Category Archives: 海外ブランド - Page 74

私のアルテック観

瀬川冬樹

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ・アルテック」
「私のアルテック観」より

 アルテックについての忘れられない想い出から書こう。ただそれが昭和三十年代早々ではあったが、いつのことかその辺の正確な記憶はひどくあやしい。
 私はまだ嘴の黄色い若造で、オーディオ界の諸先輩に教えを乞う毎日だった。そんなある日、最も私淑していた池田圭先生に連れられて、当時ユニークな設計で優秀なクリスタル・ピックアップなどを作っていた日本電気文化工業株式会社(DBという商標を使っていた)の味生(みのお)勝氏に紹介して頂くため、雪谷ヶ大塚かそれとも洗足池の近くだったか、とにかく池上線沿線の中原街道ぎわにあった、DBの会社を訪問した。
 まだ工業デザインの本格的な勉強をはじめる以前のことで、しかし若さからくる無鉄砲と世間知らずとで、それまで勤めていたある雑誌社をとび出して、フリーの工業デザイナーを気どってはみたものの、その実仕事をくれる人などありはせず、結局のところ雑誌のカット書きや版下作りなどしながら、素寒貧の暮しをしていた。
 そんな私を見ていられなかったのか、池田先生が味生氏に、この男に何かデザインさせてやってくれないかと、紹介してくださったのだ。
 味生勝氏はアメリカで勉強し向こうで生活しておられたという技術者で、眼光鋭い洗練された紳士だったが、当時の私の、やせて顔色の青ざめた、おどおどした態度の青二才に、まともなデザインのできる筈などないことは誰の目にも明らかで、結局デザインの話などはほとんど出なかったのだが、その晩、池田先生と私を自宅に招いてくださった。そこにあったのが802Cドライバーと811Bホーンだった。
 味生氏の重厚な応接室(といっても実際は味生氏のいたずら部屋であることは一見してわかった)には、そアルテックと、ウーファーがグッドマンのAXIOM150の2ウェイシステムが置かれてあった。ステレオ以前の話である。
 スピーカーは、当時まだ珍しかった高・低2系統のデュアルチャンネル・アンプでドライヴされていた。アンプのことはよく憶えていないが、味生氏製作の6V6PPか何かだったろう。
 ピックアップも、当時としては珍しい(そのときはじめて実物を目にした)シュアの〝スタディオダイネティック〟というモデルで、先細りのスマートな黒い角パイプの先端に、のちに松下電器がWM28というピックアップで国産化したものの原型ともモノーラルのMM型カートリッジがついていて、たしか2~3グラムくらいの針圧(8グラム近辺でも軽針圧と呼んだ当時としては驚異的な軽針圧だ)で動作したと思う。ちに、ステレオ化されて〝スタディオ・ダイネティック〟が〝ステレオ・ダイネティック〟と変わったが、そのカートリッジが単体で市販され、M3Dの名でステレオ用のMMカートリッジのいわば元祖となり、シュアの名をこんにちのように有名にするきっかけを作った(この話は、いずれ出るであろう本誌シュア号のためにとっておくべきであったかもしれない)。
 そこで再びアルテックだが、味生氏の音を聴くまでは、アルテックでまともな音を聴いたことがなかった。アルテックばかりではない。当時愛読していた「ラジオ技術」(オーディオ専門誌というのはまだなくて、技術専門誌かレコード誌にオーディオ記事が載っていた時代。その中で「ラ技」は最もオーディオに力を入れていた)が、海外製品ことにアメリカ製のスピーカーに、概して否定的な態度をとっていたことが私自身にも伝染して、アメリカのスピーカーは、高価なばかりで繊細な美しい音は鳴らせないものだという誤った先入観を抱いていた。
