ナグラ IVSD

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 業務用途に使用されるオープンリールのポータブル型レコーダーでは、ともにスイスでつくられるナグラとステラボックスが双壁といわれ、つねにこの2社の製品が対比されて語られている。簡単に考えれば、ともに映画用の映像と音声を同期させる録音・再生を目的として使われているが、ナグラが、ポータブルというよりは可搬型と呼んだほうがふさわしい現場で運んで行って置いて使うためのレコーダーとすれば、ステラボックスは肩に掛けたまま軽量のメリットを活かしたルポ的使用をするタイプであることが、根本的な両者の違いである。ちなみに、ナグラの代表モデルであるIVSDは、肩掛け用のストラップもあるが、ガッチリとしたキャリングハンドルが標準装備で、これを使ったほうが移動時の心理的な重量感が薄らぐようである。
 現在ナグラの製品には、ステレオ用のIVSD㈿IVSL、IVSJ、モノ用でIVシリーズと同じボディをもつ4・2、4・2L、この変形と思われるE、新しく開発され一段と小型軽量となったナグラ初の3モーター走行糸をもつモノ用のIS−D、IS−L、IS−LT、さらに、驚威的に超小型で、データ測定用として軍事的にも使われるモノ用のSNNとSNS、と数多くのモデルがあり、そのすべてが業務用ポータブル機であることに特長がある。
 IVSDは、映画録音用として、あらゆる粂件下でもスタジオレコーダーに匹敵する性能、機能、安定度、信頼性をもつモデルを生産しつづけてきた、ナグラ最初のステレオ用レコーダーである。IVSDは、映像・音声同期用のパイロットヘッドのない純然たる2トラック型、IVSLがこれにパイロットヘッドを加えたタイプ、IVSJは騒音測定や振動測定用のデータレコーダーで、一般のオーディオ用ではないモデルである。
 テープ走行系は、かつてのIIIから現在の4・2にいたる多くの機種に採用されている1モーター方式で、2個のレバーを組み合わせ操作コントロールするナグラ独自のメカニズムで、スタジオレコーダーに匹敵する抜群のテープ走行の安定性をもつ。消去ヘッドと録音ヘッド間には、50Hzと60Hzに交換できるストロボスコープ、テイクアップ側テンションコントロールローラーに最新型ではロータリー型テープカウンターが組み込まれている。
 機能面では、2針型マルチスケールで、録音・再生レベルのほか、バッテリー電圧、モーター電流チェックなどマルチユースのメーター、各種のカーブをもつフィルターを選ぶ6段切替のフィルタースイッチ、ダイナミック型マイクの50?と200?、コンデンサー型マイクでは、ファントム、+12V、−12V、+48Vとパラレル+12Vの内蔵電源ノイズリダクションシステム用入出力端子、ヘッドフォンを利用したマイクの位相チェックスイッチ、NABとCCIRのイコライザー切替、38cm・19cm・9・5cmの3速度とナグラ独特のナグラマスター38cm速度用の録音イコライザー調整、内蔵の1kHz方形波発振器、ヘッドフォン音量調整、モノーラルのモニタースピーカー、バイアス調整などがある。
 最大使用リール寸法は、アクリルカバーを閉めて5号、開けば7号となるが、最近ではアクリルカバーが脱着式となったのを機会7号リール用のアクリルカバーも用意された。また、別売の10号リールアダプターQGBを装着すると、ポータブルマスターレコーダーといった風格になり、サーボコントロールでテープ走行系がドライブされ、操作性は一段と優れた、まったく別のレコーダーに変身するのは見事というほかはない。
 電源関係は、単1型乾電池12個を本体内部に収納可能で、AC電源、バッテリーチャージャーと映画同期用パイロット信号発生器を兼ねるATN2、単1型ニッケルカドミウム電池使用時のチャージ用アダプターが用意され、QGB用電源、ナグラ用dbxノイズリダクションユニット用電源も本体から供給することができる。
 IVSDの音は、スコッチ♯206を使った場合、重厚でエネルギー感をタップリと内部に秘めた、緻密で豊かな音である。高域レスポンスは物理的データよりもゆるやかにハイエンドが下降するタイプである。

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