井上卓也
ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より
3種類あったMK2の発展型。ピュアボロンのカンチレバーに代表される軽質量・高剛性により、音は一段と鮮明になり、分解能が高い。
井上卓也
ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より
3種類あったMK2の発展型。ピュアボロンのカンチレバーに代表される軽質量・高剛性により、音は一段と鮮明になり、分解能が高い。
井上卓也
ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
テクニクスカートリッジの中心モデルともいえる205CIIシリーズは、従来からも広い周波数帯城と低歪なカートリッジとして高い評価を得ているが、今回、新素材と新技術が導入されて、一段と高性能化されたMK3となって発売された。
EPC205MK3は、シェル一体構造のモデルであり、EPC−U205CMK3はカートリッジ単体のモデルである。
発電方式はMM型であるが、構造的には、205CIIシリーズとはまったく異なった新方式が採用されている。カンチレバー材質は純ボロンパイプを採用し、微小化、軽量化がおこなわれ、振動子実効質量は0・149mgで、80kHzにおよぶ超広帯域を得ている。磁気回路は、HPFコア使用の新しいブリッジ・ヨーク構造で、振動系にヨーク部をもつ特長がある。なお、ダンパーには温度変化による特性変化を抑えたTTDD、振動子磁石にはサマリウムコバルトの円板型磁石、ワンポイント支持方式などは従来型を受継いでいる。
井上卓也
ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「読者の質問に沿って目的別のベストバイを選ぶ」より
カートリッジは、コンポーネントシステムの音の入り口にあるため、トータルのシステムの音にかなりの変化を与えるものである。実際に複数個のカートリッジを用意し、聴いてみれば、容易にバランス、音色、表現などの変化を聴きとることができる。
ここてテーマとなっている「グレイドアップのワンステップとして……」ということになると、そのベースとなるプレーヤーシステムがどのランクの製品であるかが最大の問題点である。単に、音色の変化などを楽しむということであれば、それなりの他紙の身は味わえるが、確実にグレイドアップをしただけのクォリティ的な改良が得られる、という条件にこだわると大変に難しい。それに、価格的制限が2万円までとなるとなおさらである。ここでは、プレーヤーシステムとして平均的と考えられる、4万円台から6万円台を対象としてみよう。
カートリッジの価格を2万円までとすると、国内製品ではオーディオテクニカAT14E、FRのFR5E、グレースF8L10、少し範囲をこすか、テクニクス205CIISが考えられる。これらの製品は、発電方式がMM型で使いやすく、音色や表現力の変化というよりは、優れた物理特性をベースとした、付属カートリッジとは一線を画した純度の高い音が得られる。最近、とくに注目されているMC型では、デンオンDL103、サテンM117Eがあり、103はこの場合、最近のアンプには付属していることが多いMC型用ヘッドアンプを使うことになる。ともに、MC型らしい鮮鋭な音と明瞭な個性をもった定評あるモデルである。
海外製品では、ADC・QLM36/II、AKG・P6E、エンパイア2000E/II、フィリップスGP401II、ピカリングXV15/750E、シュアーM95ED、スタントン600EEなどに注目したい。これらは、国内製品にくらべ個性が明瞭であり、クォリティというよりは音色、表現力の差を楽しむという使い方になる。海外製品には他にも同価格帯、それよりもかなり下の価格帯に興味深い製品があるが、使用するプレーヤーの基本性能、とくに安定にカートリッジを支持できるアームを使うことが前提となる。
整理すると、素直にクォリティアップを望むなら国内製品のMM型、よりシャープで解像力の優れた音を求めれば、国内製品のMC型、音色の変化や音に対する反応や表現力の変化を期待すれば、海外製品ということになる。
ここでは、表示価格を2万円までとしたが、実際に購入する価格として考えれば、対象となる製品の幅は飛躍的に広くなり、本格的なカートリッジによるトータルシステムのグレイドアップが可能になるはずだ。
井上卓也
ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より
205CIILは、低域のダンプが適度であり、音の粒子も滑らかで細かいタイプである。全体に、汚れがなく耳あたりがよいソフトで爽やかな音をもった、素直な性質のカートリッジという印象である。聴感上の帯域バランスは、ナチュラルさがあるワイドレンジ型で、低域はやや甘口、中低域あたりに柔らかく響く間接音成分が感じられて、トータルな音の表情をおだやかなものとしている。ヴォーカルは、声量が下がった感じとなり、おとなしく、子音を強調せずスッキリとしている。ピアノはクリアーだが甘い感じがあり、やや広いスタジオ録音的に響く。性質はおとなし素直で控えめである。
