瀬川冬樹
ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より
❶の「音域の広さ」は、測定上とは別に、聴感上、音域が広く感じられるかどうか、をあらわす。❷の「バランス」もこれに関連があり、特定の音域の強調等で、聴感上の音域が狭く感じられることがある。
バランスの整っているという点は私の最重視項目で、すへての音楽で、特定のクセがついたり不自然に聴こえるのは困る。
音の鮮度の高い感じ。歪が少なく磨き上げられたようなクリアーな音。そういう要素を「音の質感の良さ(❸)としている。どこか薄汚れたような品位の低い音、曇り空のようなどんよりした生気のない音、は質感の点数が低い。
たとえば優れたピアノ録音を再生したとき、眼前にグランドピアノのあの胴体の大きさが十分に展開されるかどうか。ひと言でいえばそれが「スケール感(❹)だ。また、オーケストラ等が十分にスケールと広がりを保ちながらソロ楽器やヴォーカルが、その広がりの中にピタリと定位し、発音源の大小の対比が明確に聴きとれ、さらには奥行きまで感じとれるような音を「ステレオ効果(❺)」の再現がよい、という。
「耐入力、ダイナミックレンジ(❻)では、文字どおりどこまでパワーが安定に入れられるか、と共に、その逆に、音量を絞ったとき、ピアニシモのとき、などでも、バランスをくずさず、クリアネスを保っているものをよしとする。
以上の各項目のいかに点数がよくとも、そこにもうひとつ「音の魅力(❼)が加わらなくては、私は良いスピーカーだといわない。鳴りはじめた音に、つい、聴き惚れてしまうような、つい惹き込まれて一枚もう一枚と、次々にレコードを聴きたくさせるような音の魅力。これのあるのは本物の良いスピーカーであることを、永い体験の上から確信している。
最後の二項は、以上の総合的な性格を抽き出すための組合せの難易と設置および調整の難易度をあらわす。特定のアンプや特定のカートリッジでなくては、そして入念に最良の設置条件や調整のポイントを探さなくては、そのスピーカーの魅力が十分に抽き出しにくいというような場合には、よほどそのスピーカーに惚れ込んでいなくてはできない。そうでないことが望ましいが、しかし中には、そういう作業の末に、思いもかけない魅力で鳴り出すスピーカーが数少ないながら存在する。そういうポイントを探り出すために、相当入念に試聴をしたつもりである。
採点項目
❶音域の広さ
❷バランス
❸質感
❹スケール感
❺ステレオエフェクト
❻耐入力・ダイナミックレンジ
❼音の魅力度
❽組合せの自由度
❾設置・調整
0 Comments.