Category Archives: アンプ関係 - Page 84

ダイヤトーン DA-A100

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 どことなくマッキントッシュやその類型のイメージが拭いきれなくて無条件にとはいえないにしても、ある種の凄味を感じさせ、ハイパワーアンプとして良いまとまりをみせている。この系統には管球式ではダイナコのMKIII、ラックスのMQシリーズや、トランジスターではC/Mラボの35Dなどのすばらしくチャーミングなデザインもあって、三菱だけが抜群という意味ではない。ペアになるプリはデザイン、性能とももう一息。

テクニクス ST-3500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 黒い窓の中に原色系の派手なグリーンあるいはブルーの文字がケバケバしく浮かび、同じく安っぽい赤かオレンジ色の指針をとり合わせるというパターンが国産のチューナーやレシーバーの典型的な表情だったが、テクニクス、ヤマハ、ラックスなどの新しい試みによって新鮮で清楚な、精密間、高級感に溢れたスタイルが生まれはじめたことは喜ばしい。なかでは、通信機ふうのイメージでまとめたテクニクスが、性能を含めて好きだ。

パイオニア Exclusive C3 + Exclusive M4

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 プリアンプのパネル・レイアウトは国産機の大半が目差している機能的・人間工学的な処理法のひとつの典型だが、ノブ類の配置や感触やレタリングなど、キャビネットの質感の良さも含めてかなり練り上げられて安っぽさを感じさせない点、ようやく日本にも本当の意味での高級機が完成しはじめたと言えそうだ。パワーアンプも神経がゆきとどいている。合わせて63万円という価格には多少の疑問も残るが音質も素直である。

QUAD 33 + 303 + FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 プリアンプの小型で精巧な造形処理と、パワーアンプの工業用機器を思わせる緻密な形態と、全く異質とも思える意匠を巧みに融合した手際の見事さ。意匠も色彩も他に類型の出現する余地の無いほど独特でしかも完成度が高い。初期の製品はいかにもトランジスター臭い粗さがあったが、現在の製品は音質の面でもまた一流である。この場合はチューナーもぜひ同じシリーズで揃えないと魅力が半減する。

マッキントッシュ C26 + MC2505

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 どの製品をとってもこれほど永いあいだ一貫して独特のデザインと音質のポリシーを保ち続けているところがJBLとは全く対照的ながら大きな魅力になる。ただしこのメーカーの製品は、放っておくとやや成金趣味的な或いはいくぶん図太い神経がちらほらみえるところがわたくしの好みとは本質的に相容れない部分で、しかし中ではそういう面の最も少ないのが、C26とMC2505の組合せだろうと思う。

アコースティックリサーチ AR-Amp

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 数あるアンプの中でもこれほど簡素で端正に整った美しい製品は少ない。仕上げが実に良く真鍮色の光沢のある磨き上げたようなパネルとツマミ、ARのマークと紅色のパイロットランプの対比の見事さは印刷や写真でなく実物を目にするまでは実感として伝わりにくいが、なにしろ魅力的なアンプだ。現時点では残念ながら音質が少々古くなってきたがデザインだけでも買いたくなる。そんな製品はそうザラにないだろう。

トリオ KT-8005

岩崎千明

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 今や高級チューナーとしてはもっともオーソドックスなテクニカルで固められているトリオの最高級機種だが、メカニカルフィルターをはじめとするそれらのすべてはトリオによって拓かれた技術である。真の意味でのオリジナルを具えるトリオのチューナーは、期待通りの高性能を保証する数少ないチューナー製品として、高く評価してよい。デザインのオリジナリティも付言してよいし、私はこのデザインゆえJBL520と併用中だ。

マッキントッシュ MR77

岩崎千明

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 特殊なフィーダーを用いたバランス検波回路というユニークな特許の検波回路がこの0・1%という驚くべき超低歪率をもたらしているが、そのためIFの最終段はなくパワー増幅段である。こうした77の優秀性の源となっている独特な技術がこのチューナーを入手したきっかけなのだが、実用するうちオーディオ回路の皆無なチューナーでさえ、マッキントッシュのサウンドポリシーを厳然と持ち合わせているのには敬服し尽くした。

ヤマハ CR-400

岩崎千明

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 まあ国産品で、西欧的な意味でデザインの優れた製品というものがあるとすれば、車におけるルーチェのように、フロンテSSのように外人の手によるものだったが、そういう事実をくつがえすといえるおDお製品がいくつかあるのは嬉しい限りだ。CR400はその点で世界に誇れる秀逸な製品で、その点からいえばCA1000をも上まわろう。そして、その美しくも優雅な外観がサウンドまでも表わしているのだから。

ソニー TA-8650

岩崎千明

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 FETアンプの国産成功によってもたらされるのは、まちがいなく世界最高のアンプの栄光が実現したことだ。
 かつて1120によって日本のアンプを格段に飛躍させたソニーが、再び8650によって国際水準に引き上げたことは拍手をもって迎えるべきだろう。8650の音はなにしろ球のそれ以外の何物でもない。確かに石特有の超広帯域を合わせ持っていることは確かだが中声域での冷たい感じは、ここにない。

L&G L-2600

岩崎千明

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 若いカップルが、フレッシュな思い出を創り上げるべき部屋に、この上なくぴったりのアンプがL&Gの全シリーズだ。
 これらのカラフルな、特にプリメインがそうしたセンス溢れるデザイン。ほほえましくて思わず購入してしまいたくなるようなフィーリングをたたえ、しかも内にはラックス直系のセンスフルなサウンドへのメカを秘める。オーディオ機器の商品として、これほど完成度の高いアンプが国産品に出てこようとは。

