Category Archives: 海外ブランド - Page 74

KEF Model 104(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 最近の英国を代表するスピーカーメーカーとしてKEFは、わが国でも人気上昇中だが、この104はこれまでのシリーズを一段と質的に練り上げたシステムとして有名だ。
 英国のスピーカーは、ともすれば耐入力の点で心配が残るのだが、このシステムは比較的大きなサウンドエネルギーをとり出すことができそうだ。しかし、やはり米国製ブックシェルフ型のARやKLHなどとは数段に違うので十分な注意が必要だ。
 極端なハイファイ志向の音というよりは、音楽を楽しめる音という表現ができるような耳当りのよい音だ。小音量でクラシックの小編成曲を聴くときの魅力は注目でき、バロック音楽などを十分楽しむことができよう。やはり英国の音というにふさわしい印象をもったシステムといえる。
 ここでは非常に質の高い再生音を目標とし、きめの細かさと高出力を兼ねそなえたラックスL309Vを使うことにした。ここでも高出力の威力を十分発揮してくれる。カートリッジは、スピーカーと同じく英国のデッカMKVとして、中高音の粒立ちを一層きめ細かく再生してくれよう。シームは当然インターナショナルだ。

スピーカーシステム:KEF Model 104 ¥79,000×2
プリメインアンプ:ラックス L-309V ¥148,000
ターンテーブル:ラックス PD121 ¥135,000
トーンアーム:デッカ International Arm ¥25,000
カートリッジ:デッカ Mark V ¥25,000
計¥491,000

ウエストレイク・オーディオ TM2(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 JBLのユニットを用いていながらJBLブランドでないところに、このウェストレークの特長があるのだが、その中心となるのは中高音用のユニットとして用いているホーンがトム・ヒドレーのオリジナルホーンである点だ。設計者の名をそのまま冠したこのホーンは、JBL2397をそのままの形でふたまわりほど拡大したような、大型の木製ホーンで、ドライバーユニット2440と組合せ、クロスオーバー800Hz以上を受けもっている。
 JBLのプロフェッショナル用大型スタジオモニター4350と外形がよく似た大型のバスレフレックス箱に収めた2本のJBL38cmウーファーは、初期において2215を採用していたがごく最近は変更したとも伝えられる。JBL4350が、2ウーファーの4ウェイであるのに対して、ウェストレークは、2ウーファー3ウェイ。それは中音の強力なオリジナルホーンで達成されたともいえる。
 高音用として2420ユニットをホーンなしで、そのまま高域ユニットとしているが、磁気回路を貫通する8cmの長さの小さな開口のショートホーントゥイーターといえる。
 このようにJBLのユニットそのものを、ひとひねりして用いているが、4350と価格面ではほぼ同じにあるので、この両者の比較は大変興味をひかれることだろう。もっとも4350も、ごく最近、その特長となるべき中低音用ユニットを変更すると伝えられていて、本当の勝負はこのあとになろう。
 ウェストレークを活かすには独特の中音域ユニットをいかにしてより効果的に鳴らすかという点にかかりそうだ。プロフェッショナルユースとしてのこのシステムを、あらゆるかたちで追い求めるとしたら、マランツの新型パワーアンプこそ、もっとも適切だろう。ハイレベルでも、家庭用としても、音楽の美しさを凝縮してくれよう。プリアンプとして3600は確かにひとつのベストセレクトには違いないが、プロのみのもつ最高レベルのSNを、ここではぜひ欲しい。家庭用としてのポイント、ダイナミックレンジの飛躍的拡大を考えれば、SNのよいプリアンプが要求され、クワドエイトのプロ技術で作られた、小型ミクシングコントロールにフォノ再生仕様を加えたLM6200Rが、今日考えられる最高と断じてもよかろう。カートリッジは、プロ用機から生れた103Sを使うことにしよう。