 味生氏の操作でシュアのダイネティックが盤面をトレースして鳴り出した音は、そういう先入観を一瞬に吹き払った。実に味わいの深い滑らかな音だった。それまで聴いてきたさまざまな音の大半が、いかに素人細工の脆弱な、あるいは音楽のバランスを無視した電気技術者の、あるいは一人よがりのクセの強い音であったかを、思い知らされた。それくらい、味生邸のスピーカーシステムは、とびきり質の良い本ものの音がした。
 いまにして思えば、あの音は味生氏の教養と感覚に裏づけられた氏自身の音にほかならなかったわけだが、しかしグッドマンとアルテックの混合編成で、マルチアンプで、そこまでよくこなれた音に仕上げられた氏の技術の確かさにも、私は舌を巻いた。その少し前、会社から氏の運転される車に乗せて頂いたときも、お宅の前の狭い路地を、バックのままものすごいスピードで、ハンドルの切りかえもせずにグァーッとカーブを切って門の中にすべりこませたそれまで見たことのなかった見事な運転に、しばし唖然としたのだが、音を聴いてその驚きをもうひとつ重ねた形になった。
 使い手も素晴らしかったが、アルテックもそれに勝とも劣らず、見事に応えていた。以前聴いたクレデンザのあの響きが、より高忠実度で蘇っていた。最上の御馳走を堪能した気持で帰途についた。
     *
 ステレオ時代に入り、初期のデモンストレーションばかりの実験期も過ぎて、名演奏がレコードで聴けるようになったころ、当時は三日にあげず行き来していた山中敬三氏が、アルテックの802Dドライバーと511Bホーンをひと組入手された。彼も同じ「ラジオ技術」の愛読者として、海外製品に悪い先入観を植えつけられて、それまでは国産のホーンスピーカーを鳴らしていたが、私が話した味生邸での体験談も彼をアルテックに踏み切らせるきっかけのひとつであったようだ。そして確かに山中邸のステレオスピーカーは、それまでの国産とは別ものの本格的な音を鳴らしはじめた。国産の大型中音ホーンのためにぶち抜いた壁の穴が、その後長いこと、左右のスピーカーの中央に名残りを刻んでいた。
     *
 そうしてアルテックの良さを体験しながら、私自身はアルテックを買わなかった。欲しい、と思ったことはいく度かあったが、当時の私には手の出せる金額ではなかったし、そうこうするうち山中氏に先を越されてしまって、後塵を拝するのも何となく癪だったということもある。ししそれよりも、当時のアルテックのあのメタリック・グリーンの塗装の色や、ホーンの接ぎ目の溶接の跡もそのままのラフな仕上げが、どうしても自分の感覚にもうひとつしっくりこなかったということもある。昭和41年から約5年間ほど、604Eをオリジナルの612Aエンクロージュアごと(あの銀色のメタリックハンマートーン塗装は素敵だ)入手して聴いていたこともあるが、私にはアルテックの決して広いとはいえない周波数レンジや、独特の力と張りのある音質などが、とうも体質に合わなかったと思う。私の昔からのワイドレンジ指向と、どちらかといえばスリムでクールな音が好きな体質が、アルテックのファットでウォームなナロウレンジを次第に嫌うようになってしまった。
 しかし最近、モデル19を相当長時間聴く機会があって、周波数レンジが私としてもどうやら許容できる範囲まで広がってきたことを感じたが、それよりも、久々に聴く音の中に、暖かさに充ちた聴き手にやすらぎをおぼえさせるやさしさを聴きとって、あ、俺の音にはいつのまにかこの暖かさが薄れていたのだな、と気がついた。確信に満ちた暖かさというのか、角を矯めるのでない厳しさの中の優しさ。そういう音から、私はほんの少し遠のいていて、しかしそこが私のいまとても欲しい音でもある。おもしろいことにJBLが4343になってから、そういう感じを少しずつ鳴らしはじめた。私が、4341よりも4343の方を好ましく思いはじめたのも、たぶんそのためだろう。もっと齢をとったらもしかして私もアルテックの懐に飛び込めるのだろうか。それともやはり、私はいつまでも新しい音を追ってゆくのだろうか。