サンスイ AU-9500

岩崎千明

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 国産プリメインアンプは、この一年間出力と共に質的にも大きなジャンプを果したが、その数多い製品中、無類の力強さと無限なエネルギーを感じさせる9500はずばぬけた存在。その黒く巨大な特徴ある姿態は、限りない信頼に支えられたゴージャスなサウンドをも表わして魅力の源となっていよう。
 価格の向上が著しいこの世の常として、採算上このアンプが姿を消す日がいつかは来ようが一日でも遠いことを願う。

オーディオリサーチ Dual75

岩崎千明

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 オーディオリサーチははたして新進メーカーなのか、音を聴いていつもそう思う。このサウンドは技術のみで到達できるものではないし、音楽のキャリアの裏づけがおそらくこのアンプの優秀高質を支えていよう。実効出力はマッキントッシュ275とほとんど同じはずだが、サウンドの力強さと充実感において上回り、技術上の新しさを感じさせるのはさすがだ。個性的で米国系らしいプリとともに特異な存在が魅力なのか。

ダイナコ Stereo 400

岩崎千明

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ステレオ400を登場させるのは、そのサウンドが米国オーディオにおけるひとつの良識、良心を感じさせるからだ。コストパフォーマンスといういい方は気に喰わないがそうした観点からでも、400の優秀性は説明できるが、ダイナコというもっともポピュラーで評判の高い経験充分のメーカーのサウンドに対するセンス、しいてはアメリカの平均的オーディオ感の集約という点で特に注目すべき秀作だろう。

ヤマハ CR-1000

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 これは同社のプリメインアンプCA1000をオーディオアンプとしたステレオ・レシーバーである。私としてはステレオ・マスターと呼びたいオール・イン・ワンの総合アンプで、これ一台で、高度なFM受信、レコード再生を可能にしてくれる。デザインは他の一連のヤマハは製品に共通のモダニズムの溢れた美しいものだが、中でも、これは傑作と呼びたい。スイッチ類の独特なタッチは他に類のないもので、超高級レシーバーだ。

アキュフェーズ P-300

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 このアンプの実力は世界の一流品だ。魅力ある製品として取り上げた事を前提としてケチをつければ、デザインがモダンでもクラシックでも、オーソドックスでも前衛的でもないし、趣味としても高い品位には至っていないのが玉にキズといったところ。片チャンネルで150ワットのハイパワーながら、ローレベルでのリニアリティのよさが、きわめて高級品の音質を実現していて、使って大満足のアンプの一つである。

パイオニア Exclusive M3

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 パイオニアの高級アンプとして、C3、M3というプリとパワーのペアーで発売されたもの。私はパワーアンプM3をより高く評価したい。150W×2のハイパワーが、全出力レベルにおいて、タッチの細やかな暖い音質が確保される。デザインはパイオニアのイメージを感じさせるオリジナリティの域に達した品のよい洗練されたもので、すっきりと虚飾がない。仕上げの美しさは外観にも中味にも最高の品位を感じさせるものだ。

アキュフェーズ P-300

岩崎千明

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 わが家において常用的に使い出した最初のハイパワー(一応100W以上)アンプがアキュフェーズだ。力強く明晰で曇りかげりのないサウンドが、あるいはあまりにもすべてをさらけ出しにしえぐり出してしまうといえるが、それを許せるのは生々しい暖かみさえある中声域の充実感だ。A級を全段に採用したプリの良さもあろうが、マランツ16と替え、2505と替えて、もっとも歪みの少なさを感じさせるのは最新技術の裏づけか。

アムクロン DC300

岩崎千明

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 DC300は、アメリカ市場に登場した最初のハイパワーアンプでこのアンプの出現が今日の多くの製品のトリガーともなっている。そのデビュー時から、何をかくそう、ずっと私にとってあこがれであったのだ。粗いヘアラインのぎらぎらとしたパネルの仕上げが音にまで出て、乾いた感じの、つっぱなされるようなサウンドだが、この荒馬はきっと鳴らし甲斐があるに違いない。その本来の目的のラボラトリーユースを兼ねて鳴らしたい。

マークレビンソン LNP-2, JC-1

マークレビンソンのコントロールアンプLNP2、ヘッドアンプJC1の広告(輸入元:シュリロ貿易)
(スイングジャーナル 1974年6月号掲載)

