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オーディオテクニカ AT160ML

菅野沖彦

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 AT160MLは、オーディオテクニカがオリジネーターである、デュアルマグネットによるVM型カートリッジである。この、互いに45度の角度で設置された二つのマグネットによる変換方式は、メカニカルに、カッティングヘッドの構造と相似のもので、同社のMC型カートリッジも、これにならって、デュアル・ムーヴィングコイル方式をとっていることはよく知られているところだ。このAT160MLは、AT100シリーズの最新製品で、私の印象では遂にこのシリーズの究極に近づいたと思える製品である。MLはマイクロリニアスタイラスの略称で、この形状のスタイラスの評価は今後に待つとしても、このカートリッジの音質の品位の高さは特筆に値するものだと思う。音に充実感があり、見事な造形の正確さをもっていて、優れたトレース能力により、レコードの情報を実に豊かにピックアップしてくれる。VM型の発電系がカッターヘッドと相似なら、たしかにこのML針もよりカッティング針に近い形状のものであるのが興味深い。カンチレバーはベリリユウムに金蒸着のムク材を使っているが、全帯域にわたって音色の癖がなく、大変バランスのよい振動系が形成されているにちがいない。MM型としては、中高域の中だるみのないものだが、これは発電系のコアーの継ぎ目をなくしラミネート構造と相俟って発電効率を高めたパラトロイダル発電系によるものとメーカーでは説明している。一貫して主張してきたテクニカのVM型カートリッジの成果として高く評価出来る製品だ。

テクニクス SB-M2 (MONITOR 2)

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶ではすべての楽器が音像的に大きめに示された。❷でもヴァイオリンがたっぷりとしたひびきで示された。音色的にかげりがないのがこのましい。❸でのコントラバスのひびきは、ひきずりぎみにならないところはこのましいとしても、音像的にはかなり大きい。❹のフォルテでもひびきがぎすぎすしない。この辺にこのスピーカーのききやすさがあるといえよう。❺でのリズムは少し重くなりがちである。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❷での吸う息はくっきりと示される。ただ、ストライザンドの音像は大きい。❶でのエレクトリック・ピアノは、ひびきの特徴をよく示しはするものの、多少量感をもちすぎているように感じられる。❹でのストリングスについても似たようなことがいえる。たっぷりひびくが、もう少しさらりとした感じがほしい。❸でのギターもほどほどにシャープである。音色的な面でのトータルバランスのいい音というべきか。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
この種の音楽の再現を特に得意にしているとはいいがたいようであるが、外面的な特徴は一応示しえている。ひびきそのものに多少重みがあるので、❹での疾走感は、ものたりないところがでてくる。それにしても、同じく❹でのブラスの力強いひびきにはそれなりに対応できているので、音色的な面での全体的なコントラストはほどほどにつけられている。❺でのポコポコはもう少しくっきり示されてもいい。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音に独自のあたたかさがある。しかもピアノの音とベースの音のバランスもわるくない。ただ、❺での、これまでの部分との音色的対比ということになると、ピアノの音の硬質なところがかならずしも十全に示されず、充分とはいいがたい。さらに、❷でのピアノの音は、かなりひろがる。しかし、このレコードの音楽がめざすぬくもりのあるひびきにはこのましく対応しているとみるべきである。

ビクター SX-10 spirit

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 SXシリーズのスピーカーシステムは、それまで海外製品の独壇場であったソフトドーム型ユニットを完全に使いこなした製品、SX3の発売以来、すでに10年以上のロングセラーを誇る、国内製品としては例外的ともいえるシリーズ製品である。
 今回のSX10SPIRITは、ソフトドーム型独特のしなやかでアコースティックな魅力を活かしながら、永年にわたり蓄積された基本技術とノウハウをベースに最新の技術を融合して、現代の多様化したプログラムソースに対応できる最新のスピーカーシステムとして完成された点に注目したい。
 SXシリーズの伝統ともいえる西独クルトミューラー社と共同開発のウーファーコーンは新しいノンプレス型であり、コニカルドーム採用はSX7を受け継ぐものだ。ソフトドーム型ユニットは、素材、製法を根本的に見直してクォリティアップをした新設計のもので、トゥイーターのドーム基材の羽二重は、従来にはなかった材料選択である。
 大変に仕上げの美しい弦楽器を思わせるエンクロージュアは、表面桐材仕上げの5層構造で、響きを重視した設計で、ネットワークも結線にカシメ方式を使うなど、まさしく、SXシリーズの伝統と最新技術の集大成といえる充実した内容だ。ソフトドーム型ならではの聴感上のSN比が優れた特徴を活かしたナチュラルな音場型の拡がりと表現力の豊かさは、とかく、鋭角的な音となりやすい現代のスピーカーシステムのなかにあって、落着いてディスクが楽しめる数少ない製品である。