スピーカーシステム:ウェストレーク TM2 ¥1,200,000×2
コントロールアンプ:クワドエイト LM6200RI ¥760,000
パワーアンプ:マランツ Model 510M ¥525,000
ターンテーブル:デンオン DP-5000F ¥78,000
トーンアーム:デンオン DA-305 ¥19,000
カートリッジ:デンオン DL-103S ¥27,000
計¥3,809,000

アルテック X7 Belair(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 アルテックブランドには数少ないブックシェルフ型のシステム。特に日本市場を意識しての企画だけに、その音色を練りあげて、極めてスムーズなバランスの良さが明快なアルテックサウンドの上に構築されている。
 25cmのウーファーは市販品種ではないが、ドーム型のトゥイーターは、最新の市販ユニットだ。やや大型のブックシェルフ型の背面には、アルテックのマークも鮮かな、本格的な独立製品そのままのネットワークが埋め込まれているのが、このシステム全体の価値を大きくしているのは見逃せない。
 いかにもアルテックらしいスケールの大きな堂々たる低音のゆとりは、極端なローエンドの拡大を狙ったものではないが、量感のすばらしさは、この価格とは信じられぬほどだ。暖かい感触の中音、鮮明でスムーズな高音。音楽のジャンルを選ばぬ高い水準の音質は、組合せるべきアンプさえ得られれば、家庭用としてひとつの理想を成すに違いない。ここではパワフルな響きに分解能の卓越した再生ぶりを期待して、マランツの最高品質のプリメインを組合せる。心地よく、やや甘さのあるアルテックの音は格段の力を加えるに違いない。

スピーカーシステム:アルテック Belair ¥78,800×2
プリメインアンプ:マランツ Model 1150 ¥125,000
チューナー:マランツ Model 125 ¥84,900
プレーヤーシステム:テクニクス SL-1350 ¥90,000
カートリッジ:ピカリング XV15/1200E ¥26,700
計¥484,200

KEF Model 5/1AC, JBL 4341

瀬川冬樹

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’76」(1975年冬発行)
「オーディオの中の新しい音、古い音」より

 イギリスのBBC放送局で、1968年までは全面的に、そして現在でも一部のスタジオでマスターモニターとして活躍しているLS5/1AはKEFの製品で、BBCの研究員と協力してその開発に携ったのがKEF社長のレイモンド・クックである(本誌昨年版参照)。このスピーカーの音の自然さは他に類をみないが、現時点では耐入力及び音の解像力に多少の不満がある。KEFでは約二年前に、同じスピーカーユニットでマルチアンプドライブ式に改造し、MODEL 5/1ACという型番で新らしいスタジオモニターを完成させた。初期の製品は内蔵パワーアンプの歪やノイズの点で不満があったが、今年9月、R・クックが再来日の折に私の家まで携えてきた改良型のアンプに入れ変わって以後の製品は、明らかにBBCモニターを凌駕する音質に改善された。JBLと同じく冷徹なほどの解像力を持ちながら、JBLがアルミニウムのような現代的な金属の磨いた肌ざわりを思わせるならKEFは銀の肌、あるいは緻密な木の肌のようで、どこかしっとりとうるおいがあるところが対照的で、しかもこの両者には全く優劣がつけ難い。
 JBLプロフェッショナル・シリーズのモニター・スピーカーの中で、♯4350(本誌昨年版に紹介)ほどのスケール感とダイナミックな凄味には欠けるにしても、同様に周波数レンジがきわめて広く平坦で、音のバランスのよさと音のつながりの滑らかさという点で、♯4341は注目すべき製品といえる。
 各帯域のレベルコントロールの調整や設置条件の僅かな違いにも鋭敏に反応するし、カートリッジやアンプに他のスピーカーでは検出できないような歪があっても♯4341は露骨にさらけ出してしまう。レコードにこれほど生々しく鮮烈な音が刻まれていたのかと驚嘆するような、おそろしいほど冷徹な解像力である。そういう能力を持ったスピーカーだから、鳴らす条件を十分に整えなくてはかえって手ひどい音を聴かされる。もうひとつ、スタジオでハイパワーで鳴らしても三ヶ月以上鳴らしこまないと鋭さがとりきれない。家庭で静かに鑑賞する場合は、一年以上の馴らし運転期間が必要だろうと思う。

