Tag Archives: BCIII

スペンドール BCIII

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 スペンドールBCIIIは、小味なBCIIのスケールアップ・モデルといえるものだが、30cm口径ウーファーをベースにした4ウェイシステムの再生音は、さすがにBCIIの、箱庭的よさもわるさも脱却している。しかし大型システムとしては、やはり力より端正な質感と深い情緒に特色がある。

スペンドール BCIII

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 BCIIのスケールアップ版といえ、相当パワフルな再生にも応えてくれる。BCIIはパワフルな再生は無理だが、その分瑞々しさでは勝る。

スペンドール BCIII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

媚のない潔癖な品位の高さ。ただし鳴らし込みに多少の熟練を要す。

スペンドール BCIII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 44号(219ページ)でも触れたが、BCIIIを何回か試聴した中で、たった一度だけ、かなりよく鳴らし込まれた製品の音をとても良いと思ったことがあった。今月のサンプルは、44号のときよりもさらに鳴らし込まれたものらしく生硬さのないよくこなれた音に仕上っていた。
 とはいっても基本的には44号に書いたことと同じで、本質的にかなりまじめな作り方。言いかえれば、どんな音を鳴らしても決してわめいたり取り乱したりしない端正な音で、いかにもイギリス紳士ふうといえようか。たとえばブラームスのP協No.1の冒頭のオーケストラのトゥッティも、決して露に〝爆発〟しない。渋いバランスを保って、情熱を抑えた鳴り方だ。ラヴェルの「シェラザーデ」のあのオーケストラの音を散りばめたような色彩感も、ひかえめに端正に少しの派手さもなく表現する。音を練り固めるタイプでなく、その意味で強引なところは少しもない。コンセルヴァトワルの音を、ごく注意深く散りばめ、音の光沢をややおさえながら、色あいのちがいは確かに鳴らし分ける。出しゃばりもせずしかし鳴らすべき音は確かに鳴らす。ロス=アンヘレスの声の定位もすばらしく見事だ。のめり込んでゆくタイプの音でなく、一種枯淡の境地を思わせる。ただ、表面はひっそりと静かであっても内に秘めたふつふつとたぎるような情熱を感じとりたいという私のようなまだ血の気の多い人間には、この枯淡の境地まで達観することができない。ときにもう少しハメを外し、唱い、弾み、色気も艶も露にするスピーカーの方に、より多くの魅力を感じてしまう。少なくともスペンドールBCIIIを聴くうちに、自分の求める音の方向が、そういう形で明確に意識させられる。音楽に殉ずるよりもまだまだ音の享楽者でありたい。だがこんなことを考えさせるスピーカーというのは、やはりたいした音なのだろうと、妙なところで感心させられる。
 つまりBCIIIは、どんなプログラムソースでも端正に、可及的に正確にしかしスピーカーが出しゃばるのでなくひかえめに、いわば客観的にプレゼンテイションする音、といえようか。そのことはおそらく、オーディオの再生の中で確かにひとつの正しい方向であるにちがいない。が、そう言い切ってしまうには、私自身の個人的な嗜好や欲求を別としても、「何か」が足りない。もうひとつ聴き手の心を弾ませ、聴き手の心にしみじみと訴えかけてくる何か、が不足していて、どこかつき放したような感じが否めない。この鳴り方がスピーカーとして本当なのだと言い切ることは私にはできない。なぜといって、レコードに刻まれる前のもとの音楽の演奏には、色気も艶も弾みもあると思うからだ。それが鳴ってこないということは、このスピーカーに何かが欠けているのでなければ、録音・再生系のどこかに欠落があるからだ。どこに問題があるのか。それはここで論じるには難しすぎるテーマだ。

スペンドール BCIII

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 スペンドールというイギリスのメーカーは、このBCIIIをBBCモニター仕様で作ったということになっている。同社のBCIIは、私の最も好きな中型システムの一つで、わが家でも愛用している。その瑞々しい艶のある、透明な音は、品位の高さで、ちょっと右に出るものがないと思うほど美しい。このBCIIIは、その上級クラスで、エンクロージュアの外形も大きいし、ユニット構成も、グレイドにおいては高い。全体の音としての魅力はBCIIに軍配を上げるけれど、このBCIIIも、こうして他社のスピーカーと比較試聴すると、実に清新な魅力をもったものである。滑らかな音の感触は、きわめて歪感の少ないもので、音楽の美しさが生き生きと再現される。そして、さすがにBCIIからみると、耐入力も大きく、ハイレベル再生も十分に可能であって、モニターとしての役目は十分果せるシステムだと思う。30センチ・ウーファーがベースとなった4ウェイ4スピーカーというマルチシステムでありながら、定位もよく判別出来るし、全帯域のバランス、位相特性もよくコントロールされている。中音域が、やや細身なのが、BCIIと比較した時、気になっていたのだが、欠点として指摘するようなものでは決してない。レコードのミクシングの細かい点までよく聴き分けられたし、オリジナルテープのもつDレンジやフレッシュネスも十分再現してくれた。

