Tag Archives: C240

アキュフェーズ C-240 + M-100

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新セパレートアンプ44機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★
 音がこっちに向ってくるというより横にひろがる傾向があるようである。ひびきには多少の湿り気があり、そのために⑤のレコードでの音などは独自のなまなましさを示すともいえる。②、ないしは③のレコードなどは、この組合せに適していない。力強い音への対応でいくぶんものたりないところがある。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★★
 ごり押しにならないところは美点であるが、消極的にすぎるといえなくもない。①のレコードではひびきが音場的に横にひろがり、そのためかどうか、音の身ぶりが大きく感じられる。しかしながら音像そのものはかならずしも大きいとはいえない。ひびきは暗めである。
JBL・4343Bへの対応度:★★
 4343でのきこえ方としては異色というべきであろうが、③のレコードでのベースの音がふくらみぎみであった。①のレコードではひびきが総じて重く感じられた。②のレコードは効果的にきかせはするものの、本来の力強さを求めるといま一歩といわざるをえなかった。

試聴レコード
①「マーラー/交響曲第6番」
レーグナー/ベルリン放送管弦楽団[ドイツ・シャルプラッテンET4017-18]
第1楽章を使用
②「ザ・ダイアローグ」
猪俣猛 (ds)、荒川康男(b)[オーディオラボALJ3359]
「ザ・ダイアローグ・ウィズ・ベース」を使用
③ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
④「キングズ・シンガーズ/フレンチ・コレクション」
キングズ・シンガーズ[ビクターVIC2164]
A面2曲目使用
⑤「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

アキュフェーズ C-240

菅野沖彦

’81世界の最新セパレートアンプ総テスト(ステレオサウンド特別増刊・1981年夏発行)
「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」より

 ボリュウムとバランス・コントロールだけが回転式で、あとはすべて、プッシュ式という新鮮なアイデアで登場した高級プリアンプ。C230という弟分でもこのデザインを踏襲していることからみても、アキュフェーズのプリアンプの代表的な顔として、今後もこのマスクが続くだろう。コンピューター・エイジにはふさわしいとはいえるだろうが、それだけに、反面、音楽表現に連る心情性は希薄な印象。しかし中味は凄い。

音質の絶対評価:8.5

アキュフェーズ C-240, P-400

アキュフェーズのコントロールアンプC240、パワーアンプP400の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

P400

アキュフェーズ C-240, P-400

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 キメの細かいスムースな音は、きわめて洗練された品位の高いものだ。暖かい肌ざわりをもっているし艶のある、粘りのある音は、美音といってよい次元にまで高められている。しかし、反面、素直さ、自然さの面で少々不満がある。荒さは荒さとして聴きたい。

最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その14)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

 ずっと以前の本誌、たしか9号あたりであったか、読者の質問にこたえて、マッキントッシュとQUADについて、一方を百万五を費やして語り尽くそうという大河小説の手法に、他方をあるギリギリの枠の中で表現する短詩に例えて説明したことがあった。
 けれどこんにちのマッキントッシュは、決して大河小説のアンプではなくなっている。その点ではいまならむしろ、マーク・レビンソンであり、GASのゴジラであろう。そうした物量投入型のアンプにくらべると、マッキントッシュC29+MC2205は、これまほどの昨日と出力を持ったアンプとしては、なんとコンパクトに、凝縮したまとまりをみせていることだろう。決してマッキントッシュ自体が変ったのではなく、周囲の状況のほうがむしろ変化したのには違いないにしても、C29+MC2205は、その音もデザインも寸法その他も含めて、むしろQUADの作る簡潔、かつ完結した世界に近くなっているのではないか。というよりも、QUADをもしもアメリカ人が企画すれば、ちょうどイギリスという国の広さをそのまま、アメリカの広さにスケールを拡大したような形で、マッキントッシュのサイズと機能になってしまうのではないだろうか。そう思わせるほど近ごろ大がかりな大きなアンプに馴らされはじめた目に、新しいマッキントッシュは、近ごろのアメリカのしゃれたコンパクトカーのように小じんまりと映ってみえる。
     *
 ところで、音の豊かさという点で、もうひとつのアンプについて書くのを危うく忘れるところだった。それは、イギリスの新しいメーカー、オースチンの、管球式パワーアンプTVA1の存在だ。
 管球式のアンプが、マランツ7を最後に我が家のラインから姿を消してすでに久しい。その後何度か、管球アンプの新型を聴く機会はあったにしても、レビンソンは別格としても出来のよいトランジスターの新しいアンプたちにくらべて、あえて管球式に戻りたいと思わせるような音には全くお目にかからなかった。わたくし自身は、もうおそらく半永久的に管球に別れを告げたつもりでいた。
 そういうつもりで聴いたにもかかわらず、TVA1の音は、わたくしをすっかりとりこにしてしまった。久しく耳にしえなかったまさにたっぷりと潤いのある豊かな響き。そして滑らかで上質のコクのある味わい。水分をたっぷり含んで十分に熟した果実のような、香り高いその音を、TVA1以外のどのアンプが鳴らしうるか……。
 仮にそういう良い面があったにしても、出力トランスを搭載した管球式パワーアンプは、トランジスターの新型に比較すれば概して、音の微妙な解像力の点で聴き劣りすることが多い。そういう面からみれば、TVA1の音は、レビンソンのように切れこんではくれない。それは当然かもしれないが、しかし、おおかたの管球式の、あの何となく伸びきらない、どこかで物が詰まっているかのような音と比較すると、はるかに見通しがよく、音の細部の見通しがはっきりしている。
 中音域ぜんたいに十分に肉づきのよい厚みがある。かつてのわたくしならその厚みすら嫌ったかもしれないが。
 TVA1は、プリアンプに最初なにげなく、アキュフェーズのC240を組合わせた。しかしあとからいろいろと試みるかぎり、結局わたくしは知らず知らずのうちに、ほとんど最良の組合せを作っていたらしい。あとでレビンソンその他のプリとの組合せをいくつか試みたにもかかわらず、右に書いたTVA1の良さは、C240が最もよく生かした。というよりもその音の半分はC240の良さでもあったのだろう。例えばLNPではもう少し潤いが減って硬質の音に鳴ることからもそれはいえる。が、そういう違いをかなりはっきりと聴かせるということから、TVA1が、十分にコクのある音を聴かせながらもプリアンプの音色のちがいを素直に反映させるアンプであることもわかる。
 今回の試聴では、この弟分にあたるTVA10というのも聴いた。さすがに小柄であるだけに、兄貴の豊かさには及ばないにしても、大局的にはよく似た傾向の音を楽しませる。オースチン。この新ブランドは、近ごろの掘り出しものといえそうだ。