クリプシュ LS-BL La Scala

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 おそろしく能率が高い。しかもハイパワーによく耐える。シェフィールドのダイレクトカッティング・レコードをかけて、思い切り、それこそ飛び切りの大音量をほうり込んでみる。聴いているうちに背中に冷汗を感じるほどの音量に上げると、まるで突き刺さってくるようなハードで切れ味のいい音に、豪快な滝の水にあたったような爽快感をさえおぼえる。こういう鳴らし方は、本来、今回の試聴のようなあまり広くない部屋では邪道で、あくまでも広大なリスニングルームあるいは小ホールでこそ生かされる性能といえる。反面、小型のリスニングルームでは、中~低音のホーン特有の朗らかに響く音色が、概して音の格調を損ないがちで、置き場所や置き方の研究が必要だ。左右にあまり広げると中央の音が抜ける傾向が顕著なので、なおのこと小さい部屋ではステレオのひろがりを満喫するのが難しい。構造も音もいまや特異な存在で、そこが貴重でもあり古めかしさでもあり、目的や好みや使いこなしによって評価の大きく分かれるスピーカーだ。

採点:79点

インフィニティ Monitor II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 アメリカ西海岸の新しい世代のスピーカーだが概してスーパーハイ(超高音)の領域を強調する傾向のあることは前号(81ページ以降)に書いたとおりだが、インフィニティのウォルシュ・トゥイーターの音は、どことなく粘った感じの、クチュクチュあるいはペチャペチャとでもいう形容の似合うたいそう独特の音を鳴らす。いかにも高域のレインジが広いんだぞ! と言わんばかりで、そしてたしかにレインジは広いのだが、音色のつながりが必ずしも良いとはいえない。レベルコントロールで絞ると音の面白みに欠けるので、結局FLATの位置の方がよかった。東海岸の製品が中~低域に引きずられるのとは対照的に、何を鳴らしても総体に中高域にひっぱられて軽い音になる傾向を示す。それがどこか空威張りのようで、もう少し実体感が欲しい。ただ、シェフィールドのダイレクトカッティング・レコードでパワーを上げると、がぜん精彩を放って、こういう音がこのスピーカーの性に合っていることがわかる。上蓋を取った方が音の広がりがよく出る。

採点:82点

リーク 2075

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 イギリスのスピーカーの中でも、タンノイとリークが、現在では最も辛口の、中音域にしっかりした芯と張りを持たせた最右翼といえる。大掴みにいえば、タンノイ・ヨークほど独特ではないが、しかし音像くっきりと艶めかせて鳴らす特有の硬質な艶は、一度聴いたら忘れられない個性といえる。いわゆる音の自然さといった尺度からみれば、中~高音域にときとして喉を絞った発声のようなくせがつきまとうところが弱点といえるかもしれないが、しばらく聴き込んでゆくと、たとえばセレッション66がこれにくらべると明らかに安いスピーカーだとわかるような、ふしぎな格調が聴きとれる。低音はのびのびと、基音もむろんだが低次倍音の領域がしっかりしているせいか、ベースのソロなど一種ゴリッとした振動的な音が魅力だしピアノの低音も実体感をともなってがっしりと地についている。つまり音に軽々しいところがない。現代ふうの広帯域を目ざしながら、旧型スピーカーの良いところも併せ持たせたような作り方のように思える。

