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プリアンプ/パワーアンプのベストバイを選ぶにあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 プリアンプとパワーアンプとを別々のものにするということは、当然、プリメイン型では得られないパフォーマンスを要求するところから生れてきたもののはずだ。大きさ、重量などに盈虚売れれる扱いやすさの点(設計、使用上の両面で)から、分けなければならない必然性がなければ、本来のセパレート型の意味がないと思う。しかし、ここでもこの本質がくずれかかっていて、いわゆるスタイリングとしてのセパレート型も増えてきた。あまり非現実的になってもいけないし、マルチアンプや4チャンネルでのことを考えて範囲を拡げた。

プレーヤーシステムのベストバイを選ぶにあたって

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 プレーヤーシステムは、コンポーネントシステムのなかではもっとも古風であり、単純な要求に答えることが基本的に要求されることである。ターンテーブルの駆動方式は、現在DD方式が主流であり、その物理的な性能の高さは抜群である。しかし、性能が良く、音の良いプレーヤーシステムが少ない現在では、トータルバランスが優れたベルトドライブ、とくに、サーボベルトドライブのモデルに注目すべきだ。一部には、価格面を重視して選んだ機種もあるが、選出のポイントは、個性があり、ユニークな発想をもつ音の良い機種である。

オープンリールテープデッキのベストバイを選ぶにあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 オープンリールには4トラックと2トラックの2種類を選んだが、4トラックでは現代のカセットの水準を上廻ることを一つの条件に、2トラックでは4トラックの最高水準を上廻るものを条件として考えた。率直な所4トラックは、往復録音という最大の利点が、カセットの性能が向上した現在では、逆に不利な点になってきて、マスターレコーダーとして編集ができない難点になっている。それだけに2トラックではマスターレコーダーとしての性能と取扱いの両面で4トラックにないよさを持つべきだと思うので、それを条件とした。

スピーカーユニットのベストバイを選ぶにあたって

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 スピーカーシステムと違ってユニットの場合には、ユニットを買うことを必要とし重視するという層を考慮しなければなるまい。それは技術的な知識にもめぐまれ、オーディオ歴も実践的なかたちのキャリアを経たベテラン、あるいは音がわかるという前提にたってユニットで自己のシステムを構成せんとするファイトに燃えたやる気旺盛の、しかし経済的には少々めぐまれない層であろう。さればこそ可能性も高く、その組合せや使い方で既製のシステムにない良さも引き出し得る性能を秘めた、決して高価でないユニットが好ましい。

アクセサリーのベストバイを選ぶにあたって

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 アクセサリーは、その使用者のレベルによってきりがなく広く、大がかりになるもの。しかもその内容は知識範囲が広ければ拡大されるし、高ければ要求も高度化される。アクセサリーひとつとってみても馬鹿にはできないが、そうかといって小物は自作か工夫で間に合ってしまうし、市販品よりもはるかに創意工夫の実が結ぶ。とすると自作の範囲を越えたアクセサリーとなるがそうなると品物はグッと減って探すのもむずかしくなるくらいだ。その中でQSD1は、手元のステレオディスクがサウンドを拡大して蘇る点をなによりも高く買える。

プレーヤーシステムのベストバイを選ぶにあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 それぞれの価格帯で、価値ある性能をもったものを選んでみた。もちろんこれ以外にもいいものはあろうし、これ以上のものもあるかもしれぬ。しかし、私がなんらかの形で、直接知っているものを選んだので、いたらぬ点は他の識者の意見を参考にしていただかねばなるまい。プレーヤーに要求される条件、トーンアームの音のよさ、つまり、トレース能力、共振点の設定などを細かく検討すると完璧なものはないし、モーターのワウ・フラッターについても、同じように難しい。総合的にこれなら価値ありと思われる判断をしてみたつもりだ。

トーンアーム/フォノモーターのベストバイを選ぶにあたって

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 フォノモーターは基本性能の良さが絶対的な価値判断となるが、しかしこの良さは決してデータの数値だけで判断できない点がむずかしい。結局自分で使って確かめるということになるが、さらにその性能を長期間保っていられるだけの信頼性となると、これはもうメーカーを信じる以外に手がなくなってしまうものだ。その上オリジナリティをどこまで強くもち、またそれを保っているかということも重要だ。アームは以上に加えてカートリッジとの兼ね合いがあり、極言すれば同一メーカー製が好ましいにしろ、基本条件こそ最重要だ。

