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トリオ KA-1100

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 トリオの新製品プリメインアンプKA1100は、昨年秋に発売されたKA2200、KA990シリーズの中間に位置する製品である。
 基本的な構想は、同社のプリメインアンプのトップランクに位置するL02Aでの成果を踏襲したもので、デュアルヘッドイコライザー、ダイナミックリニアドライブ(DLD)回路、独自の㊥ドライブなどが導入されている。
 フォノイコライザー段は、カートリッジの出力、インピーダンスが大きく異なるMMとMCの各々に最適な増幅段を独立させ、これとシリーズになる増幅段をスイッチで切替えてペアとし、ワンループのイコライザーとする方式で、従来のヘッドアンプ方式やゲイン切替型とくらべ、高SN比、低歪で、低インピーダンスMCをダイレクトで充分に使いこなせる特徴がある。
 トーン回路は独自のNF−CR型で変化がスムースであり、独立した周波数と変化量が各々3段切替のラウドネスコントロールを備えている。また、機能面でのフロント・リア切替型のAUX端子を前面にもつ点は、CD、PCMプロセッサー、ハイファイビデオなどへの対応を容易にしている。
 DLD回路は、小パワーアンプと大パワーアンプを内蔵し、両者の特徴を組み合わせて使う独自な方式で、織細さとダイナミックさを両立させたものといわれている。また、DLDは低インピーダンス負荷に強く、8Ω負荷ではハイパワーだが、4Ω負荷ではさしてパワーが増さない高出力アンプが流行したり、アンプのパワーを8Ω負荷時より有利な6Ω負荷表示にしようという傾向がある現状からは、2Ω負荷でも連続出力で230Wが得られる点は、注目に値するものだ。なお、電源部は、各ステージ別の巻緑から供給するマルチ電源方式だ。
 K1100は、少し腰高だが、適度にソリッドで引き締まった低域をベースに、明るい中域とストレートな高域がバランスした音だ。音色は明るく、表現はストレートであり、音の粒子は平均的だが、音像は比較的に前にくる。このタイプの音は、ホーン型スピーカーでは、輪郭が明瞭で効果的に聴こえる。優れた回路上の特徴が充分に活かされたなら、現状でも充分な魅力があるだけに、素晴らしいアンプになるであろう。今後に一層の期待が持てる製品だ。

オーディオテクニカ AT150Ea/G

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 テク二力独自のVM型の代表製品であるとともに、長期間にわたりベストセラー製品として数多くのファンを獲得しているAT100シリーズが、リフレッシュされ新製品となって登場することになった。
 ニュー100シリーズのトップモデルが新しいAT150Ea/Gであり、ヘッドシェルに組み込まれたモデルである。
 改良のポイントは、振動系の軽量化と発電コイル系のリニアリティの向上というオーソドックスなアプローチである。
 0・12mm角から0・1mm角に小型化された天然ダイヤ楕円スタイラスは、ベリリュウムテーパードカンチレバーに組み合わされ、カンチレバー表面は、上級機AT160ML/GやMC型AT33E同様に金蒸着され、耐蝕性とQダンプ効果に使われている。パラトロイダル発電系は、伝送損失を約12%減らし、コイル巻数を減らしても出力4mVを確保している。ヘッドシェルは新設計マグネシウム合金製で、OFCリッツ線使用のタイプだ。
 AT150Ea/Gは、中域がやや張り出し気味の旧型にくらべ、MC型的なワイドレンジ・フラットレスポンス型になった。とくに分解能が一段と向上した点は新型の大きな特徴だ。標準針圧1・25gに対する音質変化はシャープなタイプで、試聴では1・45gがベストだった。温故知新的な伝統をもつ完成度が高い優れた製品。

オーディオテクニカ AT29E

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 MC型としては比較的にローコストな新製品であるが、充分に中級機以上に匹敵する高度の内容を備えた、伝統のある専門メーカーならではのファンには大変に楽しい製品である。独自のデュアル・ムービングコイル型の振動系は、国内初採用を10年以上前にはたしたテーパードアルミ合金パイプカンチレバー、0・12mm角天然ダイヤブロック楕円針、バナジュウムパーメンダーコアにアニール高純度銅線を整列巻とした左右独立コイルで構成される。ハウジングは、アルミ合金ダイキャストを上下から硬質合成樹脂でサンドイッチ構造とする異質材料間Qダンプ方式。
 標準針圧1・5gにセットして聴いてみる。トーンアームにもよるが±0・3gの針圧範囲で変化させると、音はかなりシャープに変化する。分解能は高いがやや素っ気ない音を聴かせる国内のMC型にくらべ、こだわりなく、伸びのある楽しく音を聴かせる本機の独自の魅力を活かすには、使用したトーンアームの針圧目盛では、1・65gがベストな針圧だった。軽くすれば軽快さが出るが、表情の抑揚が薄れがちとなり、それ以上に重くすると、MC型としては異例ともいえる腰が強く、枯りのある独特の低音が得られ、これはこれなりの魅力があるが、プログラムソースを幅広くこなすとなれば、1・65gである。とにかく聴いて楽しい異色のMC型だ。

