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テクニクス SE-A100

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

軽快で、スッキリとした滑らかさで、キレイな音をもつアンプだ。プログラムソースにはやや間接的な反応を示し、リアリティではやや不足気味だが、力感もあり、一種の安定感がある音だ。電源の安定度、応答性が高く、不安は皆無で正確に作られたアンプという印象が強い。基本的クォリティは充分に高いが、音の鮮度感や、反応の早さは抑え気味で、パイオニアM90と好対照な性格のアンプだ。

音質:85
魅力度:90

50万円未満の価格帯のパワーアンプ

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

 パワーアンプの試聴にあたり、まず使用機器の選択が、最初のポイントになる。従来からのパワーアンプ試聴では、アナログディスクをプログラムソースにすることもあり、何らかの、リファレンス的な性格のコントロールアンプを選択して使うことが多かった。しかし、プログラムソースにCDを使うことが多くなるとともに、CDプレーヤーの定格出力が2Vと高いこともあって、ダイレクトにパワーアンプに接続しての使用も可能になり、リファレンス用コントロールアンプを選択し、使用することの意味が、かなり微妙な問題になってきたように思われる。
 今回は、プログラムソースにCDを使うことにしているが、いかにCD時代が到来しようとも、プログラムソースとしてはアナログディスクの数量のほうが圧倒的に多いはずで、当然のことながら、アナログディスクをプログラムソースとした試聴が必要であることはいうまでもない。
 しかし、アナログディスクには、時代の変化とともに、その本来の音質を阻害する要因が、予想外の早さで増大しているようだ。そのひとつは電源の汚染である。TV、螢光灯、パソコン、ファミコン、100V電灯線を使うインターフォン、同様なリモコンによる電源のON/OFFスイッチなど、電源を通しての汚染が、微弱なオーディオ信号の音質を劣化させていることは、一部では認識されている。これに加えて、最近、アナログディスクの再生に決定的なダメージを与えるものとして登場したものが、家電業界で脚光を浴びているインバーター方式の家電製品の急増である。このタイプは、効率が高く、人に不快感を与える50Hzや60Hzの電源に起因するウナリの発生がなく、使う周波数が高いために、防音や遮音が容易で、エアコン、冷蔵庫、扇風機をはじめ、チラツキが感じられないために蛍光器具にいたるまで普及しはじめている。この方式は、かつて、高能率電源として注目されたが音質面で悪評を浴びたスイッチング電源方式そのものであり、これによるアナログディスクの音質劣化はは、誰にでも容易に判別できる音のベール感や一種のザラツキとなって現れる。
 一方、都市地域では、TV、FM、各種の業務用無線、地方でも、放送局周辺、送電線の近く、航空関係のレーダー、業務用コンピューターの端末機器などの電波による音質劣化の問題は、オーディオのみならず、電子スモッグとして、オートマチック車の暴走問題の一端として、社会問題にまで発展している。
 ちなみに、ステレオサウンド試聴室で簡単にFMチューナーを使って帯域内の雑音のチェックをしたところ、数年前のCD登場時点と比較して、予想以上に質的量的に雑音が増加していることが確認できた。
 これらの原因にもとづいた、アナログディスクの音質劣化の詳細についてはここでは割愛するが、最近では、いかにも機械的な音溝に刻まれている音をカートリッジが丹念に拾い出しているような、レコードならではの独特の実体感にあふれた、深々とした音を聴くチャンスは少ない。都市地域で、それらしい音が聴けるのは各種の放送が少なくなり、人々が寝静まった後の、日曜日の深夜のみ、というのが実情のようである。
 これらの問題を総合して、現状では、アナログディスクの音質の確保が難しい、という判断をしたため、試聴用のプログラムソースに、アナログディスクの使用を断念し、CDのみを使うことにした。
 試聴時に、音量をコントロールする(変化させる)ことは、パワーアンプの場合においても、ローレベルからハイレベルの応答をチェックするために不可欠の条件である。一部のパワーアンプには、質的に、実用レベル内に入る音量調整機構が付属しているが、ダイレクト入力専用のタイプもあり、何らかの外付けの音量を調整するアッテネーターを選択しなければならない。