サンスイ B-2301

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 オーディオアンプは、とかく、エレクトロニクスの技術に基づいた製品であるるだけに、回路技術的な新しさや、音質対策が施された部品選択などに注目する傾向が強い。
 一方において、アンプの機械的な構造、つまり、シャシーやケースに代表される機構設計面は、管球アンプの昔から、音質を決定する重要なファクターとして検討はされていたものの、計測データに基づいた、音質との相関性を追求する技術は、いまだに未完成といわなければならぬ実状である。
 この機構設計面でノウハウに基づいた成果を現実の製品に導入した点では、サンスイのアプローチは、時期的にも早く、その成果も非常に大きいと思われる。銅メッキシャシー、銅メッキネジ、真鍮板の構造材などはその例で、これらの手法はその後多くのメーカーが踏襲し、最近の機構設計の定石になっていることを評価すべきである。
 B2301は、BA5000、3000以来、約10年ぶりにサンスイが開発したハイパワーアンプである。1・3kVAの超大型電源トランスに代表される伝統的な強力電源部をベースに、アルミブロックと銅板でサンドイッチ構造とするパワートランジスター取付部、140μ厚プリントパターン採用などに加えて、新開発ダイアモンドパワーステージとカスコード接続プッシュプルブリドライブ段の新採用のほかに、入力系がバランスと一般的なアンバランスと切替使用ができるのも本機の大きな特徴で、回路構成上のユニークさが、これからも類推されるだろう。

テクニクス SB-M2 (MONITOR 2)

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 ②のレコードと④のレコードでのきこえ方がこのましかった。このスピーカーの性格としては、①のレコードでの結果がよさそうに思うが、低い方の音、たとえば❸ないしは❺でのコントラバスの音がいくぶんひびきすぎの傾向があって、もう一歩といった印象である。
 これで低い方の音がもう少しくっきりすれば、全体的な音の印象はさらにすっきりするのだろうし、たとえば③のレコードできけるような音楽への対応のしかたでも前進が期待できるのであろう。このスピーカーのつかい方のこつとしては、俗にいわれるガンガン鳴らすのではなく、いくぶんおさえめの音量できくことが考えられる。そうすることによって音像のふくらみをある程度おさえられるし、おまけにこのスピーカーの音色的な面でのトータルなバランスのよさがいかせるのかもしれない。このスピーカーのきかせる暖かみのある音はききての気持をやさしくする。

ソニー CDP-5000

菅野沖彦

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「プロ用CDプレーヤー ソニーCDP5000試聴記」より

 CDプレーヤーが発売されて、まずまずのスタートをきった。昨年の9月に、一部の新製品が出たが、期待と興味をもって迎えられた第一群の売行きは好評であったときく。一通り、そうした先取りの気鋭に富んだ人達の間に行き渡り、現在は、その第二号機に、より一層の完成度を求める慎重派が待ち構えている気配である。また、メーカーの側も、先行メーカー群──といっても、ほんの2〜3社だが──の成行きを見守りながら、製品の発売を準備している慎重組が控えている様子である。
 こういう革新的な新しいものが出る時は、常に、このような情況になるわけだが、僭越ながらユーザー代表の一人を自認する私のような立場の人間も、言動に慎重を期すべき時期といえる。いつの間にやら、一部では、私はアンティ・デジタル派と決めつけられているようだが、迷惑な話であって、この可能性の大きな新技術の熟度を望む者の一人だと自分では思っているのである。それだけに、この頃は、自宅で、CDを熱心に聴いている。そして、CDが、発売第一号機で、これだけ素晴らしい再生音の世界をつくり出すプログラムソースであり、プレーヤーであることに、大きな喜びと楽しみを感じているのである。そして、CDにとって、再生系のクォリティの水準が高いことが、その真価を発揮させるためにぜひ必要であり、この新しいプログラムソースは、広くコンシュマープロダクツとして便利であるだけではなく、高度なマニアの趣味の対象としても魅力の大きなものになり得ることを感じている。すでに何枚かの愛聴盤も生れたし、街に出れば、CDの売り場を必ずのぞくようにもなった。あの小さなピカピカの円盤への新規な違和感も、今やほとんどなくなった。
 こんな状態の私のもとへ、ある日、コンパクトディスクを演奏するための非コンパクトな大型プレーヤーが持ち込まれてきた。ソニーの局用プレーヤーCDP5000である。12cm径のディスクをかけるためのこの機械は、500(W)×883(H)×565(D)mmもあって、これはスタジオで使うための便利さからきたサイズだと思ったが、なんと、中味はけっこうつまっているではないか。きわめて高精度な頭出し機能やモニター機能、そして、VUメーターなど、放送局などで使うための操作性を万全に備えたプロ機であるため、コンソールのフラットデッキ部分をそれらが占有し、エレクトロニクス部は、下部の台座部分に収納されている。民生用の現在の機器は、ピックアップを移動させてトラッキングしているのに対し、これは、ディスクを移動させる方式をとっている。詳しいことは不明だが、たぶん、フォーカスサーボ系と、トラッキングの送り機構のメカニズムを二分した構造なのであろう。偏心などに対するトラッキングサーボの機構は対物レンズで対処していると思われる。
 CDプレーヤーの音のちがいは、数社の製品の比較で確認させられているし、大方の指摘しているところであるが、このプロ用プレーヤーの音は素晴らしかった。一段と透明度が高く、SN比がよい。現時点でのリファレンスとして、ソニーが開発したいとがよく解る。一般に理解されているデジタル技術の常識による判断を越えた、ちがいがあることは確かであった。それがDAコンバーター以後のアナログ部分の差とだけは断じきれない何かがあるように感じられたのはたいへん興味深いことであった。
 この機械は、また、リファレンス機器として、CDA5000という、アナライザーと組み合わせ、CDの記録データをCRT表示によってTOCやインデックスのエラー、再生時の訂正、補間の回数など、CDのサブコードやオーディオ信号のエラーデータを検出することがCDチェッカーとして機能する。つまり、この機械は、局用のプレーヤーとしてだけではなく、CD生産のプロセスに組み入れて使う品質管理測定器としても使う工業用機器でもあるわけだ。
 とにかく、このCDP5000、今のところ、CDプレーヤーのリファレンスとしての信頼性の最も高いものだと感じられたし、このプレーヤーの水準に達する一般用のプレーヤーがほしいという気にさせる代物であった。プレーヤーとしての基本性能をこのままに、プロ用の機能は一般に必要ないと思われるのでとりぞいて、愛好家用の高級CDプレーヤー誕生の母体となり得るものだし、また、そうしてほしいものである。