サンスイ B-2301, B-2201

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 サンスイのセパレート型アンプは、他社と比較して、その機種数は少ないとはいえ、つねに、ユニークな構想に基づいた個性的な作品が多いのが特徴であろう。
 古くは、管球アンプ時代の出力管にKT88を採用したBA303があり、これは当時のハイパワーアンプの最先端をゆくモデルとして、そのメカ二カルで整然としたデザインともども国産パワーアンプの歴史に残る製品だった。比較的最近では、マッキントッシュと同様に、出力トランスを使った300W+300Wの超弩級ハイパワーアンプ、BA5000の物凄いエネルギッシュなサウンドも記憶に残るものだ。ちなみに、このBA5000は、強烈な馬力と無類の安定度が両立している特徴がいかされ、沖縄の海洋博会場や各地のライブコンサート、晴海のオーディオフェアのサンスイブースなどでJBLのスピーカーシステムの駆動用として、つい最近まで活躍していたため、そのサウンドは多くの皆さんがお聴きになっているはずだ。
 その後、輸出モデルとして、B1が開発され、主に、米国市場で活躍し、このモデルもコンシュマーから業務用までの広範囲に使用されたが、しばらくの沈黙を破って昨年11月に発売されたパワーアンプが、300W+300WのB2301であり、これに続いて今回、発売されたモデルが、200W+200WのB2201である。
 この新製品が開発された基盤は、サンスイのプリメインアンプが急成長を遂げたワイドレンジDC構成のAU607/707以来のダイアモンド差動回路開発、TIM歪とエンベロープ歪の測定法開発、スーパーフィードフォワード方式の開発などの技術的な蓄積をはじめ、他社に先駆けて銅メッキシャシーや銅メッキネジなどを採用した独自の機構設計上でのアプローチ、部品選択、さらに、測定と試聴をくりかえした結果から得られるノウハウなどにあり、これらが、最高級セパレート型アンプを開発するのに充分貯えられたということであろう。
 まさに、サンスイの自信作ともいえる作品であるが、その評価は大変に高く、B2301は、第1回ステレオサウンド・コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤーに選出されたことからも、その実力の程はうかがえると思う。
 2機種のパワーアンプは、基本的に同じ開発意図でまとめられており、初期のPCMプロセッサーを思わせるようなシンプルでクリーンな筐体は外形寸法的にも共通である。
 回路構成上も同様で、新開発のダイアモンド差動出力段は、片チャンネルにパワートランジスクー8個で構成する点、カスコード接続ブッシュプル・プリドライバー段も変らない。もっとも大きな差は、パワーが異なるのを除けば、入力系が、B2301では一般の不平衡型に加えてキャノン端子を使った平衡型入力をもつことで、この場合には入力部のバッファーアンプをジャンプする設計で、入力感度は不平衡1Vにたいして2Vに変る。
 電源部は、トロイダルトランス採用の左右独立・各ステージ独立の6電源方式で、電源コンデンサー容量が、B2301で出力段用60000μF、プリドライバー段4000μF、B2201では、出力段用60000μF、プリドライバー用27200μFと異なっている。
 パネル面の大型液晶ディスプレイは、ピーク表示とピークホールド表示に切替可能な60dBリニアスケールパワーメーターに加えて、オーバースイング、プロテククー、DCリークなどのインジケーターが組み込まれている。
 試聴用コントロールアンプには、B2301が平衡入力を備えている点から、コントロールアンプとして異例の平衡出力端子をもつアキュフェーズC280を組み合わせることにした。なお、キャノン端子の結線はC280、B2301とも①番アース、②番ホットのアメリカ型だが、ものによっては③ホットのヨーロッパ型もあるので注意が必要である。なお、プログラムソースは、アナログ系としてエクスクルーシヴP3にデンオンDL305、デジタル系としてソニーの業務用CDプレーヤーとヤマハのCD1を使用した。
 B2301は、不平衡入力使用のときに充分に厚みがあり、力強くエネルギー感がある低域をベースに、密度が濃い中域と、ハイパワーアンプとしては素直な高域が、無理に帯域感を伸ばしたような印象がないナチュラルで安定したエンベロープのレスポンスを聴かせる。比較的に腰の重いJBL4344の低域を余裕をもってドライブできるのは、さすがに300W+300Wのパワーであり、伝統的な強力電源の実力であろう。
 ややもすれば、国産パワーアンプは表示パワーほどには常用レベルでパワー感がなく、ボリュウムを上げて初めて、さすがにハイパワーアンプといった対応を示すものがあるが、その点このB2301は、まさに正味300W+300Wの出力を感じさせる。音色は適度に明るく、伸びやかで、引締まった表現力をもつが、欲をいえば、音場感的なプレゼンスがいま一歩ほしいところだ。
 試みに平衡入力に変える。一瞬、音場感はスピーカーの外側まで拡がり、見通しのよいパースペクティブな世界が展開される。音の表現力は大幅に向上し、優れたCD盤でのクリアーな定位感、演奏者の動きに伴う気配までが感じられるようになる。これは、まさしく、異次元の世界ともいうべき変化である。レコードを次から次へと取替えて聴きたくなる、あの熱い雰囲気のある音だ。
 B2201は、不平衡入力のみだが、B2301と比較してナチュラルに伸びたワイドレンジな帯域バランスと、音の粒子が細かく、伸びやかに軽やかに音を聴かせるタイプだ。音場感もナチュラルに拡がり、性質の素直さが、このアンプならではの魅力であろう。