lnp2

ハイパワー・アンプの魅力

岩崎千明

スイングジャーナル 5月号(1974年4月発行)
「AUDIO IN ACTION」より

●アンプはパワーが大きいほど立上り特性がよくなるのだ! だからジャズには……
 アンプの出力は大きいほど良いか? はたまた、必要性のないただただぜいたくなのか?
 そうした論争や、論説はいいたいやつにいわせておけ。オレは今日も午前中いっぱい200ワット出力のアンプをレベル計がピクンピクンといっぱいに振り切れるほどの、ドラムの響きに身をまかせ切っていた。
 一度でもいい。キミも、大出力論争をやっているひまに、ほんのひとときを100ワット級のアンプで鳴らす空間にその身をさらされてみろ。一度でもハイ・パワー・アンプの洗礼を受けたが最後、ジャズを愛し、断ち切れないほどのファンなら、だれだって必ずやその虜になるぞ。必要ない、なんてうそぶいていたのは、実は、望んでも達せられないための、やっかみ半分のやつ当りだっていのうを、ひそかに思い当るに違いない。
 ハイ・パワー・アンプから繰り出されるこの上なく衝撃的なパルスは、現代に息吹く若者にとってあるいは麻薬の世界にも例えられるのかも知れない。一度覚えたそのアタックの切れ込みのすざまじさは、絶対に忘れられっこない経験として耳を通してキミの大脳にガキッと刻み込まれてしまうのだ。もうそれを消そうと思ったって薄れることすらできやしない。それどころか、口でけなし、あんなのはだめな音と、どんなに思い込ませようと努力したところで、逆にますます強く求めたくなってくるあこがれにも近い感情を内側でたぎらせてしまうだけだろう。
 恋の対象を初めて見かけたとき、それは少しも変りやしない。だから、ジャズ喫茶でスピーカーの前には、すべての環境から遮断されたマニアックなファンが少なからず、首をうなだれてサウンドにひたり切っているのだ。
 スピーカーは、例え小さくても良い、そのすぐ前で座ろう。プレイヤーは今までのでもいい、カートリッジの質さえある水準以上なら。
 ステレオの心臓はアンプだ。電気信号に変えてエネルギー増幅する、それがアンプの真髄。だから、アンプはきのうのより大きくしてみよう。2倍じゃなまぬるい。4倍も6倍も、いや10倍の出力のアンプなら一層結構、大きければ大きいほどいいのだ。それがたとえ借り物であっても、仮の姿でも、いつかはキミの所有になるはずだ。
 大出力のよさを身をもって知ったならば、もう逃れられっこないのだから。良さが判ればキミのステレオの次の標的として、大出力アンプは、大きくキミの前にほかの目標を圧して立ちふさがるだろう。キミはそれに向かって猛進するだけだ。100ワット/100ワットのジャンボ・アンプに向かって。

ソニー TEA-8250
 後から鳴らしたFETアンプのおかげでソニーのハイパワー・アンプはスッカリ形が薄れてしまった。けれど、1120のデビューのときの音そのものの感激がこのハイパワー・アンプ8250でもう一度思い出された。「あくまで透明」なサウンド。それは非情といわれるほどで、アタックの鋭さは正宗の一光にも似る。以前より低域の豊かさが一段と加わっているのは、単なもハイパワーのなせる所だけではないかも。

ソニー TA-8650
 20種にあまもハイパワー・アンプを並べたこの夜のSJ試聴室。編集F氏Sくんを含め、むろんこのオレも一番期待したのがソニーのこのFETアンプだ。球の良さをそのまま石で実現したといういい方は、気に喰わないというより本当にして良いのかという半信半疑からだ。
 その不安も、まったくふっとんでしまつたのだ。なるほど確かにハイパワー管球アンプの音だ。このFETアンプ8650に最も近いのは、なんと米国オーディオリサーチ社管球アンプだったから。
 低域の迫力の力強い響き、プリアンプのような超低域までフラットだが力強さがもうちょっと、なんていうのがFETアンプではうそみたいに直ってしまう。中声域から高域の力に満ちた立ち上りの良さプラス華麗さも、石のアンプのソッ気なさとは全然違う。
 こうしてまたしてもソニーは、アンプにおいて1120以来の伝統よろしくオーディオ界のトップに出た、といい切ってよかろう。製品が出たら、まっさきにオレ買おう。

オンキョー Integra A-711
 711はなんと20万を越す名実ともに一番高価なインテグレイテッド・アンプだ。しかし、音を聴けばそれが当然だと納得もいこう。ローレベルでの繊細さと、ハイパワー・アンプ独特の限りない迫力とを見事に融合させて合わせ持っている数少ないアンプだ。音の特長は、……ないといってよい。ない、つまり無色、これこそアンプメーカーの最終目標だろう。オンキョーのアンプがずっと追いつづけた目標は、このアンプではっきりと捉えられていよう。

オーディオリサーチ SP-3 + Dual75
 かつてマランツ社で真空管アンプを設計してたっていう技術スタッフが集まって興したのがこのメーカー。だからトランジスタ・アンプ万能の今日、その栄光と誇りはますます燃えさかり、このどでかいアンプを作らなければならなくなったのだろうか。なにしろ75/75ワットという実効出力にも拘らず、200ワットクラスの石のアンプとくらべても一歩もひけをとらず、それどころかサウンドの密度の濃さは、どうやら石のアンプでは比すべくもない、と溜息をつかせる。

SAE Mark 1M + IV C
 ロス周辺の新興エレクトロニクス・メーカーと初め軽く受けとっていたが、どうしてどうしてこの4年の中に、オーディオ界ではもっとも成功を収めたアンプ・メーカーだ。それだけに製品の完成度の高さと漉さは、抜群だ。プリIMと接続した状態で端正で品のよいサウンド。数あるトランジスタ製品中ベストの音色をはっきりと知らせたあたり、実力のほどをもう一度思い知らされろ。個性的でスッキリしたデザインはサウンドにも感じられる。

Lo-D HMA-2000
 やっぱり日本産業界切っての大物「日立」、やることが違う。というのがこのアンプのすべてだ。果しなくパワーを上げていくと、遂に突如、ひどくなまってくるのに慣らされた耳に、このアンプは不思議なくらい底知れずのパワー感がある。つまり音が冴えなくなる、という限界がないのだ。それはテクニクスに似てもっと耳あたりのよいサウンドの質そのもののせいといえる。日立のオーディオ界における新らたる実力だ。