マークレビンソン LNP-2, JC-2, LNC-2

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 設計者兼社長のマーク・レビンソンは、まだ30才前の若いエンジニアだが、ジャズのベイシストとして名前の載ったレコードも出ている。非常に個性の強い、しかし極めて繊細で神経質なパーフェクショニストだ。たとえば測定器で最高のデータまで追いつめた段階から、自分の装置で音を聴きながらディテールの修整に少なくとも一年から二年の時間をかけて一台のプロトモデルを完成する。また彼はマルチアンプで聴いているので、とうぜんパワーアンプの試作もしているが、まだ満足のゆく性能が得られないので市販しないという。完璧主義者ぶりがよくあらわれている話だ。
 こうして作られたプリアンプLNP2は、いかにも新世代のエレクトロニクスの成果を思わせる。緻密でクリアーで、どんな微細な音をも忠実に増幅してくるような、そして歪みっぽい音や雑音をあくまでも注意深くとり除いた音質に、マーク・レビンソンの繊細な神経が通っているようだ。これを聴いたあとで聴くほかのプリアンプでは、何か大切な信号を増幅し損ねているような気さえする。
 増幅素子をはじめあらゆるパーツ類には、現在望みうる最高クラスが採用され、それがこのアンプを高価にしている大きな理由だが、たとえば最近の可変抵抗器に新型が採用されたLNP2やJC2では、従来の製品よりもいっそう歪みが減少し解像力が向上し、音がよりニュートラルになっていることが明らかに聴きとれ、パーツ一個といえども音質に大きな影響を及ぼすことがわかる。レベルコントロールのツマミの向う側に何もついてないかのようにきわめて軽く廻ることで見分けがつく。
 JC2はLNPからトーンコントロールやメーター回路および常用しないコントロールを除いて、最少限必要な増幅素子だけを内蔵した簡潔なアンプで、測定データはLNPより良いぐらいだというマークの言い分だが、音楽の表現力の幅と深さでLNPはやはり価格が倍だけのことはあると思う。しかもJC2の怖ろしいほどの解像力の良さに大半のプリアンプが遠く及ばないことからも、LNPがいっそうただものでないことがわかる。
 LNC2は、マルチアンプを愛好するレビンソンらしい新型のチャンネルデバイダー。チャンネル・レベルコントロールに0・1dB刻みの目盛りのついた精密級が使われているあたりにも、マークのパーフェクショニストぶりが読みとれるが、デバイダーだけでプリアンプと同じ価格という点でも、回路にいかに凝っているか、その音質追求の執念のすごさが伺い知れる。やがておそらく、ものすごいパワーアンプが発表されるにちがいない。
 レビンソンのアンプは、本体と電源ユニットは別のケースになっている。それはSN比を最良に保つためであることはいうまでもないが、そのどれも電源スイッチを持っていない。マークに言わせれば、LNPもJCも消費電力がきわめて僅かだし、電源は常時入れっぱなしにしておく方が働作も安定するから、スイッチを切る必要がない、というのである。

タンノイ Arden, Eaton

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ARDENを、レクタンギュラー・ヨークとくらべてタンノイの堕落と見る人があるが、私はその説をとらない。エンクロージュアの木質や仕上げが劣るというのなら、初期のオートグラフからIIILZに至る一連の製品のあの艶のある飴色のニスの光沢──その色と艶は使い込むにつれて深みを増したあの仕上げ──にくらべれば、チークをオイル仕上げして日本で広く普及しはじめてからのレクタンギュラー・ヨークの時代から、堕落はすでに始まっていた。そういう見方をするなら、JBLも〝ハーツフィールド〟以前の高級機では、木部のフィニッシュに四通りないし五通りの種類と、それに合わせてグリルクロスが指定できた。いまはそういう時代ではない。残念なことには違いないが、しかしそれはスピーカーに限った話ではなく、もっと大局的にものを眺めなくては本質を見あやまる。
 すでにヨークの後期から、タンノイはユニットの改良に手をつけている。最大の変化はウーファーのコーン背面の補強リブの新設。それにともなって全体が少しずつ改良され、呼び方も〝デュアル・コンセントリック・モニター〟から、単にHPD385A……というように変ってきている。が、そこに流れる音の本質──あくまでも品位を失わない、繊密でしっとりした味わい──には、むしろいっそうの磨きがかけられ、現代のワイドレインジ・スピーカーの中に混っても少しも聴き劣りしないどころか、ブックシェルフのお手軽スピーカーから聴くことのできない音の密度の高い、味わいの濃い、求心的な音楽の表現で我々に改めてタンノイの良さを再認識させる。
 新シリーズはニックネームの頭文字をAからEまで揃えたことに現れるように、明確なひとつの個性で統一されて、旧作のような出来不出来が少ない。そのことは結局、このシリーズを企画しプロデュースした人間の耳と腕の確かさを思わせる。媚のないすっきりした、しかし手応えのある味わいは、本ものの辛口の酒の口あたりに似ている。

スチューダー A68

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ヨーロッパのオーディオ機器の中で、アンプだけはアメリカや日本より一歩遅れている、と感じていたが、スチューダーA68の出現で、ヨーロッパ製のアンプもついに世界の水準を越えた、と実感した。このアンプの音質は、アメリカの最新機のような一聴していかにもハイパワーだとかワイドレインジだというような凄みは感じられない。けれどじっくり聴き込んでゆくにつれて、どこにもあいまいさのない解像力の良さ、ひ弱さのない腰の坐った上質で安定な音が、聴き手をじわりと包んで満足感に浸らせてくれる。トランジスターアンプでは概して、弦楽器の胴の木質の感じに、ほんのわずかとはいえ金属質の感じがまじりがちで、それを嫌って管球アンプを愛好するファンが多いのだが、A68はその意味で、管球アンプの良い面を内包しながら、管球では表現不可能な繊細な切れこみをも聴かせてくれる優秀なトランジスターアンプといえる。100V電源で使える点はレギュレーションの点で有利だ。