アキュフェーズ C-280

菅野沖彦

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 アキュフェーズの新しいコントロールアンプ、C280を我が家で聴いたのは、1982年の秋であった。その清澄無垢な響きに、このアンプの音の純度の並々ならぬものを感じ、精緻な音色の鳴らし分けに感心させられた。繊細なハーモニックスから、音の弾力性や厚味の立体感、そして合奏の微妙なテクスチュアがよく再現され、間違いなく現在の最高品位のコントロールアンプであることが確認出来た。たった一つの不満といえば、パネル中央のイルミネーションディスプレイの色調に、洗練と風格が欠けることぐらいで、パーシモンウッドケースを含めて、そのフィニッシュの高いクォリティも内容にふさわしいものであった。この色合いは、しかし、アキュフェーズの製品に一貫した感覚であるから、私はこの社のアイデンティティとして尊重し、あえて苦言は呈さなかったのを記憶している。その後機会あるごとに、このコントロールアンプに接し、その優れたクォリティを確認させられる度に、ディスプレイの色調への不満が大きくなっていく自分の気持を抑えることが出来ないのだが、これは枝葉末節としておこう。
 C280の内容は、現在の水準で最高の性能をもったものといってよく、回路構成は同社のお家芸ともいえる全段A級プッシュプル僧服を、さらに、全段カスコード方式で実現している。これにより裸特性の高水準を確保し、安定した動作とハイゲインを得ている。ステレオアンプ構成は、完全独立型のツインモノーラル構成を基本に、左右6個のユニットアンプを別ケースで独立させ、それぞれに専用の定電圧電源をもたせるという徹底ぶりである。いうまでもなくDCアンプだが、DCドリフトの発生は完全にサーボコントロールされ、MCのヘッドアンプ入力から、出力までの全信号系はダイレクトカップリングで一貫している。コントロールアンプの必須機能である、ファンクションスイッチは、最短信号経路で確実におこなえるように、ロジックコントロールのリレーによるもので、ロスや影響を最小限に抑えているし、信頼性の高い部品の使用により万全を期している。厚手のアルミハウジングに収められた6個のユニットアンプの整然とした美しさはメカマニアにはきわめて魅力的な光景で、内部の仕上げの美しさも最高級アンプにふさわしい緻密なものだ。
 従来のアキュフェーズアンプの音の、豊潤甘美な個性は、より節度をもったものにリファインされていて、私にいわせれば、毒も薬といい得る癖と個性の限界領域を脱却した品位の高い再生音といえると思う。現在のアンプのテクノロジーは高度かつ精緻であるから、頭で考え眼で追っても相当高度な製品を作ることは可能である。しかし、なおかつ耳と感性による見えざる問題点の実験的解析と追求の努力が、これに加わった時に、製品は確実に差をもつことになる。そしてその差は、正しい理論と技術の裏付けをもったものならば、必ず音の洗練として現われることをこのアンプは教えてくれるかのようであった。

パイオニア S-955III

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶での総奏がふっくらひびくところにこのスピーカーの特徴がありそうである。❸でのコントラバスのひびきが、ひきずることはないが、まろやかで、コントラバスならではのゆたかさが感じられる。❷でのヴァイオリンの音にしても、決してきつくならず、あくまでもやわらかい。❺ではもう少し音場感的なひろがりが示せてもいいとは思うが、さまざまな楽器のひびきのバランスはこのましく示せている。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノの音はいくぶんふくらみすぎの気味がある。❷での声は音像的に多少大きめではあるが、声そのもののなまなましさをよく示す。❸でのギターの音は繊細さという点で不足する。太くくっきりひびきすぎるためである。❹でのストリングスは、ひろがりも充分であり、ストリングス本来のひびきのしなやかさもこのましく示しえている。❺での声も余裕をもって示している。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
このレコードでのきこえ方をとりまとめていうと、力強い音にこのましく対応しながらも、決して表現がごりおしにならないということになる。ただ、ひびきそのものがいくぷん重めなので、❹で求められる疾走感は稀薄である。重層的にかさなる音の感じはよく示している。❺ではもう少しくっきり示されてもいいように思う。ポコポコいう音がどうしてもふくれてしまう。その点が少しものたりない。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの下の音とベースの音とのきこえ方のバランスが大変このましい。❷での提示も自然である。きめこまかい音への対応力がすぐれているために、個々のひびきの特徴をあきらかにできていると考えるべきであろう。❸や❹での高い音も、もう少しきらめいてもいいとは思うが、それぞれのひびきの特徴は提示しえている。このレコードでのきこえ方は、なかなかこのましかったというぺきであろう。

パイオニア S-955III

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 ①と④のレコードでのきこえ方がすぐれていた。ふっくらとした音の示し方にきくべきものがあったためといえよう。
 このスピーカーのよさは、神経質にならずにおっとりときけるところにあるようだ。ただこれでさらに、たとえば②のレコードの❸のギターのような音をもう少しシャープに示せれば、魅力は倍加するのであろうと思わなくもない。
 つまり、シャープな音に対しての反応でいくぶん甘いところがあるということである。ただ③のレコードでの❶の金属的な音の特徴も示せていたので、スピーカーそのものはシャープな音に対しての反応力をそなえていると考えることもできる。
 使うアンプやカートリッジで工夫することによって、シャープな音への反応力をますこともできなくはなさそうである。いずれにしろ神経質なひびきを決してきかせないのはこのましい。

ビクター SX-10 spirit

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❷でのヴァイオリンがくっきり、しかもこってり示されるところに、このスピーカーの特徴がしのばれるようである。ただ、それなら❸でのコントラバスがたっぷりひびくかというと、そうともいいがたい。ひびきがひきずりぎみにならないのはいいところであるが、コントラバスのひびきの余裕といったようなものは示しえていない。❹でのフォルテはすくなからずきつめであり、しなやか
さに欠ける。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノの音はぼってりとしている。ひびきが薄くならないのはこのスピーカーのいいところというべきであろうが、エレクトリック・ピアノならではの一種独特のひびきの軽さに十全に対応できているかというと、かならずしもそうとはいいがたい。❸でのギターの音にはもう少し切れの鋭さがほしいところである。❸でのギブの声は硬めになる傾向がなくもないのが気になる。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
❷ではティンパニのひびきの力強さはこのましく示すものの、そのひびきのスケール感の提示ということではいま一歩といったところである。❸では左右への動きに一応は対応するものの、動きの鋭さはあまり感じさせない。❹ではブラスの力強さへの対応は充分であるが、シンバルのひびきはいくぶん甘くなる。このレコードできける音楽の現代的な鋭さがかならずしも充分に示されているとはいいがたい。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
ほどよくバランスがとれているということでは、今回試聴した四枚のレコードの中で、このレコードがもっともこのましかった。❶でのピアノの下の音へのベースの重なり方の提示なども、強調感がなくて見事であった。❷での右よりのピアノの音のくっきりした提示はすぐれていた。❺での両者の対比も過不足なかった。ただ、❸での高い音のひびき方にもう少し輝きがあれば、さらにこのましかったであろう。