205CIIHは、Lとくらべると全体に音がソリッドであり、温度が下がったような爽やかな感じとなる。ヴォーカルは、力があり線が少し太くなるが、音像はクッキリと前に立ち、子音を少し強調するが、実体感につながる良さと受け取ることができる。ブラスの輝き、ピアノの明快さ、スケール感も充分にあり、安定した音として聴かせる。音場感はLにくらべスタジオ的に明確に拡がり、定位する。細やかで柔らかいニュアンスを聴きとるためにはLがよいが、力強さをとればHの方が上だ。
205CIISは、低域のダンプが少し甘いタイプである。帯域バランスは、やや中域が薄く、ソフトで豊かな中低域と、ややソリッドな中高域がバランスしている。ヴォーカルは、ハスキー調でやや硬く、オンマイク的な感じとなり、ピアノはスケールはあるが力がなく、ソフトな低音とカッチリとした中高音といったバランスになる。CD−4システムに使用するカートリッジとしては、中高域の音の芯が強いメリットがあるが、低域が甘く、反応が遅いのが気になる。このままでも、中域に厚味があれば、全体の音がクリアーに締り良い音になるのだろうが、ここがやや残念なところである。
405Cは、歪感がなく、粒立ちが細かい滑らかな音をもっている。音の性質は、おとなしく、クォリティが高いが、やや音楽への働きかけがパッシブであり、控え目で美しいが、ヒッソリとした感じで活気に乏しいのが気になるようだ。聴感上の帯域バランスは、中域がやや薄く、低域もスンナリとして甘口であり、ちょっと聴きには、さしてワイドレンジ型とはわからない。ヴォーカルは、オンマイクにかなり細部を引き出して聴かせるキレイさがあるが、声量がない感じがあり、ピアノもスッキリとしているが実体感が薄れる。基本的には、汚れがなく美しい音をもつために、音量を上げて聴いたときのほうが、音に力がつき活気が出るタイプだ。
270CIIは、低域のダンプがソフト型で甘口である。音の粒子は、他のテクニクスのカートリッジにくらべると粗く、SN比が気になることもある。低域が甘く、中域から中高域に輝きがあり、ヴォーカルはハスキー調となり、音像が前にセリ出してくる効果はあるが、力感が伴わないために、表面的な押し出しのよさになっている。
岩崎千明
ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より
日本のダイレクトドライブターンテーブルのパイオニアとして、テクニクスの海外での人気は、非常に高く、国内においてもSP10MkIIの発表以来、他のDDターンテーブルにまた一段と差をつけた感がある。こうした技術指向の非常に高いテクニクスは、カートリッジにおいても、新素材・新技術に積極的にとり組んだ製品が数多く、他社との製品の差もそこにあるのが大きな特徴だ。
テクニクスのカートリッジは、昭和43年に発表されたテクニクス200C以来、独特の円盤状マグネットとワンポイント・サスペンション方式が採用されている。マグネットはエネルギー積の大きいサマリウムコバルトが使われている。テクニクスのカートリッジといえば、205C/IIシリーズに代表されるといってもよいかもしれない。205C/IIシリーズは、最近ローインピーダンス型(250Ω・1kHz)の205C/IILと、高出力型(7mV・1kHz、5cm/sec)の205C/IIHとが加わった。さらに、205C/IIもマイナーチェンジされて205C/IISに発展している。
270Cは、テクニクスカートリッジの中でも、もっとも普及型といえる価格で、耳あたりの良い好ましいバランスをもったものだ。高域での微妙な音のニュアンスは、普及型とはいえ充分に再現してくれる点が魅力といえる。ただし、低域の量感やエネルギー感は残念ながら今ひとつ物足りなさを感じてしまう。
405Cは、チタンカンチレバーを採用したテクニクスの高級仕様を狙った意欲作といえるものだ。全体に強く抑え込んだフラットレスポンスの特性が頭に浮かぶような、ワイドレンジ感をもたせる音だ。ただし高域にいくにしたがってエネルギー感が増し、結果として低域の量感の乏しさを感じさせてしまう。こうした印象は、どうもテクニクスのカートリッジ全般について感じられてしまう大きな特徴のようだ。この405Cのもっているそうした音の印象は、音楽を無機的な表現にしてしまい、聴き手との間に距離感をもたせることになってしまう。音楽の中に飛び込んでいくような音というよりも、融け込むことを拒否するような印象を受けてしまう傾向がありはしないだろうか。
205C/IISは、405の実用機種ともいうべき性質で出されたカートリッジ。実用的な意味での使いやすさから出力も標準的なもので405Cに比べて、その音はいくらかおとなしいといえる。405Cが音質チェック向きとすれば、こちらの方が一般的といえそうだ。
205C/IILは、テクニクスの中でも405Cともっとも似た性質をもち、フラットな広帯域感が強く感じられる。405Cよりもいくらかナチュラルで無機的な印象は多少是正されている。205C/IIHは、本質的な音は、これまでのテクニクスと変らないが、中域から低域にかけての音が充実し、ソロ楽器も比較的よく出る。ステレオ感も充分だ。