ロジャース LS3/5A

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 英国のスピーカーシステムには、モニターの名称をつけた製品が多いが、英国放送BBCで採用している正式なモニターシステムとしては、KEFのLS5/1Aがよく知られている。ロジャースのLS3/5AもBBCモニターとして採用されている超小型のシステムである。
 LS3/5Aは、低域はさほど伸びていないが腰が強くクリアーな低音であるために、聴盛上の不足はあまり感じない。また、2ウェイシステムであるがウーファー口径が小さく、トゥイーターとのクロスオーバーが低いために、中域がしっかりとしているのが特長である。ステレオフォニックな音場の拡がりは、英国の近代型システムの独得の魅力だが、このシステムも音像定位がクリアーでピシッと焦点を結んだように立上がり、まるで、音を聴くというよりは音像が見えるようにクッキリとしている。クォリティは大変に高く、アンプ、カートリッジのキャラクターをストレートに見せるあたりはやはりモニターである。

SME 3009 S/2 Improved

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 SMEの設計者で創設者のA・ロバートソン・エイクマンは、精密模型を作る工場の経営者だった。SMEの名は当時の Scale Model Engineering 社の頭文字をとったものだ。模型といってもたとえば、メーカーが製品を作る以前の試作を請負ったり、博物館に展ホする原寸あるいは縮尺の模型などを作る工場である。大英博物館の展示品の中には、当時の作品がいくつもあるという。したがって、各種の工作機械や成型機械ないしはメッキや塗装の設備まで、精度の高い工作をする下地は揃っていた。
 メカニズムに強いエイクマンは、オーディオファンのひとりとして、当時のアームの構造や工作の精度や仕上げなどに、強い不満を抱いて、自分なりにアームを勉強し動作を解明しながら、理想のアームの設計と試作をくりかえしていた。そして一九五九年に、最初の製品であるSME3012の市販をはじめた。
 たまたま当時のエイクマンが、オルトフォンのSPU−GT/E型を愛用していたことから、オルトフォンと同じプラグイン・ロックナット締つけのスピゴット方式で、オルトフォンG型ヘッドシェルを交換できるように作った。これがのちにオルトフォンよりも有名になって、〝SME型のコネクター〟と通称されるようになり、現在ではわが国で作られるアームのおそらく九割以上が、このコネクターを踏襲し、カートリッジの互換性を容易にしている。
 SMEの特徴は、第一に垂直動の軸受けにナイフエッジを採用したのをはじめ、動作部分の各部に良質の素材を精密加工してアームの動作を鋭敏かつ軽快に保っていること。第二はスタティックバランス型アームを基本から解明した結果、ラテラルバランサーやオーバーハング調整、インサイドフォースキャンセラーなどの独創的なメカニズムを加えたこと。第三に軽針圧型の精密アームの操作を容易にするため、オイルダンプ式のアームリフターを設けたこと、であろう。今日では常識のようになっているこれらの考案のほとんどがエイクマンの独創であった。
 クローム梨地メッキを主体とした各部の加工と仕上げは、高級カメラを凌ぐ手のこんだ工作で、見事なデザイン(英国工業デザイン協議会= CoID をはじめ各種の賞を受賞している)もSMEの魅力のひとつだろう。アームの構造や動作原理を知らない人が見ても、それはいかにも精密で美しく、しかもこのアームはあたかも生きもののようにやわらかな感じでレコードを優しくトレースしてゆく。見ているだけでも信頼感に満たされる。
 何度もこまかな改良が加えられたが、3年前に Improved 型で大改良をして、最近の軽針圧/ハイコンプライアンス型のカートリッジ専用として、最大針圧1.5g以下の設計に徹してしまった。かつての広範囲なユニバーサリティを捨ててしまったことは、ちょっぴり残念な気分だが、世界的にはますます評価が高く、現在では毎月約3000本前後が生産されているそうだ。この種の製品としては異例なほど量が多い。

ラウザー TPI Type D

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 スピーカーシステムが、ブックシェルフ型全盛になり、ウーファー、スコーカー、トゥイーターなどの専用ユニットを組合せるマルチウェイ方式が大勢を占めようが、LP時代から一貫して中口径のフルレンジユニットのみを作り続けている英国・ラウザー社は、現在では貴重な存在といえよう。
 数ある同社のスピーカーシステムのなかで、長い伝統を誇る機種は、独得なデザインをもったTP−Iであろう。このデザインは、TP−Iが珍しいエンクロージュア形式を採用しているためで、ドライブユニットの前面には比較的短かいフロントホーン、背面は折たたみ型で全長が長いバックローディングホーンをもつ、いわば複合型ホーンエンクロージュアを、さらにコーナー型とし、部屋のコーナーに設置したときに両側の壁面と床の三面を積極的に低音用のバックローディングホーンの延長として使うタイプだ。
 使用ユニットは、振動系にラウザー独得のサブコーンつきの白いコーン紙を使う数あるユニットのなかでは強力型のPM−3である。このユニットは、あたかもSP時代の英国・フェランティ社のユニットを思わせるような超大型磁気回路にスピーカーフレームがとまっているような珍しい製品で、同社のPM−6ユニットなどにくらべると、ひとまわり大きなディフューザーつきである。このシステムの独得な音は、まさしく他のシステムでは得られぬ、かけがえのないもので、いわば麻薬的な魅力といったらよいだろう。