カートリッジのベストバイを選ぶにあたって

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 温度や湿度の多少によって、同じ製品の音質やトレース能力が大幅に変化するということは、カートリッジの判定のむずかしい面である。加えて、トレースするレコードのメーカーによって、またカッティングやプレスや盤質によっても評価が変わる。ヘッドシェルやアームとの組合せでも変わる。したがって、ある饋還手もとに置いて、思いつくままにあらゆる条件のレコードをまんべんなくかけて、総合的な判断を下さなくてはならない。そうしているうちにどこか欠陥のあるカートリッジはいつのまにか脱落してゆく。

スピーカーシステムのベストバイを選ぶにあたって

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 スピーカーシステムとしてはどうしても高価格に片寄る傾向が強くならざるを得ない。それというのも、ステレオではスピーカーに対しての志向が究極的には贅沢の限りを尽くしたくなるものだからである。つまりシステム全体としての絶対価値をより大きくしたくなるとき、スピーカーシステムにはその矛先が向いてきてしまうからだ。それは他のパートよりもその最低と最高の価格差も大きいし、絶対価値もまた他に比べてはるかに高いのがスピーカーシステムであるからだ。オーディオの遍歴を重ねたとき、必ずそうなるものだ。

スピーカーシステムのベストバイを選ぶにあたって

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 大きさや価格の制約をほとんど無視したようなスピーカーと、反面、家庭用として寸法や価格の制約の中でこしらえたスピーカーを同列に比較はできない。また、高忠実度再生をねらった製品に対して、独自の音色で売るものまたは家具としての美しさを重視したものを同じ尺度で論じるのは無理だ。それらの要素とはまた別に、国による音色の違い、旧い世代の新しい世代の音色の違い。ローレベルのキメの細かさを聴かせるかハイパワーの強さが特長か……。いろいな尺度をあてはめてみて、納得のゆくものをやっとここまで絞った。

レシーバーのベストバイを選ぶにあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 チューナー、プリアンプ、パワーアンプの三部門が一つのシャーシに組み込まれたレシーバーには使用上の便利さというものがあって、本来は、性能の高低、製品としてのクラスの上下には無関係であるはずだ。しかし現実には、レシーバーは普及型という定説が出来て、高級感を失い、マニアには喜ばれないという商品の性格を身につけてしまった。ここでは、そうした現実に即して、比較的ローコストのものを中心にして、かつ、少々高くても、優れた価値をもつものまでに枠を広げて数機種を選んでみた。

’75ベストバイ・コンポーネントを選んで

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 編集部から渡された千何百機種かのパーツリストを眺めて、ほとんど絶望的な気持に襲われた。この中のいくつを聴いているんだろう。しかもこの中から百五十機種に絞れという……。
 まず、自分流に次のような分類を考えて、大まかな区分けからはじめてみた。
 ◎ 文句なく誰にでもすすめたいパーツ。あるいは自分でも買って使いたい魅力のあるパーツ。
 ○ 自分としては必ずしも魅力を感じないが、客観的にみて、現時点で、この価格ランクの中では一応水準あるいは水準以上の性能を持っていると思われるパーツ。
 △ 必ずしも水準に達しているとは思えないが、捨てるには惜しい良さまたは魅力をどこかひとつでも持っているパーツ。
 こういう分け方をしてみると、◎と△をつけるのは案外やさしい。けれど、○印をつけるのには、10分も20分も考え込んでしまったり、○をつけたり消したリを何度もくりかえしたりする。
 昨年発行された本誌31号(特集「オーディオ機器の魅力とは/魅力あるオーディオ機器とは」)の場合には、ほとんど自分個人の主観だけで話を進めていればよかった。今回のテーマとなるとそうはゆかない。自分が好きになれなくても、客観的にみてひとつの水準を越えていると思われるパーツを無視するわけにはゆかないだろう。そう考えた結果が、たいへん難しい作業になってしまった。
 自分の好きなパーツだけ、客観的にリストアップすればいいじゃないか。全部で千何百機種か知らないが、結果として十数機種に絞ったってかまわないじゃないか、という考え方が成り立たないとは思わない。ぼく一人が今回の特集を背負って立っているわけじゃあるまいし、自分が好きでなくても客観的に良いと思う、なんていう考え方こそむしろ思い上がりなんだぞ、という声が、頭のどこかに聞こえている。でもぼくには、自分の好きなパーツだけに徹することはできなかった。なぜだろう。
 ベストバイという言葉自体に、ぼく自身もどことなく抵抗を感じる。それは、この言葉の悪さではなく、この言葉が手垢にまみれて、安っぽく扱われているせいにちがいない。しかし自分が身銭を切って買った品物というのは、つきつめてみればすべてベストバイ、なのじゃないか。良いと思ったから金を払った。そしてそれを所有し毎日使うことに、喜びも充足感も十分にある。埃を払う手つきにも、どことなく愛情がこもる。良い買い物をしたな、と満足する。ベストバイじゃないか。けれど、ベストバイという言葉は、くり返していわせてもらうがどうも手垢にまみれて安っぽく扱われすぎている。ほんとうのベストバイなら、使い捨て、なんて出来っこない。飽きてしまった、なんていえるはずがない。惜しげなく使い捨てができるのなら、あるいは簡単に飽きてしまうくらいなら、ベストバイであるはずがない。
 そういことから、ベストバイとは万人向きのものじゃなくて、自分ひとりにとってのものであるはずだ、という理屈が出てくる。全くそのとおりだ。つきつめて考えてみれば、結局、自分が毎日、眺め、いじって、なお愛着を感じることのできる品物は、他人がどう思おうが、自分ひとりにとってのベストバイにちがいない。
 そのとおりなのだが、そこから先をもう少し考えてみなくてはならない。オーディオパーツというのは、一品制作の芸術品ではない。工業製品であり、量産される商品なのだ。また別の面からいえば、一人の人間をほんとうに説得できる素晴らしい製品は、結局、普遍的に多くの人を動かす力を持っているはずだ。その意味で、定評、というものにもある普遍的な説得力があるのだろうと思う。
 でも、自分が心底惚れた製品というのは、他人が持っているとシャクにさわるのだなあ。自分より先に買われてしまうと、シャクなのだなあ。道楽者の心理なんて、そんなものじゃないかな。

