ビクター JA-S5

岩崎千明

スイングジャーナル 11月号(1973年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ステレオ・コンポーネントに対するビクターの熱の入れ方は昨年頃より猛烈というべきほどの気迫と闘志をもってなされ、すでに市場に空前の人気と好評をもって迎えられたブックシェルフ型SX3を始め、数多くのプレイヤーがある。さらに「標準機なみ」と識者間でささやかれた高級アンプS9と、この一年間に矢つぎ早やに驚くほどの成果をあげて「さすが音のビクター」という声もこのところ当り前にさえなってきた。
 そしてS9のあとをうけて、兄貴分S7なみの高性能と認められたS5が市場に出てはや、3カ月を経た。
 S5は5万円台のいうなればもっとも需要層の厚い分野の商品だ。
 逆にいえば、この5万円台はよく売れるということになり、このクラスの市販商品は目白押しに数も多くあらゆるアンプのメーカーの狙う層なのだ。
 ライバル商品のもっとも群がるこのクラスにビクターのアンプ・セクションはふたたび全力投球で、S5を送ったのである。
「出力の大きさ自体はともかく、あらゆる性能に関してS9と同等。やや以前に出たこの上のS7をも、しのぐ」というのがビクターの開発部O氏のことばだ。
 このことばの裏にはS5の性能に対する自信とともにS7を捨ててもS5を売りつくして商品としても成功させなければという決意がはっきりと受け取られるのである。
 このことばが決してハッタリやコマーシャル・メッセージでないことはアンプを持っただけでも納得できよう。5万円台としてはもっとも重い重量はそのまま電源の強力なことを意味しトランジスタ・アンプにおいての電源の重要度はそれは技術を徹底的に極めたもののみが確め得るところであった。事実S5は近頃がらばかり大きくなるアンプの中にあって割に小さい方であるにもかかわらず、重くそのケースを開けるとあふれんばかりに部品がぎっしりつまっている。
 しかもそれは手際の悪いためではなくこの上なく合理化され、十分に検討し尽されている上に、なおやっと収まったというほどに中味が濃い。
 例えば、ビクターのアンプの特長でもある例のSEAコントロールと呼ばれる5または7ポジションのトーン・コントロールもS5では5ポジションながら丸型つまみでスペースは小さくともれっきとした本格派のものがついている。プリアンプはガッチリしたシールド・ケースによってプリント基板ごとすっぽりと遮へいされているが、驚ろいたことに入力切換スイッチがこのケースの内側のプリント基板に取付けられていて、長い延長シャフトによって前面パネルに出ているのだ。こうすることにより入力切換スイッチにいたる配線は、あらゆる入力端子からもわずか数センチですむことになりアンプ高性能のために重要な高域特性が格段と優れることになるわけだ。こうした高価な処置は、長いリード配線をやらなくてすむための工程の節約によってまかなったと開発者はいうが、これこそビクターの経験ある大規模な生産体制でなくては出来得ないだろう。
 しかし、この処置は結果としてその利益につながるが決して生産性を向上させるための処置ではない。いままでなおざりにせざるを得なかったプリアンプにおける高域位相特性の改善を目的としたものである点にS5の良さのよってきたるところを知るのである。
 イコライザー回路は厳選に厳選を重ねたつぶよりの素子を組合せ実にフラットな特性を得ている。さらに最大許容入力はピーク時で驚くなかれ700mV。このクラスのアンプのなかではまさに秀一。ガッと飛び出して来るジャズ・サウンドには、広大なダイナミック・レンジが必要だがこのアンプは・その要求を心にくいまでに満足させてくれる。そして4チャンネルはビクターのお家芸。このアンプには将来4チャンネルにシステム・アップした時マスター・ボリュームとして使えるよう超連動の4連ボリュームが装備されている。
 S5は間違いなく今後もベストセラーを続けるであろう。それは日本のオーディオ界の良識と高品質とを代表する製品として。

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