フェイズリニア 700B
 そっけないくらいの実用的ハイパワー・アンプ。350/350ワットで700ドル台、日本でも40万円台と類のないハイCPのスーパー・アンプだ。今度バネルレイアウトを一新して、マランツ500そっくりのレベルメーターを配し、左右の把手のゴージャスな巨大さは、700ワットという巨人ぶりを外観にのぞかせたグッドデザイン。音はそっけないはどさっぱり、すっきりしているが、底ぬけのハイパワーぶりは低音の迫力にいやおうなしに感じられる。

マランツ Model 500
 今日マランツ社には創始者のMr.ソウル・マランツはいない。しかし、マランツのソウルは今もなおマランツの全製品に息吹いている。それをはっきりしたサウンドだけで聴くものに説得してくれるのが、モデル500だ。250/250ワットのアンプながら、それはもっと底知れぬ力を感じさせるし、モデル15直系の、音楽的な中声域の充実された華麗なサウンドはちょっと例がない。しかも現代のアンプにふさわしい豪華さを具え、この上なく超広帯域だ。

ダイナコ Stereo400
 なにしろ安い。アチラで600ドル、日本でも30万円で200/200ワットのジャンボぶり。すでに普及価格の高級アンプで定評あるダイナコの製品だけに前評判も高く、それらの期待に充分応じてくれる性能とサウンド。高音域のおとなしい感じもいわゆるウォーム・トーン(暖かい音質)というダイナコ伝統のマニア好み。うるさいヒトほど惚れ込んでしまう、うまい音だ。ボリュームを上げて行くと、分厚い低音の確かさにも一度惚れ直す。

ダイヤトーン DA-P100 + DA-A100
 ダイヤトーンのプリアンプの端正なたたずまいは、なにかマランツをうんと品よくしたといいたくなるような優雅さをただよわす。管球アンプを思わすパワー・アンプのゴツイ形態は、いかにもパワー・アンプだ。それはひとつの目的、エネルギー増幅の実体をそのまま形に表わした、とでもいえようか。このコンビネーションのサウンドはまた実に品のよいサウンドで、いかなるスピーカーをもこの上なく朗々と鳴らす。まさに、アンプはスピーカーを鳴らすためにある、ということをもう一度教えてくれるアンプといえそうだ。
 100/100ワットと今や、やや小ぶりながらひとまわり上のパワーのアンプとくらべても聴き劣りしないのは充実した中声域にあるのか、あるいはその構成の無理なく単純化された回路にあるのか。あまりワイド・レンジを意識させないのに、深々と豊かな低域、すき透るように冴えた高域、なぜか手放せなくなるサウンドだ。

パイオニア Exclusive C3 + Exclusive M3
 ズラリ並んだ国産アンプ中、スッキリとした仕上げ、にじみ出てくる豪華な高級感、加えて優雅な品の良さ。やはりパイオニアの看板製品にふさわしく、もっとも優れたデザインといえる。
 このデザインは、サウンドにもはっきりと出て、品の良さと底知れぬ迫力とを同時に味わせてくれろ。やや繊細な音のひとつぷひとつぶながら全体にはゆったりとしたサウンドはこうした超高級アンプならではで、さらに加えて「パイオニア」らしいともいえようか。このM3にさらにAクラス動作50W+50WのアンプM4が加えられるという。A級アンプというところに期待と限りない魅力を感じさせる。待ち遠しい。

アムクロン DC-300A
 ギラギラした独特のヘアライン仕上げのパネルは、いかにも米国製高級趣味といえようか。でもこのアンプの実力は、その製品名の示す通り、ラボラトリ・ユースにあり、直流から数100万ヘルツという超広帯域ぶり。ガッチリと引き締って、この上なく冷徹なサウンドが、なまじっかの妥協を許さない性能を示していも。米国でのハイパワー化のトリガーともなったこのDC300、今日でもずばぬけた実力で、マニアならマニアほど欲しくなりそう。

マッキントッシュ MC2300
 ここでとやかくいうまい。SJ試聴室のスタンダード・アンプというより今やあらゆるアンプがハイパワー・アンプとしての最終目標とするのがこの2300なのだから。サウンドの管球的なのもつきつめれば、出力トランスにあり、このアンプのあらゆる特長となっているサウンドに対する賛否もここに集約されるが、誰もが説得させられてしまう性能とサウンドに正面切ってケチをつけるやつはいまい。

サンスイ AU-9500
 黒くてデッカクて、やけに重いアンプ。山水の9500は75・75ワットっていうけれど、どうしてどうして、100/100ワットのアンプと互角以上にその力強い馬力をいや応なしに確かめさせてくれる。,
 ECMのすざましいばかりのドラムは、このアンプの13万なんぼというのが信じられないはどに力いっぱい響いてくれる。SJオーディオ編集者のすべてが認めるこのジャズ向き実力はハイパワ一時代、まだまだ当分ゆるぎそうもない。

テクニクス SU-10000 + SE-10000
 以前、SJ試聴室での試聴では保護回路の敏感すぎから、実力を知るに到らなかった10000番シリーズ、今宵はガッチリとたんのうさせてもらった。さすが……である。
 なんとも高品質な迫力と、分解能の良さに改めて10000番の良さを確めた。一式95万と高価なのだからあたりまえといえなくもないが、金にあかして揃えられるマニアなら、やはり手元にぜひおきたくなるだろう。物足りないくらいの自然さは最終的なレベルといえるだろう。

