック数が倍で、スピードが半分というわけだ。トラック数が倍ということは、それだけ一本あたりの録音帯の巾は狭い。磁気録音の規格上録音帯の巾は広いほど、走行速度が速いほど、物理的には有利であり、高性能の録音が可能なのである。その反面、テープの経済性では不利であり、同じ収録時間を得るには4トラ/19より2トラ/38はスペースで倍、走行速度で倍、都合4倍のテープを消費することになるのは止むを得ない。いい音を得るためにはお金がかかるのだ。2チャンネル・ステレオでは2トラックの場合は、片道録音、4トラックの場合は往復録音であることはいうまでもない。2トラックが4トラックよりも便利な点は編集が可能ということも見逃せない。4トラックでは、往きの録音である部門を編集しようと思うと帰りの録音帯も一諸に切ってしまうから編集を考える場合には、帰りの2トラックは遊ばせておかねばならないという不都合がある。結局、片道しか便のないということで、経済的にも、音質的にも無駄をするというわけだ。
こんなことを総合して考えた時、2トラック式が必要なことは理解できるだろうし、カセットの性能が向上してくるにつけ、カセットと2トラック式の間にはさまった従来の4トラックがやや中途半端な性格にならざるを得ないという最近のテープ界の実情もあわせて理解していただけるのではないかと思うのである。
そこで、高度な音質を求めるアマチュアに2トラック式のオープン・リール・デッキが見直されはじめ、今、一つのブームを作りそうな気配を感じるのは私だけではないだろう。従来からも、高級マニアの間で、このテープ・デッキを持って優秀なハイ・ファイ性を楽しんでおられる人たちがいたが、これから、ますますそうしたファンが増えつつあるのだ。
機を見るに敏なメーカーは、早速この2トラック式のテープデッキに力を入れ始め、従来20万円級のものしかなかった市場に、ティアックやパイオニアが10万円を少々超えた値段で製品をつくるようになったわけだ。ここに紹介するソニーのTC9000F2は、23万円という価格でそうした普及型の2トラック・デッキではないが、テープレコーダーの専門メーカーとしてのソニーのコンシュマー用の製品の中での最高級機にふさわしい風格をもったデッキである。録音は2トラックの19cmと38cm。再生はこれに4トラックの2チャンネルが加わる。つまり録音機としては2トラックに徹しているけれど再生は、従来の4トラック・ステレオのミュージック・テープのプレイバックをも考慮したものだ。ヘッドは、F&Fと称するソニーのフェライト・ヘッドを使い、駆動はデュアル・キャプスタンによるクローズド・ループ式。もちろん3モーター式で、操作は軽く確実なリレー式だ。電源は50、60Hz両用で扱いやすい。
使ってみた感じでは、このクラスの製品としては、もう一つ徹底して高級なマニア用であってもよいのではないかという気がしないでもない。つまりバイアス・セットは、ノーマルと同社のSLHとの切換ということになっているが、いろいろなテープが存在する現状からして、そして使う人がかなりの技術をもった人にターゲットをしぼれるはずだから、イコライザーと共に半固定可変式というところまで踏み切ってもよいだろう。10万円ちょっとのデッキが出るという現状からすると、20万円を超えるものでは、そこまで踏み切ってもよいようにも思う。また早おくりのスピードも少々遅い。ローディングは、キャプスタンとヘッドハウジングがくっつきすぎてやや厄介。エレクトロニクスのS/Nはよくトランスポートの特性をよく発揮する。音質は、デリケートなニュアンスと透明感、ややまるまったハイエンドに一つ不満があるが、2トラ/38の醍醐味を味わえる高品位のものだった。美しいデザインはソニーらしい手馴れたもので、現代的な感覚がさえて好ましいものだった。
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