瀬川冬樹
ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より
スタジオモニター用としてアルテックの604シリーズやタンノイのような同軸型の2ウェイには、至近距離で聴いたときの音像のまとまりのよさ、定位のよさと言う重要なメリットがある。ビクターS3000が、これら同軸型の流れの上に作られたのは、スタジオモニタースピーカーが、概して、ミクシングコンソールのすぐ向う側に、ミクサーの耳にごく近接してセットされることの多い状況から見て納得がゆく。
が反面、モニタースピーカーにも新しい流れがみえはじめて、アメリカではJBL、イギリスではスペンドールやKEF、ドイツではK+H、フランスではキャバスなどそれぞれは、ほとんどが3ウェイでレインジをひろげ、しかもKEFやキャバスはいわゆるリニアフェイズにトライしている。日本のモニターでいえばダイヤトーンのAS4002PやヤマハのNS1000Mが、やはり3ウェイ、4ウェイで周波数レインジをひろげている。
ビクターのS3000はアルテックやタンノイの方向をあえて踏襲して設計方針をとっているので、その音もまた、新しい流れのモニタースピーカーの鳴らす音は少し方向を異にしている。言うまでもなく高音域のレインジは(聴感上だが)広いとはいえない。ことに高域のフラットな、あるいはハイエンドの甘いカートリッジを使うとこの傾向が顕著で、しかし中音域はかなり硬質で強引なところを持っているように聴こえる。念のためお断りするが、今回試聴用に廻ってきたS3000は、本誌45号(290ページ)で聴いた製品とはずいぶん音のイメージが違う。前回の製品は、いかにも作ったばかりのようにトゥイーターの鳴り方が硬かった。が反面、それゆえの高域の明瞭度あるいは明快度の高いおもしろさもあった。ところが今回のサンプルは、すでにかなり鳴らし込まれたものらしく、高域のかどがとれて滑らかに聴こえる。前回はトゥイーターレベルを-3まで絞ったが、今回はノーマルでもむしろいくらか引っこみ気味なほどレベルバランスもちがう。逆に+3近くまで上げた方が前回のバランスにイメージが近づくほどだった。そのためか、前回でもカートリッジをピカリング4500Qにした方がおもしろく聴けたが、今回はそうしなくてはハイエンドの切れこみが全く不足といいたいほどだった。
そうしたバランス上のこととは別に、このスピーカーもプログラムソースの豊富な色あいを、比較的強引に一色に鳴らしてしまう傾向があって、総体に音の表情をおさえてやや一本調子で押しまくるところが感じられる。また音像を散りばめるよりも練り固める傾向が相当に強い。もうひとつ、音量をかなり上げてゆくと、絞ったときの表面的なおとなしさと打ってかわって、ややハードなタイプの音になる傾向がある。あるいはこの方がS3000の素顔かもしれないと思った。
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