スタックス
 A級150/150ワットというそのメリットよりもスタックスの製品というところにこのアンプの意義も意味も、また魅力も、すべてがある。世界でもっとも早くからスタテック・イクイプメントコンデンサー・カートリッジ、コンデンサー・・スピーカーをファンに提供し続けてきたスタックス。数々の幻の名器を生んできたメーカーの志向がアンプの特長の根底にずっしりとある。サウンドは、それこそまさにコンデンサースピーカーのそれだ。加えてローエンドの底なしの力強さに惹き込まれて時間の経つのも忘れさせるワンダフルな機器だ。(発売時期末定)

ラックス CL350 + M-150
 309のパワーアンプを独立させたのがM150。75/75ワットというパワーもそれを物語る。アンプの高級ファンをガッチリと把握している企画と音作りのうまさはM150でもっとも端的にはっきりと現われている。しぶいが落ちついた品のよいその外観と音。加えてソフトながらいかにも広帯域をと力強さにも感じさせるサウンド。物足りないといわれるかも知れないが、しかし飽きのこない親しさもまた大きな魅力なのだ。

ESS/BOSE
 日本にはこれから入ってくるだろうと予想される話題のスーパー・アンプ2種。ハイル・ドライバーで一躍注目されてるESSのモデル500。みるからどでかくゴツい力強さを外にまでみなぎらせて、早く聴きたいアンプだ。
 もうひとつはペンダゴン型ボックスのスピーカーで有名なボーズのアンプだ。これは品のよいスマートな個性で粧おいをされた豪華大型。インテグラル・システム100/100ワットで200ドルと安いのが早くも出てきおったぞ。

アキュフェーズ C-200 + P-300
 国内製品では実力ナンバーワンを目されているのが、ケンソニックのP300だ。このところ目白押しの国内ハイパワー・アンプ。なんてったって世界市場を意識して企画され、価格を設定されたというところにこのケンソニックのすべての製品の特長と意義がある。つまりケンソニックのアンプは実力を世界に問うた姿勢で作られているわけで、逆にいえば世界のマニアに誇れる高性能を内に秘めてもってことになる。
 事実、このアンプをマッキンと較べ、マランツと比べても、一長一短、ブラインドで聴かせれば、どちらに軍配が上がるか率は半々。透明度の高さ、中域の緻密さにおいて特にすぐれ、高域の明るさと、低域の豊かさにおいて聴く者を魅了してしまう。
 プリアンプC200のこの上なくナチュラルな音に、P300の良さはますます高められて国産ハイパワー・アンプの大いなる誇りを持つものにじっくりと味わしてくれる。
 かくいうこのオレも、P300、C200のスイッチを入れない日はなく、メイン・システム、ハークネスはP300のスピーカー端子にガッチリと固定され、ひんばんに変っていたアンプが変わる気配もない。

オンキョー Integra A-711

菅野沖彦

スイングジャーナル 5月号(1974年4月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 アンプはスピーカーを鳴らすものか。あるいは、カートリッジやテープ・ヘッドで変換された電気エネルギーを忠実に伝送増幅してスピーカーに送りこむものなのか。つまり、アンプは、入口から眺めるべきか出口から眺めるべきか。本来は入口から眺めるべきものだとは思うが、それだけでは片手落ちというのが現実である。スピーカーという動特性をもつもの、それも、いろいろな動作特性のちがうスピーカーをつながれるという立場上、出口であるスピーカーからアンプを検討するという考え方も必要なのである。両側から見て、充分検討され尽されなければ、……アンプは生れない。このインテグラA711というアンプは、実に慎重に検討されたアンプだと思う。最新科学の粋ともいえるエレクトロニクスも、こと、音を出すアンプとなると複雑怪奇、微妙な問題が山積していて、トランジスタやコンデンサーやレジスターなど素子のちがいで音が変るというのが実情である。定数や回路そのものが変れば当然の事、部品のバラツキやバラツキに入らない物性の違いでも音が変るという恐ろしい世界なのである。同じ容量なのにペーパー・コンデンサーとマイカー・コンデンサーでは音が変るという人もいるのである。アンプの設計は、単なるエレクトロニクス技術で計算通りいくものではないとなると、私のよくいう、スピーカーは本当のオーディオ・エンジニアの手からでないと生まれか、という考えが、この世界にもあてはまるようである。電気技師や機械技師が、さらにオーディオ・エンジニアになるための素養と経験が必要となってくるのである。最近の国産アンプが、性能はもとより、音の点でも、各段の進歩を遂げてきたのは、そうしたオーディオ・エンジニアと名実共に呼び得る人が増えてきた事を物語っていると思うのは早計であろうか。
 とにかく、このA711というアンプは音がいい。オンキョーのアンプ・エンジニアが現段階で全力を尽した製品だということは充分理解がいくのである。パワーは75W×2で、決して大きいとはいえないけれど、むしろ、このアンプの特徴は、その透明な品位の高い質にある。そして、この75W×2というパワーは、その質を、実用上スピーカーから発揮させるためにはまずまず不足のないものと見るほうが正しい。つまり、このアンプをボス・チャンネルで150Wのハイ・パワー・アンプだという見方は、その本質を把えた見方ではないということである。刺激的な荒れや、薄っぺらな頼りなさや、濁りから解放された美しい音の世界、音の純度を求めるファンならば、その価値を高く評価出来るだろう。私事になるが、私はこのアンプのパワー部を、現在、自分のマルチ・アンプ・システムの中域に使ってJBLの375ドライバーを鳴らしている。それまでの音とは明確に次元のちがう、柔かさと豊かさが加って、抜けるような透明な音になって喜んでいる最中なのだ。
 このアンプのよくない点は従来のオンキョー・アンプより、より高級なイメージをあらわすことには成功しているがオリジナリティがないこと、さらに奥行が深く、普通の棚やラックには、まず収まり切れないだろうことである。どうしても、この大きさになるのなら、これはプリ、メインを分けてセパレート・アンプとして出すべきだった。セパレートのためのセパレートではなく、必然性をもったセパレート・アンプとして生きただろうと思うのである。無理に、スタイル上からだけのコマーシャリズムでセパレート・アンプを作ったり、実用上、非常識な大きさになるのもいとわず、一体にまとめたり、どうもメーカーのやる事は時々不可解な事か多い。ツマミの配置にしても、めったにいじらないスピーカー切り換えスイッチがアンプ・パネルの一番重要な左はしにデンと構えていたりする不合理はこのアンプに限ったことではないが、あまり好ましいことではない。重箱の隅をほじくるような悪口が出てしまったが、つまらない苦言の一つも呈したくなるほど、このアンプの実力に魅せられた。この音のクオリティーが、チャンネルあたり150Wぐらいまで保てれば、世界の第一級のアンプといえる存在になるだろうが、その時には、製品としてのデザインのオリジナリティと風格に関してよりシビア一に見つめられることになるだろう。