ダイヤトーン DS-5000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
基本をしっかりおさえた音のきこえ方とでもいうべきか。硬に対しても軟に対しても、過不足なく、バランスよく対応しているのはさすがである。❶での総奏の、力を感じさせながら、同時にひびきのひろがりもしっかり示す。❸ないしは❺でのコントラバスは、ひびきの円やかさを保ちつつ、くっきりと輪郭を示し、しかもぼてつかない。ひびきの力を示しながら重くならないところがこれのいいところである。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノを、くつきり示す。しかし音像的にはいくぶん大きめである。❷での声も積極的に前にはりだす。しかしこれもまた音像的にはいくぶん大きめである。❸でのギターの音は、太く、輪郭をしっかり示しながら、提示される。決して雰囲気的にならないところがこのスピーカーのいいところである。❺でははった声の力を示しながら、それでもきつくならないところがいい。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
ひびきの力の提示、あるいはひびきの力の変化を、いささかもあいまいになることなく示す。❷でのティンパニの音などは迫力充分である。音場感的な面での前後のひろがりも充分ではあるが、しかしだからといってスペースサウンド的な性格をきわだたせるかというと、そうともいいがたい。❶でのピコピコとか❺でのポコポコは音像的に多少大きいが、充分な効果をあげているということはいえる。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音には独自の実在感がある。ベースの音にも似たようなことがいえる。❷でのバランスとまとまりはとびぬけてすぐれている。❸と❹でのシンバル等の打楽器のひびきの特徴も十全に示す。❺での木管楽器の一種独特の軽さと乾きの感じられるひびきにもこのましく対応して、それ以前の部分との対比にも問題ない。基本的なところをしっかりおさえているよさがこのましく発揮されている。

ビクター SX-10 spirit

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 中音域での音のエネルギーの提示に独自の威力を発揮するスピーカーといえよう。もう少し高い方の音への対応にしなやかできめこまかいところがあると、このスピーカーの魅力は倍加するのであろうが、その点で少しいま一歩という感じである。
 今様な音楽の多くはきめこまかいひびきにその表現の多くをゆだねているが、その点でさらに対応能力がませば、このスピーカーの守備範囲もより一層ひろがるにちがいない。しかし、多くの音楽の基本は中音域にあるわけであるから、その中音域をしっかりおさえたこのスピーカーは、俗にいわれる基本に忠実なスピーカーということもできるにちがいない。
 ひびきの軽さへの対応ということでさらにもう一歩前進できれば、たとえば③のレコード等で示されている現代的な感覚を鋭く示せるであろう。しかし、なにごとによらず基本を尊重するということはわるいことのはずはない。

ダイヤトーン DS-5000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 決して皮肉な意味でいうのではないが、優等生的なスピーカーというべきであろう。きわだった、いわゆる個性的な魅力ということではいいにくい、しかし肝腎なところをしっかりおさえたスピーカーならではの、ここでの音だと思う。
 提示すべきものをしっかり提示しながら、しかし冷たくつきはなした感じにならないところがいい。①のようなタイプのレコードに対しても、そして③のようなタイプのレコードに対してもひとしく反応しうるというのは、なかなか容易なことではない。それをなしえているところにこのスピーカーの並々ならぬ実力のほどを感じることができる。まさに文字通りの実力派のスピーカーというべきであろう。
 安心して、神経をつかわずにつかえるということは、それだけつかいやすいということである。その点で傑出したスピーカーだと思う。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「THE BIG SOUND」より