アントレー ET-100

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 高価格だが高性能とされていたMC型が、低価格化と超高級化という相反する方向に急激に展開し、カートリッジといえばMC型というほどにまで普及した最近の傾向は、オーディオ史上でも異例なことであろう。MC型の普及をここまで加速させた背景として、電子技術の急速な発達でもはやプリメインアンプでも、MC型ダイレクト使用可能は標準的機能になっていることがあげられるだろう。しかし一方では、独自のリッチな音と高SN比のメリットから、昇圧トランスの愛用者も多い。とくにキャリアの長いファンにこの傾向が強いようだ。
 ET100は、中級昇圧トランスとしてすでに定評が高く、安心して使え、推選できる数少ないロングセラーモデルである。発売後明らかに一〜二度は改良が加えられ、アップ・トゥー・デイトな性能と音質にリフレッシュされているが、今回さらに手が加えられて、一段と完成度が高まった。外観上は同一筐体ではあるが、パネルが限定仕様と同じブラックに変っている。
 音質面では、わずかに穏やかで安定感はあるが、鮮度感が今一歩、といった印象が解消された。みずみずしく、緻密で、適度に力強さと豊かな表現力をもつトランス独自の魅力が素直に出せるようになった。また、3Ωにくらべ弱かった40Ω入力時の音にシャープさが加ったことも見逃せない特徴といえる。

オーディオテクニカ AT160ML

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 カートリッジの性能向上は、駆動系の軽量化という基本的なテーマの解決が最大のポイントであり、カンチレバー先端に位置するスタイラスは、等価質量を小さくするために、その大きさを可能なかぎり微小化することが不可避なプロセスである。一方、針先形状も音満との接触部分をカッター針に近似させるため、円錐形から楕円形に発展し、CD4方式の開発を期にして各種の線接触型が試みられ、高域レスポンスと歪の低減に大きな成果を挙げてきた。
 今回、AT160MLに採用された針先は、従来の針先形状とは一線を画した新形状のマイクロリニア型と呼ばれるタイプで、昨年来、レコード回転数を現在の半分に下げても現状の特性が得られることで注目を浴びたマイクロリッジ型に改良が加えられた形状で、高性能かつ楕円の約3倍のロングライフを誇る画期的なものだ。
 カンチレバーは金蒸着ペリリュウム材、VM型パラトロイダル発電系は、これまでのテクニカ技術の集大成といえるものだ。
 AT160MLは、素直に伸びた帯域感と細かく磨きこまれた微粒子状のソノリティをもち、非常に穏やかで、滑らかであるためおとなしい音に感じられよう。しかし、聴き込めば、音の細部を丹念に描きだし、内側に大変な情報量が含まれていることがわかってくる。しなやかで、豊かさとナイーブさが両立した熟度の高さが魅力だ。