アキュフェーズ C-200 + P-300

岩崎千明

スイングジャーナル 4月号(1974年3月発行)
「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ・システム紹介」より

 ケンソニックP-300が我家で鳴り出してから、すでに数週間になるが、音といい、外観といい、その風格たるやそこに居並ぶ数多いアンプと隔然たる違いをみせて、いままでにないサウンド・スペースを創り出している。
 まず、従来の国産品のイメージを打破って、国際級のオーディオ製品を作り出したケンソニックに、なにはともあれ拍手を送ろう。この数年、国産オーディオ製品の質的向上が著しく進んで、誰しもが世界市場における日本製品の品質の高さは認めるこの頃である。しかし(ここに又しても「しかし」が入る)日本製品の高品質は、その価格にくらべてという前置きが必らず入るのである。「この価格ランクの製品においては」最高なのである。このクラスという前置なしの、最高級では決してなかった。高いレベルのオーディオ・マニアを十分満足するようなそういう真の意味での高級オーディオ製品は高品質の高級品の多い日本製にも残念ながらない。いや、いままではなかった。
 口惜しくも、また残念であったこの日本製オーディオ製品の現状を過去形にしてしまったのが、とりもなおさず今回のケンソニックの新製品なのである。
 ケンソニックの新製品、パワー・アンプP-300およびプリ・アンプC-200は、それ自体きわめて優れた製品であることは間違いないがその示す優秀さというよりも、この製品が市場に送り出されたことの真の意味、その価値は、日本製品の立場を世界のトップ・ランクに引き上げというただこのひとつの点にあるといえる。価格23万円なりのパワー・アンプP-300、C-200は16万5千円と、ともに従来の国産品の水準から見るとかなり高い。かなり高いこの価格以上のものが、かつてないわけではなく、テクニクスのプリ・アンプ、パワー・アンプの超高級製品10000番シリーズの45万円、50万円合せて95万円という製品がケンソニックに先立つこと1年余りで存在しているが、あまり私も含めマニアでも身近に接する機会が少くないような気もする。しかし、ケンソニックの場合は、企画段階から海外市場をも強く意識したプラニングがされ、諸仕様が作られた上、海外への前宣伝までもすでに手を打たれたと聞く。いまこうして実際に製品を手にしても、前宣伝のごとく商品として、価値の高さを、確かさをケンソニック新製品にみるのである。
 ケンソニックの優秀性は、まずなによりも単なる日本市場ということではなしに、こうした世界市場を意識した上での、つまり世界の超高級製品を相手とした上での高級アンプとして企画した製品という点にあるといえよう。これはとりもなおさず、世界の一流品と肩を並べることを意識した製品であり、こういう姿勢から作られたオーディオ製品は少なくとも日本ではケンソニック以前にはない。
 その自負とプライドとがまず製品のデザインにはっきりとうかがえる。なんのてらいもハッタリもないきわめてオーソドックなパネルながら、そのパネル表面とツマミの仕上の中に豪華さというにいわれる格調高さとが浸みでている。ハッタリがないだけに、それはとり立てる特長もないが、かたわらにおいて接すると、その良さ、持つことの満足感がしみじみと感じられる、という類いの風格だ。
 ハイ・パワーの高級アンプに求めるもの、それに対して期待するものはいかなるものにも増してこうした「満足感」であろう。今までの国産品では一流の海外高級品と肩を並べるだけのこの種の満足感、それをそばに置くだけで、それを自分のものにするだけでかもし出されるこうした満足感を備えている製品はかつてなかったのである。もう1つオーディオにおいて最も技術進歩が著しい分野がアンプであろう。トランジスタの開発、それに伴う回路技術が追いかけっこで日進月歩。新しい素子の開発によってきのうの新製品が数ヶ月を経ずして魅力が薄らぎ始める。それがアンプの持つ1つの宿命である。高級品においては、それだけ挑戦に耐える絶対的なものが備わっていなければならない。
「満足感」という言葉はケンソニックの大きな特長としてはじめから標榜している言葉だが、それはサウンドにおいてもっとも感じられるであろう。ゆったりと落ちついて力をみせずに、しかし、ここぞというとき底知れぬパワーを発揮する、という感じの響き方だ。なんの不安もなく、まったく信頼しきってスイッチを入れボリュームを上げられるアンプ、これがケンソニックのP-300でありC-200である。
 P-300の音は、ひと口でいうと静かなときは静かだが、いったん音が出はじめると、これはもう底知れずに力強いという感じだ。底知れぬといういい方のアンプはサンスイのAU-9500で味わって以来のものだが、ケンソニックの場合は、もっと素直なおとなしさを感じさせ、力のこもった芯の強さを知らされる。ちょっと聴くと明るい輝きと受けとれるが、実は、これは立上りのすばらしく良いことに起因するハイ・パワー独特のサウンドで、音色はどちらかというとマッキントッシュのトランジスタ・アンプと共通の、ずっしりと落ちついたサウンドだ。
 このパワー・アンプに配するプリ・アンプC-200は、これまたソフトなくらいに暖かみを感じさせるサウンドが最近のトランジスタ・アンプになれた耳には真空管プリ・アンプと共通の良さと知らされる。つまりそれはケンソニックのセパレート・アンプと同傾向の迫力と輝きとを兼ねそなえているので、これを生かすことが上手な使い方といえよう。となると、真にハイクオリティーの高級オーディオ製品ならなんでもよいといえよう。
 そこでまず第1に考えられるのは、過去の管球アンプ用として作られた最高のスピーカー・システムとカートリッジであろう。現実に我家でP-300を接いだことによってこの数年来のメイン・システムJBLハークネスは輝きと迫力とを格段と増したことを報告しよう。つまりP-300が我家の目下主力アンプとなって存在するわけだ。しかしまた優れたアンプが常にそうであるように、バスレフ構造のベロナに組入れたD130+075もいままでにない信じられないほどに朗々と鳴響いたし、なんと12年前に作られたAR2もいままでにないくらいに素直な張りをもった鳴り方でいまさらながらびっくりした。こうしたことを身をもって試したあとでスピーカーとして数多いなかから、ただ1つを選び出そうというのは所詮無理とは思いつつ厳しく選んだのが次のシステムだ。
 JBLはプロ・シリーズのバックロード・ホーンの4530、ユニットはいわずと知れたD130(又は130Aウーファーでもよいが)ネットワークはプロ用3115といわず一般用のルX5を用いてホーンは375ユニット・プラス509/500のホーン・プラス・デュフユーザー。つまり2ウェイのシステムだ。もしバックロード・ホーンがなければ自作でもよい。いや、平面バッフルだって、それなりのバックロード・ホーンにない低域から中域にかけて立上りの良さが抜群だ。
 もし、高域ののびにせっかくの市費-200+P-300の特長がうすれるというのなら1μFのコンデンサーを通してのみで075をつないだ3ウェイもよかろう。カートリッジにはオルトフォンSPU-GT。もしMM型がよいのならM15Eスーパーこそ絶対だ。

