ラックス M-6000

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 ハイパワーアンプのジャンルでは、現在においても開発のコンセプトが、いわゆる業務用に重点が置かれるのは、実際の使われ方から考えても当然のことに思われる。とくに、300Wクラスともなれば、業務用途に開発されたモデルが圧倒的に多く、そのほとんどが、いわゆる19サイズのラックマウント仕様のフロントパネルとコンストラクションを備えている。
 ラックスのM6000は、一九七五年に商品化され、すでに3年経過しているが、現時点においてもその開発意図はいささかも古くなく、むしろ、コンセプトを限って企画された発想は最新製品にはない趣味性豊かな魅力として感じられるようだ。そのコンセプトを限って企画されたと感じられる点は、何をおいてもそのデザインに色濃く現われている。フロントパネル面は、別系統のピークレベルメーターを内蔵する2個の大型パワーメーター、dB目盛の左右独立型入力レベル調整、矩形をした大型パワースイッチのいずれを見ても、パネルフェイスをフラットに見せようとする思想で統一され、フロントパネルに続くウッドケースも、額縁状に一端くびれて後部の上部が開閉可能なウッドボンネットにつながる独特のデザインは、ラックスの創成期以前の早川商店が、ガラス輸入商であり、次に額縁商に転じた歴史を象徴するものという、もっともラックスらしく、ラックスでなくては成しとげられない雰囲気をかもしだすものである。これは、19サイズのラックマウントパネルをもち、純粋に機能面から要求されるデザインをもつ多数のハイパワーアンプと、このM6000が全く異なったコンシュマーユースのために開発されたハイパワーアンプであることを明確に示す事実以外の何物でもない。
 M6000の300W十300Wのハイパワーは、コンシュマーユースとしては過ぎたものとの意見もあるであろう。たしかに、平均的な使用と要求度からすれば、正しいと思うが、かつて今は亡き岩崎千明氏が再生音量が極めて大きいことを質問された答として、ディスクに刻まれているローレベルの音をクリアーに聴きたいために、結果として音量が大きくなる、との名言にも現われているように、量的なものと解釈されやすいパワーは、平均的な音量の場合にもいつ訪れるかもしれない強烈なピークを再生するためのリザーベーションパワーの有無として、またスピーカーからのアンプに及ぼすリアクションを制御するためにもパワーの余裕は高度な再生を要求するときには不可欠の条件となり、聴感上ではパワーもまたクォリティにほかならない。
 現実にピークマージンが強烈に高い2トラック38cm速度や76cm速度のテープ再生では、ディスクと同じ平均音量で再生をしても、ピークでは簡単にプロテクターが動作することは、250W+250Wのパワーアンプと、93dB程度の現在の平均的出力音圧レベルをもつスピーカーシステムの組合せでも常時経験することである。これは、最近のカッティングレベルが高くなった最新のディスクでも、パワー不足の状態では本釆ディスクのもつ性能の向上が実感として聴きとれないことにもなるわけだ。ちなみに、カッティングレベルが3dB上昇すれば、ピーク値ではアンプのパワーは2倍必要となり、6dB上昇すれば4倍を必要とすることは単純な計算でも容易にわかることなのである。つまり、M6000の300W+300Wのパワーは、高度なディスク再生を要求すれば必須の条件であり、しかもローレベル時の低歪率化を重要視した設計方針からみても、ラックスがハイパワーアンプを純粋なコンシュマーユースとして開発しなければならなかった背景がうかがい知れるというものである。
 回路構成は、片チャンネル12石構成のダブル・トリプルプッシュブルの出力段、A級動作のプリドライブ段とB級動作の出力段との間に2石構成のエミッターフォロアーを設け、スピーカー負荷によるインピーダンス変動がプリドライブ段に及ぶのを防止する設計、2個の独立パワートランスを使い出力段を別系統にし、ブリドライブ段の定電圧化などオーソドックスな設計方針が見られる。

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