カートリッジのベストバイを選ぶにあたって

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 もし初心者であれば、最初のコンポーネントユニットはカートリッジの選択から始まるに違いない。他のパーツよりも出費は少なく手軽に音質変化や向上が認識できるからだ。さらにグレードを高めるときにはスピーカーなりアンプなりに眼や意識は方向転換していく。そして次にシステムとして二回りや三回りも向上を遂げた後であるに違いなく、今度はちょっとやそっとのグレードでは納まらない。つまりもっと高いレベルを目差してのカートリッジの選択条件となり、それは当然厳しくなってくる。

プリアンプ/パワーアンプのベストバイを選ぶにあたって

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 プリが別れていればセパレート型だが実際には100+100W程度までなら質的にプリメインアンプとの差は大きくはない。しかしあえてその差を求めるなら独立プリのパネルにフルに埋められるようなスイッチやツマミゆえにセパレート型では、多用途性とより細かな調整とが可能。つまりオーディオマニア的な使い方と、それがもたらす高い内容とを求めることができる点に価値がある。さらにハイパワーと豪華さとを、より高価格クラスに求められるが、その場合セパレート型というよりアンプの最高、超豪華としてのプリアンプであり、パワーアンプだ。

スピーカーシステムのベストバイを選ぶにあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 スピーカーシステムとしてのよしあしは、いうまでもなく音質のよさだ。ただ、音質のよさという漠然としたいいかたで解らないとすれば、やはり豊かな音楽性の再現ということになる。音楽性という言葉は抽象的でナンセンスだという意見もあるが、そもそも音や音楽のよさは抽象的なもので、人が感じる何ものかを具体的に説明することのほうが私にはナンセンスに思える。ソースの持っている音楽性を再現する能力をもったものが音楽的スピーカーだというより他はないし、音楽性を解る人には音楽性という言葉は決して無意味ではない。

プレーヤーシステムのベストバイを選ぶにあたって

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 漆黒の一枚の円盤は、私にとっては、買い直しの利く商品ではなく、自分にとってかけがえのない音楽の喜びをもたらしてくれる生きもののような気がしているので、それを載せるプレーヤーの良否はことに気になる存在である。見た目の洗練も大切だが、その操作性や感触の微妙な部分にまで十分に神経のゆきとどいた製品が望ましい。あらゆる意味での〝野暮〟を私は最も嫌う。その点、ここにあげる製品すべてが申し分ないとはとてもいえないが、一般に国産品は価格・性能比を追うあまりか、洒落気の乏しい製品が多いのは残念だ。

プレーヤーシステムのベストバイを選ぶにあたって

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 プレーヤーシステムは、ある意味でシステム全体の基本的品質の支えとなり、音の入口としての重要性がいわれ評される。しかしプレーヤーとして今日望まれるのは、こうした基本的条件以上のプラスアルファ的良さも選ぶものにとって大切なファクターだろう。たとえば扱いやすさ、便利さなどがオートマチック機構やその延長ともいえるチェンジャー、さらに完全なるオートメカニズムにある。そして音楽を楽しむ者にとって使うこと自体をも楽しめるようなデザインであろう。つまり夢を託したくなるのが現代のプレーヤーシステムだ。