採点:88点

オマール TL6 Ambionic Monitor

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 左右に拡げたスピーカーのところから確かに音がこちらに向かって聴こえてくる、という一般的なスピーカーの鳴り方に馴れた耳でいきなりこのオマールを聴くと、音がスピーカーから直かに鳴る感じよりも部屋のあちこちから聴こえてくるような鳴り方にしばらく戸惑ってしまいイライラしてくる。けれどこの製品が、面と向って個人でレコード音楽を鑑賞するためでなく、部屋の音響特性とのバランスをとりながら一家団らんの場で音のムードを撒き散らすための作り方、いわば上等なイージーリスニング用だと解釈して、たとえば映画音楽や、ストリングスのムード音楽などを鳴らしてみると、どうやら聴きどころの焦点が合ってきた。前後に音が出るためどちらが正面という指定もないし、コントロールのツマミも多く、最適なコンディションを得るには多少の時間がかかるが、音の出る場所をことさら意識させず、リスニングポジションを限定しない鳴り方がおもしろい。特異な存在としてむしろオーディオファン以外の層に奨めたい。

採点:85点

アルテック Crescendo (605B)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 筆太の力強いタッチで朗々と鳴り響く味の濃い音質は、明らかにアルテックの個性である。中音域を最も重視してこの音域に厚みを持たせ、高域にしっかりと芯を一本通しながらなだらかに落し込んでゆく作り方は、現代の尺度からみればもはや旧式の特性には違いないが、そこに線の太い安定感が生じ、やはり名器のひとつと納得させるだけの、密度の濃い音で説得する力を持っている。能率のきわめて良い点も重要な長所だ。エンクロージュアの大きいことも手伝って、こせこせしない悠々たる鳴り方はブックシェルフや小型スピーカーには望めない。反面、弦の倍音のあの魅惑的な表情や、ヴァイオリンの独奏の鮮鋭かつ繊細な表情の出にくいという面ひとつとっても、やはりこれは古いスピーカーなのだという感想は否めない。左右にひろげて設置しても、オーケストラが中央に固まる傾向があり、ワイドレンジ型の爽やかな広がりを聴いた耳にはどうにも不満が残る。蛇足ながらエンクロージュアはオリジナルの620Aを奨めたい。

採点:85点

タンノイ New Rectangular York

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 旧ヨークより高域のレインジも広がりクセも少なくなっているにもかかわらず、たとえばスペンドールのような音のクセをできるだけ取り除いてフラットで色づけの少ない自然な音を目指したスピーカーを聴いたあとでは、しばらくのあいだ聴けないくらい、中域の張り出した(最近のイギリス製品には少ない)、ホーン特有の色のついた個性の強い音なのだが、しかしそういう尺度を当てはめて退けるにはあまりにも見事に磨かれた、格調の高い、緻密でスケールの大きい、味の濃い音質である。総体にランカスターより重量感のある、悠揚せまらざるという感じの音を聴かせ、左右に4m近くもひろげて、目の前いっぱいに並んだ小沢の「第九」を聴くうちに、いつのまにかテストを忘れて聴き惚れてしまった次第。エンクロージュアの工作やグリルクロスの品位が以前より落ちているのは残念だが、ヨーク健在なりの意を強めた。こうした性格の良い面を生かすには、少し旧い音だがオルトフォンSPUやラックス38FDIIといった組合せが好ましいと思う。

採点:94点

JBL L65 Jubal

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 旧型のL101に代るべき製品だが、低音はより明るく弾み、しかも高音は格段にレインジが拡張され、従来のJBLからみると別もののように繊細な高音を聴かせる。したがってクラシックのオーケストラものでも、一応こなせるようになった。L101と比べると、中音の品位は少し落ちるのでポピュラー系には中域の多少の粗さも明るさ、華やかさといった長所として生かせるが、クラシックの弦を主体に聴くには、アンプやカートリッジに、中~高域のややウェットな、滑らかで緻密なタイプを組み合わせる必要がある。音量をしぼっても細かな音が失われないし、ハイパワーにもきわめて強いのがJBLの良いところだが、このL65は音量を上げても音像がばかげてふくらむようなことのない点がことに好ましい。ブロック一段程度の台に乗せた方が音の抜けがよく、左右に思い切り拡げて設置して定位を確保したい。背面は壁に近づける。レベルセットは中音を-1、高音を0とした。タンノイ等と同様長期間馴らし運転しないと音の鋭さがとれないので注意。