SAE Mark 2500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 高級アンプのメーカーには、大別してプリアンプのうまいメーカーと、パワーアンプの方にいっそうの能力を発揮するメーカーとがある。たとえぱかつてのマランツはプリアンプ型のメーカーだし、マッキントッシュはパワーアンプの方がうまいメーカーだった。ロサンジェルスに本拠を置くSAEは、パワーアンプ型のメーカーといえる。パネルをプラックフェイスに統一しはじめてからのこの社の一連の製品は、一段とグレイドが上がったが、中でも300W×2のMARK2500は、動作の安定なことはもちろんだが、その音質がすばらしく、出力の大小を問わず現代の第一級のパワーアンプである。重量感と深みのある悠揚迫らぬ音質は他に類がない。しかもこのアンプは繊細な表現力も見事で、どんなにハイパワーで鳴っているときでも音のディテールを失わず、また音量をぐんと絞り込んだときのローレベルでも少しもよごれのない歪みの少ない音を聴かせる。ただしこういう特長は、プリアンプにマーク・レビンソンLNP2を組み合わせたときに最もよく発揮される。そして良いカートリッジやスピーカーを組み合わせると、LNP2+MARK2500というアンプは、鳴らしはじめて2〜3時間後に本当の調子が出てきて、音の艶と滑らかさを一段と増して、トロリと豊潤に仕上がってくるこ上が聴き分けられる。高容量でレギュレーションの良い117V電源の用意が必要だ。難をいえば換気ファンの音が非常にうるさいこと。置き場所にくふうが要ると思う。

ピカリング XUV/4500Q

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 エンパイア 4000D/IIIと双璧をなす米国系のトップランクの製品である。聴感上の帯域は、いかにもワイドレンジ型らしく伸び切っており、粒立ちが細かく、鋭角的に切れ込みのよい音を聴かせる。とくに低音が力強く、ソリッドな点では抜群である。音質上で、エンパイア 4000D/IIIと好対照を示す一流晶中の一流品である。

ピカリング XSV/3000

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 ピカリング最新の2チャンネルカートリッジのトップモデルである。音質はXUV/4500Qよりも伝統的なピカリングらしさがある。音のコントラストをクッキリとつけ、力強く、エネルギー感のあふれた男性的な魅力があり、質的にも充分に磨かれているために、音の重心が低く、安定感がある。反応は、かなり早く、いかにも新しいカートリッジらしさがある。

デイトンライト SPS MK3

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 このモデルは、AGI#511と同じ性格をもったカナダのデイトンライト社製のシンプルなプリアンプである。一般的なネジを使わずに、独得なクランパー1個を外せば、簡単に内部の一枚基板構成のアンプが取出せるユニークな構造が斬新である。SPS MK3は、AGIにくらべると表情が穏やかで、スッキリと滑らかな音をもち、洗練されたディスクらしい音の出し方が興味深い。

ステラボックス SP-7(S-19-38)

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 海外で業務用としてプロが使用し、その信頼に答えることができるオープンリール型のポータブルデッキとしては、スイス製のナグラとステラボックスの2社の製品しか存在しないはずである。
 ステラボックスの製品は、現在SP7型が基準モデルとなっている。このモデルの特長は、小型軽量であることにあり、外形寸法270×78×215mm(W・H・D)、重量が電池を含めて3・3kgというから、セミプロ機としてプロからアマチュアまで幅広く使用されている、西独ウーヘル社の4200ステレオリリポートICよりも、さらに小型軽量であり、国産のカセットタイプのポータブルデッキと比較しても、特例を除いて小型軽量である。
 SP7(S−19−38)は、標準モデルであるSP7(S−19)を、19cmと38cmの2速度型に改良したモデルで、ともに2トラック・2チャンネル方式である。ヘッド構成は、当然のことながら3ヘッドタイプで、そのままでは使用リールは最大5号で、38cm速度で使用する場合には録音時間がきわめて短く不便であるが、アダプターを使用すれば10号リールの使用が可能である。ステラボックスの魅力は、ともかく超小型軽量でオープンリールならではの録音・再生ができる点にある。機能的で簡潔なデザイン、整理されたコントロール、小さな高級品ともいえる優れた加工精度と仕上げなど、どの面から見ても、使わなくとも持っていたいという、趣味的な奥深い魅力をもった素晴らしいデッキである。

