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リン LP-12 + LV-II

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーはスコットランドの製品で、大きな特徴はフローティングマウントシステムを採用していることだ。トーレンスのTD126シリーズと同じような考え方である。これは大体ヨーロッパのプレイヤーシステムの主流だ。このことに関してはほかのところでもう少し詳しく述べたい。このリンソンデックの場合は、フローティングが大変うまくできている。見た目にはあまり有難味のない、この値段に匹敵しない仕上げ、デザインで、おそらく普通の人がちょっと見ただけでは、これは五、六万円のプレイヤーじゃないかと思うだろう。プレイヤーは音がよければいいということではなくて、見た目も非常に重要な要素だと思うので、この点に関してはリンソンデックに対する私の評価は非常に低い。いかにいい音がしても、高級プレイヤーシステムとして家庭に持ってきて、大事に扱おうという気が起きないようなデザインではダメだと思う。ここまですばらしいものを作りながら、このデザインで平然としているリンソンデックのセンスには私としてはちょっと共感しかねる。ところが実際に音を聴いてみるとこれがビックリ。私はリンソンデックのプレイヤーはオーディオ界の七不思議の一つだと思っているけれども、とにかく大変に音のすばらしいものだ。今回は、リンソンデックが最近出したアサックというカートリッジを付けて試聴した。トータルでリン・ディスク・システムと呼ぶ。
音質 このアサックを付けて試聴した感じでの音は、とにかく非常に重心の低い落ち着いたエネルギーバランスで、ピアノを聴いても打楽器を聴いてもガッチリとした、しっかりとした音で実に重厚、剛健というか、音楽の表現力が非常にたくましく躍動する。やや繊細さには欠けるような感じがして、もう少しデリカシーの再現ができればいいと思うが、しかしこの力と豊かさがわれわれの聴感には非常に心地よいバランスだ。これは非常に特異なものだと思う。ベースの太くたくましい、ズシンとくるような響きの豊かさというのはほかのプレイヤーと一線を画して魅力のあるものだと思う。ただベースの音色的な細やかな変化はあまりきかれない。そういう意味では先ほど述べた、繊細さに欠けるということにも通じるかもしれない。それからリズムは下へ下へ、グングン押しつける傾向のリズムで、上へはねる傾向には聴こえない。このへんがこのプレイヤーの特色だろう。しかし、ドラムス、ベースはジャズを聴いても迫力十分だし、オーケストラを聴いた時の厚みのある低音弦楽器部分の怒とうのように迫る響きはなかなかのもの。管の音もバスクラとかバスーンとか、そのへんの領域の音が非常に奥深く、深々と鳴ってくれる。こういうところが、このプレイヤーならではの充実した再生音だろうと思う。奥行き、音場感、これもなかなか豊かで、ステレオフォニックな音場感がこういうように再現されるというのは、プレイヤーの共振モードが大変にうまくコントロールされているのだと思う。私の感じたところによると、500Hzから800Hzあたりが非常に豊かに響いてくる。これが音楽を奥深く感じさせることになっているのではないかと思う。高域の弦楽器群、バイオリンのハイピッチの音などは、決してしなやかとまではいかないけれども、とげとげしくもない。

リン LP12, ITTOK LV-II, ASAK

リンのターンテーブルLP12、トーンアームITTOK LV-II、カートリッジASAKの広告(輸入元;オーデックス)
(別冊FM fan 30号掲載)

LP12

リン LP-12 + LV-II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」より

●音質/明るく、引締ってなかなか良い音だ。とくに低音から重低音にかけてのコントロールに特徴がある。たとえばバスドラムやベースの低音。量感が十分でありながらキリッと引締めて、音階の変化や音色の違いがとてもよく聴き分けられる。スネアドラムやシンバルの音は、粒立ちの良さをことさらに感じさせはしないが、音がめり込むようなことはなく、爽やかな切り味が楽しめる。音が決して乾きすぎていない。ヴォーカルなど喉の湿りを感じさせるような血の通ったあたたかさがあるし、上滑りしたりハスキーになるような欠点がない。フォルティシモでも音がよく伸びる。従ってポップス系にはたいそう満足感を与えている。クラシック系でも、たとえばベルカントふうの明るいハッピーな音はとても気持ちよく聴かせる。が、反面、この音は曲によって少し明るすぎるような感じを受ける。たとえばフォーレのVnソナタ。音楽的におかしいところは少しもない。ヴァイオリンとピアノの音色もかくあるべきというバランスで鳴らし分ける。けれど、フォーレの世界にはもうひとつしっとりした味わい、陰の部分の色あいの複雑さ、が欲しく思われる。また、クラシックのオーケストラ曲に対しては、あとほんのわずか、低音をゆるめてよいのではないかと思わせる。だが、そうした高度な論議をしてみたくさせるということは、すでにこの音質が相当に高度であることを示す。そして、右のわずかな私にとっての不満は、アームをACに替えることで解決される(ただしこの組合せでは蓋がしめられなくなるのがまずい)。
●デザイン・操作性/前述のように国産のアームがハミ出るほど小型。仕上げは美しい。電源スイッチのON/OFF以外に操作性の問題点はないが、ボタンを押すたびにターンテーブルがフラフラ揺れる点は、改善の工夫が欲しいところだ。