井上卓也
ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より
マグネットを含むMM型の振動系を極度に軽量化し、トランスデューサーとしての性能の向上を追求した点では典型的なカートリッジである。軽質量アームとの組合せが必要。
菅野沖彦
スイングジャーナル 10月号(1971年9月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
すべてのオーディオ機器は、今や、趣味嗜好の対象として考えられている。中でも、カートリッジは、ユニバーサル・トーン・アームが普及して、シェルの交換が当然のことになり、あれこれと取換えて再生するという使われ方が定着しているのを見ても、嗜好品としての色彩が濃い事がわかるだろう。本来的にはカートリッジの振動系というのは、アームを支点として動作するものなのだから、アームと一体となって設計されるべきだし、使われるべきものなのである。それが、このような使われ方が一般化したことの理由は、一つに、いろいろな音のするカートリッジがあることによる。それらは、それぞれに正しい設計、周倒な製造がなされながら、個性的な音質をもっていることによるといえるだろう。現在市場にあるカートリッジの変換方法、つまり、レコード溝の振動を拾いあげて電気エネルギーに変える方法にも実に多種多様のものがある。MM型、MC型、IM型、MI型などのマグネチック系の多くのヴァリエインョンに加えて、光電型や静電型、圧電型などがそれである。そして、これらの変換方式のちがいが音質に差をもたらすと考えられたり、あるいは、変換方式のちがいそのものは音質には影響がなく、それぞれの変換方式のちがいによって生じる振動系のちがいが音質をかえると考えられたりしている。私はカートリッジの専門家ではないから断定的なことはいえないが、その両方だという気が体験的にもする。そして、さらに、その両方だけのファクターではなく他にも無数のファクターが集積されて、音質を決定していると思うし、使用材料の物性面まで考えたら、ちがうカートリッジがちがう音を出すことは当然だと思うし、その音のちがいを楽しんで悪い理由は見つからない。とはいうものの、エネルギー変換器としてのカートリッジの理論の追求や、その現実化の理想については明解な目標と手段とがあるわけで、ただ闇雲に、こんな音が出来ましたというのではお話しにならない。現在のカートリッジの改善のポイントは、振動系を軽量化しながら剛性を保つこと、振動系が理論通りに動作する構造を追求することにより機械的歪を減らすこと、電気的、磁気的な変換歪を最少にすることなどに置かれ、各メーカーが、その構造上、材質上、製造上の改善に一生懸命努力をしているのである。
ここにご紹介する松下電器のテクニクス205Cという新しい製品は、最も新しい技術で振動系を改良した注目すべき新製品である。その特長のいくつかをあげてみると、まず、振動系の主要部分であるカンチレバーが飛躍的に軽量化され、しかも高い強度が維持されていることだ。材質にチタンを使って、これを直径0・35ミリ、20ミクロン厚のパイプ状カンチレバーに圧延加工し、これに0・4ミリグラムという実効質量の軽いソリッド・ダイアモンド・チップを取りつけ、振動系のナチュラルが、きわめて広い周波帯域を平担にカバーし、精巧無比な加工技術で支点とダンパーを構成し、小さな機械インピーダンスでトレース能力を確保、きわめて忠実な波形ピックアップをおこなう。そして、これに直結されるマグネット振動子には高エネルギーの白金コバルト磁石を使い、この優れた振動系の特質をさらに高めている。ワイヤー・サポートにより支点は明確にされ、リニアリティとトランジェントに高い特性を得ている。製品は、全機種に実測の特性表がつけられるというから、カートリッジのようにデリケートな構造をもつ製品に心配されるムラの不安がない。このように、205Cのフューチャーは、テクニクスの高い設計技術と、材質そのものの開発、優れた加工技術が結集したもので、マニアなら一度は使ってみたい気持になるだろう。在来のテクニクス200Cの繊細きわまりないデリカシーと高い品位の再生音に加えて、強靭さと豊かさが加わった音質は最高級カートリッジといってよいすばらしいもので、一段とスケールが大きくなった。歪が少いことは一聴してわかるし、パルスに対するトランジェントのよさは実にクリアーな響きを聴かせてくれた。特性を追求するとこうなるのかもしれないが、私としては、もう一つ熱っぽいガッツのある体温のある音がほしい。それは歪によるものだと技術者はいうかもしれない。しかし私はそうは思わない。それは、たくまずして滲み出る体質のようなものである。この205Cで再生した本田竹彦のトリオの世界はあまりにも美しく透明過ぎた。やや硬質に過ぎた。冷かった。しかし、これはきわめて欲張った話しであって、現時点で最高のカートリッジとして205Cを賛えたい。
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