採点:94点

ダルクィスト DQ10

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 低音から高音までの音のこまかな起伏を塗りつぶしてしまうような、良くいえば細かな欠点もくるみ込んでしまうような、そして艶消しの感じの乾いた質感。オーケストラのレコードで総体のバランスに注意して聴いても、ピアノの音でもヴォーカルでも、大掴みなところのバランスは問題なくまとまっているのだが、例えば楽器の演奏にともなう附帯雑音──たとえば弦合奏のざわめくような、楽器の周囲に漂うような雰囲気感──までも塗りつぶしてしまう感じで、たとえばアンバーとンやバルバラのレコードで、ほかのスピーカーでは聴きとれる唇の湿った感じが出てきにくいし、どこか音の鮮度が落ちたようでいわゆるインティメイトな雰囲気が出にくい。まるで歌手が向うを向いて唱っているみたいだ。細かいことをいえば全域の中で低音域の質感が少し落ちる感じだが、そういうことより、すべてを無難にまとめたような作り方が私には全く魅力の欠けた音にしか思えない。いわば高級なイージーリスニング用には悪くないかもしれない。能率は低い方だ。

採点:82点

モーダウント・ショート MS737

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 中~高音域にほどよい艶の乗った滑らかな品の良い音質だ。同じイギリス製品の中で比較すると、スペンドールBCIIのやや細身の自然さと、セレッション・ディットン66の味わいの濃さとの、ほぼ中間的存在といえそうだ。弦合奏、合唱、あるいはヴォーカルに良い面をみて、ことに女性の声(アン・バートン、バルバラ)など暖かく湿った唇を思わせ、滑らかでやさしく品が良い。音量を絞っても、キーソニックほど抑え込んだ感じでなくむしろ解き放たれたといいたいような自由で、派手やかな明るい音を響かせる。弱点といえば、これはイギリス系に共通の性格だがハイはワーに弱く、実演に近い音量に上げてゆくと骨張ってやかましくなる。あくまでも中程度以下の音量で美しさを楽しむスピーカーだ。低くとも台に乗せた方が音離れがよくなる。背面を壁にぴったりつけても低音がダブつくようなことがない。全域にわたってキメ細かくコントロールさせた秀作スピーカーといえる。

採点:91点

アリソン Allison:One

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 雑草を刈りとり間引きして上品に整理した感じのARと対照的に、雑草もまつわりつくが自然の勢いにまかせた元気のいい音といえようか。少しぐらい粗くとも大掴みなバランスの良さで開放的に音を鳴り響かせるという感じである。中~低音の土台がしっかりしていて、オーケストラやピアノの低音域が豊かに鳴るし、コンボジャズのバスドラムやベースのファンダメンタルも実感的に聴こえる。中~高音域は、ARやKLHよりは延びている印象。ただシンバルやスネアドラムで、切れ味はそんなに悪くないがトゥイーターだけが離れて鳴るという感じがわずかながらある。全域を通して、音の品位は必ずしも高級とはいいにくいが、音をむやみに抑えこんでいないところがこのスピーカーの長所といえそうだ。カートリッジはシュアー、エンパイア系がアリソンのこの性格を生かすと思う。音像定位は形状から想像するより良いが、どちらかといえば部屋の長手方向の壁面に、左右に広く(3メートル以上)離して設置するのがよいと思う。