オンキョー Scepter 200

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❷でのヴァイオリンの独特の艶っぽさがこのスピーカーのきかせる音の魅力を端的に語っている。その逆に、❸でのコントラバスのひびきが大きくふくらみすぎるところに、ものたりなさを感じる人もいなくはないであろう。❶でのひびきなどはなかなか特徴的である。ふっくらとまろやかではあるが、音場感的にかなり大きい。それにここでもコントラバスの音が多少強調ぎみに示される傾向がなくもない。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノ独自のひびきの質感はよく示す。しかし、音像的には大きい。❷でのストライザンドの声は女らしいしなやかさを示し、なまなましさひとしおである。これで❸のギターの音が、ここでのように太めにならず、すっきりきりっと示されれば、ひびきのコントラストがついて、このスピーカーが得意とするところのまろやかでしなやかな感じも一層はえるのであろうと思わなくもない。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
この種のレコードはこのスピーカーにもっとも相性がよくないものといえそうである。❷でのティンパニの音にしても、本来のきりっとひきしまったひびきになりえていない。したがって当然、❸での動きにしても、鋭く示されているとはいいがたい。このような人工的なひびきに対して、スピーカーそのものが拒否反応を示しているように感じられなくもない。スピーカーにとって気の毒なレコードであった。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶ではベースの方がきわだってきこえる。ピアノの音はいくぶん薄い。ただ、❷ではピアノの音のダイナミックスの変化は、いくぷん強調ぎみに示す。❺での管のひびきの特徴の示し方と、そのひろがりはこのましい。ただ、これまでの部分との音色的な対比ということになると、硬質な音への対応でものたりないところがあるので、かならずしも充分とはいいがたい。総じてしなやかな音への対応にすぐれる。

オンキョー Scepter 200

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 しなやかな音をきめこまかく示すことに秀でたスピーカーと考えてよさそうである。したがって①のレコードでの❷のヴァイオリンとか、②のレコードでの❷のストライザンドの声などは、まことになまなましい。それぞれのひびきのしっとり湿った感じをよく示している。
 その反面、ダイナミックな音への対応ということで、いくぶんものたりないところがある。その面でのものたりなさが極端にでたのが③のレコードである。③のレコードではこのスピーカーの弱点のみがさらけ出されたという印象であった。
 かなり人工的に録音されている④では、もともとがアクースティックな楽器のひびきを基本にしているために、③でのような破綻はなかった。きめこまかいやわらかい音に強い愛着を示す人にとっては魅力的なスピーカーのはずであるが、もう少し守備範囲がひろくてもいいように思う。

スレッショルド FET two + テクニクス SE-A3MK2

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 明るく透明な音だが、オーケストラが極彩色の華美さをもって響き、このオーケストラの陰影あるテクスチュアとは異質の音だ。ハーモニーは、もっと分厚く重厚な響きでなければならないのに……。フィッシャー=ディスカウの〝冬の旅〟も、〝春の旅〟のように聴こえ、声質もバリトンよりテノールに近づいた響き、発声の雰囲気である。明るい響きにマッチした音楽なら効果をあげるであろう。その点、ローズマリー・クルーニーはよい。

マークレビンソン ML-7L + パイオニア Exclusive M5

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 精緻な音。よく締まったソリッドな音像感、豊かに迫る押し寄せるかの如き力のある音の幕。ディテールの再現も緻密で透徹であった。少々、マーラーには情緒性に乏しい音の世界のように感じられたけれど、立派な音には間違いない。ストラヴィンスキーなどはもっとよいだろうと感じた。ヴォーカルは、透明で淡彩な中に粘りのある不思議な感覚で聴いた。これは男声にも女声にも感じた。これが正確な音色再現かもしれないが……?

マッキントッシュ C33 + デンオン POA-8000

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 やや肌ざわりの冷たい音だが、滑らかさはあるし、ワイドレンジにわたって締まった音。マーラーの響きとしては、もっと熱っぽい音がほしいと思ったが、これはこれで現代的な響きで決して悪くない。組合せとしては、少々異質であることが、ヴォーカルを聴くとよくわかり、どこといって欠点として指摘するほどのことではないのだが、声質にはやや不自然な感じが出る。中低域の力と量感に対して、高域が質的にうまくバランスしない感じだ。

マッキントッシュ C33 + サンスイ B-2301

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 どういうわけか、低音が出すぎる。もの凄い量感だ。前にもこの組合せで聴いたことがあるが、そのときはこんなではなかった。しかし、音の質感はしっかりした骨格と芯の周囲に、弾力性のある適度な肉づきと、滑らかな皮膚がほどよくバランスした自然なもので、マーラーの響きの重厚さと絢爛さは素晴らしい。ヴォーカルの質感も暖かく、リアリティのあるもの。ジャズでは前述のようにベースが重すぎ、やや鈍重にすぎたようだ。

クレル PAM-2 + パイオニア Exclusive M5

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 明晰で、広い拡がりをもったステレオフォニックな響き、鮮かな音色の鳴らし分けは見事といってよい。このマーラーの音としては、やや厚味とこくに欠けるものとはいえ、大変魅力的なサウンドであった。フィッシャー=ディスカウの凛とした声の響きは立派。反面、彼独特の口蓋を生かしたふくらみのある響きは、やや不満がある。つまり、響きに硬さ一色に流れるような傾向があるようだ。ジャズではソリッドで明快な素晴らしさだ。

クレル PAM-2 + エスプリ TA-N900

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 KSA100のときのような特徴的な音ではなくなるが、大変よいバランスで、楽器の質感の響き分けもよい音。やや輝きの勝った音で、くすんだ陰影といったニュアンスには不足するが、明快な音が美しい。ただ、ごく細かいハーモニックスの再現には不十分なようで、楽音がどこかつるっとして、食い足りなさが残るのが気になった。ジャズのベースなど、中低域の質感に、ときにそうした感じが強く、力感は十分なのだがいま一つの不満。