 ここでは、編集部で集められた数種類のアッテネーターをチェックした結果、50万円未満のパワーアンプの試聴には、やや大型な筐体が気になるが、チェロのエチュードを使うことにした。このアッテネーターは、音の傾向として、かちっとしたシャープな音が特徴であり、程よく音のエッジをはらせて明快に聴かせる傾向が強い。質的、量的に高級機と比べてハンディキャップがあるこの価格帯のパワーアンプには、全体に音の抑揚を抑えてキレイな音として聴かせるタイプのアッテネーターよりも、よりふさわしいと思われるからだ。
 しかし、リファレンス用アッテネーターとしては、固有の性格を少し抑える必要があり、設置方法を含め、必要にして充分なレベルまで追い込んで使っている。
 試聴用のCDプレーヤーは、一種のリファレンス的なキャラクターを持つソニーCDP555ESDを2台用意し、パラレルに使用している。その主な理由は、プログラムソースの音質を可能な限り一定の範囲内に確保し、再現性のある試聴条件を保つためである。一般的に、CDプレーヤーでその音質を変化させる原因は予想以上に多いが、なかでももっとも大きな問題点でもあり、使いこなし上でも重要なことは、ディスクの出し入れ毎に生じる音の変化である。
 CDプレーヤーにディスクをセットして音を聴いてみよう。次に、一度イジェクトし、再びプレイして音を聴く。この両者の間に、かなり音質の違いがあることが多い。柔らかいソフトフォーカス気味の、おとなしい音から、ピシッとピントの合ったシャープな音に変わる、かなり激しい例から、やわらかめとシャープなどという程度の差こそあれ、ディスクの出し入れ毎に生じる音の変化は、現在のCDプレ比ヤーでは、必ず生じるものと思ったほうがよいようである。この現象は、CD初期にある理由にもとづいて見つけだし、本誌誌上でもリポートしたことがあるが、その後この変化量が少なくなっていればよいわけであるが、CDプレーヤーの基本性能、音質が向上するに伴い、むしろシャープな変化を示す傾向にあるようである。その原因のひとつとして、セッティング毎に変化する──ターンテーブルとCDとの機械的な誤差による──オフセンター量の違いによる読み取り精度や、サーボ系の変動などが考えられている。偏芯が問題であるとすれば、CDプレーヤー側での精度向上が要求されることは当然のことながら、このところCDディスクのセンターホールの誤差や偏芯の量が大きくなっているとの情報もあるだけに、もっと問題視されてしかるべきCDとCDプレーヤーの問題点であると思う。
 CDをプログラムソースとした場合に、不可避的ともこの問題を、いくらかでもクリアーしようとする目的で、一台のCDP555ESDには、試聴ディスクの、カンターテ・ドミノを常時セットしたままにし、もう一台に、他のディスクを交互に入れ、試聴をすることにした。
 スピーカーの選択は、各種の試聴でももっとも重要なキーポイントである。今回の試聴では、各種のスピーカーシステムを使い、それぞれのリポーターは単独で試聴するという編集部のプランにもとづいて、50万円未満にはダイヤトーンのDS3000、50万円以上100万円未満の価格帯の製品用には、同じくDS5000を使うことにした。
 私が担当した両価格帯共通にDS3000を使うことも考えたのが、せっかく編集部で5000と3000の2モデルを手配してあったこともあり、異なったスピーカーを使うことになったわけだ。2モデルのスピーカーシステムは、ともに同じメーカーの4ウェイ構成のシステムであり、中低域の再生能力の向上をポイントとしたミッドバス構成という共通の設計方針に基づいたタイプであり、音質的な面でも共通性が多い。
 試聴用スピーカーシステムに4ウェイ構成のシステムを使うメリットは、3ウェイ構成では音楽のファンダメンタルを受け持つウーファーの受持ち帯域が、4ウェイではミッドバスユニットと2分割されるために、重低音にポイントをおけば中低域が弱くなり、中低域を重視すれば重低音が再生しにくいといった3ウェイ特有の制約が少なく、音楽再生上重要な中低域に専用ユニットをもつメリットはかなり大きい。しかし、ユニットの数が多いだけに、ユニット配置を平均的に処理をすると、音像定位が大きくなりやすいのがデメリットだ。その点、今回の2モデルのシステムでは、平均的な3ウェイ構成と比較しても、音像定位での問題点は少ない。50万円未満の価格帯のパワーアンプはDS3000で通して試聴を行い、そのなかの約2/3の製品については、スピーカーをDS5000に変えて、再び試聴を行い、50万円以上100万円未満の価格帯のパワーアンプ間との関連性をもたせようとした。