シュアー V15 TypeIII

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 V15以来つねにシュアーのトップモデルの位置を占める定評の高い製品である。独得の表現は、いわば油絵的で、音楽を楽しく聴かせる演出力のあることでは、この製品の右に出るものはあるまい。普及型の装置でも素晴らしい効果があり、カートリッジを替えて音がこれほど変わるかと驚かされる。国内でも海外製品のベストセラーであり愛用者は抜群に多い。

キャバス Brigantin

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 ヨーロッパの大型フロアーシステムは、大半が英国の製品であり、それも伝統的な永いキャリアーを誇るモデルが多いなかにあって、フランス・キャバス社のトップモデル、プリガンタンは、設計時点が新しい大型システムとして珍しい存在である。
 38cmウーファーと中音、高音にドーム型を採用し、各ユニットは、音源を垂直線上に揃えたステップ状のバッフル板に取付け、位相を合わせているが、早くからORTFのモニターシステムで、この方式を使っている同社らしいところだ。このシステムは、粒立ちが細かく、充分に磨き込まれた滑らかな音である。反応が軽快で早く、独得な華やいだ明るさが魅力的で、艶めいた雰囲気を漂わせる。

エンパイア 4000D/III

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 軽針圧、広帯域型に設計された、米エンパイア社のトップモデルである。4チャンネル方式のCD−4システムに対応可能だが、むしろ一般の2チャンネルシステム用として、米国系カートリッジのトップをゆくモデルであり、とくに高級ファンに愛用されている。聴感上では、粒立ちが細かく、滑らかに磨き込まれた音をもち、ちょっと聴きには、さしてワイドレンジ型を感じさせないが装置が高級になるほど真価を発揮するという面白い性質がある。音の陰影を色濃く聴かせ、都会的な洗練されたこの音は、他では得られぬ独得のソフィスティケートされた魅力である。

ウーヘル 4200 Report Stereo IC

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 高級アマチュアから業務用のプロまでに愛用され、性能が比較的に高く、安定し、耐久力があり、誤って落しても壊れないで動作をすることでは、西独ウーヘルの製品は驚くほど高い信頼感をもっている。
 4200REPORT ICは、オープンリールタイプで、フルトラック・モノーラル方式のモデル4100REPORTを、2トラック・2チャンネル方式のステレオタイプにした製品で、最新のモデルは、型番は変わっていないが、随所にマイナーチェンジの跡が見受けられ、絶えず改良が加えられているのがわかる。
 ヘッド構成は2ヘッドタイプであり、テープ走行系のモーターは1モーター方式という、単純な方式を採用しているが、テープ速度は、19cm、9・5cm、4・75cmと2・4cmの4スピード方式で、録音の目的により使いわけて、最大5号リールまでしか使えない点を巧みにカバーしている。テープ走行系のコントロールは、レバータイプで確実に動作し、機能面ではIC化したステレオのパワーアンプを備え、モニター用のスピーカーを1個内蔵している。
 外形寸法は、285×95×227m(W・H・D)、重量は3・8kgと、国内製品の平均的なポータブル型ステレオ・カセットデッキと同等であり、とくに重量が軽いのがポータブル機としては大きなメリットである。これも、ケースに航空機用の材料であるエレクトロンを使用している利点である。また、電源関係は、乾電池、充電可能の専用電池、自動車バッテリー、それに充電器兼AC電源としてデッキ内部に収納できるパワーユニットのマルチ方式であるのは、大変に使いやすい点である。カセットデッキ並の大きさのオープンリール・2トラックデッキとして、使ってみて楽しいデッキテある。

ウーヘル CR210

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 超小型ポータブル・カセットデッキとしてユニークな存在であったステレオ124を改良した、いかにもカセットレコーダーという言葉に応わしいモデルである。外形寸法は、185×57×180mm(W・H・D)、重量、電池なしで2kg、単2型電池を6個使用して、約2・5kgてある。機能は、片道録音、往復再生が可能であり、それもリレーを使った電磁コントロールで、操作は軽快であり、テープ走向方向はメーター指示される。クロームテープの自動切替、テープ量を確認するための窓と照明ランプ、自動録音レベル調整に、モノではあるがコンデンサーマイクとスピーカーを内蔵しているため、本機だけで録音・再生がおこなえるメリットがある。電源関係は、4200 REPORT ICと共通なタイプで、乾電池、電池、自動車バッテリー、充電機兼AC電源の4ウェイである。入出力端子は、欧州製品共通のDIN端子で、操作性が優れ、確実な利点はあるが、米国系のピンプラグやホーンプラグとの互換性には、やや難点を生じる面がある。アク七サリーは豊富で、別売として薄茶色の美しいバッグがあるのも大変に楽しい。超小型、軽量モデルだけに、カセットならではの魅力が製品自体にあり、使っても楽しいデッキである。