AGI Model 511b + アキュフェーズ M-100

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 この組合せにおけるオーケストラの音は、豊かさや重厚さに欠ける。その代り、透明な中高音域の質感は、特筆に値する美しさであった。マーラーのシンフォニーの響きとしては必ずしも私の好みとはいえないが、これが古典派の曲なら捨て難い魅力だろうと思う。フィッシャー=ディスカウも、少々細身の声で、テノールがかる。ピアノの明瞭な響きは美しい。ジャズは、明瞭だが、低域の押し出すような重量感が物足らなくもう一つの感じだ。

AGI Model 511b + マランツ Sm700

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 パワーアンプの変化なのか、この組合せでのオーケストラは、より柔軟なテクスチュアが感じられ、艶もついてくる。総じて、瑞々しさが増して魅力的であった。フィッシャー=ディスカウの声の艶も、この組合せだと生きてくる。ピアノの立上り、粒立ちといった鋭さにやや不満が感じられ、低域の質的な響き分けも大まかになる傾向が感じられたのが惜しい。パワーアンプの持っている音がプラス側に大きく働いているようだ。

ヤマハ HA-3

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「PickUp 注目の新製品ピックアップ」より

 MC型カートリッジの出力電圧は平均して約0・1mVほどの低さであるため、これを音質劣化させずにアンプのフォノ入力に送り込むことは非常に難しいものだ。
 昇圧手段にヘッドアンプを選ぶ場合、ヘッドシェルにヘッドアンプを内蔵させてカートリッジからの信号をダイレクトに受けて増幅することができれば、ほぼ理想に近いはずである。この方式を世界初に実用化した製品が既発売のHA2であり、今回のHA3は、その第2弾製品である。
 基本構成は、HA2と同様で、ヘッドシェル内にHA3ではサテライトアンプと呼ばれるようになったFET構成アンプを組み込み、これとHA3本体内のアンプでヤマハ独自のピュア・カレント増幅方式を構成させるタイプだ。本体内にはRIAAイコライザーをも備えているため、本機の出力はAUX入力に接続して使う。
 このHA3の方式は、MCカートリッジ出力を至近距離でアンプに入力し、信号電圧を電流に変換してHA3本体に送るため、トーンアーム内部の接続部分、接点や内部配線、さらにアームコードなどでのノンリニアの影響が極小となり、高純度の音が得られる特徴がある。
 HA3独特の改良点は、出力系に固定出力と可変出力の2系統があり、可変出力を使ってパワーアンプをダイレクトに駆動できるようになったことと、HA2ではヘッドシェル組み込みのアンプが本体と一対一でバランスが保たれ調整されているため、カートリッジ交換のたびに取付け直しが必要だったが、今回はヘッドシェル組込みアンプが1個と任意のヘッドシェルに組込み可能のサテライトアンプが2個、合計3個のサテライトアンプが付属し複数個のMC使用時の使いやすさが向上していることだ。なお、各サテライトアンプは、本体アンプとのマッチングが完全にとられ、誤接続での安全性を確保する保護回路付。
 HA3は、MCダイレクト使用可能のアンプと比較すると、非常にクリアーで抜けのよい音が得られる。アンプとしてのキャラクターは明快で、クッキリと音に輪郭をつけて聴かせるタイプだが、それにもまして音の鮮度感が高く、反応の速いことが、このタイプの優位性を物語る。なお、パワーアンプのダイレクト駆動は、これをさらに一段と際立たせた独特の世界である。

ヤマハ MC-2000

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「PickUp 注目の新製品ピックアップ」より

 最近のカートリッジの特徴は、新製品のすべてがMC型だ、ということである。
 とくに国内製品では、MC型の問題点のひとつでもあった低価格化が生産技術面で飛躍的に改善され、1万円を割るモデルさえ出現している。その内容も、価格は安くても悪くしようがないというMC型独特の構造上の利点もあって、正しくコントロールし追込めば、予想以上に素晴らしい結果が得られるまでにいたっている。
 一方、高級カートリッジの分野では、振動系の軽量化というオーソドックスなアプローチが一段と促進され、結果としての実用針圧は1gの壁を破り、コンマ・オーダーに突入している。
 MC2000は、振動系軽量化への技術限界に挑戦したヤマハの意欲作だ。MC型の音質の碁盤である発電方式は、ヤマハ独自の水平・垂直方向に発電系をもち、マトリックスでステレオ信号とする十字マトリックス方式で、当然のことながらコイル巻枠は空芯型だ。カンチレバーは、高純度ベリリウムを先端φ0・22mm、根元部でφ0・34mmとテーパー状にした肉厚20μパイプを使用。全長も従来のMC3などの5・5mmから3・7mmと短縮され、カンチレバー等価質量0・034mgを達成している。なお、コイルは芯線径12・7μの銅線使用である。
 支持系も大幅に発展した部分だ。ダンパーは、温度特性を改善した異種材料を組み合わせた新開発LTD型を独自の段付き型で使用。温度特性は従来の3〜4倍に改善されたということだ。これに、30μステンレス7本よりのサスペンションワイヤー、支持部0・06mm角ソリッドダイヤ特殊ダ円針が振動系のすべてである。なお、ボディは端子一体型・高剛性ポリカーボネート製、内部は質量集中構造で、自重5・3gとヤマハ製品中で最軽量である。
 針圧を標準の1gで聴く。帯域バランスは、軽量型らしく広帯域を意識させぬ滑らかでナチュラルなタイプ。音色はほぼニュートラル、音の粒子が細かく滑らかで、素直に音の細部を引き出す、このタイプ独特の魅力が感じられる。表情は基本的に抑え気味だが、針圧の0・05gの変化で、伸びやかにも穏やかにも鋭く反応を示す。優れた製品の性能を活かすためには、アームの選択と使いこなしが不可欠の要素だ。