採点:82点

アコースティックリサーチ AR-10π

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 出力計をにらみながら、ピアノや管弦楽のフォルティシモの一瞬でしばしば100ワットを越すくらいまでパワーを上げてみる。ピアノが眼前で鳴るくらいの音量にしたときでも危なげのない安定な鳴り方。ソフトな肌ざわりを失わないバランスの良さ。とても気持ちの良い音だ。ピアノの実体感、スケールの大きさ、あるいは管弦楽のことに中~低音楽器群の音のふくらみや腰の強さの描写力は素晴らしい。反面、アルゲリッチのタッチの鋭さとか、弦合奏にともなう一種ざわめくような雰囲気、またはチェンバロの繊細な響きという面になると、たとえばスペンドールでは音の余韻が空気の中に溶け込んでゆくように消えてゆくのに対して、ARはそれを鋭い刃物で断ち切るようで、音量を絞ればなおのこと音の冴えや艶を失う。あくまでも柔らかなタッチの上等な音だ。50センチの標準台にインシュレーターを開始横位置にセット。背面を壁から離し、コントロールはLOWを4π、MIDを-3dB、HIGHを0dBにセットした。

採点:88点

セレッション Ditton 66

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 イギリスの製品の中では総じて温かく穏やかな音をねらうのがセレッションの特徴だが、66は中でも豊かで厚みのある、スケールの大きい音を聴かせる。リークやタンノイの硬質な艶は持っていないし、スペンドールBCIIの自然なワイドレンジよりももう少し意識的にふくらみをつけた音だから、ちょっと聴くとシャープさに欠けた、おっとりした音に聴こえるが、管弦楽曲やオペラをわりあいに音量を上げて鳴らしたときの、少しのやかましさもなくそれでいて音の実体感豊かな、身体を包みこむような快い響きは、ほかに類似のスピーカーがちょっと思い浮かばない独特の世界だ。決して鋭敏なタイプでないが柔らかい響きの中にも適度の解像力を保ち、抑えこんだ感じが少しもないのにあばれるのでなくほどよい色づけで、これがイギリス人のいうグッドリプロダクションかと納得させられるような練り上げられたレコードの世界を展開する。ただ、国内プレスに多い乾いた音のレコードでは、この良さは聴きとりにくいかもしれない。

採点:94点

タンノイ New 12″ Lancaster

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 タンノイに限ったことではないが。、中~高域に英国系の振動板を持ったスピーカーは、数ヵ月鳴らしこまないと、どこかトゲの生えたような鋭さの取れない音を鳴らす。この製品もそうだったので、トランジスターアンプをやめて、ラックスのSQ38FDIIとオルトフォンのSPU-GT/Eを組み合わせてみたら、弦や声の金属的な響きが一応抑えられた。にもかかわらず本質的な性格として、中音域がやや薄手であると同時に高音の倍音領域の高い方に細い刺が残っていることが、特徴というよりはやや弱点として、少し音にクセをつけすぎるように思える。あるいはそれが特徴のある個性というところまで仕上っていないといった方が正しいかもしれない。以前の12インチにもこの傾向はあったが、基本的には同じ線のようだ。エンクロージュアのサイズがもうひとまわり大きくないと、たとえばピアノでも、もうひと息スケール感が出にくい。低音の一部で少々ふくらみすぎる音を置き方などでうまくおさえないと気になりそうだ。

採点:82点

フェログラフ S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 過去多くの機会に私は紹介したが、今回の試聴では、初期のものからみると音の傾向が少し変っている。以前の製品では、中域を抑えすぎるほど抑制して、低音と高音の両端をやや強調するという、イギリスの製品に多いバランスで聴かせたが、今回聴いたものは、高・低両端をむしろ抑えて中域をかなり(といってもイギリス製にしては)張り出させて、総体にやや硬い傾向の音質になっていた。中程度の音量で鳴らす限り、音域全体に緻密さが増して、以前のようにやや上澄みが強調される感じあるいは高域にこなれない鋭さのあったところが改善され、クリアーでしっとりした印象が出てきた。ところが反面、左右に思い切り広げて設置したとき、たとえばソロイストが中央におそろしいシャープさで定位する、あの薄気味悪いくらいの雰囲気が一歩後退したところが私には少し残念だ。とはいってもこの製品の鮮鋭な雰囲気描写と解像力のよさは、やはり特筆の部類に入ると思う。背面は壁から離して設置し、解像力の優れたカートリッジを組み合わせる。

