Category Archives: 国内ブランド - Page 26

ヤマハ A-8

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新プリメインアンプ11機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★★
 音色があかるいので、鮮度の高い音をきくことができる。Cのレコードの音などにしてもいくぶん肌ざわりがつめたいが、それぞれのひびきの特徴を示している。Bのレコードでのきこえ方にしても、いくぶん迫力に不足するところがあるにしても、めりはりがきいているこのましさがある。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★★
 Bのレコードのきこえ方がもっともこのましくない。ぼってりした感じになる。Aのレコードではオーケストラのひろがりのあるひびきをこのましく示している。Cのレコードでもひびきのまろやかさをあきらかにしていてこのましい。もうひとつきりりとひきしまったところがほしいが……。
JBL・4343Bへの対応度:★★
 Aのレコードでは弦楽器がきつくきこえ、パヴァロッティのはった声が硬い。しかしながら音色があかるいために、さわやかさが感じられる。Bのレコードで迫力が感じられるものの、音像のふくらみが気にならなくもなかった。Cのレコードではひびきのあたたかさが感じとりにくい。

試聴レコード
Ⓐ「パヴァロッティ/オペラ・アリア・リサイタル」
パヴァロッティ(T)、シャイー/ナショナルPO[ロンドンL25C8042]
Ⓑ「ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
B面1曲目「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」を使用
Ⓒ「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

ラックス L-530

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新プリメインアンプ11機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★
 やわらかい音のなまなましさには独自のものがある。しかしながらひびきが総じて浅く、迫力に欠けるきらいがある。Aのレコードでのパヴァロッティの声にしていくになくふっくらした感じになる。Bのレコードではハット・シンバルの音がもっと鮮明に輝いてほしい。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★★
 たっぷりしたひびき方をよしとすべきかもしれないが、そのためにBのレコードのきこえ方などは音像も大きめでもったりした感じになる。Cのレコードのきこえ方がもっともこのましかった。ヴァイオリンの音のきめのこまかさなどはよく示されていた。音に勢いがあればさらにこのましいが。
JBL・4343Bへの対応度:★
 このスピーカーとはいかにも相性がよくない。Aのレコードでの弦楽器などいかにも硬くやせた感じになり、Bのレコードではベースの音がふくらみすぎている。Cのレコードでも音の肉づきがわるく、ぎすぎすした感じになっている。総じてとげとげしさがきわだつ。

試聴レコード
Ⓐ「パヴァロッティ/オペラ・アリア・リサイタル」
パヴァロッティ(T)、シャイー/ナショナルPO[ロンドンL25C8042]
Ⓑ「ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
B面1曲目「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」を使用
Ⓒ「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