 ダイヤトーンスピーカーシステムの源泉は、放送業務用のモニターシステムとして開発された2S305にある。口径5cmと30cmのコーン型ユニットを2ウェイ構成とし、それも、クロスオーバー周波数を1・5kHzと低くとり、ウーファー側は、いわゆるLC型ネットワークを介さずに、コーンのメカニカルフィルターのみでクロスオーバーし、レベルバランスは、トゥイーターの出力音圧レベルそのものをコントロールしておこない、直列抵抗やアッテネーターは使用しないという設計は、まさに芸術品とも呼べる精緻な見事さを備えている。
 新型ユニットとして急激に台頭したソフトドーム型ユニットが登場以後、スピーカーの分野では、軽合金系のアルミ合金、チタン、ベリリュウムなど、振動板材料を従来の紙以外に求める傾向が強くなっても、ダイヤトーンでは、コンシュマー製品を開発するスタート時点にこれほどのシステムが存在していただけに、伝統的な紙をダイアフラムに採用する手法がメインであった。例外的には、ドーム型スコーカーでのフェノール系ダイアフラムや、スーパートゥイーターでのアルミ系合金の採用があるが、これを除けば、ペーパーコーンがその主流であり、このあたりはいかにも2S305での成果をいかし、紙のもつ能力を限界まで使いきろうとする開発方針は見逃すことのできない設計者魂だ。
 このダイヤトーンが突然のように新振動板材料を登場させたのが、宇宙技術の成果をいかしたハニカムコンストラクションコーンである。しかも、一般的な中域以上のユニットではなく、ウーファーユニットから新材料を導入した点が、他社にない大きな特徴である。スピーカーシステムは、良いユニットと良いエンクロージュアを組み合わせて初めて完成する。当然の話であるが、ダイヤトーンの最初の製品が発表された当時、よく設計者から聞いた言葉である。
 これからも、ベーシックトーンを受持つウーファーに新振動板を導入し、単に材料の置換法ではなく、新しい振動板にふさわしいエンクロージュア設計を確立するのを第一歩とする方針は、きわめてオーソドックスな手法である。
 その第一弾がハニカムコンストラクションコーンで、1977年秋の業務用モニター4S4002Pでは中域、低域ユニットにCFRPをスキン材として採用し、DS90Cの低域ユニットではガラス繊維系のスキン材を使っていた。その後一年を経て、DS401とDS70Cの低域用にDS90Cと同様な構成の振動板が使われている。これ以後、1970年代が、この新型振動板を発展させ、使いこなすための基礎となった期間であろう。
 80年代に入ると、その成果は急激に実り、スキン材に、防弾チョッキにも使える強度と適度な内部損失をもつアラミド系繊維が導入され、ハニカムコンストラクションコーンは完成の域に達する。低域ユニットが紙の振動板では得られぬ高速応答性を得ると、次は中域以上の振動板材料の開発である。その回答として、ダイアフラムとボイスコイル巻枠部分を一体成型する加工法と、材料にチタンをベースとし、その表面をボロン化する独自の製法が開発される。
 この結果としての製品が、80年9月のDS505であり、クロスオーバーを350Hzにとったミッドバス構成4ウェイと、システムの高速応答性を意味するデジタル対応システムという表現が新しく提唱されたのである。続いて翌年の大口径DUDドーム型中域ユニット開発に基づくDS503の開発。別系統のトライである80cm、160cm口径の超弩級ウーファーの完成の過程を通り、集大成された結果が今回の4ウェイ・フロアー型という構想のDS5000であり、CD実用化の時期に標的を絞ったデジタルリファレンスに相応しい自信作である。

ヤマハ NS-2000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❸ないし❺でのコントラバスのひびきが筋肉質にひきしまっているのが特徴的である。そのために全体的にすっきりした感じにきこえる。❷でのヴァイオリンには独特の艶があるものの、ひびきとしていくぶん薄めである。❹のフォルテでは、ほんの心もちひびきがきつめになる。総じてこのレコードでのきこえ方では、しなやかな柔らかい音への対応ということでもう一歩といった印象をぬぐいきれなかった。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶のエレクトリック・ピアノのひびきのやわらかではあってもクールな肌ざわりが大変にこのましい。❸のギターの音とベースの音の対比のされ方は絶妙である。ギターの音などは織細さのきわみというべきであろう。また❷でのストライザンドの声は女らしさを感じさせて大変にこのましい。さらに吸う息もまことになまなましい。❹でのひびきのひろがりも充分にあきらかにして、さわやかさを示す。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
アタックの鋭い音に対しての反応が充分なために、このレコードでのきこえ方は、総じてシャープである。❷でのティンパニの音などにしても、ひびきがふくれすぎないために、音像が小さめで、それだけに鋭さをきわだてている。❸での左右への動きなどもスピーディで、したがって❹での疾走感は完璧にあきらかにされている。さらにブラスのつっこんでくる力のあるひびきに対しても充分に反応しえている。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのベースの音がふくらみすぎないために、ピアノの音との対比が申し分なく効果的である。❸ないしは❹でのシンバル等のひびきはくっきり示されるが、質感の提示ということでもう一歩と思わなくもない。❺から加わりはじめる木管楽器のひびきも、その特質をあきらかにしつつ、これまでの部分との音色的な対比も充分につけている。このレコードの特徴あるサウンドをこのましくきかせて、見事である。

ヤマハ MC-2000

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 DADが実用化の第一歩を踏み出した昨年は、伝統的なカートリッジの分野でも実りの多い年であったようだ。なかでもMC型は、普及価格帯での激しい新製品競争と高級機の開発という、二層構造的な展開を見せたが、ヤマハのMC2000は、振動系の軽量化という正統派の設計方針に基づいて開発された高級機中の最も注目すべきMC型である。
 MC型の性能と音質は、発電のメカにズムと素材の選択と加工精度によって決定される。
 MC2000の発電機構は、ヤマハ独自の十字マトリックス方式で、一般的な45/45方式に対応する発電系は持たず、水平と垂直方向に発電系があり、これをマトリックスにより45/45方式に変換するユニークなタイプで、水平、垂直方向のコンプライアンスとクロストークを独立して制御できるのが特徴である。
 振動系のカンチレバーは、素材から開発したベリリュウム・テーパードパイプ採用で、従来型より肉厚を薄く、全長を短くし、芯線径12・7μの極細銅線使用のコイルとあいまって、世界最軽量の0・059mgの等価質量である。これに、独自の段付異種結合構造LTDダンパー、ステンレス7本よりサスペンションワイヤーを組み合わせ、高剛性、無共振ハウジング組込みで自重5・3gとした技術力を高く評価したい。
 適正針圧1g±0・2gと発表されているだけに、アームの選択、細かな針圧調整とインサイドフォースキャンセラー調整などを入念に行なわないと優れた基本性能をベースとした最新MCの音の世界は味わえない。

ヤマハ NS-2000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 いい意味での現代的な音のスピーカーといえるようである。①のようなレコードに対しても、つかいこんで、いわゆるエイジングをおこなえば、音の角がとれて、さらにこのましくきこえるようになるのかもしれぬが、今回試聴したかぎりでは、しなやかな音への対応ということで、いま一歩といわざるをえない。
 しかしながら、②、③、それに④のレコードでのきこえ方は、すばらしかった。これらのレコードにもりこまれている新しい感覚をききてに感じさせる新鮮さがきわだっていた。総じて音色的にあかるいために、フレッシュで生き生きした気配を強めたと考えてよさそうである。しかもこのスピーカーは、力にみちた音に対してもしっかり対応できるので、ダイナミックな部分でも腰くだけにならない。保守的な感覚の人にはどうかなとも思うが、このスピーカーのきかせるさわやかな音は大変に魅力的であった。