採点:91点

QUAD ESL

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 いろいろな機会に何度もとり上げられて、今さら何も言うことはなさそうに思えるのだが、実のところこのスピーカーは、アンプやカートリッジやレコードの録音が新しくなるにつれて潜在的に持っていながら評価されにくかった本質を少しずつ我々の前に現わしてくるようなところがあって、それを見抜けなかったことを恥じなければならないにしてもしかし、周辺機器の進歩ということをつくづく考えさせられる。総体的な印象は、本誌22号でのテストリポート(199ページ参照)や、『別冊1975コンポーネントの世界』でのシンポジウム(71ページ以降)で発言したことで尽くしているので、ここでは使いこなしの面について多少の補足をするが、第一に、二つのスピーカーと聴取位置の選び方。かなり近寄って、スピーカーの面が耳を向くように位置すると、すばらしく鮮度の高いクリアーな現実感が得られる。第二に、背面の空間を十分にあけて置くこと。ピアノの実音までの音量は鳴らせないが、大出力の安定なアンプが必要だ。

採点:95点

キャバス Sampan Leger

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 張りつめたような華やかな音を聴かせる。中音域のやや上の、基音から倍音の領域にまたがるあたりの音域に、ほかのスピーカー(あるいはほかの国という方がたたしいかもしれないが)では聴くことのできない音の明るさがあって、それがたとえば弦合奏などで私の感覚ではわずかにきついとさえ思えるが、反面、バスーンのような木管楽器の倍音に独特のふくらみと艶をつけて魅力的に仕上げるあたり、妙に惹きつけられるところのある音だ。この音を特色として生かすも欠点とするも、使いこなし次第といえる。たとえばアンプやカートリッジに、硬質でしっかりした音よりも柔らかなニュアンスのあるものを組み合わせた方が良いと思う。台は20~30センチがよさそうだ。背面を壁に寄せた方が音のバランス上では低音の量感が補われると思ったが、いろいろやってみると、壁から多少離した方が音のパースペクティブがよく出るので、その状態でアンプの方で低音を補う方がよかった。

採点:85点

ワーフェデール Kingsdale 3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 フロアにじかに置き、次にブロック1個分上げて、さらに2個にしてもまだ音がこもって抜けが悪い。ついに50センチの台に乗せて、さらにインシュレーターを噛ませて、おまけにEMTのカートリッジとマークレビンソンLNP2/ヤマハBIのシャープな音で引締めて、まあ納得のゆくバランスになった。イギリスの音の長所も短所も合わせ持った音とはいえ、たとえばバルバラのシャンソンなど、瑞々しい艶で唇のぬれたような感じまで出てくるが、ピアノは弱腰というか上澄みだけというか、実体感の薄い音だし、オーケストラも大編成は無理で、しかしバロックや室内楽など、ややひっこむ感じながら一種独特の柔らかい雰囲気を出す。しかし一般的にいえばそういう特徴を生かすには相当に手間のかかるスピーカーというべきで、いい素質を持ってはいるが、正面切って音楽を鑑賞するのでなく、一家団らんの場で、気にならない音を鳴らしておくというような目的に使うのがせいぜいかと思う。

