ソナス・ファベール Electa Amator

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 イタリアはヴィツェンツァの小さなメーカーで生産されるこのスピーカーは、まずその美しいエンクロージュアの造形と仕上げの魅力に惹かれるだろう。立体的でセクシーな造形は、いかにもイタリア的だ。ユニットのフレームがエンクロージュアの幅一杯に出ているが、これがこの造形の肉感的な魅力のポイントであると同時に、音響的にディフラクションを嫌った必然的形態であることに納得させられる。バッフル効果を避けた設計思想である。そして、そのウーファーのフレームが、トゥイーターのフロントパネルの下側へ深く食い込んでいるところも見逃せない。設計者はウーファーとトゥイーターをできる限り近づけたかったのに違いない。執念の現われである。かくしてこの製品は、見る人に強くアピールするオーラを獲得することになった。創る人の情熱が入魂の製品となったのである。そしてまた、その専用の木石台の味わいはどうだろう。画のキャンバスを置くイーゼルを彷彿とさせる木工の雰囲気がなんとも味がある。これだけ見た目に美しいたたずまいをもったスピーカーが悪い音を出すわけがない……と思いたくなるのだが、はたしてこのスピーカーの音がセクシーなのである。硬さや冷たさからはほど遠く、暖かく、時として熱く、流れるように歌い、小柄な体躯からは想像できない肉づきの豊かさで反応し歌い上げるのである。その外観のように豊かな凹凸と起伏の弾力感を感じるリズムの躍動がある。いつか、このスピーカーシステムを手に入れたいと思わせるに十分なセックスアピールをもっている。エスプレッシーボでアマービレなのである。2ウェイ2ユニット構成でウーファー口径は18cm、トゥイーターは2・8cm口径のドーム型だ。アッセンブルメーカーとして他社のユニット供給を受けても、これだけ自家薬籠中のものとして使いこなせば見事なものである。車好きな往年のアバルトを想起するかも……。

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