ビクター Zero-100

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「PickUp 注目の新製品ピックアップ」より

 Zeroシリーズの製品群は、リボン型トゥイーターとダイナミックレンジの広いユニットによるワイド&ダイナミック思想をテーマに発展してきた。昨年末Zero1000が登場したが、今回のZero100は、Zero1000の3ウェイ化モデルと思われやすい新製品だ。
 ユニット構成上の特徴は、高域に独自のファインセラミック振動板使用のハードドーム型を使用していることである。このあたりから将来のZeroシリーズの展開が、特徴的であったリボン型ユニットをドーム型に変えて質的向上を図る方向へ行くであろうことは、ほぼ同時発売のZero0・5の例を見ても、かなり明瞭であろう。
 システムの基本は、Zer1000での成果を導入し、リファインした製品である。スーパー楕円特殊レジン製バッフルボード使用のエンクロージュアは、裏板構造は異なるが、内部の定在波と振動板背面にかかる背圧の処理は重要項目として検討された。Zero1000以来約一年の成果は相当に大きい。毛足の長い純ウール系吸音材開発は、独自のエステルウール開発以に巻いて使う定在波の制御方法や適度にエンクロージュア振動を抑え音を活かす補強(響)棧などの処理方法も従来と異なる。
 ユニットは、すべてファインセラミック振動板採用。低域はZero1000用と類似するが、センターキャップに通気性をもたせ磁気回路内の背圧を前面に抜く方式の採用が特徴。中域はZero1000の75mm口径に対し、65mm口径の新開発ユニットで、振動板周囲にイコライザー類を持たぬ最新の設計法とユニットとしての構造的な発展で、質的向上は明らかだ。高域はZero1000の35mm口径に対して30mm口径とし、高域レスポンスを改善している。すべて新設計ユニットだ。
 聴感上のSN此が優れ、音の粒子が細かく滑らかに伸びた帯域バランスの製品だ。豪快に鳴らすには金属やコンクリート、硬質ブロックの置台を使うが、ナチュラルで色付けがなく本当の意味での反応の速さや音場感的な見通しの良さを聴くためには、良質な木製の置台が望ましい。この場合音色はニュートラルで聴感上のDレンジも広く、狭い部屋が広いホールに化するような見事な音場感とヴィヴィッドな表情が魅力。

ミュージック・リファレンス RM-5 + サンスイ B-2301

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 TVA1との組合せで聴いた血の通ったソリッドな音に、さらにキメの細かい質感の緻密な響きが加わり透明度が増した。代りに、暖かさ、熱っぽさはやや失われ、よりすっきりとした現代的な音といえるものになる。ヴォーカルも雑物がとれ、よりすっきりするが、その反面、やや冷たいともいえる感触をもってくる。ジャズでは圧倒的に力強く、安定感が増し、女性の声の艶、弾みのあるヴィヴィッドなベースが素晴らしいものだった。

テクニクス SB-M2 (MONITOR 2)

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「PickUp 注目の新製品ピックアップ」より

 テクニクスのスピーカーシステムは、従来からマルチウェイシステムのひとつの問題点であった各ユニットの音源中心を、前後方向に揃えるリニアフェイズ化を重視したシステムづくりが最大の特徴だった。
 この考え方は、海外でも米アルテックのA7システムや、欧州ではフランス系のキャバスやエリプソンのシステムが先行していたものだが、音源中心が振動板面で決まる平面振動板ユニットの全面採用で、明らかに世界のトップレベルに位置づけされるようになった。
 M2には、木目仕上げのM2(M)と、シルバー塗装仕上げのM2(S)の2モデルがあるが、今回はM2(S)仕様の試聴である。基本構想は、既発売の4ウェイシステム、M1を3ウェイ化し、いわゆるスタジオモニターサイズにまとめた製品である。
 使用ユニットはすべて、扇を全円周に展開したような独自の構造の軽金属ハニカムコアを採用したことが特徴である。
 低域は直径200mm、重量3・1kgの磁石と直径75mmの高耐入力構造ボイスコイル、独自のリニアダンパーを組み合わせた38cm口径ウーファー、中域は直径140mm、重量1・2kgの磁石と直径50mmボイスコイル採用の8cmスコーカー、それにスキン材に積層マイカ使用、スコーカーとの取付位置を近接化するために特殊な角型磁石を採用した28mmトゥイーターを組み合わせている。エンクロージュアは、筒型ダクト使用のバスレフ型で左右対称型だが、M1でのバッフル面両側にあった金属製の把手兼補響棒がないのは大きな改善だ。なお、ネットワークは低域と中高域分割型、フェライトコア入りコイル、高域用コンデンサーはメタライズド・フィルム型採用で、高域にはサーマルリレー使用の保護回路付である。
 テクニクスらしく基本特性が世界のトップランクの見事さだけに、M2は使い方が最大の決め手だ。簡単な鳴らし方で概要を掴むと、柔らかく豊かな低域と素直で透明感があり、ややおとなしい中域から高域をもっている。低域を程よく引き締め、低域と中域のつながりを密にする使用が望まれる。置台に硬質コンクリート台型のブロックを3個使い、最低域の重量感を確保しながら同軸構造のスピーカーコードを併用すると、現代的なモニターライクな高分解能な音が聴ける。