採点:76点

デッカ London Enclosure

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 小型のスピーカーの割に、オルガンのペダル音、バスドラム、ベースの低音などで、意外なほど低音のファンダメンタルがよく延びているように聴こえる。もちろんそういう音を出すスピーカーはほかにもたくさんあったが、この大きさにしては、という印象が強い。ただしこのときは、ゆかから約15センチほどの低い台で、背面を固い壁に近づけて置いた。トーンコントロールで多少の補正も加えている。しかしそうやっても、ファンダメンタルの出ないスピーカーではこうはいかない。ところで全体の感じだが、イギリスのスピーカーが概して中~高音域に強調感のある作り方が多いことを頭に置いて聴いてみても、どうもやかましさすれすれのところでこしらえてあるように思われ、ことにパワーに弱く、音量を上げると総体にキャンつくので、平均80dB以下ぐらいの音でひっそり鳴らさないとだめのようだ。面白半分にデッカMKVのカートリッジで、デッカ録音のレコードをかけてみたら、当然とはいえ、個性が強いながら楽しい音がした。

採点:82点

リーク 2060

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 中音域の上の方から高音域にかけて、鈍い金属の光で隈どったような特有の線の細い光沢感がある。あるいは彫りの深い目鼻立ちのことさら強調されたような音ともいえ、そういう特徴に惹かれもする反面、部分的には辟易かもしれない。いわば好き嫌い分かれる音質かもしれない。高音域に線の細い艶が乗るのはイギリスのスピーカーに概して共通の特色だが、リークの音はその中でもやや硬質の艶が目立つ。それが良い面に働いた場合、たとえばピアノでUL6よりもスケール感が出るし、またBCIIよりも現実感があるオーケストラの斉奏では、硬質の光沢が彫りの深い立体的な構築を聴かせる。オルトフォンVMSやB&Oの4000等、音の柔らかな系統のカートリッジの方が、短所を抑えてくれる。また、あまりパワーを上げないときの方がいい。ハイパワーでは音のキャンつく傾向が出てくるし、スクラッチノイズを部分的に強調するクセがあり、決して万能型ではないが長所の多いスピーカーだと思う。台はブロック1~2個程度がよさそう。

採点:88点

ブラウン L715

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 たとえばリークの音に艶があるという印象が、ブラウンと並べて聴くとリークがどこか湿っぽく聴こえる。そのくらい独特の艶があって当然これはドイツのスピーカーが昔から持っている特徴だが、そのドイツの音という枠の中では、従来の製品より全音域でのバランスがより自然に、音域ごとの強調感や欠落感が少なく、たいへんみごとにコントロールされた製品であることを感じる。ステレオの音像の定位やひろがりや奥行きも、明確に再現する。この独特の艶は、弦合奏にもピアノにも、われわれの耳にはときとして過剰気味に思える場合があるが、そこに一種の透明な──といっても空気の透明というより上等の硬質なクリスタルガラスの光沢のような──感覚が生じ、鳴っている音楽の鮮度を上げるような働きをする。むろんそれはこの製品に限った話ではないが、エンクロージュアの大きさからいっても、本もののスケール感を望むのは無理で、あくまでも虚構の枠の中での話だが、高め(50センチ)の台、左右に広げる方がよかった。

採点:94点

セレッション UL6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 外形の小さいこと、それに価格を頭に置いて聴くと、小型らしからぬ低音の厚みやスケールの豊かなことに驚いてしまう。といってもたとえばアルゲリッチの新しい録音(36号120ページ)を鳴らすと、グランドピアノの実体感を鳴らすのはとても無理なことがわかる。が、その点を割引いても、十分広い全音域に亘って上品な艶と品位を保って、イギリス製品にありがちの中域の薄手なところも感じられず、みごとなバランスで聴き惚れさせる。あまり神経質でないところがいい。しかしそれでいて、トーンコントロールでハイを上げるとおもしろいほど敏感に反応するし、カートリッジやアンプの音色の違いにも正確に応える。私個人の聴き方からすると、EMTのような解像力の鋭いカートリッジや、そういう傾向のアンプでドライブする方がいっそう音が生きてくる。大きさから考えても、ピアノの再生能力から考えてもサブ(セカンド)スピーカー的な存在だが、しかしそれではもったいないと思える程度のクォリティを示す。

採点:91点