最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その19)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

     *
 少し脱線したが、国産アンプの中で、いまふれたトリオは、価格とのかねあいという上で評価されるべき製品といえるのに対して、さきのデンオン、そして最後にふれるアキュフェーズなどは、価格の割には……といった注釈なしに受け入れることのできる、現在最高水準をゆく音、といってよいと思う。
 アキュフェーズのC240、P400、T104の新シリーズは、昨年秋からことしにかけて、順次発表された。C240は、わりあい早い時期から試聴の機会にめぐまれたが、この音は、ほんとうに久々にわたくしをわくわくさせる素晴らしい出来ばえだった。LNP2Lがわたくしの最近最も永いあいだの常用かつ標準機だが、C240の音は、それと比較してどうこうというよりも、LNPとはまた別の路線上で、ひとつの完成度に到達したみごとな音質だといえる。LNPの音は、どこまでも切れこんでゆく解像力のよさ、芯のしっかりした、一音一音をくっきりと浮かび上らせる,それでいながら音どうしが十分に溶け合い、響き合い、立体感と奥行きを感じさせる。
 C240の音は、LNPよりもいくぶんウェットだ。そこはいかにも日本のアンプだ。そしてLNPのようにどこまでもこまかく音を解像してゆくというよりも、複雑にからみあい響き合い溶け合う音を、できるかぎり滑らかに、ことさらに音の芯を感じさせずに、自然に展開させてゆく。その音のウェットさゆえに、そしてまたLNP2LやM6の透明感のある解像力と比較するといくぶん曇りを感じさせる点に、ネガティヴな意見を言う人があるが、私はむしろそこを含めて、音のマッスとしての響きの滑らかさを好む。一見見通しがよくないようだが、よく聴くと細かな音は十分に過不足なく解像され、音のマッスの中にきれいにならんでいる。パワーアンプにオースチンのTVA1を組合わせたときの音の良さについてはすでに書いたが、本来のP400がこれに加わってみると、C240の音には意外にシャープな面もあることが聴きとれて興味深い。あるいはP400のほうに音のシャープネスが強調されていてそれをC240がうまく中和するのかとも思えるが、いずれにしてもこの組合せから得られるとても滑らかでありながらよく切れ込み、そしてよく溶け合い響き合う音の快さは、近来類のない質の高い音だと思う。このところアキュフェーズの音には、個人的にかなりシビれているものだから、ついアバタもエクボになっているかもしれないが、しかしデンオンといいアキュフェーズといい、これ以前までの各機種は、これほどまでに完成度の高い、説得力ある音を鳴らしはしなかったことを思うと、今回の新型の、ともに水準の高さがいっそう際立った快挙に思えてくる。