オーディオテクニカ AT160ML

菅野沖彦

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 AT160MLは、オーディオテクニカがオリジネーターである、デュアルマグネットによるVM型カートリッジである。この、互いに45度の角度で設置された二つのマグネットによる変換方式は、メカニカルに、カッティングヘッドの構造と相似のもので、同社のMC型カートリッジも、これにならって、デュアル・ムーヴィングコイル方式をとっていることはよく知られているところだ。このAT160MLは、AT100シリーズの最新製品で、私の印象では遂にこのシリーズの究極に近づいたと思える製品である。MLはマイクロリニアスタイラスの略称で、この形状のスタイラスの評価は今後に待つとしても、このカートリッジの音質の品位の高さは特筆に値するものだと思う。音に充実感があり、見事な造形の正確さをもっていて、優れたトレース能力により、レコードの情報を実に豊かにピックアップしてくれる。VM型の発電系がカッターヘッドと相似なら、たしかにこのML針もよりカッティング針に近い形状のものであるのが興味深い。カンチレバーはベリリユウムに金蒸着のムク材を使っているが、全帯域にわたって音色の癖がなく、大変バランスのよい振動系が形成されているにちがいない。MM型としては、中高域の中だるみのないものだが、これは発電系のコアーの継ぎ目をなくしラミネート構造と相俟って発電効率を高めたパラトロイダル発電系によるものとメーカーでは説明している。一貫して主張してきたテクニカのVM型カートリッジの成果として高く評価出来る製品だ。

テクニクス SB-M2 (MONITOR 2)

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶ではすべての楽器が音像的に大きめに示された。❷でもヴァイオリンがたっぷりとしたひびきで示された。音色的にかげりがないのがこのましい。❸でのコントラバスのひびきは、ひきずりぎみにならないところはこのましいとしても、音像的にはかなり大きい。❹のフォルテでもひびきがぎすぎすしない。この辺にこのスピーカーのききやすさがあるといえよう。❺でのリズムは少し重くなりがちである。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❷での吸う息はくっきりと示される。ただ、ストライザンドの音像は大きい。❶でのエレクトリック・ピアノは、ひびきの特徴をよく示しはするものの、多少量感をもちすぎているように感じられる。❹でのストリングスについても似たようなことがいえる。たっぷりひびくが、もう少しさらりとした感じがほしい。❸でのギターもほどほどにシャープである。音色的な面でのトータルバランスのいい音というべきか。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
この種の音楽の再現を特に得意にしているとはいいがたいようであるが、外面的な特徴は一応示しえている。ひびきそのものに多少重みがあるので、❹での疾走感は、ものたりないところがでてくる。それにしても、同じく❹でのブラスの力強いひびきにはそれなりに対応できているので、音色的な面での全体的なコントラストはほどほどにつけられている。❺でのポコポコはもう少しくっきり示されてもいい。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音に独自のあたたかさがある。しかもピアノの音とベースの音のバランスもわるくない。ただ、❺での、これまでの部分との音色的対比ということになると、ピアノの音の硬質なところがかならずしも十全に示されず、充分とはいいがたい。さらに、❷でのピアノの音は、かなりひろがる。しかし、このレコードの音楽がめざすぬくもりのあるひびきにはこのましく対応しているとみるべきである。

ビクター SX-10 spirit

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 SXシリーズのスピーカーシステムは、それまで海外製品の独壇場であったソフトドーム型ユニットを完全に使いこなした製品、SX3の発売以来、すでに10年以上のロングセラーを誇る、国内製品としては例外的ともいえるシリーズ製品である。
 今回のSX10SPIRITは、ソフトドーム型独特のしなやかでアコースティックな魅力を活かしながら、永年にわたり蓄積された基本技術とノウハウをベースに最新の技術を融合して、現代の多様化したプログラムソースに対応できる最新のスピーカーシステムとして完成された点に注目したい。
 SXシリーズの伝統ともいえる西独クルトミューラー社と共同開発のウーファーコーンは新しいノンプレス型であり、コニカルドーム採用はSX7を受け継ぐものだ。ソフトドーム型ユニットは、素材、製法を根本的に見直してクォリティアップをした新設計のもので、トゥイーターのドーム基材の羽二重は、従来にはなかった材料選択である。
 大変に仕上げの美しい弦楽器を思わせるエンクロージュアは、表面桐材仕上げの5層構造で、響きを重視した設計で、ネットワークも結線にカシメ方式を使うなど、まさしく、SXシリーズの伝統と最新技術の集大成といえる充実した内容だ。ソフトドーム型ならではの聴感上のSN比が優れた特徴を活かしたナチュラルな音場型の拡がりと表現力の豊かさは、とかく、鋭角的な音となりやすい現代のスピーカーシステムのなかにあって、落着いてディスクが楽しめる数少ない製品である。

