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ビクター S-3000

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

小型同軸モニターのジャンルに挑戦したユニークさが特別の魅力だ。

ビクター S-3000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 スタジオモニター用としてアルテックの604シリーズやタンノイのような同軸型の2ウェイには、至近距離で聴いたときの音像のまとまりのよさ、定位のよさと言う重要なメリットがある。ビクターS3000が、これら同軸型の流れの上に作られたのは、スタジオモニタースピーカーが、概して、ミクシングコンソールのすぐ向う側に、ミクサーの耳にごく近接してセットされることの多い状況から見て納得がゆく。
 が反面、モニタースピーカーにも新しい流れがみえはじめて、アメリカではJBL、イギリスではスペンドールやKEF、ドイツではK+H、フランスではキャバスなどそれぞれは、ほとんどが3ウェイでレインジをひろげ、しかもKEFやキャバスはいわゆるリニアフェイズにトライしている。日本のモニターでいえばダイヤトーンのAS4002PやヤマハのNS1000Mが、やはり3ウェイ、4ウェイで周波数レインジをひろげている。
 ビクターのS3000はアルテックやタンノイの方向をあえて踏襲して設計方針をとっているので、その音もまた、新しい流れのモニタースピーカーの鳴らす音は少し方向を異にしている。言うまでもなく高音域のレインジは(聴感上だが)広いとはいえない。ことに高域のフラットな、あるいはハイエンドの甘いカートリッジを使うとこの傾向が顕著で、しかし中音域はかなり硬質で強引なところを持っているように聴こえる。念のためお断りするが、今回試聴用に廻ってきたS3000は、本誌45号(290ページ)で聴いた製品とはずいぶん音のイメージが違う。前回の製品は、いかにも作ったばかりのようにトゥイーターの鳴り方が硬かった。が反面、それゆえの高域の明瞭度あるいは明快度の高いおもしろさもあった。ところが今回のサンプルは、すでにかなり鳴らし込まれたものらしく、高域のかどがとれて滑らかに聴こえる。前回はトゥイーターレベルを-3まで絞ったが、今回はノーマルでもむしろいくらか引っこみ気味なほどレベルバランスもちがう。逆に+3近くまで上げた方が前回のバランスにイメージが近づくほどだった。そのためか、前回でもカートリッジをピカリング4500Qにした方がおもしろく聴けたが、今回はそうしなくてはハイエンドの切れこみが全く不足といいたいほどだった。
 そうしたバランス上のこととは別に、このスピーカーもプログラムソースの豊富な色あいを、比較的強引に一色に鳴らしてしまう傾向があって、総体に音の表情をおさえてやや一本調子で押しまくるところが感じられる。また音像を散りばめるよりも練り固める傾向が相当に強い。もうひとつ、音量をかなり上げてゆくと、絞ったときの表面的なおとなしさと打ってかわって、ややハードなタイプの音になる傾向がある。あるいはこの方がS3000の素顔かもしれないと思った。

ビクター S-3000

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 ビクターのS3000は30センチ・ウーファーに同軸トゥイーターをカプリングしたコアキシャルスピーカーで、開発時よりモニターとしての意識で進められた。モニターに対する概念、コンセプションがどういうものであるか、開発者に聞いてみなければ解らぬが、もし、コンシュマーユースより高級、高性能という単純なものだとすれば、それは当っていないのではないか。どうもモニタースピーカーへのコンプレックスを、多くのメーカーもユーザーも持ちすぎている。モニターの資格検定があるわけでもないし、モニターといわれるスピーカーの全てが、コンシュマー用より優れているなどということも決してない。それはともかく、録音時に、製作者が意図を確認する目的や、生演奏直後の再生に大きな違和感を感じさせないためには、モニターは、高品位でタフなスピーカーが要求されることも事実である。コアキシャルは定位がよくて、モニター向きだというのは事実だが、マルチウェイでも定位の確認が出来なくない。このS3000は、いずれにしても、コアキシャルのよさと悪さを併せ持ったしすてむで、音がまとまる反面、おおらかな空気感の再現には同系のスピーカー共通の弱点が出る。しかし、このシステムは国産モニターとして世界の水準に劣らないハイクォリティの製品に仕上げられている。