パイオニア S-955III

井上卓也

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 パイオニアのS955は、国内製品中で際立った、ユニークで高性能なユニット構成をもつ高級スピーカーシステムである。1977年に最初のモデルがCS955として発表されて以来、その改良モデルS955を経て、すでに5年間のロングセラーを誇る優れた製品であるが、今回、来るべきデジタル化されたプログラムソースによる高品質プログラムソース時代に対応した新製品S955IIIに発展して新発売されることになった。
 システムとしての基本構成は、36cmウーファーをベースとし、これにユニークな構造のドーム型スコーカーと特徴的なリボン型トゥイーターの3ウェイユニットをバスレフ型エンクロージュアに組み込んだタイプで、CS955以来変化は見られないが、それぞれのシステムが開発された時点での時代の要求するサウンドに対応して、システムとしての音の狙いにかなりの変化が見受けられる。
 ちなみに、パイオニアが目指した各システムの音の狙いを比較してみると、CS955では繊細さとスケール感の融合、S955は、これをベースとしたエネルギー感の強化が新テーマであった。今回のS955IIIでは、最新のプログラムソースに対応したタイトでパワフルなサウンド、と大幅に変更されている。
 基本的にスピーカーシステムは、ユニットの種類や構成、それにエンクロージュアの外形寸法などが同じであってもテーマとする音の狙いにより、最終的なサウンドキャラクターをかなり自由にコントロールできるユーテリティの広さをもっている。したがって、最適ユニットやネットワーク定数やタイプ、エンクロージュア材料とその構造などの選択には、常に音の狙いが重要な条件として行なわれ、その無限ともいえる組合せの結果から、最終的なそのシステムのサウンドが結果として創造されることになる。このシステムアップの技術や一般的には考えられない程度のミクロの次元でのノウハウ量が、各メーカーそれぞれの独自の世界であり、いわゆるメーカーのサウンドキャラクターができる理由で、新製品を眺める場合に大変に興味深いところである。つまり、逆にいうと、システムをチェックしてみれば、実際に試聴をする以前に大体どのような傾向のサウンドを聴かせるかは、ある経験をつめば自動的に類推することができることになる。
 S955IIIの構成ユニットからその変化を眺めると、ウーファーは、現在入手できるサイズとしては第2位にランクされる外径200mmの大型フェライト磁石と厚さ10mmのT型ポールを採用して磁気回路の飽和を利用した低歪磁気回路やコーン材料、形状はCS955以来同じだが、サスペンション関係は、いわゆるダンパーが従来の平織り布ダンパーから新開発の二重綾織り布ダンパー採用のダイナミックレスポンスサスペンションに改良され、低損失、ハイストローク化が図られた。また、ボイスコイルボビン材料は、CS955のプレスパン、S955のクラフト紙からガラス強化ポリイミド樹脂積層板に変り、耐入力、過渡特性を向上させ、分解能の高いダイナミックなベーシックトーン再生が狙われている。
 外側に独自のワイヤーサスペンションを採用した特徴のあるベリリウム振動板採用のドーム型スコーカーは、まず、ダイアフラム材料がCS955でのベリリウムとアルミの二重構造からS955でのベリリウムのみの軽量化を今回も受け継ぐ。ボイスコイルボビン材料は、ウーファー同様の新素材で耐入力を50%以上向上する設計だ。なお、磁気回路の外径156mm大型フェライト磁石は、S955時点で厚みを従来の22mmから25mmに増し、強化されている。
 リボン型トゥイーターは、CS955でのPT−R7相当、S955での磁気回路を強化したPT−R7A相当タイプから、今回は、振動板材料がアルミ系から新しくベリリウムに変更されたPT−R7III相当品が採用され、独特の繊細さに加えて芯のある反応の速い魅力が加わった。
 ネットワークは、想像以上に構成、部品、取付場所などが音質を大きく左右する重要なポイントであるが、意外に注目されない部分でもある。今回、S955IIIでは新しく並列・平衡型が採用されている。このタイプは600Ωラインに代表される伝送系には標準で、特に珍しいタイプではなく、スピーカーシステムへの応用も一部では早くから試みられ、特に音場感的情報量の多さやダイナミックな表現力などの魅力で、アマチュアレベルでは使われていたが、製品として採用されたのは今回が初めてである。
 エンクロージュア関係はバスレフ型のダクト形状の変更が主で、従来の折曲げ型から平らな矩形断面をもつ直線型に変っている。なお、新システムの定格上の特徴は、最大入力と高・中域間クロスオーバーの変更である。
 試聴システムはプリプロかそれ以前の実験室段階の製品で、詳細な試聴リポートは避けたい。基本的な音の狙いであるタイトでパワフルな方向への展開は明確で、従来とは印象を一変した大幅なサウンド傾向の変更が感じられた。潜在的能力は充分にあるシステムだけに、その完成された姿での結果を期待したい注目のシステムである。

マランツ Pm-6a

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新プリメインアンプ11機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★★
 積極性のあるなり方とでもいうべきか。Aのレコードではパヴァロッティのフォルテの声が硬めになる傾向があり、奥行きの提示は必ずしも十全とはいいがたいが、オーケストラの音に力が感じられる。Bのレコードでのベースのひびきは迫力にとみ、ピアノの音にも豊かさが感じられる。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★
 たっぷり墨をふくませた筆で書いたような感じでひびく。細部の鮮明さでいま一歩というべきである。Cのレコードでの音色の微妙さはかならずしも充分にあきらかになっているとはいいがたい。AのレコードでもBのレコードでもバスの音の強調されすぎているのが気になった。
JBL・4343Bへの対応度:★★
 総じて硬質である。Bのレコードではそのためのよさも示されているが、Aのレコードではパヴァロッティのはった声がきつめになる。Cのレコードでの結果がもっともこのましくない。ここでの楽器の音色の微妙さがあきらかになっていない。くっきりして力にみちた提示はすぐれているが……。

試聴レコード
Ⓐ「パヴァロッティ/オペラ・アリア・リサイタル」
パヴァロッティ(T)、シャイー/ナショナルPO[ロンドンL25C8042]
Ⓑ「ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
B面1曲目「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」を使用
Ⓒ「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