ヤマハ NS-2000

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 NS1000の高級モデルがヤマハで開発中で、型番はNS2000というウワサは、昨年来耳にしていた。3ウェイか4ウェイ構成かという問題。それに、低域または中低域用の振動板材料に独自のベリリウムスキンを使った既発表の平面型を採用するのか、コーン型ならどのようなマテリアルを新導入するかというところが注目のポイントであり、非常に興味深かった。
 実際に登場したNS2000の姿を見たのは、全日本オーディオフェア前であるが、オーソドックスに開発された3ウェイシステムというのが最初の印象である。
 基本構想は、中・高域に熟度の高い独自のベリリウムドーム型を使い、問題の低域には、純カーボン繊維積層型の高剛性、低内部損失の新コーンの組合せ。エンクロージュアは、全面25mm厚高密度パーチクル板採用で、指向特性に優れたラウンドバッフル部にはブナのムク材を大量に使った完全密閉型。ヤマハの誇る木工技術を活かし高級家具調の見事な仕上げが施されている。ラウンドバッフルのため、ユニット配置はヤマハ初の一直線レイアウトというものだ。
 注目の低域は、純カーボン繊維の縦方向の比弾性率、強度を活かし、横方向の弱さをカバーする目的で、コーンを扇形に八等分した形状のカーボン繊維一方向配列シートを相互に繊維方向を直交させた4層構造とし、コーン裏側の円周方向に補強リブを採用、きわめて剛性の高いコーンを実現している。磁気回路は直径18cm、厚み20mmの磁石採用。無酸素銅線ボイスコイル口径88mmは、国内製品中では異例の大径で、強力な駆動力を物語るものだ。また、有限要素法を用いて磁束分布を計算した、新設計の低歪磁気回路も見逃せない。中・高域ユニットは、従来より結晶構造を細かくした振動板を採用、特に高域の磁気回路強化が目立つ。なお、ネットワークのコンデンサーが、すべてMP型であることは異例だ。
 NS2000は、滑らかでシャープな音が特徴。モニター調の1000Mより、NS1000系の発展型とも考えられるキャラクターだ。注目の低域はスケールが大きく、ソリッドさが新たに加わった魅力だ。大パワー使用での迫力も注目されるが、特徴を活かした使い方は、良質な木製の置台に乗せて、実際的な家庭内の聴取レベルでバランスを整え、質的な高さを追求したい。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤトーンのスピーカーシステムは、低域振動板材料として軽金属ハニカムコアにスキン材を使うハニカム構造の採用から、新しい世代への展開が開始された。つまり、低域の改善からスタートした点が特徴である。DS401、90C、70Cなどが最初に新ウーファーを採用した製品であり、スキン材をカーボン繊維系に発展させたタイプが、大型4ウェイ・フロアー型のモニター1である。
 これらのプロセスを経て、全面的に使用ユニットが見直され、一段と飛躍を示した製品が、伝統的なDS301、303に続く高密度設計の完全密閉型システムDS505である。低域用スキン材に芳香族ポリアミド系のアラミド繊維を導入、軽量で、防弾チョッキにも使われる強度と適度な内部損失を活かし、ハニカムコーンの完成度を高めた。同時に、ボイスコイル部分と振動板を一体構造とした、DUDと呼ばれるボロン振動板採用のハードドーム型ユニットも新登場している。
 引き続き、昨年は大口径ボロンドーム型スコーカーとバスレフ型エンクロージュア採用のDS503が開発された。一方では、80cm、160cm口径の超大型ウーファーでのトライなどを経て、現時点のスピーカーシステムでのひとつの回答が、4ウェイ構成フロアー型という形態をもつ新製品DS5000であると思う。
 一般的には、DS505のフロアー型への発展とか、DS503の4ウェイ・フロアー型化というイメージで見られるだろうが、内容的にはDS505以来の2年間の成果が充分に投入された完全な新製品だ。
 基本的構成は、業務用としてスタートした40cm口径の伝統的な低域ユニットに、初めてアラミド繊維スキン材を導入してベースとしている。直径200mmのフェライト磁石採用で、ボイスコイル直径75mmは、4ウェイ構成専用ウーファーとしての設計。