スペンドール BCIII

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、軽やかに、鮮明にひびく。
❷低音弦のひびきは、幾分腰がたかいかのようだが、シャープでいい。
❸さまざまなひびきをくっきりさわやかに示す。
❹ここでのピッチカートはふくれず好ましい。
❺クライマックスでのひびきのもりあがり方は大変いい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は小さく、すっきりと示される。
❷寝ロイ対比も十全で、とけあい方もいい。
❸室内オーケストラならではのさわやかなひびきがきける。
❹第1ヴァイオリンのフレーズはほぼ理想的だ。
❺さまざまなひびきがさわやかさをもって鮮明に示される。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声に誇張感がなく、なまなましい。音像は小さい。
❷接近感を自然に無理なくすっきり示す。
❸オーケストラと声とのバランスはきわめていい。
❹はった声はかたくならず、充分にのびる。
❺個々のひびきを鮮明に示しつつ、全体のまとまりをつける。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶左から右へ、6人のメンバーの並び方がよくわかる。
❷声量をおとしても、鮮明さが不足することはない。
❸残響をおさえぎみにきかせるため、言葉のたち方はいい。
❹ひびきに敏捷さがあるため、まことに明瞭にききとれる。
❺ポツンと切れてしまうことなく、余韻を残す。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶軽いひびきでピンとポンの差を明らかにする。
❷はるか後方からきこえてくる好ましさがある。
❸浮遊感が充分に示されているので、効果的だ。
❹音の遊泳が自然ですみやかなために、ひろびろと感じられる。
❺もりあがり方は自然だが、ピークではひびきがきつくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥の方でのひびきの透明感はほぼ申し分ない。
❷ギターの音像は小さく、したがってせりだし方をくっきりと示す。
❸くっきりひびいて、あいまいさがなく、有効だ。
❹このひびきのきらめきをよく伝えている。
❺ここでもまたうめこまれることなくいきている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色をくっきりと示している。
❷厚みという点ではものたりなさもあるが、重なり方をよく示す。
❸充分に乾いたひびきで、すっきりとぬけでてくる。
❹ドラムスのひびきも、声も、質的に充分だ。
❺音楽のたち方も、音の重なり方もよくわかる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力感を誇示するわけではないが、強いひびきをよく示す。
❷部分拡大にならず、なまなましさをもたらす。
❸元の音がしっかりしているので、消え方もあいまいにならない。
❹こまかい音に対しての対応も充分だ。
❺サム・ジョーンズによる音との対比の面でも秀れている。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶もう少し力強さがほしいが、シャープなつっこみはいい。
❷幾分ひかえめながら、一応の効果はあげる。
❸背後のひびきも明らかにしつつ、音色対比をくっきり示す。
❹空間が広くとれているので、トランペットの参加は有効だ。
❺リズムの刻みは、はなはだシャープである。

座鬼太鼓座
❶尺八は遠くからきこえて、その消え方も明らかだ。
❷尺八らしい音色ですっきりと示される。
❸ほとんどききとりがたいといっていいだろう。
❹大太鼓の大きさも強さも明らかになっていはいない。
❺ききとれるが、幾分とってつけたようだ。

スペンドール BCIII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 弟分のBCIIがたいへん出来が良いものだから、それより手のかかったBCIIIなら、という期待が大きいせいもあるが、それにしてはもうひとつ、音のバランスや表現力が不足していると、いままでは聴くたびに感じていた。たった一度だけ、かなり鳴らし込んだもので、とても感心させられたことがあってその音は今でも忘れられない。今回何とか今までよりは良い音で聴いてみたいといろいろ試みるうち、意外なことに、専用のスタンドをやめて、ほんの数センチの低い台におろして、背面は壁につけて左右に大きく拡げて置くようにしてみると、いままで聴いたどのBCIIIよりも良いバランスが得られた。指定のスタンドを疑ってみなかったのは不明の至りだった。ただ、本質的にはやはりモニターとしてのいくらかまじめで渋い音なので、EMTのXSD15にKA7300Dというように、やや個性の強い個性をしてみると、艶も乗ってかなり上質の音が鳴ってきた。どちらかといえばほの暗い感じの音色で、イギリス紳士的なとり澄ました素気なさもあるし、ディットン66の打てば響くというような弾みのある鳴り方はしない。バルバラの歌でも、声の暖かさや色っぽさがもうひとつ不足して、中~高域の一部にわずかに(BCIIより)不連続な面も感じられる。しかし総体にはかなりクォリティの高いスピーカーであることが今回よくわかった。

スペンドール BCIII

菅野沖彦

ステレオ別冊「あなたのステレオ設計 ’77」(1977年夏発行)
「’77優良コンポーネントカタログ」より

 イギリスのスペンドールは比較的新しいメーカーだが、その製品への信頼度は非常に高い。BBCのモニター・スピーカーの規格にもとづいて開発された同社のシステム中、このBCIIIは、シリーズ中の上級機種で、かなり大型のシステムである。独特なユニット構成で、30cmのプラスティック・コーンをベースにした4ウェイ・4スピーカーである。仕上げの高いエンクロージュアもこのスピーカーの音の美しさの要因だろう。

スペンドール BCIII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 やや大きめのモニタースピーカー。物理特性を追求したイギリスの新しい世代の作り方。圧迫感の少しもない自然なプレゼンスが、ただものでない製品であることを思わせる。