オンキョー Integra A-820GT

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新プリメインアンプ11機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★
 全体的にふっくらとしたひびきが特徴的であった。音像は大きめであっても音に積極性がるので水ぶくれした感じにはならない。もっともこのましくなかったのがBのレコードであった。ひびきが暗いことも関係して、音の鋭さが充分に示されず、もったりした感じになった。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★
 Cのレコードでのひびきのまろやかさはこのましかったが、きこえ方のバランスということになると2本の弦がいくぶん強調されていたところに問題があった。Bのレコードでは和音をひくピアノの音が重く鈍くなっていた。Aのレコードでは弱音の声に独自のなまなましさがあった。
JBL・4343Bへの対応度:★★★
 C−A−Bの順でこのましくきこえた。フラウト・トラヴェルソの音色はきめこまかでこのましかった。Aのレコードでのオーケストラのひびきが充分にひろがっていた。とりわけそのうちのホルンの音はのびやかさがあってこのましかった。Bのレコードでは反応の鈍さが気になった。

試聴レコード
Ⓐ「パヴァロッティ/オペラ・アリア・リサイタル」
パヴァロッティ(T)、シャイー/ナショナルPO[ロンドンL25C8042]
Ⓑ「ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
B面1曲目「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」を使用
Ⓒ「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

デンオン PMA-950

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新プリメインアンプ11機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★★
 このスピーカーのきめのこまかさをいかしているAのレコードでのパヴァロッティの声がいくぶん細めに感じられ、Bのレコードでのピアノが充分な迫力を示しきれないきらいはあるものの、ごりおしにならない表現はこのましい。ひびきはあかるく一種の透明感がある。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★
 全体に音像がふくれぎみである。このスピーカーの弱い部分をカヴァーしきれているとはいえない。とりわけCのレコードでのチェロのひびきのふくれが気になった。Aのレコードではひろがりが感じられ、パヴァロッティの声がゆたかにきこえたのはこのましかったが……。
JBL・4343Bへの対応度:★★
 総じてひびきが浅い。Aのレコードでのパヴァロッティの声はくっきりきこえるもののいくぶん硬質にすぎる。このスピーカーの反応としては意外なことにというべきであろうが、Bのレコードでのきこえ方がソフトであった。その辺にこのアンプの性格の一面をみるべきか。

試聴レコード
Ⓐ「パヴァロッティ/オペラ・アリア・リサイタル」
パヴァロッティ(T)、シャイー/ナショナルPO[ロンドンL25C8042]
Ⓑ「ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
B面1曲目「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」を使用
Ⓒ「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア−アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