ビクター JA-S5

岩崎千明

スイングジャーナル 11月号(1973年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ステレオ・コンポーネントに対するビクターの熱の入れ方は昨年頃より猛烈というべきほどの気迫と闘志をもってなされ、すでに市場に空前の人気と好評をもって迎えられたブックシェルフ型SX3を始め、数多くのプレイヤーがある。さらに「標準機なみ」と識者間でささやかれた高級アンプS9と、この一年間に矢つぎ早やに驚くほどの成果をあげて「さすが音のビクター」という声もこのところ当り前にさえなってきた。
 そしてS9のあとをうけて、兄貴分S7なみの高性能と認められたS5が市場に出てはや、3カ月を経た。
 S5は5万円台のいうなればもっとも需要層の厚い分野の商品だ。
 逆にいえば、この5万円台はよく売れるということになり、このクラスの市販商品は目白押しに数も多くあらゆるアンプのメーカーの狙う層なのだ。
 ライバル商品のもっとも群がるこのクラスにビクターのアンプ・セクションはふたたび全力投球で、S5を送ったのである。
「出力の大きさ自体はともかく、あらゆる性能に関してS9と同等。やや以前に出たこの上のS7をも、しのぐ」というのがビクターの開発部O氏のことばだ。
 このことばの裏にはS5の性能に対する自信とともにS7を捨ててもS5を売りつくして商品としても成功させなければという決意がはっきりと受け取られるのである。
 このことばが決してハッタリやコマーシャル・メッセージでないことはアンプを持っただけでも納得できよう。5万円台としてはもっとも重い重量はそのまま電源の強力なことを意味しトランジスタ・アンプにおいての電源の重要度はそれは技術を徹底的に極めたもののみが確め得るところであった。事実S5は近頃がらばかり大きくなるアンプの中にあって割に小さい方であるにもかかわらず、重くそのケースを開けるとあふれんばかりに部品がぎっしりつまっている。
 しかもそれは手際の悪いためではなくこの上なく合理化され、十分に検討し尽されている上に、なおやっと収まったというほどに中味が濃い。
 例えば、ビクターのアンプの特長でもある例のSEAコントロールと呼ばれる5または7ポジションのトーン・コントロールもS5では5ポジションながら丸型つまみでスペースは小さくともれっきとした本格派のものがついている。プリアンプはガッチリしたシールド・ケースによってプリント基板ごとすっぽりと遮へいされているが、驚ろいたことに入力切換スイッチがこのケースの内側のプリント基板に取付けられていて、長い延長シャフトによって前面パネルに出ているのだ。こうすることにより入力切換スイッチにいたる配線は、あらゆる入力端子からもわずか数センチですむことになりアンプ高性能のために重要な高域特性が格段と優れることになるわけだ。こうした高価な処置は、長いリード配線をやらなくてすむための工程の節約によってまかなったと開発者はいうが、これこそビクターの経験ある大規模な生産体制でなくては出来得ないだろう。
 しかし、この処置は結果としてその利益につながるが決して生産性を向上させるための処置ではない。いままでなおざりにせざるを得なかったプリアンプにおける高域位相特性の改善を目的としたものである点にS5の良さのよってきたるところを知るのである。
 イコライザー回路は厳選に厳選を重ねたつぶよりの素子を組合せ実にフラットな特性を得ている。さらに最大許容入力はピーク時で驚くなかれ700mV。このクラスのアンプのなかではまさに秀一。ガッと飛び出して来るジャズ・サウンドには、広大なダイナミック・レンジが必要だがこのアンプは・その要求を心にくいまでに満足させてくれる。そして4チャンネルはビクターのお家芸。このアンプには将来4チャンネルにシステム・アップした時マスター・ボリュームとして使えるよう超連動の4連ボリュームが装備されている。
 S5は間違いなく今後もベストセラーを続けるであろう。それは日本のオーディオ界の良識と高品質とを代表する製品として。