 試聴用のコンポーネントのセッティングは、ステレオサウンド誌の新製品リポート取材に使う、私自身の方法を基準としている。2台のCDプレーヤーとアッテネーターは、それぞれ独立した(ラック同士が接触しないという意味)ヤマハGTR1Bオーディオラック上に、置き台そのもの固有音を避けるためにフェルトなどの緩衝材を介して置いてあり、3個のオーディオラック内には、他の物はいっさい置いていない状態に保ってある。
 試聴用アンプは、ほぼスピーカーの中央延長線上で、オーディオラックに近い位置に、大きなアピトン合板積層ブロック状に緩衝材を介してセットしてある。
 スピーカーは、ヤマハ製のNS2000用に作られたスタンドSP2000上に置いてある。ちなみに、重量の大きなブックシェルフ型スピーカーでは、安定した音質を引き出すためには、予想以上にガッチリしたスタンドが要求され、DS3000クラスともなると、専用スタンドDK3000か、このヤマハSP2000くらいしか使えるものはないようだ。
 電源関係は、試聴用パワーアンプは試聴室左側の壁のコンセントからダイレクトに、CDプレーヤーは反対側の壁の別系統のコンセントから分離して給電し、相互の干渉を避けている。機器間の接続ケーブルはいろいろと比較試聴した結果、基本的に情報量が多いオーディオテクニカ製の2種類のPCOCC線を、RCAピンプラグに少しの制動を加えて使っている。2台のCDP555ESD間の細かなバランス補整は、設置方法も加えて実用レベル上問題にならない範囲に近づけてある。なおスピーカーコードは、同様に試聴の結果、ステレオサウンド試聴室で常用しているトーレンスの平行2線タイプの太いコード(C100)を使った。
 まず試聴用のCDプレーヤーとスピーカーのセッティングの実際を説明しよう。
 セッティング用に使用したリファレンスアンプは、100万円未満の2種類の価格帯のパワーアンプ中で、強いキャラクターがなく、ある種の市民権を獲得しているもデルとして、アキュフェーズP500を選んだ。このアキュフェーズP500を使い、基本的なセッティングを行ったが、各種の試聴用パワーアンプのクォリティ、キャラクターに応じて、CDプレーヤーやアッテネーターの手もとでコントロールできる部分では設置条件を変えて試聴している。ただし、試聴用パワーアンプとスピーカーのセッティングは、一定の条件に固定してあり、この部分でのコントロールは行っていない。
 基本的なセッティングは、パワーアンプの性能、音質をヒアリングでチェックすることを目的としているために、必ずしも音楽を聴いて楽しい方向ではなく、やや全体に抑え気味なセッティングを行い、目的に相応しいものとしている。したがって、新製品リポート時と比較すれば、それぞれのパワーアンプは、その内容をストレートに見せる対応を示したため、かなりシビアな音が度々聴かれることになった。
 パワーアンプの試聴で、いつものポイントとなるのは、ウォームアップの問題である。試聴に先だって、各パワーアンプは約3時間電源を入れ、30分間ダミーロードを負荷として信号を加えてウォームアップさせてあるが、実際にスピーカーを負荷として試聴をはじめると、かなり大きな音質変化が見受けられる例が多い。一部の変化が多いモデルについては、それなりのリポートを加えているが、詳細については、後半の50万円以上100万円未満の価格帯のほうで記すことにしたい。
 50万円未満の価格帯のパワーアンプでは、今回試聴した最低価格の製品と上限の製品の間には、約3倍の価格差があり、もともと物量が要求されるパワーアンプであるだけに、とくに20万円未満のモデルはかなりのハンディキャップがあり、上限との価格差が約2倍の25万円クラスまで範囲を拡げてみても、これはという存在感や、明確なキャラクターをもった好ましいパワーアンプの方が、例外的な存在であったのは仕方のないことだろう。
 今回の試聴では、試聴メモ以外に、音質と魅力度の2種類の採点が編集部より要求されているが、音質というひとつの意味のなかには、スピーカーのドライブ能力、聴感上でのノイズの質と量、ウォーミングアップの音の変化傾向と変化幅などの電気系の基本的条件をはじめ、筐体構造面での共振、共鳴や、電源トランスのウナリなど、機械的な面からの音質から、音楽再生上でのいわゆる音量まで、多彩をきわめ、結果的には採点のダイナミックレンジは、かなり圧縮方向になりやすく、この価格帯では、上下10点の幅にしかならない。魅力度については、かなりエゴと独善的な傾向で判断している。