ビクター S-3000

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶くっきりと示されるピッチカート。木管のひびきにもう少し繊細さがほしい。
❷あいまいにならず、輪郭がしっかり示されるところがいい。音に力がある。
❸特にデリケートとはいえないが、ひびきの特徴によく対応できている。
❹第1ヴァイオリンのたっぷりしたひびきがいい。低音弦もふくらまず。
❺もりあがりに力があり、迫力をよく示す。アタックも充分だ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像的なまとまりがよく、ひびきに力のあるのがいい。
❷これみよがしにならずに、くっきりと示すこのましさがある。
❸「室内オーケストラ」としてのまとまりのよさがある。
❹対応が自然で、誇張のないのがこのましい。
❺とりわけ繊細というわけではないが、さわやかさがある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶定位がいい。人間関係の鮮明な提示はなかなかだ。
❷接近感には多少誇張が感じられるが、不自然ではない。
❸声は硬めながら、オーケストラとバランスは悪くない。
❹セリフでの声も、うたってはった声も、硬くなりがちだ。
❺きわだって鮮明とはいいがたいが、必要充分に各ひびきを示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶余分なひびきをひきずっていないために、すっきりしている。
❷奥の方でのひびきが、くっきりと、たちあがる。
❸ひびきの細部にあいまいさがない。
❹ソット・ヴォーチェでは、声のキメ細かさの不足が感じられる。
❺のびにしなやかさが不足するものの、誇張がない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンというひびきの硬質な性格がよく示されている。
❷声のまろやかさがもう少し示されることが望まれる。
❸浮遊感ということではもう一歩だ。ひびきがくっきりしすぎる。
❹ひびきの輪郭がつきすぎている。狭くるしさは感じないが。
❺力のある音がもりあがり、迫力のあるクライマックスとなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひっそりとした気配にいくぶん不足している。
❷この音はもう少しなにげなくひびいてもいいだろう。
❸下の方でひろがっているひびきで、実在感に多少欠ける。
❹かなりきわだつ。ひびきの光り方としては、もう一歩だ。
❺うめこまれているとはいえないが、ききとりにくい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶あいまいにならない。くっきりした提示はこのましい。
❷ひびきの上でのアクセントを充分に示して効果的だ。
❸ひびきはじゅうぶんに乾いている。すっきりしたところがいい。
❹ドラムスのひびきも、言葉のたち方もこのましい。
❺バック・コーラスの効果は充分に発揮されている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は、ふくらみすぎず、ひびきに力があっていい。
❷オンでとったなまなましさを示し、しかし過剰にはなっていない。
❸消える音の尻尾もよく示し、スケール感をもたらすのに有効だ。
❹細かい音の動きに対しての対応はシャープで、迫力がある。
❺音像的な対比に不自然さがなくていい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきが横にひろがりすぎないので、アタックの強さを感じやすい。
❷つっこみは力があるが、ひびきが刺激的にはなっていない。
❸ひびきが積極的に前にはりだして、効果的である。
❹後方へのひきは充分だ。広々とはしないが、音の見通しはいい。
❺音のエネルギー感をよく示すので、めりはりがつく。

座鬼太鼓座
❶くっきりと左奥から、なまなましさをもってきこえてくる。
❷尺八のひびきに脂っぽさがなくて、すっきり示される。
❸きこえ方はかすかだが、ひびきに輪郭がある。
❹スケール感ということでは、いま一歩だが、力感は充分だ。
❺このひびきの硬質なところがよく示されて、有効だ。

ビクター S-3000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 スタジオモニター用として徹底的にスタジオマンの意見がとり入れられているということで、とうぜん、一般民生用とは多少異なった作り方が随所にみられる。まず総体に、かなりハードな音色だ。中音域にエネルギーを凝縮させたようなバランスで、おそろしく明瞭度が高い。歪を極力おさえたというが、そのせいか、音のクリアーなことは相当なもので、しかもそれがかなりのハイパワーでも一貫してくずれをみせない点は見事なものだ。おそらくディスク再生よりも、こういう性格はテープの再生ないしはスタジオモニターのようにマイクからの直接の再生の際に、より一層の偉力を発揮するのにちがいない。こういうスピーカーを家庭に持ちこんでディスク再生する場合を想定して、置き方や組合せの可能性をいろいろ試みた。別売のスタンドがアルで一応それに乗せ、背面は壁にかなり近づける。低音を引締めてあるため、こうしても音がダブついたりしない。レベルコントロールは、ノーマルよりも-3ぐらいまで絞った方がいい。部屋はやデッドぎみに調整した。カートリッジもたとえばピカリング4500Qのように、ややハイ上りの音で、アンプもCA2000の系統で徹底させてしまう方が、メリハリの利いたくっきり型、鮮明型として、つまりなまじ変な情緒を求めない方が統一がとれると感じた。