プリメインアンプのベストバイを選ぶにあたって

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 プリメインアンプは、各分野のオーディオコンポーネントのなかで、国産機がもっとも大手を振って歩けるジャンルである。最近では、普及機でのハイパワー化から始まったパワーアップの傾向が著しく、ハイエンドのモデルでは、セパレートアンプに匹敵する物理特性と音質を備える機種も多い。選出のポイントは、基本的な物理特性を重視し、音質、デザイン、操作性という順にウェイトを置いている。スピーカーシステムほどの明らかな音の傾向はないが、聴く音楽の種類によって、好結果が得られぬ例もあるので充分に注意したい。

プリメインアンプのベストバイを選ぶにあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 一昔前は、プリメインアンプという形態は高級アンプのみのものだったのだが、今やオーディオアンプの標準的スタイルになってしまった。その意味では、相当コストダウンの図られたものまで入れないと現実性がなくなるという私好みではない状勢になっている。ここでも、下は4万円台から入れてしまっているが、本当は、このクラスは、より実用的なレシーバーのほうに回したいところだ。どんなスピーカーでも、アンプをよくすると必ずよく鳴るという事実からして、現状では10万円前後がプリメインの本領の分岐点だと思う。

アクセサリーのベストバイを選ぶにあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 アクセサリーというと、その範囲が、あまりにも広く、針先のホコリをとるハケや針圧計、ストロボスコープなどまで入ってくると思われるが、ここでは、最近、筆者にとって、重要な意味をもつ機器で、別掲の分類に入れられなかったものにしぼってみた。丹念に、こまかいものを上げていったら、もっともっと、いろいろ優れた小物が存在すると思う。ピンジャック・コードやドライバーに至るまできりがないだろう。この際、特に目立ったものだけにとどめてしまったことをお許しいただきたい。

トーンアーム/フォノモーターのベストバイを選ぶにあたって

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 フォノモーターは、現在コンプリートなプレーヤーシステムが主流を占め、その完成度も高いために、特別な要求をもたぬかぎり単体の製品としては意味が少ないと私は思う。もちろん、業務用などに見られるような多連装のプレーヤーシステムや特別な要求を満たすためには、優れた単体のフォノモーターが必要であることは異論をまたない。ここでセレクトした機種は、フォノモーターの歴史ともいえるものだが現状でも正しく保守手さえおこなえば、最低限のパフォーマンスを示すものから、現代の定評ある機種まである。

カセットテープデッキのベストバイを選ぶにあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 現在のカセットデッキの性能の水準は、4トラックの平均的性能に肉迫しているといってもよい。4トラックが往復録音という規格から、エアー・チェックやプリント用としての使い方を主なものとする以上、現在のカセットデッキの優れたものに画然とした溝をつけることが難しい。外録用として考えれば小形軽量のカセットにさらに大きなメリットがあることは自明の理である。その点で、カセットデッキは価格レンジを広くとり、それぞれの価格帯で価値のある性能のものを選ぶことにした。普及型も超高級機も存在の必然性がある。

スピーカーユニットのベストバイを選ぶにあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 ユニットとしてのよしあしは、物理的な変換特性の優劣が問題になる。システムとしてまとめられたものには、ユニットとして単独で見た場合より複雑な問題がからみ、それが単独に表現し切れないファクターとして音楽性という言葉を使われなければならなくなり、それを理解する人、しない人の間で誤解も生れてくるだろうが、ユニットの場合はよりすっきりいく。使い手の使い方次第でよい音も悪い音もある。つまり、ここでは可能性をもっ性能ということに視点がしぼられてくると思うのだ。全帯域ユニットでは+αも加味したが……。

カートリッジのベストバイを選ぶにあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 カートリッジを選ぶ視点は大別して二つあると思う。一つは、再生の安定性。つまりトレーシング能力である。それも、大振幅のトレーシング能力が優れているといった局部的なものだけではなく、一枚のレコードの実用的な安定再生とでもいうべきものが大切だ。やたらにホコリの影響を受けやすかったり、デリケートな針圧のものは実用的見地からは選びたくない。他の視点としては、音色の魅力である。なんといってもレコードがいい音で鳴ってくれると、少々の物理特性上の欠点があってもすて切れないものだからである。

カートリッジのベストバイを選ぶにあたって

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 カートリッジは、コンポーネントとしては、スピーカーと並ぶ、いわゆるトランスデューサーであるのが特長である。この部分での音の変化は微妙であり、アンプやスピーカーでは救えない点は注意すべきところだろう。私は、個人的には、カートリッジを複数個使うことが多い。それは、聴く音楽の種類により、明らかな適、不適があることを経験しているからである。
 選出した機種は、主張が明らかであり、個性的な表現をするモデルから、個性ではやや薄らぐが、バーサタイルな面をもち、かつ音楽性を損なわないモデルまである。