 50万円未満の価格帯のパワーアンプでは、基本的に需要が少ないこともあって、短絡的にプリメインアンプのパワー部と比較してみると、パワー当たりのコストはかなり高価にならざるをえないが、パワーアンプとしてはローコストなジャンルにあるため、パワーアンプという言葉の意味に相応しい、バランスよく力強い音やデザインを持つ製品は期待薄であるようだ。したがって、ひとつのチャームポイントがあれば、それでよしとする他はなく、とくに25万円クラスまでは、何のチャームポイントを持つかが重要である。それ以上の価格帯になると、パワーアンプらしい音質、デザインを備えたモデルが増し、パワー的にも実用上で充分のものがあり、セパレート型アンプならではの楽しみが存在すべきはずであるが、ある種の定評のあるものが、やはり好ましい結果を示すといった、フレッシュさを欠く印象が強い。
 全般的な傾向としては、編集部の洗濯基準で、いわゆるカタログモデルとしては存在するが、容易に入手することはできない、発売時期の古い製品は除いているために、結果として、予想外に海外製品が数多く存在し、国内製品が少なく、やや個性型の海外製品に対して、物量投入型の国内製品という印象が強い。
 目立った製品は、パイオニアM90、テクニクスSE-A100の2モデルである。ともに、パワーアンプは電圧・電力変換器であるという基本に忠実に、オーソドックスに設計され、完成されたモデルという感じである。
 音質的には、ともにクォリティは充分に高く、余裕をもって安定した楽しい音楽を聴かせるM90と、音の純度を高く保ちながら、良い音を正確に聴かせようとするSE-A100というように、かなり対照的な音と魅力をもっている。ともに基本に忠実に、手を抜かず、気を抜かない、といった本質が、よく音に出ている傑作だ。
 アキュフェーズP102とQUAD606は、日本的にリファインされた、しなやかで細かい音と、英国製品らしい常識をわきまえた鋭い感覚が、現代的に開花した好ましい音という、それぞれのお国ぶりが素直に音に出た良いモデルである。反応の早い、小型で高性能なスピーカーを楽しみたいときには、最適の選択になるだろう。
 管球タイプの、ラックスマンMQ360、エアータイトATM1は、ラックスマンとエアータイとのブランドが持つ雰囲気のように、しなやかで暖かいMQ360、明解で、カチッとしたソリッドな傾向があるATM1と対照的で、内容と外観がともに一致した好ライバル機だ。ともに、ソリッドステートアンプとはひと味異なった、味わい深い音が魅力である。
 デンオンPOA300ZR、ナカミチPA70は、ともに素直なキャラクターと、価格に相応しい材料を投入して開発されたモデルで、資質としては、かなりの可能性をもっている。しかし、デンオンは帯域感がいままでの同機とはやや異なり、ナローレンジ型の安定度重視型に変わり、メインテナンス面でのエージング不足傾向もあり、ややイメージの異なった音である。ナカミチは、キレイに磨かれた滑らかで純度の高い音をもっているが、KODO三宅の太鼓で電源のヤワさをみせたなど、期待できる音をもつだけに、欲求不満が感じられる、というモデルである。
 デンオンPOA2200は、発売当初の軽量級の音ではあるが、フレッシュな感覚の反応の早い魅力がやや抑えられ、穏やかな音に変わったのは、おそらくエージング不足のためで、残念な感じがする。
 ハフラーのXL280は、国内製品では得られない音づくりの巧みさが面白く、QUAD405-2は、アナログディスク向きで、CDプログラムソースでは606の魅力が光る。マランツMA7は、やや追い込み不足か。A級動作ではよいのだが、クォーターA級動作では、一種の表現しがたい不思議な音に変わる。アンプの名門ブランドだけに、この辺かはテスト機種のみの問題であるように祈りたい。
 アキュフェーズP300Vは、リファインの表現が相応しい改良であるが、ややエージング不足気味で、色彩がやや物足りないが、後日行った新製品リポート取材時には、全く同じ製品がそれらしい音を聴かせてくれた。カウンターポイントSA12も同様に、少し寝起きの悪い音が気になるが、安定感は充分にある音が聴かれた。ルボックスB242も、使いこなせばかなりの魅力が引き出せそうな音である。