ヤマハ NS-690, NS-690II, NS-690II

黒田恭一

ステレオサウンド別冊「サウンドコニサー(Sound Connoisseur)」(1982年6月発行)
「三代のNS690の音を聴く」より

 時の経過のしかたがいつでもどこでも同じというわけではない。はたしてここにも時間の流れがあるのであろうかと思えるような場所があれば、光陰矢の如しというがまさに矢の如くに時が過ぎるところもある。
 あれっ、これがこのあいだ産まれた子?──と、すでによちよち歩きをはじめた友人の子供を目のあたりにして目を白黒してしまうことがある。産まれるの産まれないのと騒いでいたのはついせんだってことのように思われるが、産まれた子はいくぶんおぼつかなげな足どりながらすでに歩いている。おそらくこっちはその分だけ老けこんでいるのであろうが、ありがたいことに自分のことはわからない。
 はやいはなしが、よちよち歩きをはじめたばかりの子供にとっての時間と四十男にとっての時間では、同じ時間でもそのもつ意味がまるでちがう。この次に会うときにはきっとあの子供も「おじちゃん!」などというのであろうが、その間にぼく自身にそれほどの変化が起るとも思えない。しかしながらぼくにおいても時間が止まっているわけではない。
 オーディオは時間に対しての変化の著しさで、どちらに近いかといえば、四十男よりよちよち歩きをはじめたばかりの子供に近い。昨日はいえなかった「おじちゃん!」という呼びかけの言葉を今日はいえたりする。つまり長足の進歩を日々とげつつある。まるでこの季節の朝顔の蔦のごとくである。
 三つのヤマハのNS690をきいて、あらためてそのことを思った。初代のNS690は一九七三年五月に発売されている。価格は6万円であった。二代目のNS690IIは一九七六年四月に発売され、6万9千円であった。三代目のNS690IIIは一九八〇年十月に発売されて、これは現役である。価格は7万9千円であるから初代NS690に較べて1万9千円高くなっていることになる。
 三代目のNS690IIIの音をきいて、なにはともあれ、あれっ、これがこのあいだ産まれた子?──といいたくなった。初代のNS690でのきこえ方と較べたときに三代目のそれでのきこえ方があまりにちがっていたからである。初代のNS690が発売されたのはいまから九年前である。わずか九年といっていいかどうかはともかく、NS690からNS690IIIへの変化は長足の進歩としかいいようがない。だまってきかされたらとても同じモデルのスピーカーとは思えないほどちがっている。
 初代から二代目、そして二代目から三代目への変化をききとるために、ここでもアバドがシカゴ交響楽団を指揮して録音したマーラーの第一交響曲のレコードをつかった。そのレコードの中でも特に第一楽章の序奏の部分にこだわってきいた。
 NS690でのきこえ方はそのレコードできける音楽的な特徴をごくあいまいにしか提示しなかった。いかなる管楽器がそこでなっているかはわかった。しかしながら、その管楽器のふかれ方までもききとれたかというと、そうとはいいがたかった。全体的に音色が暗いために、ひびきそのものの特徴があきらかになりにくいということがいえそうであった。
 音の遠近感の提示という点でもまことにものたなかった。遠い音は遠さを示す以前に弱々しくしぼみがちであった。当然のことにマーラーの第一交響曲の第一楽章の序奏でいとも効果的につかわれている遠くからきこえるトランペットの序奏などは、一応はきこえはするものの、それが本来あきらかにすべきものをあきらかにしきれていなかった。
 しがって、やはりこのスピーカーではこの種のレコードをきくのはむずかしいと、思わないでいられなかった。とりわけそのレコードの第一楽章の序奏ではさまざまな楽器が弱音であたかも点描法的にひびくが、そのひびきのひとつひとつの特徴が鮮明にならないと、そこで音楽的意味もあきらかになりにくいことがある。しかもアバドのレコードはきわだってダイナミックレンジがひろい。再生にあたってはいろいろむずかしいところがある。
 初代のNS690ではそのアバドの指揮したマーラーのレコードのよさがほとんど感じとりにくかったが、二代目のNS690IIではかろうじて感じられるようになる。それに聴感上の能率の点で二代目の方がはるかにいいように思えた。ところが、発表されているデータ上の出力音圧レベルは、初代も二代目も三代目も、90dB/W/mと同じである。もっとも同じなのは出力音圧レベルだけでなく、いずれの構成も3ウェイ・3スピーカーで、エンクロージュアも密閉・ブックシェルフ型である。再生周波数帯域(35〜20,000Hz)もインピーダンス(8Ω)もクロスオーバー周波数(800Hz、6kHz)も同じである。
 三つのNS690で微妙にちがっているのは使用ユニットと最大入力(初代が60Wで二代目と三代目が80W)、それに外形寸法(初代:W35×H63×D29・1、二代目:W35×H63×D31・2、三代目:W35×H63×D31.5)と重量(初代:22kg、二代目:27kg、三代目:27kg)である。
 しかしながら初代と二代目、さらに二代目と三代目のきかせる音のちがいは、とてもここで示されている数字のちがいどころではない。たとえばアバドがシカゴ交響楽団を指揮してのマーラーの第一交響曲のレコードに即していえば、初代と二代目ではそのレコードをきくのはいかにもつらい。それなりにそこでの音楽がわからなくはないとしても、演奏の特徴を感じとるのはむずかしい。レコードに入っている音がスピーカーの能力をこえているというそこでの印象である。音楽をたのしめるとはいいがたい二代目までのきこえ方である。
 三代目のNS690IIIになると、きいての印象ががらりと変る。むろん大編成のオーケストラの迫力を十分に示すというわけではない。もともとがブックシェルフ型のスピーカーであるから、それなりの限界はある。しかしながらフラジォレットを奏するチェロやコントラバスのひびきの特徴は十全に伝えるし、遠くからきこえるトランペットも充分にそれらしくきこえる。ききての方できこえてくる音に用心深く接しさえすれば、この三代目のNS690IIIでなら、特にダイナミックレンジのひろいマーラーのレコードもそれなりにたのしめる。
 三代目のNS690IIIをきいて、あれっ、これがこのあいだ産まれた子?──といいたくなったのは、そのためである。NS690IIIを他社の同じ価格帯の現役のスピーカーと比較すれば、またそのときであれこれい
たらぬところが気になったりするのであろうが、NS690の初代や二代目と比較したかぎりでは、この三代目の能力には驚嘆しないではいられない。
 一皮づつむいていったといういい方が適当かどうか、ともかくNS690よりNS690IIの方が、さらにNS690IIよりNS690IIIの方が音の鮮度が高くなっている。その分だけひびきの輪郭の示し方にあいまいさがなくなっている。初代のNS690のきかせる音について総じて暗いと書いたが、その暗さも二代目三代目となるにしたがって、どんどんとれていく。その変りようは劇的な変化といえなくもない。
 しかしながらNS690が発売されてからNS690IIIが発売されるまではわずか七年五ヶ月しかたっていない。オーディオをまだ育ちざかりの子供と思うのはそのためである。たったの(といっていいであろう)七年五ヶ月でこんなによくなるのかとびっくりしてしまう。
 そうはいっても値段が高くなっているではないかとお考えかもしれない。ところが一九七〇年を一〇〇とした場合の消費者物価指数は、一九七三年が一二四で、一九七六年が一八八、そして一九八〇年の三月が二三〇・九であるから、6万円から6万9千円、さらに6万9千円から7万9千円へのNS690の価格の推移は一応納得できる。
 したがってNS690からNS690IIIへの変化に認められる長足の進歩は、いわゆるお金をかけたがゆえに可能になったものというより、技術力によるものと考えるべきである。そのためにここでの変化を劇的変化と思える。すばらしいことである。一九七三年にも一九七六年にもできなかったことが一九八〇年にはできている。しばらくぶりで会った友人の子供に「おじちゃん!」といわれて感動するのと、NS690IIIのきかせる音に耳をすましてびっくりするのとではどこかで似ている。
 さらにNS690IVが登場して、NS690III以上の音をいつの日かきかせるのかどうか、それはわからない。しかしともかくわずか七年五ヶ月でこれだけのこたとを成就した技術力はすばらしいと思う。
 それにこのNS690の場合には同一モデルの改善である。そこがいい。そのときそのときでの思いつきでその場かぎりの新製品にぼくらはもううんざりである。NS690からNS690IIまでがほぼ三年,そしてNS690IIからNS690IIIまでがほぼ四年とちょっと間がある。この期間も納得できる。
 いずれにしろ成長の跡を確認するのはうれしいことである。初代のNS690の柱のキズといまのNS690IIIの背丈を較べて、いい勉強になった。