アキュフェーズ C-200 + P-300

菅野沖彦

スイングジャーナル 11月号(1973年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 アンプのハイ・パワー化の時代といわれる中で、質量共にバランスした本格的な100ワット以上(片チャンネル)のアンプとなると外国製品に頼らざるを得なかった。今月の選定新製品としで選んだケンソニックの新しい製品、プリ・アンプ C200、パワー・アンプ P300は、国産ハイ・パワー・アンプの夜明けを告げるに充分なクォリティとパワーをもった第一級のセパレート・アンプである。C200はコントロール・アンプとしての機能を豊かに備えているし、その音質の透明な美しさは特筆すべきなのだが、こっちのほうは後で再びふれるとして、まず、そのパワー・アンプP300のほうから述べることにしよう。このパワー・アンプは片チャンネル150ワット(8?)の連続実効出力をもつもので、現時点では国産のモースト・パワフルなアンプである。ピュア・コン直結という最新回路を採用しているが、特に注目すべきは出力段にトリプル・プッシュプル方式を使っていること、全段は2電源方式プッシュプル駆動となっていることである。広いダイナミック・レンジや優れた位相特性を得ることができ、しかも安定した動作の得られるという理由をメーカーはあげている。ハイ・パワー・アンプのエネルギー供給源ともいえる肝心の電源部もさすがに余裕のある設計で、大きなパワー・トランスと4000μF×2の大容量コンデンサーが使われ、瞬間的なピークやハイ・パワー連続動作にも充分な安定を計っている。
 大型メーターをアクセントとしたパネル・フェイスをみても、いかにも、このアンプの実力を象徴しているようで、多くの国産アンプ中で、この雰囲気は一次元高いところにあるように感じる。決してオリジナリティやひらめきのあるセンサブルなデザインとはいえないが、デザインの姿勢、使われているマテリアルや仕上げの高級性が、誠実に高級品のイメージを横溢させていて好ましい。
 パワー・メーターは0dB、−10dB、−20dBの感度切換をもち、適度なダンピングで動く指針は、VUとピーク・メーターの中間ぐらいの動きを見せ、実用上アンプのピーク動作を読みとるには好適なもの。いたずらに華美なメーター・デザインの流行からすると、この地味な照明色や、フレームのデザインはいかにも高級品にふさわしい飽きのこない落着きをもっていて好ましい。
 附属回路として、50%、25%のパワーに制限出来る切換式のパワー・リミッター、17Hz以下、24KHz以上を18dB/octでカットすることによって聴感に大きな影響を与えることなく可聴帯以外ノイズを防ぐバンドパス・フィルター、4組のスピーカー接続可能の切換式のスピーカー・セレクターなどを備え、このクラスのアンプの使用者の便を充分考えてつくられている。
 実際に使ってみたこのアンプの実力は予想以上のものであった。アルテックのA7やJBLの4320などの大型システムを力感と繊細で緻密な解像力、そして柔かく透明感をもった魅力的な音で鳴らしたし、また、小型のブックシェルフにも低能率を補ってハイ・パワーの実力を発揮、朗々と鳴らしてくれた。音の品位の高さは近来のアンプにないもので、特にハイ・パワー・アンプにあり勝ちなキメの荒さ、高音域のヒステリックなとげとげしさといったものはよく制御され、美しいソノリティをもっている。
 C200はデザイン的にはP300にやや劣り、少々寄せ集めのデザインの散漫さが気になるし、すっきりとしたまとまりに欠ける。しかし、やはり、使ってあるマテリアルや仕上げからくる高級感は滲み出ている。全段直結で、しかも完全プッシュプル動作をもつイコライザー回路はユニークな高級回路として注目されるだろう。コントロール・アンプにふさわしい豊富な機能、そしてP300との組合わせにおける質の高い再生音は、世界の一級品に勝るとも劣らない。これだけのパワフルなアンプでありながら、残留ノイズの少なさ、綜合的なS/Nの大きさは抜群で、まさに静寂の中から大音響が立上がる音離れの気持よさを味わうことが出来る。このアンプのロー・レベルでの音のキメの細かさや透明感の魅力は、このノイズの少なさが、少なからず役立っていそうだ。国際商品としての視野でみてこのアンプ(特にパワー・アンプ)の値打ちは高い。あとはどれだけの酷使に耐えるタフネスと安定性をもっているかを時間をかけて確めるだけである。