マランツ MA-7

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

中低域ベースの個性型の音が目立つアンプだ。音の粒子は粗く、全体にマクロ的に音を聴かせるが安定感に欠け、表面的な浮いた音になりやすい。太鼓連打でチェックすると電源は水準のレベルにあるが、スケールが小さく、シャープさ、力感がない。試しにリアパネルの切替えスイッチでA級動作に替えてみる。音の純度は格段に向上し、音量を特別に要求しないかぎり、それなりのモノ構成らしい音が聴かれた。

音質:70
魅力度:75

ルボックス B242

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

充分にコントロールされたスムーズなレスポンスと、柔らかい雰囲気、適度にエッジの張った硬質な魅力が巧みにバランスした、いわは、人工的な独特の雰囲気が味わいになっている音だ。カンターテ・ドミノでのホールの響き、消えていく音がキレイであり、楽器の音に輪郭を程よくつけて聴かせるエンハンサー的な効果は面白い。ウォームアップは穏やかで、やや硬質な音から余裕の或る安定した音に滑らかに移行する。

音質:81
魅力度:84

ナカミチ PA-70

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

音の粒子が滑らかで細く、線を細くキレイに聴かせるアンプである。レスポンスはナチュラルで強調感は少ないが、注意は少し薄く、音像は少し奥に引込んで定位する傾向がある。ウォームアップは、6曲目あたりで安定し、低域の質感も標準的になるが、豊かさは少し不足気味だ。プログラムソースでは、木管合奏のハモリが美しく、雰囲気よく聴かせる。質的には充分に高いだけに、密度感、力感が少し欲しく思われる。

音質:85
魅力度:86

デンオン POA-3000ZR

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

レスポンスはスムーズであるが、旧モデルよりは少しナローレンジ型に変わり、安定度が向上したように聴こえる。ウォームアップにより素直で少し線の細いスッキリした音から、安定感のある少し暖色系の音に変わる。性質は素直で、アッテネーターの個性をクリアーに聴かせるが、スムーズで濃やかなタイプにマッチする。予想よりも反応の早さ、分解能のよさが出ないのは、メインテナンス面でのエージング不足であろう。

音質:85
魅力度:86

カウンターポイント SA-12

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

厚みのある安定した音と強調感のないスムーズなレスポンスが特徴。音の粒子は基本的に粗いタイプだが、程よく磨かれており、細部を引き出しはしないが、これが一種の安定感につながり、安心して音が聴けるメリットにつながる。音像定位は少し大きなタイプで、音場感は標準的にとどまる。中域に少し硬質のキャラクターが聴かれるが、アッテネーターの特徴が加わったようで、低域も少しタイトに感じられる。

音質:80
魅力度:84

ラックス MQ360

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

ナチュラルな帯域バランスと、適度に芯があり、管球アンプらしい、リッチさのあるバランスのよい音が特徴。1曲目のヴォーカルは表面的な薄さのある伸びない音だが、ウォームアップはソリッドステート型よりも早く、3曲目あたりで安定度が向上し、低域の質感がよくなる。表情は適度に豊かで、プログラムソースとの対応もしなやかである。アッテネーターのキャラクターが巧みにマッチした印象の音である。

音質:81
魅力度:86

QUAD 606

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

軽快で爽やかな音をもつ、適度にフレッシュで、反応の早い音が特徴のアンプ。音像は小さくクリアーに立ち、音場感はナチュラルによく拡がるタイプであるが、聴感上でのSN比はやや不足気味で、録音系のノイズの質にラフさが感じられる。木管楽器は少しメタリックさが残るが、柔らかさ、暖かさがあり、雰囲気もよくまとまる。ビル・エバンスは、芯の甘さが残り、エネルギー感が少し不足し古さが出ないようだ。

音質:81
魅力度:86

リンクス Stratos

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

基本的には、細身でシャープな音で、ナチュラルな帯域バランスに特徴があるアンプだ。音の粒子は適度に磨かれ、エッジも程よく立つタイプであるが、音の分離が今一歩不足気味で、音色に少し乾いた面があるようだ。プログラムソースとの対応も自然で、使いやすいメリットはあるが、200Wモノアンプというイメージからくるプレゼンスの良さと、パワー感を、使いこなしで、どのように引き出すかがポイント。

音質:79
魅力度:80

アキュフェーズ P-102

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

キメ細かで、スッキリとした純度の高い音である。ヴォーカルは、小粒、軽量にまとまるが、非常に濃やかで一種のモロさがある。カンターテ・ドミノは小さくまとまり、空間の見通しの良さは予想より少ない。弦楽合奏では楽器が小さくなり、キレイに響くがリアリティは不足気味。個性が明確であり、クォリティは高いだけに、専用のセッティングをして、追い込めば、独特の魅力が引き出せるであろう。

音質:83
魅力度:86

ミュージカルフィデリティ A370

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円以上100万円未満の価格帯のパワーアンプ15機種のパーソナルテスト」より

フラット指向型の帯域バランスと、明快でクッキリとした硬質な音である。プログラムソースとの対応は、硬質でエッジの効いた判りやすい音として聴かせるが、音楽のある空間の拡がりの差や、残響の消え方、暗騒音の細部などは不明瞭であり、柔らかさ、余裕度が不足気味であり、表現が硬く、単調になりやすい。この傾向は、エージング不足の場合に、よく聴かれるもので、太鼓連打での電源部チェックも標準的だけに、やや残念な思いがする。