アコースティックリサーチ AR-10π

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 ブックシェルフ型スピーカーシステムの創始者である米AR社のブックシェルフ型システムのトップモデルである。基本的には、長くARの中心機種として高い評価を得ているAR−3a型を発展させたシステムと考えられるが、このシステムのもっとも大きな特長は、ウーファーのレベルコントロールをもつことであろう。設置条件の変化に応じて3段に変化するこのコントロールは、かなりの幅で、トータルなシステムのバランスを変えることができる。
 ハイパワーアンプとの組合せで、広い部屋で使えば驚くばかりの豊かな低低域が再生されるが、細やかさの表現でも、並のブックシェルフ型では及びもつかない繊細さも充分に聴かせてくれる。

AGI Model 511

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 セパレート型アンプのジャンルは、プリメインアンプにくらべれば、制限や制約がない、いわば無差別級の分野であり、最近では、ことに多様化、多角化した製品が数多く登場している。
 AGI#511は、セパレート型アンプとしては、業務用アンプに採用されることが多い、いわゆるユニットアンプ形式のプリアンプで、多機能を誇る高級コントロールアンプから、最少必要限度の機能を残して単純化した、シンプルな構成が特長である。
 デザインは、現在のこの種のモデルの流行である薄型ではなく、標準的なコントロールアンプのパネルサイズの左右を短縮したタイプであり、コントローラーは、ボリュウム、バランス以外は、2系統のプッシュボタンスイッチだけというシンプルなものだ。構造は、増幅部分、電源部分を一枚の基板上に構成するタイプであるが、使用部品、材料は厳選された高度なものが採用され、外側の金属製ケースの板金加工の精度は、海外製品としては異例に高いものである。
 この#511は、米国系の最近のアンプの傾向であるスルーレイトを高める基本設計を採用しているが、音質は大変にクリアーで、力強く、音づくりというような虚飾がまったく感じられない。反応は非常に早く、思い切りの良い音を出すために、ディスク的な意味での良い音というよりは、テープでの38センチ・2トラックデッキの音に似た鮮度の高さが、他のアンプにない独得の魅力である。

トーレンス TD125MKIIAB

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ダイレクト・ドライブ方式のターンテーブルが世に出てきた時になって始めて、最高級ターンテーブルの条件にひとつの変化がでてきた。それは「トーレンス」ブランド以外にも良いターンテーブルがある、ということであった。それまでは、最高性能を備えた実力ある製品はことターンテーブルに限り、すべて「トーレンス」だけだったといっても差支えあるまい。ステレオになって、わずかな上下振動も音に影響を与えるようになると、「トーレンス」の良さが俄然と注目され、TD224、124と全世界の高級ファンは、これを手元におくのが常識になった。125になり、電子制御モーターが採用されて性能はますます向上した。今日といえど、全盛をきわめるDDモーターの果していくつがこの125に肩を並べる実力を持つだろうか。

デュアル 1249

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 もう10年くらい前かな、いやもっと以前のことか。オートチェンジャーというものに対する観念をすっかり変えてくれたのが、デュアル1019だった。つまりこの1249の母型ともいえるもので、当時の一般的なオートチェンジャーの感覚で受け止められ得る平均的な外観のオートチェンジャーだった。ところが、物体の方は他のチェンジャーとは少々異っていて、それまでの考え方をすっかり変えてしまうに足りる「完璧さ」と「正確さ」を併せ持っていた。
 その上、使い始めなんと6年間も、かなりの使用頻度の苛酷さにもびくともせずに、常に最初と回じ正確さと精密な動作を崩さなかったのには度肝をぬかれた。アームをより軽針圧化させ、ターンテーブルを12吋にして、さらにマイナーチェンジを二度経て1249となって今、デュアルのオリジナル製品としての伝統とキャリアは、アメリカ・日本を中心に、世界のあらゆる国にあまねく知られている。
 ガラードからデュアルの手に移ったオートチェンジャーの品質的な地位ほ、当分ゆるぎそうにないと思える。
 そのオリジナル製品が、デュアル独特の機構により成り立つ上、そのオリジナル機構は、今も主要機構は少しも変ることないという点でも一流たるにふさわしい。
 軽針なオートチェンジャーとして、あるいはフルオートプレイヤーとして、今、初級フアンの激増する時デュアルの1249の価値はますます高くなってくるし、また求められるであろう。