デンオン PMA-950

デンオンのプリメインアンプPMA950の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

PMA950

ティアック X-1000R

ティアックのオープンリールデッキX1000Rの広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

TEAC

オーム AC-200, LB-300, ST-580, CQ-2, CA-70, SL-15, JT-50, PRO-10, OHC-002

オームのアナログプレーヤー関連アクセサリーAC200、LB300、ST580、CQ2、CA70、SL15、JT50、PRO10、テープデッキ関連アクセサリーOHC002の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

AC200

ヤマハ NS-600

ヤマハのスピーカーシステムNS600の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

NS600

アントレー EC-1, EC-10, EC-15, EC-20, EC-30

アントレーのカートリッジEC1、EC10、EC15、EC20、EC30の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

entre

トリオ LS-1000

トリオのスピーカーシステムLS1000の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

LS1000

マイクロ SX-777, BL-101, BL-111

マイクロのターンテーブルSX777、BL101、BL111の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

micro

ラックス L-510, L-530, L-550

ラックスのプリメインアンプL510、L530、L550の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

LUX

オンキョー Integra P-306R, Integra M-506R

オンキョーのコントロールアンプIntegra P306R、パワーアンプIntegra M506Rの広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

onkyo

ビクター QL-A75

ビクターのアナログプレーヤーQL-A75の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

QL-A75

オーレックス SB-Λ70C

オーレックスのプリメインアンプSB-Λ70Cの広告
(モダン・ジャズ読本 ’83掲載)

Aurex

デンオン DP-52F

デンオンのアナログプレーヤーDP52Fの広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

DP52F

オンキョー Scepter 300

オンキョーのスピーカーシステムScepter 300の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

Scepter300

アキュフェーズ E-301

アキュフェーズのプリメインアンプE301の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

E301

パイオニア PL-50LII

パイオニアのアナログプレーヤーPL50LIIの広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

PL50

ソニー APM-77W

ソニーのスピーカーシステムAPM77Wの広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

APM77W

SAEC WE-407/23

SAECのトーンアームWE407/23の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

SAEC

ダイヤトーン DS-32B MKII, DS-37B, DS-503, DS-505

ダイヤトーンのスピーカーシステムDS32B MKII、DS37B、DS503、DS505の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

Diatone