音質:80
魅力度:82

スレッショルド SA/3

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円以上100万円未満の価格帯のパワーアンプ15機種のパーソナルテスト」より

フラットでピチッとした印象の帯域レスポンスと、適度に硬質でクッキリと粒立つ明快な音が特徴のアンプだ。音像は少し大きくまとまるが、クリアーに立ち、音場感も素直に拡がる。プログラムソースとの対応は、音の傾向から予測したよりはナチュラルで適度にエッジの効いた判りやすい音として聴かせる。金管合奏は安定感があり、濃やかさは少ないが、金管らしい響きは、かなりリアルだ。ビル・エバンスは程よく古く、これは楽しい、という音だ。

音質:83
魅力度:86

エアータイト ATM-1

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 詳細は割愛するが、当然の帰結とでもいうべきオーディオのスペシャリティメーカーの誕生と、その第一弾製品の登場だ。簡単にいえば、旧某社の営業担当と技術系担当者が『音を出す測定器ではなく、音楽を楽しみ、使い込むに従い愛着のわいてくる製品開発』を会社設立の目的として発足したA&M社の開発による、管球タイプのステレオパワーアンプがATM1であり、エアータイトがそのブランドネームだ。
 ATM1は、管球タイプパワーアンプの最大のポイントである出力トランスには、放送局用や防衛庁規格のトランスをつくる技術力と実績を誇るタムラ製作所の製品を採用している。定インダクタンス型で、トランスの特性を左右するアンバランスのDC電流が10mAと大きく、トランスの実損失が最低限の0・25dBのタイプだ。
 電源部の電源トランスや、リップルを減らすためのチョークコイルは、構造的にウナリの出ることが不可避ともいえるもので、この振動がオーディオ信号を変調し、音質劣化の原因となるものだが、ここでは、余裕のある1ランク上のタイプを採用し対処している。シャーシは一部に銅メッキ処理がされ、前面のパネル部分は、8mmアルミ押出し材のアルマイト・ヘアーライン仕上げで、シャーシはメタリック塗装4段階重ね塗り仕上げ、ツマミもアルミ削り出し製である。
 回路構成は、いわゆるリーク・ミュラード型といわれる方式のようで、初段の電圧増幅は、左右チャンネル共通の12AX7採用、位相反転12AU7、終段6CA7のUL接続、整流用に2本の5AR4使用というのが大きな特徴である。整流管か半導体ダイオードかは、音質上でも興味のある注目のポイントだ。その他、使用部品は、ソケット類にラックス製とシンチ製、半固定VRに密閉型大型巻線型、無酸素銅配線材も採用する。音に影響のあるプリント基板の排除も特徴のひとつ。機能面では、フロントパネルとバックパネルに2系統の入力端子があり、フロントのCDダイレクト端子は、最短距離で初段に信号を送る。完成品は100時間のエージングを行い、再び最終調整をするという、管球タイプのポイントを押えた品質管理が実施されており、その価格対性能・音質は非常に高いものであるといえる。
 CDを使いパワーアンプ特集の試聴に準じ、単体で聴く。基本的に、特定のキャラクターを排除し、ナチュラルな音を志向した方向の音だ。帯域バランスは適度の広さで、帯域内の音色変化やエネルギー的なアンバランスが少ない。丹念に減点法で欠点を抑えて作られた印象が強く、その意味では信頼感が高いが、音楽的な表現力では、キャラククーの少なさ色付けの少なさが、やや物足りなさに通じる。タンノイ系や英国系全域ユニットと組み合わせたいパワーアンプだ。

