オンキョー Integra A-711

菅野沖彦

スイングジャーナル 5月号(1974年4月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 アンプはスピーカーを鳴らすものか。あるいは、カートリッジやテープ・ヘッドで変換された電気エネルギーを忠実に伝送増幅してスピーカーに送りこむものなのか。つまり、アンプは、入口から眺めるべきか出口から眺めるべきか。本来は入口から眺めるべきものだとは思うが、それだけでは片手落ちというのが現実である。スピーカーという動特性をもつもの、それも、いろいろな動作特性のちがうスピーカーをつながれるという立場上、出口であるスピーカーからアンプを検討するという考え方も必要なのである。両側から見て、充分検討され尽されなければ、……アンプは生れない。このインテグラA711というアンプは、実に慎重に検討されたアンプだと思う。最新科学の粋ともいえるエレクトロニクスも、こと、音を出すアンプとなると複雑怪奇、微妙な問題が山積していて、トランジスタやコンデンサーやレジスターなど素子のちがいで音が変るというのが実情である。定数や回路そのものが変れば当然の事、部品のバラツキやバラツキに入らない物性の違いでも音が変るという恐ろしい世界なのである。同じ容量なのにペーパー・コンデンサーとマイカー・コンデンサーでは音が変るという人もいるのである。アンプの設計は、単なるエレクトロニクス技術で計算通りいくものではないとなると、私のよくいう、スピーカーは本当のオーディオ・エンジニアの手からでないと生まれか、という考えが、この世界にもあてはまるようである。電気技師や機械技師が、さらにオーディオ・エンジニアになるための素養と経験が必要となってくるのである。最近の国産アンプが、性能はもとより、音の点でも、各段の進歩を遂げてきたのは、そうしたオーディオ・エンジニアと名実共に呼び得る人が増えてきた事を物語っていると思うのは早計であろうか。
 とにかく、このA711というアンプは音がいい。オンキョーのアンプ・エンジニアが現段階で全力を尽した製品だということは充分理解がいくのである。パワーは75W×2で、決して大きいとはいえないけれど、むしろ、このアンプの特徴は、その透明な品位の高い質にある。そして、この75W×2というパワーは、その質を、実用上スピーカーから発揮させるためにはまずまず不足のないものと見るほうが正しい。つまり、このアンプをボス・チャンネルで150Wのハイ・パワー・アンプだという見方は、その本質を把えた見方ではないということである。刺激的な荒れや、薄っぺらな頼りなさや、濁りから解放された美しい音の世界、音の純度を求めるファンならば、その価値を高く評価出来るだろう。私事になるが、私はこのアンプのパワー部を、現在、自分のマルチ・アンプ・システムの中域に使ってJBLの375ドライバーを鳴らしている。それまでの音とは明確に次元のちがう、柔かさと豊かさが加って、抜けるような透明な音になって喜んでいる最中なのだ。
 このアンプのよくない点は従来のオンキョー・アンプより、より高級なイメージをあらわすことには成功しているがオリジナリティがないこと、さらに奥行が深く、普通の棚やラックには、まず収まり切れないだろうことである。どうしても、この大きさになるのなら、これはプリ、メインを分けてセパレート・アンプとして出すべきだった。セパレートのためのセパレートではなく、必然性をもったセパレート・アンプとして生きただろうと思うのである。無理に、スタイル上からだけのコマーシャリズムでセパレート・アンプを作ったり、実用上、非常識な大きさになるのもいとわず、一体にまとめたり、どうもメーカーのやる事は時々不可解な事か多い。ツマミの配置にしても、めったにいじらないスピーカー切り換えスイッチがアンプ・パネルの一番重要な左はしにデンと構えていたりする不合理はこのアンプに限ったことではないが、あまり好ましいことではない。重箱の隅をほじくるような悪口が出てしまったが、つまらない苦言の一つも呈したくなるほど、このアンプの実力に魅せられた。この音のクオリティーが、チャンネルあたり150Wぐらいまで保てれば、世界の第一級のアンプといえる存在になるだろうが、その時には、製品としてのデザインのオリジナリティと風格に関してよりシビア一に見つめられることになるだろう。

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