サンスイ B-2301

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 オーディオアンプは、とかく、エレクトロニクスの技術に基づいた製品であるるだけに、回路技術的な新しさや、音質対策が施された部品選択などに注目する傾向が強い。
 一方において、アンプの機械的な構造、つまり、シャシーやケースに代表される機構設計面は、管球アンプの昔から、音質を決定する重要なファクターとして検討はされていたものの、計測データに基づいた、音質との相関性を追求する技術は、いまだに未完成といわなければならぬ実状である。
 この機構設計面でノウハウに基づいた成果を現実の製品に導入した点では、サンスイのアプローチは、時期的にも早く、その成果も非常に大きいと思われる。銅メッキシャシー、銅メッキネジ、真鍮板の構造材などはその例で、これらの手法はその後多くのメーカーが踏襲し、最近の機構設計の定石になっていることを評価すべきである。
 B2301は、BA5000、3000以来、約10年ぶりにサンスイが開発したハイパワーアンプである。1・3kVAの超大型電源トランスに代表される伝統的な強力電源部をベースに、アルミブロックと銅板でサンドイッチ構造とするパワートランジスター取付部、140μ厚プリントパターン採用などに加えて、新開発ダイアモンドパワーステージとカスコード接続プッシュプルブリドライブ段の新採用のほかに、入力系がバランスと一般的なアンバランスと切替使用ができるのも本機の大きな特徴で、回路構成上のユニークさが、これからも類推されるだろう。

テクニクス SB-M2 (MONITOR 2)

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 ②のレコードと④のレコードでのきこえ方がこのましかった。このスピーカーの性格としては、①のレコードでの結果がよさそうに思うが、低い方の音、たとえば❸ないしは❺でのコントラバスの音がいくぶんひびきすぎの傾向があって、もう一歩といった印象である。
 これで低い方の音がもう少しくっきりすれば、全体的な音の印象はさらにすっきりするのだろうし、たとえば③のレコードできけるような音楽への対応のしかたでも前進が期待できるのであろう。このスピーカーのつかい方のこつとしては、俗にいわれるガンガン鳴らすのではなく、いくぶんおさえめの音量できくことが考えられる。そうすることによって音像のふくらみをある程度おさえられるし、おまけにこのスピーカーの音色的な面でのトータルなバランスのよさがいかせるのかもしれない。このスピーカーのきかせる暖かみのある音はききての気持をやさしくする。

ソニー CDP-5000

菅野沖彦

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「プロ用CDプレーヤー ソニーCDP5000試聴記」より

 CDプレーヤーが発売されて、まずまずのスタートをきった。昨年の9月に、一部の新製品が出たが、期待と興味をもって迎えられた第一群の売行きは好評であったときく。一通り、そうした先取りの気鋭に富んだ人達の間に行き渡り、現在は、その第二号機に、より一層の完成度を求める慎重派が待ち構えている気配である。また、メーカーの側も、先行メーカー群──といっても、ほんの2〜3社だが──の成行きを見守りながら、製品の発売を準備している慎重組が控えている様子である。
 こういう革新的な新しいものが出る時は、常に、このような情況になるわけだが、僭越ながらユーザー代表の一人を自認する私のような立場の人間も、言動に慎重を期すべき時期といえる。いつの間にやら、一部では、私はアンティ・デジタル派と決めつけられているようだが、迷惑な話であって、この可能性の大きな新技術の熟度を望む者の一人だと自分では思っているのである。それだけに、この頃は、自宅で、CDを熱心に聴いている。そして、CDが、発売第一号機で、これだけ素晴らしい再生音の世界をつくり出すプログラムソースであり、プレーヤーであることに、大きな喜びと楽しみを感じているのである。そして、CDにとって、再生系のクォリティの水準が高いことが、その真価を発揮させるためにぜひ必要であり、この新しいプログラムソースは、広くコンシュマープロダクツとして便利であるだけではなく、高度なマニアの趣味の対象としても魅力の大きなものになり得ることを感じている。すでに何枚かの愛聴盤も生れたし、街に出れば、CDの売り場を必ずのぞくようにもなった。あの小さなピカピカの円盤への新規な違和感も、今やほとんどなくなった。
 こんな状態の私のもとへ、ある日、コンパクトディスクを演奏するための非コンパクトな大型プレーヤーが持ち込まれてきた。ソニーの局用プレーヤーCDP5000である。12cm径のディスクをかけるためのこの機械は、500(W)×883(H)×565(D)mmもあって、これはスタジオで使うための便利さからきたサイズだと思ったが、なんと、中味はけっこうつまっているではないか。きわめて高精度な頭出し機能やモニター機能、そして、VUメーターなど、放送局などで使うための操作性を万全に備えたプロ機であるため、コンソールのフラットデッキ部分をそれらが占有し、エレクトロニクス部は、下部の台座部分に収納されている。民生用の現在の機器は、ピックアップを移動させてトラッキングしているのに対し、これは、ディスクを移動させる方式をとっている。詳しいことは不明だが、たぶん、フォーカスサーボ系と、トラッキングの送り機構のメカニズムを二分した構造なのであろう。偏心などに対するトラッキングサーボの機構は対物レンズで対処していると思われる。
 CDプレーヤーの音のちがいは、数社の製品の比較で確認させられているし、大方の指摘しているところであるが、このプロ用プレーヤーの音は素晴らしかった。一段と透明度が高く、SN比がよい。現時点でのリファレンスとして、ソニーが開発したいとがよく解る。一般に理解されているデジタル技術の常識による判断を越えた、ちがいがあることは確かであった。それがDAコンバーター以後のアナログ部分の差とだけは断じきれない何かがあるように感じられたのはたいへん興味深いことであった。
 この機械は、また、リファレンス機器として、CDA5000という、アナライザーと組み合わせ、CDの記録データをCRT表示によってTOCやインデックスのエラー、再生時の訂正、補間の回数など、CDのサブコードやオーディオ信号のエラーデータを検出することがCDチェッカーとして機能する。つまり、この機械は、局用のプレーヤーとしてだけではなく、CD生産のプロセスに組み入れて使う品質管理測定器としても使う工業用機器でもあるわけだ。
 とにかく、このCDP5000、今のところ、CDプレーヤーのリファレンスとしての信頼性の最も高いものだと感じられたし、このプレーヤーの水準に達する一般用のプレーヤーがほしいという気にさせる代物であった。プレーヤーとしての基本性能をこのままに、プロ用の機能は一般に必要ないと思われるのでとりぞいて、愛好家用の高級CDプレーヤー誕生の母体となり得るものだし、また、そうしてほしいものである。