パイオニア C-90, M-90

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 本格的なデジタル&AV時代に、多機能にして音質を優先するという、二律背反な追求を実現させた新製品が、セパレート型アンプC90とM90である。
 コントロールアンプC90は、多様化とともに、ハイグレード化するオーディオとビデオ信号に対応するために、オーディオ入力6系統、ビデオ入力6系統などの入出力端子を備え、リモコン操作も可能だ。
 設計面での最大のポイントは、コントロールアンプという同じ筐体中で、ビデオ信号を入出力する機能を備えると、いかに努力をしたとしてもアースや電源からのリケージで、ビデオ信号がアナログ信号に影響を与え、音質を劣化し、多機能とハイクォリティの音質は両立しないのが当然のことであり『アンプにビデオ信号を入れると音が悪くなる』という定説がうまれることになるが、パイオニアでは独自の技術開発によるAVアイソレーションテクノロジー(特許出顔中)により、入力信号間の干渉を徹底して排除した点にある。
 その内容は、左右オーディオ系とビデオ系に専用電源トランスを使う電源トランスのアイソレーション、オーディオ回路とビデオ回路のアースラインを独立させ、なおかつビデオ系の最終シャーシアースをオーディオ系に対してフローティングし干渉を抑える電気的アイソレーション、映像系と音声系入出力端子の距離をとり配置するとともに、基板の独立使用、シールド板などによるメカニズム的な飛付きを遮断するアイソレーションと、アナログディスクやCD演奏中には使っていないビデオ系の電源を切るビデオ電源オート・オフ機能の四つのテクニックが使われている。
 機能面では、リモートコントロールを駆使できることが最大の魅力のポイントだ。アルミ削り出しムクのツマミは、クラッチ付モータードライブ機構を備えており、SR仕様(パイオニア統一システムリモコン)専用リモコンユニットを標準装備しており、入力切替、ボリュウム調整などの他に、パイオニア製品のCDプレーヤー、LDプレーヤー、VTR、チューナー、カセットデッキなどの他のコンポーネントの主な操作も可能である。
 また、映像関係の機能には録再出力系にシャープネス、ディテールとノイズキャンセル調整付きビデオエンハンサー装備だ。
 EXCLUSIVEを受継いだ音質重視設計は、筐体の銅メッキシャーンとビスの全面採用、基板防振パッドと70μ銅箔基板、無酸素銅線配線材、黄銅キャップ抵抗、無酸素銅線極性表示の電源コードや樹脂とアルミによる2重構造フロントパネル、ポリカーボネイト製脚部の採用などがある。
 回路面ではシンプル・イズ・ベストを基本に、高品位MC型力−トリッジ再生を目指したハイブリッドMCトランス方式、多電源方式を基盤としたモノコンストラクション化とロジック化による信号経路の最短化設計などが見受けられる。
 M90は単純なパワーアンプと思われる外観をもつが、内容的には2系統のボリュウムコントロール可能な入力と一般的な入力の3系統をもつ、ファンクション付パワーアンプというユニークな構成で、パワーアンプ単体で必要にして最低限の機能を備え、プリメインアンプ的に備える魅力は、一度発表されてしまえば簡単に判かることだが、セパレート型アンプの基盤をゆるがしかねない。多様化する現在のマルチプログラム化とシンプル化の両面を満足させる企画の勝利ともいえる成果だ。
 パワー段は、4個並列接続(片チャンネル8個)、200W+200W(8Ω)ダイナミックパワー310W(8Ω)810W(2Ω)のパワーを誇り、ノンスイッチング回路TypeII採用である。電源部は左右独立トランス採用、銅メッキのシャーシとビスなどはC90と共通である。ただし、重量級電源トランスを2個採用しているために、筐体はトランスを支えるH型構造と黄銅のムク材の柱を介したトランス専用脚を含む5個のポリカーボネイト製脚部に特徴がある。なお、フロントパネルはC90共通の2度のアルマイト処理、バフ研磨の漆調のエ芸晶的な仕上げである。
 C90とM90の組合せは、多機能型の印象の枠を超えた、予想以上に十分に磨き込まれた、細かく滑らかな音の粒状性をもつことにまず驚かされる。このクォリティは、オーディオ専用としても見事なものがあり、アナログディスクも、スクラッチノイズの質と量からみて、水準以上の音質と音場感を聴かせる。試みにM90単体にする。2系統の可変入力間の音の差も抑えられており、さすがにダイレクトな鮮度感は高くは、当然ながら自然な結果だ。

マッキントッシュ MC2500

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 能率の低いGS1を鳴らしきる最高のアンプはこれだ。ヴァイオリンの質感もしなやかで申し分なし。ピアノも輝かしくボディもふっくらしてタッチが生きる。弦楽合奏も、刺激的な音は一切無縁でリアリティのあるものだった。オーケストラのトゥッティはまったく堂々たるもので、いかなるクレッシェンドにも安心してついていける。ブラスの輝きと強さはこのアンプならではの感じが強い。メル・トーメのヴォーカルは暖かく、うるおいがあって最高。

オンキョー Grand Integra M-510

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 GS1を鳴らすために開発されたといってよいM510パワーアンプだけあって、大変よいマッチングだ。しかし、このアンプをJBL4344で聴いた時のファットな感じは、ここでも感じられる。オンキョーの好きな音なのだろう。また、弦、木管の鳴らし分け、フルート、オーボエの音色の識別などがややあまい。高域の弦の質感がややざらついた感触であるが、それだけにタッチは鮮やか。明るく艶麗な響きはP500に一脈通じるものだが、一味違う。