 中低域用25cmユニットは、アラミド・ハニカム構造とダイヤトーン初のカーブドコーン採用が注目点で、システム中で最もシビアな要求が課されるミッドバス帯域での高域再生限界を高める効果を狙っている。このあたりは、ミッドバス構成4ウェイ・ブックシェルフ型の名称で登場したDS505の設計思想を踏襲したものだ。
 中高域用6・5cm口径ボロンドーム型ユニットは、DS503系がベースである。しかしユニットとしての内容は、ほとんど関連性がない新設計によるものだ。まず、振動板はチタンベースのボロン採用は同じだが、ボイスコイルを巻いている部分までボロン化が進められ、ボイスコイルの振動が、よりダイレクトにドーム振動板に導かれるようになった。磁気回路も強化された部分で、直径156mmのフェライト磁石は二段積重ね使用、磁気回路の厚みが増しているだけに、ポール部分の形状、バックキャビティなどは変更されている。また外観上では表面のダイキャストフレームに真ちゅう製金メッキ仕上げの特殊リングが組み込まれ、主としてフレーム共振のコントロールに使われていることも目新しい。
 高域用2・3cm口径ボロンドーム型ユニットも中高域同様にDS503系だが、2段積重ね型磁気回路による強化で、磁気飽和領域での低歪化の手法は中高域と同様な設計である。また、4ウェイ化に伴い、最低域のレスポンスの向上に見合った最高域レスポンスの改善のため、振動板関係でのリファインがおこなわれたユニットだ。
 なお、磁気回路の低歪化は、低域、中低域ともに、ダイヤトーン独自の磁気ギャップ周辺に特殊磁性合金を組み込む方法が採用されている。
 ネットワーク関係は、DS505で新採用された圧着鉄芯を使う独自の技術開発に基づく低歪みコアと無酸素銅を使うコイルと、適材適所に測定と試聴の結果で選択されたコンデンサーを従来のハンダ付けを廃した圧着接続で使うのはDS505以来の手法だが、圧着用スリーブに金メッキ処理を施したのは、今回が初めてのことだ。なお、ネットワークは、マルチアンプ駆動用に低域と中低域以上が分割使用できる4端子構造が採用されているが、端子、ショートバーともども金メッキ処理になっている。
 エンクロージュアは、針葉樹系合板を直交して貼り合せた2プライ構造のバッフルが板厚30mm、側板と裏板などは、同じく針葉樹系チップボードの2プライ構造で板厚24mmの材料を使う。内部補強棧関係も、減衰特性のきれいなシベリア産紅松単材を採用、表面はウォールナットのオイルステン調仕上げである。エンクロージュア型式は大口径のアルミパイプを使ったバスレフ型で、重量は約90kgとヘビー級である。
 試聴は、約10cmほどの硬質な木材のブロック4個で床から浮かしたセッティングから始める。プレーヤーは試聴室リファレンスのエクスクルーシブP3、カートリッジはデンオンDL305にFR Xf1の組合せ。アンプはスレショルドFET TWOプリアンプとS/500パワーアンプのペアだ。
 大口径ウーファー採用のフロアー型らしく、量感タップリでやや柔らかい低域をベースに、軽い質感で反応の速い中低域、シャープで解像力が高く、スピード感のある中高域が、鮮映なコントラストをつけて飛び出してくる。この音は非常にソリッドに引き締まり、情報量が極めて多い。プログラムソースの音を洗いざらい引き出して聴かせたDS505的なキャラクターを数段階スケールアップし、聴感上でのSN比を一段と向上したタイプにたとえられる。
 置台の材料を硬質な約10cm角、長さ50cmほどの角材に変えたり、位置的に、極端にいえば1cmきざみに変更し追込むと、DS5000は極めてシャープに反応を示す。トータルバランスを大きく変えることなく、ある程度の範囲で、柔らかいウォームトーン型バランスからシャープなモニターサウンド的イメージまでの幅でコントロールすることができる。
 表現を変えれば、置き方、スピーカーコードの選択、さらにスピーカー端子での接続を低域側と中低域以上の端子に変えることでの音質的変化を含み、結果は使いこなしと併用装置で大幅に変る。即断を許さないのがこのシステムの特徴である。
 ちなみに、アンプ系をより広帯域型に変え、適度なクォリティをもつCDプレーヤーと組み合わせて、CDの音をチェックしてみた。いわゆるCDらしい音は皆無であり、CDのもつDレンジが格段に優れ、SN比が良い特徴が音楽の鮮度感やヴィヴィッドさとして活かされる。音場は自然に拡がり、定位はシャープで、楽器の編成まで見えるように聴きとれる。これは、アナログには求められない世界だ。デジタルのメリットは、相応しい性能をもつスピーカーでないと得られないというのが実感。