アントレー ET-100

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 高価格だが高性能とされていたMC型が、低価格化と超高級化という相反する方向に急激に展開し、カートリッジといえばMC型というほどにまで普及した最近の傾向は、オーディオ史上でも異例なことであろう。MC型の普及をここまで加速させた背景として、電子技術の急速な発達でもはやプリメインアンプでも、MC型ダイレクト使用可能は標準的機能になっていることがあげられるだろう。しかし一方では、独自のリッチな音と高SN比のメリットから、昇圧トランスの愛用者も多い。とくにキャリアの長いファンにこの傾向が強いようだ。
 ET100は、中級昇圧トランスとしてすでに定評が高く、安心して使え、推選できる数少ないロングセラーモデルである。発売後明らかに一〜二度は改良が加えられ、アップ・トゥー・デイトな性能と音質にリフレッシュされているが、今回さらに手が加えられて、一段と完成度が高まった。外観上は同一筐体ではあるが、パネルが限定仕様と同じブラックに変っている。
 音質面では、わずかに穏やかで安定感はあるが、鮮度感が今一歩、といった印象が解消された。みずみずしく、緻密で、適度に力強さと豊かな表現力をもつトランス独自の魅力が素直に出せるようになった。また、3Ωにくらべ弱かった40Ω入力時の音にシャープさが加ったことも見逃せない特徴といえる。

オーディオテクニカ AT160ML

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 カートリッジの性能向上は、駆動系の軽量化という基本的なテーマの解決が最大のポイントであり、カンチレバー先端に位置するスタイラスは、等価質量を小さくするために、その大きさを可能なかぎり微小化することが不可避なプロセスである。一方、針先形状も音満との接触部分をカッター針に近似させるため、円錐形から楕円形に発展し、CD4方式の開発を期にして各種の線接触型が試みられ、高域レスポンスと歪の低減に大きな成果を挙げてきた。
 今回、AT160MLに採用された針先は、従来の針先形状とは一線を画した新形状のマイクロリニア型と呼ばれるタイプで、昨年来、レコード回転数を現在の半分に下げても現状の特性が得られることで注目を浴びたマイクロリッジ型に改良が加えられた形状で、高性能かつ楕円の約3倍のロングライフを誇る画期的なものだ。
 カンチレバーは金蒸着ペリリュウム材、VM型パラトロイダル発電系は、これまでのテクニカ技術の集大成といえるものだ。
 AT160MLは、素直に伸びた帯域感と細かく磨きこまれた微粒子状のソノリティをもち、非常に穏やかで、滑らかであるためおとなしい音に感じられよう。しかし、聴き込めば、音の細部を丹念に描きだし、内側に大変な情報量が含まれていることがわかってくる。しなやかで、豊かさとナイーブさが両立した熟度の高さが魅力だ。

オンキョー Scepter 200

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❷でのヴァイオリンの独特の艶っぽさがこのスピーカーのきかせる音の魅力を端的に語っている。その逆に、❸でのコントラバスのひびきが大きくふくらみすぎるところに、ものたりなさを感じる人もいなくはないであろう。❶でのひびきなどはなかなか特徴的である。ふっくらとまろやかではあるが、音場感的にかなり大きい。それにここでもコントラバスの音が多少強調ぎみに示される傾向がなくもない。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノ独自のひびきの質感はよく示す。しかし、音像的には大きい。❷でのストライザンドの声は女らしいしなやかさを示し、なまなましさひとしおである。これで❸のギターの音が、ここでのように太めにならず、すっきりきりっと示されれば、ひびきのコントラストがついて、このスピーカーが得意とするところのまろやかでしなやかな感じも一層はえるのであろうと思わなくもない。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
この種のレコードはこのスピーカーにもっとも相性がよくないものといえそうである。❷でのティンパニの音にしても、本来のきりっとひきしまったひびきになりえていない。したがって当然、❸での動きにしても、鋭く示されているとはいいがたい。このような人工的なひびきに対して、スピーカーそのものが拒否反応を示しているように感じられなくもない。スピーカーにとって気の毒なレコードであった。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶ではベースの方がきわだってきこえる。ピアノの音はいくぶん薄い。ただ、❷ではピアノの音のダイナミックスの変化は、いくぷん強調ぎみに示す。❺での管のひびきの特徴の示し方と、そのひろがりはこのましい。ただ、これまでの部分との音色的な対比ということになると、硬質な音への対応でものたりないところがあるので、かならずしも充分とはいいがたい。総じてしなやかな音への対応にすぐれる。

オンキョー Scepter 200

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 しなやかな音をきめこまかく示すことに秀でたスピーカーと考えてよさそうである。したがって①のレコードでの❷のヴァイオリンとか、②のレコードでの❷のストライザンドの声などは、まことになまなましい。それぞれのひびきのしっとり湿った感じをよく示している。
 その反面、ダイナミックな音への対応ということで、いくぶんものたりないところがある。その面でのものたりなさが極端にでたのが③のレコードである。③のレコードではこのスピーカーの弱点のみがさらけ出されたという印象であった。
 かなり人工的に録音されている④では、もともとがアクースティックな楽器のひびきを基本にしているために、③でのような破綻はなかった。きめこまかいやわらかい音に強い愛着を示す人にとっては魅力的なスピーカーのはずであるが、もう少し守備範囲がひろくてもいいように思う。