マイケルソン&オースチン TVA-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 GS1はやはりアンプの違いをよく出すスピーカーだ。このアンプのもつ脂ののった、こくのある音にスピーカーが豹変する。やや粗さも出るが、この熱気のある音は、特にクレーメル、アルゲリッチのベートーヴェンの、レコードとしては稀に聴ける精気の一貫した流れをもつ演奏に同質の生命力を表現した。メル・トーメの歌が実にバタ臭く、味が一段と濃厚になる。大オーケストラはさすがに、やや濁りのあるトゥッティだった。もう倍のパワーが必要だ。

ウエスギ UTY-5

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 低能率スピーカーにはパワー不足を覚悟しながら、あえて組み合わせてみた。大音量は無理だが、実用的に十分だ。UTY5を4台使えば問題は解決するし、価格的にもスピーカーとバランスする。この、しなやかでさわやかな弦の音はなんとも美しく、木管と弦の音の響きの対照がリアルで素晴らしい。アルゲリッチのピアノが一つ激しさと脂っこさが不足するが、きわめて透徹だ。GS1の質の高さを浮き彫りにするには最適のアンプといえるだろう。

アキュフェーズ P-500

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 クレーメルのヴァイオリンが滑らかすぎるくらい滑らかで、彼の音としては甘美にすぎると思われるが、独特の魅力ではある。弦合奏も少々ねばりと艶が誇張されるが、これまた色っぽく魅力である。もう一つ各楽器の質感を明確に鳴らし分けてくれたらと惜しまれる。オーケストラも、もう少し鋭い粒立ちがあったほうがリアリティが出ると思われる。このアンプで鳴らすGS1の音は、他のアンプでは味わえない艶麗なもので好みが分かれるだろうが得難い美音。

カウンターポイント SA-4

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 一度鳴らしてみたかった組合せである。当たった。実に魅力的なコンビネーションである。クレーメルのヴァイオリンはやや美化され過ぎるが、輝きと粘りのある質感で、ボーイングの力感が感じられるようにリアルであった。ピアノの音色の透明感と冴えは見事なものだ。弦合奏のなんとも魅力的な動きの実感と音色の美しさ。ふっくらとした弦の弓の弾力性が感じられるかの如きであった。アンプがスピーカーによって魅力を引き出された感じであった。

クレル KSA-100MKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 MKIIになって一味、あの魅力は失ったとはいえ、クレルのアンプというのはマッキントッシュの対極にあって高い次元の音をもっていると思うので組み合わせてみた。これは意外にJBL4344を鳴らしたときよりも生き生きとしてくる。XRT18のグラマラスな肉体を引き締めて、しかも、スピーカーのきめの細かくしなやかな高域にマッチして思わぬ美音にうっとりさせられた。このスピーカーのほうがアンプを高く評価することになるだろう。

マッキントッシュ MC7270

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 この優れたステレオフォニックスビーカーシステムにとってベストマッチのアンプであることが確認できた。ただ、JBL4344をあれほど魅力的に鳴らしたアンプだが、ここではXRT18の陰に廻って、そこから自然な音をさり気なく鳴らす縁の下の力持ちといった感じになる。しかし他のアンプで一通り鳴らした音を思い起こすと、やはりこの音がもっとも自然で素直で、かつ魅力的だ。音場の見透しといい、各楽音の質感といい、最高のレベルである。

パイオニア Exclusive M5

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 瑞々しいヴァイオリン。毅然として精神性の高いクレーメルのヴァイオリンが生きる。緻密で細やかな音はXRT18の甘口を辛口の方向へ持っていくが、決して細身にしたり神経質に過ぎることはない。ただ、漂うような空間感や、脂ののった濃艶な魅力は希薄になる。メル・トーメは現代的な感覚が生きて実にさわやかで軽やかになる。頭で考えるほどの違和感はなく、難をいえばスピーカーのパワーハンドリングに対してアンプのパワーがやや不足すること。

オンキョー Grand Integra M-510

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 この組合せはやや期待はずれに終わった。クレーメルの音が太くなり過ぎるし、艶や甘美な情緒が理を過ぎる。それでいて高域にやや粗さも出るようだ。弦楽合奏では、ざらつきとさえ感じるような、このスピーカーでは考えられない質感が出てくるのには驚かされた。擦弦のタッチが強調されるようである。また、大編成オーケストラのppも十分さわやかとはいえないし、fでの金管がひとつ輝きに不足する。このアンプは明らかにJBL4344のほうが活きる。