デュアル CS-721S

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 日本のオリジナル技術ともいえるDDモーターの分野に、高品質チェンジャーのトップメーカー、デュアルが挑んで作ったのが、701ダイレクトドライブ・プレーヤーであった。世界にその名を知られる西独きってのメーカー、デュアルのことだけあって、その製品のポイントともいうべきダイレクトドライブ・モーターは、日本製品とは全然別の開発によるもので、ターンテーブルを外した状態でも、スムーズな回転運動をしてくれて、いわゆるコッギング運動(ぎくしゃく運動)のない点でも、さすがデュアル製と思わせるすばらしさだ。加えて、アームやプレーヤーベースの伝統的なノウハウに支えられた高い完成度は日本製品とは違って、眼に見えない所の良さを、音を出したときに知らされる。
 一見たいして変った点のないこの721が、さらに変ったと聞かされて、それがどこか探すのに手間どるほどであったが、基本的には変っていない点がかえってほっとしたというのが偽らざる所。一流品はそう変ってもらっては困るのだが。

ダイナコ Mark VI

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 マークIIIとして永く愛用される60ワットアンプをもって、数少ない管球アンプの伝統を持つダイナコのもっともハイパワーかつ強力なるアンプが、このモノラル・パワーアンプMKVIだ。おそらくMKIIIの倍の出力を持つためにMKVIとなったのだろう。
 120ワットの出力はソリッドステートパワーアンプなみで、もしMKVIにくらぶべきソリッドステートとなると300W級だから、驚くべきハイパワーだ。
 ダイナコ製品の、もうひとつの大きな特徴は、米国のコンシュマーレポートの常連といえるほどに、しょっちゅうその名が「お買得ベスト」の中に名を連らね、それも年を追っても型番が変らないという点だ。つまり、ひとたび製品化するとこれを中止することはめったにせず、幾星霜たつといえど同じ製品がずっと永く市場をにぎわす主要製品として続く点だ。寿命の驚くほどの永さこそダイナコの製品の最大の強味でもある。MKVIおそらく10年後もそのまま続くだろう。

クリプシュ KB-WO Klipsch Horn

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

「Kホーン」というのが50年代後半の米国超豪華型システムとして、本物かどうかの判別の決め手といわれた。それほどまでにKホーンは高級ファンから高いイメージで迎えられていた。
 Kホーンとは、クリブシュホーンの略称であり、40年代にKホーンとして左右の壁面を開口に利用した折返し型コーナーホーンを発明した人の名をつけたものだ。各社の最高級大型システムが採用し、一時期米国製の豪華型はほとんどすべてKホーンまたはその亜流としてあふれたほどだ。
 当然クリプシュ自体のシステムがあったが、各社それぞれ力いっぱい宣伝し力を注いだからオリジナルは永い間ややかすんでいたという皮肉な状態だった。
 60年代に入りやがてステレオが普及してARなどのブックシェルフ型の普及と共に超大型システムがすっかり凋落したあと、最近になってこのクリブシュホーンのオリジナル製品は米国でもやっと脚光を浴びてきつつある。このクリプシュK−B−WOは木目を美しく出した家具調のオーソドックスなスタイルに38cmでドライブするKホーンと、中音、高音にそれぞれホーン型ユニットを配した3ウェイシステムだ。Kホーンの大きな特徴たる低音の豊かさは、ちょっと想像できないほど力強く、アタックのシャープな深い低音エネルギーをいとも楽々と再生してくれる。いや、こうした音そのものの類いまれなすばらしさ以上に、オリジナル・クリプシュホーンとしてもつ十分すぎる価値を保っていよう。

オーディオリサーチ D-76A

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 米国にきら星の如く数多く出てきた新進アンプメーカー中、もっともユニークな存在がこのオーディオリサーチだ。その作るアンプはすべて管球式。注目すべきなのはすでにソリッド・ステート万能の時期である数年前からのスタートでありながら、管球式アンプにこだわるといえる姿勢だ。たしかに真空管アンプの音の良さはオールドファンを中心にベテラン達の堅く永く口にする点だ。ソリッドステートに技術的性能では遠く及ばずとも、音の良さは明らかな差を感じさせる。オーディオリサーチ社のアンプが高級ファンに愛される理由は、高水準のマニアほど十分に納得できるだろう。プリアンプに対する評価よりもパワーアンプに対する評価が高いのは「スピーカー・ドライブの点での管球アンプの有利性」のためではなかろうか。デュアル75でスタートして、トランスを含むパーツや機構を大幅に変えて76年にデュアル76となっている。