アキュフェーズ C-240

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 全面的にパネル面の操作をプッシュボタンスイッチでコントロールする非常にユニークなデザインをもつ、アキュフェーズの第2世代を意味する高級コントロールアンプで、アキュフェーズの技術の集大成として完成されたのがC240である。内容的にはMCカートリッジ用ヘッドアンプ、A級ピュアコンプリメンタリー方式のヘッドフォンアンプを備えたトータルゲイン86dBのハイゲインコントロールセンターである。
 機能面では周波数特性可変機能が充実し、カートリッジ高域特性を調整するHFトリミング、高音・低音各2段に湾曲点切替可能な8ステップトーンコントロール、3段切替型ラウドネスコントロール、17Hz・12dB/octのサブソニックフィルターなどがある。パネル面は回転ツマミ4個、レバースイッチ1個、プッシュボタンスイッチが実に57個というユニークな構成が採用され、機能別に配置されている。プッシュボタンスイッチ独特の不要なポジションを飛び越して任意のポジションが選択できるフィーリングは、このタイプの最大の魅力だ。とくに、入力セレクターは電子制御のリレーを使うリモート切替型で、音質や耐久性を左右するプッシュスイッチやリレーは全て2回路並列使用で安定度を向上している。回路面はアキュフェーズオリジナルの全増幅段プッシュプル駆動をA級DC方式構成とした特長があり、MCヘッドアンプはモジュール化し安定度を向上している。

アキュフェーズ C-240

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 ケンソニック社は決して歴史の長い会社とはいえないが、しかし、そのバックグラウンドを知る人にとっては、その歴史は古くトリオ、春日無線にまでさかのぼることになる。こうした歴史の重みに支えられてケンソニック社が誕生したわけだが、この会社は創業以来、あるレベル以上の高級品しかつくらないという体質に徹しているところに、一つの明確なポリシーが伺える。そして、やたらに新製品は発表せず、むしろ基本モデルの改良という形で、一つの製品を煮詰めていこうという姿勢で貫かれているのである。その姿勢が最も顕著に現れている例は、先頃発表されたC200S、P300Sのセパレートアンプである。このセパレートアンプシリーズは、同社の第一号機C200、P300のマイナーチェンジモデルだが、その第一号製品を買った人にも、サーキットボードを交換することによって この最新製品とほとんど同じ性能にまでしてあげるというサービスも怠らなかったのである。これはメーカーにとって大変な企業努力だと思うのだが、やはり製品のロングライフを旗頭にしている会社の体質を如実に示している例だろう。マスプロ、マスセールということは考えず、自分たちのできる量の中で追求し、それを理解していただけるお客様だけに買ってもらおうという、「質」を重視したオーディオメーカーなのである。
 そのケンソニック社がつくり上げた最新のコントロールアンプがC240で、従来の製品に見られない、いくつかの新しさが盛り込まれた意欲的な製品である。たとえば、操作スイッチ類を、ボリュウム、バランス、カートリッジの高域特性コントロール以外はすべてプッシュボタンスイッチにしたことである。決して小規模とはいえないメーカーが、ここまで徹底的にプッシュボタンスイッチ化に踏みきった英断をまず買いたいと思う。そして内部を見ても、最新のディバイスと最新のテクノロジーが駆使されているわけだが、同社の初期からのポリシーである全段パラプッシュプルという方式はここでも踏襲されているのである。つまり、同社で自信のあるエレクトロニクス回路技術を豹変させることなく、常に基本的なものは踏襲しながらリファインさせているところに、信頼性のもてる一因があると思う。個人的なことをいえば、プッシュボタンにもう少し質感のいい、色のいいものを使ってくれれば、このユニークなパネルレイアウトがもっと生きてきたのではないかと思う部分もあるのだが、しかし、現在手の届く範囲でメーカーが最もハイエストなパフォーマンスを追求した製品として、十分納得できるものをもっていることは確かである。
 ところで、このC240の音質についてだが、一言でいえば同社の従来のコントロールアンプの音に、最新製品にふさわしい洗練度を加えた音ということができる。従来の同社のアンプはたくましい音で、透明という表現よりも、むしろ輝かしい、磨きぬかれたスムーズさをもっていたのであるが、このアンプにもそれは一貫して感じられる。非常にたくましい音であり、磨きぬかれていて力もある豊かな響きの中に、都会的な洗練された音が加わったという感じなのである。おそらくこのアンプの音は、現在のコンポーネントの中でも最高の音質に属するのではないかと思う。プラスアルファをもつこのクラスの海外製品はたくさんあり、確かにそれらは一種独特の雰囲気がある、説得力のある音色を感じさせるが、このC240はそういう領域に達しているように思えるのである。ただ単にドライに無機的にフィデリティを追求していくということだけではなく、あらゆるソースに対して音楽的なエフェクトを聴かせてくれる。
 ただ、もっと繊細で、もっと乾いた音が好きだという人ももちろんいるかもしれないと思う。このC240は決して乾いた音ではなく、グラマラスであり、脂の乗った音だからだ。しかし私は、やはり音楽は生命感が躍動しているような、グラマラスで、豊かで、薄っぺらでない底光りのする輝きをもっていてほしい。その意味で、このC240は音質のよさからいっでも、現在のコントロールアンプの中で〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれるに値する製品だと思う。